No.710025

まよいピロー

終物語(下)「おうぎダーク」後の四月。
北白蛇神社の神様になった八九寺真宵と、真宵にスカウトされて北白蛇神社の神主になった手折正弦の話。
というか、神様の真宵ちゃんと神主の正弦さんが一緒に添い寝してお布団の中で楽しくおしゃべりしているだけの話。寝物語……?
正弦さんがこの世に復活するのが早すぎるような気もしますが、もう気にしない。
続・終物語の発売前なので、また何かフライングしてるかもしれません。

2014-08-20 14:41:07 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:358   閲覧ユーザー数:358

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「手折さん、ベッドインしてもよろしいでしょうか」

 八九寺ちゃん、それ、意味わかって言ってるのかい?

「わかって言っています。同衾するという意味です」

 ……それはそうだけれど。

「もう四月だというのに今夜は寒いですよね。本殿の板の間に一人っきりで横になっていると体が冷えて眠れないのです。こんな凍えるような夜は二人っきりの同居人同士、一つの布団にくるまって温め合いましょう」

 ……まあ、私も神主として神様にご奉仕するのはやぶさかではないけれど……。

 ああ、いけない。うっかり真剣に考えてしまった。

 いや、八九寺ちゃん。ここはベッドインとか同衾とか物騒な言い回しよりも素直に『添い寝』と言った方が穏やかで適切なんじゃないかな。

「そうですか。では、手折さん。添い寝させて下さい」

 いいよ。その前に玲琴を棚に帰してくるね。

「手折さん、本当に毎晩フィギュアと一緒のお布団で寝てらっしゃるんですね。こうして目の当たりにすると、なかなか衝撃的なものがあります。わたしも小さい頃は家にお人形がたくさんあって、よく人形と一緒にご飯を食べたりお風呂に入ったり一緒に寝たりしましたけれども。お父さんと同世代の男性が同じことをしているのを見るのはさすがにショックです。もしかしてお父さんとお母さんが離婚してしまわれたのは実はお父さんが手折さんと同じ趣味をひた隠しにしていて結婚後にそれがばれたからだったりしたらどうしようなんていらない不安がよぎったりしてしまいましたよ。手折さんは、結婚されてもその習慣をやめたりはしないんでしょう?」

 そうだね。

「即答しないでください。そこはもう少し間をとって、せめて考えるフリぐらいはしてください。恥じらいとかないんですか、貴方は」

 あまりにも習慣化してしまって、私の中では当たり前になってしまっているからね。

「いいから早く結婚して奥さんにしこたましばかれてください。っていうか、そもそも手折さん、寝る必要なんてあるんですか? 今って、人形に憑依されてる状態なんですよね?」

 それを言うなら八九寺ちゃんだって、神様が寝る必要なんてあるのかな?

「その辺はお互いぼかしておいた方がよさそうですね。了解です」

 ところで八九寺ちゃん、添い寝するのはかまわないけれど、もう少し詰めてくれないかな? 布団が狭いんだけど。

「それは手折さんが布団の中でどんどんはしっこに逃げて行かれるからです。こんな寒い夜はぴったりくっついて人肌で温め合いながら眠りましょうよ」

 私も君も人肌のぬくもりが感じられる身体かどうか微妙だけれどね。

「もしかして手折さんはわたしのメリハリボディ改めロリハリボディにクラッときてムラッとしたりされるんですか?」

 いや、私は余接より幼い娘さんに欲情したりはしないよ。

「斧乃木さんを基準にされてる時点で既にアウト感が半端ないですけれども……。貴方のような方がどうして天国に行けたのか、物語シリーズ七不思議のひとつに数えてもいいんじゃないかと思います」

 物語シリーズ七不思議って……。

 まあ、まじめに答えると、それは私が聖人だからだね。

「成人?」

 いや、セイント。

「手折さん、ゴールドクロスとかお持ちなんですか?」

 いや、聖闘士のセイントじゃなくて、聖人のセイント。私は某宗教なら生存中に列聖されかねないほどの善行をつんで―まあ具体的には怪異を殺しまくっているからね。怪異という悪を滅ぼすためならどんな手段を用いようとも罪には問われないしね。

「貴方を見ていると、正義というものの理不尽さについて考えずにはいられませんね」

 私は別に自分が正義を行っているつもりなんてかけらもないんだけれどね。ただ自分を悦ばせるための趣味が仕事になり、たまたま人助けになり、私に実益をももたらしてくれているという感じかな。

 それに私は好き嫌いが多くて四足の獣は食べないし、禅僧のように清らかな身体を保っているからね。

「その『清らかな身体』というのは、ひょっとして女犯の罪を犯していないという意味で仰ってるのですか? いえ、お願いですから答えないでください。中年男性からそんな重い告白をされても正直困ります。わたしのような純真な小学生にはとてもフォローできません」

 うん、まあ、冗談はさておくとして。なぜだろうね。八九寺ちゃんと話していると、どんどん私の株が下がっていくような気がするのだけれど。

「そうですね。今のところ、阿良々木さんよりはまし、というくらいしか救いがないような気がします」

 それは救いというよりは最後通告だね。

「さて、わたしもそろそろ眠くなって参りましたので、楽しいピロートークはこの辺にして、マジ寝してもよろしいでしょうか?」

 ……ピロートークって……いや、何でもないよ。

 どうぞ。

「寝ている間に襲ったりしないでくださいよ」

 襲わないよ。阿良々木君でもあるまいし。

「わたしの寝顔は百万ドルの微笑みですからね。億千万の胸騒ぎで襲いたくなったりするかもしれませんよ?」

 ネタが古すぎて私でも拾いきれないな。いいからとっとと寝たらどうだい。私は別に今すぐ君に布団から出て行ってもらっても全くかまわないんだが。

「ZZZZ」

 ……。

 ……。

 なるほど。

 百万ドルとは言わないまでも、可愛らしい寝顔だね。

 私に娘がいたらこんな感じなのだろうか。いや、そんなわけはないな。

 さて、私もそろそろ休むとしよう。

 お休み、八九寺ちゃん。

 ……チュッ。

 ……ああ、しまった。ついいつもの癖でキスしてしまった。

 やれやれ。

 

 

 


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