No.709220

落日を討て――最後の外史―― 真・恋姫✝無双二次創作 37

ありむらさん

独自解釈独自設定ありの真・恋姫†無双二次創作です。魏国の流れを基本に、天下三分ではなく統一を目指すお話にしたいと思います。文章を書くことに全くと云っていいほど慣れていない、ずぶの素人ですが、読んで下さった方に楽しんで行けるように頑張ります。
魏国でお話は進めていきますけれど、原作から離れることが多くなるやもしれません。すでにそうなりつつあるのですが。その辺りはご了承ください。

2014-08-16 18:45:43 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:5062   閲覧ユーザー数:3791

 市街の規模だけを言うのであれ、やはり、陳留も洛陽には敵わない。

 人口も、軒を連ねる店舗の数もそうであるが、何より、天子が本拠を置く街だけあって、文化的な隆盛は目を見張るものがある。

「兄ちゃん! ほら、こっちこっち!」

 視線の先で、はしゃぐように季衣が手を振っている。左手は折れ、右手には杖を突く虚は、肩をすくめるようにして、彼女に応じた。

「ふふっ、季衣ってばあんなにはしゃで。今日、ここに来たいって言ったの、季衣なんですよ?」

 流琉は虚の身体を気遣ってか、屋敷を出た後ずっとぴたりと隣に寄り添っている。

「へえ、意外だな」

「兄様ったら。それ、季衣に聞かれると怒られますよ?」

 呂布との戦闘後、療養の期間を終えた虚は、秋蘭との面会の場に現れた季衣と流琉に連れられて、洛陽某所にある牡丹庭園を訪れていた。

 整然とした石畳の灰色に、牡丹の花のくれない色と茎の鮮緑がまぶしいばかりに映え、見物客の目を楽しませている。

 記憶の隅をつついたところによると、確か、牡丹は中国が原産だったはずである。園芸的な交配の技術は十分でないのか、植えられた牡丹の品種は数えるほどであったが、それでも、あでやかな花弁の群れの中で跳ねまわる元気印の少女、という絵は、つい見惚れてしまうほど健やかで美しかった。

「あ、兄様。あれ、あれ見て下さい」

 流琉の指先に視線をやると、そこには「牡丹饅頭」と染め抜かれたのぼりがはためいていた。土産物屋の一角であるらしい。

(季衣が花で、流琉が団子か。やっぱり、珍しいな)

 そんな思いで微笑みながら、けれども、虚は静かな思考に沈み始める。自分が珍しいと感じたのは、単に彼女たちのことをまだよく知り切れていないだけだからにすぎないのではないか。

 ふたりの妹分と出会ってもう随分と経つが、こうしてのんびりと過ごした時間を、これまで一体どれだけ持つことが出来ていただろうか。無言裡に、この自問に答えることは、虚にほろ苦い感情をもたらした。

「兄ちゃん?」

 気が付くと、季衣がすぐ傍でこちらを見上げている。少女の眸に淡く漂った不安げな色が痛ましかった。

「兄ちゃん、もしかしてつまらなかった?」

 黙ったままの虚の様子を訝ったのだろう。虚はなるべく柔らかく笑んで、杖を握る腕の中に季衣を抱き込んだ。

「そんなことはないよ。ただ、今日の季衣があんまり可愛いから、ちょっと戸惑っていたんだ」

 虚の科白にたちまち恥じらった季衣は、もじもじと初心で幼い反応を見せた。

「に、兄様! 私はどうですか!?」

 対して、流琉は慌てた様子で積極的な対抗心を燃やし始める。

「流琉も。きみをずっとそばに連れて歩くだなんて、男としてこれほど嬉しいこともない」

「えへへ」

 辛うじて動く折れた腕の指先で髪をくすぐってやると、流琉は心地良さ気に目を細めて、身を摺り寄せて来た。

 胸の奥につのる愛しさを確かに感じながら、虚はふたりの妹分に告げる。

「さあ。可愛いふたりの妹たち。あそこにすこぶる美味そうな牡丹饅頭なるものが売っているから、ちょっと買って来てくれないか。みんなで食べよう。俺は東屋の方で席取りをしておくから」

 虚は言いながら、ふたりに小遣いを渡した。季衣と流琉は嬉しそうに顔を見合わせると、手を取り合って土産物屋の方へと駆けて行った。

 待ち合わせの場所に指定した東屋は、饅頭売場からであっても、十分見える場所にある。はぐれることはないだろう。

「どっこいせっと」

 思わずそう口にしてから、はっとする。流石に年寄り臭すぎるひと言だった。

 何気なく空を見上げると、薄青の色合いに金茶色の気配が混ざり始めていた。もうじきこの空は群青と赤橙の混合色へ代わり、濃紫を経て、落日を迎えるのである。

 

(――落日、か)

 

 落日、入り日は物事の勢いが衰えることのたとえとして用いられる。現在、世間では董卓の勢力がこの落日を迎えつつあるというのが、やはり一般的な見解なのだろう。

 檄文が飛び交い、野心を抱いて結集した諸侯たちが今にも、あの健気な少女の喉笛へと噛みつこうとしている。

 相手は袁紹、袁術に加え、虚の予想では馬騰も参戦して来るだろう。今のところ動向の掴めない孫家も勘定に入れて良いかもしれない。総勢二十万に及ぼうかという大軍勢である。

 これに比べて、こちらは曹操と董卓の二勢力のみで、兵力もまともなものが十万と揃えばいい方である。

 兵力の差ばかりでなく、肥沃な領土を有する袁紹は長期的に戦線を維持する力も持っている。確かに、侮りがたい相手ではあるだろう。

 しかし、もちろん負けを食らってやるつもりは毛頭ない。

 むしろ、今回の決戦こそが天下分け目の大戦(おおいくさ)である。そして、そのようにこの戦いを定義づけるとき、やはり曹操軍は反董卓連合に参加していてはいけないのである。

 曹操の目的は袁家を滅ぼすことでも、馬騰を打ち倒すことでもない。この大陸に、覇王として立つことである。覇による支配によって、民草に平穏をもたらすことである。

 もし曹操が反董卓連合に参加して、董卓を滅ぼしたとしても、その後に待っているのは、泥沼の、遅々とした覇権争いである。そのような鈍間な権力争いにつき合ってやるなど真っ平御免である。

 内戦の長期化は民を疲弊させ、国力を摩耗させる。そうなった場合、喜ぶのは漢の領土の外で牙を研ぐ夷狄たちであろう。このことを考えあわせた時、曹操に要求されるのはより迅速な政権の奪取である。

 そして、より早く権力を握るには、反董卓軍に参加するのではなく、董卓と同盟を結び、劉弁及び劉協という「錦の御旗」を握ったまま戦うことが必要なのだ。

 もちろんそれが覇王としての義に反するのであれば別の方途を用意しなければならないが、今回はまさに虚の考える利害と華琳の曲げられぬ矜持が上手く合致している。

 まずはこの戦い、称するなら「洛陽決戦」で勝利する。それも、戦後、董卓との間で行われるであろう権力分配でより有利となるような勝ち方をしなければならない。

 具体的に言えば、戦後処理においける報償と処罰においては、曹操がリーダーシップを発揮できなければならない。

 なぜなら、信賞必罰の貫徹は、主権者の権限だからである。逆さにして言えば、味方の働きに報い、敵を処罰する者こそが、力あるものだと認識されるのだ。

 それは反董卓連合も同じように考えているだろう。特に袁紹は、董卓と曹操を打ち滅ぼしてすぐ天子を手に入れ、天子の代理人として敗戦陣営を処罰しようとするに違いない。だが、彼らの堺町門の変は決して成功させない。

 曹操は陳留と洛陽を並んで掌握するとともに、政治的経済的に比類なき大領域を形成しながら、新政権の樹立を行う。禅譲と、国号の改定によってである。

(……魏の誕生は近い)

 しかしそのためには洛陽決戦において、曹操軍が挙げる戦果が多大であり、かつ英雄的なものでなければならない。

 そして、その実現には、今目の前で饅頭相手にはしゃぐ、ふたりの少女の力をやはり借りなければならない。

 曹操軍に兵力的な余裕があるとは言えない。彼女らが振るう超重兵器は、単純な武力として強力であるばかりでなく、敵をおののかせ、味方を鼓舞することのできるものである。戦術面においても戦略面においても、彼女たちの将としての価値は高い。

 けれども、虚はその本心として、季衣と流琉を戦場に立たせたくなかった。華琳と共に歩む覇道は彼女たちがその意思によって選んだ道である。しかしながら、本来であれば、彼女たちの稀有な才能は、敵兵の殺害のためではなく、あの小さな村のささやかな繁栄のために用いられるべきではなかったのか。

 そう思うからこそ、虚はこの戦が終わった後、真っ先に、あのふたりへ平穏で新しい生活を贈りたいと考えている。

 季衣と流琉が国益に仕えることを望んだとしても、その願いは、あの子たちを苛烈な戦士として扱うのではなく、心根の優しい少女として捉えた形で叶えてやりたいと思う。

「兄ちゃーん!」

「兄様ぁー!」

 可憐なふたりの妹が満面の笑みでこちらに駆けて来る。東屋の席か立ち上がった虚は、杖を机に立て掛けると、温かい少女たちの身体をぎゅっと強く抱きとめた。

 彼女たちが不思議がっても、くすぐったいよ苦しいよと照れ臭がっても、しばらくの間は離してなんてやらなかった。

 そのせいで、いくつかの牡丹饅頭が原形を失ったのは、まあ、ご愛嬌である。

 

 

 ありむらです。

 

 まずは、ここまで読んでくださっている読者の皆様、コメントを下さったかた、支援をくださった方、お気に入りにしてくださっている方、メッセージをくださった方、えっとそれから……兎に角応援して下さっている皆様、本当にありがとうございます!!

 

 

 皆様のお声が、ありむらの活力となっております。

 

 さて今回は、季衣と流琉とのデートを垣間見る程度に纏めました。私が日常パートを長々とやるとダレるだろうなあという判断によるものです。

 

 ただ、垣間見たシーンは、そのデートがどんなものであったのか想像しやすいものを選んだつもりです。

 牡丹園に到着するまでの道すがらの三人、牡丹饅頭をむさぼる三人、そしてほのがなしい帰途につく三人、すべてを同じ比重で描いても情緒がないかなと。これらについてはみなさまに想像して貰えたらな、と。

 ですので、三人の会話を最低限にし、主に二人の妹に向ける主人公の眼差しを書いてみました。

 試みとして成功裏に終わったかどうかは謎ですが。

 

 風と華琳さんについては、逆に、相応のヴォリュームで描きたいと思っています。

 

 では今回はこの辺で。

 

 毎度の応援、心から感謝しております。

 

 ありむら。


 
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