No.704980

まよいゴッデス

終物語(下)「おうぎダーク」後、花物語「するがデビル」直前の春休みごろ。
北白蛇神社の神様になった八九寺真宵と、真宵にスカウトされて北白蛇神社の神主になった手折正弦の話。
正弦さんがこの世に復活するのが早すぎるような気もしますが……気にしない。
影縫余弦は北極から戻ってきて、余接ちゃんから正弦さんの事情を聞いたらしいです。
続・終物語の発売前なので、また何かフライングしてるかも……。

2014-07-30 14:13:39 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:745   閲覧ユーザー数:742

 

001

「手折さん、わたしと契約して、北白蛇神社の神主になって下さい」

 久しぶりにこの世に戻ってきた私の前に最初に現れたのは、今は北白蛇神社の神様となった八九寺真宵だった。

「あっ、こう言った方が良かったですか? 『僕と契約して神主になってよ』」

 いや、それは。

 君が言うと洒落にならないだろう、中の人的に。

 

 

002

 そんなわけで私は今、ここ、北白蛇神社で神主をしている。

 いつかと同じように社の賽銭箱の上にあぐらをかいて座っている。

 折り紙でやっこさんを折り、袴を折ってつなげては、それを賽銭箱に入れている。

 ああ、別に今日は賽銭箱の中に若い娘さんたちをさらってきて隠してあるなんてことはないから安心してくれ。

 今の私はただ、朝から下界のパトロールに出かけたまま帰らないこの社の主が戻ってくるのを指折り数えて待つ一介の下僕にすぎないのだから。まあ、それも仮の姿には違いないのだけど。

 知識や能力と言った点で私が神主を務めることに何ら支障はないのだけれど、いかんせん学部は中退、神社本庁から神職資格も取得していない、無免許神主だ。ブラックジャックとでも言っておけばかっこうがいいのかな?

 

 四月初旬、春霞の青い空を四角く切り取る大鳥居の向こうに、この北白蛇神社の主―生前の名を八九寺真宵と言う―十歳ぐらいの少女の姿が見えた。

 今日もツインテイルを揺らしながら、石段から参道を元気に渡り歩いてやってくる。白衣緋袴の巫女装束の上にトレードマークの大きなリュックサックを背負って。

「またサボっていたんですか、手折さん」

「お帰り、八九寺ちゃん。私は別にサボっていたわけではないよ。君が帰ってくるのを今や遅しとこうして時間を数えながら待っていたんだから」

「家に帰るとわたしの帰りを待っていてくれる人がいる、というシチュエーションには大変心温まるのですが、こんな真昼間からいい年をした成年男子が家でダラダラ遊んでいるという光景は、あまりほめられたものじゃありませんね。背中にファスナーのある居候の熊でもあるまいし。どうせなら街へ出てビラ配りやティッシュ配りでもして神社に人が参拝しに来てくれるよう働いてこられてはいかがですか? わたしなんて毎日こうして萌え萌えアピールな巫女服で街のパトロールをしながら同時に人集めに奔走しているというのに」

「やれやれ、神社とは、そういうものではないのだがね」

 ついでに専門家として言わせてもらえるなら、神様が巫女装束を着用しているというのも、十分つっこみに値するのだが。

 まあ、それでも一応お仕えする神様の御前であることは間違いないので、私はあぐらを正し、足を組んで賽銭箱の上に座りなおした―って、不遜なことはあんまり変わらないか。

「やっぱり手折さんでなく、死屍累生死郎さんにお願いすべきでした」

「彼なら、とっくにこの世に存在していないだろうに」

「そうですけど、死屍累さんは手折さんと違って長身痩躯の美青年だったそうじゃないですか。このわたしの隣に控えていて下さったら、さぞかし美しい絵になったと思うのです。手折さんよりもすばらしいわたしの引き立て役になったと思うのです」

 結局彼も君の引き立て役にすぎないのかい。

 まあ確かに、専門家としても彼のほうが私より格上感があるし、そもそも彼は年季が違うからね。吸血鬼の神主と新米神様の少女という組み合わせも、ラノベ的には面白い設定なのかもしれない。

「だったら私も言わせてもらうけれど、私だってどうせなら千石撫子が神化した際に神主として呼ばれたかったよ。君に不満があるわけではないけれど、私だって、あの息をのむほどに、まばゆいほどに神々しく光り輝く、美しく哀れな白蛇神の娘さんに、日がな一日折り紙を教えて遊んだり、一緒に阿良々木君と旧キスショットを殺したりしたかったよ」

「あー、手折さんは蛇神を退治するんじゃなくて、阿良々木さんと忍さんを退治する側なんですね」

「当然だよ。私は阿良々木君とは友達でも何でもない、縁もゆかりもないんだからね。忍野や貝木なんかとは違うよ。大体、神と鬼、聖なるものと邪なるものとの争いで、どちらに加勢すべきかなんて、考えるまでもないことなんだよ。本来はね」

「話を戻しますが、もしも死屍累さんが神主になって下さっていたら、きっとイケメン神主と超絶ロリ美少女神の強力タッグで、この神社にも毎日いっぱい人が押しかけるようになっていたと思うのです。手折さんももっと頑張って下さい」

「頑張れ、と言われてもね。常に身綺麗にするよう心がけてはいるつもりだけれど」

「そうですね、ここはやはり、BL的に頑張って下さい!」

「……」

「ふらっとこの街に舞い戻って来た忍野さんがこの神社に一晩の宿を求めてきたのをきっかけに焼けぼっくいに火が付いたりとか、昔詐欺った中学生にボコられて重体に陥った貝木さんに精巧な人形の体を作ってあげて、その代金を体で払ってもらったりとか……」

 やれやれ、どこからつっこんでいいものやら。

「中年のおっさん同士が絡みあうような話に世の中の需要があるとはあまり思えないんだが……」

「手折さんは若い燕のほうがいいんですか? しょうがないですねえ。まあ、阿良々木ハーレムの筆頭は何を隠そう忍野メメさんですからね。手折さんも仲良く阿良々木さんと喋喋喃喃なさってください」

「私は、もし仮に自分がそういった不埒な薄い本に描かれるようなことがあったとしても、相手はせめて女性であってほしいと切に願うよ」

「臥煙伊豆湖さんとかですか? 手折正弦×臥煙伊豆湖だなんて、そんなマニアックな本は阿良々木さんぐらいしか買ってくれないと思いますよ?」

 阿良々木君は買うんだ……。

「いや、そんな命がいくつあっても足りないようなカップリングじゃなくてね……」

「斧乃木さんですか」

 にやり、と笑いながら、じろり、と流し目。

「……」

「手折正弦×斧乃木余接本も、そこまで需要があるとは思えませんけどねー。誰得ですか? 俺得なんじゃありませんか?」

「私は別に、そんな不純な目で余接を見ているわけではないよ」

「本当にそうですかー? 昨夜も自作フィギュア1/3スケール斧乃木余接ちゃんvol.4.0ウエディングドレスver.を胸にかき抱きながら寝床で愛をささやいていらっしゃったじゃありませんか」

「……」

 見てたのか?とは、神様を相手に愚問かな。

 私は照りつける真夏の陽光の下に引きずりだされた日陰に育つ植物のように居たたまれない気分に襲われた。

「ああ、落ち込んでらっしゃいますねえ。でも大丈夫です。今更手折さんの性癖が白日の下に晒されたところで、減るようなファンのかたも最初からいませんから、どうぞ安心なさってください」

「さっきからまるで忍野扇のように辛辣な物言いだけど、君は何か私に恨みでもあるのかい?」

「恨みと言いますか……、一つ屋根の下で暮らしていると、見たくないものを見てしまったり聞きたくないものを聞いてしまったりするわけですよね。阿良々木さんといい手折さんといい、日本の男性はみんなロリコンなんですか? そう言えば忍野さんにもロリコン疑惑ってありましたよね」

 いや、ここで私と忍野、それに阿良々木君の三名が日本人男性の代表として採り上げられることについては、さすがに疑問を呈さざるを得ないだろう。自分で言うのもなんだが、いくらなんでも偏りがありすぎる。

「今まさに思春期に足を踏み出さんとする多感な年ごろのわたしといたしましては、軽く男性不信に陥ってしまいそうな住環境なわけですよ」

「それは……、悪かったね。しかし私はロリコンではないよ」

「ああ、厳密には違うんでしょうかねえ」

 コホンと咳払いをして八九寺ちゃんは口調を変えた。

「ただの女の子には興味ありません! この中に怪異、人形、屍体の女の子がいたら、私のところに来なさい。以上! ……こんな感じですか?」

「いや、怪異も人形も愛しているしそれを否定するつもりはないけれど、必ずしもそれが少女である必要はないんだが」

「でも人形って、少女の形をしていることが多いですよねえ」

「……」

 不覚にも返答に窮してしまった私と、相変わらず意地の悪いニヤリ笑いを浮かべている八九寺ちゃんのところへ、一人の女性が現れた。

 森の木々を駆け抜け、くの一のように山を登って来た彼女は今、参道の灯籠の上に涼しげに腰かけている。

 私は賽銭箱の上に立ちあがって彼女を出迎える姿勢をとった。

「やあ、余弦」

 久しぶりだね、と続けようとしたのだが、それは叶わなかった。

 余弦の剛速球のような飛び蹴りで、脆弱な私の体は拝殿の奥まで物の見事にぶっ飛ばされてしまったからだ。

「余接から聞いたで。おどれ、ほんまはもうあの世に片足突っ込んどる身の上なんやてなあ? ええ加減あっちに行ってしもたらどうや? おどれはもう怪異としか言いようがない状態やろ。観念して大人しくうちに引導を渡されることやな。おどれが何度未練たらしう人形つこてこの世に舞い戻ってこようとも、そのたびにうちがこうして粉砕しにきたるわ」

 やれやれ。やっとこの世に戻って来たばかりだというのに、ひどい仕打ちをするものだ。こんなに短期間であの世に送り返されるのはさすがに初めてのことだよ。

「とか言っちゃって、本当は嬉しいんじゃないんですか? 生き返るたびに影縫さんがわざわざ自分を殺しに来てくれるなんて」

 遠くで八九寺ちゃんの声がする。

 いや、ハハ……、それは、どうだろうね。

 

 

 


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