No.704247

ALO~妖精郷の黄昏~ 第32話 天穿剣と四旋剣

本郷 刃さん

第32話です。
今回は整合騎士戦ですが、ちょっと予定と違ったことになってしまいました。

とりあえずどうぞ・・・。

2014-07-27 12:44:31 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:9530   閲覧ユーザー数:8851

 

 

 

 

第32話 天穿剣と四旋剣

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

キリトとユージオは5人の整合騎士に向かい駆け抜ける。

 

整合騎士の副騎士長を務めるファナティオは細剣を構えたまま、彼女の弟子の4人の整合騎士が先んじて前にでる。

左端に居た騎士が一番早くにキリトの目前に現れ、その手に持つ大剣を左から横薙ぎに繰り出す。

その一撃を『黒剣』の上段斬りによって防ぐ、

普通の人間ならばそのあまりにも強力な剣撃によって一瞬で斬り捨てられるのだろうが、

キリトはそれを容易に受け止め、斬り返して即座にその騎士に強烈な蹴りを叩き込んだ。

蹴りを受けた部分の鎧が砕け、そのまま倒れる騎士を飛び越えてまた別の騎士が斬り掛かってくる。

しかし、その一撃もキリトは右手に持つ黒剣で受け止めたのちに弾き、

掌で騎士の頭部を覆っている兜を掴み、彼の持つ力から兜が軋み始める。

 

「神霆流闘技《霍翼(かくよく)》」

 

その言葉と共に掌に一気に力を込め、腕を上手く回して掌を一回転させる。

そのあまりの握力と衝撃に兜が粉砕し、騎士はその衝撃によって頭にダメージを負い、

眼と鼻から血を流しながら意識を半分ほど飛ばした。

 

直後、窮地に陥った仲間を援護するためか、または攻撃により隙が出来たキリトを狙ってか、

2人の騎士が左右から同時に大剣で横薙ぎを行ってきた。

攻撃直後ということもあり、常人ならば当然対応は出来ず、

戦い慣れた者であっても回避できたとしても傷を負うこともあるだろう。

だがそれは常人という枠に捉われた者に限り、キリトはその枠に納まってはいない。

 

彼は黒剣を床に刺し、柄を握ったまま飛び上がることで回避し、

彼を標的としていた大剣は床に突き刺さった黒剣とぶつかり、僅かだが衝撃が起こる。

その衝撃こそが2人の騎士の隙となり、キリトは空中で両脚を開脚する。

両脚のつま先に力を集中させ、それを騎士たちの兜に叩き落とした。

こちらも常人からかけ離れた威力を発揮し、騎士たちの兜は砕け散り、

その衝撃によって2人揃って脳震盪の状態を起こした。

 

一瞬の攻防、けれどその一瞬で4人もの整合騎士が温くはないダメージを受け、大勢が崩れた。

本来、連携を得意としている『四旋剣』たちだがその連携力も個人の技量も、

ただ1人の圧倒的な実力者の前には成す術もなかった。

この光景にはさしものファナティオも驚愕し、同時に戦慄した。

自分が手塩に掛けて育て、指導してきたはずの騎士が、4人の整合騎士が、

たった1人の若者に、一瞬で倒されきってしまった。

だがいまはそれに怒りを覚えている暇はなく、ファナティオはすぐさま細剣を用いてキリトに仕掛ける。

それと同時にキリトの剣撃が騎士に辿り着こうとした……瞬間、

 

「エンハンス・アーマメント!」

 

ファナティオの叫びと共に騎士の細剣が発光して光線が放たれた、《武装完全支配術》だ。

光速、つまりは光の速さたるその一撃、これも普通の人間ならば回避は不可能だろう。

しかし、キリトは光線が放たれる直前に危機感を察知し、細剣が発光した瞬間にその直線状から避けていた。

この回避行動にファナティオは今度こそ底知れない恐怖を覚えた。

しかもキリトの剣は未だに止まっておらず、

振り下ろされた黒剣をファナティオはなんとかして受け止め、即座に距離を取った。

凄まじい攻防だが、彼女は目前のキリトに注意を向けすぎていたため、もう1人の存在に気付くのに遅れた。

 

「っ、くっ!」

「はぁっ!」

 

ユージオの攻撃に気付いたファナティオは細剣で受け止め、ユージオは『青薔薇の剣』で斬りつけた。

鍔迫り合いになるも騎士はすぐさま剣を発光させ、彼もまた危険を察知して身を伏せた。

直後、ユージオの真上を光線が駆け抜け、破壊されることのないはずの塔の壁を貫通していた。

これは不味いと感じ、ユージオはキリトにアイコンタクトを送り、キリトはそれに頷いて応えた。

 

「エンハンス・アーマメント!」

「なにっ!?」

 

ユージオは剣を床に突き刺し、いままで発動待ち状態にしておいた自身の《武装完全支配術》を解放したのだ。

一瞬にして床一面が真っ白な霜に覆われ、水晶のような霜柱を鋭く出現させ、波のように広がっていった。

床に倒れていた四旋剣の4人はその自体に気付くも、

キリトによって与えられた攻撃の影響で体が思う通りに動かず、氷結の波の侵攻を許してしまう。

 

「咲け、青薔薇!」

 

ユージオの叫びと共に無数の青い氷の蔓が伸びあがり鋭い棘を生やしたままに、その蔓で4人の騎士を絡め取る。

蔓に囚われた四旋剣は氷漬けにされ、氷の蔓からは無数の青い薔薇が咲き誇る。

 

その事態にファナティオはすぐさま飛び上がることで回避しようとしたが、

先んじて飛び上がっていたキリトが肩を踏み台にし、霜の範囲外まで逃げ切った。

逃げ切れないと判断したファナティオは天穿剣を振るい、光線を蔓に向けて放った。

床が陥没しない程度に蔓を焼いた騎士は霜を光線の熱を利用して溶かすことで凍結を防いでみせた。

 

「くっ…ダキラ、ジェイス、ホーブレン、ジーロ…!

 よもや、四旋剣を軽くあしらうだけではなく、《武装完全支配術》まで会得しているとは…!」

「そっちこそ、まさか《武装完全支配術》が光とは思わなかったぞ。

 事前に攻撃の気配を察知できたから回避できたが、放たれてしまえば避ける事は叶わないからな…」

「ふん、全て避けておきながらよく言うものだ……だが、貴様の言い様が分からぬわけでもない」

 

氷像と化してしまった4人の騎士を悔しげに見ていたファナティオ。

一方で光線という前代未聞の攻撃に冷や汗を流しているのはキリトである。

ALOにある魔法で光属性のものは確かにあるが、それはあくまでも属性の話であって本物の光線ではない。

また、この世界の痛覚は本物であるため小さな一撃といえども光線に貫かれれば激痛は必至だろう。

キリトの様子を察したのか、ファナティオは笑みを浮かべる。

 

「こういう場面で徒口(あだぐち)を叩きたくなるのは私の悪癖だと騎士長殿に苦言を頂戴しているが、

 どうしても不憫だと思えてならないのだ…。

 我が天穿剣の力を知り、己をこうも容易く追い詰めた技はなんなのだろうと、そう考える者が…」

 

細剣の切っ先をキリトに向けつつ、ユージオを警戒しながら話しを続けるファナティオ。

ユージオが詠唱を行っていないことから《武装完全支配術》を使用してこないことは理解できた騎士だが、

キリトが発動待ちの状態である可能性を考慮して警戒心を高めている。

それでも、語ることをやめないのはファナティオに矜持があるのだろう。

 

「央都に暮らしていたのなら、鏡を知っているだろう?ソルスの光を跳ね返す事のできるあの道具を、

 130年ほど前に最高司祭猊下が1000枚もの大鏡を作るように命じられた。

 無詠唱攻撃術、“兵器”とか言うものの実験だったのだが、

 1000枚の大鏡は純白の炎を生み出し、ものの数分で大岩を溶かした。

 それほどの力ではあったが、戦に使うには仕掛けが大きすぎるゆえに、無用の長物となった。

 だが無駄にするには惜しいとのことでな、1000枚の大鏡を1本の剣へと変えられた。

 それこそがこの天穿剣、陽神ソルスの威光そのものだ!」

 

騎士の言葉をユージオは半分ほどしか理解できなかったが、

兵器というのは相棒の世界にもある戦争の道具ということは知っており、

それ1つで何万もの命を奪うことができると聞いていたため、恐ろしい物だったということは理解できた。

 

 

 

 

一方のキリトはというと、ファナティオの発言により頭の中で天穿剣の対策を練りだし終わったところである。

光を直線状に放つこれは光線であるため、ある物を使用すれば対抗することなど簡単だと分かっているからだ。

だからこそキリトは行動に移る。ユージオと僅かに視線を交わし、キリトは前に出る。

 

「神の威光だと? はっ、笑わせてくれる。神の威光に縋りついているだけじゃないか」

「なっ、貴様ぁっ…!」

 

笑いながら放った言葉に騎士は苛立ちを覚え、言葉を荒げた。

先程まで明らかに自身が優勢であったはずの空気、それをキリトは余裕な態度で笑い飛ばしたのだ。

だが騎士はこれは挑発であり誘いだと判断し、感情のままに動こうとした体に制止を掛ける。

そして、改めて細剣をキリトに向け、標準を定める。

 

「生意気な口もここまでだ……せめて死ぬ前に己が罪を悔い、神々に許しを請えるのだ。

 さすれば浄化の霊光がそなたの罪を清め、天界へと導くだろう!」

 

迫るキリトに向けていた細剣に光が集い、彼の心臓目掛けて光が迸らんとしたその瞬間、

 

「ディスチャージ!」

 

キリトが体勢を変えながら発した言葉、同時に彼は剣を持つ右手と空いている左手を打ち合わせた。

左手を前に翳すとそこに正方形の平らな1枚の鏡が出現した、

金属系の素因である『鋼素』と硝子系の素因である『晶素』を使い作り出したのだ。

その鏡に光線が直撃し、鏡はあまりの熱量に一瞬で橙色へと変化したが、光線を反射させる分には十分だったようだ。

キリトは体勢を変えていたために鏡を貫通した一部の光線を回避し、ユージオも僅かな時間で回避した。

 

そして、鏡に直撃して反射した光線はファナティオの兜の一部に襲い掛かり、騎士の兜を2つに割った。

キリトはそのまま斬り掛かり、ファナティオは剣で防ぎつつも空いている手で顔を隠す。

 

「ようやく素顔を見せてくれたな、騎士ファナティオ……いや、ファナティオ嬢」

「き、さま……なぜ、それを…!」

 

割れた兜の中から現れた顔、それはまさしく女性のものであり、兜と気性が相まっていたからなのか、

男性だと思い込んでいたユージオだが、ファナティオ・シンセシス・ツーは紛れもなく女性である。

反面、キリトは疑似管理者権限を手にしたカーディナルから得ていた情報で女性であるということを知っていた。

だが、彼には理解できなかった、なぜ顔にコンプレックスがあるわけでもないのに、

執拗なまでに自身の顔を隠しているのかを…。

 

そんな時、ファナティオは僅かにユージオを睨みながら言い放った。

 

「貴様も、そんな顔をするのか……私が女だと知った途端、本気では戦えないと…!」

 

その言葉を聞き、キリトもユージオも彼女が怒る理由を察することができた。

 

「私は人間ではない、天界より召喚された騎士だ……だが男どもは、私が女だと知った途端に蔑む!

 同輩に留まらず、悪の化身である暗黒騎士共ですら!」

 

女だから、確かにこれは一般的な男であれば手を抜く一端にはなるだろう。

事実、彼女にはこれまでそういった出来事があったと見られる。

しかし、それはこの男には通用しない。

 

「それでその剣、その技か……撃ちあう事で自分が女だとバレないようにするため、と…。随分とくだらない理由だな」

「なんだと…!」

「さっきアンタはなぜ俺がアンタの性別を知っているのか、そう疑問に思っていたな?

 そっちの情報は俺たちに流れている、俺はアンタが女だと最初から知っていた。

 それでも俺は剣士として騎士のアンタに対し本気で戦っている」

 

キリトはそこで言葉を区切ると冷徹なまでの怒気を露わにし、彼女にぶつけた。

いままでに受けたことのない怒気にファナティオは身を僅かに竦ませる。

 

「いまも本気で剣を振るう俺に対し、兜が壊れていまも剣を交わらせるお前はなんだ?

 剣気は弱くなるわ、意志も揺るぐわ…顔を隠し、剣筋を隠し、

 自分が女だと言う事を誰より気にしているのはお前じゃないか」

「貴様に、私の何が分かる!」

「はっ、今度は敵にまで同意を求めようっていうのか? 甘ったれるな!

 俺は知っている、女であっても誇りを高く掲げ、男が相手でも自分を強く持つ女を!

 俺の愛している女は、そういう人だ!」

 

言い終えたキリトは凄まじいまでの剣速で剣を振るい、

ファナティオは動揺を抑えながらも迎撃するがキリトはそれを圧倒する。

互いに達人の域に居る両者だが、強者との戦いにおいてはキリトが経験豊富と言える。

 

 

 

 

そもそもファナティオは自身の性別を悟られないために《武装完全支配術》を用いて敵を倒すのに対し、

キリトはその剣技を以て他者を圧倒し斬り伏せる。

さらにあらゆる武器や敵の性格なども察することに長ける彼はそれを活かして攻略法を導く。

 

両者共に奥義ではない連続技を繰り出す。

デュソルバートですら知らない連続技を、ファナティオは己の研鑽で会得している。

年月でいえばそこはファナティオに軍配が上がるだろう、

しかしキリトはそれらの連続技を知り尽くしているため、対応を全て心得ている。

 

キリトがファナティオの繰り出す連続技を捌き、キリトの剣撃は彼女の体を掠めていく。

ファナティオの細剣は陽光と化し、その形を変えて襲い来るも鞭などの戦い方を心得ているキリトにはほとんど通用しない。

 

「なぁ、アンタにとって女であることの顔が忌むものなら、誰のためにその髪に櫛を入れ、唇に紅を差している?」

「……惚れた男が、いつか剣技や首級の数以外で私を求めてくれるやもと思い、待ち続けた。

 だが鉄面の下で想い焦がれていれば、私よりも美しい顔を持つ新米の女騎士が現れたとすれば、

 化粧の1つもしたくなるものだ…」

 

彼女の言葉にキリトもユージオもある人物が思い至った。

新米の整合騎士、それでいて美しい顔を持つとすればアリスしかいないと。

 

「アンタは、整合騎士は人間だよ。好きな人に恋をして、嫉妬で悩み、片思いをする……俺たちと同じ人間だ。

 ただただ命令に従うだけの存在なら、そんな感情は最初からないはずだからな。

 最高司祭と教会を潰して、アンタみたいな人が普通に恋して暮らせる世界を、俺がみんなと成してやる!」

「貴様は知らんのだ……教会の権威が失われれば、この世界がどのような地獄に落ちるのか…。

 ダークテリトリーの軍隊が日々その力を増していることを。そのようなことが、できるはずがない」

「出来るとか出来ないじゃない、俺はやる! この世界を、無くさせないためにも!」

 

瞬間、キリトの一撃がファナティオの剣を弾き、彼女は体勢を崩した。

そこに、満を持していたユージオが行動に移る。

 

「エンハンス・アーマメント!」

 

2人の戦闘の間に詠唱を終わらせていたユージオが術を発動し、再び霜と氷の蔓が発生する。

キリトはユージオの後ろに後退し、氷の蔓が波を打つ。

蔓は左右に別れて氷の壁を作り出し、ファナティオまでに直線の道を生み出した。

ファナティオは先程までのキリトとの戦闘で受けた傷により反応が遅れ、数は少ないが氷の蔓に足を取られた。

さらにキリトが凄まじいまでの速さで長文の高速詠唱を行う。

そんな時、体が凍りつき始めたファナティオが天穿剣を掲げて叫んだ。

 

「騎士として、与えられた任務の前に、恋心など無用の物……私は、貴様らを倒さねばならない!

 天穿剣に秘められた光よ、今こそ枷から放たれよ! リリース・リコレクション!」

 

直後、剣尖から放射状に無数の光線が放たれた。

直感で不味いと判断したキリトとユージオは即座に退避するも、キリトは左肩と右脚を、ユージオは右脇腹を貫かれた。

あまりの激痛に顔を歪めるも回避行動を取るが、キリトだけは左右の壁の前に立ち、ファナティオと正面から対峙した。

彼女の解放した光は彼女自身の体をも貫いて行き、そんなファナティオに対し、彼もまた己の力を解き放つ。

 

「エンハンス・アーマメント!」

 

キリトが黒剣の《武装完全支配術》を発動した。刃の至るところから幾つもの闇が流れ出る。

漆黒の奔流がうねり、捩れ、絡まり合い、黒き巨槍へと変化した。

そこにファナティオの放出している光の収束し、対抗するように光の大槍と化した。

闇と光、2つの強力な力がぶつかり合い、衝撃波を生み、大回廊を破壊していく。

闇と光のぶつかり合いは拮抗を見せるも、超攻撃力の光の前には闇が押されると考えるはず。

しかし、キリトは自身の力の特性をなにより理解しており、

ユージオも相棒であり師でもある彼が負けるはずがないと信じている。

 

そして、2つの力の奔流に決着が訪れる。キリトの黒剣から流れ出る闇が大きくなっていく。

その様子にファナティオは驚愕するしかない。

 

「俺の《武装完全支配術》の力…それは、ソルスの陽力とテラリアの地力、ステイシアの生命力を己の物とすること。

 つまり、ソルスの光を放つそれは、俺の力にしか成りえない!」

「なっ、ぐぅっ…あぁぁぁぁぁっ!?」

 

キリトの放つ闇は全ての光を飲み込み、やがてファナティオ自身も飲み込んだ。

絶叫を上げたファナティオ、闇の攻撃を受けた彼女は倒れ伏し、僅かに言葉を発そうとしたがそのまま意識を失って倒れた。

 

ここ50階において、キリトとユージオはダキラ、ジェイス、ホーブレン、ジーロの『四旋剣』、

そして副騎士長のファナティオ・シンセシス・ツーの5人の整合騎士を倒した。

 

No Side Out

 

 

 

 

ユージオSide

 

「勝った、のか…?」

 

思わずそう呟いた僕だけど、周囲を見渡したことで実感できた…副騎士長と彼女が従える4人の騎士たちを倒せたんだと。

同時に貫かれた右の脇腹に激痛が奔ったけど、すぐに詠唱を始めて治癒を施した。

キリトも左肩と右脚を治癒している。

 

自分たちの治癒を施し終えてから、キリトは倒れている副騎士長に駆け寄って治癒を施しはじめた。

 

「剣尖は外したから致命傷は無いが、闇の奔流に飲み込まれたからか出血が酷い。出来る限り傷を塞ぐぞ」

「そうだね。他の4人は……まぁ大丈夫だろうけど」

 

僕もすぐに彼女に治癒を施す。四旋剣たちは天命が減り続けているとはいえそれは微弱なもので、

整合騎士なのだから天命の減少率も低いと考える。

酷い傷口を中心に治癒していくけれど、中々出血が治まらない。

 

その時、回廊の外側から響く足音が聞こえてきた。

鎧の鳴る音も交じっているけれど、誰のものかはキリトが判断したらしく、笑みを浮かべた。

 

「来たみたいだ」

「遅くなってすまない……どうやら決着がついているようだな」

「いえ、丁度良かったです。彼女の治療をお願いしても?」

「任せろ」

 

やってきたのは僕たちに味方してくれることになった騎士デュソルバートだった。

戦闘には間に合わなかったけど、高度な治癒神聖術が使えない僕たちにとってそれが使える彼の存在はありがたい。

デュソルバートが騎士ファナティオの怪我を治して、氷漬けになっている四旋剣の氷を溶かして、

意識を失っている彼らの治療も行った。

 

「これで良いだろう。我は5人を拘束して大図書室へと戻るが、2人はこのまま進むのか?」

「ああ、いまは時間が惜しい……どうにも、嫌な感じがしてな」

「そうか、まぁそういうとは思っていた。これはカーディナル殿より餞別だ、いまの分と戦闘用にとな」

 

キリトが嫌な感じというとそれは本当に大変なことだと思う。

デュソルバートから小瓶に入った液体を受け取ってそれを飲み干す。

かなり酸っぱかったけど、みるみる傷と疲れが癒えて、天命も回復したことに気付いた。

戦闘用の小瓶も受け取って、ポケットに入れた。

 

「それじゃあ俺たちは行くよ。カーディナルに餞別ありがとうと伝えてくれ」

「分かった……ユージオ、貴殿に1つだけ…正直なところ、

 我が言えた義理ではないだろうが……この先に貴殿が求める少女が居るはずだ」

「それって…!」

「アリス・シンセシス・サーティは……騎士長殿を除き、整合騎士中最強だ。だが、武運を祈っている」

 

デュソルバートは、記憶にない自分の所業を悔やんでいる。

彼にそんなことをさせたのは教会で、最高司祭のアドミニストレータ。だから僕は…、

 

「ありがとうございます、デュソルバートさん(・・・・・・・・・)……必ず取り戻します、アリスを…」

 

もう彼を怨むようなことはしない。アリスを取り戻して、全ての根源を討てば、そんな必要がなくなるから。

 

僕たちは倒した整合騎士たちをデュソルバートさんに任せて、先へと進む。

 

 

51階の小さな扉を潜るとそこはテラスのようなところだった。

エルドリエさんたちの話しではここで待っていれば迎えがくると言っていて、少しすると確かに迎えがきた。

宙に浮く円盤に乗った少女が行ける階層まで送ってくれるということで、僕たちは80階の『雲上庭園』へと案内された。

彼女はこの円盤を操作するという天職を与えられて170年も経ち、名前は忘れてしまったらしい。

そんな彼女に僕たちは教会を倒すことを告げ、教会がなくなってやりたいことはないかと聞いたら、

円盤を使って空を自由に飛びたいと言った。

その少女の言葉に、僕は胸に響く物があったのは間違いない…。

 

 

 

 

80階の雲上庭園に着いた僕たちは《武装完全支配術》の詠唱を終わらせてから、大扉を開けて中へ足を踏み入れた。

 

そこは塔の中とは思えないほど自然に溢れていた。

壁は白い大理石だけど芝が生い茂り、聖花が咲き、綺麗な小川まで流れて、煉瓦敷きの小道がある。

僕とキリトは驚きながらも進んでいき、丘の天辺に1本の樹が生えていることに気付く。

無数の花が黄金の陽光によって輝いてみえる……そんな樹の根元に、彼女は腰を下ろして幹に背を預け、眼を瞑っていた。

 

僕もキリトも彼女が起きていることには気付いていて、それでも僕たちは彼女が動き出す時を待った。

そして、しばらくした時、アリスは瞼を開いてその瞳を露わにした。

 

「とうとう、こんなところまで上ってきてしまったのですね…」

 

一切の感情を思わせない冷たい瞳、抑揚のない澄んだ声、剣帯していないにも関わらず、その威圧は凄い。

続けてアリスは言った…僕たちの対処はエルドリエさん1人で十分だと判断したけれど、

彼だけでなくデュソルバートさん、ファナティオに四旋剣まで失うことになったと。

それが人界の平穏を脅かす行いだとなぜ理解できないのか、そう聞いてきた。

僕はキリトに視線を向け、彼は頷いて応えた……思う通りにしろと…。

 

「キミのためだよ、アリス…」

「どういう意味ですか…?」

「言葉のまま、そのままの意味だ……僕はキミの、そして僕自身に決着をつけるためにここまで来た!」

「なにを、言っているのですか……まるで意味が解りません」

 

眉を顰めるアリスにやっぱりダメかと思うけど、こんな簡単に諦めてやるつもりはない。

 

「解らないだろうさ、いまのキミには……だから、僕が分からせてやる」

「いいでしょう……意図が掴めない以上、剣で聴くしかないようですね」

 

僕は青薔薇の剣を抜刀し、アリスは剣を握るように手を動かした。

すると、彼女の後ろにあった樹が発光して黄金の花びらになったあと、彼女の手に黄金の細剣の形になって収まった。

つまり、アリスの剣は既に完全支配状態…いや、樹になっていたのだから《記憶解放》状態だったのかもしれない。

 

そんな時、キリトがアリスに問いかけた。

非礼を承知で訊ねたいと……貴女の神器であるその剣と先程の樹の関係性を教授願いたい、と。

その問いかけに僅かな沈黙のあと、アリスは応えた、死に行く中で天界への道中の慰めにと。

 

銘は『金木犀の剣』、本来はなんの変哲もない金木犀の樹だが、その年月は果てしないもの。

創世期、カセドラルの中央の“始まりの地”に生えていた“最初の樹”が原形であり、

人界の森羅万象で最も古い存在らしい。属性は『永劫不朽』、舞い散る花びら1つで石を割り地を穿つ、か…。

 

「なるほど、最初の破壊不能オブジェクトということか…ご教授感謝するよ。

 でもな、騎士アリス殿……アンタはなにも解っちゃいない。

 それさえも人の意志で、打ち破ることが出来るのもまた人の意志であることを」

「なにを…」

「ユージオ……やれるな?」

「ああ!」

 

キリトの言葉の意味を理解できないといった様子のアリス。

彼女を無視して僕に聞いてきたのだから、応えないわけにはいかないし、やれないわけがない。

ここからは僕の舞台だ。

 

僕は思い出す。

あの日、アリスが連れて行かれるのを怯えて見ているしかできなかった時を…。

あの時に成すことが出来なかったことを、いま成してみせる。

 

「ルーリッド村出身、アインクラッド流剣士、ユージオ…」

「整合騎士、アリス・シンセシス・サーティ…」

 

僕が剣を構えながら名乗り上げ、彼女もそれに応え名乗りながら剣を構える……そして…、

 

「「参る!」」

 

僕とアリスはぶつかり合った。

 

ユージオSide Out

 

 

 

To be continued……

 

 

 

 

 

あとがき

 

まずは一言・・・すいませんでしたぁ!

 

というのもみなさんお分かりの通り、前回のあとがきで次回は整合騎士戦を2連戦すると言ったもののできませんでした。

 

予想以上にファナティオとの話しが重要だなと思い、同時に原作よりもキリトたちのダメージも減らせる、

ユージオとデュソルバートとの短い語りなど、やっておかねばならないことが多かったのです。

 

まぁ次回こそはVSアリスになります・・・しかもユージオVSアリスの一対一になります。

 

ユージオとアリス、2人の行方は果たしてどうなるのか。

 

それでは次回で・・・。

 

 

 

 


 
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