No.702602

副長は銀狼の義弟

半年ぐらい立ってたけど生きてるよ。

2014-07-21 21:30:01 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:1115   閲覧ユーザー数:1074

 

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#03

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

体育の授業が終了した梅組メンバーは教導院の教室に戻ってきていた。

授業開始時とは違いメンバーが増えているが、ソレはいつものことなので気にしている者は誰一人いない。

だが、その中に副長の姿だけが見えなかった。

とはいえ、そのことを気にする者はいない。

"いつものこと"

その一言で片付けられてしまうのがこの"武蔵"の特徴の一つと言えるだろう。

責任の押し付け合いなどは日常茶飯事であるこの"武蔵"にとっては気にする者は皆無である。

総長が番屋の常連でも誰も気にしないのだから、副長が学長の仕事をしていてもおかしくはないのだろう。

三年梅組のプレートがついた教室に入ったメンバーは黒板に書かれたメッセージを見て一瞬止まるもすぐに自分の席に着き、次の授業の準備をする。

だが、唯一長い銀髪を縦ロールにした少女、ネイトは違った。

黒板を見た途端に固まってしまったのだ。

「ミトっつぁん、席に着かないと先生に怒られるよ?」

金翼の少女、マルゴットの言葉すら届いていないネイトだったがすぐさま思考を再起動させ、黒板に書かれたメッセージを消しにかかるが、

「"ネイトは俺の嫁。異論は認めない!!by副長、ロアル・ミトツダイラ"か…ミトツダイラは後で教員室に来なさい」

何時の間にか背後にいた担任のオリオトライに誰もが言わないでくれていたメッセージを読まれてしまう。

「なんで私なんですの!?」

「こないだロアルに説教したら八つ当たりで給料半分にされたのよ。

 ほら、アイツ学長に仕事頼まれてるから教師の給料とかも弄れるみたいでさ…」

「「めっちゃ私念だ…」」

全員に突っ込まれるが当の本人はこの場にいない。

「というか、それっていいんですか?」

オリオトライに質問したのは黒髪義眼の少女、浅間だ。

「こないだ酒屋のツケを教導院払いにしたのがバレちゃってさー」

「「原因それだよ!!」」

全員のツッコミにオリオトライは口笛を吹いて誤魔化す。

「そんなことは置いておいて、授業開始よ」

数人の欠員を出したまま2時間目の授業が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"多摩"の中央付近にある軽食屋、"青雷亭(ブルーサンダー)"で一人の生徒が表示枠(サインフレーム)を幾つも開いていた。

店内に客はその生徒只一人。店員は銀髪の自動人形が一人。

店主はまだ戻ってきていない。

「じゃあ武蔵さん。さっきの資料を早急にお願い。」

Jud.(ジャッジ)、分かりました。五分ほどお待ちください━━以上。』

表示枠が一つ閉じ、テーブルにある注文した商品を口に入れる。

ミートパイだ。肉が大量に入った特別仕様だ。

店の扉が開き、人が入ってくる。店主だ。

「あれ、"ローくん"来てたのかい?」

「その呼び方止めてくんない、"善鬼さん"」

「ローくんが副長になってもあたしにとってはまだまだ子供だからね…

 だから、ローくんなんだよ」

生徒改めロアルの言葉に店主は笑いながら答える。

不機嫌になりながらも追加のミートパイを注文するロアルに店主は微笑みながらミートパイを焼きにかかる。

ロアルは横目で自動人形を見る。

エプロンをつけた長い銀髪の自動人形…

自動人形は感情がない。なのでいつも同じ顔だ。無表情といってもいい。

似ていた。

ロアルの記憶にある少女にどことなく似ていた。

だが、別人だ。

何故なら、その少女はロアルの目の前で()()()()()()()()()()()

「っ…!!」

その時のことを思い出し拳を握り締め歯噛みする。

ロアルにとって最初その少女のことはあまりよく思っていなかった。

いつもトーリと馬鹿やって怒られたことは自分でも幼いながらに自業自得だとわかっていた。

だが、あの少女は口を開くと毒舌が飛び出る。

昔はよく泣かされた。

そしてネイトと少女の喧嘩になる。

それが、日常茶飯事だった。

だが、それも今から10年前までだった。

彼女が死んでからはロアルの中で心に穴が空いたように虚しさが込み上げていた。

ロアルはその時に理解できた。

彼女のことが好きだったと…

LOVEではなくLIKEだ。

今の自分の中にあるネイトへの気持ちとは違う彼女への気持ち。

それは今でも変わっていない。

それと同時に今でも後悔している。

あの時少女を助けれなかった自分に後悔していた。

「ローくん、怖い顔してるよ?」

追加のミートパイを運んできた店主の言葉にロアルは表情をいつもの気怠げな表情に戻す。

「なんでもねぇよ」

ミートパイに齧り付きながらそっぽを向くロアル。

いつもと同じ風景にロアルは目を細める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

青雷亭で表示枠を操作しているロアルのもとに、通神が入る。

『あ、ロアル。今大丈夫?』

学長だった。

「なんだよ…」

『あれ?怒ってる?』

「わかってて言ってんだろ?

 で?要件はなんだ?」

『東の手続き終わってなかったから急いで頼むわ』

はぁ!?

「アホか!!」

思わず店内で叫んじまったじゃねえか!!

この学長マジでいっぺん殺したいんだが…

『資料はそっちに送っといたから』

通神はそこで終わった。

「切りやがった…あの野郎……!!」

巫山戯んなよ……三河に降りる手続きもあんのに…後で泣かす!!

……絶っっっっっっ対に後で泣かしてやる…!!

今の作業を一時中断して新たに来た案件…先程の東の一件だ。

こちらを優先させて終わらせる。

急がないとヤバイ!

今日の昼前にはもどってくることになっている。

あくまで予定だからそれより前に戻ってくることも視野に入れておかなければならない。

10時までに終わらせるとして…残り40分ほど…

邪魔が入らなければ20分で終われるな…

「善鬼さん、パイ3枚追加!」

「まいどー」

昼飯までの繋ぎの分を頼んで作業を開始。

結果だけで言うと、ギリギリだった。

東が教導院に着く3秒前に完了して速攻で学長のもとに転送。

「ギリギリだったぜ…」

パイが美味い…

まだ、仕事残ってるんだよなぁ…

もう昼前か…

「P-01s、外に水撒いたら上がっていいよ。また夕方からお願いね」

「Jud.」

P-01s、それがあの銀髪の自動人形の名だ。

気がつけば目で追っているが、店の外へ出ていってしまった。

片手で表示枠を弄り学長の三河での手続きを進めつつ、もう片方の手でパイを口に運ぶ。

口の中に肉汁が広がって、人狼としての本能が打ち震える。

本能といっても「もっと肉くれ!」程度のものだ。

母さんのように純粋な人狼だったら人を食うらしいが、

ネイトは半分は人間だからそうでもない。

俺に関してはそんな気が起こらないだけだ。

俺の体は特殊らしいが、そこに関してはよく知らない。

聖連のトップにいる教皇総長ならば知ってるんだろうけど、"アレ"以来会ってないしなぁ…

というよりも、武蔵にいる時点で会える確率は殆どない。

取り敢えず、仕事終わったら母さんに連絡しよう。

久々に声聞きたいし、ネイトの近況を知らせろって言われてるし…

「店主様、お客様です。いつものように正純様が、見た感じで申しますと、━━餓死寸前で」

取り敢えず飯か…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

午前10時。

武蔵の声が武蔵全域に乱立された街灯などに設置された拡声器や大通りに展開されている表示枠から響く。

定刻通りに宣言していた、"ステルス航行"の時間だ。

「10時をお知らせ致します。本艦は只今よりステルス航行に移行します。――以上。」

武蔵の眼前に武蔵を飲み込む程の大きな鳥居型の表示枠が展開され武蔵を飲み込む。

航空艦用のステルス術式だ。これにより、今まで地上から見えていた武蔵の巨体が消えた。

否、消えたように見えただけだ。実際に武蔵は変わらずに空を切るように泳いでいるのだから。

武蔵から空を見上げてもそこにはステルス術式によって張り巡らされた代わり映えのない白い景色が広がるだけだ。

艦長室ならば少しは違うのだろうが、そうでなければこの景色には面白みがない。

青雷亭には客が一人増えていた。

P-01sによって発見され、店主に頼まれたロアルによって店内に運び込まれた餓死寸前だった本多・正純だ。

ロアルは表示枠に指定された数字を殴り込むように書きながら正純を一瞥するが、構っている余裕はないとばかりに未だに終わっていない教導院の会計業務をこなしていく。

対する正純はそんな視線に気づくはずもなく、店主から差し出されたパンを食べている。

「餓死寸前はヤバイよ正純さん。もうちょっと割の良いバイトしてちゃんと食ったほうがいいと思うんだけどねぇ」

「今後は気を配ります。」

店主の心配するような声に正純は申し訳なさそうに答える。

「ウチでよければいつでもお出て。ところで今日はこれから生徒会の仕事かい?」

「ええ。生徒会の副会長として三河の関所まで酒井学長を送りますが、その前に母のお墓参りに行こうかと…」

正純が食べ終わったパンの皿と水の入っていたグラスを片付けつつ聞く店主に正純は先程までの申し訳なさを隠すようにいつもどおりに振舞う。

「よし、終わり。今日の業務終了!!」

店主と正純の会話を断ち切るようにロアルの声が店内に響く。

ロアルにとってはそんな気は微塵もなかったのだが…

「ミトツダイラ!?お前教導院にいるんじゃ…」

「は?なんで?」

突然現れたように感じた正純は狼狽してロアルに疑問をぶつけるが、ロアルは質問の意図を理解していなかった。

学力的にはロアルは学年内でも上位の方だが、それは勉強の効率がいいだけであってなんでも理解できるというわけではない。

というよりも、ロアルは基本的に一夜漬けで高得点を狙うという無駄な才能を有しているからこそできることであって、基本的にトーリと同様の馬鹿だ。

ロアルの疑問に正純は答えられなかった。

自分の言ったことが間違っていたのかと、考え込んでしまったからだ。

「ローくん、もう行くのかい?」

「ああ。こっちで出来ることは終わったから、教導院に戻って学長の不始末つけてくる」

正純を置いてけぼりにしつつ、ロアルは会計を済まし店を出て、教導院へ向かう。

会計の中に正純が食べたパンの代金が入っていたが、いつものことなのでロアルは別に気にしてもいない。

「正純さん?」

「…………はっ!!」

二人の流れるような動作に口を挟む間すらなく、完全においてけぼりを食らった正純は呆けるしかなかった。

呆けていた正純に店主が疑問に思って声をかけると、正純が意識を取り戻す。

話題を中断されたことを思い出した正純は慌てるように店主に言う。

「いつもいつもご馳走になってすみません。この御恩は必ずいい政治家になって…」

「いいわよ。もう既にもらってるから…」

店主の発言に正純の時が止まった。

そして、店主が見せつけるようにしてヒラヒラと揺らしている領収書を見る。

それを見てわかった。

いつも、ここでお世話になる時に至ってロアルに会っていたことの意味が…

大抵は正純が世話になっている途中か帰り際のすれ違いなどは会ったが、今回のように最初から居るのはなかった。

今回は本当に偶然なんだろうなぁと、考えつつ今までずっと奢られていたという申し訳なさが旨を支配していく。

店主がロアルに奢らせる訳もなく、ロアル自身の判断なのだろうと正純は理解した。

生徒会の業務も偶にだが手伝ってもらってる正純は更に申し訳なくなってきた。

「あの子はお礼として何か送っても受け取ってくれないと思うよ…」

正純が突然椅子から立ち上がるも、店主の言葉に動きを止める。

考えが読まれたのもそうだが、自分の動きすらも読まれていたことに、正純は自分はそこまでわかりやすいのかと頭を抱えそうになるが、今は置いておくことにした。

「理由を聞いてもいいでしょうか…」

「昔からなんだよ。ミトちゃんの弟だから昔はよくミトちゃんみたいになろうとして騎士みたいに振舞っててね…

 その時の名残みたいなもんだよ。」

正純は店主の言葉を聞いて考える。

生徒会長である葵・トーリ(バカ)と同じくらいに騒ぎを起こすロアル・ミトツダイラ(アレ)が騎士と同じことをしている…

「……当時を知らないのですが、今だと似合いませんね…」

「そうなんだよねぇ。昔は結構可愛かったんだけどねぇ。今じゃ、ヤクザ相手にヒャッハーしてるから騎士というよりは狂戦士だからね…」

再び正純は考える。

所構わず暴れていて味方の被害も考えずに敵を殲滅するロアルの姿だ。

「なんかしっくりきました…」

店主は笑って肯定した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

教導院の廊下でロアルは大きなクシャミをしていた。

手に持っているのは紙の束だ。しかも学長の印が必要な所謂、重要書類という類の束だ。

「うぅ…誰か噂でもしてんのか…」

ロアルの歩みは緩まず先程から一定の速度で止まることはない。

その歩みが止まった。

原因は自分の教室の前で止まっている二人の人物だ。

一人はどこかの物語から出てきたような王様の姿をしている人物。

武蔵アリアダスト教導院教頭兼武蔵王そのひとであるヨシナオだ。

もう一人は教導院の男子制服を着ている幼さが残る顔立ちをした男子生徒、東だ。

「どうしました、教頭?後、久しぶり、東」

ロアルが二人に歩みを再開させ近づきつつ声を掛ける。

|トーリ《バカ》と一緒に騒いでいる時とは違い、今は学長の代わりに仕事をしている身なので「麻呂」呼びは出来ない。

「ん?おお。ロアル君。いや、東君が戻ってきたので教室まで送り届けに来たのだが…」

「ロアル君!!」

ヨシナオの言葉は東の言葉に遮られていたが、そこまで聞いていたロアルは理解した。

「またかよ、あの馬鹿ども…」

自分のことを完全に棚にブチ上げての発言である。

ロアルが3年梅組の教室の扉を開けると…

教卓でストリッパーよろしく脱ぎかけている馬鹿とそれを盛り上げている外道どもがいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

反省はしているし後悔もしているだが、多分またやるかもしれない

 

 
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