No.700997

妖世を歩む者 ~2章~ 4話

ray-Wさん

これは、妖怪と人間、そして"人妖"の住む世界のお話です。
"人妖"の女の子の容姿等は、GREEのアプリ『秘録 妖怪大戦争』を参考にしています。
※既にこのアプリは閉鎖となっています。

拙い文章ではありますが、楽しんでいただければ幸いです。

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2014-07-15 16:24:14 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:390   閲覧ユーザー数:390

2章 ~鍛える者~

 

4話「実力差」

 

数日の筋トレが終わると、いよいよ武器を使った鍛錬が始まる。

陽介の手にある風斬は、竹刀とは違いズシリと重い。

当然陽介は、真剣など扱ったことはない。鞘から出てきた刃の輝きに、陽介の背筋が凍った。

1つ大きく深呼吸をした陽介は、鞘を立てかけ、鍛錬場で待つサクヤの元へと向かった。

 

鍛錬場には、すでにアトリも到着していた。

その手には彼女の武器であろう薙刀が握られている。

柄はアトリの身長と同じくらいで、刀身は30~40センチ程の長さだ。

 

そして一方のサクヤの武器を見た陽介はつぶやいた。

 

「なるほど、まさに"かま"いたち、ですね」

 

その両手には、少し柄の長い鎌。その2本の鎌に施された細工が、それらが農業用ではなく"武器"だということを示している。

 

武器を使った鍛錬。まずは素振りからだろうかと陽介が考えていると、

 

「では、まずは陽介さん。手合わせお願いできますか?」

 

「…え?」

 

いきなりの手合わせ。それは陽介を動揺させるのに十分な展開だった。

 

「いえ、あの…、僕は真剣を扱うのは初めてで――」

 

「それは知っていますよ。聞きましたから」

 

ではなぜ?という陽介の疑問を察したサクヤは、続けてそれに答えた。

 

「課題の期限は半月。基礎体力に続けて武器の扱いの基礎までやっていては間に合いません。武器に関しては、体で覚えてもらいます」

 

アトリが旅に出るのを反対して課題を出したというのに、半月という期限に間に合うためのスケジュールを考えてくれるサクヤ。

その心境は複雑なものなのだろう。

陽介はそれに"気づいていない"ことにした。

アトリが旅に出ると言った理由は両親に会うためだが、原因は自分にある。

 

北へ向かうことを諦めるつもりはない。

アトリに残るように説得する気もない。

アトリの思いは本物だから。

 

だから今は、強くなろう。

サクヤに認めてもらえるように。

サクヤの不安を、少しでも取り除けるように。

 

「分かりました」

 

風斬を握る陽介の手に、力が入った。

 

―――

 

向かい合う陽介とサクヤ。アトリは離れたところでその様子を見ている。

サクヤは鎌を手にして立ったまま、構える様子はない。

 

「そちらから攻撃してきて構いません」

 

その余裕も当然のもの。陽介もいきなりサクヤに勝てるとは全く思っていない。

しかし、陽介にも意地はある。

たとえ勝てなくとも、その中で何かを見出す。

それが強くなることに、つながるはずだから。

 

竹刀のようにすんなりとは上がらない風斬を構え、陽介は息を整える。

初めての真剣、そこに技を仕込むことなどできない。

ならば、ただまっすぐに斬りかかるしかない。

 

陽介はその一歩を踏み出す。サクヤを見失わないよう、しっかりと前を見て。

風斬を振り上げ、陽介はサクヤへと斬りかかる。

 

しかし風斬は、空を切る。

 

防がれるか、流されるか、それとも避けられるか。

サクヤの姿をしっかりと見ていた陽介は、サクヤがそのどれで対処してくるのか分からなかった。

 

しかし答えはすべて不正解。

サクヤは陽介の攻撃を確かに"避けた"が、それは陽介の考えていた"避ける"とは大きく違った。

陽介からすれば、サクヤは"消えた"のだ。視界の外へと。

 

――― 陽介の、背後へと。

 

「ここまでですね」

 

サクヤの鎌は陽介の首に突きつけられていた。

もう1つの鎌は、陽介が振り下ろした風斬を上から押さえている。

 

陽介は、今の戦いで何かを得られたのだろうか。

しっかりと見ていたはずのサクヤは見失った。

攻撃は避けられるどころか、逆に武器を押さえられる始末。

 

いったい何ができた? ―― 何もできなかった。

 

しかし、そこでは終わらなかった。

陽介は自分の中にあるくやしさを実感していた。

圧倒的なその実力差。負けることににも勝る、何もできないというくやしさ。

 

「ありがとうございました」

 

何もできないことで、大きなものを、陽介は得た。

 

――― 『死んでしまいますよ?』

 

サクヤに言われたその言葉を、陽介は改めて受け止めた。


 
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