No.698960

欠陥異端者 by.IS 第十七話(ひと夏)part2

rzthooさん

・・・

2014-07-06 21:01:45 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:970   閲覧ユーザー数:940

【前回のあらすじ】

 

夏休みに突入したある日。

寮でただ呑気に過ごしていた零は、一夏のお誘いにより織斑邸に招かれた。

そこに、一夏のハートを掴もうと奮闘しているいつもの五人がやってくる。

アフェーな立場となった零は、何とか織斑邸から脱出し、IS学園に戻った────そして、寮部屋に戻ってみれば、

 

 

 

 

楯無「おっかりなさ~い!」

 

零「・・・何故、部屋にいるんです?」

 

しかも、裸エプロンで─────裸エプロンっ!?!?

 

零「なんちゅう恰好してんだぁ!?」

 

楯無「いやんっ♪ そんな大声出しちゃ、人が来ちゃうぞ♪」

 

零「出てけ」

 

一応、相手は先輩といえど、ここまで人をからかう人だったとは。

即刻追い出してやる。

 

楯無「もう先輩にそんな口をきいちゃ駄目よ。でも、そんな落合君もいいなぁ~」

 

零「うっ・・・」

 

エプロンのフリルを揺らすようにクネクネと身をよじらせて、一歩、一歩と私に近づいてくる。

やっぱり美人だ─────いやいやいやいやいや! 今日は騙されない。この人のやる事言う事は、全部、からかう為だけにあるんだ。

口調が荒くなっている今こそ、完膚なきまでに拒絶してやる!

 

零「い、いいから出てけ」

 

楯無「え~~」

 

心底嫌そうに顔を歪めたお嬢様────いや、もういっそ会長と呼んでしまおう────会長はさらに私に近づく。

最終的には、エプロンから盛り上がっている胸が胸板に押し付けられた。

 

零「・・・ワザと、でしょ?」

 

楯無「何が♪」

 

絶対、からかってるなこの人・・・駄目だ、何か言う度にドツボにはまっていく気がする。

だったらもう逃げるしか─────と画策していたら、会長は私の腕ごと抱きしめてきた。

 

楯無「ダ~メ」

 

零[ドキッ]

 

心臓が飛び出しそうなほど驚いたが、鍵がカチャッとロックされる音で冷静を取り戻す。

だが、完璧に密着されたこの状況で、常時平静を保つことが出来ず、つい胸板に押し付けられた双丘に目がいく。

これでもかってぐらいに胸の谷間が強調されて、目を逸らしたい・・・が、自分の意思で視線を逸らす事を否定される。

気がどうにかなってしまいそうだったので、いっそ観察してやろうとじっと見つめる・・・と、エプロンと素肌の間に水色の布生地が見えた。

 

零「・・・水着?」

 

楯無「あら、バレちゃった」

 

ペロッと舌を出す仕草も、憎たらしいのか可愛らしいのか自分でも分からなくなってきた。

ただ、この人は面白くなるためなら、何でもしそうだ。つまり私で遊んでいるだな・・・。

 

零「・・・」

 

楯無「もう怖い顔しないでよ。今日は用があってきたのに」

 

零「用?」

 

パッと私から離れた会長は、どっから取り出しのか不明の扇で口元を隠す。そこには「緊急」と書かれている。

表情は笑ってはいるが、先ほどまでの軽さが消え、真面目さが漂っているように感じ取った。

 

楯無「今から来てほしいところがあるの。結構、大事な話」

 

零「・・・」

 

嘘は・・・言ってなさそうだ。これが嘘なら絶対ぶん殴る。

 

零「分かりました」

 

楯無「じゃ、ついてきて」

 

零「って、その恰好のままで?」

 

楯無「だって、暑いんだも~ん」

 

零「・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まず連れてこられたのは、学園内にある庭園。花だけでなく、桜、イチョウの木なども植えられていて、季節ごとに美しい風景が現れる。

今は青々とした新緑が、夏の日差しを遮っている。いずれ秋になれば、この風景が多彩な情景になるのだろう。

 

零「で、結局、着替えたんですね」

 

楯無「まっ、暑いと言っても私だって羞恥心はわきまえてるわよ・・・あっ、あの方よ」

 

会長が指差す先には、木の剪定(せんてい)をしている事務員がいた。

年配な方だが、手際が良い仕事をしている。姿勢もよく、気品さえも感じされられる。

 

楯無「轡木学園長、連れてきました」

 

轡木「ん? ああ、楯無君か。ありがとう」

 

学園長? 確か、IS学園の学園長は女の方だったはず・・・。

 

轡木「こうして直接会うのは初めてだね。私は轡木十蔵。詳しい自己紹介は、場所を変えてからでいいかな?」

 

零「かまいませんが・・・あっ、落合零です」

 

轡木「うんうん。自分から挨拶が出来るのは立派だ・・・さっ、行こう」

 

梯子をかかえ剪定バサミを持ち、私達は学園長?の後についていく。

 

零「何者なんですか?」

 

楯無「焦らなくても、今に分かるわ」

 

連れてこられたのは、校舎の最上階にある学園長室。

てっきり立派な門扉が待ち構えていると思っていたが、作りは至って普通だった。

中に入ると、ソファー、机などがドラマでよく見る社長室の配置と酷似している。

私達はソファーまで促され、会長と一緒に腰を下ろし、前のソファーに学園長が座った。

 

轡木「ん~、話す事がかなりあるのだが、まずは私の自己紹介からしよう。

   先ほども言ったように、私は轡木十蔵。学園長・・・といっても、表向きとしては私の妻が学園長なのだが」

 

零「表、向き・・・?」

 

轡木「色々と事情はあるのだけど、詳しくは聞かないでおくれ。企業秘密というものだ」

 

零「は、はぁ・・・」

 

轡木「次は・・・楯無君。これは君から話してくれますか?」

 

楯無「分かりました」

 

零「・・・」

 

会長は席を立って学園長が座るソファーまで移動する。そして立ったまま私を見据えて口を開く。

 

楯無「落合君は、"更識家"についてどれくらい知ってる?」

 

零「契約書に同封された資料の内容だけです・・・あと、常に黒服さんが隠れて待機しているぐらい」

 

更識家に行った初日、簪お嬢様に不審者と勘違いされて取り押さえられた・・・もう過ぎた事だけど、二度とあんな目に遭いたくない。

 

楯無「そうよね・・・実は、私達の家系は特殊なの」

 

対暗部用暗部「更識家」・・・そして「楯無」と名乗る者こそその当主。

つまり会長は当主・・・。

 

楯無「昔は"忍者"とも言われていてね。日本古来からの名家の一つ。今でも命を受けて世界のありとあらゆる場所へ─────」

 

零「ちょっと待って下さい。正直、話についていけません」

 

楯無「なによー、お姉さんの言う事信じないの?」

 

零「そうじゃありません。真実か嘘かなんて、私に分かるわけがないじゃないですか」

 

ここにいる学園長が、本当はただの用務員でからかうためだけに連れられてきた場合もあるにはある。

私が疑問に思ってる事は、

 

零「何で、そんな事を私に話すんですか? 私はISは使えど、それ以外は何も突出したところなんてありません」

 

轡木「本当にそうかね?」

 

そこに学園長が割って出た。声につられて視線を学園長にやる。

学園長の眼はしっかりと私を捉えており、逸らすことが出来ない。その眼に迷いがない・・・この人、"知ってるな"。

 

零「見せませんよ」

 

轡木「かまわない。しかし、私としては君の身柄を正式に更識家へ任せようと思っている────いや、内閣も委員会もそれを推薦している」

 

零「そこまで・・・じゃあ、一夏さんも?」

 

楯無「勿論、織斑一夏君も護衛対象よ。でも落合君ほど徹底していない・・・この徹底ぶり、何でか分かる?」

 

零「・・・結局、"これ"なのか?」

 

左目を隠す眼帯を指先で擦る。

 

轡木「君にとっては不愉快極まりない事だと思う。しかし、日本という国がこれからも平和であり続けるため、君には我慢してもらいたい」

 

零「だから、企業秘密をベラベラと私に話すのか・・・ふざけないでくださいよ。だったら、この目玉くり抜いてくれよ」

 

轡木「・・・」

楯無「・・・」

 

零「冗談です。そんなこと出来ません」

 

どんなに辛いことがあっても、どんなに理不尽な出来事が襲ってきても、自分の体の一部を排除するのはそれなりの覚悟がいる。

私にはそれが未だにない。

 

零「"男がISを使えるように、人間改造が行われている"と、思われたくない訳ですね」

 

轡木「君のそれが生まれつきだというのは知っている。しかし、君や織斑一夏君のような不安定な立場にいる存在は、たった一つの綻びから危険人物として認識されてしまう」

 

零「そんなの分かってます。結論から言ってください。私にどうしてほしいと?」

 

楯無「私の門家に入ってもらうわ」

 

一枚のA4用紙を机に滑らせ、私の方に差し出す。タイトルには「同意書」と書かれていた。

 

零「正式に『更識家』の人間になれば、家系の秘密を知っていても問題はない、か・・・分かりました。同意します」

 

制服の胸ポケットからボールペンを取り出し、記入欄に自分の名前を書く。

すると、目の前の二人はスッキリした表情で、先ほどまでの張り詰めていた声色が途端、優しくなった。

 

轡木「本当に、君には申し訳ない。ただこれだけは分かってほしい。私達は君の味方だ」

 

零「・・・そうですか」

 

何が味方か・・・。

 

轡木「楯無君、ご苦労だった。これからもよろしく頼む」

 

楯無「はい。じゃあ、戻りましょうか」

 

零「はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

楯無「まっ、こんな事になったけど、これからよろしくね」

 

零「まぁ、はい・・・」

 

楯無「不服?」

 

零「不服と言うより不安です。もう自分の事が、こんなにも問題をばら撒いているなんて」

 

楯無「そういうものよ。私だって────でも、その中でも必死で生きていかないと。死ぬわよ」

 

零「はい・・・その前に」

 

楯無「うん?」

 

零「何で、部屋に戻ると、またエプロン姿なってんですか!?」

 

 

轡木「・・・落合零君か。お父さん似かな?」

 

轡木は、まだ日が高い空を学園長室の窓から眺め、一人ぼそっと呟く。

感傷に浸っていると、作業着のポケットに入れていた携帯からバイブ音が鳴った。

 

轡木「轡木です───ああ、君か。さっき落合零君と会ったよ。うん・・・うん、とても良い子さ。それを私達大人が守らないと────」

 

 

零「お願いします。出ていってください」

 

楯無「ぶ~!」

 

あれから1時間経っても、会長はエプロン姿のままベットにうつ伏せで倒れこんだまま動かない。

しかも、足をバタつかせてまるで駄々っ子・・・さっきまで大層な事を話していた人とは思えないな。

 

零「・・・はぁ」

 

無理やり追放しようとすればまた面倒になりそうだ・・・「きゃー」とか言って、今よりゴタゴタになるに違いない。

もう諦めて、茶を飲もう。

 

楯無「あっ、私にも一杯ちょーだーい!」

 

零「・・・分かりました」

 

寮室に備え付けられた小型冷蔵庫から、ペットボトルの烏龍茶を取り出し、会長の分のコップに入れる。

私はボトルのまま飲むため、コップに入れなかった。

「ありがと~!」と呑気にコップを受け取った会長は、ちびちびとお茶飲む。私は対照的に1/4残ったお茶を一気に飲み干した。

 

楯無「おお~、さすが男の子!」

 

またもや登場した扇には「豪快」と書かれている・・・何、複数個持っているのか?

変なところで力を入れる人だ・・・。

 

零「ふぅ~・・・それで、何時になったら出ていくんですか?」

 

さすがにこの場を一夏さんに見られるのは気が引ける。

 

楯無「え~そんなに出ていってほしいの・・・あっ、ならこういうのはどう?」

 

うつ伏せになっていた態勢を仰向けに変える。胸元とかその他色々が目に飛び込んできたので、咄嗟に目を逸らした。

 

零「こ、こういうの?」

 

楯無「落合君が私を追い出したいのは、私しか楽しんでないからだよね?」

 

まぁ・・・間違ってはいない。

こっちは迷惑しているのに、会長はその迷惑を楽しんでいる。

 

楯無「だから、私がここに居座る代わりに、落合君が望むこと何でもしてあげる・・・例えば」

 

チラッとエプロンをめくる。それは、あの・・・そういう事なのだろう。

しかも、太ももを擦り合わせて色気がムンムンと漂って、くる。

 

零「さっさと出ていく事が私の望みです」

 

楯無「もぉ~つまらないわね~」

 

出来るだけ冷静に、沈着に、落ち着いた口調を心がけたおかげか、ついに重い腰を起こした会長は出口に向かう。

 

零「こういう真似しない方がいいですよ。羞恥心あるってさっき言ってましたよね?」

 

楯無「別に、落合君だからしているだけよ」

 

零「・・・また、信用している、とか言うんですか?」

 

楯無「ビンゴ♪ じゃ、また近い内に会えると思うから、またね」

 

手を軽く振って寮室を出てっていくと、どっと疲れが出てきてベットに倒れこんだ。

さっきまで会長が寝転んでいたからか、シーツが生暖かい。そう感じた途端、胸が異常に高鳴った。

 

零「な、何だ・・・!?」

 

すぐさま起き上がって、ドクドクドクっと脈打つ胸に手を重ねる。

 

零「・・・いや、そんな訳────ってか、"俺"が嫌だ。あんな人たらしを・・・」

 

それ以上は口に出さなかった。

とりあえず、何かでこの気持ちを紛らわしたくなり、ベット脇に置いておいたIS関連の参考書に手を伸ばした。

 

 

【一夏SIDE】

 

一夏「みんな急げ! 門限に間に合わないぞ!」

 

鈴音「んな事は全員分かってるっつうの!」

 

俺達六人は夏の夜の中、IS学園に向かって走る・・・走り続ける。間に合わなかったら、殺される!

しかしまぁ、走り続けて10分は経つが、さすが代表候補性・・・五人とも息を切らしていない。冷や汗はかいているけど。

それからまた5分走り続けると、学園に向かうロープウェイが見えてきたので、すぐさま乗り込んだ。

 

セシリア「ふぅ、何とか間に合いましたわね」

 

シャルロット「うん・・・でも、楽しかったね。夕食会」

 

箒「確かにな」

 

ラウラ「嫁と教官の衣食住についても情報が取れたことも、大きな収穫だ」

 

一夏「いや~、でも間に合ってよかった。間に合わなかったら、あの手癖の悪い鬼教官に─────」

 

千冬「ほぉ、お前が私に対してどう思っているのかが分かったよ」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

一夏「あれぇ~? 何で、織斑先生と山田先生がここにいらっしゃるので?」

 

ゼンマイ機械のようなギギッと擬音を鳴らしながら振り向くと、そこに壁に背中を預け腕を組む千冬と、苦笑いしている山田先生がいた。

 

千冬「山田君と一緒に飲みに行っていてな・・・そうか、お前にとって私はすぐに手が出てガサツで生活能力ゼロな姉だったのだな」

 

一夏「そこまで言ってなくね?」

 

鈴音(ってか、自分で墓穴を掘ってない?)

 

一夏(事実だけど)

 

[ゴチンッ!]

 

目にも止まらない鉄拳が頭部に直撃。さ、さすが千冬姉だ・・・心を読むなんて、お手の物。

 

千冬「さて、就寝時間までまだ時間があるな? なぁ、織斑?」

 

一夏「はい・・・ございます」

 

これで、俺の地獄行きが決定した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一夏「あー、もうダメ・・・」

 

俺の身柄が解放されたのは、それから1時間後の事だった。

就寝時間ギリギリまで竹刀でしばかれ、俺のライフポイントはゼロ・・・こりゃ、明日は一日中、ベットの上だな。

 

一夏「ん?」

 

ふらふらと寮部屋に向かっていると、俺と零の部屋の前に立ち尽くす女生徒がいた。

 

一夏「何か用か?」

 

簪「っ・・・!」

 

迷っている様子だったので声をかけると、バッとこちらに顔を向けられ────睨まれた。何で?

疑問に思っている内に女生徒は走り出していた。

 

一夏「ちょっと待て!」

 

声をかけても彼女は止まることなく、姿が見えなくなった。睨みの原因が分からずじまいで、胸がなんかムカムカする。

 

一夏(何だってんだ?・・・あ~、もう考えるのも疲れた・・・)

 

またどっと疲れが乗し掛かってきて、思考を停止して部屋に戻る。

 

零「ぐぅ・・・ぐぅ・・・zzz」

 

部屋の電気はつけたまま。しかし、同居人は既に寝入っていた。

恰好は俺の家に来た時と同じままで、ベットの上で大の字になっている。胸元には、寝る直前まで読んでいたであろう分厚い参考書が置かれていた。

そんな姿を見ていると眠気が一気に襲ってきて、俺も着替えもせず、ベットの上で大の字になる。

 

  [ボフッ]

一夏「・・・おはすzzz・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こんな日が長く、永遠に続けばいいと思った。

私が思っていた以上に、IS学園の日常はスリルがあり、楽しさもあり、愉快な気持ちにさせてくれる。

ここに自分の居場所があると思わせてくれる。

 

?「なら条件がある。我が祖国の────になりたまえ。そうすれば、これ以上の手出しはよそう」

 

だけど、幸せっていうのは永遠には続かないのだ。

"月はむら雲 花は風"・・・名月を雲が隠し、美しい花を風が散らしてしまう。

良いものには邪魔が付きものなのだ。

 

零「・・・」

 

?「さぁ、どうする? 私とて気が長いわけではない。さっさと決めたまえ」

 

人の技量や器量は、邪魔が入った時に測られる。

強い人間は、それからめげずただ前を向いて立ち向かっていく。

たとえ、自分を犠牲にしてでも。たとえ、その選択が辛い結果を招く事でも。

 

零「・・・分かりました」

 

たとえ、みんなが悲しい思いをしても、それを受け止める覚悟があるのであれば、その選択は間違っていない。

そう・・・思いたい。


 
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