No.692593

真・恋姫†無双 想伝 ~魏†残想~ 其ノ三十

早めの投稿って大事だよね!

とはいえ、今回はちょっと刻もうかと思っただけだったり。

陳留篇はちょいちょい刻んでいくかもしれません。

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2014-06-08 20:09:49 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:6942   閲覧ユーザー数:5354

 

 

 

【 黒山賊 】

 

 

 

 

 

 

「さて、色々と確かめなければいけないことがあるわ」

 

 

机の、所謂上座の位置にある椅子に腰掛けた華琳は顔の前に組んだ両手越しにそう口火を切った。

 

せいぜい六人程度しか座れない机ではあるが、これがこの村で一番大きな机だと言うのだから仕方ない。村長に頭を下げ、机と、ついでに村長の家も借り受けて、この小さな会議は開かれていた。

 

参加者は六人。

華琳、李通、楓、夏候惇、夏侯淵、魏延。

 

もっとも、厳密に言えば参加者は七人。

最後の一人である璃々は楓の膝の上にちょこんと行儀よく座っていた。

 

 

「――その前に夏候惇、悪いわね。本来なら討伐隊の隊長を任されている貴女がここに座るべきなのに」

 

 

言って、華琳は軽く頭を下げる。

 

 

「いや、私はどうもこういうことは苦手でな。気にするな」

 

「ええ、そうね。気にしないことにするわ」

 

「……?」

 

 

一瞬。華琳の視線が冷たさを帯びていた気がして、焔耶は目を凝らす。しかし瞬きした間にそれは消えてしまった。

 

 

「まずは李通、公達。お疲れ様。損害は?」

 

「は。数人が村人を護るために傷を負いましたが、命に別状はないかと。死者はありません」

 

「村の損害っていう意味だと食料が主だねー。あとは布とか服とかだけど、どっちも何だかんだで少数かな」

 

 

李通が人的被害を、楓が物的被害を淡々と報告する。

その報告を聞き、少し何かを考えていた華琳だったが、何かに納得するように一度頷いた後、魏延に視線を移した。

 

 

「焔耶。貴女の眼から見てあの賊はどう映ったかしら」

 

「え? わ、私ですか?」

 

 

自分に話が振られるとは思っていなかったのだろう。

焔耶は自分のことを指差し、確認を取る。そんな焔耶の仕草にくすりと笑みを零しながらも華琳は頷き肯定の意を示した。

 

 

「何でもいいわよ。とにかく貴女があの賊に対して思ったことを言ってもらえるかしら」

 

「は、はい。……なんというか変、でした」

 

 

具体的でも無く、また抽象的かと言われればそうでもない。いわばただの感覚から来た感想。ただ今回、それは的を射ている感想だった。

 

 

「変、とは?」

 

「奴等は確かに略奪をしていました。けれど、村の者達には手を出していな――いや、出していないわけではなかったか。一部の賊は村の者を標的にしていたと思います、華琳様」

 

「ふふ、魏延殿はお嬢様の前だと実にしおらしいですね」

 

「ホントだよねー。借りて来た猫みたい」

 

「ひゃうっ!」

 

 

楓が言いながら背中をスッと撫でると、あられもない声が焔耶の口から零れ出る。

どうやらその声が楓の悪戯心を刺激したらしく、手をうねうねとさせながら再度撫でようとし――

 

 

「止めておきなさい、公達」

 

 

――すんでのところで華琳の呆れたような声に阻まれた。

 

焔耶の背に伸ばし掛けていた手を離した楓は、やれやれというふうに頭を振り、肩を竦めた。

 

 

 

「民に手を出す賊と略奪だけしか行わない賊、ね。単純にこれは組織の肥大化が起こした弊害と見ていいかしら」

 

「そうだね。華琳みたいに軍規――ああ違った。隊規を厳格に護らせるならそんなこともないんだろうけど。相手はあくまでも正規軍じゃない賊軍。最初は統率が取れてたとしても、規模が大きくなれば徐々に末端にまで手が回らなくなるよ」

 

「夏候惇。貴女の意見も聞きたいのだけれど、いいかしら?」

 

「む?」

 

 

あまり話の流れを理解していなかった夏候惇は首を傾げて華琳のことを見る。その隣では夏侯淵が微妙な表情で溜息を吐いていた。

 

 

「姉者。以前と最近で賊軍になにか変化はあったか、と言う話だ」

 

「むぅ……数が増えたくらいしか思いつかないが」

 

「まあ、難しいことはいいんじゃない? 賊なら討伐すればいいだけだし」

 

 

軽い調子で楓はそう口にする。

 

 

「公達。なにか策でもあるの?」

 

「んー? 効率だけを考えるなら、奴等が籠ってる山――というか森に火を掛けるとか」

 

 

楓は何の気なしに物騒なことを口走る。

だがその表情はどこか真面目で。少なくとも冗談を言っているふうではなかった。

 

 

「本気?」

 

「華琳。お忘れかもしれないけど私は軍師だよ? これはあくまでも考えうる策の一つ。簡単で効率もいいしね。もちろん、敵方の被害と森を焼いたことによる資源の減少とかを差し引けば。まあでも、止めておいた方がいいだろうねー。近くの森を焼いたんじゃ村の人の心象も悪いだろうし。何より――」

 

 

一旦言葉を切り、楓は首を傾けて、自分に向けられている敵意に近い何かの源に目を向けた。

 

 

「――夏候惇ちゃんに殺されたくないしね」

 

 

半笑いでそう口にした楓の視線の先には、無言で睨みを利かす夏候惇。

しばし視線と視線を交錯させていた二人。先に視線を外したのは楓の方だった。

 

 

「ま、他にやり方はいくらでもあるしね。私のしょうもない案は却下してくれていいよー、華琳」

 

「ええ、そうするわ。他には何かある?」

 

 

華琳の問い掛けにス、と手を挙げたのは李通。華琳は顎をしゃくって先を促した。

 

 

「現状では一将に十数人の兵を預け、それぞれの配置で村の防衛に努めるのが良策かと」

 

「兵の数が増えたのに後手に回れと言うことか?」

 

 

夏候惇の若干不満げな声に、李通は変わらず微笑を浮かべて首を横に振る。

 

 

「あくまでも今は、です。取り敢えず、防衛体制を整えておかなければゆっくりと協議も出来ません。それと、彼ら黒山賊との戦経験を踏まえた上で夏候惇様には色々なことをお聞きしたい。敵の出現頻度、出現位置、統率力、武力など。今後に繋がる材料はいくらでも夏候惇様の頭の中に眠っていると思いますから」

 

「そうは言われてもな、李通殿。妹の私が言うのもなんだが、姉者の記憶力は然程良くないぞ?」

 

「しゅ、しゅうらぁん……」

 

 

妹の発言(無意識)により半泣きとはいかないまでも情けない顔になる夏候惇。

そのやり取りを、何か懐かしいものを見ているかのような表情で華琳は眺めていた。

 

 

「ええ、なんとなく分かります。ですが一度見たこと、覚えたことは人間忘れ難いものです。これにはもちろん、夏侯淵殿も協力していただきますが、よろしいですか」

 

「ああ、私は構わない。姉者も、いいな?」

 

「秋蘭がそう言うなら、構わないが……」

 

「では隊の編成を迅速に終えた後、情報の吟味と参りましょう。お二方、よろしくお願いします」

 

 

何か言いたそうな夏候惇の言葉を遮るような形で、李通は軽い会釈と共に話を終わらせるのだった。

 

 

「さてさて、取り敢えずは隊の編成かあ。焔耶ちゃんはあそこで、その隣には紫苑か桔梗がいないと歯止め役が……ぶつぶつ」

 

 

先刻自分で口にした通り、軍師らしく隊の編成と配置を考え始めた楓。

それ以外は誰も言葉を発さない。それが少し居心地悪かったのか、焔耶はふと思いついたことを口に出す。

 

 

「そういえばお館はどこですか、華琳様」

 

「一刀なら釣りに行ったわよ」

 

「ああ、釣りですか……釣り?」

 

 

一瞬納得しかけたものの、華琳が口にした単語に焔耶は疑問符を浮かべた。

華琳が何気なく視線を移すと、夏候惇と夏侯淵も同じような反応をしているのが目に入った。

 

まったく動じていないのは思考に耽っている楓と、ただ微笑を浮かべて事態を見守っている李通の二人だけ。とはいえ楓は『ああ、はいはい』という感じだろうし、李通に至っては何となく事情を察しているので動じていないというだけなのだが。

 

 

「さっき村長に聞いたのよ。村の北の方に穴場があるらしくてね。略奪を受けた村の食糧事情を鑑みても、ある程度は自給自足が必要でしょう?」

 

「む? 確かその……一刀というやつはお前たちの長ではなかったか?」

 

 

夏候惇のその発言に何か思うところでもあったのだろう。華琳はくすりと笑う。

 

 

「ええ、それが?」

 

「吉利殿。長である一刀殿にそういうことを任せるのは如何かと思うのですが……」

 

「本人がそうしたいと言っているのだから好きにやらせるべきよ、夏侯淵。それに」

 

 

一度言葉を切った華琳の顔から笑みが消え、どこか遠くを見るような表情に変わる。

 

 

「今回に限っては、止めても無駄でしょうしね。あの娘達の一番近くにいたのは一刀だもの。……でもだからと言って」

 

 

視線を落とし、自分の膝の上に乗っている物を見て、華琳は溜息を吐いた。

 

 

「刀を置いていくことはないでしょう、一刀」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

村の北。

鬱蒼と生い茂る森の中。その一角にそれはあった。

 

元は小さな砦だったのだろうが、年月と共に朽ち果て、今では防衛能力など皆無に等しいだろう。

 

木で作られているが故に壁や柱には苔が茂っていて、それが一種の迷彩効果のようになっていた。

 

外壁と同じように朽ち果てた内部。そこには三人の少女がいた。

 

 

「凪、大丈夫なんか?」

 

「ああ、いつものことだ。この程度の傷……うっ」

 

紫色の髪をした少女が掛けた労りの声に応え、大事無いことをアピールしようとした銀髪の少女――凪の顔が苦痛に歪む。

 

 

「凪ちゃん、座ってなくちゃ駄目なの~!」

 

 

慌てて傍に寄るのは橙色の髪を三つ編みで一本に纏めた少女。

 

 

「あ、ああ。すまない」

 

「沙和の言う通りやで。人は仰山おるんやから、凪だけが無理する必要あらへん」

 

「真桜ちゃん、たまには良いこと言うのー」

 

「たまにってなんや! ウチがいつもはしょうもないことばっか言うてるみたいやんか」

 

 

紫色の髪をした少女――真桜と、橙色の髪をした少女――沙和が目の前で繰り広げる軽いコントのような会話に、凪は人知れず笑みを漏らす。

 

三人でいるこの時だけが、今の凪にとっての安息だった。

 

 

「……」

 

 

ふと凪は眼を落とす。そこにあるのは傷だらけの自分の身体。古い傷から新しい傷まで様々だ。

 

護ったことに後悔なんて無い。

この傷が、護った末にあるものならばそれを受け入れる。そう決めたのはいつの頃からだったか。

 

それでも護れなかったものはたくさんある。護りきれていないものはたくさんある。

 

徐々に増えていく味方。近隣の村々の民や、噂を聞いてきた賊の成れの果てのような者達。

人数が増えていくにつれ統率を取りきれなくなっていることを、凪は自覚していた。でもだからと言って、頼ってきた者達を無下には出来ない。

 

なんとか出来ないか。

 

 

「凪!」

 

 

そんな明確でない思考は、意識の外から掛けられた大きな声によって容易く遮られた。

 

俯いていた顔を上げればそこには二つの球体。

それが真桜の胸であるということを認識するまでに凪の頭は多少の時間を要した。

 

 

――女であることの象徴のようなそれが、少し羨ましかったりもする。

 

 

「なんだ、真桜」

 

「なんだ、やあらへんて。話聞いとった?」

 

「いや、すまない。少し呆けていた」

 

「凪ちゃん少しは休んだ方が良いのー」

 

「大丈夫だ、沙和。それで真桜、話とは?」

 

「村の連中からの報告や。どうやら敵さん、援軍呼んだみたいやな」

 

「援軍?」

 

「まあ、援軍いうても百かそこららしいけどな。今回、いつもより被害が大きかったのはそのせいらしいわ」

 

「肩とか足とか、矢で射ぬかれてた人もいたの~。多分、弓がすっごい上手い人がいるの~」

 

「そうか。……ますます厳しい戦いになるな」

 

「まったく、嫌な場所に駐留してくれたもんやで。村を通り過ぎるだけなら簡単やのに、そうさせてくれへんからな。あの姉さん」

 

 

真桜の表情が先刻の戦いを思い出して渋いものへと変わる。

沙和に至っては、自分で口にした肩云々足云々の話を思い出していたのか、若干青ざめた顔でぷるぷると首を振っていた。

 

 

「しかも最後に飛んで来た矢。あれ完璧にウチの顔狙ってたで。顔やで、顔!いたいけな少女になにするっちゅうねん!」

 

「いたいけな女の子は回る槍を振り回したりしないと思うの~」

 

「そんなん沙和かて同じやろ。あ、そや。沙和さっき剣折られてへんかった?」

 

「そうなの~! あの怖いお姉さんに叩き折られちゃったの~!」

 

「ああーはいはい。怖かったんやなー」

 

 

剣を折られたショックとその時の恐怖を思い出し、半泣きになった沙和をどこか投げやりに慰める真桜。

 

 

「時間があれば元に戻せなくはないんやけど、今はこれで我慢してえな」

 

 

言って、真桜は新しい二振りの剣を渡す。

 

 

「真桜ちゃん、ありがとうなの~!」

 

「気にせんでええて。凪も手甲出しとき。ウチが綺麗に――」

 

 

言い掛けた真桜の台詞が止まる。

沙和から凪へと視線を移しながらの台詞が途中で止まった原因はひとつ。

 

 

「……はあ、またかい」

 

 

さっきまで座っていたはずの場所に、凪がいなかったから。

真桜は溜息を吐きながら、凪が座っていた椅子にドカリと腰掛ける。

 

 

「凪ちゃん、最近ちょっと無理し過ぎなの~」

 

「最近やあらへん。凪はいっつもや」

 

 

一言も告げず、一時的に姿を消した仲間のことを思って、真桜は呟く。

 

 

「……そんで、無理させてる原因のひとつはウチらなんやから、まったく救いようあらへんで」

 

 

 

 

 

 

 

 

森の中を歩いていた。

遥か後ろから少し、喧騒が聞こえてくる。

 

多分、大勢いる味方が騒いでいるのだろう。

 

真桜、沙和と村を出た時。まだ規模は小さかった。二十人くらいだったと思う。

それから志を同じくする人達が加わって、徐々に規模は大きくなっていった。百人くらいに。

 

 

今は約五百人。

その頃から比べれば五倍もの人数がいる。

 

だというのに、ままならない。

上手くいかない。私が指揮をしているからかもしれない。

 

でもその責任を投げ出すわけにはいかない。

その責任を真桜や沙和や、他の人間に押し付けるわけにはいかない。

 

考えが煮詰まった時、私は砦を離れる。一人になりたくて。考える時間が欲しくて。

 

砦にいるとどうしても、三人で他愛ない話をしてしまう。

それが嫌なわけじゃない。むしろそんな時間がたくさん欲しい。いつまでも続いてほしい。

 

だから、私は考える。

どうすれば状況を打開できるのか。最善とはなんなのか。最良とはなんなのか。

 

 

「……」

 

 

考えが煮詰まったから気分転換にと砦を離れたのに、結果としてまた煮詰まる。その繰り返し。私はどうすればいいのだろう。

 

 

ガサリ、という音を立てて歩みを遮る葉を横に除ける。

その先は池。上流から流れる川の途中にある小さな池。いつもと変わらない風景――ではなかった。

 

 

人がいた。先客がいた。

白くて裾の長い服を着て、少し暑いからか袖を捲っている。

 

その人は有り体に言って、釣りをしていた。

 

 

 

 

「フィィィイッシュ!!!!!」

 

 

 

 

その人は嬉々とした表情で、高らかに声を上げ、魚を釣り上げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

<あとがき>

 

 

 

分かる人には分かるネタで引いてみました。

分かる人には分かるタグもつけてみました。誰得だよ!!

 

 

 


 
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