No.685931

仮面ライダーディケイド ~Road Of Precure~ 6話

rairai345さん

pixivで投降している作品です

スプラッシュスター編の後篇です

2014-05-11 18:42:48 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:2560   閲覧ユーザー数:2535

「そんな……」

「どうすればいいの……」

 

 ダークフォールとスーパーショッカーの一人、ドクトルG(ゲー)の罠によってパートナーであるフラッピとチョッピを奪われてしまった咲と舞。そのことによって変身能力を失ってしまった二人。士も不意打ちを喰らい、変身が解けてしまっている。

 

「邪魔をするな!」

「お前の好きにはさせない!」

 

 カメラモスキートを相手に、一人で戦うクウガ。だが、流石はドクトルGが生み出した怪人だけあって一筋縄ではいかない。その責めに体制が崩れた瞬間を、彼は見逃さない。

 

「貰ったっ!」

「―――超変身!」

 

 瞬間、クウガの鎧が変化する。赤い鎧から白銀に濃い紫の縁取りの鎧へと変化すると、崩れかけていた体勢にも関わらずに鋼鉄のごとく動きを止める。カメラモスキートが渾身の力を込めているのにも関わらずにその体は微塵も動かない。

 

「な、これが……!」

「うおおおおおおおお!」

 

 右手でカメラモスキートの頭部を掴むと、そのまま力任せに地面へと叩き付ける。タイタンフォームの圧倒的な力によって叩きつけられたことによって地面へとヒビが走り、地面が穿たれる。

 なんとか意識を手放さずに立ち上がるも、体には力が篭らずにふら付いている相手へと、クウガは瞬時に赤へと戻る。彼の意識に答えるように、右足へと力が篭る。

 

「たぁっ!!」

 

 渾身の力を持って叩きつけられた蹴りを喰らい、カメラモスキートへと紋章を叩き付ける。紋章が光を放ち、その光が彼のバックルに届いたとき、

 

「ば、馬鹿なぁああああ!」

 

 彼の体は爆破四散した。

 

「士! 咲ちゃん舞ちゃん! 無事か!」

「俺は無事だ! だが……」

 

 傷だらけの体にムチを打って、なんとか立ち上がる士。彼はそういって、二人へと視線を向ける。そこには、パートナーが消えた空間へを、ただ呆然と見つめている咲と舞の姿があった。

 

 

第6話「集え、星空の仲間達! ふたりはプリキュアSpalsh☆Star!」

「そんな、精霊が奪われたなんて……!」 

 

 夏海が驚きの声を上げる。戦いが終ったあと、彼女は倒れているところを発見された。どうやらカメラモスキートが変装するのに利用された程度で、それ以外には何もされてはいなかったようだ。

 とりあえず彼女の無事を確認した士たちは、咲の家でもあるPANPAKAPANへとやってきたのである。

 

「俺たちがそばにいながら……くそっ!」

「あいつらも面倒なことをしてくれたな」

 

 自分の不甲斐無さを感じ、湧き出た怒りを壁へとぶつけることしかできないユウスケと、彼ほど直情ではないものの、言葉に怒りを滲ませている士。

 一方で、咲と舞は無言で互いの顔を見つめあうと、決意を固めたように頷きあい、立ち上がる。

 

「咲ちゃん? 舞ちゃん?」

「どうするつもりだ」

 

 ユウスケと士の言葉に、咲は答える。

 

「探してきます。フラッピとチョッピを」

「無駄だ、ダークフォールがどういう存在かはわからないが、おそらくこの世界じゃないどこかに連れて行かれている」

「それでも、何か手がかりが見つかるはずです」

 

 咲の言葉を即座に否定する士、だがそれに舞が噛み付く。だが、あくまで士は冷静に言葉を返す。

 

「そう簡単に手がかりが見つかるほど、相手も甘くない」

「でも!」

 

 さらに噛み付こうとした咲であったが、

 

「咲ぃ~!」

「舞ぃ~!」

 

 二人の元へと、フープとムープが飛び出してきて抱きつく。驚く彼女達に顔を上げて、二人の妖精は涙を浮かべながら、

 

「フラッピとチョッピは大丈夫ムプ?」

「捕まった妖精はみんな消されてしまうププ……」

 

 そして、堪えきれなくなったのか、声を上げて泣き出す二人。何もいえない士たち。だが、

 

「私だって、泣きたいよ……!」

 

 咲の言葉が、その場に響いた。なくのをやめて、咲の顔を見つめるフープとムープに、彼女はただ静かに言う。

 

「一緒にいたのに、何もできなかった。自分が、情けないよ……!」

 

 果たして、彼女の気持ちを舞以外の誰が理解できるであろうか。目の前にいながら、大切なパートナーを奪われてしまったという事実が、彼女を責め立てる。見ていながらも、何もできなかったという悔しさが。

 瞳に端に零れた涙を拭いながら、それでも彼女は笑顔を作って答える。

 

「でもね、泣いててもフラッピやチョッピに会えるわけじゃない」

 

 そう、彼女達は知っている。大事な友達を守れなかった過去があるから。これと同じぐらい、それ以上の絶望を知っているから。それでも、立ち上がってきたから。

 

「だから、いま私たちにできることを精一杯やるの」

「希望を捨てたらいけないって、フィーリア王女も言っていたわ」

 

 妖精たちが奪われて、変身もできない、絶体絶命……それでも、彼女達は笑顔を浮かべる。目の前にいる大事な仲間を安心させるために。―――それは、きっと彼女達の強さ。

 

「みんなで一緒に助けに行こう! ムープとフープも手伝って!」

 

 浮かべられた笑顔に、ムープとフープの心も奮い立つ。それまで流していた涙を自らの手でふき取ると、彼女達に答えるように、

 

「フープとムープも!」

「フラッピとチョッピを!

「助けるムプ!」

「助けるププ!」

 

「うん! 一緒に頑張ろう!」

 

 彼女達が新しく決意を固めたとき、バイクのエンジン音が響く。振り返る咲たちの前には、

 

「行くんだろう? 早く乗れ」

 

 マシンディケイダーに乗った士と、トライチェイサーに乗ったユウスケ。そして、その二人を嬉しそうに見つめている夏海の姿。その姿に驚いている二人に、ぶっきらぼうに士は言う。

 

「みんなで一緒に助け出すんだろう?」

「俺たちも手を貸すよ!」

 

 その言葉に、瞳を潤ませる咲。瞳の端に涙を浮かべながら、力強く言う。

 

「ありがとうございます!」

 

 

「どういうことですか、アクダイカーン様!?」

 

 一方で、ダークフォールではミズシタターレがアクダイカーンの前で叫んでいた。その表情は驚きに塗り固められている。

 

「太陽の泉のありかを突き止めるのは、私の役目のはず! 何故ゴーちゃんなどを!」

 

 その彼女の言葉にたいして、アクダイカーンは冷たく言い放つ。

 

「お前が未だに結果を出せぬからだ」

 

 アクダイカーンの一言に、二の言葉が出せないミズシタターレ。確かに、彼女は太陽の泉のありかを見つけるのが任務であるのだが、太陽の在り処はようと知れないままだ。

 

「それにしても、憐れよのう」

「まったくだ。意気揚々と出撃してみれば、自分をダシに手柄を奪われるとはな」

「私ならば、怒りのあまりに発狂するだろうよ」

 

 そんな彼女を、ツバサ大僧正とキバ男爵が嘲る。その言葉に対しても体を震わせながらも耐えることしかできないミズシタターレ。身の内からあふれ出そうになっている激情を必死に押さえ込みながら。

 

「(この屈辱……ゴーちゃん!!)」

 

 この屈辱の根源の名前を、心の中で叫びながら。

 

 一方で、手柄を上げたゴーヤーンは、ダークフォールの自分の住処へと戻っていた。辺りが竹で覆われた湖の中央にある和風の小屋。これが、ゴーヤーンの私室とも呼べる場所だ。畳の敷き詰められた部屋で座布団に腰掛けながら、お茶を啜る。

 

「たまにはこうして息抜きしませんと、ストレスが溜まりますからねぇ」

「……ふ、よく言うものだ。えげつない真似をしておいて」

 

 その姿を、ドクトルGとヨロイ元帥が笑うように告げる。無理もない、確かに今の彼はお茶をすすりながらリラックスしているようにか見えないだろう。だが、その側らには黒い二つの玉が浮かんでいる。

 

「さぁ、いい加減に白状なさったらどうですか?」

 

 その玉は彼が生み出した攻撃用のエネルギー弾であり、その中には、

 

「し、知らないチョピィ……!」

「知っててもお前なんかに教えないラピィ……!」

 

 先ほど、彼らの手によって捕らえられたフラッピよチョッピが、その中に閉じ込められているのだ。もちろん、攻撃用のエネルギー弾の中に閉じ込められて、ただで済むわけがない。息を休める暇もなく、痛みを与えられ続けるのだ。

 

「やれやれ、これはナチスもびっくりの責め苦だな」

 

 ヨロイ元帥が面白そうに言う。彼の目的はあくまで太陽の泉を見つけ出すことである。そのために、彼ら二人には死なない程度にセーブしているのである。

 

「そうですか……残念ですね」

 

 彼がつぶやくように言うと同時に、フラッピとチョッピを攻め続けるエネルギー弾が強くなり、彼らによりいっそう激しい痛みが襲い掛かる。

 

「ラ、ラピィイイ!」

「チョピィイイイ!」

 

 二人の悲鳴を聞きながらも涼しい顔でお茶をすするゴーヤーン。その姿を、ドクトルGとヨロイ元帥は見つめながら、彼に聞こえないように話し合う。

 

「例の装置は運び込んだのか?」

「むかりはない。だが、必要なのか? いくらあやつらとてこの世界に来れるのか?」

 

 ヨロイ元帥の言葉に、ドクトルGは迷いなく答えた。

 

「来る」

 

 それは、確信めいた言葉であった。ドクトルGは断言する。

 

「仮面ラーイダを、そして彼らと同じ正義の元に戦う戦士たちを侮ってはならん。あやつらは幾度となく我々の組織を壊滅させてきたのだから」

「……確かにな」

 

 その言葉に、ヨロイ元帥も首を縦に振る。デストロンもまた、V3の手によって壊滅させられた過去を持っているからである。

 

「来るがいい仮面ラーイダ。ここが貴様らの墓場となるのだ……!」

 

 

 

 一方で、咲たちと士たちもフラッピとチョッピが連れ去られてしまったトネリコの木の元へとやってきた。なんとか、手がかりを見つけ出そうと躍起になるものの、

 

「なにも見つからないムプ……」

 

 そう簡単に見つかれば苦労もなく、やはり何も見つける事ができない。だが、咲と舞は諦めない。

 

「きっと、どこかに手がかりが残っているはずだよ」

「そう、だから諦めたらダメ」

 

 ユウスケ、夏海、そして士も、全員が手分けして探してみるものの、やはり見つける事ができない。一緒に探すのを手伝いながら、ふと、夏海は手を止める。その横でともに探していた士も、彼女の表情を見て手を止める。

 

「どうした夏ミカン。浮かない顔をして」

「……私の、せいですよね」

 

 思いつめた表情で、彼女は続ける。

 

「私が、スーパーショッカーに捕まったから、咲ちゃんたちは騙されて……」

 

 顔を俯かせ、肩を震わせる夏海に対して、士は興味がなさそうな顔をしながら、手を再び動かして答える。

 

「別に、お前のせいじゃない。悪いのはスーパーショッカーだろう」

「でも……!」

「大丈夫だ、あいつらは必ず俺が取り戻す。だから気にするな」

「……はい」

 

 その言葉に、小さな声でつぶやくことしか出来ない夏海。それでも、彼らを見つけ出そうと手を動かす。だが、それぞれの思いもむなしく、何も見つからないまま時間が過ぎて、太陽が海へと差し掛かる。

 

「何も……見つからない」

「……」

 

 咲の言葉に、何も言えなくなってしまう舞。重々しい空気が、その場にいる全員の肩へとのしかかる。

 

「くそ、俺たちには何も出来ないのか!」

 

 ユウスケが悔しそうにそう叫んだときであった。

 

「いや、手はある」

 

 その場の誰でもない、新しい声が聞こえた。聞き覚えのある声に驚き、振り返ってみると、そこには士たちの、そして咲と舞も知っている人物が、マシンディケイダーのそばに立っていた。

 

「お前は……鳴滝!」

 

 そこには、プリキュアの世界でディケイドに手を貸したまま、彼らの前から姿を見せていなかった男、鳴滝が立っていた。咲と舞も見知っているようで、彼に声をかける。

 

「鳴滝さん、どうしてここに」

 

「簡単なことだ、君たちを助けに来た」

 

 鳴滝の言葉に、士は眉をひそめる。

 

「どういうことだ、プリキュアの世界でといい、ここでといい、何を考えている」

 

「私はただ、世界がその世界のままでいてほしいだけだ。だが、そのためには世界征服を狙っているスーパーショッカーはどうしても倒さなければならない」

 

「そのためなら、世界の破壊者でもある俺と手を組むのもためらわない、ということか」

 

 士のその言葉に、鳴滝は-おそらく士の前では-初めて迷うような表情を見せた。

 

「ディケイド、私も最近、お前の事が破壊者なのかそうでないのかわからなくなってきた」

 

「鳴滝……?」

 

 ディケイドは世界の破壊者だ―――それは、鳴滝という男が曲げることなく通してきた言葉である。だが、ディケイドは9つのライダー世界を再生し、世界融合化現象を止めたのだ。鳴滝の迷うような表情と言葉に、驚きを隠せない士であったが、彼はすぐに表情を引き締める。

 

「だが、勘違いするなよディケイド。私はまだお前のことを認めたわけではない。今回手を貸すのは特別であることを忘れるな」

 

 その言葉に、士は小さく笑うと、

 

「そっちのほうがお前らしいな」

 

 士の言葉にも返事もせず、鳴滝はそばに立てかけてあるマシンディケイダーへと近づいていく。

 

「手を貸すといっても、私自らがお前に力を貸すわけではない。教えてやろう、ディケイド、貴様に隠された能力の一つをな」

 

「何?」

 

 鳴滝はそう告げると、マシンディケイダーのそばに立つと、そのタンクを撫でながら、

 

「貴様の乗っているこのマシン、マシンディケイダーは陸海空、宇宙でさえも走行できるように設計されている。さらに、それだけではなく、平行世界……別世界へと移動することも可能なのだ」

 

「何だと!?」

 

 鳴滝の言葉に驚きの表情を浮かべる士。マシンディケイダーの隠された能力に驚いたのだ。

 

「このバイクを使えばダークフォールに向かうことも可能だ。そして、ブルーム、イーグレット、君たちは一度ダークフォールに向かった事があるだろう?」

 

「は、はい!」

「満さんと薫さんを助けるときに一回、向かったことがあります!」

 

「その記憶があれば十分だ。それだけでマシンディケイダーはダークフォールへの扉を開ける事ができる」

 

「じゃあ、その力を使えば!」

 

 ユウスケが喜びの声を上げる。無理もない、何も手掛かりもなかった状況から、一気に敵の本拠地まで向かう事ができるようになったのだ。

 

「急げ、早くしないと君たちのパートナーが危ない!」

 

「はい!」

「ありがとうございます、鳴滝さん!」

 

 その言葉に、士はマシンディケイダー、ユウスケがトライチェイサーに乗り込む。同じように、マシンディケイダーには咲と夏海、トライチェイサーには舞が乗り込む。

 

「ブルーム、イーグレット、思い出すんだ、かつていったダークフォールの光景を!」

 

 咲と舞が目をつぶり、かつて向かったダークフォールの景色を思い出す。すると、マシンディケイダーのフロント部分が光だし、彼らの目の前へと銀色のベールが現れる。

 

「これは、いつもライダーや怪人が出てくる……!」

 

「異世界への扉だ。マシンディケイダーにはそれを発生させる機能がついている」

 

「これなら、行ける!」

 

 マシンディケイダーとトライチェイサーのエンジンがうなりをあげる。

 

「いくぞ、咲! 夏みかん! 振り落とされるなよ!」

「行くよ、舞ちゃん! しっかり捕まって!」

 

 迫力あるエンジン音を鳴らしながら、二つのバイクに乗った士たちが銀色のベールへと入っていく。それと同時に、ベールの向こう側へと消えていく。その姿を、じっと見つめ続けている鳴滝。

 

「……いいんですか、ディケイドにあの力のことを教えてしまって」

 

 そんな彼に声をかけるものがいた。鳴滝は、振り返らずに口を開く。

 

「紅渡、か」

 

 そこには首にマフラーを巻いた青年、仮面ライダーキバこと紅渡が立っていた。

 

「あの力はディケイドが世界を渡る能力。だからこそ、あなたはずっと隠してきたはずだ」

 

「……そうだな」

 

 あの力をディケイドが再び手に入ってしまった以上、彼は自由に世界を行き来できるようになってしまった。それは、鳴滝の望むところではないはずだ。それにも関わらずに、彼がそれを教えたのは何故か。

 

「……私も、ディケイドを図りかねている。あいつは、世界を守る守護者なのか、それとも破壊者なのか」

「僕たちは、彼のことを守護者だと信じています。現実に、彼は多くの世界を救った」

「わかっている。だが、彼が存在したからこそスーパーショッカーは生まれた」

 

 鳴滝は、ただ淡々と続ける。

 

「ディケイドがいなければ、君たちが再び戦うこともなかった。君たちの世界は平和のままで、再び戦うこともなく、平和に暮らしているはずだった」

「……」

「私はね、紅渡。君たちにはもう戦ってほしくなかったんだ。長い戦いを終えて、平和な世界で暮してほしかったんだ」

「鳴滝さん……」

 

 それが、鳴滝の想いであり、願い。

 

「私は願い続けるよ。君たちが、平和な世界で戦うこともなく過ごす日がくることを……」

 

 

 

 一方で、銀色のオーロラを通り抜けた士たち一行は、

 

「よし、このまま相手の本拠地に……ってえええええ?!」

 

 ユスウケが大声を上げるのも無理はない。彼らがオーロラを通り抜けたとき、そこに広がっていたのは一面の海。もちろん、バイクが走れるような場所はひとつもなく、彼らが飛び出したのも海面から数メートル上だ。

 

「ど、どど、どうするんだよ士!?」

「俺のマシンディケイダーは海も走れるらしいからな。問題ない」

「いやいや、俺はどうするんだよ!」

「そ、そうですよ、あっちには舞も乗ってるのに?!」

 

 とは言うものの、士も本気でそんなことを思っているわけではない。わけではないのだが、

 

「しかし、俺にはどうすることも出来ない」

 

 というのも事実なのである。変身したところでどうこうできるわけでもなく。八方塞ともいえる。

 

「海に落ちたら拾ってやる。だから安心しろ」

「いやいや、安心できるわけないだろ!」

「士さん!?」

 

 そんなやり取りをしている間にも海面は迫ってきており、ユウスケも覚悟を決めたときだった。不意に、トライチェイサーの車輪が何かをつかむ。身体に伝わる振動が、彼らが海に落ちたのではないことを告げる。

 

「え?」

 

 驚きながら海面を見てみれば、トライチェイサーとマシンディケイダーが降り立った部分の海面が凍り付いている。それだけではなく、まるで彼らを案内でもするかのように、氷の道が完成しているではないか。

 

「これは……どういうことだ」

「まるで、俺たちを誘い出すみたいだな」

 

 あまりの都合のよさに、警戒する士とユウスケであったが、咲と舞は迷わない。

 

「でも、それでフラッピとチョッピに近づけるんだったら」

「行くしかない!」

「そうムプ!」

「ププ!」

 

 彼女たちの意思が伝わったのか、いつもの弱弱しい言葉ではなく力強い言葉で同意するムープとフープ。その姿に、笑顔を浮かべる士とユウスケ。

 

「いくぞ!」

「はい!」

 

 氷の道を走り出して、いく士たち。その姿を、空中でジッと見つめ続けているものが居た。

 

「フフフ……私がわざわざ案内してやったのに気づかないなんてお気楽なやつらだこと」

 

 和服姿の女性、ミズシタターレは口元を扇で隠しながらも、隠しきれない喜悦を言葉に込める。

 

「あなたが悪いのよゴーちゃん……私を、怒らせたね……!」

 

 

 

「ラピィイイイイ?!」

「チョピィイイイ?!」

 

「しぶといですなぁ。早く太陽の泉の在り処を言ったらどうですか?」

 

 ゴーヤーンの住処では、いまだにフラッピとチョッピに対する拷問が続けられていた。苦しみ、悲鳴を上げる二人を見つめながら、下卑たる笑いを浮かべるゴーヤーン、そしてそれを見つめているドクトルGとヨロイ元帥。

 

 そこへツバサ大僧正とキバ男爵が現れる。ツバサ大僧正は降り立つと、静かに言った。

 

「どうやら、ディケイドがこの世界に現れたらしい」

「なんですと?!」

 

 彼の言葉に真っ先に反応するゴーヤーン、対してドクトルGとヨロイ元帥はやはりかといった表情で冷静さを崩さない。

 

「すぐにあの装置の準備をしろ。あいつらの目的は間違いなくここだ!」

「イーッ!」

 

 ドクトルGの言葉に走り出す戦闘員たち。だが、彼らの耳にはすでに遠くから鳴り響くバイクのエンジン音が伝わっていた。

 

「現れたか……!」

 

 それと同時に、ゴーヤーンの住処の和室へと飛び込んでくる二台のバイク。畳のイグサを引きちぎって、止まる二代のバイク。

 

「現れたか……仮面ラーイダ! そしてプリキュアよ!」

「おのれ、どうやってここを!」

 

「フラッピとチョッピを返して!」

「二人はどこ!」

 

 咲と舞の言葉に、ゴーヤーンは二つの黒い玉を見せる。そして、その中で苦しみ、息も絶え絶えになっている二人の姿を。その姿を見て、驚き、怒りに肩を震わせる。

 

「ひどい、なんてひどい事を!」

「何でこんなことをするの!?」

 

「いくら問い詰めても太陽の泉の在り処を教えてくださらないので、この御二方には少々荒っぽい尋ね方をしていたのですよ」

 

 悪びれることもなく、あくまで慇懃無礼を崩さずに答えるゴーヤーン。その姿が、よりいっそう咲と舞、そして士たちの怒りを刺激する。

 

「お前、最低の野郎だな」

「許せない、こんなことを平気でするなんて!」

 

「いえいえ、私も最初は丁寧に尋ねたんですけどね。この御二方が協力的ではないものですから、ついこうやって」

 

 ゴーヤーンの口がつりあがり、それと同時にエネルギー弾が再び威力を増す。

 

「ラピィイイイ?!」

「チョピィイイ?!」

 

 響き渡るフラッピとチョッピの声に、咲と舞は悲鳴をあげるように叫ぶ。

 

「もうやめて!」

「二人を返して!」

 

「……いいですよ?」

 

 彼は軽くそう言い放つと、二人の入った黒い玉をたたきつけるように咲たちの足元へと放つ。激しい音とともに、黒い玉は破裂し、そこから現れるのはひどく傷つけられ、身体を動かすこともできない二人の妖精。

 

「ちょうどよいところにいらっしゃいましたね。その精霊たちは強情で埒があかないので、貴方たちにお聞きしようかと、そう思っていたところなんですよ」

 

「……よくも」

 

 あくまで自分の余裕を崩さないゴーヤーン。自分がしたことに対して何の罪悪感も、罪の意識さえも感じていない。そんな彼の言葉が、咲と舞の感情を、爆発させる。

 

「よくも、フタッピとチョッピにこんなひどい事を……許せない!」

「貴方だけは……!」

「「絶対に許せない!!」」

 

 だが、ゴーヤーンはそれでも余裕の表情を崩さない。

 

「ほぉ、許せないならどうするおつもりで?」

 

 その静かだが威圧感のこもった言葉に、二の次が言えない咲と舞。腐ってもアクダイカーンの右腕、ダークフォールのNo,2の実力者であるゴーヤーン。

 

「さ、咲、任せてラピィ……」

 

 そんな二人の足元で、小さな声がした。

 

 驚き、見つめてみれば、傷だらけの身体に鞭打って、立ち上がろうとしている二人の妖精の姿があった。

 

「舞、待っててチョピィ……」

「早く、変身、するラ、ピィ……」

 

 だが、それでも立ち上がることも出来ずに、背中から崩れていく二人の背中を、そっと支える者がいた。―――ユウスケは、傷ついた二人の妖精を優しく抱き上げると、咲と舞に渡す。

 

「……咲ちゃん、舞ちゃん、二人を頼む」

 

「フラッピ!」

「チョッピ!」

 

 傷だらけの二人を抱きしめて、優しくなでる二人。その姿を見て、ユウスケは優しく言う。

 

「フラッピ、チョッピ、二人ともがんばったな。辛かったよな、苦しかったよな……でも、もう大丈夫だ」

 

 ユウスケの隣へと、士が並ぶ。彼は表情を変えない、滅多に感情を顔に見せない。それでも、その背中から放たれているのは大きな怒り。

 

「君たちは俺たちが連れて帰る……俺と、士が。俺たち、仮面ライダーが!!」

 

 ユウスケも振り返る。そして同時に、構える!

 

「「変身!!」」

 

 -Kamen Ride DECADE!!-

 

 並び立つ、二人のライダー ―――ディケイドとクウガ。

 

「仮面ラーイダ……貴様らの相手は、我々だ」

 

 その前に立ちはだかるのは、デストロンの四人の幹部。

 

「叩き潰す……!」

 

 キバ男爵は、鋭い牙を持つマンモス怪人、吸血マンモスへと

 

「切り裂く……!」

 

 ツバサ大僧正は大きな翼に鋭い爪と牙を持つ怪人、死人コウモリへと

 

「切り刻む……!」

 

 ヨロイ元帥は辛苦の甲羅を身にまとうザリガニ怪人、ザリガーナへと

 

「仮面ラーイダ! ここが貴様の墓場となるのだ!!」

 

 そしてドクトルGは頭部に強力なレーザー砲を持っている機械と獣融合怪人、カニレーザーへと変貌する。凶悪な四人の幹部を相手にしながらも、ディケイドとクウガは怯まずに、走り出す。

 

「吸血マンモス! 死人コウモリ! ザリガーナ! 貴様らはクウガをやれ。私は、ディケイドを血祭りに上げる!」

 

 カニレーザーの言葉に答えるように、吸血マンモス、死人コウモリ、ザリガーナはクウガへと立ち向かっていく。一方で、ディケイドはカニレーザーが迎え撃つ。

 

「死ねぇ、ディケイドォ!」

 

 頭部のレーザー砲へと光が集まり、強力なレーザーがディケイドへと放たれる。それを、真横に転がって回避するディケイド。ライドブッカーをガンモードに変えて弾丸を放つ。だが、銃弾を身に受けつつも怯むことなく一気に切迫する。

 

「何っ!?」

「そんな攻撃でぇ!」

 

 振るわれる鋏状の腕を、瞬時にライドブッカーをソードモードに変形させて受け止める。だが、強い力の前に押され始める。

 

「どうした仮面ラーイダ。これが貴様の限界か?」

 

 一方で、クウガも苦戦を強いられる。

 

「翼を持たぬ貴様に、私は倒せん!」

 

 死人コウモリは上空から一気に滑空すると、その鋭い爪をクウガへと突き出す。そのスピードを捕らえきれずに、肩を抉られる。

 

「くっ!」

 

「叩き潰す……!」

 

 怯んだ隙を突いて、吸血マンモスがその巨大な身体から渾身の力を込めた腕をたたきつける。ユウスケはとっさに紫のクウガ、タイタンフォームへと変身するが、

 

「ガァッ?!」

 

 圧倒的な力はタイタンフォームの強固な鎧さえも打ち砕き、その身体を空中へと飛ばす。地面を転がったクウガは、ダメージをなんとか押さえ込みながらも、トライチェイサーのグリップを引き抜く。同時に、タイタンの特徴的な大剣へと変化させる。

 

「はぁっ!」

 

 それを、吸血マンモスへと向けて振り下ろす。だが、その刃が届くよりも先に、ザリガーナが間へと割って入り、背中でそれを受け止める。ガキィっと、金属金属が叩き付けられあったような音を出して、タイタンの剣は装甲に傷を入れることも出来ずに、沈黙した。

 

「そんな、タイタンソードが?!」

「……甲羅崩し!」

 

 瞬間、ザリガーナの甲羅が砕け散ると、散弾となって至近距離でクウガへと襲い掛かる。その威力たるやすさまじく、タイタンの鎧へと容赦なく突き刺さる。痛みからくる激痛に苦悶の声を上げながら吹き飛ばされるクウガ。傷跡から血を流しながら、地面へと倒れこむ。

 

「ユウスケさん!!」

 

 咲と舞から悲鳴のような叫び声が上がる。ディケイドはキッとカニレーザーをにらみつける。

 

「フ、うわさのリントの戦士とやらも、あの程度か」

「くっ!」

 

 怒りに声を震わせながら、一枚のカードをドライバーへと差し込む。

 

 -Attack Ride Invisible-

 

 電子音声とともにディケイドの姿が掻き消える。思わず前につんのめるカニレーザー。あたりを見回してみても、ディケイドらしい姿は見つけることが出来ない。

 

「く、どこに消えた」

 

 -Final Attack Ride!-

 

 空中に姿を現せすディケイド。すでにその体勢は蹴りの形となっており、ホログラムカードはすでにカニレーザーを捕らえている。

 

 -DeDeDe,DECADE!-

 

「はぁああああああ!!」

 

 必殺の蹴りを目前にしながらも、カニレーザーの表情からは焦りの表情はなく、むしろ余裕さえも感じさせる。彼は、叫ぶ。

 

「今だ! 照射しろ!」

 

 彼の言葉に答えるように、謎の光が必殺の蹴りを放とうとしていたディケイドの身体へと当てられる。一瞬、怪訝そうな表情をしたディケイドであったが、直後、身体から無数の火花が飛び散る。

 

「な、ガァアアアアッ?!」

 

 全身から多数の火花を飛び散らせながら、ディケイドはそのまま吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。ただ光を当てられただけなのにも関わらずにそのダメージはすさまじく、全身の鎧から火花がいまだに飛び散っている。

 

「士さん?!」

「お前……何をした!」

 

 立ち上がることも出来ずに息も絶え絶えのディケイドに対して、カニレーザーは見下すような瞳で見つめながら、告げる。その後には、戦闘員たちがなにか細長いL字型の3本のパイプの先端に電球をつけた機械を持ち出している。

 

「教えてやろう、あれはわれらデストロンがかつて生み出した『改造人間分解光線』を改造して生み出した、『仮面ラーイダ分解光線』だ!」

 

「何……?」

 

「この光は仮面ライダーを原子レベルにまで分解する能力を秘めているのだ……それはディケイド、貴様とて同じことだ」

 

 分解光線を受けて、立ち上がる力も残されていないディケイドに、戦闘員たちは再び、その矛先を向ける。

 

「く……!」

「士さん!!」

 

「さらばだ、ディケイドォ!!」

 

 戦闘員が再びスイッチを入れようとしたとき、

 

「士ぁあああああ!」

 

 一台のバイクが、ディケイドと分解光線の間に割って入った。それは、トライチェイサーに乗ったクウガ。

 

「ユウスケ!?」

「うおおおおお!」

 

 トライチェイサーの前輪を上げ、ウィリー状態で飛び上がると、分解光線へと突撃するクウガ。その全身からは火花が飛び散り、爆発が起こり、傷口からは鮮血が飛び散る。トライチェイサーも無傷ではなく、エンジンやメーターから小さな爆発が起こり、徐々に分解されていく。だが、それでも彼は止まらない。

 

「うおおおおおおおお!!」

 

 トライチェイサーの前輪が分解光線へと届く直前、巨大な光が炸裂し炎が上がる。大気を引き裂くような巨大な音ともに、粉塵が巻き上がり、そして……

 

「ユウ、スケ……?」

 

 ディケイドの前に落ちてきたのは、トライチェイサーのカウル部分。無残にも砕け散ったその部品は、ディケイドが手を触れるよりも先に、粒子となって消えていく。

 

「そんな、ユウスケ……」

 

「ユウスケさん……?」

 

 膝からガクリと崩れ落ちる夏海、そして、目の前の光景が信じられない咲と舞。ディケイドが、一際大きな声で叫ぶ。

 

「ユウスケェエエエエエエ!!」

 

 

「……う、く」

 

 一方で、ユウスケは水の中で目を覚ました。全身の痛みを感じながら、自分が生きていることを確認する。

 

「俺……生きてるのか?」

 

 何よりも全身から発せられる痛みがそれを証明している。全身を見回してみれば、特に四肢が欠けているというわけでもなく、五体満足だ。仮面ライダー分解光線に突撃したのに、なぜ軽症ですんだのか、それは、彼の側らに漂っていたものが証明している。

 

「これは、トライチェイサーの……そっか、俺、自分が分解されるよりも前にトライチェイサーが爆発して」

 

 そこに漂っていたのは、トライチェイサーのグリップ。それを握り締めて、彼は理解した。トライチェイサーが大きく爆破したことにより、彼の身体は投げ飛ばされ、結果的に分解光線の魔の手から逃れられたのである。

 

「お前が、俺を守ってくれたんだな……」

 

 トライチェイサーのグリップを-今は亡き自分の愛器の亡骸を-抱きしめる。

 

「それにしても、ここは周りの海なのか? なぜか呼吸が出来るし……?」

 

 あたりを見回すものの、そこに広がっているのは漆黒の海底で、なにかが見つかるというわけでもない。彼が、士たちの下へと戻ろうと海面へと視線を上げたとき、

 

『……お願い、気づいて』

 

 頭の中に響く、声を聞いた。

 

「誰かが、俺を呼んでる?」

 

『お願い、私たちに気づいて』

 

 その助けを求めるような声を、ユウスケは見捨てる事ができずに声のするほうへと向かっていく。海中を泳ぎながら、彼が見つけたのは、

 

「二人の女の子……?」

 

『よかった、私たちに気づいてくて』

 

 そこにいたのは、赤い真紅の髪をショートカットにまとめた少女と、蒼い長い髪をした少女。その服装は二人とも同じで、灰色の長袖に長ズボン。

 

「君たちが、俺を呼んだのか……?」

 

『ええ、貴方に、どうしても頼みたいがあったから』

 

「君たちは一体……?」

 

 ユウスケの言葉に、二人の少女は答える。

 

『私たちは、咲と舞の……友達』

 

「咲ちゃんと舞ちゃんの友達って……君たちは、ひょっとして!?」

 

『私は満』

『私は薫』

 

 それは、彼女たちが再開を望んでいた、大切な友達の名前。

 

「やっぱり、君たちが! どうしてこんな場所に?!」

 

『ダークフォールを裏切った私たちは、アクダイカーン様のてによって力を無くし』

『ここで、永遠に封印されることになった』

 

 ダークフォールを裏切り、アクダイカーンへと反逆したものに対する、罰。彼女たちはほとんどの力を失い、ここで封印されることになったのだ。

 

「そっか……じゃあ、急いで戻ろう! 咲ちゃんや舞ちゃんも、君たちと会いたがってる!」

 

 そう言って、彼女たちに手を伸ばすユウスケ。だが、彼女たちは悲しそうに、それを否定する。

 

『無理よ、今の私たちにはほとんど力が残っていない』

『私たちは、身体を動かすことも出来ないし、しゃべることさえ出来ない』

 

「そんな、でも……!」

 

 その言葉に、悔しそうに言うユウスケ。だが、彼女たちはまだ諦めていない。

 

『だけど、私たちにもできる事がある』

『この身体に残された、最後の力をつかって』

 

「え……?」

 

 驚きの顔を浮かべるユウスケに、彼女たちは告げる。

 

『貴方に、私たちの力を託す』

『そうすれば、貴方の身体の中にある、不安定な力が安定して、あなたは新しい力を手に入れる事ができる」

 

「俺が、新しい力を?」

 

 だが、それは、

 

『だけど、そうしたとき、貴方の身体はますます人間から遠ざかる』

『その危険性は、誰よりも貴方がよく知っている』

 

 そう、今彼の身体の中にある不安定なエネルギーが安定することによって新しい力を手に入れるということは、逆に言えば彼の身体がさらにアークルによって侵食されるということである。それは、彼という存在の崩壊を早めるということ。

 

『それでも、私たちは貴方にこの力を託したい』

 

「……どうして、俺に?」

 

『咲と舞を、助けたいから』

 

 それは、彼女たち二人の心からの願い。

 

『咲と舞に出会えて、私たちは変わる事ができた』

『悲しいこと、辛いことも知った。でも、それ以上に嬉しいこと、楽しいことを知った』

 

 きっと、彼女たちは気づいていないだろう。そうやって話している彼女たちの表情が、さきほどまでのとはちがう、穏やかで、優しさに満ちた微笑み―――笑顔になっていることを。

 

『二人を助けたい。でも、今の私たちには力がない』

『だから、貴方に私たちの力を託したい……だから、お願い』

 

 その言葉に込められているのは、たった一つの想い。たった一つの願い。

 

『『咲と舞を、助けて』』

 

 ユウスケは、ただ無言で、二人へと近づいた。ゆっくりと膝をつき、そして二人の手をしっかりと握った。自分の無力をかみ締めながら、それでも、二人を安心させるために。

 

「俺には、君たちを咲ちゃんと舞ちゃんに会わせることは出来ない……だけど、彼女たちは俺が守ってみせる、必ず!」

 

 その言葉に、安堵の笑みを溢す二人。

 

『『ありがとう』』

 

 二人の手を握っているユウスケの手から、彼女たちの力が彼の身体へと流れ込んでくる。その力は、彼の中で漂っていた不安定なエネルギーを、彼の身体へと固定し、安定させていく。

 

『咲と舞を……お願いね……』

『二人を……守って……』

 

「ああ、必ず……!」

 

 ユウスケは立ち上がる。光も射さない海面へと向かって。自分の、仲間が居る場所へと、彼は向かう。その背中を、最後の力を振り絞り、瞳を開けて見つめる二人の少女。

 

『お願いね……仮面……ライダー……』

 

 

「自らの命とともに、仮面ラーイダ分解光線を破壊するとはな。見上げた根性だ」

 

 カニレーザーは爆発により使い物にならなくなった仮面ライダー分解光線を見つめながら、言った。彼の言うとおり、トライチェイサーの爆発によって分解光線は大破しており、使い物にならなくなっている。

 

「ですが、無駄死にでございますねぇ。なにせ、残っているのはろくに戦えなくなったディケイドに、変身能力をうしなった妖精と変身できないプリキュアですから」

 

 ゴーヤーンが慇懃無礼を崩すことなく言う。

 

「くそ、お前ら……ただで済むと思うなよ……!」

 

「哀れだな仮面ラーイダディケイド。貴様がどれほど吼えようとも、今の貴様に我々を倒す力は残っていまい」

 

 カニレーザーの言うとおりで、彼にはまだ先ほどの分解光線のダメージが色濃く残っている。対して、相手はほぼ無傷の怪人が四体にとゴーヤーン。彼一人では、とてもじゃないが太刀打ちできる相手ではない。

 

「そして、変身することの出来ないプリキュアたち……お前たちでは、どうあがいても我々には勝てない」

 

「……!」

 

 カニレーザーに対して、咲と舞は自分たちの精霊を守るように抱きしめる。その姿を見て、弱弱しい言葉で、フラッピとチョッピは言う。

 

「咲、ごめんラピ……せっかくきてくれたのに変身できなくて……ダメな精霊ラピィ……」

「舞……ごめんチョピ。チョッピが捕まったせいで……」

 

「フラッピはダメな精霊じゃない……! 私の大切な、大切な友達でしょう!」

「チョッピを助けるためなら、どんな目にあってもかまわない……!」

 

 自分たちを責める妖精たちを、大事なパートナーたちを、咲と舞は優しく抱きしめる。そんな彼女たちに抱きしめられた二人へと、ムープとフープは涙を流しながら言う。

 

「フラッピ、しっかりするムプ!」

「ムープ、怒ってばかりでごめんラピ」

「怒っていいムプ! だから元気になるムプ!」

 

「チョッピ、大丈夫ププ?」

「フープ、フープのさびしい気持ちにわかって上げられなくて、ごめんチョピ」

「チョッピが居れば寂しくないププ!」

 

 涙を流しながら、フラッピたちへと声をかけるムープたちの姿を見て、ゴーヤーンはにやりと微笑む。

 

「それでは、太陽の泉の在り処は、その御二方に聞きましょうか」

 

 ゴーヤーンの腕からフラッピたちを捕まえていた黒い玉が生み出される。それは、フラッピたちを心配しているムープ、フープの元へと放たれる。

 

「いけない、ムープ逃げて!」

「フープ、危ない!!」

 

 咲たちが叫び、手を伸ばすも、間に合わない。黒い玉が、ムープたちに迫り、捕まえようとした大きな口を開く。

 

 だが、

 

「させるかぁ!」

 

 水面がはじける音とともに、一つの影がその黒い玉を弾き飛ばす。弾かれた黒い玉は、そのまま水面へと叩きつけられて破裂する。

 

「……あ、あなたは?!」

 

 現れたその影に、思わず声を上げるゴーヤーン。それは、カニレーザーたちや、ディケイドたちも同じであった。

 

「馬鹿な生きていたのか……?!」

 

「まったく、心配かけさせやがって!」

 

「「ユウスケさん!」」

 

 涙を浮かべながら名前を呼ぶ少女たちに、青年は振り返り、笑顔を浮かべる。

 

「みんな、ごめん。待たせた!」

 

 少女たちの無事を確認すると、ユウスケはゆっくりとカニレーザーたちへと顔を向ける。

 

「だが、いまさら貴様が一人復活したところで、なんになる! デストロン幹部4人を相手に、勝てると思っているのか!?」

 

 カニレーザーの言葉に、ユウスケは迷うことなく告げる。

 

「たとえ、お前たちがどれだけ凶悪で、強大だろうとも……俺は決して負けない!」

 

「たった一人で、我々に勝てるというのか!」

 

「俺は、一人じゃない……」

 

 ユウスケは静かに瞳を閉じる。―――彼の身体の中で生まれた新しい力の鼓動を感じる。

 

「俺には、士や、夏海ちゃんがいる。そして、咲ちゃん、舞ちゃんだっている。そして、満ちゃん、薫ちゃんから力も受け取った!」

 

 ユウスケの出した名前に、咲と舞は驚く。

 

「満、薫って……!」

「会ったんですか、ユウスケさん!!」

 

 彼はゆっくりと頷く。

 

「彼女たちは、ダークフォールに封印されてる。俺は、彼女たちの封印を解くことは出来なかった……けど、彼女たちは消滅なんかしてない」

 

「それじゃあ、私たち!」

「また、満さんと薫さんに会えるのね!」

 

 その言葉に、顔を輝かせる二人。だが、ゴーヤーンが叫ぶ。

 

「何を馬鹿なことを。満殿と薫殿に残されていた力はほんの少し、それだけで私たちに勝てるなんて……」

 

「力、だけじゃない」

 

「何ですと?」

 

 ユウスケは告げる。二人から、受け取ったものを。

 

「力だけじゃない。俺が受け取ったのは、満ちゃんと薫ちゃんの、想いを、願いを、受け取ったんだ!」

 

「想い? 願い? それがいったい何になるというのですか?」

 

「お前たちにはわからない! 絶対に!」

 

 誰かを傷つけ、誰かを悲しませるやつに、今の彼を動かしているものが何なのか、わからないだろう。

 

「この子達の笑顔は、俺が守る!」

 

 構えるポーズ、現れるアークル。そして、彼は叫ぶ!

 

「変身!!」

 

 光が彼を包み込み、彼の身体を鎧が覆って行く。

 

「いまさら、貴様が変身したところでぇ!」

 

 彼の変身が完全に終わり切る前に、吸血マンモスがその巨体を震わせて拳を振るう。防御力に秀でてたはずのタイタンフォームでさえも吹き飛ばしたパワーが、ユウスケに迫る。

 

 が、

 

「―――な、何?!」

 

 その渾身の力を込めた拳は、たった一本の腕で止められていた。吸血マンモスがどれほどのパワーを篭めても、その腕はピクリとも動こうとしない。

 

「馬鹿な……なぜだ!」

 

 現れるのは紫の鎧に観に包んだクウガ。そう、先ほどまでならば、吸血マンモスの手によって弾き飛ばされていたはずなのに、今はその手を易々と受け止めているではないか。

 

 そこで、彼らは気づく。

 

「ユウスケ……あの鎧、いつもの鎧じゃない?」

 

 夏海が言うように、それはいつものタイタンとは違っていた。薄い鎧に濃い紫の縁取りをしていたはずのその鎧は、薄い紫に金色の縁取りに変わっている。それだけではない。アークルも変質し、金色のものへと変化し、手の甲にはリントの文字で『地』を意味する言葉が書かれている。

 

「紫と……金の……クウガ?」

 

 かつて、オリジナル世界の五代雄介が電気ショックにより偶然取得したライジングフォーム。ユウスケも、プリキュアの世界で受けたマーブルスクリューの力が彼の体の中に残っており、それを満と薫の力によって安定させることによって、ライジングフォームを取得したのである。

 

 そう、今の彼はただのタイタンではない。今の彼は、クウガ―――ライジングタイタン!

 

「う、おおおおおおおお!」

 

 クウガの気合の言葉とともに、吸血マンモスの巨体が浮き上がる。彼が驚きの声を上げるまもなく、乱雑に投げ捨てる。畳の上を転がり、柱に激突してなんとか動きを止める吸血マンモス。それに対して、クウガは先ほどから持っていたトライチェイサーのロッドを、取り出し、剣へと変化させる。

 

「剣先が……変わってる」

 

 タイタンソードも、本体のクウガにあわせるように、先端が金色と変化し、雷のような刃がつけられている。その剣を持ち、ゆっくりと吸血マンモスに迫っていく。

 

「させるかぁ!」

 

 だが、その間に入ってきたのはザリガーナ。両手のはさみを震わせてクウガに襲い掛かるも、その刃はライジングタイタンの装甲を貫くにいたらない。そのザリガーナの前で、ゆっくりとタイタンソードを振り上げる。

 

「無駄だ、貴様のその剣は我が鎧の前では―――!」

 

「はぁああああああああ!」

 

 裂帛の叫び声とともに振り下ろされた剣は、ヨロイ一族随一のザリガーナの鎧を、容赦なく袈裟に切り裂いた。信じられないという表情で切り裂かれた自分の鎧を見つめるザリガーナ。

 

「馬鹿な……私の、鎧が……馬鹿なぁああああ?!」

 

 巻き起こる爆発。その爆風にも一切揺るがない。ライジングタイタン。

 

「たとえ、どんな一撃を持っていようが、空を飛べぬ貴様などにぃ!」

 

 死人コウモリは、自分が空を飛べるという利点を持ち、再び大空から滑空。そのまま鋭い爪を使って、クウガの身体を引き裂こうとするが、

 

「超変身!」

 

 クウガの姿が再び変わる。青の鎧に金の縁取り、そして手に持っているのは剣から長い棒へと変わる。その手の甲に書かれているのは、『水』という言葉。それでも、死人コウモリが躊躇するでもなく鋭い爪を振るう。

 

 だが、それは彼を捉えることは叶わない。

 

「馬鹿な、消えた……?!」

 

 空振りした腕を見つめ、驚きに表情を染める。

 

「死人コウモリ、上だ?!」

「何だとぉ?!」

 

 あわてて上を見上げてみれば、そこには青と金のクウガが強化されたドラゴンロッドを構えている。その姿は、一足で50メートルまで飛び上がる事が可能になり、より高い俊敏性を手に入れた姿―――ライジングドラゴン!

 

「うおおおお!」

 

 ドラゴンロッドの先端を、いまだに動くことの出来ない吸血マンモスの頭頂へと向かい、突き立てる。その高い俊敏性の前に、吸血マンモスはよけることも、防御することもできない。

 

「俺が、手も足も出ないとは……これが、金のクウガの力……!」

 

 ドラゴンロッドを引き抜くと同時に、横なぎにふるって吸血マンモスの身体を外へと飛ばす。同時に、巨大な爆発が巻き起こる。

 

「たとえいくら跳躍力に優れていようとも、翼を持たぬお前に私を捉えることは出来ん!」

 

 死人コウモリはそう叫ぶと、大きく飛翔する。確かに、『跳ぶ』のと『飛ぶ』ことは大きな違いがある。いくらライジングドラゴンといえども、跳ぶことしかできないその形態では、死人コウモリを捕らえることは至難の業であろう。

 

 だが、ライジングは止まらない。

 

「超変身!」

 

 今度は、青から緑へと鎧が変化する。ドラゴンロッドを投げ捨て、取り出すのは一丁の拳銃。その拳銃はクウガの力を得て弓と銃を組み合わせたような特殊な武器となる。さらに、銃口に添えられるように雷の力が付加され、強化されている。

 

 超感覚をさらに強化した姿―――ライジングペガサス!

 

「お、おのれぇえええええ!」

 

 疾風のごとくスピードで、波を描くように滑空する死人コウモリ。だが、クウガはそれに惑わされない。ゆっくりと引き金を引く―――同時に、三つの銃弾が放たれる。

 

 一つ目の銃弾は右翼を、二つ目の銃弾は左翼を、そして最後の一発はその眉間を、寸分の狂いなく打ち抜く。

 

 悲鳴を上げることも叶わずに、空中で大爆発する死人コウモリ。空中で燃え上がる炎を背中に、クウガはゴーヤーンとカニレーザーをにらみつける。

 

「これが、古代リントが生み出したと呼ばれる戦士……クウガか!」

「これはいけませんねぇ……!」

 

 圧倒的な力の前に、流石にあせりを感じ始める二人。ゴーヤーンは一つ、ため息をつくと、

 

「仕方がありません」

 

 その姿を消したかと思えば、瞬時に咲と舞の真後ろへと現れる。

 

「もう用が無いあなたたちには、先に消えてもらいましょうか……!」

 

 その腕に黒い玉を生み出すゴーヤーン。

 

「咲ちゃん! 舞ちゃん!」

 

 その姿を見て、二人の下へと駆けつけようとするクウガであったが、その前を暴力的な光が走る。思わず足を止め、振り返ってみると、そこにはカニレーザーの姿が。

 

「貴様の相手は私だ」

「く、邪魔をするな!」

 

 カニレーザーに足止めをされ、駆けつける事ができないクウガ。そんな彼を尻目に、ゴーヤーンは立ち尽くすことしか出来ない二人に言う。

 

「諦めなさい……!」

 

 絶体絶命の状況、変身することも出来ず、助けられることもできない。―――なのに

 

「「絶対に、諦めない!!」」

 

 二人の瞳から、光は消えない。

 

「どんなときも、諦めずに強い心を持ち続けていれば!」

「どんな望みも絶対に!」

「「叶う!!」」

 

 こんな絶望的な状況にも関わらずに、二人の心には諦めも、絶望も無い。どんな闇を目の前にしても、挫けない―――強い心!

 

「気迫だけでどうにかなるほど、世の中甘くありませんよ!」

 

 ゴーヤーンの手の中にある黒い玉が、大きくなっていく。

 

「そろそろ終わりにしますか……!」

 

 徐々に大きくなっていったその黒い玉は、いつしかゴーヤーンと同等の大きさにまで膨れがある。

 

「あなたの想いどおりにはさせない!」

「フラッピもチョッピも!」

「ムープも、フープも!」

「私たちが絶対に!」

「「護ってみせる!!」」

 

「さようなら、伝説の戦士、プリキュア!!」

 

 膨れ上がったエネルギーが、咲と舞に放たれようとしていた、瞬間、

 

「咲ぃー!」

「舞ぃー!」

 

 ムープとフープが一際強い光を放つ。その光は闇しかないダークフォールを煌々と照らし、ゴーヤーンが今にも放とうとしていた黒い玉をかき消す。

 

「何ぃ?!」

 

 驚きに表情を染めるゴーヤーン。二人は、咲と舞を庇うように間に入ると、強い瞳で口を開く。

 

「咲と舞をいじめるなムプ!」

「そんなの、許さないププ!」

 

 その身体からあふれ出していく光が、咲と舞を包み込み、そして彼女たちに抱きしめられているフラッピとチョッピを包み込む。優しい光に包まれながら、フラッピはあることを思い出す。

 

「フィーリア王女が言ってたラピ。みんなで力をあわせれば、新たな力が生まれる……!」

「みんなの力があわせれば」

「新しい力が生まれる……?」

 

 その言葉に、咲と舞は互いに見詰め合い、そして頷きあう。互いに手を握り合い、その胸に大事なパートナーを抱きしめて、そして、叫ぶ。それに答えるように、フラッピとチョッピも、傷ついたからだでありながらも立ち上がる。

 

「私達の力を!」

「みんなの力を!」

「「一つに!」」

 

 六つの心が一つになったとき、まばゆい光とともに奇跡が起こる!

 

「これは……身体のダメージが消えていく……!」

 

 ディケイドが驚くようにつぶやく。見てみれば、仮面ライダー分解光線によって生まれた傷跡が消えていく。そして、それはディケイドだけではない。

 

「ラピー!」

「チョピー!」

 

 ゴーヤーンによって傷つけられ、痛めつけられた二人の身体も回復していく。先ほどまで弱弱しかった声も、いつもどおりの元気が戻っていく。そのまま、咲と舞の手へと戻ると、変身アイテムへと変化するのだが、

 

「何、フラッピなの?」

「いつもと、形が違う?」

 

 そう、いつもの変身アイテム、ミックスコミューンは携帯型の変身アイテムなのだが、彼らが変身したのは、細い棒状の先端に電球がついたような、ペンライトのようなアイテム―――クリスタルコミューン。

 

「話はあとチョピ!」

「咲、舞、早く変身するラピ!」

 

 その言葉に、咲と舞は頷きあう。先端の丸いクリスタルを回し、互いに手を握り合う。そして、叫ぶ。

 

「デュアル、スピリチアルパワー!!」

 

 まばゆい光が彼女たちを包み込み、新たらしい力が生まれる。

 

「未来を照らし!」

「勇気を運べ!」

 

 咲の身体を金色の光が包み込み、舞の身体を銀色の風が包み込んでいく。それは、いつもの大地と大空の力ではなく、月と風の力。新たな衣装に身を纏い、二人は地面へと降り立つ。

 

「天空に満ちる月! キュアブライト!」

「大地に薫る風! キュアウィンディ!」

「「ふたりはプリキュア!!」」

「聖なる泉を汚すものよ!」

「あこぎな真似は、お止めなさい!」

 

 それこそ、月の力-ムープ-と、風の力-フープ-の力によって変身する新たな姿。

 

「月と、風のプリキュアですって?!」

 

 ゴーヤーンも驚きを隠せない。無理も無い、プリキュアがフォームチェンジするなんて、誰も想いもしなかっただろう。ましてや、あれほど痛めつけた妖精たちが、再び力を取り戻すことも。

 

「ユウスケさん!」

「私たちも、手伝います!」

 

 クウガの横に並ぶブライト、ウィンディ。そして、

 

「俺のことも、忘れるなよ」

 

 ディケイド。

 

 四人の戦士たちが、立ち並ぶ。

 

「く、死に掛けのディケイドに、プリキュアが固まったところで、この俺には勝てん!」

 

 カニレーザーはそう叫ぶと、頭部に光を溜める。そのまま、強力なレーザー砲を放つ。構えるクウガたちの前に、ブライトが一歩前に出る。

 

「そうは、させない!」

 

 ブライトが両の手を前に出すと、光が収縮して円形となり、強力なバリアとなる。そのバリアの前に、カニレーザーが放ったレーザーは弾かれる。

 

「馬鹿な、この俺のレーザーを……!」

 

「風よ!」

 

 ウィンディが両の手を払うように広げると、突風が巻き起こり、カニレーザーの身体へを絡めとリ、その身体を上空へと飛ばす。そこへ、ディケイドが、

 

 -Attack Ride Blast-

 

 無数の弾丸が縦横無尽な軌道を描きながらカニレーザーの身体へと叩き込まれる。

 

「ぐぅううう!」

 

「光よ!!」

 

 ブライトの言葉に答えるように、それまでシールドとして機能していた光が玉となり、放たれる。そのスピードたちや文字通り光のごとく、回避する暇も与えずにカニレーザーはと直撃する。

 

「ぐぅ……まだだ、まだ!」

 

 頭部へとエネルギーを溜めるカニレーザー。

 

「あいつ、まだ諦めて……!」

「このままじゃ防げない!」

「だったら!」

 

 ブライトとウィンディは、空に浮かんでいるムープとフープに視線を送る。その視線に答えるように、二人は頷く。

 

「月の力!」

「風の力!」

「「スプラッシュターン!!」

 

 放たれた光がブライトの腹部、ウィンディの左手にともる。それは星型のブレスレットとベルトになる。二人の能力を飛躍的に高めるプリキュア・スパイラル・リングだ。

 

「精霊の光よ、命の輝きよ!」

「希望に導け、二つの心!」

「「プリキュア!!」」

 

 二人が腕を回すのにあわせるように、水のようなエネルギーが固まっていく。それを、前方へと押し出すようにたたき出す。

 

「「スパイラルハート、スプラァァッシュ!!」」

 

 カニレーザーがレザー砲を撃つと同時に、ブライトとウィンディが放つ二つのエネルギーが、真っ向からぶつかり合う。弾けたエネルギーが光の粒子となってあたりに散らばっていく。

 

「く、馬鹿な、俺の力がぁ!?」

 

 だが、徐々にカニレーザーのレーザーが押され始めていく。

 

「「はぁああああああああ!!」」

 

 二つのエネルギーが、カニレーザーを撃つ。聖なる光が彼の身体を包み込む。それは邪悪なものである彼の身体を容赦なく痛めつける。だが、それでも驚異的なタフネフを発揮してなんとか生き残る。だが、すでに満身創痍。

 

「馬鹿な、この俺が、どうして……!」

 

「まだ、わからないのか」

 

 上空に浮かんでいるカニレーザーを見つめながら、クウガの鎧が色を変えていく。―――それは、緑から赤へと。

 

「人と人とが力を会わせれば、どんな絶望だって越える事ができる……人はそれを、『希望』と言うんだ!」

 

 赤の鎧の縁を金色のラインが染めていく。そして、彼の右足には金色のアックレットがつく。赤と金のクウガ―――ライジングマイティ。

 クウガはゆっくりと身体を落とし、右足に意識を集中する。彼の全身の力が、右足にあつまっていき、炎のような真紅のエネルギーを纏う。顔を上げ、カニレーザーへと向かって飛び上がる。

 

「お前は……お前は一体何なんだ!」

「俺は……いや、〝俺も〟!」

 

 そのまま、カニレーザーへと向かって、必殺の一撃を放つ。

 

「通りすがりの、仮面ライダーだぁ!」

 

 その右足はカニレーザーの腰のバックルへと叩きつけられる。そこから、封印の紋章が叩きつけられる。それは、バックルに刻まれると同時に、巨大なエネルギーを放つ。

 

「覚えておけ!」

 

 巨大な爆発が、ダークフォールを照らし出す。その爆発の風に乗って、ディケイドたちの下へと降り立つクウガ。

 

 その姿を、あくまで表情を変えずに見つめているゴーヤーンだったが、

 

「馬鹿な、デストロンの幹部であるあの四人を倒すなんて……どうやら、私もあなた様方の実力を見誤っていたようですな」

 

 そうつぶやくと、まるで空中でなにかを探るようにすると、地面から怪人たちの残骸が浮かび上がってくる。吸血マンモスのキバ、死人コウモリの翼、ザリガーナの甲羅、そしてカニレーザーの鋏。その光景を見て、ブライトが叫ぶ。

 

「何をする気なの、ゴーヤーン!」

 

「簡単ですよ。デストロンの皆様がばらばらで叶わなかったのならば……一つにすればいいんです!」

 

 ゴーヤーンの身体から滅びの力がほとばしり、それぞれの残骸を取り込んでいく。そして、巨大な化け物を生み出す。

 

「そう、これが私特製のウザイナー。そうですね……デストロンウザイナーとでも名づけましょうか!」

 

「ウザイナァアアアアア」

 

 そこに現れたのは、口から巨大なキバを生やし、その背中には巨大な翼と、強固な甲羅を持ち、両手が鋏となっている禍々しい怪獣のようなウザイナー。ゴーヤーンがいう、デストロンウザイナーが誕生したのだ。

 

「こんな、凶悪なウザイナーを作り出すなんて……!」

「とても凶悪な滅びの力を感じるラピ!」

 

 デストロンウザイナーがその腕を大きく振るう。とっさに回避する四人であったが、振るわれた腕が巻き起こした突風が、四人の身体を木の葉のように吹き飛ばす。

 

「く、なんてパワーなの!?」

「どうするチョピ、このままじゃ近づけないチョピ!」

「わからない……でも」

 

「「絶対に諦めない!」」

 

 ブライトとウィンディの声が重なった。

 

「満、薫とまた出会えるってわかったから……!」

「だから、こんなところで止まるわけにはいかないの!」

 

 これまで、不確かだった希望が、あるかどうかも怪しかった希望が、確かなものとなった。それだけで、二人の身体からは力があふれ出てくる。

 

「私たちは諦めない!」

「また、満さんと薫山に出会うまで!」

「「諦めるわけにはいかないの!!」」

 

 彼女たちの叫び声に呼応するように、ライドブッカーから一枚のカードが飛び出した。そのカードを手によるディケイド。そこに描かれているのは、四つの重なり合った星の絵柄。

 

「……ブライト! ウィンディ! ユウスケ! 決めるぞ!」

「おう!」

「「はい!!」」

 

 そのカードを、ドライバーへと差し込む。

 

 -Final Attack Ride!-

 

 ディケイドライバーの電子音が、鳴り響く。

 

 -HUTARI HA PRECURE SPALSH☆STAR!!-

 

 ドライバーに浮かび上がる文字は、「DECADE SPALSH」の文字。ディケイドライバーの言葉に答えるように、ブライトから金色の光が、ウィンディから銀色の光が分離する。

 

「え、私達の格好が……」

「いつものに戻ってる?」

 

 そう、ブライトの姿がブルームに、ウィンディの姿がイーグレットへと戻る。そして、分離した光は彼女たちの目の前で人の形を作っていき、そして……

 

「そんな……!」

「うそ……!」

 

 二人の目の前に現れたのは、

 

「久しぶりね、咲、舞」

「こんな形だけど、再会できて嬉しいわ」

 

「満!」

「薫さん!」

 

 そこにたっているのは、先ほどまで封印されていたはずの、満と薫の姿であった。先ほどまでの灰色一色の色とは違い、満は黄色のドレスを、薫は水色のドレスを着ている。二人は、ブルーム、イーグレットに告げる。

 

「いきましょう、咲」

「舞、ここでの戦いを終わらせるために」

 

「うん! やろう、満!」

「行きましょう、薫さん!」

 

 四人は、並びあうと、その手をまえに出して、

 

「精霊の光よ!」

「命の輝きよ!」

「希望に導け!」

「みんなの心!」

 

「「プリキュア!!」」

 

 花、鳥、風、月、よっつの力が集まり、一つの巨大なエネルギーとなっていく。エネルギーのまえへと、飛び上がるディケイドとクウガの二人。

 

「「スパイラルハート!!」」

 

 その言葉にあわせ、蹴りの体勢をとり、

 

「「スプラッシュスタァーー!!」」

 

 前方へと押し出されたエネルギーは、ディケイドとクウガの背中を押し、彼らの身体を覆いこむ。自然をつかさどる四つの力を見に纏い、二人のライダーはデストロンウザイナーへと渾身の蹴りを放つ!

 

「「うおおおおおおおお!!」」

 

「ウザイ、ナァアアアアアアアアア?!」

 

 攻撃から身を護ろうとして、鋏を振るうも、圧倒的な攻撃力のまえに砕け散り、背中の甲羅も叩き割り、その蹴りはウザイナーの中心を穿つ。自分の核を打ち抜かれて、全身から光り始めるウザイナー。

 

「こ、これはいけません!!」

 

 その光景をみて、ゴーヤーンは急いでその場から退避する。

 

「夏海さん!」

「ムープ! フープ!」

 

 夏海をブルームが、フープとムープをイーグレットが回収して同じように飛び立つ。クウガも、ディケイドとともにマシンディケイダーに跨って走り出す。

 

 その数秒後、巨大な光がゴーヤーンの住処ごとあたり一面を消し飛ばした―――。

 

 

 

「びっくりした。まさかあんな大爆発起こすなんて」

 

 今もなお、煙を上げている海面を見つめながら、ブルームは言った。彼らは来るときにわたった氷の道の上にいて、その周りにはディケイドとクウガも無事に退避できている。

 

「でも、よかった……また、満さんと薫さんに出会えて」

 

 イーグレットが満、薫のほうを向いて笑顔で言うと、それにブルームも笑顔で頷く。その姿を、満と薫も笑顔を浮かべる。

 

「そうね、私たちも」

「また、咲と舞に出会えて嬉しかった」

 

「でも、もう時間切れね……」

 

 そういうと同時に、二人の身体がゆっくりと透明になっていく。

 

「満?!」

「薫さん?!」

 

「大丈夫、消えてなくなるわけじゃないわ」

「ただ、再びあそこで眠るだけ」

 

 二人を安心させるように、満と薫は優しい声音で言う。そう、彼女たちの力はディケイドによって一時的に現れた幻であり、彼女たちの封印が解かれたわけではないのだ。だから、技が終わった以上、彼女たちは再び戻らなければならない。

 

「たとえ一瞬でも、咲と舞に出会えてよかった」

「満足に会話もできなかったけど、二人の笑顔を見れて……良かったわ」

 

「満……必ず、必ず私たちが助け出すから!」

「だから、待ってて、薫さん!」

 

 その両の瞳から涙を流しながらも、笑顔を浮かべる咲と舞に、満と薫も笑顔を返す。

 

「ええ、待ってるわ。咲、あなたたちとまた出会える日を」

「ずっとずっと、待ってる。舞、またみんなとである日を」

 

 消えていく中で、互いに笑いあう少女たち。その姿が掻き消えるまえに、士はシャッターを下ろした。

 

 

 

「咲、舞」

 

 帰り道、夕日が沈む街中を歩きながら、フラッピが声を上げる。

 

「助けてくれて、ありがとうラピ」

「ありがとうチョピ」

 

 その、二人の精霊の言葉に、咲は首を横に降った。

 

「ううん、私たちだけの力じゃないよ」

「みんなの気持ちが一つになったから、望みが叶ったのよ」

 

 夕日が海面に沈んでいく。そしてその真っ赤な光が、夕凪町を照らしていく。

 

「フィーリア王女が言ってたこと、本当だったのね」

「うん、満とも、薫とも、また出会えた。だからきっと」

 

「「希望を捨てなければ、願いは叶う」」

 

 夕日を前にして、二人は決意を新たにする。

 

「この綺麗な世界を、そしてフラッピたちの世界も、ダークフォールには渡さない」

「そして、また満さんと薫さんに出会う」

 

 互いに手を握り合う二人。

 

 昨日まで不確かだった希望を、今度は確かな希望に変えて。―――彼女たちは戦い続ける、再び親友と出会える日まで。

 

 

「俺、護れたかな」

 

 そんな二人を見つめながら、ユウスケは小さく呟いた。

 

「ああ、お前は護ったさ、あいつらの笑顔をな」

 

 士の言葉に、ユウスケは、小さく笑った。

 

「行くぞ、ユウスケ」

「ああ、士」

 

 二人が、光写真館へと向かおうとしたときだった。

 

「まちたまえ、小野寺ユウスケ」

 

 一つの声が、彼を呼び止めた。振り返ってみれば、そこにたっているのは、鳴滝。

 

「鳴滝さん、どうしてここに……?」

 

「小野寺ユウスケ、君に会いたがっているひとがいる」

 

 彼の言葉に合わせるように、銀色のオーロラが走る。そこから、現れたのは、

 

「貴方は……八代、警部?」

 

 警察官の服に身を包んだ一人の婦警。彼女の名前は八代淘子、アギトの世界で出会った、ユウスケの大切な人と瓜二つの人物。その彼女が、一台のバイクを押しながら現れた。

 

「どうして、貴方がここに……?」

「ショウイチから聞いたの。貴方が、世界のために戦っているって。だから、これを渡しに」

 

 そういって彼女は自分の押していたバイクを見せる。どこなく、トライチェイサーに似てるデザインでありながら、トライチャイサーをより力強くしたようなデザイン。

 

「これは?」

「ビートチェイサー2000。ガードチェイサーを作る課程で出来た試作品なんだけど、誰にも扱えなくて……でも、貴方ならきっと、乗りこなせると思って」

「これを、俺に?」

 

 ユウスケの言葉に、八代は笑顔で頷く。その顔を見て、ユウスケは嬉しそうに笑いながら、

 

「ありがとうございます、八代さん」

「いいの。貴方も、がんばってね、ユウスケ君」

 

 その言葉に、ユウスケは敬礼で返した。

 

 

「とりあえず、これで三つ目の世界も終わったな。ようやく折り返しってところか」

 

 光写真館に戻り、ほっと一息をつける士たち。

 

「ほぉ、士君、なかなか綺麗な写真じゃないか」

 

 栄次郎が見つめているのは、この世界で士が取った写真だ。そこには、夕日を見つめながら手をつなぎあっている咲と舞、そしてそれを見守るように重なっている満と薫の姿。

 

「あと二つか。ま、どんな世界が待っていようが俺は構わんがな」

「その自信は一体どこからくるんですか?」

「まぁまぁ、いいじゃないか。そうだ、お茶にしようじゃないか!」

 

 っと、栄次郎は立ち上がるものの、足を絡めてしまいバランスを崩してしまう。

 

「あら、あららららら!」

 

 と、彼が絵を支えている柱に咄嗟に倒れこんだとき、新しい絵が現れる。

 

「これが、次の世界、か?」

 

 そこに描かれているのは青いバラに赤いバラ、そして、その中央にある蝶の紋章。

 

「ああ、これが次の世界、だ」

 

 続く。

 

 次回の仮面ライダーディケイドは!

 

 新しいプリキュアの世界へと足を踏み入れた士たちを待っているのは、これまでとは全く違う新しいプリキュア。

 

「「希望の力と!」」

「「未来の光!」」

「「華麗に羽ばたく五つの心!」」

「「Yes! プリキュア5!!」

 

「……プリキュアって、二人じゃないんですか?」

 

 なぜか士たちのことを知っているプリキュアたち

 

「士さん、お久しぶりでーす!」

 

 そんな中、迫りくるスーパーショッカーの魔の手

 

「さぁ、お前の願いを言え」

 

 そして、エターナルのまさかの手段で士たちに襲い掛かる。

 

「変身、だったかぁ?」

 

 第7話「5GoGoの世界 シロップが裏切った?!」


 
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