No.684594

真恋姫無双~風の行くまま雲は流れて~第79話

GWおわた

2014-05-07 00:40:56 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:6540   閲覧ユーザー数:5176

 

はじめに

この作品はオリジナルキャラが主役の恋姫もどきな作品です

原作重視、歴史改変反対な方、ご注意ください。

 

 

「これはもう要らないから」

そう笑った覇王の足下から宙へと転がり出た『それ』が落下する様を城外にいた者は皆無言のままに見つめていた

着地の衝撃で僅かに砂埃がひらひらと舞い…風に溶けていく、そこまでを見届けてその場の誰もが胸の内に問いた、一体今のは何だったのだろうと

どういうわけか覇王は『何か』を此方に返したいと考え、ご大層にもその『何か』をあの高さから此方へと向けて足蹴に落としたのだ

 

はてと、不思議な事もあったものだ

 

さも満足そうに笑うあの小娘に一体何を貸したものだろうと

「『これ』も返してあげる…もう『要らない』から」

あのような『物』一体何時誰が貸したと言うのだろうか

そもそもに

『あれ』は一体何だったのだろう

思考に霞み掛かったように『あれ』が何なのか思いつかないのは果たして何故なのだろうと兵達は一様に首を傾げた

戦場で興奮が過ぎたのだろうか、覇王のそれが挑発の類なのだと理解して尚、それが一体、どういう意図のものなのかと考えに考えても答えが浮かんでこない

まるで

その可能性を拒否するかのように

「田豊様だったのでは?」

不意に聞こえた誰のものと知れぬ呟きに何を馬鹿なと声の元へと振り返った

彼の方は戦死されたのだ、お前も見ていただろう

彼の死に様を、首を刎ねられた様を

首が落ちた様を

今まさに、覇王が見せたように

 

次の瞬間、彼等は破城鎚へと駆けだした

先に秋蘭を始めとする弓兵、投石機による反撃から一時放置されていた攻城兵器を再びに城門へと押し当てる

 

「退きなさい!」

 

その声を袁家の二枚看板の片割れと知る彼等は破城鎚より一歩下がり城門の向こうへと殺気立つ各々が武器を構えた

 

自信の手で討ち取らねばならない

我らの逆鱗に触れたのだから

轟音と同時に大量の土煙が巻き上がり、その瞬間まで頑なに侵入を拒んでいた城門は甲高い悲鳴にも似た音を立てて半ば崩れながらに開いていった

 

その様を後方で目の当たりにした比呂が舌打ちを鳴らした

 

直前に閂を外したな

 

いくら彼女と金光鉄槌を持ってしても破城鎚の一撃で城門が破れる訳が無い、それが予めに此方を城内へと招き入れる罠とすれば説明もつく

だがそんな事は最早お構い無しに彼等は城内へと『飲み込まれて行く』最前列の兵が城門の向こう側で待ち構えていた魏軍による矢の水平斉射の的なり重なるように倒れていった

だが味方の断末魔すら怒号で掻き消して彼等は進んだ、前のめりに倒れる仲間の背中を踏み越えたところで矢を受け自身もまた倒れてゆく、一人の命と引き換えに彼等は進む、既に城門から城内へと袁家の兵で埋め尽くされ、一人が絶命する度に彼等は前進していった

 

追いつかねばなるまい

止めねばなるまい

 

数千の兵が密集し姿形も判別出来ぬあの中に、彼女が居る…だが

 

「ほう、此処で足止めか」

 

彼の行く手を遮るように立つ三つの影

 

「当然でありましょう?…貴方と切り離すために総大自らが芝居を打ったのですから」

 

凪の言葉に真桜、紗和が頷いた

 

此処で霞、彼女が降りてこない事は予測出来ていた

彼女は月の側を離れられない、むしろその為に月を同行させたのだ

言わば彼女は張遼という敵将の首に下げた鈴だ、それを理解しているが故に魏軍切っての勇将は動けずにいる

勿論に此方が出向くのを今か今かと待っているだろうが

 

さも残念そうな表情と視線を城壁から乗り出して向けてくる霞が視界の端に映り、思わず笑みが漏れる

 

それを余裕からなるものと取り、三人共に眉をつり上げた

 

「なんやウチらじゃ不足かいな?」

「感じ悪いの~」

「馬鹿か貴様等は、実力が及ばないと討伐ではなく時間稼ぎを命じられたのだろうに…まあ気分を悪くする事は無いぞ。俺は褒めているのだ貴様等の軍師を。ようやくに手駒の有象無象では俺に敵わんと理解したのだろう?」

「挑発だ!乗るんじゃない!」

 

先程に同じくして貶められた秋蘭の言葉も聞かず真桜の螺旋槍が急回転と共にキンキンと唸り出した

どうやらに今しがたに此方を貶めた事は頭から抜けてしまったようだ

 

「ご教示願いましょう、貴方がどれ程のものか」

「構わんさっさと来い、俺は忙しいのだ」

「あかんねアレ、人選間違うたで」

 

縁に肘を付き手の甲に顎を乗せて様子を伺っていた霞がポツリと呟き、隣で同じく眺めていた凜が眉間にできた皺を人差し指でぐりぐりと解しながら毒づいた

 

「…あんの馬鹿共」

「え?何?駄目そうなの?」

 

彼女等を背に城内の様相を伺っていた華琳が二人の肩越しに視線を向けると比呂が凪へと三本目の矢を放つところだった

 

「目眩ましや、突っ込んだらあかんで」

 

霞の言葉の直後、放たれた矢を重心を低く屈めて代わし、尚も加速そのままに比呂の懐へと飛び込まんと踏み出した凪の身体がくの字に折れた

 

「阿呆やな~向こうも踏み込んで来ることも考えんと突っ込んでからに」

 

相手との距離を詰めようと踏み込んだところに『待ってました』とばかりに比呂の拳が鳩尾にめり込んだのだと解説した

 

胃液を吐き出し倒れる凪の身体をすり抜けるように紗和の二天が突き出されるが

 

「もう其処にはおらんて」

 

肩を引いて身体を捻じり、避けると同時に入れ替わるように比呂がその背後、紗和の首元へと手刀を入れる

瞬間、膝から崩れ落ちるとその手が紗和の結った髪へと伸び、力任せに引き上げる

 

「真桜!止まりぃや!」

 

一本目、二本目の矢の標的となり二人から遅れた真桜の螺旋槍が比呂へと突き出される直前に、比呂がその右手に掴み上げたお下げ髪の身体が高速回転する螺旋槍の先端へと向けられた

 

「あかん!」

「真桜!」

 

思わずに目を瞑った彼女等が数秒の沈黙の後にゆっくりと瞼を上げると同じくして城壁の上で見守っていた全員が胸を撫で下ろした

 

その視線の先、真桜が咄嗟に目標から逸らした螺旋槍が比呂と紗和の身体の直ぐ横の地面に突き刺さり、カラカラと空しく音を立てていた

全身から吹き出た汗と早鐘の様に胸の内をつく鼓動に肩で息をする真桜へと比呂が語りかける

 

「嫌いじゃないんだがな…そういうのも、時に命取りになるぞ」

 

だが

 

「よくやった、俺の負けだ」

 

そう呟いた比呂が目にしたのは両手を後ろ手に縛られ膝をつく麗羽と

 

「貴公が居たのだったな」

 

折り重なるように倒れた袁家二枚看板の横に立つ愛紗の姿だった

 

 

つづく

 

さてさてぼちぼち官渡も終わりそう(笑)

長かったな〜しみじみ

 

 

 

 
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