No.681112

「真・恋姫無双  君の隣に」 第21話

小次郎さん

愛紗たちに会いに行く事に決めた桃香
戦を終えた一刀たちはこれからの事を話し合う

2014-04-24 05:59:48 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:18470   閲覧ユーザー数:11939

「御遣い様、色々とありがとうございました」

私と朱里ちゃんは虎牢関を離れる御遣い様にお礼を言います。

「道中気を付けてね、彼等がいるから大丈夫だろうけど」

御遣い様の言ってる私と一緒に来てくれる彼等とは、捕虜になっていた連合の人達です。

休戦が成立して殆んどの人達は所属していた軍に戻ったんだけど、三十人程の人達が私に付いていくと志願してくれました。

「本当にありがとうございます。私、御遣い様の敵になってた愛紗ちゃん達に会いに行くのに、路銀や食料まで頂けて」

許してもらえるとは思わないけど、愛紗ちゃん達に会って話をしたいんです。

私がどれだけ自分に甘かったのか、自惚れていたのか、ようやく分かりました。

戦が駄目な事ばかり考えて、暮らしを良くする事を考えてなかった。

毎日の積み重ねが実を結ぶなんて、すっかり忘れてました。

私より努力して民の事を考えてる人が居ない訳ないのに、私達が一番正しいなんて思い上がってました。

うう、すっごく恥ずかしいよ~。

「きっと関羽さんも君に会いたいと思ってるよ。姉妹喧嘩したから最初は意地を張るかもしれないけど」

「姉妹喧嘩って、酷いです、そんなんじゃないです!」

「違わないよ、喧嘩一つしない家族や仲間なんてそれこそおかしいよ。会話や喧嘩を繰り返してこそ相手の気持ちを知っていくんだから」

う~、その通りです。

私、完全に子供扱いだよ。

「彼等もそうだろう?俺の軍にいた君が敵である彼等を治療しようとした時、味方からも彼等からも詰られた。でも君は諦めずに、目の前の傷ついた人を治療するのに敵も味方もないと意志を貫いた」

それは、御遣い様が治療を認めてくれたからです。

私が客人の立場だったから、私個人だったら無理だったと思う。

「こんな荒れた世の中だ。力が無ければ誰も言う事なんか聞いてくれない。でも全てじゃない、優しい心が通じる事だってあるんだ!」

御遣い様の言葉には悲しい気持ちが一杯あふれています。

「君が思い描く皆が笑っていられる世の中、俺は好きだよ、とても素晴らしいと思う」

・・やだ、泣いちゃいそう。

「でも絵空事だ、君も内心では分かっているように。分かっているからこそ訴え続けてたんだろう、認めたくなかったから」

やっぱり見透かされています、でも、でも私は。

「ごめん、言い過ぎたね。俺も似たような夢を持っているから、他人の事は言えないのにね」

似たような夢?

「御遣い様の夢って、どんな夢なんですか?」

「まだ言えないかな、下地を作ってる最中だし」

ずるいです、すっごく気になるのに。

私が頬を膨らませていたら、御遣い様が袁術さんに呼ばれました。

「呼んでるから行くよ。どんな形で再び会うかは分からないけど、元気でね」

「はい、御遣い様もお元気で」

御遣い様、私、頑張ります。

厳しい事一杯言われたけど、一度も諦めろとは言われなかった。

教わった事、学んだ事、気付かせてもらった事、一生忘れません。

今度出会えた時には、成長した私をお見せしますから。

勝手な思い込みかもしれないけど、きっと喜んで貰えると思うんだ。

・・だからその時は、私の真名を受け取って下さい。

 

 

「真・恋姫無双  君の隣に」 第21話

 

 

戦を終えて洛陽に戻った俺達を迎えてくれたのは、洛陽に住む人達の大歓声だった。

民達からお礼の言葉が次々と掛けられて、気恥ずかしかったけど笑顔で返す。

「あらあら、凄い歓声ですねえ」

「当然なのです。月殿が荒廃していた洛陽を懸命に復興されてたのを皆が知っているのです」

「月、一生懸命だった」

「うん、分かるよ」

「その月殿を護ってくださった一刀殿に、本当に皆が感謝してるのです」

感謝の気持ちはありがたく貰うけど、全ては董卓殿あってこそだと改めて思う。

そんな董卓殿を漢帝国の中枢の奴等は、自分達の権力を守る為に滅ぼそうとした。

改めて怒りが湧いてくる。

俺は宮廷に呼ばれていたが、戦での負傷を理由に固辞した。

明後日に董卓殿は長安太守として洛陽を出るので、俺達も併せて寿春に帰る予定だ。

今日、明日は董卓殿の私邸に滞在させてもらう事になってる。

兵達にも交代で休んでもらう、少しだが一時金を渡すから洛陽見物でもしてくれと伝えたら大喜びされた。

邸の玄関で董卓殿と星と翠が待っていてくれた。

俺は慌てて駆け寄ると董卓殿が頭を下げて、

「御遣い様、本当にありがとうございました。此度の御厚情、董仲穎、生涯忘れません」

「皆がいてくれたから成し遂げられたんだよ。君もその一人だ」

「御遣い様」

「一刀、そう呼んで欲しい」

「はい、はい、一刀様!私の事は月とお呼び下さい」

「月」

「一刀様」

まいった、本当に可愛いなあ、俺の世界の董卓とイメージがかけ離れ過ぎだろ。

華琳達は性別が違うだけでそうでもないけど。

「なあ、あたしら空気扱いされてね?」

「翠殿、そこは野暮というものですぞ。ここは温かく見守ろうではありませんか」

俺と月は我に返って、

「へう、み、皆様、お疲れ様でした。お部屋にご案内しますので、どうぞお休み下さい」

「さ、さあ皆、お疲れ、ゆっくり休もう」

皆笑顔だけど、幾つか殺気を感じる。

「月殿、一刀殿、そう急がずとも、先ずはお互いの自己紹介を致しませぬか?初顔の方もいらっしゃるようですから」

ニヤニヤしながら星が指摘する。

確かにその通りだけど、俺としては場を離れたかった。

微妙にアレな雰囲気の中で全員の紹介を終え、各自割り当てられた部屋で休んだ。

夕食が出来たと聞いて食堂に行くと、満漢全席が俺達を待っていた。

何でも洛陽の人達が食材を次々に色々と持って来てくれたらしい、それも料理人付きで。

ありがたく頂き、恋の食べてる姿に癒されて心も身体も大満足。

出来るならゆっくりしたかったけど、出発は明後日、時間が無いので今後の方針を話し合う。

「翠、蒲公英。俺達に力を貸してくれた事、とても感謝してる。本当にありがとう」

俺は頭を下げ、美羽や月達も同じように頭を下げる。

「や、止めてくれよ。むしろ最初は敵に回ってて本当に悪かった。謝っても謝りきれない位なんだ」

「そうだよ。味方になる切っ掛けをくれた一刀様には、逆にお礼を言い足りないくらいなんだから」

「でも、馬騰殿の命に逆らった事になるだろ。結果で不問になるとは思えない」

いくら娘や一族とはいえ、臣の立場には違いない。

命令違反に独断行動、どう考えても極刑ものだ。

「ああ、その事なら昨日妹達が来て、国への帰還を認めないって言われたよ」

「そうなの?お姉様」

「ああ、兵は妹達が連れて行く。ただ、あたしに付いて来たいと言ってくれる者は好きにしていいってさ」

「叔母様にしては随分甘いね。死んだほうがましって位の折檻を覚悟してたのに」

「まったくだ」

二人は笑ってるけど、笑えないって。

「本当にすまない、二人の事は俺が絶対に責任取るから」

室内がどよめいて皆が俺を凝視する、あれ?俺なんか変な事言ったか?

翠が真っ赤になって、

「せ、せ、せ、責任ってどういう事だよ、ま、まさかあたしらを」

「はいはい、落ち着いて下さい。この朴念仁がそこまで考えてるわけないじゃないですか。その事に関しましてはいずれ全員責任取ってもらいますから、話を戻しましょう」

七乃が場を落ち着かせてくれたけど、どういう事?

あれ?一瞬華琳が絶を振りおろす姿が見えたけど。

「一刀様、本当に気にしなくていいから。責任は取って貰うけどね♪」

「たんぽぽ、余計な事言わなくていい。一刀、本当に気にしなくていいから。妹達が言ってたんだ、母様は嬉しそうに笑っていたって」

翠の笑顔を見て思う。

馬騰殿もこんな笑顔を見せてたんじゃないかなって。

翠達の今後については一旦保留にして、どう切り出すか悩んだけど月に謝る。

「月。詠に霞、華雄殿の事。すまない、俺の力が足りなかったから」

「いいえ、一刀様。美羽ちゃんにもお答えしましたが、私は詠ちゃんと霞さんの行いを誇りに思っております。華雄さんの事は主である私の責です、改めてお詫び申し上げます」

毅然とした月にこれ以上何も言えなくなった。

ただ、月を守れた事が誇らしかった。

 

今ですね。

「美羽様、月さんに話された事。皆さんの前で一刀さんに話してはいかがですか」

「良いのか?大事な話をしているところじゃろ?」

「はい、今が一番いいと思います。ここが私達の新たな出発地点です」

美羽様は力強く頷かれます。

「一刀、皆、聞いて欲しい事があるのじゃ」

美羽様は精一杯御自分の気持ちを伝えてます。

既に聞いている月さん達も黙って見守られてます。

一刀さんも凪さん達も呂布さん達も美羽様の思いを聞かれてます。

全てを言い終えた美羽様の両手を一刀さんが手に取りました。

「美羽、美羽の気持ち、確かに受け取ったよ」

凪さん、真桜さん、沙和さんが膝をついて、

「美羽様、我ら袁家に仕えしこと誇りに思います」

そして私も膝をつきます。

「美羽様、一刀さん、この命尽きるまで共にある事を誓います」

 

今、この大陸に新たな王が生まれました。

私はこれから天水と長安の太守を兼任する事になってます。

一刀様達への御恩はどうお返しすればいいのか、ずっと考えてました。

でも、もう迷いはありません。

詠ちゃん、きっと賛成してくれるよね。

私は膝をつき、臣下の礼をとります。

「一刀様、董仲穎、貴方様に忠誠を誓います」

一刀様は驚いた顔をされて、私に声を掛けようとしますが。

「恋も一刀と一緒にいる」

恋さん。

「陳公台、恋殿と一緒に一刀殿に忠誠を誓うのです」

ねねちゃん。

「趙子龍、この身、主に捧げましょう、ご存分にお使い下され」

星さん。

「馬孟起、我が武、あんたの槍となる」

翠さん。

「馬岱もお供します」

蒲公英さん。

そして美羽ちゃん達も一刀様に臣下の礼をとります。

一刀様は私たちを静かに見つめて、

「・・俺は、皆が思ってる程強くない。人の上に立つ者の言う事じゃないと思うけど、ここにいる誰一人、失いたくない。失ったら俺は俺でいられなくなる。皆が居てくれてはじめて俺は前に進めるんだ。・・そんな弱い俺でいいのか?」

きっと本心を話されてる一刀様に、私は暖かな気持ちになります。

天の御遣い様ではなくて、等身大の一刀様に出会えて分かりました。

御恩ではなくて私がこの人と一緒に居たいだけ。

この人が好きなんです。

きっと皆さん同じ気持ち。

「はい。そして私も誓います。一刀様を決して悲しいお気持ちには致しません」

「大丈夫、恋、強い」

「ねねと恋殿に任せてほしいのです」

「フッ、私の眼に狂いはなかったな」

「しょ、しょうがねえな、あたしも誓ってやるよ」

「うん、ずっと一緒だよ♪」

「そうじゃ、ずっと一緒なのじゃ」

「はい、その通りです、美羽様」

「当然やで大将」

「沙和もなの~」

「我が誓い、変わりはありません」

 

今迄の大陸の在り方を根底から覆し、千年後も民から愛され敬われた一刀様の国。

これが「華」、または「北華」と呼ばれる国の誕生でした。


 
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