No.680736

相良良晴の帰還19話前編

D5ローさん

織田信奈の野望の二次創作です。素人サラリーマンが書いた拙作ですがよろしければお読み下さい。注意;この作品は原作主人公ハーレムものです。又、ご都合主義、ちょっぴりエッチな表現を含みます。そのような作品を好まれない読者様にはおすすめ出来ません。
追記:仕事の合間の執筆のため遅筆はお許し下さい。

2014-04-22 20:40:57 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:15501   閲覧ユーザー数:13769

桶狭間の戦いの後、尾張の弱小大名と思われていた織田家の名は、一挙に周辺大名に知れ渡った。

 

勿論、東海道一の今川家を破ったのは不意討ちという卑怯な手段と悪天候が理由であり、尾張が弱小ということに変わりはないと言う大名達も居るには居た。

 

だが、多くの有力者は、この事件を境に、尾張の見方、付き合い方を変えていく……

 

今、目の前で滝のような冷や汗を流して、土下座している松平元康も、その一人であった。

 

今川軍を平らげた事により、良晴との約定通り、人質という身分より解放され、小国ながらも独立を果たした筈の少女が、何故このように動揺しているのか?

 

その理由は、読者も薄々お気づきであろうが、良晴が原因である。

 

誤解が無いように言っておくが、この度の戦において、尾張から見れば彼女の行動になんら問題は無い。

 

尾張との約定通り、戦闘前に今川軍を裏切って信奈達に有利になるよう動き続けたし、その後に独立する際も、三河以外の土地を無理に自領として掠めとることも無かった。

 

現代風に言えば、winーwinの取引であった。

 

元康も、信奈に呼ばれ、武将が並ぶ大広間に案内されるまでは、いくら傍若無人な『吉姉様』でも、ここまで尽くせば、たとえ一時期敵味方に別れていたとしても許してくれるだろう、と思っていた。

 

……評定の間の上座近くに座る、一人の武将を見るまでは。

 

元康にとっての試練は、評定の間に着いてから始まった。

 

「よく来たわね、竹千代」

 

上機嫌で歓迎の言葉を口にする信奈に、元康は口元を僅かにほころばせた。

 

誤解されがちだが、元康は時々ついていけなくなることはあるが、この良くも悪くも裏表がない姉貴分が嫌いでは無かった。

 

それに、今回の戦で織田軍に有利な戦運びをした自分達は信奈に怒られる真似はしていないはずだ、という認識が、元康の緊張を緩和させていた。

 

……そう、信奈以外の面々を横目で見れるくらいに。

 

……ん?

 

………あれ?

 

なんだか、戦場で刀を向けた相手が、信奈様の横にいるよ。

 

冷や汗が滝のように流れ始めた。

 

周りを強国に挟まれた上に、人質にされた時期が長く、感情を制御するすべに長けた元康でも、流石にこのイレギュラーは読めなかった。

 

正直、笑顔を保っていられたのは奇跡である。

 

「どうしたの?竹千代。凄い汗よ」

 

信奈より心配そうな声がかかる。

 

「え、ええ、問題ありませんわ、吉姉様。オホホホ……」

 

「いや、明らかに可笑しいわよ」

 

動揺しすぎて今川義元の真似のような口調を漏らす元康にすかさず信奈はツッコミを入れる。

 

だが、残念ながら、元康はそのツッコミに耐えられる精神状態になかった。

 

バカな、何故、そんな……

 

ネガティブな思考が次々と駆け巡る中、元康はとりあえず場凌ぎの言葉を絞り出した。

 

「……いや〜、吉姉様の近くにいらっしゃる男性、この度の戦では獅子奮迅の活躍をされたと小耳に挟みまして〜。……ハハッ、か弱い私は震えてしまいましてぇ〜」

 

顔をひきつらせながら紡いだ元康の言に、よくぞ言ってくれたとばかり信奈は膝を叩いて笑った。

 

「ふふ、なかなか分かってるわね、竹千代。せっかくだから紹介するわ。我が織田家の新しい支柱の一人、相良良晴よ!」

 

そういって会釈する、青年に、おそるおそる目を向ける。

 

(……く、空気読んでくれるよね、ね?)

 

客観的に見ると、松平元康が行った、『良晴に刃を向けた』という行為は別に問題にするモノでは無い。

 

あの時、元康は今川義元の指揮下にあり、明らかに不審な態度をとった良晴に対して攻撃を加えた事は、決して信奈の逆鱗に触れたくてやった事では無かった。

 

……だが

 

元康は、幼い頃人質の自分をつれ回した信奈の『身内』に対する執着の強さを身に染みて実感していた。

 

流石に決定的な亀裂にはならないだろうが、見立てではかなり高い確率で元康の行為に不快感を覚えるだろう。

 

その場合、元康の取り返した地元『三河』は、西に織田、東に武田と二つの潜在的な敵を抱えるという極めて危険な状態となる。

 

あ、どうしよう、涙出てきた。

 

だが、松平元康は弱音を吐くわけにはいかない。

 

若輩ながらも、今の彼女は三河を背負う『大名』なのだから。

 

頭の片隅によぎる走馬灯をあえて無視し、良晴の言葉を待つ。

 

「お初にお目にかかります。この度、先達の御厚意と御協力により、織田家武将の末席を頂いた相良良晴と申します」

 

覚悟して待った言葉は、彼女の予想の斜め上をいった。

 

何故、何も要求しない?

 

仮に今回の件に対して責めるつもりが無かったにしても、今回の件をそれとなく交渉のテーブルに乗せれば、後にどれ程の利益を産むか想像もつかない。

 

その苛烈な性格のため、老若男女区別なく数えても、友人や師などの親しい相手が十人に満たない信奈様がべた褒めする男が、その辺りを理解していない筈がない。

 

……何処?何処に『彼』のメリットがあるの?

 

自らの腹心であり、忍びでもある服部半蔵に調べさせた所、相良良晴は、素性が明らかで無い事を除けば、文武両道かつ政治学も達者という、なんで信奈姉様ばっかりこんな良い物件をウギギと言いたいくらいの優良物件だと判明している。

 

既に譜代の柴田と前田両家が側室を嫁がせているという所から見て、頭でっかちではなく、実地での頭の回転もそれなりに早く、政治的な駆け引きも出来るはず。

 

昔からの知り合いであるならともかく、斬りかかった相手に手心を加える意味が正直不明である。

 

はっきり言って、気味がわるい。

 

慎重さを重要視する元康の性格と、長い人質時代の経験は、良くも悪くも、信康を用心深くしていた。

 

「ええ〜、始めまして、松平元康と申します。吉姉様からは『たぬき』と呼ばれとりました〜、いや〜大した武者ぶりですね」

 

少しでも長く観察するために、あえてゆっくりと話していると、同じく笑顔で良晴が返した。

 

「いえいえ、拾って頂いた師匠が良かったんですよ。それに、今回の戦では松平殿にも……特に『服部半蔵』殿にも非常にお世話になりましたよ。是非又お話したいですね」

 

その返しに、元康の脳内に理解の光が煌めいた。

 

元康の信頼する三河武士の中でも、諜報や破壊工作などの忍の技を修めている半蔵の名前を口にするからには、何かしら自分に便宜をはかって欲しいことがあるのだろう。

 

そしてその内容はおそらく……

 

元康は、上座で笑みを浮かべる信奈を横目でちらりと確認する。

 

作り物ではない、心からの笑み。

 

常人ならば、当たり前に浮かべることができるその笑みの『得難さ』を、元康は知っていた。

 

実の母親に疎まれ、血を分けた弟を政敵として見なければならない日々。

 

幼なじみの幾人かしか信頼できることが出来ない事は、織田信奈という少女の心を、『孤独』へと追いやった。

 

(……だから、今まで吉姉様が側に近づけたのは、年配の分別ある大人か、幼なじみだけのはず。その姉様があそこまで親しくするのは、姉様が相良良晴を……)

 

好きなのだろう。間違いなく。

 

そしてその情報は、もう一つの半蔵から得た情報により元康を真実に導く。

 

(相良良晴は、『正室』を迎えていない……世間一般では他国との同盟の際の取引材料にするつもりだといってるけど、吉姉様の態度で分かる。『身内』をそういった使い方はしない。となると『その位置』は、きっと吉姉様の物ですね)

 

この戦国乱世においての『常識』を踏まえれば、いくら優秀でも、素性不明の相良良晴と織田信奈が結ばれるという事は、『血筋』を重視する世の流れと真っ向からぶつかる難事であり、どう考えても様々な大問題を引き起こすため、いくら『うつけ姫』でもやらないだろう……

 

そういった世間一般と同様の考えを、信奈を知る元康は決して持たない。

 

間違いなく、やる時はやる。

多分、吉姉様は、『良晴さんの血筋がどうだろうが』結ばれようとするだろうけど……

 

可能ならば『穏便に婚姻を結びたい』とも思っているはず……

 

そして『三河近辺』はその利便性より大小の争いが絶えず、ある程度『行方不明』の豪族がいる場所……

 

これは使える。

 

(確か半蔵は、ここら近辺の血筋に詳しかったはずだから、不自然にならない『場所』と『地位』を持つ人を『祖先』にでっちあげましょう。後、なるべくなら薄〜くでも私達三河とつながりのある血筋が良いなあ。そうすれば吉姉様と外戚になるしね)

 

元康が黒いとか言ってはいけない。正直言って、この頃の三河は、ちょっと近隣諸国の機嫌を損ねるだけで即死する、所謂『運ゲーム』状態なのである。

 

だから元康は、良晴とその後簡潔な応対を終えると、信奈に向き直りこう言った。

 

「色々便宜をはかって頂きありがとうございます。その御礼といってはなんですが、一つ、ご協力したいことが御座います」

 

突如平伏して願い出る元康に対し、信奈はその表情を『統治者』のそれに変えて応じる。

 

「へえ、殊勝な心掛けじゃない。何?」

 

「いやあ、実は私、ここに着くまでに良晴殿の様々な武勇伝やその在り様を伺ったのですが……」

 

そう言って元康が、ちらりと顔を上げて信奈の表情を伺う。

 

その顔は、未だに『統治者』としての毅然とした態度を崩してはいないが、その口元がほんの少しだけつりあがっている。

 

それは、元康が望んだ反応であった。

 

(良かった……気分を害してない……吉姉様は私を信じてくれている……それならば……)

 

ここで元康は賭けに出た。

 

息を整えると、一息でその『賭け』を口にする。

 

「相良殿は風来坊と市井では言われておりましたが、私の部下の中に、戦乱で失われたさる武家の嫡男に、相良殿と『よく似た方』を見かけたと言う者がおりまして。詳しくお調べして吉姉様にお伝えしようかと」

 

『織田家との同盟関係の強化』と『織田家の弱体化による松平家の崩壊防止』の二つを同時に行う一手。

 

『松平元康』、現代の歴史書にこの過酷な戦国時代を類まれなる忍耐をもって生き抜き、後に『徳川家康』と名乗り幕府を作り、天下を治めた名将は、その『智謀』の萌芽の一端を芽吹かせた。

 

(第十九話前編 了)

 

げんぶ様、ジン様、栗坊主様、シグシグ様、東文若様、さまよう人様、刀戯様、こーくん様、武蔵様、★REN★様、感想ありがとうございます。

 

遅筆な自分がなんとか頑張っていけるのは皆様を含めた読者の方々のおかげです。

 

これからも頑張りますのでご愛顧のほどよろしくお願いします。

 

以上

 

 


 
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