No.662527

ランドシン伝記 第21話

風守りサリアとヴィルの死闘が始まり、
嵐は-さらに強まる。
そんな中、ゴブリンの少女レククが海に
投げ出されてしまう。
そして、ヒヨコ豆-団のメンバーは今、

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2014-02-11 21:08:31 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:432   閲覧ユーザー数:432

 

 第21話  旅立ち

 

 風守りの言葉に、ヴィル達は言葉を失っていた。

トゥセ「お、俺の言った通りじゃないっすかッ!

    や、やっぱ。このヒト、ずっと、団長の事を

    思い続けて」

 しかし、風守りのサリアはトゥセの言葉を無視した。

サリア「ヴィルさん。今なら大丈夫です。今なら、戻れます。

    引き返しましょう、ヴィルさん。ククリ島なんて、

    行ったら死んでしまいます」

 と、サリアは切なげに言うのだった。

ヴィル「悪いが・・・・・・」

 そう言って、ヴィルは剣を抜いた。

ヴィル「俺は前に進まねば-ならない」

サリア「本気・・・・・・なんですね」

ヴィル「ああ。俺の事を思うなら、放っておいてくれ」

サリア「出来ると思いますか?」

ヴィル「なら、一緒に来てくれ」

 とのヴィルの言葉に、サリアは言葉を詰まらせた。

トゥセ「お・・・・・・いけるか?」

アーゼ「お前は黙ってろ・・・・・・」

 しかし、サリアは首を横に振った。

サリア「無理です。何を言われようと、私は-あなたを危険な

    目に遭わすわけには-いきません」

ヴィル「君じゃ俺には勝てない」

サリア「はい。陸地では-そうでしょうね・・・・・・。ですが、

    この嵐の海の上では違います」

 すると、サリアの体が宙(ちゅう)を浮いた。

サリア「今の私は、昔の無力な頃とは違うんです、ヴィルさん」

ヴィル「・・・・・・みたいだな」

サリア「もう一度、聞きます。大人しく、引き返してください」

ヴィル「無理だ」

サリア「・・・・・・そうですか、残念です。なら・・・・・・力づくで

    いかせて-もらいます」

 そう言って、サリアは浮遊したまま、船から離れて行った。

トゥセ「あれ?どういう事?」

ヴィル「トゥセッ!来るぞッ!」

 次の瞬間、風の刃がサリアから放たれた。

トゥセ「ッ!」

 それを何とか、トゥセはカードで相殺(そうさい)した。

アーゼ「まずい、遠距離から風で攻撃されたら、なすすべが

    無いッ!」

トゥセ「向こうの魔力が尽きてくれないっすかね?」

ヴィル「無理だな。この嵐だ。風の精霊が大量に舞って居る

    だろう。より少ない魔力で攻撃が可能だろう」

 すると、遠方のサリアから声が響いた。

サリア『ヴィルさん、お願いです。もう、止めて下さい。

    どうか・・・・・・』

トゥセ「だ、団長・・・・・・今回はシャレに-なってないっすよ」

ヴィル「・・・・・・。サリアッ!お前の目的は何だッ!もし、俺を

    引き留めたいのなら、俺だけが残ろうッ!」

 と、ヴィルは叫んだ。

サリア『・・・・・・ヴィルさん。そういう問題では無いのです。

    もう、こうなってしまった以上、全員に帰って-

    頂きます』

ヴィル「そうか・・・・・・」

 と、ヴィルは-うつむいた。

ケシャ「ヴィルさん。私の念力でヴィルさんを空に飛ばす事が

    出来ます。やりますか?」

 と、茶猫のケシャは言った。

ヴィル「頼む」

ケシャ「分かりました・・・・・・。ただ、私はヴィルさんに浮遊の

    魔力を与えるだけなので、実際に魔力を細かく操作するのは、

    どうか-ご自分で」

ヴィル「ああ」

ケシャ「では・・・・・・」

 すると、ヴィルの体が浮き上がった。

 そして、ヴィルは感覚を確かめ、一気にサリアの元へと飛んでいった。

 嵐の空の中、ヴィルとサリアは対峙(たいじ)していた。

サリア「どうしてッ、どうしてですかッ?何でゴブリンのために-そうまでして」

ヴィル「ゴブリンだからじゃ無い。俺は-それが誰でも、不当に

    迫害を受けている者のためなら、剣を取り、その者を

    守るだけだ」

サリア「そう・・・・・・なんですね。私を助けてくれたのも、結局は、

    ゴブリンを助けたのと同じなんですね」

ヴィル「ああ・・・・・・そうだ」

サリア「分かってました。でも、分かりたくなかった。

    あなたをずっと待っていたんです。ずっと」

ヴィル「・・・・・・知らなかったよ」

サリア「・・・・・・でしょうね。あなた、あなたは・・・・・・。

    私、私は・・・・・・どんな想いで・・・・・・。

    でも、もう、どうでも-いいんです。

    結局、現実を見せつけられただけ。

    叶わぬ夢なら、いっそ、諦めてしまった方が楽。

    そうは思いませんか?」

ヴィル「悪いが・・・・・・諦めるワケにはいけない夢もある。

    俺は・・・・・・ククリ島へと行かねば-ならない。

    それは夢とも言えるかもしれない。だが、俺は

    絶対に、諦めるワケには行かない」

サリア「・・・・・・駄目ですね。噛み合いませんね」

ヴィル「そうだな・・・・・・」

サリア「多分、私じゃヴィルさんを上手く気絶させられ-

    ないと思います。でも・・・・・・万一、ヴィルさんに

    後遺症(こういしょう)が残ってしまっても、私が面倒を見ます-

    から」

ヴィル「そうか・・・・・・。だけど、君に-そこまで迷惑は

    かけられないよ」

 とのヴィルの言葉に、サリアは顔を悲しげに-しかめた。

サリア「どうしてッ、どうしてッ!そこまで、私を否定する

    んですかッ!どうしてッ!

    ウッ、ウアアアアアアアアアアッッッ!」

 との悲痛な叫びと共に、周囲の嵐が増し、大量の風の刃が

ヴィルに向かい放たれた。

 それをヴィルは剣技『護衛陣』で防(ふせ)ぐのだった。

 

 一方、波は-どんどんと高くなり、漁船は今にも海に飲まれそうに-なっていた。

 トゥセ達は必死に漁船に掴(つか)まっていた。

トゥセ「チクショウッ!団長のバカーッ!どうせ、怒らせる-

ような事を言ったんだーッ!」

ケシャ「あ、あれは怒りますよ、女性なら・・・・・・」

 と、茶猫のケシャはヴィルを浮遊させるための魔力を送りながら、

言うのだった。

トゥセ「な、何て言ったんだよ?なぁ」

ケシャ「今は-それどころじゃ無いでしょう。このバカ。

    それに、デリカシーのかけらも無い」

トゥセ「え?えぇ・・・・・・?け、結構、ケシャって、毒舌」

ケシャ「問題ありますか?」

トゥセ「あ、ありません・・・・・・」

 そんな中、嵐は-さらに強まって行くのだった。

 

ヴィル「サリアッ!止めろッ!このままじゃ、あいつらが、

    死んでしまうッ!サリアッッッ!」

 と、叫ぶも、サリアは叫び続けるだけで、ヴィルの言葉は

届いていなかった。

 しかし、それでも、半自動的に風の刃がヴィルに向けて、

放たれてくるのだった。

ヴィル(駄目だ・・・・・・力に飲まれている・・・・・・ッ、クソッ。

    俺のせいなのか?だとしても、力の暴走を止めないと。

    あの杖だ。あの杖を破壊しよう。そうすれば、多分)

 と、ヴィルはサリアの手にする杖を見て-思った。

 そして、ヴィルは一気にサリアに近づこうとした。

 ヴィルは次々と風の刃をかいくぐり、サリアに接近し、

剣を振った。

 しかし、剣はサリアの周囲に展開されている風のバリアに

阻まれ、ヴィルは全方位に放たれた風に吹き飛ばされた。

ヴィル「ッ・・・・・・何て力だ」

 ヴィルの全身は風により、無数の傷が出来ていた。

 しかし、深い傷は無く、問題は無かった。

ヴィル(ともかく、あのバリアの弱点を探そう・・・・・・)

 そして、ヴィルは様々な方面から、バリアへと攻撃を仕掛けていくのだった。

 

 その頃、漁船は-さらに危険な状態となっていた。

アーゼ「モロンッ!レククちゃんを連れて、早く、中に入って

    ろッ!早くッ!」

モロン「で、でも・・・・・・」

 モロンは必死に船にしがみつき-ながら答えた。

アーゼ「いいからッ!合図をしたら、一気に走れ」

モロン「う、うん」

 そして、モロンはレククと黒猫にゴブリンの言葉で説明した。

アーゼ「今だッ!」

モロン「うんッ!」

 そして、モロンは急いで、船内への扉を開いた。

 レククと黒猫は急ぎ、そこへと飛び込もうとした。

 しかし、次の瞬間、大きな波が漁船に打ちよせ、レククを

さらっていった。

 一方で、黒猫は手すりの部分に叩き付けられ、気絶していた。

モロン「あ、ああ・・・・・・」

 と、モロンは呆然(ぼうぜん)自失(じしつ)となった。

トゥセ「おいッ!何が起きたッ!何がッ!」

カシム「レ、レククさんが海に・・・・・・」

 その時、遠方で光が起きた。

 

サリア「あ・・・・・・」

 ヴィルの一撃により、サリアの結界は砕かれ、杖は真っ二つに割れた。

 しかし、次の瞬間、ヴィルに風の衝撃波が放たれた。

ヴィル「ぐぅッ・・・・・・だが・・・・・・嵐は弱まった・・・・・・」

 サリアは再び、バリアを構築し、その中で踊っていた。

ヴィル「サリアッッッ!目を覚ませッッッ!」

 と、叫び、ヴィルは再び、サリアへと向かうのだった。

 

 一方、嵐は静まってきた-ものの、波は弱くはなく、レククは

溺(おぼ)れていた。

トゥセ「チクショウッッ!」

 と叫び、トッセは海に飛び込もうとした。

アーゼ「やめろ、トゥセッ!」

 と言って、アーゼはトゥセを止めた。

トゥセ「放せッ、アーゼッ!このままじゃ、レククが」

アーゼ「お前まで死ぬぞッ!」

トゥセ「だからって」

 すると、その横で何かが海へと飛び込んだ。

 それはモロンだった。

 服を脱(ぬ)いだモロンが海へと身を投げ出したのだった。

トゥセ「モロンッ!」

アーゼ「な、モロンッッ!」

 モロンは必死に、溺(おぼ)れるレククのもとへと泳ごうとしていった。

 しかし、波に飲まれかけ、上手く辿(たど)り着けなかった。

モロン(レクク・・・・・・ちゃん・・・・・・)

 そして、モロンは運も味方し、何とか、レククの手を掴(つか)んだ。

 しかし、そこでレククと共に、海に沈んでいった。

トゥセ「チクショウッッ!」

 とのトゥセの悲痛な叫びが海に木霊(こだま)するのだった。

 

 一方、サリアの攻撃は熾烈(しれつ)を増していた。

 風の刃は追尾(ホーミング)機能を備(そな)えだし、ヴィルを

ひたすら追いかけていった。

 それをヴィルは次々と叩き落としていった。

ヴィル「ッ・・・・・・どうして、こうなるんだッ!」

 と、叫び、ヴィルは遠距離用の剣技『飛燕(ひえん)』を、三連撃で

放った。

 すると、風のバリアにヒビが入り出した。

 そして、ヴィルは一気にヒビに剣を突き立て、再び、

バリアを砕いた。

 しかし、その時、サリアの手はヴィルの方に向けられており、

次の瞬間、サリアの風とヴィルの魔力が激突するのだった。

 

 その時、カシムは呆然(ぼうぜん)としていた。

カシム(わ、私は・・・・・・どうすれば・・・・・・)

 すると、風の精霊が-ささやいた。

精霊『カシム・・・・・・思い出しなさい。かつての遠い前世の記憶を。

   貴方(あなた)は-あの二人に無量の恩が-あるのですよ』

カシム「無量の・・・・・・恩・・・・・・?」

 気付けば風の精霊は消えていた。

 しかし、カシムの心に、その言葉は響き、いつしか、カシムの頬を涙が伝っていた。

カシム「私はッ!」

 そして、カシムは意を決し、服を脱ぎ、海に飛び込んだ。

アーゼ「カシムさんッ?」

 カシムは必死に泳ぎ、そして、海に潜った。

 不思議な事に、レククとモロンの二人は浅い中で止まっていた。

 カシムの手が二人に触れた瞬間、カシムに一つのビジョンが

流れ込んだ。

 

 そこは光差す山だった。

 そこで、一人の少年がホウキで掃除をしていた。

少年「よいしょ、よいしょ・・・・・・」

 と、少年は日が暮れるまで掃除をしていた。

 すると、一人のゴブリンの小女が-しょんぼりとしながら

歩いて来た。

少年「あれ?君、どうしたの?」

ゴブリン「・・・・・・ミロク様に会いに来たの。でも、難しくて

     良く分からなかったの・・・・・・」

少年「そっか。僕もなんだ。でもね、こうして、お掃除をする

   と良い、ってミロク様が-おっしゃって-くれたんだ。

   一緒にやろうよ」

 そう言って、少年は別のホウキを持って、ゴブリンの少女に

渡した。

 それから、少年とゴブリンの少女は仲良く、毎日、掃除を

するのだった。

 ある日、一人の老人が歩いて来た。

 しかし、老人は目が不自由で、耳も良く聞こえず、途方に

くれていた。

少年「おじいさん、大丈夫?」

と、少年は老人の手をなぞって、そう伝えた。

老人「私は・・・・・・偉大なる教法(きょうぼう)が解かれると聞き、遙(はる)か、

   東方より、来ました。ですが、この体では修行も

   何もする事が出来ません。

   悔しいのです。後、数十年、遅く、生まれていれば」

 と、涙ながらに語るのだった。

少年「じゃあ、おじいさん。一緒に、お掃除しようよ。

   ほら、ちりとり」

 そう言って、少年は-ちりとりを老人に渡すのだった。

 そして、老人は座ったまま、ちりとりを持って、掃除の

手伝いをするのだった。そして、老人は毎日、それを続けた。

老人(ああ・・・・・・そうか。このチリは心のチリなのだ。

   修行とは常に存在するモノなのだ。

   何も、苦行、勤行(ごんぎょう)だけでなく、日々の生活の中にこそ

   真の実践があったのだ・・・・・・)

 と、ついに、老人は悟るのだった。

 

カシム(あの老人は私だ。前世の私なのだ。そして、今の

    私が-あるのだッ!何という事だッ!

    私を導いてくれたのは、この二人だったのだ!

    モロンさんに、レククさん、この二人こそ、

    私にとり、恩師なのだッ!)

 そして、カシムの意識は現実に戻った。

 カシムは渾身(こんしん)の力をこめて、モロンとレククを抱き寄せ、

浮上した。

カシム「プハッ、ハァ、ハァッ!」

 カシムは顔を出し、息をした。

 それを見て、トゥセは叫んだ。

トゥセ「アーゼッ!ロープをッ!」

アーゼ「ああッ!」

 そして、アーゼは頑丈なロープをトゥセに渡した。

 トゥセはロープを持ったまま、一気に海へと飛び込んだ。

 それから、トゥセはカシムのもとへ泳いでいき、カシム達に

ロープを必死に-ゆわいた。

トゥセ「ッ、アーゼッ」

 と、トゥセは沈みそうになりながらも、叫んだ。

アーゼ「ああッ!」

 と、答え、アーゼはロープを引っ張った。

ギート「加勢するぞいッ!」

 と、叫び、ドワーフのギートも、アーゼと共に、

ロープを引っ張った。

 その様子を黒猫に憑(つ)いたトフクは、薄れた意識の中、

見守っていた。

トフク(何と言う事じゃ・・・・・・。こんな事が-あるのか。

    今、人間、エルフ、ドワーフ、小人、そして、

    ゴブリンが一つとなっておる。

    何と言う事じゃ・・・・・・)

 そして、トフクの霊体は涙をこぼすのだった。

アーゼ「オオオオオッ!」

ギート「ヌオオオオオッ!」

 と叫びながら、二人は渾身(こんしん)の力をこめて、カシム達を

引き上げていった。

 そして、ついに、カシムとモロンとレククが甲板に

引き上げられた。

黒猫「レクク様ッ」

アーゼ「モロンッ、レククちゃん。大丈夫かッ!」

 と、叫ぶと、二人は口から水を吐(は)いて、息をし出した。

カシム「ハァ・・・・・・ハァ・・・・・・大丈夫そうです」

 すると、トゥセが甲板へと倒れこんで来た。

トゥセ「お、お前ら・・・・・・俺を忘れないでくれ・・・・・・」

アーゼ「あ、悪い」

トゥセ「しっかし、後は団長だけだな・・・・・・」

 と、トゥセは仰向(あおむ)けに-なりながら言った。

アーゼ「大丈夫さ。団長なら、きっと、無事に帰ってくるさ」

 と、アーゼは遠く、ヴィルとサリアの方を見据(みす)えて、

言うのだった。

 

 ヴィルは風の中にあった。

ヴィル(ッ・・・・・・全身が引きちぎれそうだッ!息も出来ないッ!何も見えないッ!)

 そう思う中、何かがヴィルの横を通った。

 それは風の精霊だった。

精霊『ヴィル・・・・・・。力を貸しましょう・・・・・・。目を開ける

必要は-ありません。感じなさい。そのオーラを。

風の破れを・・・・・・』

ヴィル(風の・・・・・・破れ・・・・・・?)

精霊『心を空(くう)にした時、見えるモノも-あるのです』

ヴィル(心を空(くう)に・・・・・・)

 そして、ヴィルは心を深く深く、内面へと向けて行った。

 今、ヴィルは自身の内宇宙の中に-あった。

 その果てに、泣きじゃくる幼いサリアが居た。

サリア「ヒックッ・・・・・・ヒックッ・・・・・・」

ヴィル「ごめん・・・・・・な」

 そう言って、ヴィルはサリアの頭を-かつてのように

優しく撫(な)でるのだった。

 

 次の瞬間、風が一瞬、晴れた。

 その一瞬でヴィルは剣技『虚空斬(こくうざん)』をサリアに放った。

 そして、風の魔力は次々と連鎖的に切断されていき、

サリアは魔力制御を行う事が出来なくなった。

 凍れるような時の中、ヴィルは-落ちていくサリアに近づき、

その手を掴(つか)んだ。

サリア『ヴィルさん、好きでした・・・・・・ずっと』

 とのサリアの心の声がヴィルには聞こえた気がした。

ヴィル『ごめん・・・・・・な。君の想(おも)いには答えられない』

 とのヴィルの言葉に、サリアは悲しげに微笑み、気を失うのだった。

 そして、嵐は晴れた。

 風一つ無い空で、ヴィルは-眠るサリアを抱きかかえていた。

 ヴィルは辺(あた)りを見渡し、一つの漁船を見つけた。

 それは偶然-近くに居た漁船だった。

 ヴィルは-そこまで飛んでいき、驚く漁師達の中、サリアを

降ろして、去って行くのだった。

 

ケシャ「・・・・・・戻って来ました」

 と、茶猫のケシャは告げた。

 そして、ヴィルの姿が見えて来た。

トゥセ「オォォォォイッ!団長ーーーーーッ!」

 と、トゥセは手を大きく振り、叫んだ。

 そして、ヴィルが甲板に降り立つや、皆が-それを囲んだ。

 その様子をカシムは心を躍(おど)らせながら見ていた。

カシム(ああ・・・・・・私は誇りに思う。この人達と出会え、共に

    旅を出来る事を誇りに思う。この人達の名は恐らく、

    歴史に残る事は無いだろう。

    だが、それでも、この人達の物語は、語り継がれ、

    吟遊詩人(ぎんゆうしじん)-達により、伝承されていくだろう。

    そして、それは歴史の裏の物語であり、戦記や史記

    とは呼ばれないだろう。

    亜大陸ランドシン-にての伝承・・・・・・伝記。

    そう。ヒトは言うだろう、その物語を・・・・・・)

 それから、カシムは光差す空を仰(あお)ぎ見て言うのだった。

カシム「ランドシン伝記・・・・・・と」

 

 こうして、ヴィル達の-長い長い物語は始まったのであった。

 

 

ランドシン伝記 第2章〈ククリ島・戦乱-編〉へと

 

 

 
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