No.66052

わくわくワッフル

みぃさん

ほのぼの恋愛ショートです。

2009-03-30 20:50:31 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:816   閲覧ユーザー数:784

朝、担任が突如言い出した言葉に、私は一瞬真っ青になったと思う。

隣の席のヤツに気づかれなかったことだけを、ひたすらに願いたい。

 

 

 

「今日の帰りのホームルームで席替えするぞ~」

 

 

 

 

 

 

なんの前触れもなく、何を言い出すのか、この教師。

気楽に発せられた言葉がまた許せない!!

廊下側の一番後ろでサボれる場所だったのに!!

 

 

 

なにより…

 

 

 

こいつと無条件で、近くにいられたのに…

 

 

 

 

 

 

ちらりと見た隣の席の男。

ただのクラスメイトだったけど、たまたま隣の席になってから、急激に仲良くなった。

 

 

 

…と思ってるのは、私だけかもしれないけど。

 

 

 

だって朝の担任の言葉になんの反応もしなかった。

そういえば今日は朝のあいさつしかしてない。

もうお昼になってしまったというのに。

 

離れてしまったら、話す機会も少なくなってしまうのに。

 

 

 

 

 

 

いつも一緒にいる友達が休んでしまったせいで、今日のお昼は一人。

寂しさが余計に増してくる。

愚痴聞いてもらいたかったな、と思いながら学食のレンジで温めてきたワッフルの袋を開ける。

 

 

 

 

 

 

四角い鉄板模様。

なんだか、隣り合う席に見えた。

 

 

 

この一つを崩してしまったら、関係まで崩してしまうようで。

なかなか口をつけられなくなった。

 

 

 

すると、突然手からワッフルが奪われ、ひとかけらが隣の男の口に運ばれた。

 

 

 

「あ!! なんで食べちゃうの!!」

「ワッフルだって、見つめられてるより食べられたほうが幸せだろ」

「これから食べるとこだったのに!!」

「わかったよ、ほい」

 

 

 

ワッフルが私の前に帰ってきた。

でも、ひとつのかけらが消えている。

 

きっとこれから、そのぽっかり空いた場所が私の心になるんだ。

 

 

 

「…いらない。食べかけなんて…」

「ああ…そうかよ…」

 

 

 

明らかに怒った口調になった彼はフイと横を向いてしまった。

 

 

 

同時に、五限始まりのチャイムが鳴った。

私が思ってた以上に、ワッフルを見つめてる時間が長かったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

国語の先生が教室に入ってきて、事務的に号令がかかる。

授業の内容なんかもちろん、頭に入らない。

ただ時間だけが静かに過ぎていく。

 

 

 

席が離れてしまうまで、あとちょっと。

 

 

 

気まずい雰囲気のまま。

たかがワッフル一かけらのために終わってしまうんだろうか。

 

 

 

 

 

 

「…おい」

 

 

 

隣から、低い小さな声が聞こえてきた。

仲直りのきっかけになるかもしれないのに、なんて返していいかわからなくて、無言を貫く。

 

 

 

「無視はいいけどさ…聞いとけ。悪かったよ。腹、減ってるよな」

「…別に。もともと食欲、なかったし」

 

 

 

顔は動かさずに、彼にならって低い声で返す。

こんなぶっきらぼうな返事、したくないのに。

 

 

 

「具合でも悪いのか?」

「そんなことない」

「だったら、いいけど…」

 

 

 

またしばらく、二人の間に沈黙が流れる。

 

 

 

「まだ怒ってるのか?」

「怒ってる…のかな。うん。そうかもしれない」

 

 

 

ワッフルの四角い形が当たり前にあるように、彼もずっと私の隣にいるものだと思ってた。

なんて自分勝手なんだろう。

 

永遠なんてない。

そんなこと、わかってるはずなのに、当たり前になるほどに心地よくて、忘れてた。

…忘れようとしてたのかな。

 

そんな、間抜けな私。

そして、素直じゃない私。

そんな自分が、許せない。

 

 

 

「…悪かったって。寂しいじゃん。もう隣じゃなくなるかもしれないのに」

「え?」

 

 

 

そう思ってくれるの?

私の一方通行じゃなかったんだ…

冷えていた心が、あったかくなった気がした。

 

 

 

「…じゃあ…コンビニじゃなくて、おいしいワッフル今度おごってくれたら、許してあげる」

「お前、ずうずうしいな。でも、それってデート?」

「…さぁ?」

 

 

 

学校以外で、しかも二人だけで会える。

それは、きっと隣の席より、ずっと近づける時間になるんじゃないかな。

曲がりかけてた心が、しっかりした形に戻った気がした。

 

 

 

ワッフルの、規則正しい正方形のように。

 

 

 

そうしたら、言葉もまっすぐ出るだろうか。

 

 

 

好きだよ

 

 

 

そんな、素直な気持ち。


 
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