No.660378

ムスタング

たけ坊さん

ふとお風呂場で思いついた話を思うままに書いてみました。
所々隠しているような無いような…。
終わりが物足りないような気がしますがとりあえずこの形で投稿しました。
タイトル名はたまたま聴いていた曲からとったもの。
物語を書いている時もリピートしてました。

2014-02-04 01:11:57 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:213   閲覧ユーザー数:213

ムスタング

 

 

恋することを忘れたと、そう思い込ませてた。

どこかで怖いと、逃げていた。

 

何が正しいのか?

 

 

「…っふ。」

 

着崩した、白いシャツに色落ちのスキニ―ジーンズ。

昔の淡い気持ちがふと心に湧いて出て、痛みを被せるかのように鼻で笑う。

春の日差しに、キラキラと束ねられた白髪が風に任せて揺られていた。

 

いつからか、高いヒールを履くようになり、少しでも存在を残したくて、

無駄に背筋を伸ばして歩いていた。

 

強がりで本当は寂しい。

 

今年で42になろうとしていた、私は後ろと前にある現実に今にも押しつぶされそうで

だけども生きていた。

 

 

 

「あら、友里恵さーん。」

 

「ん。」

 

「もう、貴女も物好きねぇ。こんなとこじゃなくて、普通の映画館に行けば良いじゃない。」

 

「良いのよ。静か過ぎなくてちょうどいい。」

 

「まぁ、確かに静かではないけどね…」

 

一枚のお札を彼に渡して、古びた扉を押せばムッとした空気と独自の臭いが鼻につく。

そんなことはもう気にしなくなり、いつもの席に座ろうと足を進める。

 

ピタリと足が止まる。すでに暗くなった場内。しかし、スクリーンの明りに照らされた

いつもの席に誰かが座っている。多分、「初めて」の奴だ。

一瞬ムッとするが、明らかに共同不審に周りをちらちらと伺う姿に気が抜ける。

 

「何やってんだか…。」

 

と呟けば、タイミング良く奴と目があった。

ビクリと身体をこわばせたかと思えば、下を向いてしまう。

服はコートにフードをしているため、よく見えないが男ということには、

そのかくばった体型で分かった。

 

「初々しいにも程があるね…。」

 

つかつか、とすでに始めている奴らがいても気にせず前を過ぎ、真っ直ぐその席に向かう私。

 

「ちょっと、その席は私の席なんだけど。」

 

ビクリとさっきと同様に酷くうろたえているのが分かる。

 

「…あんた、ここ初めて?そうなら、やめときな。初めてが“ここ”なんて。」

 

私の席に縮こまった姿が何とも情けない。頑張って入ったものの、怖気づいて

こんな端の席に逃げ込むようにいたのか。

 

「それか何?本当は映画を観に来たのかい?こんなつまらんくて、情事しかないような

映画をかい?」

 

「…違う……。」

 

喋った。けれどもそのあとからまただんまりだった。

映画の音以外に聞こえてくるかすかな息遣いと音に、立ってるのも億劫になる。

 

「…まぁ、いいわ。今日はやめときな。あんまり良い奴来てないから。ほれ、一個詰めな。」

 

手でヒラヒラと仰げばオズオズとその体は、横にずれる。

 

「今日は、このオバちゃんと観て頭冷やすんだね。」

 

頭をポンと叩けば、またビクリと身体がはねる。そして、顔がチラリとこちらを向いた。

 

(この子…。)

 

 

映画はあっという間だった。もとよりストーリーが無いため、途中で寝たりたまに

音楽を聴いてたからほぼBGMにも近かった。

 

「ほら、いつまでちっこくなってんだい。早く出るよ。」

 

「あ…。」

 

腕を引くと、足をおぼつきながらよたよたと大人しくついてくる。

 

「あ!友里恵さん!なにーー?お持ち帰り~?」

 

彼はよたよたと歩く奴の顔を一瞬覗き込んで、苦い顔をした。

 

「あら…もしかして…。」

 

「今度から気を付けなよ。ちょっと、私はこの子に用があるわ。」

 

「ごめーん!」

 

後ろから聞こえる謝罪に毎度のようにヒラヒラと手を振る。

 

 

「あの…用って…。」

 

外に出て、古びたビルの裏側に連れ込むと、壁に追い込むように腕を振りほどけば

うっという声がした。

 

「もう分かってるよ。あんた未成年でしょ。その下、制服だろ?」

 

「…。」

 

「別にとって食おうって訳じゃないさ。私は、あそこで何人かあんたみたいな子

見てきたからね。それでろくなことが無い。」

 

「…。」

 

「あんたはラッキーな方だよ。たまたま私の席にいて、私に会ってさ。他の子は

既に“終わってた”からね。」

 

「…。」

 

「ほら、黙ってちゃわから…!?」

 

フードの奥からボロボロと落ちている涙にギョッとした。

 

「ちょ、ちょっと!私が泣かしたみたいじゃないの!?」

 

「ズズ…ッ」

 

「もう~…。」

 

困っている最中、後ろに影ができたかと思えばズシと重いものが圧し掛かってきた。

 

「わぁっ…!」

 

「友里恵、泣かしている…。」

 

「…違うわよ!勝手に泣きだしたのよ!てか、あんた今日は家にいたはずじゃ…。」

 

「…あっちゃんが、友里恵がまたお説教してるって教えてくれたから。」

 

「あんの馬鹿!てか重いのよ!年寄りを敬え!!」

 

「友里恵はまだ大丈夫…。」

 

「何がよ!」

 

 

「…っふ。」

 

 

「……笑ったわね。」

 

「…笑ったね。」

 

「え、あ…ぁ。」

 

腕組みをする私と、黒装束のような青年とデカイ犬の様なのっぽ。

 

不思議な3人の出会いはロマンチックのロの字もない場所で。

どうしようもない人生に何かが起きるような刺激をピリピリと感じていた。

 

 

「肩コリ…?」

 

「違うわ、この馬鹿犬!」

 

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
0
0

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択