No.65590

思春の昔話 前編

komanariさん

「流琉と兄様 アフター 後編」のコメントでtakay様から「呉のキャラで」とリクエストしていただいたので、やってみました。

今回は思春さんのお話です。


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2009-03-28 00:08:32 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:14212   閲覧ユーザー数:10570

「母上、何かお話をしてください」

 

 

 我の娘甘述は、そう願いでた。

 

「お話を聞いたらちゃんと眠りますから」

 

 少し前から甘述は、夜寝る前に話を聞きたがるようになった。

 どうやら、北郷の所で寝るときにいつも話を聞かせてもらっているらしく、ここ最近は私にも話をしてほしいと言って、なかなか寝てくれない。

 

 最初は、河賊をしていた頃の、どうやって狙えそうな船を見定めるかについての話などをしていたが、その話を甘述が北郷に漏らしたらしく、次の日に

 

「そんな話は子供にするんじゃない!」

 

 と北郷が怒鳴りこんできたので、最近では蓮華様に出会ったころの話などをしていたのだが、とうとうその話も尽きてしまっていた。

 

(全く、面倒なことを教えたな。北郷め……)

 

 こころの中で、そんな悪態をついていると、

 

「母上、蓮華様とのお話はもう聞いてしまいました。次は他のお話が聞きたいです」

 そう甘述が上目づかいで私を見上げてきた。

 

(くッ。母でもできぬことをこうも安々とやってのけるとは、やはりあの父親の教育のせいか……)

 

 巷では、「鈴の甘寧」などと恐れられている私であるが、ひとたび子の親になれば、我が子の上目づかいにやられてしまうような、甘い母親になってしまっている。

 

「ねぇ、母上。早くお話をしてください」

 その上、目を潤ませられたら、私は甘述の言うことを聞かざるを得ない。

 

(まったく、私も上目づかいだけでも出来れば、あの男を手玉に取ることができるかもしれないというのに……)

 

 だが、私にはそんな真似はできないし、今さらそんな真似をすれば、祭殿に笑い物にされてしまうだろうから、やろうとも思わないが。

 

 

(そんなことは、あの男のせいでとうの昔にできなくなってしまったのだ……)

 あの男のせいで。あの時現れ、そして消えて、また私の前に現れたあの男のせいで。

 

 

「母上ぇ……」

 まずい、これ以上この目に見られ続けたら、私の中のいろんなものが壊れてしまう。

 

「わかった。それでは、私が昔聞いた話をしよう」

 

「わぁい。ありがとうございます。母上」

 

(あぁ。何とかわいらしい顔なのだろうか。このような顔で見られたら私は……)

 娘の笑顔に、私の中にある何かが少し壊れたのを感じながら、私は昔の記憶を呼び覚ました。

 

「あれは、そう私がまだ蜀郡で漢の役人として仕事についていたときに聞いた話だ……」

 

 そう言って私は遠い昔の記憶を紐解いた。

 

 

 

 

 

「まったく、官の仕事と言っても、計掾ではつまらんな」

 

 私は推挙によって、蜀郡の計掾(会計係)の役人となり、毎日退屈な日々を送っていた。

 むろん毎日武術の稽古は怠っていなかったが、武術の稽古ばかりしていても飽きてしまう。かといって、仕事はつまらない事務仕事ばかり。

 

 そんな毎日を送っていた私は、

「あぁ、何か面白いことはないだろうか……」

 といつも、いつも考えていた。

 

「おい、甘寧!おまえはまた仕事をさぼっているのか!まったく、そんなに暇そうにしているのなら、片付けるべき仕事の一つでもやったらどうだ!?」

 上司からは毎日そんな小言を言われ続けたが、そんなことは私には関係なかった。

 

 

「私には体を鍛えるという仕事もありますので、申し訳ありませんが、これにて失礼させていただきます」

 今にして思えば、即刻仕事を首にされてもおかしくないような無礼な態度で、私はいつも、執務室から出て行っていた。

 

 

 そんなある日、私が待ち望んだ面白そうなことが目の前に降ってきた。

 

 

 ある日の昼間、いつものように仕事を抜け出して、町の城壁をふらふらと歩いていると、町を出て少し行ったあたりの荒野に、白く輝く何かがあるのが見えた。

「ふっ。なにか面白いことかもしれんな」

 そう思った私は、すぐに馬にまたがり、その何かのもとに向かった。

 

 馬でしばらく行ったところに、その何かはあった。いや、いた。

 太陽の光を受けて光輝く衣をまとった、優男。体つきは、その辺の兵卒にも劣るようなひ弱なもので、何やら困惑した表情で、当たりの様子をうかがっていた。

 

(どうやら、私の勘は当たったようだ。面白いものを見つけることができた)

 そう考えながら、私は馬に乗ったままその男に近づいて行った。

 

「おい!そこのお前、そんなところで何をしている!?」

 

 私がこの男に負けるわけがないということは、もうわかっていたが、どのような反応をするか気になったので、少し威圧するように、声を強めて私は話しかけた。

 

「……?」

 

 その男は唖然としたようで、私の姿を見ていた。

 

「おい!私の言っていることが聞こえないのか!?私は漢の役人をしている甘寧。貴様の返答次第では牢屋に叩き込むぞ!」

 

 役人をしているのは確かだが、私の権限でこいつを牢屋に入れることなどできはしない。脅し文句としてはいいような気がしたので、私はその男にそう言い放った。

 

(さて、どんな反応をするかな……)

 

 好奇の目で見ていると、その男は、

「あの、それコスプレですか?『甘寧』って言うのはコスプレネームとかですよね?確かに中国っぽい格好ですし……。それにしても、馬に鞍とかつけないでよく乗れますね。お尻痛くないんですか?えっと、ここは見たところ荒野なんですけど、ここって日本ですよね?日本語通じてるし……」

 私が期待したおどおどとした返答ではなく、その男は訳のわからないことを言って来た。

 

「その、『こすぷれ』というのはなんだ!それに、『甘寧』という名は私が、親から授かった名だ!貴様のいう『こすぷれなんとか』ではない!それから、ここは『にほん』などという場所ではない!洛陽の西、益州の蜀郡だ!貴様は一体何者だ?どこから来たのだ!?」

 

 その男の返答があまりにも、突飛であったため、私は男の反応を楽しむことも忘れて、思わず疑問に思ったことが、口をついて出てしまった。

 

「ら、洛陽!?あの、『らくよう』って昔の中国の都ですよね?ってことは、ここはやっぱり中国なの?」

 

「その中国というのは、いったいどこのことを言っているのだ!さっきから言っているように、ここは益州の蜀郡だ!!私の質問に答えろ!」

 

 この男の言っていることは、全く理解できなかった。あまりに理解することができなさ過ぎて、私はすこしイラついていた。

 

「どこから来たのかはわからないけど……俺は、北郷一刀。日本の東京に住んでいて、聖フランチェスカ学園に通ってる学生だよ」

 

「その日本とはどこのことだ?学生ということは、その聖何とかというのは私塾のことか!?」

 

「ここが、中国だとするなら日本はここから東の方に行って、海を渡った先にあると思う。あと、聖フランチェスカは学校だよ」

 

「学校とはなんだ!?」

 

「みんなが集まって一緒に勉強する場所だよ」

 

「それは私塾ではないのか!?」

 

「私塾ではないのかって言われても、学校は学校だし……てか、このあたりには学校ないの?」

 

「貴様の言っている学校言うものが私塾と別ものだというのなら、このあたりどころか、この大陸にそんなあることを私は知らん!」

 

 大陸中を回ったことがあるわけではないが、私はそれまで生きてきた中で、そんなものは聞いたことがなかった。

 

「中国じゃないって言うし、日本を知らないし、学校も知らないし、何より甘寧って名前は……」

 

 

 私が語気を強めたせいか、男は黙り込んで何か考え込んでいた。

 

 

 先ほどまで、イラつきを感じていた私の頭だったが、疑問をぶつけたおかげか、少し落ち着いてきていた。すると、先ほどのイラつきで隠れていた、私の頭の中の『面白いものを見つけた』という喜びが、再び頭の中を満たし始めた。

 

「……よくわからん奴だが、貴様これから行くあてはあるのか?」

 

「とりあえず、ここがどこだかもわかってないし、行くあてなんてないよ」

 男(先ほど北郷一刀と名乗ったから、北郷と呼ぶか)、北郷は何か考えていることがあるようにそう言った。

 

「そうか。ならば、うちに来るか?先ほども言ったが私は役人をしているのだ。家は普通の民草のものに比べれば格段に大きいし、飯も用意できるぞ」

 

「……ここにいてもどうしようもないし、ご厄介になるよ」

 私は、しばらくこの面白いものを観察しようと考えた。

 

 

 

 この北郷という男は、初見での私の見立て通り、あまり強くはないようだった。そればかりか、文字を読むこと書くことができなかった。

 

 北郷の話から、この国の者ではないことは分かっていたのだが、普通に話が通じていたから、読み書きはできるだろうと思っていたが、すこし当てが外れた。

 

 しかし私の仕事、つまり会計の時に使う計算に関してはこの者はすごかった。

 

 私が、徴収した税を順に言っていけば、すぐさまそれらの合計をだし、収入と支出を言えば、すぐさまそれらの足りない分、多い分を言い当てた。そればかりか、ここ何年かのこの地域の収穫高から、この地域ではだいたいどれくらいの収穫が毎年見込めるかもほんの少しの間に出してしまった。

 

 これらをするときは、何やらよく分からない記号を書いていたが、私が普通に計算するよりよほど早く答えを出していた。

 

 そんな北郷に、私は文字の読み書きを教えた。つまらないだけの私の仕事をやらせるためだ。

 

 もともと、勉学に向いているのか、北郷はすぐに読み書きを(最低限ではあるが)覚えた。

 

「甘寧。お前の仕事なんだからお前がやれよ」

 と北郷は言ったが、

 

「それをやらなければ、この家から出て行ってもらうぞ」

 というとしぶしぶながら、仕事をやっていた。

 

 そうして、私が執務室から家に持ってきた仕事を北郷にやらせるようになってから、私の暇な時間はさらに増えた。

 これまでは、それなりの量がたまったときにいやいやながらやっていた仕事を、北郷がやってくれるからその分の時間が余ってしまったのだ。

 

 もともと、面白そうだからと連れて来た北郷に仕事をやらせても、私の暇な時間が増えるだけだった。

 そのことに気付いた私は、仕事をしている北郷を見ていることにした。仕事をさぼっていないか、面白いことをしていないか。時々ちょっかいを出しながら、北郷の様子を見る。

 そんな毎日もなかなか面白かった。

 

 ある日の夕方、北郷の姿が見えなかった。裏庭の方を見てみると、剣の素振りをしている北郷が見えたので、すぐに稽古(稽古という名の一方的な打ち込み)を行い、北郷をぼこぼこにした。

そこで少し驚いたのは、あんな体でも、北郷の動きは全くの素人のものではなく、何かしらの武術を少し習っていたようだったことだ。

 北郷をぼこぼこにするのは面白かったから、これからの暇つぶしに、北郷の剣の稽古も入れることにした。

 

 

 面白いものだと思って拾って来た北郷をかまうのは本当に楽しかった。私がどんなにひどいことをしても、なぜか許してくれる北郷に私は甘えていたのかもしれない。

 

 

 そんなある日、北郷が家にいなかったので、何をしているのかと思っていると、北郷が何やら楽しそうに町から帰って来た。

 

 日頃、息抜き程度にと少しではあるが、小遣いを渡していたので、それを使って外食でもしてきたのかと思っていると、北郷はおもむろに私の前に立ち、何やら小さな小箱を差し出した。

 

「これは何だ?」

 箱を受け取った私はそう北郷に聞いた。

 

「プレゼント、え~と……贈り物だよ。いつも世話になってるお礼。あけて見てよ」

 そういって北郷は、私を急かした。

 急かせれるまま、その箱を開けると、そこには、小さな鈴が入っていた。

 

「やっぱり、甘寧と言えば『鈴の甘寧』だと思ってさ」

 北郷は少し照れながら、そう言った。

 

 日頃、私にあれだけこき使われ、あれだけぼこぼこにされているというのに、この男は何を考えているのかと、私は思った。

「私はお前に礼されるほど、世話をした覚えはないが……」

 というと、北郷は少し、真剣な顔になってこういった。

 

「俺、甘寧の仕事してて思ったんだよ。農民の人たちがすごく頑張って仕事をしても、あんな少ししか食べ物の収穫がない。しかも、明らかに中間で役人が自分のために、農民の人たちが必死になって作った食べ物を搾取したりしてる。そんな中、甘寧は俺を拾ってくれた。たぶん甘寧が拾ってくれなきゃ俺は死んでたと思う。たしかに、すこしぐらい自分で仕事してほしいけど、でも甘寧は、さっき言った役人みたいに自分のために、食べ物を搾取とかしてないし、むしろ食べ物がないって困ってる人に、自分の食べ物あげるような人だしさ」

 

 たしかに、すこし前、町を歩いているときに、腹を空かしているようだった子供に、自分の昼飯だった肉まんをやったことはあったが、あれは朝食を食べ過ぎたからだ。どうせ捨ててしまうのならと思って、くれてやっただけで、そんな、北郷の考えているような、高尚な考えがあったわけではなく……。

 

「確かにちょっと厳しすぎる気もするけど、甘寧は俺に剣の稽古もつけてくれてる。今でこそ、町を歩いてて暴漢に会っても一人でなんとかできるけど、甘寧に稽古つけてもらってなかったら、絶対無理だったし……」

 北郷は、少し照れたように頭をかいていた。

 

(違う!私はただ自分の暇つぶしのために、お前をいたぶっていただけだ)

 

「ほら、俺が甘寧にお礼する理由は、いっぱいあるじゃないか」

 そう北郷は笑顔で私に言った。

 

(違う!私はお前から礼を言われるような人間じゃない!お前が勘違いしているだけだ!私は……、私は……)

 

 私は、北郷に礼を言われるような人間ではない。

 

 自分が今まで北郷にしてきたこと。北郷に思って来たこと。

 それらが、自分の心を締め付けた。

 

「……!甘寧!?どうしたんだよ?俺、なんか気に障ること言っちゃったか?」

 慌てた北郷が私にそう言ってきた。

 その時初めて、私は、自分が泣いていることに気がついた。

 

「……ッ!み、見るな!」

 

 自分自身に何が起こっているか分からず、私は思わず、叫んでしまった。

 

「ご、ごめん!この鈴そんなに気に入らなかったか!?す、すぐに他のに代えてもらってくるから!」

 北郷は、私が鈴を気に入らなかったと勘違いして、私が持っている箱を取ろうとした。

 

「触るな!!」

 先ほどよりも大きな声で叫んでしまった。

 

「……」

 どうすればいいのか分からず、困惑した様子で北郷は、呆然とこちらを見つめていた。

 

「き、気に入らなかった訳では……ない」

 私は、北郷の目を見つめ返すことができずに、目をそらした。

 

 私は、自分にこんなにしてくれる者に、なぜあんなにひどいことをしてきたのだ。

 私がどれだけひどいことをしても、ずっと許してくれた者にだったのに。

 私をずっと甘えさせてくれていたのに。

 

 こんなにしてくれた者に私は、どうやって報いればいいのだろうか。

 どうすれば、北郷のやさしさに、答えることができるのだろうか。

 

 その答えを考えている少しの間、北郷はずっと私を見ていた。

 

「……思春だ」

 私が出した答えは、真名を許すことだった。

 

「思春?」

 北郷は意味が分かっていないようだった。

 

「私の真名だ。お前に私の真名を委ねる」

 

「あの甘寧?その真名ってのはなんなんだ?」

 

「真なる名と書いて真名。その者の生き様が詰まった神聖な名前。自分が認めた者、心を許した者にのみ呼ぶことを許す名前。たとえ他人の真名を知っていても、その者の許しがなければ、呼んではならない。そういう名前だ」

 

「……その真名を、俺が呼ぶことを許してくれるのか?」

 北郷は、少し困惑しているようだった。

 

「あぁ。お前に私の真名を許す」

 

 北郷のやさしさに対して私ができること。

 私の真名を、私の生き様が詰まった神聖な名前を北郷に委ねること。

 それが私の出した答えだった。

 

 北郷は私の本心がどこにあるのか確かめるように、私の眼を見つめてきた。

「……わかった。これからは思春って呼ばせてもらうよ」

 

 北郷がそう言ったとき、私は少し安心していた。

 私が真名を許しても、呼んでくれないのではないか、と少し思っていたからだ。

 

「俺のいた国には、真名って言うのがなかったから、せっかく思春が俺に真名を許してくれても、それに答えることはできないな。う~ん……」

 北郷は少し考えこんでからつづけた。

 

「真名はじゃないけど、これからは俺のこと一刀って呼んでくれないか?」

 

 私は北郷のくれたやさしさに答えるために、真名を委ねた。

 それなのに、北郷の名まで読んでいいのだろうか。

 

 北郷は真名ではないと言っているが、おそらく「一刀」というのは、私たちの国でいう真名のようなものなのだろう。

 

 ……そう考えていると、

 

「だめか?」

 と北郷が私の顔を覗き込んできた。

 

「っ!」

 あまりにも顔が近くに寄って来たので、私は顔をそむけてしまった。

 顔が熱い。

 北郷から見たら、今の私はどう見えるのだろうか。

 

「思春?」

 

 私の返答がなかったからか、北郷はまた私の顔を覗き込んできた。

 

「わ、わかった。これからは、か、一刀……と、よばさせてもらう」

 

「うん。これからもよろしくな思春!」

 一刀は本当にうれしそうな笑顔でそう言った。

 

 その日以来、私は一刀に任せていた仕事を自分でするようになった。

 ただ、もうその頃には、一刀の1日の仕事量を私が1日で終わらせるのは無理だったから、結局一刀に手伝ってもらっていた。

 

 一刀の剣の稽古も、前のように私が一方的に打ち込むのではなく、一刀の剣撃を受けたり、しっかりと稽古をつけるようになった。

 

「何か最近、思春やさしくなったよね」

 と一刀が稽古中に言って来たので、思わず、思いきり打ち込んでしまい。一刀をのしてしまったことが何度もあったが……。

 

 

 

 

 

 私は、自分の記憶を、私と北郷の名前を変えて、甘述に話した。

 

「この様に、自堕落に怠けていないで、自分で自分を律するように生きていかねばだめだぞ。わかったか甘述」

 あの頃の私を反面教師に、甘述には立派な将軍になってほしい。

 そう思って、私は最後にそう言ってしめた。

 

 私が話終えてから、話を聞いていた甘述がこう言った。

「……う~ん。なんか、母上がお話してくれた二人って、父上と母上みたいですね」

 

「っ!」

 私は少し焦った。

 

「ど、どうしてそう思うのだ?甘述?」

 

「う~ん……なんとなくです」

 

「そ、そうか?母はそうは思わないが……。さ、さぁ、お話は終わった。約束通りちゃんと寝ておくれ」

 

「……はぁ~い」

 甘述は、話を途中で切り上げられたのが少し不満だったのか、あまり気の入っていない返事をした。

 

「ふぅ」

 私は一息ついて、部屋の明かりを消そうとした。

 

 すると、甘述が訪ねてきた。

「ねぇ、母上。そのお話のあと、お役人さんと異国の人はどうなったの?」

 

「……」

 私はすぐに答えることができなかった。

 

「母上?」

 

 すぐに答えなかったのを不思議に思ったのか、甘述が首を傾げて私に答えを促した。

 

 私に向けられている、まだ傷つき涙を流したことのない、その愛らしい瞳に、私は真実を告げることはできなかった。

 

「そのあと、その二人は婚姻を結び、末長く幸せに暮らしたそうだ」

 私は、今できる限りの穏やかな表情で、甘述に答えた。

 

「そうなんだ!よかった!」

 そう言うと甘述は、嬉しそうに布団をかぶった。

 

「あぁ。よかったな」

 自分の嘘を喜んだ甘述の笑顔に少し胸を締め付けられながら私は明かりを消した。

 

 私が明かりを消してしばらくすると、私のすぐ横にいる甘述は既に寝息を立てていた。

 

「お休み」

 そう言いながら甘述の頭を撫でていると、私の頭の中に先ほどの甘述の問いかけが再び浮かんできた。

 

 

「そのあと、お役人さんと異国の人はどうなったの?」

 

 

(そのあと、私と一刀は……)

 

 私は、深い夜の暗闇とともに再び記憶の奥底へと沈んでいった。

 

 

 

 

 

続く

 

 

 

あとがき

 

 

どうも、komanariです。

 

まず、前作「流琉と兄様 アフター・ストーリー 後編」を閲覧、支援してくださったたくさんの方々。それから、多くの温かいコメントをしてくださった方々。本当にありがとうございました。

 

今回は、はじめの所に書いたように、takay様からリクエストしていただいた「呉のキャラで」というのにお応えして作らさせていただきました。一応、まだ前編なんですが、こんな感じでいいのでしょうか?

 

takay様をはじめ、閲覧してくださる方々のご希望があれば、早めに後編を書いて、投稿したいと思っております。

 

さて、今作は思春さんをメインに扱っていますが、まず、皆様に謝らなければならないことがあります。

 

キャラ崩壊しすぎててすみません。

 

原作のキャラと明らかに性格が違うのは、今回の時期設定が、思春がまだ雪蓮や蓮華と会う前、それどころか、まだ河賊にすらなる前の時の話だからです。その辺の設定(漢の役人になってるなど)は、正史の三国志とか三国志演技の方から引っ張ってきたものです。

 

性格については、正史や演技において、まだ甘寧がやんちゃしてた頃なので、こんな感じかなっと僕が勝手に想像させてもらいました。

 

不愉快に思われた方がいらっしゃいましたら、ごめんなさい。

 

この段階から、皆様のよく知っているような思春になるまでには、後編を待っていただかないといけません。

 

 

さて、今回はtakay様のリクエストにお応えして、書かせていただきましたが、他にもコメントで「流琉と兄様」の詳細な話などをリクエストしてくださった方々、また応援メッセージでリクエストしてくださった方がいらっしゃいました。それらの方々、今回はご希望に添えずすみませんでした。

いつになるかはわかりませんが、皆様のご希望に添えるよう、がんばりたと思います。

 

 

 

 

長くなりましたが、

今回は私のつたない文章を閲覧してくださってありがとうございました。


 
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