No.654541

カフェモカ

たけ坊さん

前回の作品に続きBL小説になっております。
今回はオリジナルの作品を投稿いたしました。
絵は友人のRemさんが描いてくれました!!ただ、この時はまだ設定が
はっきりしていなかった為、主人公の子は制服を着ております。
本編では大学生だよ…!

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2014-01-14 01:37:24 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:412   閲覧ユーザー数:406

 

「コーヒー好きなんだね。」

(違う、本当は)

 

「…はい、好きです。」

 

(あなたが入れてくれたから。)

 

 

『カフェモカ』

 

「いつもありがとうね、たっくん。…そうだ、パティシエの友人からケーキを貰ってるんだ。

新作の試食と、あと今後もしかしたらお店に置こうと思っててね。だけど、僕一人じゃ食べきれないからさ、

たっくんも一緒に食べてもらえないかな?」

「は、はい!俺、甘いもの大好きなんで嬉しいです!」

 

春を思わせるような柔らかな笑顔はいつみても、僕をドキドキさせている。

この感覚、少女漫画の中で主人公の女の子が好きな人を想う気持ちと似ているけれども、

まさか自分(男)が同じ状況になろうとは…なんとも恥ずかしい気持ちもする…。

 

興味本位で妹の漫画を読むんじゃなかった。

だって思い出す度に彼女たちの想いと自分の気持ちがリンクして、

苦しく、温かくなるこの気持ちに気付いてしまったから。

きっとこれは、初恋なのかもしれない。

 

 

「はい、お持たせしました。」

 

綺麗にお皿に盛られているのは、純白の生クリームに真っ赤に熟れたイチゴのシンプルなショートケーキ。

だけどそれは何だかキラキラしていて、見ているだけで口の中が甘酸っぱくなる気がした。

「わぁ…何だか見ているだけで美味しいって分かっちゃうかも。」

「…ふふ。でしょ?見た目も味も妥協は一切しないのがあいつだからね。」

 

カウンターに軽く肘をついてきっとその友人のことを思い浮かべているのだろうか、

何かを思い出している彼は目を細めてジッとケーキを見つめている。

 

「仲が良かったんですね。」

「ん?そうでもないよ。…まぁ、悪友ってとこかな。」

 

はは、と苦笑いを俺に向ける彼から目線を離して見たケーキは

何だかさっきよりも美味しそうに見えなかった。口の中はほんの少し苦い。

 

「…さ、コーヒーも淹れなおしてあげるからお食べ。」

「あ、ありがとうございます……いただきます。」

 

冷たくなったカップを下げ、背をこちらに向ける。少ししてコーヒーを注ぐ音と香ばしい香りがしてきた。

この店に通い続けてまだ数ヶ月。たまたま通学路から反れた路地にある店を偶然見つけてから通い始めて。

ここの店員さん、雄一(ゆういち)さんに常連として覚えてもらうにはそんなに時間は掛からなかった。

そして、この気持ちに気付くのも…。

最初は戸惑いもあったものの、今はそれほど深くは考えずただこの店に通い続け不毛な恋を続けている。

 

フォークで一口大に切り、ゆっくりと刺す。繊細な白いクリームと同じ様にきめ細かなスポンジがすっと

入っていくのがわかる。目の前で一度見つめ、そのまま口へと運んだ。

 

「…!!…すっごく美味しい。」

「本当?」

「はい!俺、甘いものは好きなんですけど、クリームは少し苦手で…でも、これは俺、好きです。

いくつでも食べられそう。」

「そう…最近は頻繁に来るからさ、もしよかったらこれからも一緒に試食してもらえると嬉しいな。」

「え!?」

「あ、でも大学が忙しいよね?バイトとかしてたらなおだし。」

「い、いえっ!雄一さんが良ければ!」

「…じゃあ、お願いしようかな。」

「はい!」

 

願ってもないチャンスに勢いよく返事をしてしまった。

 

「…あ、すみません…。」

 

一瞬目を張った彼だったが、すぐに笑顔になった。

 

「ははっ!そんなに喜んでもられるとはね。友人としても嬉しいね。あ、そうだ。」

「?」

「次は事前に連絡したいから、連絡先教えてもらえるかな?」

「!!…あ、はい。」

 

(ま…まさかの連絡先ゲット…っ!)

 

心の中でガッツポーズをして、携帯を取り出し赤外線で連絡先を交換していると、

『カラン』と入口の鈴が鳴った。

 

 

「おー雄一、試作どうだー。」

「あ、俊(しゅん)。丁度良かった。」

 

気だるそうにぬっと店に入り、そのままずかずかとこちらに向かってくれば

携帯を片手に固まる俺の隣にドカッと座った。

皿の上のケーキを見ると寄っていた眉間をさらに寄せ、雄一さんにそのまま顔を向けた。

 

(な、何…!?)

 

「おい、雄一。俺がいつ店に出して良いっていったんだ?これはまだ試作のやつだろ。」

「あぁ、別に商品として出しているわけじゃないよ。彼に、俊の試作品を一緒に食べてもらおうと思って。」

 

特に焦る様子もなく、うちの常連さんなんだよと淡々と話す雄一さんを横目に

 

「ふーん…」

 

と、言いながら今度は僕をじっと見てきた。

(な、何なに…?)

 

赤外線の終えた携帯を握りしめて、視線に耐えられず俯いていると、俺と俊さんと言われた人の間に

手が差し入れられた。

 

「はい!そこまで!俊、見すぎ。怖がってるでしょ。」

「ゆ、雄一さん…!」

 

ふと見上げると、いつもの優しい笑顔の雄一さんがいて安心する。

そのまま見つめ合っていると、隣で舌打ちをする音がした。

 

「チッ…おい、別に俺はお前に何かしよーってわけじゃないからな。…それ。」

「え?…ケーキ?」

 

指差した先にあるのは、さっき雄一さんに出してもらったショートケーキだった。

 

「早く食え。」

 

びしっと今度俺の前に指先が行く。

 

「早く感想が聞きたいんだよ。それにあまりケーキを放置すんな、ダメになるだろ。」

「す、すみません」

「全く、そんなに急かせないであげてよ。」

 

(この人って…雄一さんの…)

 

 

慌てて、もう一度フォークを手に取りケーキに指した。そっと口に入れる。

 

「ん、やっぱり美味しい…さっきも一口頂いたんですけど、甘ったるくなくて

クリームが少し苦手な人でも美味しく食べられると思います。

さっきは気付かなかったですけどソース?みたいなのも挟まってて…」

 

ぱっと隣りに顔を向けると、さっきよりもしっかりと目があった。

 

「…」

「えと…?」

 

(俺の顔になんか付いてるのかな…?)

 

「…あ、具体的な感想とかも必要ですよね!えっと…」

「いいよ。」

「え。」

 

ふわっと頭になにか乗ってきたかと思えば、それは隣りの彼から伸びた手だった。

最初は頭の線をなぞるように、次にはくしゃくしゃと頭を撫でてきた。

 

 

「わわっ」

「美味しいっていってもらえれば、それでじゅーぶんだ。」

 

(俊さんて…)

 

さっきは怖くてちゃんと顔見れなかったけど、カッコいい…。

堀が深く、瞳の色が綺麗な青。ハーフ?なのだろうか…?

見た目と違って硬派な感じのいい人そうだ。

撫でられるのがなぜだか心地よくてじっとしていると、

 

「拓実。」

 

突然名前を呼ばれ、びくっと身体が反応する。

それに驚いたのか撫でていた手も止まる。

 

「い…ま…。」

そろそろと声がした方を向けると、雄一さんが笑顔で俺を見つめていた。

思わずドキリとしてしまう。

 

「ん?」

「雄一さん、今、俺の名前…。」

「ん。たまに呼んでみようかなと思ってね。やだった?」

 

顔をぶんぶんと振る。顔が熱くなるのが分かる。

 

「う、嬉しいです…。でもなんで突然…。」

「だってさ、2人で話して俺のことほったらかしにすんだもん。…それに。」

 

スッと顔の横に雄一さんの手が来たかと思うとくいっと上に向かされた。

 

「名前で呼ぶときに、真っ赤になるたっくんが可愛くてね。つい。」

「………………ッ!?」

「あ、もっと赤くなった。」

 

(か、からかわれているのかな…?ああっ、でも、幸せっ)

「よっし!」

 

と横から、気合いを入れるような声がすると俊さんがにやりとこちらを見た。

 

「お前、拓実っていうんだな?」

「え?あ、はい!」

「ちょいと待って。」

 

紙を取り出して、どこからかだしたペンですらすらと何かを書いている。

書き終えたかと思えば、ギュッと俺の手に重ねるように置かれた。

 

「え?え?」

 

渡された紙には俊さんの名前と連絡先だろう内容が書き込まれていた。

 

「今日中までここに拓実のメールアドレスを送ること。で、次は俺の店まで直接ケーキを食いにこい。」

「あ、あの?」

 

有無を言わせないような勢いで俊さんは続ける。

 

「今度はもっとうまいケーキ食わしてやる。」

(もっとうまいケーキ!?)

「…ほんとですか?」

「あーじゃあ、俺も一緒に行こうかな。たっくんと一緒に。」

「ほ、本当ですか!?」

(雄一さんと…?!)

「お前は来なくていい。店、あるだろ。」

(お出かけ…したい!)

「あ、で、でも!みんなで食べたほうがいいですよ!俺、雄一さんと食べに行きます。」

「店は、ちょっとくらい抜けても大丈夫だよ。」

 

ムッとした俊さんは暫くして、諦めたように言った。

 

「あー…仕方ねえな。とりあえず、雄一。」

「はいよ。」

 

ニコニコ笑顔の雄一さんとにやりと笑う俊さん。

 

「覚悟してろよ。余裕かましてると、あとが痛いぜ。」

 

その間で、なにが起きているのかも把握できてない僕は、雄一さんと一緒に出かける口実ができたことに

幸せをかみしめていた。

 

 

 

続く


 
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