No.639266

真・恋姫†無双~黒の御使いと鬼子の少女~

風猫さん

白髪の鬼子と黒の御使いの、守るために戦い抜いたお話

真・恋姫†無双の蜀√のお話です。

オリジナルキャラクターが蜀√に関わる話なので、大筋の話は本編とほぼ同じですが、そういったのがお嫌いな方はブラウザのバックボタンをお願いします。

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2013-11-23 19:08:50 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:2817   閲覧ユーザー数:2484

 

 みなさんは、鬼子、という言葉を知っていますか? まぁ、ネットが発達したこの社会ならパパッと調べられちゃいますよね。そうですね、すっごく端的に言ってしまえば「異形の子供」いい言葉ではありません。何でいきなりこんなことを、って? それがこの物語の根幹にあるからなんですよ。

 

 この物語は白髪の鬼子と黒の御使いの、守るために戦い抜いたお話なのですから。では、外史を開くとしましょうかね。

 

 

真・恋姫†無双~黒の御使いと鬼子の少女~ 今より開幕いたします。

 

 

「…………」

 

 早朝の霧が立ち込める森の中で一人の男が樹に背中を預けて寝ている。顔は全身を覆う黒い外套についている頭巾で隠れて見えないが、左手には鞘に納められた無骨な剣が握られていた。分かる人が見れば、それは日本刀だと思っただろうが、これはそんな物じゃない。なにせ、刀身の横幅がその倍近くはあるからだ。これは、人を斬ることだけに特化した業物。もはや、人を斬りすぎたそれは切れ味なんてものはとうに使い果たしてしまったが、それでも人を斬ることが出来る。それはひとえに男の技術の高さの賜物だろう。

 

 その男の目がうっすらと開いた。何かが近づいてくるのを感じたからだ。ゆっくりと刀を腰の位置まで下げ、右手でその柄を握る。そして、その何かが視界に入った時、彼はその右手から力を抜いた。なぜなら、それが10歳くらいの白髪の少女だったからだ。しかも、表情から見るに何かから逃げているようだった。

 

 少女は男を見つけると、駆け寄ってきた。その時、少女の額にあるものを見て、男はうっすらと開いていた目を完全に開いた。

 

 角だ。長さは数センチほどだが、右側の額から角が生えていた。そのことに驚いている間にも少女は男に近づき、そして目の前で転んだ。

 

「大丈夫か?」

 

 思わず樹から体を起こして少女へ手を伸ばすが、少女はその手を握らず、男の肩を掴んだ。

 

「あ、ああ!」

 

 そして、言葉にならぬ声で必死に何かを訴えかけようとしていた。

 

「あ、あああ、ああ、あ!」

 

 だが、初対面の少女の表情だけでそれを読み取るのは至難の業だ。当然男には何を訴えようとしているのかがわからない。

 

「落ち着け、どうしたんだ?」

「あああぁ! あ、ああぁ!」

 

 そこで、男はこの少女が喋れないのだと気が付いた。おそらく、言葉もあまり理解できないだろうと判断した男は、どうすべきか迷った。だが、そこで、理解できる単語が飛び出した。

 

「た、たすけ! たすけ!」

「たすけ? 助けてくれってことか?」

 

 その言葉を聞いた時、その少女は思いっきり頷いた。どうやら、言葉自体は理解できるようだった。そこで男は出来る限り少ない単語で話すように心がけた。

 

「どうした?」

「あ、ああ、たすけ! お、おね、たすけ!」

「おね? おねがいか?」

 

 その言葉に首を横に振る少女。となると、と呟いた男はもう一つの推測を口に出す。

 

「お姉ちゃん、か?」

「ん! んん!」

 

 どうやら正解のようだ。おそらく姉を助けてほしい、という事のようだが……

 

 その時だった。周囲に複数の気配を感じたのは。

 

「なんだ……?」

 

 そこで、一度、少女から意識を逸らして、耳を澄ませると、声が聞こえ始めた。

 

「あ……、鬼子、どこいきやが……!」

「まだ、そん……くへは行ってないべ! さが……」

 

 なるほど、男はそうつぶやくと再び少女へ意識を戻した。少女の方も、その気配を感じたのか、蒼い顔で男にしがみ付いている。

 

 おそらく、複数の気配は村人で、村から脱走した鬼子、つまり、この少女を探しているのだろう。そして、その手引きをしたのがこの少女の言う“お姉ちゃん”だろう。

 

「……ちっ」

 

 吐き気がした。この当時、鬼子というのは忌むべき存在とされている。村でそんな子供が生まれれば殺されるか、牢屋のような地下室で一生を終えるのが普通だ。だが、男はその普通が、大嫌いだった。それは、ほぼ憎しみと言っていいほどに。

 

 村人の足音がこちらに近づいてくる。どうやら、こちらに気が付いたようだ。すぐに「見つけたぞ!」という声が辺りに響き渡る。

 

「この! 今まで生かしておいてもらった恩を忘れやがって!」

 

 最初に少女を見つけた男が、少女が掴みかかっている男に気が付いた。左手にある物を見て、少し怖気づいたようだが、それ以上に少女を捕まえる方が大事なのか、一歩前に出て男へ話しかけた。

 

「おいあんた、悪いがそいつをこっちへ渡してくれ」

「…………」

 

 返事をしない男に村人の男は怒気を含んだ声で再び話しかける。

 

「おい! 聞こえないのか! そいつは鬼子なんだ! アンタも不幸になるぞ!」

 

 その言葉を聞いた時、外套を纏った男はスッと立ち上がった。ただ、その身から殺気を滲ませながら。

 

「てめぇ、今なんて言った?」

「な、なんだよ?」

「不幸になる、だ? それが、この子のせいだっていうのか?」

 

 思わず後ずさりする村人を、一歩前に出ることによりさらに威圧する。

 

「それは、てめぇらが起きた不幸をこの子に押し付けてるだけじゃねぇのか?!」

「う、ぁ」

 

 男の怒声に完全に飲まれた村人。でも、その声を聴きつけたのか、他の村人がその場へ集まってくると、飲まれた村人はなんとか抜け出して、男を睨みつける。

 

「だ、だとしてもアンタには関係ない! は、早くこちらに渡せ!」

 

 その言葉に後から来た村人も賛同して、異口同音の言葉が押し寄せる。

 

 しかし、男は動じず、左手の刀を強く握り直す。

 

「……けんじゃねぇ」

 

 ぼそりと言った言葉は波に消されるが、そんなことはどうでもよかった。

 

「……おい」

 

 静かに放たれた言葉。それは、村人の言葉の波をあっさりと引き裂き、全員を一気に黙らせた。

 

「お前、さっきこの子が鬼子だから不幸になるって言ったよな?」

 

 男にそう話しかけられた村人は“あ、ああ”と言って頷いた。

 

「てことは、この子がいなくなったらお前の村から不幸は無くなるってことだよな?」

 

 思わず、村人は苦い顔をしてしまった。その言葉から先の展開が読めてしまった事と、その展開を招いてしまった自分の発言のせいで。

 

「なら、この子は俺が引き取ってやる。そうすれば、お前らの村から不幸は無くなるんだよな?」

 

 さっきの村人の発言が本当ならば、男の意見は有り難いものだし、断る理由が無い。もし、この提案を断れば村人の発言が嘘だという事になる。

 

「いや、それは……」

 

 言いよどむ村人。男が再び口を開こうとした時、その後ろから声が飛び込んできた。

 

「待ちなされ。そこから先はワシの判断が無ければ無理な相談じゃて」

 

 村人の中から十六、七の娘に支えられ、一人の老人が出てきた。見た目からして、おそらく村長で、娘の方は少女の方に目線がいっているし、少女の方も安心したような表情をしているところから、少女の言っていたお姉ちゃんはあの娘のことだろう。

 

「つまり、お前が最終的な判断を下すってわけだな?」

「そうなりますな」

「で、返事は?」

「そうですな、できれば連れて行ってもらいたいというのが本音ですが、いかんせん、その子のもたらす不幸は並大抵の方に耐えられるものでは……」

 

 なるほど、男はこの老人が何をさせたいのか、それが読み取れてしまった。

 

「で、何を相手にすればいいんだ?」

「はて? どういう意味でしょうかな?」

「とぼけるんじゃねぇよ。要は、俺に何かを倒してもらいたいんだろ? 一人だったら諦めるしかない何かを」

 

 そこで老人の顔にシワが増えた。だが、そのシワはすぐに元に戻り、さっきまでの表情となる。

 

「そこまでお分かりだというのであれば、話は早いですな。では、あなた様にはある生き物を仕留めて頂きたい」

「生き物?」

「ええ、村より南方の森に小さな沼があるのですが、そこに巣食う竜をあなた様に倒して頂きたい。竜を倒すだけの実力があれば、なんにも問題はありますまい」

 

 村人の中から動揺が湧き上がる。なぜなら、その竜とはその村の守り神として奉られている存在だったからだ。どうしてそんなことを、村人は口々に小さく呟く。

 

 だが、村長の中では、これは千載一遇の好機だった。

 

(普通の人が竜なぞ狩れるはずもない。もし、仮に狩れたとしても毎月の捧げ物をしなくてよくなる、そうなれば……)

 

 その分の物が全て自分の物となる。鬼子は適当な理由をでっち上げて引き渡さないようにすればいい。断れば村人全員で闇討ちでもしてしまえばよい。村長はそう考えていた。

 

 まぁ、そんなことは既に男には筒抜けだ。そして、

 

「その程度でいいのか?」

「は?」

「“竜を狩る程度”でいいのか、と聞いている」

 

 男にとって、竜と戦うのはさほど恐ろしいことではなかった。

 

~次の日~

 

 村で一泊したのち、男は指定された沼を目指していた。ちなみに、監視役として、村人が一人と、鬼子の少女が付いてきた。戦闘の邪魔にでもなるだろうという、村長の“心遣い”だ。

 

「ここか……」

 

 そして、沼へたどり着いた一行。そこには古ぼけた鳥居と、小さな社、そして、濃い緑色の沼があった。

 

「で、その“竜”とやらはどこにいるんだ?」

「その、竜は沼を荒らされることを極端に嫌うのだ。だから、沼に、なにか放り込めば……」

 

 正直、付いて来た村人は気乗りがしなかった。本来ならば、守り神である竜を狩ることの手伝いなぞしたくないが、この仕事を断れば、家族が追放されてしまう。だから、仕方なくこうして手伝いをするはめになってしまったのだ。気乗りしないのも当然である。

 

「お前らは下がってろ。竜に見られたくはないだろ?」

 

 そのことを知ってか知らずか、はたまた、ただ単に邪魔者をどかすためなのか、とにかく男は二人に下がるように指示し、近くにあった漬物石くらいの大きさの石を拾うと、沼へ思いっきり放り投げた。

 

「な?!」

 

 突然言われ、さらにはいきなり投げ込んだせいで、二人は慌てて近くの大岩の陰に隠れた。それと同時に、沼の水面が緑の山となり、その頂上から竜が飛び出した。

 

『貴様、何者だ? 我が住処と知っての狼藉か!』

「ああ、そうだ。ある男にお前を殺してくれって頼まれたんでな。恨みは無いが死んでくれ」

 

 それだけ言うと、男は右手で柄を握りしめ、戦闘態勢となった。かたや、竜の方は呆れるような声で独り言のように話しかける。

 

『男、そうか、あの村長め、いつか何かしでかすとは思うておったが…… このような形で来るとわな。これだから人という存在は……!』

「御託はいい。始めていいのか?」

『貴様……ふむ、なるほどな。そういうことか』

 

 何かに納得した竜はその雰囲気を一変させる。すると、場の空気も同じように変化し、辺りの温度が急激に下がっていく。春の初めだというのに、まるで北国の冬のような寒さがその場を支配していた。

 

『いいだろう! 貴様の存在がこの世界においてどういったモノなのか、見分させてもらう!』

「御託はいらねぇって言ってんだろうが!」

 

 そして、二つの存在は、激突した。

 

 男は、神速と言えるであろう速さで、竜の右手を狙いに行った。その目的は、右手に握られている宝玉だ。竜はこの宝玉で空を飛ぶことが出来ると、彼の師匠から教わっていたからだ。

 

 だが、そのことを知っているのが彼だけのはずがない。

 

『ほう! 宝玉のこと知っているのか! 面白い!』

 

 竜の方は近づいてくる男に対して、氷で作りだした矢を雨のように撃ち出す。男は舌打ちをして、右手をいったん懐へ伸ばし、そこから暗器を取り出すと、流れるような動きで急所に当たりそうな氷の矢を相殺していく。そして、相殺を免れた氷の矢の一つが、彼の頭巾を引き裂き、その下の素顔を晒す。

 

 その顔をみた村人は驚いた。てっきり歴戦の猛者のようなゴツイ男を想像していたのだが、その下から出てきたのは、どこにでもいそうな、15、6歳の青年の顔だった。黒髪黒目、髪は結っておらず、肩の所までそのまま伸びていた。だが、その目付きだけは、村人の想像していた歴戦の猛者、そのものだった。

 

 その顔や体にいくつも浅い傷を作りながら、男はひたすらに右手へ向かっていく。しかし、あと一歩の所で暗器が無くなってしまう。

 

『もらったぞ、小僧!』

 

 体の中心へ放たれる氷の矢。それを防ぐ術は、

 

「甘い!」

 

 男はそう言って、右手の刀を抜き放ち、その一閃で氷の矢を切り落とす、が、そこで終わりだ。刀を返して次の矢を叩き落とそうとしても、その前に心臓は撃ち抜かれているし、今から体を捻ったところで間に合うはずもない。竜が勝利を確信した、その時だった。

 

『ぬぐ?!』

 

 右手に鈍痛が走り、宝玉が砕かれる。

 

 何が起きたのか、分からなかった竜の視界に黒い棒が映りこむ。それは、

 

『鞘か!?』

 

 全て鉄製の特注品で、男の奥の手の一つでもある。刀と共に極上の砂鉄から作られた玉鋼と、名も無き名工によって打ち上げられた。ゆえに、一つの武器としても使えるほどの物となった。だからこそ奥の手の一つとなっている。

 

 鞘によって砕かれた宝玉はまるで霧のように宙に消える。それに合わせるように竜はゆっくりと地に四肢を付けた。

 

「さて、ここからが本番だ」

 

 男は刀を鞘に戻し、再び柄を右手で握りしめる。だが、竜の方はため息をついてさっきまでの雰囲気を解いてしまう。とたんに春の初めの暖かさが戻ってきた。

 

 だが、男はそれが腑に落ちない。彼の師匠は“竜が地に四肢を付けた時こそが本番だと思え”と、彼に教えていたし、今まで戦った事のある竜もそうだった。となると、今の状況は彼にとって未知の状況となる。

 

「……何のつもりだ」

 

 最大限に警戒しながら問いかけるが、竜の方は半ばあきらめたような口調で返事をする。

 

『宝玉を砕かれた時点で我の負けだ。空を飛べぬ竜なぞ竜に在らず、だ。そんなのは西洋の龍よ。故に、竜でなくなった我の負けだ』

「な……」

 

 今までの竜は“よくも我を地に付けよったな!”と、激昂して襲い掛かってきたのだが、この竜はそれを“竜で無くなった”の一言で片づけてしまった。

 

『まぁ、こんなことを言ってもあの村長は納得せんだろうから、こいつを持って行け』

 

 そう言いながら竜は自身の角をポッキリ折ってしまう。これまた今までの竜とはまた違う行動だった。

 

「お前、本当に竜か?」

『残念ながら、今の我はただの地を這う獣よ。そんな高貴な生物ではない』

 

 どうやら、この竜には他の竜とは違う誇りがあったようだ。それゆえに、あっさりと負けを認めたのだろう。

 

『ほれ、これがあればあの村長でも信じるだろうて』

 

放り投げられた角を払うような動きで掴むと男は、少しだけそれを見て、踵を返し、隠れている二人の元へと向かった。

 

「てなわけだ。村長にはこのことは黙っておけよ?」

 

 その言葉に黙って何度も頷く村人。少女の方は、

 

「…………」

 

 なぜかキラキラした目で男を見ている。

 

「……くっ」

 

 思わず目を逸らしてしまった。色々と汚れてしまっている男には眩しすぎる。

 

「と、とにかく、条件は満たした。この場に用はもうない。いくぞ」

 

 そして、三人はその場を後にした。だが、男にはこの先に起こるであろう出来事は、予想できていた。

 

------------

 

 

「な、なんと……」

 

 日も落ちないうちに男はその手に竜の角を持って帰ってきた。村長は何日もかかると踏んでいたので、ただ茫然とその角を見ていた。

 

「これで問題はないだろう? では、約束通り、この娘はもらっていく」

 

 それだけ言って、男は鬼子を引連れて家を出ようとするが、村長はそれを慌てて引き止める。鬼子を外に出せば、村の、いや、村長の恥となるからだ。

 

「お、お待ちくだされ! せめて、祝いの宴だけでも……!」

「生憎、そんな暇はない。祝うのならば、この村から無くなる不幸に対して、にしておけ」

 

 男は適当にあしらって、外に出てしまうが、その足が止まる。その目の前にいたのは村長を支えていた娘だった。

 

「…………」

 

 娘は男を一言も発せず睨めつけている。だが、その目にあるのは、守ろうとする意思だ。

 

「安心しろ。連れ出すからには責任は果たす」

「……本当に?」

「信じろとは言わん」

 

 そういった男を娘はさらに眉根を寄せて睨むが、すぐに小さなため息をついて、悲しそうな表情で鬼子の少女を見た。

 

「……気を付けてね」

「あ、おね、ちゃ……」

「……この子を、お願いします」

 

 娘は右にずれて男へ道を空ける。村長はいまだに何か言っているが、男は無視してその道を歩いていく。そして、すれ違いざまに、娘の耳に呟いた。

 

「竜はまだ生きている。夜辺りにでも報復に来るだろうから、すぐに逃げろ」

「?!」

 

 娘は振り返るが、男はそのまま振り返らずに歩いて行ってしまった。

 

~その夜~

 

ある山の中腹で、焚き火を背に男はある方角を見ていた。その方角からは火の手が上がっている。さっきの村だ。

 

 竜は、男との戦いを見分、と言っていた。となれば、あの一戦で見分を終えたのだろう。だが、宝玉を割られた恨みはまた別だったのだろう。だからこそ、その村長がいる村を焼き払った。まぁ、あの性格なら他の者を傷つけるようなことはしないだろうが、とばっちりを受ける可能性はある。だから、あの娘、この鬼子の実の姉に教えたのだ。

 

 と、いっても、あの竜が火炎まで出せるのは予想外だった。山火事にならなければいいが、と若干不安になったが、恨みを晴らしたのか、竜自身がその火炎を水で消して、そのまま何処かへと去ってしまった。

 

「これでいいのか?」

 

 そして、それは“鬼子”の依頼でもあったのだ。

 

「ん!」

 

 肝心の鬼子は満面の笑顔で頷いた。彼女からすれば、姉以外の人間なぞどうでもいいのだろう。この状況での笑顔がそれを物語っている。

 

「でも、いいのか? お姉ちゃんと別れることになるんだぞ?」

「…………」

 

 さっきまでの笑顔はどこへやら、急に寂しそうな表情へと変わってしまう。でも、その顔はそれを覚悟していた者の顔だ。

 

「おね、元気なら、いい」

「そうか……」

 

 だが、少女の顔はいまだに寂しそうなままだった。男は頭を掻いて、ぼそりと呟いた。

 

「……御剣玄輝(ミツルギ ゲンキ)だ」

「?」

「俺の名前だよ。一応、これからしばらく一緒に旅するんだ、名前を知っておかないと不便だろ?」

「あ……」

 

 少し、呆気にとられたような表情で男、御剣を見ていたが、次第に表情はさっきの満面の笑みへと変わり、

 

「ゲンキ! ゲンキ! ゲンキ!」

 

 その笑顔のまま、彼の腰へと飛びついた。

 

「だ、だぁ! は、離れろ! 懐くな!」

 

 焚き火の明かりだけが照らす暗闇で、二人は不格好なダンスのようにくるくると回っていた。この先に待つ運命を知らないまま。ようやく廻り出した歯車の音に気が付かないまま、楽しそうに回っていた。

 

--------------

 

 さて、これが鬼子と呼ばれた少女と男の馴れ初めにございます。まぁ、お気づきの方もいらっしゃるでしょう。そう、ここは日本です。と、いっても、時代は戦国の終わりだっけな? 織田さんが殺された、直後くらいですね、たしか。そんな時代に巡り合った彼らはその後、2年の時を共に過ごすことになります。そして、運命の時を迎えることになるのです。

 

(続)

 

あとがき(のようなもの)

 

 

え~、さて、お初にお目にかかります、風猫と申しますです、ハイ。

 

正直、不安MAXで投稿した本作ですが、いかがでしたでしょうか? 恋姫たちが出てねぇじゃねぇか? それは、ほら、お楽しみってやつです。あとでちゃんと出しますから、ご安心ください。

 

とりあえず、何かありましたらコメントをください。特に、間違いとかは最優先でお願いします!

 

では、また次回お会い(できるかな?)する時まで~

 

 

 

 

 
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