No.63513

断金の誓い

rocketさん

真恋姫†無双、呉ルートにて。
冥琳がたまらなく好きなんだ・・・。

登録タグが違うとのことで追加してみましたが、こうでしょうか・・・?
なにぶん未熟者でしてすんません。

2009-03-15 23:44:25 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:7835   閲覧ユーザー数:6894

 

 

 

 

 

「私、王になるわ。孫呉を、なによりも素晴らしい国にしてみせる。だから――

 

 手伝ってくれる?」

 

 

あの時、私は――なんと答えたのだったかな。

もう忘れてしまった。けれど、あのときの雪蓮のまっすぐな瞳だけは、今もはっきりと憶えている。

偉大な母親の背中を見据え、

守るべき妹たちを背中に庇い、

さらに孫呉の民までもを背負おうと誓う雪蓮の瞳だけは。

 

 

「冥琳?」

「ん・・・」

心地よい音と共に冷たい風が頬を撫でていく。

俺の横で釣りをしていたはずの冥琳は、どうやら眠ってしまっていたみたいだった。

起こすも悪いかな、と声をかけるのを止めたが、時既に遅し、だ。

「・・・北郷。すまない、眠っていたみたいだ」

「いいんだ。こっちこそごめんな、起こしちゃって」

「お前が謝る必要はどこにもない。私の職務怠慢だな…」

「職務て。」

「そうだろう?私たちは魚を人数分釣ると皆に約束した。昼時までに釣らねば、食いあぐねてしまう・・・」

大真面目な顔で、本気で危惧しているらしい冥琳を見ると、なんだかなあ、と思う。

そんなだから、俺の世界で君は早死にしちまったんじゃないのか?

「前から思ってたけど、冥琳はちょっといろいろ背負いすぎじゃないかな。疲れない?」

「・・・背負いすぎって、私がか?」

「他に誰がいるの」

きょとん、とした顔で聞き返してくる冥琳は、どうも納得しかねるといったふうに首を傾げた。

「どうしたの?」

「ああ、いや・・・そんなふうに思ったことが一度もなかったのでな・・・」

「・・・俺が呉に来て結構経ったと思うけど…。俺は、冥琳以上に働いている人を見たことがないよ?」

「ふむ・・・。単純な仕事量から言えば、そうなのかもしれんがな。」

「というと?」

妙に含みのある言い方をするじゃないか。

「私は今までも、そして多分これからも…雪蓮ほどに何かを背負うということはないと思う。」

「・・・雪蓮、かあ」

その豊かな黒髪をなびかせて、懐かしむような目で冥琳は微笑んだ。

「私と雪蓮は幼い頃からずっと一緒だったのだがな…、奴が王になると決めた日のことは、今でも憶えている」

「・・・へえ?」

「強い目をしていたよ。いつか、呉を全ての民が笑って暮らせる国にするのだと言っていた」

ふっ、とその目に影が差す。

「それを実現させるために払った犠牲は、数え切れないほどある。孫堅様を筆頭に、な」

雪蓮と、蓮華、それに小蓮の母親。

江東の虎と恐れられた、紛うことなき英雄の一人。

雪蓮が言うには、ひどくおっかない人だったらしいが…。

それでも、孫堅さんのことを話すときの雪蓮の瞳は、大事なものを見ているときのように優しげだった。

「雪蓮はね、北郷。孫堅様がお亡くなりになったとき、泣かなかったよ」

 

――呉の兵たちが見ているから。

 

母親の屍を抱いて、家に伝わる宝刀を握り締めて。

涙を見せず、弱さを見せず、ただ前だけを向いていた。

「孫堅様だけじゃない。いろんな人を失ってきた。戦場に立っている限り、祭殿や私だっていつ死ぬかわからない。

それでも前だけを見ると誓うこと以上に重いものなんて、存在しないと私は思っている。」

それに比べたら執務なんて軽いものだよ、と冥琳は笑った。

 

「あら、冥琳ってば嬉しいこと言ってくれるじゃない♪」

 

「雪蓮っ?」

「やっほー、果物たくさん獲れたわよ~」

どさどさ、と足元に山のような量の果物を落としていく雪蓮。

恐る恐る冥琳のほうを見ると、俯いて、「しまった」と漏らしていた。

「ふふふ・・・もう、冥琳ったら私のことわかってくれてるんだから~♪」

ニヤニヤしながらそういう雪蓮に、

「軍師だからな」

と顔を赤くしながら答える冥琳は、なんだか可愛らしかった。

 

 

「私、王になるわ。孫呉を、なによりも素晴らしい国にしてみせる。だから――

 

 手伝ってくれる?」

 

ああ、雪蓮。

もちろんだとも――。

 

 

 

 

 

 
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