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真・恋姫†無双 外史 ~天の御遣い伝説(side呂布軍)~ 第二十六回 第二章:益州騒乱⑧・趙韙の反乱

stsさん

どうもみなさん、お久しぶりです!または初めまして!

今回は趙韙の反乱、そうです、第二章は「益州騒乱」なのです、、、

皆さま覚えていらっしゃいますでしょうか、序盤に一瞬だけ登場した、軍隊然とした女性・趙韙(チョーイ)さんのことを。

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2013-11-08 00:00:07 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:5950   閲覧ユーザー数:5028

 

 

あれはまだ、成都で平穏な日々が続いていた、ある日の出来事でありました・・・。

 

 

 

 

 

<うわぁ~~ん!!ははさま~!えんやがぶったのじゃ~~~!!!>

 

<聞いてくださいおやかたさま!若がワタシのことを男女とバカにす―――!>

 

<妾の息子に何さらしとんじゃボケェェェェェッッッ!!!!>

 

<――ッ痛ぅ~~~~・・・な、何も・・・ブツこと・・・ぐすっ・・・>

 

<ほら見ろ、だから言ったんだ、魏延。やっぱ手を出したおめぇが悪―――>

 

<孝直、お主もなに黙って見とったんじゃボケェェェェッッッ!!!!>

 

<――ッ痛ぇぇぇぇ・・・おやかた、とんだやつあたりじゃねぇ、ですか・・・ぐすっ・・・>

 

<ぐすっ、わらわをぶつからじゃ、ヤ~イえんやのアホ~!おとこおん―――>

 

<璋! “妾” は女子が使う言葉じゃから妾の真似して使うでないといつも言っとるじゃろボケェェェェッッッ!!!>

 

 

 

 

 

 

 

<いったい何事だ―――んん!?>

 

<うわ~~~ん!ははさままでぶったのじゃ~~~!!!>

 

<ワタシは・・・ひっぐ・・・悪くないのに・・・えっぐ・・・>

 

<おれもだ・・・ぐすっ・・・おぼえてやがれ・・・ひっぐ・・・>

 

<桔梗よ!ちゃんとガキどもを躾けんかボケェ―――アイタッ!?>

 

<お館様!!子供相手に何をやっておるのですか!?怪我でもしたらどうするのです!?もう少し主君らしい振る舞いを―――!>

 

<・・・ぐすっ・・・桔梗よ・・・ひっぐ・・・お主の拳は・・・えっぐ・・・天下を獲れるに・・・ぐす・・・違いないのう・・・>

 

<・・・しまった・・・またやってしもうた・・・>

 

 

 

<うわ~~~~ん!!しおん~~~!!ちょ~い~~~!!!わらわをたすけるのじゃ~~~!!!>

<うわぁあああん!!こんなの理不尽だぁああああ!!!>

<ぅわぁ~~~ん!!何でいつもおればっかりとばっちり食うんだよぉ~~~!!!>

<ぶわぁぁぁぁん!!!もう妾君主なんてやめたるわぁぁぁぁい!!!>

 

 

 

<<<<うわぁぁああぁぁああぁぁああぁぁああぁぁああぁぁああぁぁああぁぁああぁぁああぁぁああんっっっっ!!!!>>>>

 

 

 

<ええい紫苑!!趙韙!!張任でもよい!!!頼むから誰かこやつらを何とかしてくれぇぇぇぇっっ!!!!>

 

 

 

 

 

しかし、劉焉様が崩御なされた今、このような平穏な日々は、二度と戻ってくることはないのであります・・・。

 

 

 

劉兵「趙韙様、全ての東州兵がこちらの意に賛同しました」

 

趙韙「了解であります。準備を整え次第、すぐに城へ帰還するであります」

 

劉兵「はっ!」

 

 

 

もう、あの頃には戻れない、後戻りはできないのであります・・・。

 

 

 

 

 

 

【益州、漢中市街地】

 

 

 

魏延が宴席に戻った頃には、もうすでに宴は終わっており、そこら中に酔いつぶれた人たちが転がっていた。

 

(なぜかそこには、先ほどまで一緒に話していた北郷が、酒樽を抱きながら幸せそうに眠っている張遼の枕にされながら転がっていた。

 

恐らく、魏延より先に宴席に戻ったはいいが、再び張遼に捕まった結果と思われる)。

 

 

 

魏延「まったく、だらしのない奴らだ」

 

 

 

そうつぶやきながら、酔いつぶれた人たちが体を冷やさないように布をかけていく。

 

そして、北郷にもかけようとしたところで一瞬手が止まった。

 

北郷は幸せそうに涎を垂らしながらも、顔は真っ青という器用な顔をしている。

 

 

 

魏延「なんて間抜けな顔だ・・・」

 

 

 

魏延は北郷の寝顔をボーっと眺めている。

 

 

 

魏延「心から仕えたい、共に志を遂げたい、か・・・」

 

厳顔「何をブツブツ呟いておるのだ?」

 

 

 

突然背後から声をかけられた魏延は、本当に跳び上がって驚いた。

 

振り返ると、そこには魏延同様華佗の手当てを受け、全身のいたるところを包帯でグルグルに巻いた厳顔が歩いてきた。

 

膝に受けた傷が重傷の様で、杖をついている。

 

 

 

魏延「き、桔梗様!起きていらっしゃったのですか」

 

厳顔「この程度の酒の量で酔いつぶれるほど、ワシは老いてはおらんわ」

 

 

 

年齢とアルコール代謝能力とに関係があるかどうかはさておき、

 

厳顔は顔を若干赤く染めながらも、口調もはっきりしているほど正常であった。

 

同じく酒豪である張遼が寝てしまっているところを見るに、恐ろしいほどの酒豪であることが窺えた。

 

 

 

魏延「もう歩いてもよろしいのですか?」

 

厳顔「ふむ、ずっと歩かんでいては体が鈍ってしまうからな。だが、杖などつかねばならぬとは、見た目からしてババ臭いな」

 

魏延「仕方ありませんよ。治るまでの辛抱です」

 

 

 

そこまでいうと、魏延は一瞬間を置いた後、ポツリとつぶやいた。

 

 

 

魏延「・・・答え」

 

厳顔「ん?」

 

魏延「桔梗様が以前仰っていた、仕えるべき主は己自身の心で感じよ、という言葉。その答えがようやく見つかったような気がします」

 

 

 

その言葉を聞いた厳顔は魏延の顔をまっすぐ見定めた。

 

曇りも迷いもない、まっすぐなその瞳を見、そしてゆっくりと北郷の顔を一瞥し、しばし目を閉じて考えた後、

 

 

 

厳顔「・・・そうか、お主自身で見つけたのなら、ワシは何も言わん。ただし、後悔だけはせんようにな」

 

魏延「はい!」

 

 

 

夜風が心地よい、静かな夜であった。

 

 

 

 

 

 

翌日、呂布一行と劉璋軍は予定通り漢中の人々に別れを告げ、成都へ帰還しようとしていた。

 

 

 

華佗「本当にありがとう!また病気や怪我なんかで困ったらオレを呼んでくれ!少なくとも、漢中の街が復興するまでの間は、オレも

 

漢中に留まって復興の手伝いをしているからな!」

 

 

北郷「ああ、張魯たちのこと、ひとまず頼んだよ」

 

 

 

ガシッと握手を交わし、呂布一行と劉璋軍は漢中を後にした。

 

あとは、漢中の内乱を無事治めた功績を引っ提げて、劉璋への仕官を叶えるだけである。

 

 

 

 

 

―――そのはずであった。

 

 

 

 

 

しかし、そこへ誰かが一行目掛けて馬で駆けてきたのである。

 

よく見ると、騎手は負傷しているようであった。

 

やや明るめの緑を基調とした軍師装束に身を包み、少し長めの金髪をオールバックで流し、

 

眼頭から頬にかけて伸びる真一文字の傷跡が特徴的な、いかにもガラの悪そうなその男は、劉璋軍にとってよく知った男であった。

 

 

 

厳顔「法正!?どうしたのだその傷は!?」

 

 

 

仲間の負傷に気づいた厳顔は、馬から飛び降りると杖もつかずにいち早く駆けより、今にも馬から落ちそうな法正を支えた。

 

劉璋軍の軍師らしからぬ不良軍師、法正は、体中傷だらけで、腕や背中には数本の矢が刺さったままであった。

 

 

 

法正「厳顔殿・・・漢中の方は・・・」

 

厳顔「無事鎮めた。今から成都に帰還しようとしていたところだ」

 

法正「・・・へへ、そうか・・・そりゃ、よかっ―――ゲボァッ」

 

厳顔「法正!!」

 

 

 

吐血した法正の血が、厳顔の顔に飛び散った。

 

どうやら背中の矢傷がよくなかったらしく、一刻を争う容態であった。

 

 

 

陳宮「す、すぐに華佗を連れてくるです・・・!」

 

 

 

武将なのか文官なのかよくわからない、劉璋軍のものと思われる見知らぬ人間が血まみれになっている光景を目にして、

 

陳宮は衝撃を受けると共に真っ青になりながら、震える声で告げ、

 

陳宮の言葉にいち早く反応した高順が、すぐさま華佗の元へと飛んで行った。

 

 

 

魏延「誰だ・・・誰にやられたんだ!」

 

 

 

魏延も、仲間の瀕死の状態を目の当たりにして、顔が真っ青になっていた。

 

 

 

法正「・・・趙韙のやつが・・・謀反を・・・起こしやがった・・・!」

 

厳顔「何!?趙韙が!?それはまことか!?」

 

 

法正「間違い・・・ないぜ・・・趙韙は・・・暴れてやがった・・・東州兵を・・・まとめ上げて・・・挙兵・・・一気に・・・城に・・・

 

流れ込んで・・・きやがった・・・!」

 

 

 

劉璋は、趙韙の帰りが遅いのは、謀反の準備をしているのでは、と笑い飛ばしていたのだが、

 

奇しくも、その戯言は現実のものとなってしまったのであった。

 

 

 

魏延「それで、あのくそガ―――お館はどうなったんだ!?」

 

北郷「魏延、落ち着け!これ以上この人にしゃべらせたら傷に―――」

 

法正「奴ぁ・・・逃げ出し・・・やがったよ・・・困窮している・・・成都を・・・見捨ててな・・・!」

 

一同「!!!!」

 

 

 

それはあまりにも残酷な現実。さらに、法正は重たい口を動かし続けた。

 

 

 

法正「今・・・城は・・・趙韙のやつが・・・完全に・・・占拠してやがる・・・だが・・・幸い・・・死人は・・・出てない・・・」

 

厳顔「わかった、わかったからお主はもうしゃべるな!直、医者が来る!」

 

 

 

すると、間もなく高順が華佗を連れて帰ってきた。

 

 

 

法正「ちくしょう・・・あの・・・くそガキ・・・どうしようも・・・ない・・・ダメ君主・・・だとは・・・思って・・・いたが・・・

 

まさか・・・民や・・・兵や・・・国を・・・見捨てて・・・逃げやがる・・・なんて・・・!」

 

 

 

法正の瞳から一筋の涙が流れていた。

 

法正の胸中では、いくら暗愚の主だったとはいえ、一生懸命支えようとしてきた、

 

そして、体を張って守ろうとした主にあっさり裏切られてしまったことや、何の罪もない民衆を危険な目にあわせてしまったこと、

 

また、それ以外にもこの場にいる人が想像しようもない、様々な事柄に対する怒りやら悔しさやらが渦巻いていた。

 

 

 

厳顔「・・・・・・華佗よ、法正は助かるか?」

 

 

 

厳顔は黙って法正の言葉を聞き終えた後、その体を華佗に預けた。

 

 

 

華佗「かなり危険な状態だが、任せてくれ!オレの腕に賭けて、必ず助けてみせよう!」

 

厳顔「頼む・・・」

 

 

 

厳顔は頭を下げながらそう一言述べた後、全軍に向かって叫んだ。

 

 

 

厳顔「皆、一刻も早く成都に帰還し、趙韙の反乱を止めるのだ!!」

 

劉兵「応っ!!!」

 

 

 

気勢を上げた劉璋兵たちの声を聞いた後、厳顔は呂布たちに向き直り、深刻な面持ちで話した。

 

 

 

厳顔「呂布殿がた、今聞いた通り、事態は一刻を争う。だから―――」

 

陳宮「皆まで言う必要はありませんぞ」

 

張遼「せや、ウチらやってこれから成都でやってくつもりやねんからな」

 

高順「当然、私たちも協力させてもらいます」

 

呂布「・・・一緒に戦う」

 

 

 

しかし、厳顔は最後まで言う必要はなかった。

 

当然、呂布たちの答えは全会一致で決まっていた。

 

 

 

北郷「とにかく、急ぎましょう!」

 

厳顔「すまぬ・・・!」

 

 

 

法正を華佗に預け、一行は成都に急行した。

 

陽平関での戦いを終えて一日、まだ落ち着くには早いようである。

 

 

 

 

 

 

【益州、成都】

 

 

 

しかし、この趙韙の反乱は意外な結末を迎えることになった。

 

厳顔らはすぐさま成都に帰還、その後、巴郡にいる張任ら、漢中への遠征に同行していなかった劉璋軍の兵をかき集め

 

厳顔指揮のもと、趙韙らが立て籠もる成都城を総勢約3万もの兵で包囲。

 

それでも動きがない趙韙に痺れを切らし、さぁ強攻策に出ようと、厳顔が全軍総攻撃の号令をかけようとしたその瞬間、

 

本城が俄かに開門され、趙韙側が降伏を申し出てきたのであった。

 

 

 

 

 

 

【益州、成都、成都城】

 

 

 

時は少し遡り、革命軍と張魯軍が陽平関で激突していた頃、成都城では緊迫した事態が起こっていた。

 

 

 

趙韙「動くなであります!」

 

 

 

バーンと勢いよく開け放たれた玉座の間の扉から入ってきたのは、凛々しい顔立ちにサイドテイルの黒髪を靡かせ、

 

黒のビスチェに迷彩色のホットパンツを身に着け、腰に迷彩色の上着を巻いている女性、趙韙である。

 

そして、趙韙が脅し文句を叫ぶと共に、次々と東州兵が玉座になだれ込み、弓を劉璋目掛けて構えた。

 

 

 

劉璋「ふむ、遅かったの趙韙。どこで油を売っておったのじゃ?」

 

 

 

しかし、周りの侍女たちが逃げ惑う中、劉璋は特に気にも留めず、つまらなさそうに語りかけた。

 

 

 

法正「テメェ趙韙!こりゃいったい何の真似だ!?」

 

 

趙韙「法正殿、自分はもう我慢の限界なのであります。お館様は君主の器ではなかったのであります。今すぐ退けなければ、この国は

 

再起不能になってしまうのであります。そもそも、法正殿ほどのお方が、お館様のような人につき従っていることが信じられないこと

 

であります。とても、正気とは思えないのであります」

 

 

法正「正気じゃねぇのはテメェだぜ趙韙!ここでお館を殺して、どうなるってんだ!当然跡取りのいねぇお館の後継は空席。国の乱れは

 

余計ひどくなるだけだぜ!こんなことしたって、何にもならねぇことぐらい、テメェなら分かって―――」

 

 

劉璋「よい、孝直。趙韙のやりたいようにやらせてやるのじゃ」

 

法正「はァ!?お館、この状況で一体―――!?」

 

 

劉璋「まったく、どいつもこいつも、妾を無理やり君主にしておきながら、好き放題文句ばかり言いよって。まぁ、そういう自由さは

 

嫌いではないがの」

 

 

 

そういうと、劉璋は両掌を上に向けて大きく左右に開き、玉座から立ち上がった。

 

東州兵に命を握られているはずにもかかわらず、劉璋には一切臆している様子はなかった。

 

 

 

劉璋「趙韙よ、妾を殺しに来たのであろう?やりたければやるがよい」

 

法正「お館!」

 

趙韙「・・・正気なのでありますか?」

 

 

 

趙韙は信じられないというような面持ちで劉璋を見据えていた。

 

 

 

劉璋「なんじゃ、さっさとやらんか。まさか、半端な覚悟でそこに立っておるのではないだろうの?」

 

趙韙「くっ・・・!」

 

 

 

趙韙は動かなかった。いや、正確には動けなかった。

 

脳裏に浮かぶのは、かつて劉璋と過ごした、懐かしくも平和で、心温まるよき日々。

 

 

 

 

 

 

<ちょーい!ちょーいはおらんかの!?>

 

<ここであります、若>

 

<わらわはこのもーしをまなびたいのじゃ!じゃからおしえてほしいのじゃ!>

 

<なんと、もう孟子を勉強なさるのでありますか?>

 

<うむ、わらわもはやくちょーいのようにかしこくなりたいのじゃ!>

 

 

 

 

 

<のぅ、ちょーい、もし、わらわがははさまのあとをついで、それでこの “とく” がなくなったら、どうなるのじゃ?>

 

 

<はい、徳を失った君主は、天に見限られ、天命を革める、つまり革命が起きるのであります。そうなれば、その君主は自ら位を譲る

 

禅譲を行うか、武力によって追放される放伐を受けるであります>

 

<ならば、もしわらわがくらいをゆずらねば、ちょーいにころされてしまうのかの?>

 

<ふふふ、自分が若に武器を向けるなど、そんなことはありえないのであります>

 

<じゃが、かくめーはくんしゅがわるいからおこるのであろう?じゃったら、ころされてもしかたがないのじゃ。それに、ちょーいに

 

ころされるのであれば、わらわはおもいのこすことはないのじゃ!>

 

 

<若・・・>

 

<わわ!?な、なんなのじゃいきなりだきしめよって!?くるしいのじゃ!>

 

<いつまでもお傍におります、若・・・>

 

 

 

 

 

 

趙韙は握りこぶしをギュッと強く結び、劉璋への最終宣告をためらっていた。

 

 

 

 

 

―――しかし・・・

 

 

 

 

 

劉璋「まったく、やりたくもないことをやろうとするからそうなるのじゃ、この半端者の腰抜けめ!じゃからお主はいつまで経っても

 

役立たずなのじゃ!お主もかつて母様に仕えたものなら、成都のために妾を討ち取り成都を救って見せよ!!」

 

 

 

攻撃宣言をためらっていた趙韙であったが、劉璋の挑発に乗ってしまい、涙の溜まった目をかっと見開いて最終宣告を発した。

 

 

 

趙韙「みな、暗愚劉璋を討ちとり、成都を救うのであります!」

 

東州兵「はっ!」

 

 

 

趙韙の号令に応え、東州兵たちが次々に劉璋に向かって矢を放った。

 

しかし、劉璋はそのような状況になっても未だ両手を左右に広げたまま防御に入るそぶりすら見せず、じっと趙韙を見据えていた。

 

その表情は、常日頃見せる、どこか気怠そうで無関心でつまらなさそうな表情などみじんも感じさせない、

 

ここ数年間見てきたどの劉璋にも当てはまらない、かつて母劉焉を亡くすまでに見せたような、強い意志のこもった表情であった。

 

そして、数十人もの兵たちの放った矢によって、劉璋は針の筵の如くその矢に貫かれ、その場に崩れ落ち、趙韙の反乱は成功に終わった。

 

 

 

 

 

―――そうなるはずであった。しかし・・・

 

 

 

 

 

劉璋が受けるはずであった無数の矢は、間一髪で劉璋を突き飛ばした法正に刺さっていた。

 

その場の時が止まった。

 

趙韙側は勿論、あの何事に対しても動じなかった劉璋でさえも、法正に行動に驚きを隠せないでいた。

 

 

 

劉璋「こ、孝直・・・お主、なぜ・・・」

 

法正「はァ?・・・そんなこと・・・聞くかよ・・・助けたいから・・・助けたに・・・決まってるじゃ・・・ねぇですか・・・」

 

 

 

法正の口元から、一筋の赤い液体が流れた。

 

 

 

劉璋「そうか・・・助けたいから助けたか・・・お主も、我儘な奴じゃの」

 

 

 

法正に突き飛ばされ、床に伏していた劉璋はそうつぶやくと、

 

何らかの意を決したのか、よろよろと立ち上がりながら法正にとんでもないことを告げた。

 

 

 

劉璋「孝直、もうよい。お主はここから脱出し、漢中に遠征中の厳顔らに救援を求めてくるが良い」

 

法正「はァ!?・・・いったい―――」

 

劉璋「妾は領主の座を降り、成都を去ることにした。じゃから、お主はもう妾のお守(●●)をする必要はないのじゃ」

 

 

 

つまりは国外への亡命。劉璋が選んだ道は領主としての身分の放棄であった。

 

 

 

法正「今更・・・何言って・・・やがるんだ!・・・こんなところで・・・引き下がれるわけ・・・ねぇだろ!・・・そもそも・・・

 

お館は・・・この状況で・・・どうやって・・・脱出するつもりなんだ・・・!?・・・この傷の・・・ことなら・・・気にする必要は

 

・・・ねぇから・・・さっさと・・・趙韙のやつに・・・命乞いでも―――」

 

 

 

思いもよらない劉璋の発言に、法正は敬語も忘れて劉璋の考えを改めさせようとした。

 

 

 

しかし・・・

 

 

 

劉璋「勘違いするでない。妾は元々領主になどなりたくなかったことは、お主もよく知っておるじゃろう。やはり世襲などロクなことが

 

ないのじゃ。そのような不自由は間違っておる。妾が領主になってすぐに多数の反乱分子が生まれたことを見ても明らかじゃった。今の

 

世は禅譲こそ相応しいのじゃ。母様が死んでしもうたあの時、妾なんかに世襲せず相応しき者に禅譲しておれば、成都が疲弊することも

 

なかったじゃろうし、このような乱を生むことも無かったのじゃ」

 

 

 

劉璋は法正の言葉に被せるように淡々と自身の主張を述べた。

 

 

 

劉璋「それに、やりたくもない領主を今の今まで我慢してやっておったのがそもそもの間違いじゃ。いい機会じゃ、妾は領主をやめて

 

この地を去る」

 

 

法正「そのわがまま・・・ばかりは・・・聞き入れられねぇぜ・・・!!・・・今、お館が辞めたら・・・国はどうなるんだ・・・!?・・・

 

本当に・・・再起不能に・・・なっちまうぜ・・・!!」

 

 

劉璋「孝直、やはりお主の目は節穴かの?妾よりもふさわしいのがおったではないかの。位ならそやつに禅譲してやるの」

 

 

 

法正の必死の説得も、まったく聞き入れる様子もなく、劉璋は意味深な言葉を法正に投げかけた。

 

 

 

法正「いったい、何を・・・!?」

 

 

 

法正は劉璋の語った言葉の真意をくみ取ることができない。

 

すると、劉璋は未だ驚きからその場に立ち尽くしていた趙韙側の目を盗んで城の高欄へと躍り出ると、珍しく高らかに叫んだ。

 

 

 

劉璋「趙韙、世話になったの!最後の最後で、お主は妾の意に沿ったの!これからは、お主のやりたいようにするがよい!」

 

趙韙「――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――ぁ!!!!」

 

 

 

呆然と劉璋の叫びを聞いていた趙韙であったが、劉璋の表情がわずかばかり柔らかくなったように見えたその刹那、

 

雷に打たれたかのごとく強い衝撃を受け、脳内中に電撃が駆け巡った。

 

 

 

劉璋「では孝直、後は頼んだの。じゃーの!」

 

法正「お館!!」

 

 

 

法正に短く最後の別れを告げた劉璋は、そのまま高欄から城外へと飛び降りてしまった。

 

まさか自殺、と思い、傷ついた体を引きずって急いで高欄から外を見下ろした法正であったが、

 

その時法正が見たものは、劉璋の死体、ではなく、部屋の柱に固く結びつけられていた縄が垂れ下がっていた光景であった。

 

結局、この場の誰もが、劉璋の逃亡を止めることができなかった。

 

さらに、法正も劉璋の言うとおり、厳顔に事態を知らせようと高欄から脱出しようとした際にも、

 

趙韙は劉璋の捨て台詞を聞いた途端、糸が切れたかのようにその場に崩れ落ち、

 

「そんな・・・しかし・・・ありえないのであります・・・」などとしきりにブツブツ呟いており、

 

指揮官が戦意喪失してしまったため、東州兵たちも何もできないまま、法正の脱出をただ見ているしかなかったのであった。

 

 

 

【第二十六回 第二章:益州騒乱⑧・趙韙の反乱 終】

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

第二十六回終了しましたがいかがだったでしょうか。

 

本来、今回の話は地の文だけで軽く流し(脇キャラ劇場なので)、

 

次回投稿するはずだった話を今回投稿して無事第二章終了、となるはずだったのですが、

 

それだと、どうにも劉璋のなんだかんだが分かりにくいと思いまして(けどやっぱり分かりにくいままですが 汗)、

 

一層のだらだら進行覚悟で今回の話を急遽作りました。何卒ご容赦願います。

 

 

それではまた次回お会いしましょう!

 

 

 

今度こそ次回で第二章も終了です!成都の行く末、どうぞ見届けてやってください!

 


 
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