某次元世界、とある施設…
『こ、こちら時空管理局、セクター支部!! 緊急事態発生!!』
現在、施設内ではとあるアクシデントが発生していた。
『実験体No.67がカプセルから脱走!! 現在施設内で暴れ回っており、手がつけられな―――』
通信はそこで途絶え、施設その物が瞬時に消し飛んだ。
瓦礫の山と化し、激しく燃え盛っている施設跡…
「うわぁ、酷ぇ事になってら」
「研究所の跡形すら無くなってますね…」
「……」
そんな壊滅した施設まで訪れた三人の人物。茶髪の男は目の前の惨状を見て呑気そうに呟き、白衣の男は手に持ったタブレットを操作しており、シルクハットを被った男はただ静かに燃え盛る業火を見つめている。
「見た感じ、生存者はいなさそうだな。こりゃ絶望的か?」
「いや、待って下さい」
白衣の男が、タブレットを操作する。
「僅かに生命反応がありました。今にも、消えかかってはいますけど」
「生命反応? おいおい、こんな潰れた施設の一体何処に―――」
-ボゴォッ!!-
「「「!」」」
三人の近くにある瓦礫が突然動き出し、その下から一人の少年が出て来た。全身ボロボロで頭からは血を流しつつも、腕で身体を支えながらどうにか立ち上がろうとする。
「…ほぅ、これはまた元気の良い」
「はぁ、はぁ…!!」
シルクハットを被った男が興味深そうに観察する中、少年はフラフラの状態でも何とか立ちつつ、焦点の合っていない目を彼等に向ける。
「ぐ、ぅ…」
しかし限界が来たのか、少年は力尽きてその場に倒れてしまった。
「あらら、とうとう倒れちゃったよ」
「団長、如何なさいますか。既に虫の息のようですが…」
白衣の男が尋ねる中、団長と呼ばれたシルクハットの男は倒れた少年の前でしゃがみ込み、少年の頭をそっと撫でる。
「…アジトまで連れて帰る。治療は竜神丸、お前の部下に任せて良いな?」
「了解しました。帰還後、医療班に回します……イワン」
白衣の男が指を鳴らすと、彼の後ろから白服の大男が姿を現す。大男は片手で少年の身体を掴み、肩に背負い上げる。
「う~ん…」
茶髪の男は眉を顰めつつ、意識を失っている少年の顔を眺める。
「どうかしましたか、ロキさん」
「いやぁ、どっかで見た事のある顔だな~と思ってさ。えぇっと確か傭兵の…」
「ウルティムス・ファートゥム・レオーネ・マクダウェル、だったかな?」
「―――きろ」
「んん…」
「起きろ、ディアーリーズ!」
誰かから呼びかけられる声がする。少年―――ディアーリーズは閉じていた目をゆっくり開き、呼びかけている人物の姿を確認する。
「全く、何時まで寝ている気だ。もう昼間の二時だぞ」
「awsさん……あれ、研究所じゃない…」
「何を寝惚けてる? それより任務の時間だ、さっさと準備してくれ」
awsはそう言ってから、そのまま部屋を退室する。
「…夢か」
ディアーリーズは起き上がり、ここが現実である事を確認するのだった。
「ふぁぁぁ…」
「何時までも眠たそうにするな、こっちが眠たくなる」
この日もまた、モンスター退治の任務で次元世界へやって来たディアーリーズとawsの二人。ディアーリーズは眠たそうに欠伸しており、そんな彼にawsが注意しつつ自身のデバイス“イーラ”を念入りに手入れしている。
「すいません。何せ、昨日の尋問が凄い長引いちゃったもので…」
「それは良いが……それで、あれから何か一つでも情報は得られたのか?」
「いや、全然」
「は?」
「特に重要そうな情報も無かったので、気付いたら他の皆さんと一緒に深夜まで尋問で楽しんじゃってました」
「おいおい…」
「ちなみにその尋問、途中でアン娘さんまで参戦し出しちゃいましてね。あの魔導師部隊の隊長だったおじさん、N-WGⅨ/vに乗っけられたまま管理局の違法研究所まで飛ばされちゃいましたし」
「何してんだあの人は…」
「いやぁ~こちらからすれば、ざまぁ見ろって感じですけどねぇ。awsさんだってそうでしょう?」
「…そうかも知れんがその笑顔を私に向けるな、胃が痛くなる」
綺麗な筈なのに真っ黒に見えるような笑顔を見せたディアーリーズに、awsは彼に対し慣れた様子で毒を吐き捨てる。
「おぉっと、最近のawsさんはだいぶ手厳しいですね」
「毎回お前と組んでれば、誰でもそうなるだろうさ……まぁ、どう頑張っても胃薬は手放せんが」
「?」
最後辺りはボソリと呟くawsに、ディアーリーズは首を傾げるものの特に気にしていない。
実はこの二人、今までの任務でも一緒に行動していた事が多く、awsは毎回ディアーリーズの腹黒さの所為で胃がマッハで痛み続けているのだ。しかしおかげで多少の事では倒れる事も無くなってしまったというのも皮肉な話である。
「しかし、お前もお前だな」
「はい?」
「一度は故郷に戻れたというのに、再び私の前に姿を見せるとはな」
「…その話はもう良いでしょうよ」
ディアーリーズは右手の中指に嵌められた指輪型デバイス“レオーネ・フォルティス”を見つめる。
「師匠とやらに勝つ為の修行、だったか? それだけの為に、よくもまぁわざわざ顔を見せに来てくれたものだな」
「それだけじゃありませんよ。いやまぁ、確かに修行も目的の一つですけど……何より」
ディアーリーズはawsに振り返る。
「僕を拾ってくれた旅団への恩返し。それがまだ、完全には果たせていませんから」
ディアーリーズはニカッと笑って見せる。それは含みの無い、純粋さを感じさせる笑みだった。
「…そうか」
awsも小さくフッと笑って見せる。
「昔は考えられなかったなぁ……お前がそうやって、笑顔を見せる事など」
「何言ってるんですか、笑顔なら何時でも見せられますよ?」
「…私が言いたいのはそういう笑顔じゃない」
せっかく純粋だった笑顔が一瞬で黒い笑顔に変わり、awsはディアーリーズから視線を逸らす。やはりディアーリーズの腹黒さは変わらないようだ。
「それより、ちゃっちゃとモンスター退治して帰るぞ」
「は~い」
二人はそれぞれバリアジャケットを展開。モンスター出現の反応があった地点まで、ディアーリーズは飛んで、awsは地上を高速で走りながら向かうのだった。
しかし、二人はまだ気付いていなかった。
「確か、この世界で反応があったんだよな…?」
二人の向かう場所に、管理局の魔導師も向かって来ているという事に。
ディアーリーズとawsがいるのとは別の次元世界、そのとある砂漠…
「そぃやぁぁぁぁぁっ!!!」
「グギャォォォォォォォォォォォォォォォォッ!?」
空中に飛来した蒼崎が、キャノン砲に変化したシュベルから強力な一撃を放ち、大蛇のように長い胴体を持つ深緑の蛇竜“ニーズホッグ”にダメージを与えていた。
「グゥゥゥゥルォォォォォォォォッ!!」
「ぬぉっ!?」
しかし決定打にはならなかったのか、爆風の中から飛び出したニーズホッグは前足で空中に飛んでいた蒼崎を掴み取り、そのまま力一杯握り締め始める。
「グルルルルル!!」
「ぬ、ぐぅぅぅおぉぉぉぉぉぉぉ…!!」
ミシミシと音が鳴る中、蒼崎はニーズホッグの前足から力ずくで抜け出そうとする。それに気付かない程ニーズホッグも馬鹿ではなく、更に握る力を強めていく。
「ぐぉぉぉぉぉ……シュベル!!」
≪Huge slicer≫
「グガァァァァァァァッ!?」
蒼崎の握っていたシュベルの形状がキャノン砲から大剣へと変化し、蒼崎を掴んでいたニーズホッグの前足に刃が突き刺さる。突然の痛みにニーズホッグは蒼崎を握っていた力が緩み、蒼崎に脱出を許してしまう。
「たく、よくも痛ぇマネしてくれたなオラァッ!!!」
「グルゥッ!?」
蒼崎が力任せに振るった大剣がニーズホッグの胴体を斬り裂き、斬られた箇所から血飛沫が舞う。
「グゥ……グルォォォォッ!!」
「ん…ぐぉわっ!?」
反撃に出たニーズホッグが長い尾を振るい、蒼崎を弾き飛ばす。弾き飛ばされた蒼崎は空中で体勢を立て直す。
「んなろっ!!」
≪Chain iron≫
大剣となっていたシュベルが今度は鎖鉄球となり、蒼崎は空中に浮いたままニーズホッグと対峙する。
「さぁ来いよ…!!」
「グルァァァァァァァァァァァァッ!!!」
挑発するように指で誘う蒼崎に、ニーズホッグは強靭な牙を剥き出しにしながら突撃を仕掛ける。
その時…
「はい、悪いけどそこまで」
「!? グ、ガァ、カ…!?」
「!」
突如、ニーズホッグの動きが蒼崎の前でピタリと止まってしまった。
「グル、グゥ…!!」
ニーズホッグは目の前にいる蒼崎に喰らい尽こうとしているがギリギリ届かず、何故かその場から一歩も動けないでいる。
「? 今の声は…」
「蒼崎さ~ん、時間かかり過ぎ~」
「んげ、FalSig!?」
声の正体はFalSigだった。彼の両手からは何本もの糸が薄っすらと見えており、それでニーズホッグの動きを完璧に封じているのが分かる。
「やるなら早くしてよ。この糸、でかい奴が相手だと長く持たないんだからさ~」
「この、人がせっかく楽しんでたところを…!!」
蒼崎は気を取り直し、鎖鉄球をブンブン振り回し始める。
「ヤケクソだ、こいつでも喰らっとけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」
-ドゴォォォォォォォォォンッ!!-
「グギャォォォォォォォォォォォォォォッ!!?」
最後に頭部目掛けて鉄球が振るわれ、ニーズホッグの顔面に直撃。鋭い牙も何本か折れてしまい、ニーズホッグは血を吐きながらその場に倒れ伏せる。
「グ、ガ……ァ…」
「…ふぅ」
ニーズホッグが完全に力尽きたのを見た後、砂の上に着地した蒼崎は鎖鉄球になっているシュベルを待機状態へと戻す。
「おいFalSig!! せっかくの楽しいモンスター狩りを邪魔すんなっての!!」
「いやいや、任務をこなすのが最優先でしょうが。こっちはもう全部狩り終えちゃったよ」
FalSigが親指で差す方向には、既に全滅しているモンスター達が死屍累々としていた。どうやら今回は単純に、蒼崎が時間をかけ過ぎただけのようだ。
「いや、それはそうだとしてもさぁ……もうちょっとこう、先輩に対する敬意というものを…」
「年功序列の時代は終わってますよ、蒼崎先輩?」
「ぐ、この…!!」
耳穴を指で穿っているFalSigの態度に、蒼崎は危うく血管が切れそうになるがどうにか耐え切る。
「畜生……良いもん良いもん、帰ったら俺の可愛い妻達に慰めて貰うんだもん…」
(あぁもう、これだから女誑しって奴は…)
複数の女性達の写っている写真を取り出してイジけている蒼崎に、FalSigは呆れて声も出ない。
「取り敢えずモンスターはこれで全部退治し終えたんだし、そろそろアジトに戻りましょうや」
「帰ったら覚えてろよ。お前の武器を全て変な風に弄って、使い辛くしてやるからな」
「ちょ、何すかその地味な嫌がらせ!?」
その時だ。
「止まれ、お前達」
「「!?」」
一人の女性魔導師が、地上にいる二人を見下ろす形で空中に姿を現した。風が吹いている影響で、ピンク髪の長いポニーテールが靡く。
「…誰ですかアンタ?」
呑気な態度だったFalSigは真剣な表情に変わり、現れた女性魔導師に問いかける。
「時空管理局の者だ。お前達には聞かねばならない事がある」
魔導師―――烈火の将“シグナム”は鋭い眼光で二人を見据えていたのだった。
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