No.630962

真・恋姫†無双 ~彼方の果てに~ 11話

月影さん

※この小説はオリジナル主人公による真・恋姫†無双の二次創作です。
 オリ主、オリキャラが苦手な人は戻るを押すことを推奨します。
 また、作者の独自解釈や妄想が含まれておりますので注意が必要です。
 最後に作者が未熟な為にキャラ崩壊、設定改変などの可能性がありますことを御了承下さいm(_ _)m

2013-10-24 16:26:23 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:1713   閲覧ユーザー数:1588

 

 

 

 

天幕での話し合いの末に神威と風花は全員と真名を交換した。

 

あっさりと真名の交換を求めてきた桃香達の事で神威が風花を非難すると、

「住む地域によって差があるんです」の一点張り。

 

真名の重要性を説いた風花が自ら真名を蔑ろにしている事を神威は主張し、

仲間となる以上これは必要な事だと何度も話し合った結果、

風花は仕方なくといった様子で泣く泣く真名の交換を許した。

 

自分の住んでいた地域は余程真名に厳しかったのかと神妙な顔をする神威を風花が睨み付けたのは言うまでもない。

 

そうして神威と風花は正式に桃香の仲間となった。

配下としてではなく、正確には客将という形ではあるが。

怪我が治り、確かな戦功を挙げるまでは客将という扱いにして欲しいと神威が頼んだ為だ。

 

桃香は最後までちゃんとした仲間として扱いたがっていたのだが、

怪我をした今の状態では役立たず以外の何者でもないと神威は考えている。

 

結局は神威の意を汲んだ愛紗が「他の者に示しがつかない」

と説得した事で桃香は漸く渋々とだが納得し、晴れて神威は劉備軍の客将となれた。

 

風花も神威と同様の扱いを望んだ。

 

神威としては少し勿体無いと思いはしたが、結局は風花に任せる事にした。

どちらにせよ、風花ならばすぐに結果を出してくれるだろうと信じているのだから。

 

そうして天幕での一件からそれなりの日数が経過し、今日まで劉備軍は黄巾党を討伐しながらずっと行軍を続けていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「手の空いた者には怪我人の救助を最優先させろ、一人でも多く仲間を助けるんだ!」

 

 

近くで激しい怒号や金属音が鳴り響く中、兵に指示を送りながら神威は叫ぶ。

 

 

 

 

 

神威は今、戦場の僅か後方で奔走していた。

 

義勇兵として行軍を続けながら各地を回る途中、

黄巾党の重要拠点と見られる場所を発見した劉備軍はこれを攻撃した。

 

戦力差が大きかった為に苦戦は必死だと思われていたが、

朱里と雛里の策が見事に成功したおかげで戦いは善戦。

 

なんとか大きな被害を受けるという事はなく、現在劉備軍は黄巾党との戦の真っ最中であった。

 

 

 

 

 

「くっ・・・」

 

奔走する神威の近くで前線で戦っていた一人の兵士がフラフラとしながら戻ってきて、倒れた。

肩から胸にかけてを斬られたらしく、致命傷ではないようだが出血が酷い。

 

 

「おい、大丈夫か!?」

 

「な、なんとか大丈夫・・・です」

 

 

傷口を押さえながら苦しそうに兵士は答える。

それを見た神威は即座に近くに居た他の兵士に指示を出した。

 

 

「前線から別命があるまでは引き続き救助を優先してくれ。何かあれば伝令を頼む」

 

「はっ!」

 

 

指示を終えると神威はなるべく傷が痛まないようにと慎重に怪我をした義勇兵を背負い、走り出した。

 

 

「き、姜元さま!?」

 

「少しだけ我慢しててくれ、俺が救護班のところまで連れていってやる」

 

「だ、駄目です!血が、姜元さまの服が汚れて・・・痛っ!」

 

 

神威の行動が余程意外だったのか、兵士は身体を強張らせて無理矢理離れようとした。

だが身動ぎをした瞬間に苦痛に顔をしかめる。

 

 

「あまり暴れるな、傷に響くぞ」

 

「す、すみません・・・」

 

その言葉に義勇兵は萎縮したのか、小さく縮こまる。

神威はそれをちらりと見て、ほんの僅かに困ったようにため息を吐いた。

 

 

「・・・服は洗えば済む。例え汚れが落ちなくとも、繕うか買えばいいだけだ。

 くだらない事を気にする暇があったら自分の怪我の事を考えろ」

 

「はい・・・」

 

 

それで漸く強張らせた身体から力を抜いた兵士を背負い直すと、

神威は再度慎重に走り出し怪我人を収容する天幕へと向かった。

 

 

 

 

 

「風花、そっちはどうだ?」

 

 

到着と同時に辺りを見回し、状況確認の為に神威は風花に声をかける。

 

 

「薬の残量が少し心許ないですけど、なんとかなってます!」

 

 

風花はその言葉に答えながらも治療薬の確認と怪我人の搬入の指揮を同時に行っていた。

 

 

「って、兄さん何やってるんですか!?」

 

「何って、怪我人を連れてきたんだが・・・」

 

「いや、だから・・・指揮は!?」

 

「近くに居た兵に任せた」

 

 

あっけからんと答える神威に風花は頭を押さえる。

そんな風花を他所に神威は背負っていた兵士を近くに降ろすと、手当ての為の薬を探し始めた。

 

 

「兄さんわかってるんですか?客将とはいえ、私達にだって兵が割り振られてるんですよ?それなのにこんな勝手な事をして・・・」

 

「此方も人手が足りないんだ。どうにかするには俺が動くしかないだろう」

 

「それは、まぁ、そうでしょうけど・・・」

 

 

風花も人手が少ない事が判っている為、僅かに口ごもる。

 

 

「俺が運んだ方が速かった、それだけの事だ。それにこれは朱里も容認してくれている」

 

「はぁ・・・判りました!はい、これ包帯です」

 

 

風花は呆れたようなため息を吐くと近くの箱から包帯を取り出して神威に手渡す。

 

 

「ん、すまん」

 

 

包帯を受け取った神威は薬と治療道具を手に兵士の元へと戻る。

 

 

「さて、待たせて悪かったな」

 

「いえ、そのような事は・・・」

 

「怪我人が気を遣うな。ほら、手当てをするから鎧と服を脱いでくれ」

 

「あっ、はい、わかりま・・・えっ!?」

 

「肩の傷はそれなりに深いからな、出来るだけ早めに処置した方がいい」

 

「や、あの、そのっ・・・!」

 

 

淡々と準備を進める神威に兵士は狼狽した。

それを医者でもない者が治療できるのかと不安がっていると受け取った神威は安心させるように言葉を続ける。

 

 

「心配するな、傷の手当てなら自分ので慣れてる。だから――」

 

「兄さんのバカーーーー!!」

 

「がっ!?」

 

 

最後まで語る前に、風花が神威の頭を殴り付けた。

 

 

「こ、こんな時に何やってるんですか!?」

 

「っ・・・何もいきなり殴る事はないだろう?」

 

 

痛む頭を擦りながら、神威は非難の眼差しで風花を見る。

そんな神威の様子に風花は更に激昂した。

 

 

「そんなの殴るに決まってるじゃないですか!女性に向かってなんて事言ってるんです!?」

 

「俺だって傷の縫合くらい・・・ん?女性?」

 

 

言われて神威は兵士をまじまじと見る。

鎧と兜を身に付けていた為に気付かなかったが、確かに兜から覗く顔や髪は女性の物だった。

よく見れば身体つきも丸みを帯びていて女性的だ。

 

 

「・・・おおっ!」

 

「何がおおっ、ですか!もしかして兄さん、気付かなかったんですか?」

 

 

流石の風花も驚くというよりも呆れてしまう。

そんな風花に神威は僅かに不満げな表情を浮かべて抗議の言葉を返す。

 

 

「俺だって怪我を気遣うので手一杯だったんだ、仕方ないだろう」

 

「それが言い訳になるとでも?」

 

 

とりあえず言い返してみたものの、あっさりと一蹴される神威。

 

 

「・・・すまん」

 

 

結局は大した言い訳も思い付かず、神威が折れた。

何より失礼だったのは間違いないのだと神威にも判っていたからだ。

 

 

 

 

 

「ふふ・・・」

 

「ん?」

 

 

不意に笑い声が聞こえ神威と風花は隣を見ると、ずっと成り行きを見守っていた女性の兵士が笑っていた。

 

 

「あっ、す、すみません!笑うつもりはなかったのですが・・・

 で、でも・・・ふ、ふふ・・・痛っ!」

 

「はぁ・・・まったく、結構酷い怪我なのに何笑ってるんですか」

 

 

見れば周りでも苦笑している者が居る。

戦場の、それも多くの怪我人が集まっている場所だというのに、

此処は何処か明るい雰囲気に包まれていた。

 

 

「皆さんも何笑ってるんですか!前線ではまだ他の方達が必死に戦っているんですよ?」

 

 

緊張感のない雰囲気に釘を刺す風花に周りの兵達は慌てて笑いを引っ込める。

それをしっかりと確認した風花は周囲の医療班に指示を送ると無言で神威に近付きその手から薬を取り上げた。

 

 

「お、おい・・・」

 

「いいから兄さんは指揮に戻ってください」

 

「いや、だがな風花・・・」

 

 

目の前の女性の兵士を心配する神威はそれでも尚食い下がる。

そんな神威を風花はじろりと睨み付けた。

 

 

「そんなにこの人の裸が見たいんですか?」

 

「・・・行ってくる」

 

 

決定的な一言だった。

 

神威にそんなつもりはなくとも、治療をするならば服を脱がさなくてはならない。

そうなれば男の神威が同席する訳にはいかない。

勘違いしていたとはいえ、心配していたでは済まされなくなるのは目に見えている。

それが判った神威は渋々と引き下がるしかなかった。

 

 

「ふぅ・・・まったくもう、兄さんったら」

 

 

神威の姿が見えなくなると風花はため息を吐く。

 

 

「そう姜元さまを責めないであげてください。あの方はただ我々が心配なだけなのですから・・・」

 

「そういう問題じゃありません」

 

 

風花は手際よく女性の手当ての準備をしながらも不満げに呟き、

姿を隠す為に部下に囲いを用意させる。

 

 

「・・・妹である姜維さまならばおわかりになるとは思いますが、姜元さまは焦っておられるのです」

 

 

その言葉に、風花は動きを止めた。

 

 

「皆が命懸けで戦っているというのに、何もできない自分が悔しくて仕方ないんだと・・・

 一度だけ我々に話してくださった事がありました」

 

 

気付けば周囲から聞こえていたざわめきも聞こえなくなっていた。

 

それはここにいる誰もが知っている事である。

 

神威の腕の傷は、未だに完治してはいなかったのだ。

 

日常生活こそ何とかなっているものの、武器を持って戦うことなど到底できないような状態だった。

神威はその事で酷く気に病んでおり、初めて兵士の訓練に立ち会った時には義勇兵の皆に頭を下げて謝ったほどだ。

 

客将とはいえ将である事に変わりはなく、兵士達にとっては雲の上の存在である。

そんな人物が遥か格下の相手に何の躊躇いもなく頭を下げるという事態に、その場に居た兵士達は騒然とした。

 

それはかつて、桃香が兵士達に見せた姿と同じ物だった。

だが桃香と神威では違いが多すぎる。

立場も状況も、頭を下げた理由もまるで違う。

 

だから当然、兵士達の中にはその姿に疑惑を持ったり不審に思った者も居た。

 

そんな兵士達に、神威は誰よりも真剣に訓練に取り組んだ。

怪我のせいで見本を見せる事ができない代わりに、心構えや戦い方などを徹底して教えていった。

 

それは誰よりも厳しい訓練であり、そして同時に、誰よりも思い遣りに溢れる物だった。

 

 

「・・・そういや姜元さまの訓練はすっげぇ厳しかったよなぁ」

 

 

そんな時、囲いの外で風花達の話を聞いていた一人の兵士が呟いた。

 

 

「ちょっと足並みを乱しただけですげぇ勢いですっ飛んできて怒鳴りつけられてよ・・・」

 

「あぁ、あったあった!」

 

「おっかない顔して、『お前は今何をしたのかわかっているのか!』ってさ」

 

「ありゃ凄い剣幕だったよな」

 

「お前一人が隊列を乱した事で、お前の代わりに多くの仲間や友が命を落としたかもしれないって、よ。あれは心に来たわ・・・」

 

 

周囲の兵士達も同意するように頷く。

 

 

「俺もさ、心の何処かでは甘えがあったのかもな。俺達は所詮ただの義勇兵で、正規の兵士じゃないって」

 

 

しみじみと語る兵士に、誰も茶化す訳でもなく黙って聞き入っている。

 

 

「だけどあの言葉で気付いたよ。例え俺達は義勇兵であっても、守りたい物は皆同じなんだって・・・

 あはは、なんか柄にもない事言っちゃったよ俺!」

 

静まり返る周囲に、話を切り出した兵士は照れるように頭を掻いた。

 

 

「なんていうかよ、あんな真剣に接してくれた人なんて初めてだからつい話過ぎちまった」

 

「もう、そんな事言っていいんですか?関羽さんに言い付けますよ」

 

 

兵士は呆れた風花の言葉に顔面蒼白になって慌てて首を振る。

 

 

「い、いやいや、別に関羽さまが真剣じゃないって言ってる訳じゃないんですよ!

 ただ親身に接してもらってるってだけでして・・・なぁ!?」

 

「あ、あぁ・・・まぁ、正直関羽さまって話しかけ辛いもんな。手の届かない人って感じで」

 

「そうそう!だけど姜元さまは気難しそうに見えて結構向こうから話しかけてくれるしさ。よく相談とか聞いてくれるし」

 

「失敗した時は凄い怒られるけど、俺も後で何が悪かったのかとかちゃんと相談にのってもらってたよ」

 

 

 

 

一斉に神威の話題でわいわいと盛り上がる兵士達。

そんな中でただ一人風花だけはつまらなさそうに唇を尖らせる。

 

 

「・・・知らない間に随分と兄さんは人気者になったみたいですね」

 

 

そんな風花の様子に女性の兵士は微かに苦笑をもらす。

 

 

「そういう事です。姜元さまは誰よりも我々の身を案じてくださっています。

 だからこそ、少しでも何か力になれる事をされたいのでしょう」

 

「むぅ・・・そんな事、貴女に言われなくても私が一番よく解ってますよ。さぁ、治療を始めますから準備してください」

 

「流石は姜維さまですね」

 

 

膨れる風花に微笑ましい気持ちになった女性は笑みを浮かべ、鎧を外して服を脱ぐ。

 

 

「当然です。って、思ったよりも酷い傷ですね・・・ほんと、よくこんな怪我で笑ってられましたね」

 

 

血を拭いながら傷口の確認をした風花は感心とも呆れともつかない表情で治療を始める。

 

 

「・・・こんな傷、姜元さまの怪我に、比べたら・・・っ、なんて事ない、ですから」

 

 

痛みに顔をしかめながらも、何処か誇らしげにそう答える女性に風花は思わず手を止める。

 

 

「・・・もしかして、貴女――」

 

「なんだなんだ、あんた姜元さまに惚れてんのか?」

 

 

その時、風花の言葉を遮るように囲いの外から野次が飛んできた。

 

 

「えっ!?あ、いや、私は別に、そんな・・・!」

 

 

それに顔を真っ赤にさせた女性は慌てた様子で否定するが、どう見ても動揺しているのは明らかだ。

 

そんな女性の反応に周りの兵士達も面白そうに囃し立てる。

 

 

「・・・」

 

 

そんな周りの楽しげなノリに風花の表情が変わる。

まるで穏やかに微笑んでいるかのような、そんな優しい表情を浮かべて、唐突に女性の傷口を鷲掴みにした。

 

 

「いたっ!痛い、痛いです!えっ?あ、あの、姜維さま!?傷、傷が!!」

 

 

女性はあまりの激痛に混乱した頭で風花の顔を覗き込んで、全身に悪寒が走った。

表情こそ優しげに微笑んでいるが、目が全く笑っていない。

むしろ射殺さんばかりの絶対零度の瞳だった。

 

 

「きききき姜維さま!顔、顔怖いです!!それに傷がっ!?」

 

「怖い?ふふ・・・何を言ってるんですか、私は至って普通ですよ?それに治療をするんですから、よく調べないと」

 

 

傷口を掴む指にギリギリと力が入る。

 

 

「~~~~~っ!?」

 

「もう、兄さんったら・・・そんなに楽しそうな話なら、私にも言ってくれれば良かったのに。

 これは後でじっくりと話を聞かないといけませんね」

 

 

口調は至って冷静なのに、背筋がぞっとするような声だった。

 

恐怖と激痛で最早声も出せずに口をパクパクと開閉させる女性に、風花はにっこりと微笑みかける。

 

 

「それでは、治療を続けましょうか」

 

「・・あ、ああ・・・」

 

 

声も出せない女性は嫌々と首を振りながら後ずさり、そして。

 

 

「嫌ぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

女性の悲痛な叫びが響き渡った。

 

囲いの外ではざわざわとしながら兵士達が戸惑いの表情を浮かべている。

 

 

「お、おい・・・何があったんだ!?」

 

「知らねえよ!お前覗いてみろって!」

 

「馬鹿言うな!そんな事したら俺の首が飛んじまうだろ!」

 

 

状況が状況なだけに男達は中を見る訳にもいかず、僅かにいる女性達は怖くて近寄りたがらない。

そのまま誰も何も出来ずにただ見守り続けるしかなかった。

 

そうして永遠とも感じた僅かな時間の後、物音すらしなくなった囲いの隙間から風花が顔を出す。

 

 

「・・・次は貴方達の治療をしないといけませんから、大人しく待っていてくださいね?」

 

「ひ、ひぃ!?」

 

「貴方達からどんな面白い話が聞けるか楽しみです・・・ふ、ふふふ・・・」

 

 

不気味に笑う風花の姿に危険を感じた兵士達の顔がひきつる。

 

風花が顔を引っ込めると同時に兵士達はこっそりその場を離れようと動き始める。

 

が。

 

 

「・・・まさか、逃げたりなんてしませんよね?」

 

 

見ていないはずなのにまるで逃げるのを察知したかのように囲いの中からそれを制止する風花に兵士達はびくりと動きを止める。

 

 

「え!?い、いやいや、まさかそんなことは!」

 

「そうですか、それならよかったです。では・・・」

 

 

ゆっくりと囲いから姿を現す風花。

隙間からちらりと見えた女性はぴくりともせずに気を失っていた。

 

硬直する兵士達。

 

そんな兵士達を他所に風花は変わらぬ笑みを浮かべたまま淡々と続けた。

 

 

「皆さんの治療をしましょうか」

 

 

その言葉に兵士達の間に戦慄が走る。

 

 

 

 

全員がこれから起こる出来事に恐怖しゴクリと喉を鳴らした丁度その時、

前線で指揮を取っていたはずの神威が怪我人を背負って入ってきた。

 

 

「怪我人を連れてきたぞ。早く手当てを・・・」

 

「き、姜元さま!?」

 

「ん?どうした?」

 

「は、早くお逃げください!此処は危険です!」

 

 

慌てる兵士達の姿に怪訝な表情を浮かべて神威は背負った怪我人を降ろす。

 

 

「は?何を言って――」

 

「兄さん」

 

「うおっ!?」

 

背後からかけられた風花の声に驚いて振り返る。

 

 

「風花?お前、今向こうに居たはずじゃ・・・」

 

 

目をぱちくりさせて囲いと自分の居場所を交互に見る神威。

 

 

「いつの間に瞬間移動なんて覚えて――」

 

 

不思議そうに風花の顔を覗き込んで、そして神威は後悔した。

風花の表情が、自分がもっとも苦手としている物であったことに今更ながらに気付いたのだ。

 

 

「ふふ・・・つい先程、面白い話を聞いたんです」

 

「お、落ち着け、風花。今はまだそんなことを話してる場合じゃ・・・」

 

「問答無用、ですよ♪」

 

 

それから何が起こったのか、周囲の兵士達にはわからなかった。

気付いたら神威が倒れている。

それもボロボロになって。

 

 

恐怖で誰も身動きできなかった。

そして皆が内心誓う。

絶対にこの人に逆らうのは止めようと。

 

 

「まったくもう、兄さんったら・・・」

 

 

ぷんぷんと怒りながら風花が出ていっても、誰も動けなかった。

ただ無残に打ち捨てられた神威を見守ることしかできなかった。

 

それからどれだけの時間が経っただろうか。

 

不意に慌ただしく誰かが駆け寄る音に皆が視線を向けると、桃香が笑顔で此方に向かってくる姿が見えた。

 

 

「皆、私達勝った――きゃあ!」

 

 

身体中で喜びを表現しながら飛び込んできた桃香だったが、その言葉が悲鳴に変わる。

 

 

「えっ?えっ?な、何があったの!?」

 

「劉備・・・さま」

 

 

誰もが先程の恐怖で震えるばかりで言葉を続けることもできず、顔を逸らす。

 

 

「ねぇ、どうして誰も何も言わないの?も、もしかして敵が来たの!?」

 

「どうかなさいましたか、桃香さま!?」

 

「あ、愛紗ちゃ~ん・・・」

 

 

異変に気付いた愛紗が駆けつけると、涙混じりの桃香とボロボロになった神威の姿がその目に映る。

驚きに目を見開き、すぐに我に帰った愛紗はすぐさま神威の元に走った。

 

 

「どうした、神威!?お前ほどの男に一体何があったのだ!?」

 

「わかんないよぉ、私が来た時にはこうなってて・・・」

 

 

桃香がおろおろとしながら答えると意識を取り戻した神威が僅かに身動ぎをする。

 

 

「ぐっ・・・」

 

「神威さん!」

 

「っ・・・今回は随分と手酷くやられたな」

 

 

頭を振って上半身を起こした神威は痛む頭を押さえながら困ったように呟く。

 

 

「やられた?やっぱり敵が来たんだね!?」

 

「は?いや、これは風花に・・・」

 

「くっ、敵襲、敵襲!皆は急いで近辺の警戒に当たれ!」

 

「いやだから、これはそんなんじゃ――」

 

「「はわわ(あわわ)、神威さん死んじゃ嫌ですっ!」」

 

「おい、縁起でもないこと言うな。だからこれは風花に・・・うぷっ」

 

 

朱里と雛里の言葉に神威は呆れ気味に答えるも、最後まで話す前に桃香に抱きつかれて言葉が途切れてしまう。

 

 

「ごめんなさい!私達が傍に居なかったばっかりに!」

 

「お、おい、いきなり抱きつくな!お前胸がっ」

 

「あーーーーー!?」

 

 

その時、悲鳴にも似た風花の叫びが辺りに響いた。

神威が視線を向けると驚愕に目を見開いた風花が神威と桃香を凝視している。

 

どうして自分はこう間が悪いのかと神威は手で顔を覆った。

 

 

「わ、私が少しやり過ぎたかなって心配してきてあげたのに・・・

 何で兄さんは桃香さんと、イ、イチャイチャしてるんでしょうかね・・・?」

 

「風花ちゃん?あっ、こ、これは違うんだよ!?」

 

 

自分が神威を抱きしめている状況に気付いた桃香は慌てて神威から離れる。

 

神威は漸く解放されたと安堵するも、

 

 

「お姉ちゃんだけずるいのだ!鈴々もするー!」

 

 

と、戻ってきたばかりの鈴々が遊びか何かと勘違いして桃香と神威の間に飛び込んできた。

 

 

「馬鹿、今はそんな場合じゃ・・・ふ、風花?」

 

 

神威は必死で鈴々を押し退けながら恐る恐る風花の顔を覗き込む。

 

 

「・・・」

 

 

プルプルと震えながら黙って見下ろす風花。

 

 

「ち、違うぞ風花、これはだな・・・」

 

 

目尻にうっすらと涙を溜めるその姿に焦った神威は何とか風花の気を静めようと言葉を探すが、上手く言葉が見付からない。

 

 

「もう寝るっ!!」

 

「あっ、おい!」

 

 

結局かける言葉も見付からず、風花は怒って出ていってしまった。

途方に暮れた神威はため息を吐き、項垂れる。

 

 

「はぁ・・・一体何だというんだ」

 

 

もう、どうしたらいいのかわからなかった。

 

 

「えっと・・・どういうこと?」

 

「さてな。どうやら機嫌が悪かったようだが」

 

「もう、何やってるの神威さん」

 

「俺の見解では半分はお前のせいなんだが・・・」

 

「言い訳だめ!理由もなく風花ちゃんが怒るはずがないんだよ?」

 

「む・・・」

 

「ちゃんと話し合って仲直りしなきゃだめだよ。神威さんは風花ちゃんのお兄さんなんでしょ?」

 

 

被害者であるはずの神威が何故か桃香に説教される姿に怯えていた兵士達の間にも笑いが溢れる。

 

そんな兵士達に神威はちらりと視線を向けた。

 

 

「あっ、いや、すみません!」

 

 

視線を向けられた兵士は慌てて笑いを堪えるが、どうしても抑えられないのか僅かに苦笑がもれる。

 

 

「お前らも何笑ってるんだ。まったく、怯えてたり笑ったり忙しい奴らだな。

 はぁ・・・仕方ない、これも俺の役目か」

 

 

神威は周りの兵士達に呆れつつも困ったように苦笑すると風花を追って走り出す。

 

そんな神威を、皆は何処か微笑ましい雰囲気で見送っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「華琳さま。先程放った斥候から黄巾党の重要拠点が落とされたとの報告を受けました」

 

「そう。あの拠点の重要性に気付けた者が他にもいたとはね・・・それで?」

 

「はっ、どうやら拠点を落としたのは劉備と名乗る者が率いる義勇軍だということがわかりました」

 

「劉備・・・近頃民の間で噂になっている者ね。ふふ、私の相手に足る者かどうか楽しみだわ」

 

「あのような弱小の軍を率いる者など、華琳さまのお相手になるとは思えませんが・・・」

 

「それを確かめる為にも早く此方を終わらせないとね」

 

「御意」

 

「ご安心ください、華琳さま。私にかかればこの程度の相手などすぐに片付けてみせます!」

 

「期待してるわ、春蘭」

 

「はいっ!」

 

「張り切るのはいいけど、私の策を滅茶苦茶にするのだけは止めなさいよね」

 

「なんだと!?」

 

「姉者」

 

「しゅうら~ん・・・」

 

「早く終わらせて華琳さまに報告するのだろう?」

 

「むむむ・・・仕方ない。兵士達よ、私に続けーーー!!」

 

「何がむむむよ。まったく、早く行きなさいったら」

 

「桂花も、こんな時に姉者をからかうのは止めてくれないか?」

 

「あっちが悪いんでしょ」

 

「やれやれ・・・それで、劉備軍について何か他に情報は?」

 

「そうね・・・関羽と張飛のことは噂になってるから知ってるでしょ?」

 

「ああ」

 

「少し前に諸葛亮と鳳統って軍師が入ったらしいわ。その後に確か、姜維と――」

 

「姜維?」

 

「知っておられるのですか、華琳さま?」

 

「ええ、彼女の父親は漢の役人だったの。といっても、もう大分前のことだけど。そう、あの娘、こんなところに居たのね・・・」

 

「・・・諸葛亮に鳳統、それに姜維もか」

 

「どうしたの、一刀?」

 

「ん、こっちの話だよ」

 

「・・・まぁいいわ。それにしても、またあの娘に逢えるなんてね」

 

「それで桂花、さっき何か言いかけてなかったか?」

 

「それから姜維の兄、姜元って奴が新たに加わったらしいって話よ」

 

「・・・兄、ですって?」

 

「は、はい。まだ噂なので詳しくはわかりませんが、少なくとも姜の旗が二本あるのは確かです」

 

「・・・どういうことかしら」

 

「は?」

 

「いえ、確かめるのは後だわ。全てはこの戦いを終わらせてからよ」

 

「ぎ、御意」

 

「では華琳さま、私は姉者の援護に向かいます・・・ん、どうしたのだ北郷?」

 

「ん~・・・姜維に兄なんて居たっけかな?」

 

「何だって?」

 

「いや、何でもない。それより早く行かなくていいの?春蘭が凄い暴走してるんだけど」

 

「おっと・・・それは大変だ」

 

「気を付けてな、秋蘭」

 

「北郷も、華琳さまを頼むぞ?」

 

「はは、俺なんかが居て何かできるとは思えないけど何とか頑張るよ」

 

「ふふ、頼りにしている。ではな」

 

「おう」

 

「・・・一刀」

 

「ん?」

 

「いえ、何でもないわ」

 

「言いかけて止めるなんて、華琳らしくないぞ」

 

「別に何でもないわよ。これが終わったらすぐに移動を始めるんだから、早く準備なさい」

 

「はいはい・・・」

 

 

 

 

 

「う~ん・・・やっぱ何度思い返しても姜維に兄が居たなんて話、

 聞いたことなかったよな。これってどういうことなんだろ?」

 

「何してるの、一刀」

 

「っと、今行く。まあ、歴史上の武将が皆女の子になってるような世界だし、

 気にするだけ野暮ってもんか・・・」

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

どうも、月影です。

 

今回は色々と雑になってしまった感が強いです;

今までのこともあり、少し展開を早めて書くようにしてみました。

最近はあまり小説を書く時間が取れなくて少しでも投稿を早くしようとしていたはずなのに、書いている途中で神威と風花の軍内部での立ち位置とか兵士達との関係を書いておかなければならないことに気付き慌てて修正。

そのせいで逆に時間がかかってしまったという何とも情けない結果に・・・

しかも展開を急いだせいか結局何がしたいのかもわからない中途半端な感じになってしまいました。

本当にこういうのは書いてみないとわからない物ですね;

 

とまぁ、あまりこんなことばかり書いていても仕方ないので反省はここまでとして・・・

 

 

遂に出ました!我等が主人公、北郷一刀!

 

月影の物語では魏の種馬さんとしての登場ですw

 

実はこれは初めから決まっていました。

オリ主の小説に一刀が出るのが嫌いな人、申し訳ありません。

月影はどちらでもOKな人なので、初めての小説には是非出したいなと思っておりました。

 

一応言っておきますと、一刀は可能な限り原作通りの設定で行きます。

こういう登場だと大体酷いキャラになってたり、敵役って感じになってること多いですからね。

まぁ、そういうのも好きなんですが。

 

月影の技量では再現できるか不安ですが、頑張りたいと思います。

ただ神威との書き分けは大丈夫だろうか・・・一人称とか同じ『俺』だし。

いっそ神威はカタカナで『オレ』とかにすべき?判りやすくはなるけど小説としては問題あるか・・・

 

 

むぅ・・・あまり書き過ぎると変なネタバレしそうなので今回はこの辺で失礼します。

 

何か質問や指摘、意見がありましたらコメントかメールでお知らせください。

 

それでは、また次回に。

 

 

 

 

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
7
0

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択