No.626646

働きたくない錬金術師

たかBさん

第一話 働きたくないでござる。

2013-10-10 00:26:12 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:3337   閲覧ユーザー数:3154

 第一話 働きたくないでござる。

 

 

 

 「…ハイホー。ハイホー。はぁーい、ほぉおぉおおおっ」

 

 森林に囲まれた小さな洞窟でひびくやる気のない掛け声。

 

 「…はぁ。今日も今日とて土いじり」

 

 ため息交じりに地面にツルハシ。スコップを振り降ろす。

 この世界に生を受けて十年。

 日々の癒しを風呂に入って癒した初老の男性はビール缶を一本だけあけてそのまま寝込んだ。

 そして目が覚めれば金髪美人な男女が俺を見ていた。

 最初の頃は何が何だか分からなかったがどうやら自分は子ども。いや、赤ん坊になっていたらしい。

 いわゆる転生というものらしい。

 休日に赴いていた喫茶店で見た小説や漫画で見た知識でそう結論付けた。

 今の俺はナンブ・スクライア。

 スクライアという世界をまたに駆け巡りながら遺跡や遺物の発掘で生計を立てているインディーな一族の一族である。

 そして、この世界には魔法というものがある。この世界にいる誰もが使えるわけではない。それ故に使える人間はこの世界では重宝される。親が魔法を使えるなら子も使える。

 …のだが、

 

 「魔法でボーンッてやれば簡単だろうに…」

 

 「ボーン。て、兄さん。そんな音がする発掘作業だったら遺跡や遺物が壊れちゃうよ」

 

 隣では俺が砕いた岩の欠片を緑に光る鎖を手の平から伸ばして運んでいる。

 ついこの間七歳になったばかりのユーノは呆れながらも作業を淡々とこなしている。

 

 「チュドーンとかズドォオンとかのほうがよかったか?」

 

 「…兄さん。発掘する気ないでしょ」

 

 隣にいる弟のユーノ。そしてその両親譲りの美貌を受け継いだナンブだが、その表情。姿勢からやる気の無さがにじみ出て魅力が激減していた。

 ぼさぼさ頭をポリポリと掻きながらユーノに愚痴る。

 

 「当たり前だ。こんな小さな子どもにも働かせるなんて…。こんな職場ぶっ壊したいよ。あーあ、攻撃の特性のある魔法だったらなぁ」

 

 「…兄さんは『鑑定』のレアスキルがあるからいいじゃない。僕達発掘の一族ではかなり重宝されているし…」

 

 「それ以外は無いけどな。俺もお前みたいに攻撃できる魔導師がよかった」

 

 そう、俺は魔法使いになれたものの使えるのが『鑑定』。

 かけた物の成分を事細かに知ることが出来る。

 例えば掘り起こした壺の化石にその魔法をかけると、いつ。どこで。どのような材料で。どのような工程で作られたかというのが分かる。

 生物に使うと体重や身長。血液型から骨格まで。病巣までわかる。

 まあ、わかったところでそれを治すことは出来ない。

 あくまでそれが分かるというというものだけだ。

 

 「掘り出し物が見つかるまではこうやって穴掘りだけどな」

 

 そうであったとしてもそう言う事は十五歳をこえてからだ。

 必要以上に労働してはいけない。

 社畜だった前世で労働は出来るだけしたくない。

 ぐうたらだらだらな生活がしたいナンブだった。

 

 「拙者働きたくないでござる。まだ子供でござる」

 

 「兄さんは時々変なことを言うね」

 

 「労働はR-15指定なんだよ」

 

 「意味が分からないよ」

 

 「白いヌイグルミ相手に強制労働契約を結んだ覚えもないよ!」

 

 「本当に意味が分からないよ」

 

 自分が興味の無い事に対してはとことん集中力が続かないナンブ。

 そんな兄に対してため息をつくユーノ。

 

 「だーっ!こんな所俺が調合した爆弾で吹き飛ばしてやる!」

 

 「やめてよ!ていうか、こないだ族長にキャンプ用具一式吹き飛ばした時に全部没収されたのに何でまだあるの!」

 

 「さっき砕いた岩の粉末とそこら辺の草を混ぜて作った」

 

 「『鑑定』のレアスキルを悪用しないでよ!」

 

 そしてナンブの趣味は『鑑定』のレアスキルで判明した物質と物質を混ぜて別の何かを作る事だ。

 作り上げた後でその性能が分かるので、出来上がるまでどんな性能が出来上がるかは分からない。

 特に混ぜるな危険という物ほど混ぜたがる。

 

 

 

 だが、それがいい。(ナンブ談)

 

 

 

 ナンブが取り出した丸い球体に導火線という絵に書いたようなお約束な爆弾に火をつけようとしている兄を必死に止めるユーノ。

 

 「ええいっ!離せ!ユーノォオオオッ!」

 

 「兄さん!ここ洞窟!洞窟内だから!」

 

 「ユーノッ!ここは殿中でござる!と言うのがお約束だ!」

 

 ぎゃーぎゃーと騒ぐ兄弟。

 そして、

 

 

 

 ア―――――――!!

 

 

 ズズンと鳴り響く森。

 その森の中にある小さな洞窟の入り口で爆風によって吹き飛ばされた金髪アフロな少年の影が二つ。

 これもまたお約束である。

 

 


 
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