No.619041

病みつき六課 私が彼に病みつきになった理由 フェイト編

rikubさん

これは、私が彼と出合った物語
――― 私が彼を一方的に好きになった
――― これは、そんな物語
『人間を愛すること は必然だ』

2013-09-13 12:19:53 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:9078   閲覧ユーザー数:8662

その時の私はまだ子供で、所属していた部隊で休憩中は甘やかされることが多かった。

私は晩ご飯を食べるため食堂にいた。

空いていたためてきとうに選んで座ろうとした私に声を掛ける人達がいた。

 

「フェイトちゃん、ここ座りなよ」

 

その人が指差した席に私は座る。

テーブルには4つの席があり、指差した人の隣に私は座っており、指差した人と私の対面には他の人が座っていた。ついでに、全員女性で大人だ。

 

「フェイトちゃんは夢とかある?」

 

「夢ですか?」

 

首を傾げながら私は聞き返す。

 

「そう、夢よ」

 

「フェイトちゃん位の年頃だと色々あるでしょ?」

 

……夢

その頃の私にはそんなもの無かった。

いや、あったはあったけど、どれも夢と言うほど立派なものじゃないのだ。

 

「あーぁ、もしかして、無い?」

 

俯いて黙っていた私を気遣うように言う。

 

「皆さんの夢って何ですか?」

 

何か参考になるかもしれない。

私が言うと2人共苦笑いを浮かべながら言う。

 

「私は結婚かな」

 

「私も」

「早く結婚して幸せな生活したい」

 

……結婚かぁ

私には特別好きな異性がいない。

――――その時はだけど

 

「あなたは何かないの?」

 

隣にいた女性が私の逆方向を見て言う。

 

「……何がですか」

 

私が声をした人を見る。

間に女性がいたこともあり見にくかったが、なんとか見れた。

 

――――その人が彼だ

その時の私は彼のことを自分より年下の仲間でしか思ってなかったが、実際これは凄いことだ。

私位の年でも珍しいのにそれより下がいる。

彼も私のように可愛がられていたが、それは始めだけだった。

当時の彼は今と違って無愛想だったからだ。

 

「夢よ、あなたも夢とかないの?」

 

興味津々に聞く女性に彼は指を顎にあて、考える素振りをしながら応える。

 

「……水族館」

「「はぁ?」」

 

私以外の2人が声をそろえて言った。

私は首を傾げながら彼の夢を聞く。

 

「家族と水族館に行きたいです」

 

彼の夢を聞き軽く笑いながら3人は立ち上がる。

そのうち1人が彼の頭を撫でながら言う。

 

「かなうといいわね」

 

彼の頭から手を離すと2人はそのまま食堂を出ていった。

 

「……かなうはずが無い」

 

ぽつりと呟くように彼は言う。

……家族と仲悪いのかな?

私は席を隣に移動して彼の隣(隣といっても通路ごしだけど)に座る。

 

「どうかしましたか?」

 

私が彼を黙って見ていると無表情で彼は言う。

 

「ふぇ!?

えぇーと……」

 

私が慌てて次の言葉を考える。

 

「ど、動物園は行ったことあるの!?」

 

……何聞いてるんだろ

彼は無表情で応える。

 

「1人でなら」

 

1人?

動物園って皆で行くものじゃないのかな?

 

「誰かと行ったことないの?」

 

「……行く人が居なかったんです」

 

彼は俯きながら言う。

 

「でも……家族とか」

 

「母さんは俺が生まれて直ぐに他界して、父さんは俺を施設に預けてどこかに行きました」

 

……あっ

 

「ごめんね、嫌なこと聞いて」

 

「大丈夫です

「もう、何年も前ですから」

 

彼は平気そうに言う。

普通なら気分を悪くしてもいいのに、何もなかったかのように振る舞う。

 

「施設を出て直ぐに管理局に入隊して、時間が出来たから行ったんです」

 

……彼の年齢で管理局にいるのは珍しい。

 

「誰かといこうにも、部隊の人を誘うわけにも行かないし……」

 

もし、私がなのは達に出会わずに管理局に入隊したらこうなってたかもしれない。

 

「施設の人達を誘うことも出来ませんしね

だから、1人で行ったんです

動物園には人が沢山いて驚きましたよ

……皆、楽しそうでした」

 

彼は珍しく無表情ではなく口元に笑みを浮かべながら言う。

 

「……なんで、水族館は家族と行きたいの?」

 

私は彼の気持ちを考えずに聞く。

 

「……動物園では親子であろう人達が多かったからですね

だから、俺も家族と行けば楽しいのかなって思ったんです」

 

彼の言い方からして詰まらなかったんだろう。

 

……私はどうだろう。

もし、私がなのは達に出会わずに管理局に入隊してたら――――

私はどうなってたんだろう。

――――彼と同じだったのかもしれない

――――誰にも愛されず、無愛想に振る舞い

――――無表情で目の前の仕事をやるだけ

――――楽しいだろうか?

そんなはずない。

楽しいはずが無い

 

「ねぇ――」

 

私が言うと彼は私を見つめる。

――――何も見てなさそうな瞳で

――――目と目が合ってるのに、まるで見られている気がしない

――――昔の私に似ている眼

 

「今度、私と水族館に行こ」

 

彼は私の言葉を聞いて驚きながら言う。

 

「俺は家族と行きたいだけですから――」

 

「だったら」

 

彼が言い終わる前に被せて言う。

 

「だったら、私があなたの未来のお嫁さんになってあげる」

 

自分でも驚くほど冷静に言った。

彼は一瞬驚くと直ぐに笑みを浮かべながら立ち上がる。

 

「大人になって、ハラオウンさんが良ければ」

 

私は彼の手を取る。

 

――――今の私は驚くほど冷静だ

 

「――フェイト」

 

――――冷静なんだ

 

「フェイトって呼んで――」

 

――――だから

 

「私は未来のお嫁さんなんだから」

 

――――私は本気だ

 

 

 

 

―――――

 

あれから直ぐに彼が部隊から離れた。

もちろん、私は彼が離れることを聞いて悲しかったし、涙を流した。

彼に会えなくなるからじゃなく、『彼を忘れるかもしれない』ことと『彼が私を忘れるかもしれない』ことに――――

でも、その心配は気鬱だった。

彼が部隊から離れて、私は彼のことを忘れるどころか更に強く思うようになったのだ。

 

――――離れ離れになってから数年後

 

私はまた彼と同じ部隊になった。

 

――――なるようにした。

 

その時の彼は今程ではないが元気で、社交性があった。

そんな彼を見て私は苛立ちを覚えた。

私以外の人が彼を変えたんだ。

 

――――私の彼を

 

――――勝手に

 

まぁ、私はどんな彼でも愛してるし、愛すけど。

 

 

彼が約束を覚えているかどうかはわからない。

 

でも、何時か一緒に行くんだ。

 

――――2人っきりで水族館に

 

――――私達家族で

 

そのためなら私は何だってする。

どんな犠牲だってかまわない。

 

――――私に夢を与えてくれた彼のためなら


 
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