No.614713

守るための条件 ~ソードワールド・西部諸国シアター 投稿原稿4

VieMachineさん

過去に、富士見書房のドラゴンマガジンで行われていたソードワールド・西部諸国シアターに投稿したプロット文章がルーズリーフで発掘されたので劣化喪失する前にデータ化しておこうと思います。
3は飛ばして4です。3の原稿は失われればいいのにって思います。

これは、全ての募集が終わった直後に(今考えれば)迷惑顧みず送ったもので、後ろめたかったのか分量も少なくしてありました。でも書いててまだ余計な内容が多い(苦笑 プロットだって言ってるだろう!という文句を過去の自分に言いたいです。本当に全てにおいてすみません。

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2013-09-01 02:30:14 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:937   閲覧ユーザー数:937

登場人物

 

レファ・トリエステ (人間 女 26歳)

大地母神を信仰する高司祭。数年前からワイアット山脈に住むリザードマンの一群に布教してきた

 

ザナドゥ・ジェラート (人間 男 28歳)

力を求めドラゴンを信仰する男。ドラゴンを神聖化しており、リザードマンがドラゴンになるという噂すら許せない。ある時、100年の齢を重ねようとしているリザードマンの話を耳にする。

 

ジェダ(リザードマン 男 99歳)

もうすぐ100歳になるリザードマン

 

本編

 

 その町をドラゴンが襲ったのは12年前。少年はドラゴンを前にして両手剣を振り上げた。彼の背後には少女が一人。「僕が…守るから。」ドラゴンの爪が空を切り、少年の剣を中程まで切断しながらはじき飛ばした。そしてドラゴンの口が大きく開かれた。炎が少年をなめようとする。しかし少年は空を飛んでいた。炎を避けるように。

少年は自分を突き飛ばした少女の腕を慌ててつかみ、その勢いを殺すと、改めて地面を蹴り飛翔した。炎は少女の左手を包み、その一瞬で肘から先を燃やし尽くしていた。

 建物の影から6人の冒険者が現れドラゴンと話をしているのを背後に、少年は少女を抱きしめる。「僕が強ければ…守れたはずだ。」そのとき、少女の頭がわずかに横に振れたことに少年は気づかなかった。そんなことがあってすぐ、少年は少女をおいて町を出た。風の噂で、6人の冒険者達がドラゴンを説得し、町が守られたことを知った。

 

 あるリザードマンの群れはドラゴンに襲われていた。群れにはジェダという100歳を迎えようとする老リザードマンがおり、彼を殺すためにドラゴンはやってくる。リザードマンは100年生きるとドラゴンになるという話があり、それを否定するドラゴン側は彼を殺そうとしているのだ。ほぼ毎日、一匹のドラゴンがやってきてリザードマン達を攻撃し、数分すると帰って行く。その数分だけでリザードマン達は傷だらけになる。そこまでしてジェダを守るのは、リザードマン達が大地母神の信徒であったからだ。数年前から高位の神官が彼らに大地母神の教えを布教していた。また、その神官がいなければドラゴンに攻撃されて全滅は免れなかっただろう。その神官の名は、レファ・トリエステといった。

 

 その日の戦闘後、リザードマン達の治療を終えたレファはジェダの元へと向かった。彼女はそれまでの戦闘でドラゴンがわずかな時間しか攻撃してこないのを不思議に思い、ジェダに相談しようと考えたのだ。彼は年相応に博識で、他のリザードマンと比較して群を抜いた高い知識を持っていた。彼は自分が群れの重荷になっているのを知っており、自分を見捨てて群れを守って欲しいとレファに言うが、彼女は聞き入れない。ジェダは感謝の意を述べると、彼女の質問に「ソレハ ドラゴン チカラエタ モノ セイカモシレナイ。」とこたえた。レファの頭に竜語魔法という言葉が浮かぶ。竜語魔法にはレッサードラゴンを操るモノがあったはず。もし、ジェダを殺そうとするのがドラゴンたちの意思ではなく誰かに操られているなら、そのものと話し合う必要がある・・・。誇りや見栄よりも命は大切なモノであるはずだから。

 

 『貴方に会って話がしたい。翌朝、一人で待っています。』青年はドラゴンが運んできた手紙を見ていた。送り主はいつもリザードマン達に防熱や治癒、さらには復活などの奇跡を与えている女性神官であろう。青年は密かにこの女性を気に入っていた。どこか心引かれるモノがあったのだ。「まあいいだろう。俺も会ってみたい。」

 

 翌日、一匹のドラゴンが女性の前に降り立った。「何を話すというのだ。」青年がレファの前に歩み寄る。「命は何よりも尊い事を知ってもらおうと思ったの。何故『ジェダ』を殺そうとするの?」レファは問う。「絶対不可侵のドラゴンの尊厳を守るためだ。」そういう青年にレファはさらに問うた。「尊厳が命より大切なモノとは思えない。」青年は答える。「それはお前の中でのみ。お前の信仰は大地母神、俺の信仰はドラゴン。俺は強さを優先し、それに伴う尊厳も重視する。」レファは首を振った。「何のための強さなの・・・悲しい強さね。」瞬間、青年はバスタードソードを片手でレファに突きつける。両手剣の中程にはまるで木刀で真剣を受けたかのような鋭い傷が入っている。「俺の強さを愚弄するのか?どちらが不利なのか勘違いしてもらっては困る。価値観を変えなければならないのは俺ではない。俺には強さが必要だ、それだけでいい。」レファは青年の言葉を聞いていなかった。両手剣の傷を見つめ続ける。「ザナドゥ・・・あなた、ザナドゥよね!」急に名を呼ばれ青年は面食らう。戸惑う青年をレファが抱きしめようと両手を広げる。しかしその左手の肘から先はなかった。青年はとうとう相手が誰なのかを悟る。「俺は・・・。」青年は彼女の右手から身をかわすと叫ぶ。「お前が相手であろうと!!俺は・・・強さをあきらめるにはいかない!」引き留めようとするレファをおいたまま、ザナドゥはドラゴンに乗って去った。レファは手を伸ばしたが、その手が彼の心をつかむことはなかった。

 

 日暮れ時、レファは急に理解した。ザナドゥが力を重視するのは自分のせいだと。「あのとき、私を守れなかったと彼は思っているのかしら・・・」しかし、どのようにしたら彼の心を癒やせるのかは全くわからなかった。

 

 深夜、リザードマン達はジェダの元へと集った。脱皮が始まろうとしている。「ジェダ ドラゴン ナル ナラナイ ワカラナイ デモ マモッテクレルコト カンシャスル。」ジェダの眼球が白く濁った。

 

 明け方、ザナドゥは精神力を振り絞り、3体のレッサードラゴンを召喚した。「相手が誰であろうと俺は・・・」彼はドラゴンに命令をだした。自分の信念を守るために自分の心を殺した。

 

 早朝、レッサードラゴンたちは自分たちが命令される義務のないことに気づいた。「魔法ハ スデニ 切レテイル。」しかし召喚主は気づかず、明け方の命令を繰り返した。二匹のドラゴンが見つめる視線の先で、一匹のドラゴンがため息ともとれる息をついた。

 

 日が完全に昇ると、ザナドゥは他より少し大きめのドラゴンにまたがると空へととんだ。『女ハ殺ス。ソレデモ良イノカ。』ドラゴンが伝えてくるが、ザナドゥはこれを無視する。『向コウニ着イタラ、マズ女ヲ殺ス。ソレガ我々ノ手間ヲ省ク。』ザナドゥが冷静であれば気づいたかもしれない。召喚したドラゴンは召喚主に意見するだろうか。レッサードラゴンの知能で先ほどのような戦略を立てるであろうか。

 

 レファはジェダの元にいた。脱皮中のジェダだったが、すでに瞳は空気に触れ、黒く輝いていた。背中のあたりは妙に盛り上がってはいたが、それが翼であるのかは誰にもわからなかった。風を切る音が聞こえたのはそのときだった。レファが振り返ると目前は膨大な炎で埋め尽くされていた。しかし、彼女は炎が自分を役までの一瞬を帰還の奇跡ではなく、リザードマン達の防熱の奇跡に使った。

 ところが、彼女に炎は届かなかった。彼女の前には青年が立っている。すべての炎を無効化する力に包まれたザナドゥだった。「俺のことは俺が処理する・・・」青年の宣言を聞き、彼を乗せてきた、そしてレファに炎を吐いたドラゴンが笑った。「お前にその女を殺すことはできない。」自然な共通語であった。「現にお前はその女を守ったではないか。」ザナドゥが首を振る。「違う、レファは俺が・・・俺が・・・」ドラゴンが言葉を継いだ。「守るから・・・違うか?もう何年も前の話だ。お前は私の前で言ったな。あのときの私の意識はまだぼんやりとしていたが、お前の言葉を覚えている。お前は忘れたのか?」ザナドゥは頭を抱えてうずくまった。「エルダー種になったの?」レファの呟きにドラゴンは、「私は守るモノを失い、そしてそれを再び得たとき心を得たのだ。その男はどうだろうな。」それだけ言うと、人間達に興味を失ったのかジェダの方を向いた。残りのドラゴンもそれに習う。「カツテ、オ前ノ様ナ者ガイナカッタワケデハナイ。オ前ガドラゴントナッタ時、オ前ハ群レヲ見捨テルコトガデキルカ?我々ハ、リザードマンヲ眷属トシテ管理シテイル。全テノ群レヲ公平ニ扱ウ・・・ツマリ、ソノ強大ナ力ヲ群レノ為ニ使ワズ、非干渉ヲ貫クコトガデキルカ?」ジェダはレファを見る。「ソウデナケレバ育チスギタオ前ヲ殺サネバナラナイ。オ前ガ自ラ死ヲ選バヌ限リ、群レハ傷ツキ続ケルダロウ。」レファはジェダに言う。「群れを離れなさい。貴方を守った同族を思いなさい、貴方はそれでも死を選べる?」ジェダが否定の意思を返すと、レファは満足そうに頷いた。「ヨウコソ、我ガ同胞。歓迎スル。」ジェダが背中を動かすと巨大な翼が広がる。

 「嘘だ・・・弱き者が、強き者と肩を並べられるわけがない。弱き者は強き者に守られる義務があるのだ。強き者は弱き者を守る権利があるのだ。そして、弱き者は強き者が守らなければ必ず失われるものなのだ!」青年は叫んだ。そしてバスタードソードを振りかざすとジェダに斬りかかる。刹那、レファがそこに割り込んでいた。両手剣はレファの残った左手を肩口から切断していた。彼女は右手で青年を抱き寄せながら、心に平穏をもたらす祈りを漏らした、そして言う。「ずっと言いたかった。あのとき貴方は私を守ってくれた。ありがとう・・・」「僕は・・・あのときより力を得たのに、今度は君を守れなかった・・・」青年の瞳から涙がこぼれた。

 

 ドラゴンが去って行く。ジェダは最後に振り返ると、「仲間、モウ会エナイ。デモ決シテ、忘レナイ。」それを見るレファの慈愛に満ちたほほえみの中に、ザナドゥは守るための条件をみた。


 
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