No.606678

真・恋姫†無双 異伝「空と命と夢の狭間に」第一話


 ちょっとだけのご無沙汰でございます。

 それではこれより新たなる外史譚の始まりです。

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2013-08-08 19:36:40 投稿 / 全10ページ    総閲覧数:16746   閲覧ユーザー数:11715

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は二世紀終わり頃の中国大陸。

 

 時の王朝たる漢の力は既に高祖や世祖の頃などとは見る影も

 

 無く廃れており、宦官や一部の高官達による腐敗政治により

 

 その大樹は根元から腐りかけていたのであった。

 

 此処はその漢の都、洛陽である。

 

 その宮殿の地下深くにある牢の中に繋がれている一人の女性

 

 の前に歓迎せざる来訪者が来たその時からこの物語を始めさ

 

 せていただく事とする。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…何だい、こんな臭い所まで来るなんて、十常侍ってのはそ

 

 んなに暇なのかい?それともお前も追放でもされたか?」

 

 牢の中にいる女性は格子の前にやってきた初老の男を一瞥す

 

 るなり、そう吐き捨てるように言う。

 

 そう言われたその男は一瞬苦々しげに顔を歪めるも、すぐに

 

 無表情に戻り、淡々と話し始める。

 

「いえいえ、これでも忙しい間をぬって此処まで参った次第で。

 

 それもこれも貴女様が何時まで経ってもあれの所在を教えて

 

 くださらないからですぞ。教えてさえくれれば、すぐにでも

 

 このような場所から出してさしあげますものを…陛下」

 

 そう、この牢に繋がれているのは、後漢王朝第十二代皇帝で

 

 ある劉宏であった。そして…。

 

「ふん、やなこった。何処かの張譲なんかに教える位なら犬に

 

 でもくれてやる方が遥かにマシってもんさね。それに此処か

 

 ら出たってどうせお前ら十常侍の監視付きに変わりは無いん

 

 だし、それならまだ此処の方がお前らの顔をあまり見なくて

 

 済む分楽しいってもんさ」

 

 劉宏に向かい合っている者こそ、宦官である十常侍の筆頭に

 

 して、彼女を牢に押し込めた張本人である張譲である。

 

「陛下…いい加減、我が儘はおやめになられませ。あなたのそ

 

 の行動のせいで国の政が滞っているのですぞ?」

 

 

 

 張譲はしたり顔でそう言うが、劉宏は何処吹く風のまま、

 

「はっ?…国の政!?…何だい、遂に私の耳は腐っちまったよ

 

 うだね~。じゃなきゃ、政って言えば賄賂か増税しか知らん

 

 奴の口から『国の政』なんて言葉が出るはずもないしなぁ」

 

 しれっとそう言い放つと、張譲の顔は怒りに赤く染まる。

 

「ほう…どうやら陛下はご自分の命がいらないと見えますな」

 

 張譲はそう恫喝するが、

 

「おう、さっさと殺してくんな。そうすりゃ、私ゃもうお前の

 

 腐った面見なくて済んでせいせいするし、大体私が死んで困

 

 るのはそっちじゃねぇのかい?それとも何だ、まさかお前さ

 

 んが皇帝になろうってんじゃあるまい?」

 

 劉宏がそう言い返すと、張譲は言葉に詰まったのかそれ以上

 

 言い返せない。しかし…。

 

「ふん、何時までそんな強がりが続くのか楽しみじゃ!そんな

 

 態度も姫君達の命と引き換えともなればそうも言ってられん

 

 じゃろうしな!」

 

 張譲はそう言い捨ててその場を去るが、

 

「はっ、本当に二人がお前の手に落ちたんだったら、とっくに

 

 お前の口からそれが出てくるに決まってるじゃねえか。それ

 

 がそんな捨て台詞しか言えねぇって事は、行方すら掴んでな

 

 いって事だろ?はっ、つまらんねぇ…お前らもそんなお前ら

 

 にこうして捕まっている私もさぁ」

 

 その後ろ姿に投げかけられた劉宏のその言葉に、張譲は肩を

 

 いからせて早足で出て行ったのであった。

 

 

 

「さて…あの阿呆に言いたい放題言えた事で少しは気も紛れた

 

 けど、このままじゃ埒が開かないのも事実だしねぇ…二人が

 

 何とかしてくれりゃいいんだけどね。頼んだよ…命、夢」

 

 劉宏はそう呟くと、面倒くさそうにその身を横たえたと同時

 

 に爆睡し始めたのであった。

 

 ・・・・・・・

 

「この…下手に出てればいい気になりおって、あのお飾りが!」

 

 自室に戻った張譲は、近くの椅子を蹴飛ばしながらそう苛立

 

 っていた。

 

「誰ぞある!」

 

「はっ!!」

 

「もう一度、後宮中を全て探せ!必ずあそこの何処かに玉璽が

 

 あるはずじゃ!!」

 

 張譲は兵にそう命じ、寝台に腰をかける。

 

「くそっ、何故こうもうまくいかぬ…劉宏もその娘どもも、儂

 

 に悉く逆らいおって…見ておれよ、玉璽も娘どもも必ず見つ

 

 け出してあの女の前に引きずり出してやるでな…」

 

 そう呟いた張譲のその眼は暗い色を湛えたままであった。

 

 

 

 

 その時、部屋の外より声がかかる。

 

「申し上げます!」

 

「何事じゃ?」

 

「何進大将軍が陛下への謁見を願い出ておりますが…」

 

「…何時ものように追い返しておけ」

 

「それが…此度は陛下にお眼にかかるまで梃子でも動かないと

 

 完全武装で来ております。門の外にいる私兵どももこのまま

 

 では何時踏み込んでくるか…」

 

 兵のその言葉に張譲は苦虫を噛み潰したような顔となる。

 

「チッ、肉屋のせがれの分際で調子に乗りおって…まあ、いい。

 

 儂が行く。こちらも兵を展開させておけ」

 

 ・・・・・・・

 

 張譲が謁見の間に現れると、そこにいた中年の男が嫌な物を

 

 見たような表情をしながら顔を背ける。

 

 その男こそ大将軍であり、劉宏の亡き夫の兄でもある何進で

 

 ある。

 

 何進と張譲はどちらが実権を握るかで長年争ってきた者同士

 

 なので、今や用も無ければ言葉を交わす事も無い間柄となっ

 

 ていたのである。

 

 

 

「どうされたのです、何進殿?そのような仰々しい出で立ちで

 

 おいでとは穏やかではありませんな?」

 

 張譲が白々しくそう問いかけると、何進は鼻を鳴らしてそっ

 

 ぽを向いたまま話しだす。

 

「俺は陛下に謁見を願い出に来たのだ。お前なんぞに用は無い。

 

 さっさと消えろ」

 

「陛下はここしばらく気分が優れぬとかで奥で臥せておられま

 

 す。御用がおありなら私の方から申し上げておきまして、後

 

 日また改めてご連絡差し上げますが」

 

 張譲のその言葉に何進は眼も合わせぬまま、反吐でも吐き出

 

 すように呟く。

 

「ふん、お前の言なぞ信じられるか。俺は大将軍にして陛下の

 

 義兄だ。わざわざ宦官如きに取り次いでもらう謂われは無い

 

 わ。そもそも本当に陛下は奥で臥せておるのか?お前が何処

 

 かに幽閉でもしておるのではないのか?」

 

 その言葉に張譲の額に青筋が浮かぶが、何進はそれを一瞥す

 

 るや、侮蔑の笑みを浮かべて言葉を続ける。

 

「おや?何か怒らせるような事をしたか?そもそも、宦官如き

 

 が大将軍たる俺とこうやって面と向かって話をする事自体、

 

 おかしい話なんだがな」

 

 

 

「何進殿、その言葉は捨て置けませんな…確かに私は宦官です

 

 が、そのような侮蔑を受ける謂われこそありませんが」

 

「はっ、何を言っておるか。折角親から貰った身体と性を捨て

 

 て宮廷におもねる者どもに他に与える物があるのか?」

 

 そう言った後しばらく二人は視線だけで相手を呪い殺せるの

 

 ではないかという位に激しい視線を絡ませるが、そのままで

 

 は何も進展しないと判断したのか、何進は吐き捨てるような

 

 視線を残したまま、部屋を後にしたのであった。

 

「おのれ、何進めが…今に見ておれよ」

 

 張譲はそう一人ごちていた。

 

 ・・・・・・・

 

「如何でした、大将軍閣下?」

 

 執務室に戻ってきた何進を出迎えたこの女性は何進の側近で

 

 冀州・南皮の太守でもある袁紹であった。

 

「どうもこうもないわ!また張譲の奴めがしゃしゃり出て来お

 

 っただけだったわ!」

 

 何進は椅子にドカリと座ると同時にそう喚き散らす。

 

「これだけ長い間、陛下のお姿も見かけない上に何時も張譲が

 

 でしゃばってくる以上、もはや張譲が陛下を何処かに幽閉し

 

 ているという噂は本当なのではないのですか?この際、兵を

 

 連れて踏み込んでしまえば如何ですの?正義は我らにあり。

 

 堂々と進軍して十常侍とそれに与する愚か者どもを蹴散らし

 

 てしまえば良いではありませんこと?」

 

 

 

「…あの張譲がその程度で尻尾を見せるはずが無かろう。それ

 

 にもし失敗すれば俺達が逆賊の汚名を着せられる事になる。

 

 それこそ張譲の思う壺よ」

 

 袁紹の申し出に何進はそう答える。

 

「では如何されるのです?」

 

「まずは証拠を押さえる事と…姫君方の保護だな」

 

「姫君方はどうされておるのです?」

 

「さあな…陛下が『奥で臥せて』いるようになると同時に何処

 

 へ行ったか分からなくなってしまわれた。まさか殺されては

 

 おらんはずだが…」

 

 何進はそう言って悔しげに口を歪める。

 

 それもそのはず、もし劉宏の娘達が無事なら真っ先に伯父で

 

 ある自分の許へ保護を求めてくるはずなのに、全くと言って

 

 いい程そんな気配も見せないからである。それはつまり自分

 

 の事も信用されていないと言われているような物でもあった

 

 からと考えられる話でもあった。しかし、とりあえず『保護』

 

 してしまえばそれを担いでどうとでも出れるので、何進も必

 

 死に行方を捜していたのであった。

 

「袁紹、北方の探索は任せる。俺は南方を当たる」

 

「分かりましたわ」

 

 そしてしばらくの間、表向き洛陽方面は沈黙という名の静け

 

 さが続くのであった。

 

 

 

 その頃、此処は涼州と雍州の境の辺りにて。

 

 三人連れの旅人が山の中を歩いていた。正確に言えば、一人

 

 の初老の男と二人の女性であるが。

 

「ふう、どうやら此処までは無事に来れたようじゃの」

 

「姉様、最後まで気を抜いてはいけません。一刻も早く月の

 

 所まで行かなくてはならないのですから」

 

「分かっておるわ。まったく夢は本当に四角四面なんじゃから

 

 のぉ…少しは冗談も言えるようにならんと疲れるばかりぞ?」

 

「姉様がもう少し真面目に過ごされるようになったら考えさせ

 

 ていただきます」

 

 二人がそんな会話をしていると、

 

「命(みこと)様、夢(ゆめ)様、少し道を迂回する事にしま

 

 しょう」

 

 連れの男がそう話しかけてくる。

 

「どうした、じい?追手か?」

 

「いえ、人が寝ておるようですが…」

 

「行き倒れ…ですか?」

 

「それにしては服が綺麗すぎます。もしかすれば賊の一味かも

 

 しれません。此処はあの場を迂回して…おや?命様は何処へ

 

 行かれました?」

 

 男が話している間に『命』と呼ばれた少女は躊躇う事も無く

 

 その倒れている者の所へ行ってしまう。

 

「姉様、勝手に行っては…」

 

「大丈夫じゃ、あれは危険ではない」

 

「命様、何を根拠に『女の勘じゃ!』…はぁ、これだからあの

 

 方は…」

 

「じい、嘆いていても仕方ありません。此処は周りを警戒しつ

 

 つ私達も姉様の所へ」

 

 二人はそう言って慌てて後を追う。

 

 しかしこの行動が、大陸のそして自分達の運命に大きな影響

 

 を与えるとはその時は三人共思いもよらなかったのであった。

 

 

                                           続く!

 

 

 

 

 

 

 

 

 あとがき的なもの

 

 mokiti1976-2010でございます。

 

 というわけで、新たな外史譚「空と命と夢の狭間に」の

 

 始まりでございます。

 

 とは言いつつも、ヒロイン達の台詞は少しだけで主人公

 

 に至っては今回は台詞無しです。しかも原作キャラから

 

 の唯一の登場が麗羽さんだけという状態です。

 

 とりあえず次回は一刀とヒロイン達の出会いからです。

 

 

 それでは次回、第二話にてお会いいたしましょう。

 

 

 

 追伸 ちなみに題名の読みは「そらといのちとゆめのはざまに」

 

     です。

 

     そして投稿は不定期更新になると思いますのでご了承の程を。

 

 

 

 

 


 
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