No.594201

遥か彼方、蒼天の向こうへ-真†魏伝-第二章・二十二話

月千一夜さん

皆さん、こんにちわ
遥か彼方、更新です

二十二話
今回は、少し長くなります

続きを表示

2013-07-04 09:51:40 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:9550   閲覧ユーザー数:6768

晴れ渡る空

遥か彼方まで続く、堂々たる“蒼天”

それは、木々の生えそろった深い森の中からも見上げれば見えるほどであった

 

“眩しい”と

彼女は、苦笑した

 

 

 

「どうかしましたか、桔梗様」

 

 

そんな彼女に向い、声をかける少女がいた

魏延こと、焔耶である

その問いに対し、彼女は・・・桔梗は、苦笑を浮かべたまま“なんでもない”と零した

 

 

「お前こそ、“監視”の仕事はいいのか?」

 

「監視、ですか」

 

 

言って、彼女が見つめる先

其処には、白き衣服を身に纏った青年の姿がった

その背には、大きな弓が背負われている

彼女はその青年を見つめながら、深い溜息を吐き出すのだった

 

 

「今のところは、大丈夫です

何も、怪しい動きはとっていません」

 

 

“残念ながら”と、焔耶

この言葉に、桔梗は“そうか”と笑みを浮かべるのだった

 

 

「しかし、ご安心ください

何か怪しいことをすれば、すぐさまこの私が叩き潰してみせましょうっ!」

 

「頼もしい限りだな

しかし、あまり早まった行動はとるなよ」

 

 

桔梗の言葉

焔耶は、“お任せを”と笑った

そんな彼女の姿に、笑みを浮かべる桔梗

彼女はそれから再び、木々の間から見える空を見上げた

 

 

 

 

「しかし、奴も・・・“鄧艾”も、“大胆なことを考えるものだ”」

 

 

“大胆なこと”

この言葉と同時に、彼女が思い出すのはこの前日の事だろう

前日

この“進軍”を決めた、あの軍議でのことだ

 

 

 

「ふっ・・・まぁ、いい

儂は儂が“やるべきことをやるだけだ”」

 

 

やがて彼女は、そう言って瞳を閉じた

湧き上がる感情に、微かに体を震わせ

 

そして、握りしめた拳からは

紅き血が、一滴流れていった

 

 

 

 

 

 

「儂が、終わらせてやる・・・“藜(アカザ)”よ」

 

 

 

 

 

 

 

≪遥か彼方、蒼天の向こうへ-真†魏伝-≫

第二章 二十二話【成都へ】

 

ーーー†ーーー

 

時は、遡り

あの“共闘宣言”の翌日の事

此処は、白帝城内にある中庭である

其処に彼は、一刀は座っていた

そんな彼の後ろでは、美羽が鼻歌混じりに彼の髪を櫛で梳いていた

 

 

「うむ、やはり一刀の髪は良いのう

少し梳いてやるだけで、すぐにサラサラになるのじゃ」

 

「そう、なの?」

 

 

“うむ”と、美羽

その言葉に同意する様、すぐ傍で様子を見ていた祭は笑みを浮かべた

 

 

「しばし、そのように手入れする暇もなかったしのう

美羽も儂らも、気になっていたんじゃよ」

 

「一刀一人では、手入れはできんじゃろうからな」

 

 

“うむ、終わりじゃ”と、美羽は満足げに頷き櫛を下した

一刀の髪は、綺麗に梳かれ風に揺れていた

 

 

「ありがと、美羽」

 

「うむ、どういたしましてなのじゃ♪」

 

 

と、美羽

その光景を見つめながら、“ふん”と嘲笑うよう声をもらす人物がいた

魏延こと、焔耶である

彼女は腕を組みながら、冷ややかな視線を一刀に向けていた

 

 

「そんな、女みたいな髪をしおって

貴様、本当に男なのか?」

 

「なんじゃと?」

 

 

焔耶の言葉

美羽は、眉を顰め焔耶を睨み付ける

 

 

「文句があるのなら、何も言わなければいいのじゃ

乳は大きいくせに、器の小さな輩じゃのう」

 

「なんだと・・・っ!」

 

 

漂う、険悪なムード

祭は、深い溜息をついた

 

 

「また、か」

 

 

“また”という、この言葉が表す通り

この二人がこうして言い合うのは、これが初めてではない

昨日、あの劉備との会談が終わってからというものの

この二人は事あるごとに、こうして言い合っていた

主に、というより全て“一刀関係”である

 

一刀(鄧艾)を疑い、監視する焔耶

一刀(家族)を信じ、守る美羽

 

そんな二人が“衝突”せずにいろという方が、無理な話である

 

 

「一刀も、思い切ったことをしてくれたもんじゃのう」

 

 

祭も、あの時

一刀が彼女を自分の監視にと言った、そのことの“意図”には気づいていた

しかし、実際こうなってみると中々大変なことである

このようなやり取りが繰り返されれば、流石の彼女も疲れ果ててしまっていた

 

とはいえ、このまま放っておくわけにもいかない

 

 

「今日こそ、貴様のその生意気な口を閉ざしてやる!」

 

「上等なのじゃ!

後で泣いて許しを請うても、知らぬからなっ!」

 

「はぁ・・・」

 

 

故に彼女は、目の前で今にもお互いに武器を構えんとする二人に歩み寄り

 

 

 

 

「いいかげんに、せんかっ!!!!」

 

 

 

 

その頭に、“正義の鉄槌”を振り下ろすのであった

 

 

 

 

 

ーーー†ーーー

 

「賑やか、ですね」

 

「煩いだけじゃない?」

 

 

そんな、中庭の喧騒から少しだけ離れた場所

其処にいたのは、月と詠だ

その二人を囲む様、座っているのは恋と音々である

 

 

「楽しそう」

 

「そ、そうですか?」

 

 

“ん”と、恋

それから、彼女が見つめる先

其処にいたのは、華雄こと夕であった

 

 

「華雄が、羨ましい」

 

「ははっ、良いだろう?」

 

 

“自慢の、家族だ”と、彼女は笑った

そんな彼女の笑顔につられ、その場にいた皆も笑っていた

 

 

「だけど、本当に良かったです

華雄さんが無事で」

 

「私も、本当に安心しました

董卓様がご無事で、本当に安心しました」

 

 

言って、夕は目元を拭った

少し涙腺が緩んだのか、泣いてしまいそうになったからだ

そんな彼女に対し、月は困ったように笑う

 

 

「華雄さん、董卓はもう死にました

今は、ただ一人の人間・・・月です

だから華雄さんも、私のことは月と呼んでください」

 

「董卓様・・・」

 

 

“いえ”と、彼女はまた目元を拭う

 

 

「月様

私のことも、夕とお呼び下さい

私の大切な家族がつけてくれた・・・私の“真名”です」

 

「わかりました、夕さん♪」

 

 

と、月

そのやり取りをみていた恋は、スッと手をあげ口を開く

 

 

「恋も、呼んでいい?」

 

「ああ、勿論だ

私達は、“仲間”じゃないか」

 

 

夕の言葉

皆は、照れくさそうに笑っていた

 

“仲間”

 

かつて、一人の少女を守る為

共に戦った者同士

彼女達はその絆を、今再び感じていたのだった

 

 

 

 

「それにしても、大変なことになりましたな」

 

 

そんなやり取りから数分後

晴れ渡る空を見上げながらそう言ったのは音々である

 

 

「死んだという劉璋が成都を奪ったり

管輅の予言に出てきた者が、夕の家族だったり

もう音々の頭でも、理解が出来ないですぞ」

 

「それは、僕も同じよ」

 

 

と、詠

彼女は腕を組み、苦笑を浮かべ言葉を続けた

 

 

「はっきり言って、何もかもが“常識外れ”、“理解不能”ね」

 

 

“どうしようもないわ”と、詠

そんな彼女の言葉に、月は不安そうに声をあげた

 

 

「私達・・・どうなるのかな」

 

「月・・・」

 

 

シンと、先ほどまでとは違い

其の場は、驚くほど静まり返った

 

が、そんな空気の中

 

 

 

 

「大丈夫だ」

 

 

 

 

そう言って、夕は笑っていた

皆の視線が、彼女に集まる

 

 

「蜀の将兵は、皆精強だと聞く

さらに、私達だって一緒に戦うのだ」

 

 

“そして・・・”と、彼女が見つめるのは

中庭に座る、一人の青年の姿

 

 

 

 

「アイツが・・・“一刀”がいる」

 

 

言って、彼女は笑みを零した

 

 

「どれだけの絶望に、襲われたとしても

どれだけ深い闇に、飲まれたとしても

アイツは、なんてことない顔をしながら

私たちの前に立ち、私たちに“希望”を見せてくれるのだ」

 

「鄧艾さん、が・・・ですか?」

 

 

“うむ”と、夕

それから、彼女は思い出す

天水の街

彼と出会った頃の、あの短くも幸せだった

家族で過ごした日々のことを

 

 

 

『きっと・・・“帰ってくる”』

 

 

 

あの日

あの“墓標”の前、彼に言われた言葉を

 

 

「だから、きっと大丈夫

この国を、どれだけ恐ろしい闇が包み込もうとも

アイツならきっと、その闇を打ち払い光りを灯してくれるはずだ」

 

 

そして、彼女は笑顔を浮かべながら言うのだ

あの日

彼女自身も見た、温かな光を思い出しながら・・・

 

 

 

 

 

「あの、温かく優しい・・・“白き光り”を」

 

 

 

 

ーーー†ーーー

 

「ふぅ・・・」

 

 

白帝城内の廊下

そのように息を吐き、ゆっくりと歩く女性の姿があった

張勲こと、七乃である

彼女は現在、珍しく一人で行動していた

 

というのも、ちょっとした理由がある

 

 

 

「流石は、蜀が誇る軍師さんが造ったお城ですね~」

 

 

“お見事です”

そう言って、七乃はまた息を吐いた

 

彼女は昨日の共闘の話を聞いてから、こうやって城内を歩き回っていたのだ

目的は、共闘する蜀の現在の戦力の把握である

重要な機密がある場所は見れないが、こうして城内を歩き回り戦に備え準備する兵士の様子を眺めることは出来る

それに伴い、兵士の持つ武具、兵の練度・状態、様々な情報を彼女は見て、その脳内に仕舞っていく

 

 

「まぁ、このくらいが限界でしょうかねぇ」

 

 

やがて、その手に入れた情報を整理し

彼女は苦笑した

 

 

「やはり、思ったとおりでしたか・・・」

 

 

呟き、彼女は溜め息を吐き出した

それから額をおさえ、言葉を紡ぐ

 

 

「これは・・・思った以上に、“悪い”ですね」

 

 

“悪い”

その一言には、様々な意味が込められている

 

まず、兵の状態だ

先の合戦で、多くの兵が負傷してしまったのだ

そのどれもが、成都への進軍予定日まで完治するのが難しい程である

 

 

「まぁ、それだけなら“まだ良かったんですけど”」

 

 

彼女の言うとおり

それだけならば、まだ良かった

彼女が心配したのは、もう一つの問題である

兵の状態は状態でも、“心”の方の状態である

 

 

「あの一戦で、雷銅さん達が派手にやってくれましたからねぇ

果たして、まともに戦えるかどうか・・・」

 

 

あの一戦

雷銅が率いた“雷電兵”と、呉蘭が率いた“紅焔兵”

その軍団が劉備軍に与えたものは、単純に“兵士の被害”だけではない

彼らの“心”にも、大きなダメージを与えていた

 

“恐怖”である

 

彼女が見た限り、殆どの兵士が今回の進軍に対し“恐怖”を抱いているようだった

さらに相手は、死んだはずの男である

このことに、さらに恐怖は増しているようだ

 

これでは、いざ戦った時にまともに戦えるとは到底思えなかった

 

 

 

 

「さて、どうしたものでしょうか・・・」

 

 

呟き、また溜め息

そんな彼女の傍に、歩み寄る者達の姿があった

 

 

「あ~、七乃さんっ!

やっと見つけた」

 

「はい?」

 

 

七乃が振り返った先

其処には斗詩・猪々子、そして二人の主である麗羽の姿があった

 

 

「お久しぶりです、七乃さん」

 

「ひっさしぶり~」

 

「ああ、お久しぶりです斗詩さんに猪々子さん」

 

 

“それから・・・”と、七乃

 

 

「お久しぶりです、麗羽さん

お元気でしたか?」

 

「おほほほほほ♪

私はいつだって元気かつ、優雅でしてよ!」

 

 

“ねぇ、お二人とも”と、麗羽は笑う

そんな彼女に対し、2人は苦笑を浮かべ頷いていた

 

 

「あはは、相変わらずみたいですね」

 

「あはは、そうなんですよ」

 

 

七乃の言葉

斗詩はそう言って、溜め息を吐き出した

 

 

「そういえば、どうしたんですか?

先ほどの言葉から察するに、私のことを探していたみたいですけど・・・」

 

「ああ、そうなんですよ」

 

 

ポンと手を叩き、斗詩は視線を移した

その先にいるのは、彼女の主である麗羽である

 

 

「あの会談の時、七乃さんと美羽ちゃんの姿を見つけて

麗羽様がどうしても、七乃さんに聞きたいことがあるって言うものだから・・・」

 

 

“ですよね、麗羽様”と、斗詩

これに対し、麗羽は“そ、そうですわ”と何故か酷く言葉を詰まらせる

七乃は、そんな彼女に対し首を傾げてしまった

 

 

「私に聞きたいこと、ですか?」

 

「ええ、そそそそ、そうですわ」

 

 

“どもりすぎっす麗羽様”という猪々子の言葉

麗羽は顔を真っ赤にしながら、彼女の頭を叩いていた

 

 

「で、その聞きたいことってなんですか?」

 

「そ、それは、その・・・」

 

 

“ごにょごにょ”と、言葉を詰まらせる麗羽

七乃は、思わず苦笑してしまう

しかしやがて、意を決して麗羽は真っ直ぐと七乃を見つめ言葉を吐きだした

 

 

 

 

「み、美羽さんはお元気なのですかっ!!?」

 

 

麗羽はそう吐き出すのと同時に、顔を真赤にさせた

七乃はというと、その一言に呆気にとられてしまう

 

 

「美羽様、ですか?」

 

「え、ええ

その、どこか怪我をしたりとか、していませんか?

病気などにかかったりとかは、その、大丈夫なのですか?」

 

 

麗羽の言葉

其の隣、笑いながら斗詩が口を挟んできた

 

 

「麗羽様、ずっと美羽さんのこと心配していたんですよ

孫策さんに負けて、行方がわからなくなってからずっと

麗羽様は、時間を見つけては美羽さんを探してたんですよ」

 

「ちょ、ちょっと斗詩さんっ!!?」

 

 

斗詩の言葉

さらに顔を真赤にし、麗羽は声をあげた

 

しかし、彼女の言うとおりだった

麗羽は孫策に負け美羽の行方がわからなくなって以来、時間を見つけては美羽の情報を集めようと必死だった

ただ他の者に知られるのは恥ずかしかった為、彼女はそのことを隠し“旅行に行きたい”などと嘘をついていたのだ

そうやって彼女は、様々な場所を探していた

それこそ蜀に留まらず、魏や呉の国内もである

今回の温泉の件も、実はその為だった

まぁしっかりと温泉も楽しんできたので、同行者である白蓮らには気づかれていなかったのだが

 

其の話を聞き、思わず七乃は噴出してしまう

それから、ニコニコと笑いながら麗羽を見つめた

 

 

「それなら、直接美羽様に聞いたらいいじゃないですか」

 

「そ、それは、その・・・」

 

「麗羽様、変なとこで意地はったり恥ずかしがったりするからなぁ

どうせ恥ずかしくて声かけられないんでしょ?」

 

「ちょ、猪々子さぁぁぁぁあああん!!?」

 

 

麗羽の叫び

“図星じゃないっすか”と、猪々子は笑う

この光景に、七乃も斗詩も笑顔を浮かべていた

 

 

「けど、意外でした

麗羽さんが、そこまで美羽様のことを心配してくれていたなんて」

 

「それは、まぁ・・・そう思われても、仕方ない事ですわね」

 

 

“ですが”と、麗羽は微笑を浮かべる

 

 

 

「“家族”ですもの

心配するのは、当然のことですわ」

 

 

 

麗羽の言葉

七乃は少し驚いた後、“そうですね”と笑った

 

 

「なら、直接美羽様に会ってお話をしてあげてください

美羽様も、きっと喜びますから♪」

 

「が、頑張りますわ」

 

 

頬を赤く染め、言う麗羽

その姿に、彼女は笑みを返す

 

それから、ゆっくりと見あげた空

太陽は、ちょうど彼女の真上から

 

この優しい空間を、照らしていた・・・

 

 

 

 

 

ーーー†ーーー

 

戦の準備と言うが、そう簡単なものではない

ましてや短期での準備など、その大変さたるや言葉では語り尽せぬものがある

そのようなこと、この国の軍備などを仕切る彼女にはわかりきったことであった

 

少女の名は諸葛亮、真名を朱里

この国の軍師である

彼女は現在、慌ただしく戦の準備に明け暮れていた

“三日”という、驚くほどの短時間での準備

それを言ったのは、他ならぬ自分自身である

故に、この忙しさも予想はしていたはずなのだ

しかしいざ準備が始まってみれば、わかっていたとはいえキツイものがあった

 

 

 

「はぁ・・・」

 

 

と、朱里は息をついた

コトンと、机に置かれる筆を見つめる力も湧かない

 

 

「やっぱり、無茶だったかな・・・」

 

 

言って、彼女は首を振る

自分で言ったことを、自分が無理だというのはおかしな話だと

そう思ったからだ

故に彼女は、弱音を吐いた自信を酷く恥ずかしく思った

 

とはいえ

体に溜まった疲労までは、どうしようもない

 

 

「少しだけ、休憩しよう」

 

 

彼女はそう言って、椅子に深くもたれ掛かった

と、その時だった

 

 

「朱里ちゃん、ちょっといいかな?」

 

 

彼女の部屋の扉

その向こうから、聞き慣れた声が聞こえてきたのだ

鳳統こと、雛里の声である

彼女はそのことにすぐ気づき、姿勢を正した

 

 

「雛里ちゃん・・・いいよ、入ってきて」

 

「失礼します」

 

 

と、部屋に入ってきた雛里

彼女は僅かに微笑むと、朱里の傍まで歩み寄った

そして彼女は、持っていた書簡を差し出す

 

 

「これ、兵糧の備蓄と動員可能な兵数を纏めたもの持ってきたの」

 

「ありがとう雛里ちゃん、助かるよ」

 

 

言って、朱里は雛里からそれを受け取る

それから、すぐにそれらに目を通した

 

 

「・・・やっぱり、少し心細い感じだね」

 

 

朱里の言葉

雛里は、“うん”と力なく言った

 

 

「けれど、戦えないわけじゃない

それよりも、問題なのは・・・」

 

「兵の“心”、だね」

 

 

と、朱里

雛里はまた頷き、言葉を続ける

 

 

「あの一戦で、劉璋軍が恐ろしい技を使うってわかってから

私たちの軍の士気は、どうしようもないくらい下がり続けてる

無理もないよ

あんな恐ろしい人たち相手に、戦いを挑もうとしてるんだもん」

 

 

雛里の言葉

“そうだよね”と、朱里は溜め息をついた

 

 

「恐いよ、私も

凄く・・・恐い」

 

「朱里ちゃん・・・」

 

 

雛里が見つめる先

朱里の体は、カタカタと震えていた

そんな親友の姿を見つめ、雛里は少し時間をおき

 

やがて、その体を優しく抱きしめた

 

 

 

「大丈夫だよ、朱里ちゃん」

 

「ぇ・・・」

 

 

未だ震える朱里の頭を撫で、雛里は言葉を続ける

 

 

「私ね、知ってるんだ

どれだけ恐い闇にも、堂々と立ち向かっていける

そんな人を・・・」

 

 

 

 

『大丈夫、だった?』

 

 

思い出すのは、あの深い森の中

初めて、“彼”と出会った時の事であった

 

深い絶望の中

もう、何もかもが終わりそうな中

彼は、彼女の前に立ち

 

 

 

『俺が、守るから』

 

 

 

そして、救って見せたのだ

 

 

 

「駄目だって、そう言うことなら誰だって出来るよ

だけど、そんなの絶対に嫌だから

だから私は、“駄目”だなんて絶対に言わない

“なんとかなる”って、そう信じて頑張りたい」

 

「雛里ちゃん・・・」

 

 

朱里は、驚きのあまり言葉を失った

“変わった”と、そう思ったからだ

目の前にいる親友は、確かに変わっていた

 

“強くなった”

 

やがて、流れる沈黙の中

朱里は、気付いてしまう

体の震えが、止まっているのだ

 

 

「そう、だよね」

 

 

変わりに、彼女の体を包み込んだのは・・・温かな、想い

 

 

 

 

「なんとかなる、よね

私達なら、きっと・・・」

 

「朱里ちゃん・・・うんっ!」

 

 

手を取り合い、微笑み合う二人

もう恐怖はない

しかし、問題は山積みである

 

朱里はひとまず、手に持った書簡を見つめ

そして、考える

 

“なんとかなる”

 

その為に、自身の出来る最良の手を考える為に・・・

 

 

 

 

 

ーーー†ーーー

 

槍を手に取り、その感触を確かめる

その次に、その槍を振るい

 

やがて・・・苦笑と共に、彼女はその槍を下すのだった

 

 

 

「やはり・・・まだ痛むか」

 

 

槍を置き、彼女は腹部をおさえた

趙雲、真名を星

彼女の名である

彼女は白帝城内の中庭の隅で、自身の体の調子を確かめていた

結果は、たった今彼女が言ったとおりである

 

彼女の腹部の傷は、未だ完治とは程遠い状態であった

 

 

「しかし、戦えぬわけではない」

 

 

それでも尚、彼女は今回の進軍で武を振るうつもりでいた

前線にてその槍を振るうつもりでいた

 

 

「鄧艾殿が疑われている今、私が鄧艾殿の力にならなくては・・・」

 

 

と、星は再び槍を握った

そしてゆっくりと、今度はさっきよりも軽く槍を振るう

 

 

 

「あらあら、頑張るわね星ちゃん」

 

 

そんな彼女に向い、かけられた声

彼女は槍を振るうことをやめず、そのままで声をあげた

 

 

「何か用か、紫苑・・・それと、桔梗か」

 

 

彼女が、ちらりと見つめる先

其処には紫苑と、そして桔梗の姿があった

 

 

「用という程のことじゃないわ

ただ偶々、星ちゃんの姿が見えたものだから」

 

「なるほど」

 

 

苦笑し、そして彼女は槍を振るう手を止めた

 

 

「もう、傷はいいのか?」

 

「まだ多少痛むが、問題はない

この大事な時に、ジッとしているわけにもいくまいしな」

 

 

星の言葉

桔梗は、苦笑した

 

 

「無理はするな・・・と言っても、無理か」

 

「わかっているではないか」

 

 

と、星

桔梗と紫苑は顔を見合わせ、そして笑った

 

 

 

「しかし、今回の戦

少しでも戦力がなければ、厳しいだろう

無理をするなと言いつつも、やはり星の武には頼らざるおえないだろうな」

 

「そうね・・・」

 

 

紫苑はそう言って、眉を顰めた

そんな二人に向い、星はフッと笑みを浮かべた

 

 

「大丈夫だ、2人とも

私は、ちゃんと戦える」

 

 

“それに”と、星

その手に握った槍を、彼女は天に掲げ笑った

 

 

 

「鄧艾殿も、共に戦ってくれるのだ

我らは、絶対に負けない」

 

 

星の言葉

桔梗は、思わず“ほぅ”と声を漏らした

 

 

「鄧艾、士載

お主にそこまで言わせる程の男、なのか」

 

「うむ」

 

 

星は、満足そうに頷き言った

 

 

 

「あの方は、“光”のような御方だ

暗い暗い闇を照らす、温かな光の様な・・・そんな、御方なのだ」

 

 

 

これに対し、同意する様に紫苑は笑った

 

 

「そうね

私は少ししか話したことはないけれど・・・とても、優しい御方よね」

 

 

 

 

『本当に、それでいいの?

それが・・・“答え”だと、そう、思っているの?』

 

 

 

言って、彼女の記憶の中

あの戦いの最中、彼女の目を覚まさせた言葉が響いた

 

初めて会ったはずなのに

彼女の心を、温かな光で照らした

不思議な青年

 

鄧艾、士載

 

 

 

 

「なるほど、な」

 

 

と、そう言ったのは桔梗だった

彼女は自身の懐から、空になった空き瓶を取り出し

それを見つめたまま、小さく呟く

 

 

「光、か」

 

 

“光”

 

呟き、彼女が見つめる先

空き瓶は、太陽の光を反射し

キラキラと、光を放っていた

 

 

 

 

「お前も、闇の中にいるのか・・・なぁ、藜よ」

 

 

 

 

 

問い掛け、彼女は目を瞑った

その彼女の頬を、風は静かに吹き抜けていった・・・

 

 

 

 

 

ーーー†ーーー

 

様々な想いが錯綜する中

それでも、時間は過ぎていく

 

ゆっくりと

確実に

流れるように、過ぎていく時間

 

 

 

そして・・・やがて、その時はやってきた

 

 

 

 

 

 

「それではこれより、成都攻略の為の軍議を始めます」

 

 

朱里の言葉

それと同時に始まったのは、成都攻略の為の軍議である

白帝城内の、玉座の間

この軍議の為、皆が其処に集まっていた

 

 

「まず、今回の目的です

今回私たちは成都を目指し、成都にいるであろう劉璋軍と戦います

そして、成都を取り戻します」

 

 

と、朱里

その言葉に続き、口を開いたのは愛紗だ

 

 

「残る主だった劉璋軍の将は劉璋を除けば、黄権・李厳の2人

この二人もまた、呉蘭・雷銅と同じく特殊な技を使うようだ」

 

 

愛紗の言葉

何人かが、ゴクリと息を呑んだ

 

 

「まずは、李厳だが

この者と私たちは既に戦ったのだが、“幻影兵”という姿の見えぬ兵を率いている

李厳自身も、姿を消せるようだったな」

 

「厄介だよなぁ」

 

 

愛紗の言葉に、翠は思い出したように言った

“まったくだ”と、愛紗も腕を組んで言う

 

 

「次に、黄権でしゅ

彼も少し似たような感じなのですが・・・森の中で姿を消す、“森羅兵”という兵を率いていました」

 

 

と、愛紗に続き発言するのは雛里である

そんな彼女の言葉に、星は頷き会話を引き継いだ

 

 

「倒したら、その姿が見えるようにはなるがな

まぁ、その倒すまでが問題だろう」

 

 

星の言葉

“う~ん”と、そう言うのは七乃であった

 

 

「なんか、妙ですね

どちらも姿を消す兵士なのに・・・どうして、“幻影兵”と“森羅兵”という二つに別けたんでしょうか?」

 

「そんなの、森で使うから森羅兵

普通に消えるから幻影兵、って感じじゃないのか?」

 

 

七乃の疑問

白蓮は、そう言って苦笑する

だが朱里の反応は、少し違った

 

 

「確かに・・・言われてみたら、少しおかしいですね

“幻影兵”のように“常に姿が消せる兵”がいるのなら、“森羅兵”のように“森の中でしか使えない兵”はいらないわけですし」

 

「そうだな・・・確かに、おかしい」

 

 

愛紗もまた、その言葉に首を傾げる

“でしょう?”と、そう言うのは七乃だ

 

 

「まぁ、私の考えすぎかもしれませんが

頭の片隅に、少しでも入れといたほうがいいでしょうね」

 

 

“何があるか、わかりませんし”

この言葉には、皆が同意していた

 

そう、何があるかわからないのだ

最早、“常識”等という言葉に囚われていてはいけない

この場にいる皆が、そう考えていた

 

 

 

「今のところは森の中でしか森羅兵は使えない、という情報を信じ

その情報をもとに、進軍路を考えてみました」

 

 

と、朱里は地図を広げる

成都周辺の地図である

 

 

「森羅兵を避ける為、ここはやはり森を通らない方がいいと思うんです」

 

「ふむ、まぁ妥当な判断だな」

 

 

地図を見つめ、星は頷く

隣で、鈴々が“それなら、鈴々にも理解できるのだ”と笑っていた

 

 

「此処からなら、森を抜ければ近道なんだけど

まぁ、仕方ないよね~

蒲公英、恐いの嫌いだし」

 

「誰だって、見えない敵は嫌だろ

アタシは大嫌いだぞ」

 

 

翠は、そう言って体を震わした

その言葉には、皆が同意せざるおえないだろう

もっとも、森羅兵を避けたとして・・・幻影兵が控えているのだが

少なくとも、森の中で幻影兵と森羅兵を同時に相手にするよりはマシである

 

 

「なら、進軍路はこれでいいかな?」

 

 

桃香の言葉

皆は、同意を示すべく礼をとった

 

しかし・・・

 

 

 

 

 

「ちょっと、待って」

 

 

 

 

その言葉を聞き、場はにわかにざわついたのだった

 

 

集まっていく視線

その中心にいたのは、白き青年

鄧艾こと、一刀である

 

彼は集まった視線をそのままに、地図を見つめたまま小さく呟く

 

 

 

「幻影兵と森羅兵・・・その二つがもし、成都城の目前で待ち伏せていた場合

二つの“見えない敵”と、同時に、戦うことになる」

 

「鄧艾殿

話を聞いていましたか?

いや、貴方の場合は黄権から直接聞いていたのでしょう?

森羅兵は森の中でしか使えないと・・・」

 

「もし仮に、成都周辺に“森羅兵”が出現したとしたら・・・どうする?」

 

「・・・え?」

 

 

一刀の言葉

朱里は、言葉を失った

 

 

「それは、どういうことですか?」

 

「森羅兵は、“木々に同化する様に、姿を消していた”

だから、森じゃなくてもいい、んだと、思う

木々が適度に生えている場所なら、たぶん、使えるはず」

 

「そういえば、成都周辺には確かに・・・森とは言わずとも、木々の生い茂った道が続いてます」

 

 

ハッと、朱里は息を呑んだ

その様子を見つめ、一刀は言葉を続ける

 

 

「見えない兵を同時に相手して、さらにそれを率いる将も相手にする

劉璋に辿り着く前に、ボロボロになるかも、しれない」

 

「ふむ・・・」

 

 

愛紗は、少し感心したように腕を組む

様々な可能性を、考えなければいけない

そんな中のこの発言に、愛紗をはじめ多くの者が森羅兵に対する認識を改めた

 

 

「確かに、これは少し不味いかもしれんな」

 

 

と、そう言って前に出るのは桔梗だ

 

 

「鄧艾殿の言う話もあるが

あの二人を知る儂から言わせてもらえば、この二人は“同時に相手してはいけない敵”でもある」

 

「そうね、この二人を同時に相手するとなると

こちらも相当の被害を覚悟しなくてはならないわ」

 

 

桔梗に続き、紫苑はそう言って苦笑する

その言葉に、朱里は口を開いた

 

 

「どういうことですか?」

 

「なに、単純にこの二人は“戦術・軍略が素晴らしく噛み合う”のだ」

 

 

“性格は噛み合わんくせにな”と、桔梗

彼女はそれから、頭を掻き溜め息をつく

 

 

「連携が上手く、この二人が率いる軍はさながら“巨大な龍”の如く

我らでも、この二人の軍の統率力には敵うまい」

 

 

桔梗の言葉

朱里は、“それは”と表情を強張らせる

 

 

「不味いですね」

 

「そうだな・・・」

 

 

“どうしたものか”と、愛紗

そんな彼女のすぐ、向かい側

先ほどから地図を眺めていた一刀が、ゆっくりと口を開いた

 

 

「だったら、別々に戦えばいい」

 

「なに・・・?」

 

 

再び、集まっていく視線

一刀は、地図を指さし言うのだ

 

 

 

 

「“森を迂回する軍”と“森を突き抜ける軍”

二手に別れて、成都を目指す・・・それが、いいと思う」

 

 

 

 

ザワリと、皆は動揺を隠すことなく

其の場は、異様な空気に包まれた

 

 

「二手に別れる、だと?

鄧艾殿、正気か?」

 

 

愛紗は、驚きをそのままに言葉を吐いた

距離をつめ、一刀を見つめたままさらに言葉を吐きだしていく

 

 

「ただでさえ、我らは手負いが多い

兵力も少ない

それを、二つに別けるなど・・・無謀すぎる」

 

「だけど、そうしないと

“幻影”と“森羅”は、別れてくれない」

 

「それは・・・」

 

 

愛紗は、言葉を詰まらせた

“そうかもしれない”と、そう思ったからだ

それは、他の者も同じだった

 

 

「二手に別れて、敵を各個撃破

そして、成都で合流する

上手くいくのなら、確かにこっちの方がいいだろうな」

 

 

夕は、腕を組み言った

その言葉に、祭は“うむ”と頷く

 

 

「仮に、どちらかに二つの軍がいたとしても

もう一方は、ガラ空きの成都に進軍できるか

しかし・・・これは、賭けじゃな」

 

 

“賭け”

確かに、そうだった

これは賭けだ

己が運命を賭けた、戦いだった

 

 

 

「朱里ちゃんは、どう思う?」

 

 

不意に、桃香はそう言って己の軍師を見つめた

その瞳は、微かに揺れている

対して、己の主の言葉に・・・朱里は、グッと拳を握り締め言う

 

 

 

「二手に、別れましょう」

 

「っ!!」

 

 

 

朱里の言葉

それは、彼女達の運命を決する決断

彼女は、この言葉に全てを賭けた

 

 

「森を迂回する軍・・・“第一軍”は、桃香様を総大将とし

軍師には私と、詠さんの力もお借りしましょう」

 

「僕が?」

 

 

“まぁ、いいけど”と、詠

その隣では、月が心配そうに親友のことを見つめていた

 

 

「森を突き抜ける軍・・・“第二軍”は、白蓮さんが率いてください」

 

「わ、私がっ!?」

 

 

驚き、声をあげる白蓮

そんな彼女を諭す様、朱里は言葉を続けた

 

 

「この中で桃香様以外に総大将を務めることが出来るのは、白蓮さんしかいません」

 

「いや、いるだろ!?

愛紗とか、翠とか・・・」

 

「2人は“戦場で武を振るってこそ力を発揮します”

確かに総大将としても働けるでしょうが、今回に関しては“前線の戦力”を減らすことは出来ません

状況を把握し、兵を動かし、臨機応変に対応できる

そんな人は、白蓮さん以外にはいません」

 

「う、うぅ・・・そこまで言われたら、やらないわけにはいかないじゃないか」

 

 

言って、白蓮は苦笑した

“ありがとうございます”と、朱里は頭を下げる

 

 

「軍師には、雛里ちゃんと音々さんをつけます」

 

「うん、わかったよ朱里ちゃん」

 

「任せるのです!」

 

 

雛里と音々

2人の返事を聞き、朱里は“あとは”と声をあげる

 

 

「従軍する将兵の分配ですが・・・」

 

「儂は、第二軍に行こう」

 

 

朱里の言葉

遮るように、桔梗は声をあげた

 

 

「第二軍のほうが、黄権が率いる森羅兵が待ち構える可能性が高いのだろう?

奴のことならば、儂は“此処にいる誰よりも知っている”」

 

「桔梗さん・・・わかりました

お任せします」

 

「なら、私は第一軍の方がいいわね

李厳のことなら、他の人よりは知っているはずだし」

 

 

そう言って、紫苑はニッコリと笑みを浮かべる

そんな彼女に続くよう、蒲公英は元気よく手をあげた

 

 

「私たちも、第一軍のほうがいいよね?

森の中じゃ、上手く戦えないし」

 

「だな」

 

 

蒲公英の言葉

翠は、そう言って笑う

 

 

「私も、第一軍で戦いたい

李厳には、大きな借りがあるしな」

 

「にゃ~、鈴々もなのだ!

今度こそ、突撃!粉砕なのだっ!」

 

 

次いで、愛紗と鈴々も第一軍に立候補した

この二人は恐らく、先の一戦の借りを返したいのだろう

朱里は、そんな二人に対し“では、お願いします”と頷き言った

 

それから、見つめたのは・・・一刀だった

 

 

 

 

「鄧艾さんは、どうしますか?」

 

「俺は・・・」

 

 

言い掛けて、彼は振り返る

其処にいたのは、彼の家族である

彼はその姿を見つめ、小さく呟いた

 

 

「俺たちも、二手に別れよう」

 

 

一刀の言葉

いち早く反応したのは、七乃である

 

 

「そうですね

私たちは言ってしまえば“経験者”ですし、多少なりとも“常識外れ”な事態にも対応できますしね」

 

「うむ、確かにのう

儂らは、別れる方がいいじゃろうな」

 

 

“して・・・”と、祭

 

 

「一刀よ

お主は、どちらに行くんじゃ?」

 

 

祭の言葉

彼は迷うことなく、言葉を吐いた

 

 

「俺は、第二軍に行く・・・」

 

「ほう・・・理由は?」

 

 

“理由”

それを聞かれ、彼は僅かに笑みを浮かべる

 

 

 

「負けっぱなしは・・・嫌、だから」

 

「ははっ、なるほどな」

 

 

夕は、そう言って笑った

つられ、皆も笑う

 

 

「なら、私は第一軍に行こう

雷銅から貰った“力”も、役に立つかもしれんしな」

 

「妾は、勿論一刀と一緒じゃ!」

 

「ふむ、ならば儂は夕と行こう」

 

 

やがて、視線は七乃に集まった

彼女はしばし腕を組み、何かを考えているようだった

それから、“そうですねぇ”と彼女は未だ悩んだような声で言う

 

 

「私は、第一軍に行きましょう」

 

 

この発言

思わず、祭は“なんと”と声を漏らした

 

 

「お主の口から、美羽がいる方とは違う軍の名が出るとは」

 

「ちょっと、祭さん

それ、どういう意味ですか?」

 

「そのままの意味じゃよ」

 

 

祭の言葉

七乃は苦笑しながらも、“まぁ、そう思われて当然でしょうけど”と零した

 

 

 

「一刀さんが一緒なら、美羽様も大丈夫でしょうしね

それに、さっきからずっと気になってることがあるので」

 

「もしかして、さっき七乃が言ってた“幻影兵と森羅兵の違い”の話か?」

 

 

夕の言葉

七乃は、“そうです”と頷いた

 

 

「考えすぎならば、いいんですけど

万が一ってこともありますから、幻影兵と衝突する可能性の高い方にいたいんです」

 

「なるほど、な」

 

 

ともあれ、これで決まった

一刀は、皆を見つめ“よし”と頷いた

 

 

 

「皆・・・絶対、勝とう」

 

「勿論なのじゃっ!」

 

「ふっ、愚問だな」

 

「うむ」

 

「頑張っちゃいましょう♪」

 

 

 

 

 

そして、この日

運命を決める軍が、編成されたのだ

 

 

森を避け、成都を目指す第一軍

【第一軍】

総大将:桃香

軍師:朱里、詠

将軍:愛紗、鈴々、翠、蒲公英、紫苑、麗羽、斗詩、猪々子、夕、祭、七乃

 

 

森を突き抜け、成都を目指す第二軍

【第二軍】

総大将:白蓮

軍師:雛里、音々音

将軍:桔梗、焔耶、恋、星、美羽、一刀

 

 

出来上がった二つの軍

両軍は同じ日、成都での再会を約束し

 

そして、それぞれの戦場を目指し

その足を、進めるのだ

 

 

 

 

そして、時は戻り・・・“現在”

 

ーーー†ーーー

 

森の中

進むのは、白蓮率いる第二軍である

第一軍に比べ、この軍は将が少ない

しかし、その代わりこの軍にはそれらを補えるほどの“武”が存在する

 

その名は、“呂布”

真名を恋である

 

まだ乱世が始まったばかりの頃

黄巾の乱において、万の兵をたった一人で屠ったという

まさに、“三国一の強者”である

 

 

 

「・・・!」

 

 

そんな彼女が、不意に感じた“違和感”

やがてそれは、彼女の足を止めるまでに至った

 

 

「どうした、恋?」

 

「白蓮・・・気を付けて」

 

「え?」

 

 

“気を付けて”

言いながら、彼女は自身の武器である方天画戟を構えた

その姿を見ただけで、これは只事ではないと理解出来る

 

 

「おい、恋!

いったい、何が起こったんだ!?」

 

 

剣を抜き、叫ぶ白蓮

そんな彼女に対し、恋は静かに

淡々とした口調で、こう言ったのだ

 

 

 

 

 

「囲まれてる・・・それも、凄い数に」

 

 

 

 

 

成都を取り戻す為の戦い

その火蓋が、早くも切って下ろされたのだった

 

 

 

 

・・・続く

 

 

★あとがき★

 

皆さん、こんにちわ

月千一夜です

 

遥か彼方、蒼天の向こうへ

二章二十二話、いかがだったでしょうか?

 

いよいよ、成都を取り戻す為の戦いが始まります

次回は早くも、森での戦闘

 

では、またお会いする日まで


 
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