No.58158

ばれんたいんでー大作戦! in 魏 前編

DTKさん

バレンタインデーと言うことで、魏を舞台に一本書いてみました。
そこまで長くはないのですが、前後編に分けました。

時間がありましたら、是非読んでみてください^^

2009-02-15 00:32:06 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:17690   閲覧ユーザー数:12287

俺が華琳たちの元に帰ってきてから、早幾月

 

全てが元通りになり、華琳たちと何は無く、平和に暮らしている。

…………まぁ、結構忙しいんだけどね。

 

 

 

本当に毎日が充実している。

俺が元いた世界(みんなに合わせて、以後は天界と呼ぶことにする)では、考えられないことだ。

 

そんな忙しい合間

たまの休日を、俺は庵でみんなとお茶、と洒落込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

「――へぇ~…ここらへんには、そう言うお祭りとか行事があるんだねぇ」

「そうですね。中でも一番大きな行事は、この前の春節です。大陸をあげてのお祝い事ですから」

 

今、流琉が言った『春節』と言うのは、正月のことだ。

天界の日本以上に、正月は盛大にお祝いをした。

 

「で~、隊長の国ではどんなお祭りがあるの~?」

「あ、それはウチも知りたいわ」

「私も……」

 

三人に促されて、天界のお祭りや行事を頭に浮かべる…

 

「そうだな……春節はやっぱり祝うし、今は二月だから節分かな?」

「節分~?」

 

風が首をかしげる。

 

「簡単に言えば、邪気を祓う行事なんだ。一年間無病息災でいられるようにってね」

「なるほど~そですか~」

「うん。後は……あっ、そう言えばバレンタインデーがあったな」

 

縁が無かったから、すっかり忘れてた。

 

「「「ばれんたいんでー?」」」

「兄様、何ですか、それは?」

 

耳慣れない言葉に、皆は興味を示す。

 

「そうだな……天界の行事みたいなものの一つで、女の子が意中の男の子に『チョコ』っていうお菓子をプレゼントして、気持ちを伝える……って言う日かな?」

「ねえねえ兄ちゃん!その…ちょこ?って、美味しいの!?」

 

案の定、チョコに食いついてきた季衣。

食べ物のこととなると、目の色を変えるところは相変わらずだ。

 

「うん。甘くて、かなり美味しいよ」

「いいなぁ~……ねぇ流琉!ちょこ作ってよ!!」

「そんな簡単に言わないでよ……で、兄様?ちょこの材料や作り方とか、分かりますか?」

 

料理好きの流琉は、かなりチョコが興味があるようだ。

俺が天界の料理を教えるたび、新しい発見に目を輝かせているからなぁ…

ただ…チョコか。

チョコはなぁ……

 

「材料、か……カカオは、ここにはないよな…?」

「かかお…ですか?……う~ん、ちょっと聞いたことないですね……風さんは、どうですか?」

「う~ん……ちょっと、聞いたことありませんねぇ…大陸にはないんじゃないですか、お兄さん?」

 

大陸各地を周った風が聞いたことがないのでは、恐らく大陸にカカオはないのだろう。

 

「多分そうだろうな。結構、南の方の植物だからな」

「それは、南蛮よりも南なのですかー?」

「う~ん、また違う大陸の、南の方かな?この大陸には、自生はしてないと思うよ」

 

南蛮よりも南と言うと、天界で言う東南アジアだ。

確か、カカオが取れるのは東南アジアでもインドネシアとかだったはず。

ハッキリと覚えてないけど……

 

「それでは、ちょこは作れないのですか?」

「さすがのウチも、作物までは作れんからな~…」

「えぇ~~!それじゃ、ばれんたいんでー出来ないの~!?」

 

凪・真桜・沙和が、めいめいに口を開く。

 

「いやまぁ、別にチョコがなくても大丈夫だよ。別のお菓子やメッセージカード、何か他にプレゼントとかでも、確か良かった……はず」

 

貰ったことないから分からないけど……

 

「それで隊長。そのばれんたいんでーは、一体いつ行われるものなんですか?」

「う~ん……と」

 

一応、この世界にも暦はある。

月の満ち欠けで、満月が大体15日だ。

その前の日14日は、幾望とか小望月と呼ばれている。

でもまぁ……満月の日のほうが、切りがいいかな?

 

「え…っと、今度の満月の日、かな?」

「次の満月って言うと……後ちょっとなの!!」

 

昨日が、ちょうど上弦の月の日だった。

上弦の月が、大体7,8日になる。

月が基準の暦だと、結構いい加減なんだけどね。

 

「こうしちゃいられないの!凪ちゃん、真桜ちゃん、行くの!!」

「おうよ!」「……(コクッ)」

「隊長、じゃあねなの!!」

 

そう言うと三人娘は、疾風の如く、街の方へと走っていった。

 

「三人とも、仕事熱心ですねぇ~…」

「……あれは、仕事をしに行ったのか?」

 

風の呟きに、一応突っ込んでおく。

多分違うよな……

 

「それじゃ私も、少々用事を思い出したので、これでー」

「あれ?今日、風って非番じゃなかったっけ。何かあるのか?」

「おうおう兄ちゃん!女の用事を聞き出すってのは、野暮ってもんだろうよ!」

「そうですよ。お兄さんはスケベですね~」

「スケベじゃないよ!?」

 

……まぁ、否定は出来ないけどさ?

 

「でわ~~」

 

と、風は三人とは反対に城の方へ帰っていった。

すると、風と入れ替わりで、流琉と季衣が寄ってきた。

 

「えっと…兄様?その、ちょこの作り方を教えてもらいたいんですけど…」

「えっ?」

「材料が手に入らないものでも構いません!その、何かの手がかりになればと思いまして…」

「兄ちゃ~ん……」

 

二人にすがられる。

詳しくは、俺も良く知らないんだけどな……

しかし、季衣と流琉にこう言われては、俺も黙っているわけにはいかない!

持てる知識を、全て流琉に託すんだ!!

 

 

………………

…………

……

 

 

「ありがとうございます、兄様!」

「ありがとう兄ちゃん!これで、ちょこが食べられるんだね、流琉!!」

「まだ分からないわよ。う~ん……問題は『かかお』と『ばたー』の代わりをどうするかよね……あ、それじゃ失礼しますね、兄様」

「じゃあね~~」

 

流琉と季衣は街の方へ、恐らく食材を探しに、行った。

 

 

……

…………

そして、誰もいなくなった…

 

 

「………………」

 

 

その日、俺は寂しい休日を過ごした……

 

 

「失礼しますー」

 

と、風が玉座の間に入ってきた。

私は春蘭と秋蘭、それに稟と軍議、と言ってもちょっとした雑談、をしている最中だった。

 

「どうかしたの、風?」

 

稟が風に尋ねる。

確か今日、風は非番のはずだと思ったけど……

 

「いえー、少々華琳さまたちのお耳に入れておいた方が良いと思うことがありましてー」

「なんだ、何かあったのか?」

「えぇまあ」

「それは重要なことなのか?」

「それはもう」

 

春蘭と秋蘭の問いに、大仰にうなずいて見せる風。

 

「そこまで言うなら言ってごらんなさい、風」

「はいー。実はですね、先ほどお兄さんとみんなでお話してたんですよ~」

「一刀と?」

 

一刀も、今日は非番だったはず。

恐らく、休みの娘や昼休みの娘を引っ掛けて、お茶でもしていたのでしょう。

一刀のやりそうなことだわ。

 

…………

 

……ちょっとムカつくわね。

 

「でですねー、そこで天界の行事の話になりまして、何でも『ばれんたいんでー』なるものがあるとか…」

「何っ!『馬恋隊出ー』だと!!翠と恋が攻めてくると言うのかっ!」

「……姉者」

「お、おう?」

「少し黙っていてくれ」

「う、うむ……」

 

春蘭がおかしな勘違いをしたのを、秋蘭がたしなめる。

相変わらず、素晴らしい姉妹だわ…

 

「風、続けて」

「はいー。そのばれんたいんでーですが、何でも、女性が意中の男性に気持ちを伝える行事だとか……」

「なんとっ!」

「…ふ~む」

「天界にはそのような行事が……」

 

みな、三者三様の驚きを見せる。

私も驚きを禁じえない。

天界には、そのような催しがあるなんて……

 

「気持ちを伝える方法と言うのがですねー……」

「ふむ、ふむっ!どうすればよいのだ!?」

 

春蘭が鼻息を荒くする。

意中の相手は……一刀、かしら!??

 

「えぇ、何でも『ちょこ』なるものを贈るそうでー…」

「何?『猪口』だ~!?そんなものを贈るのか?」

「春蘭さま……恐らく何か勘違いを…」

 

稟が何かを悟って、春蘭をたしなめようとする、が…

 

「そうかそうか!やはり猪口を贈れるほど強い女と言うのを、天界の男は望んでいるのだな!」

「いえ、ですから……」

「こうしてはおれん!すぐに猪を狩って猪口を獲ってこねばっ!!」

 

と、猪を狩りに、春蘭は玉座の間を出て行った。

 

「待て、姉者!恐らくそれは違うぞ!! 姉者!姉者ーー!!!」

 

と、春蘭を止めに、秋蘭も続いて出て行った。

 

 

……

…………

………………

 

 

「……風」

「は~い。でですね、ちょこと言うお菓子を贈る、と言うのが本来のばれんたいんでーなのだそうですが、お兄さんの話によると、どうやらちょこの材料が、この大陸には無いらしいんですね」

「そ、そうなの…」

「はい。ですが、他のお菓子や何か贈り物とかでも良いそうなのです」

「ずいぶんいい加減なのですね。その、ばれんたいんでー、とやらは…」

 

稟が呆れ気味にため息をつく。

 

「まぁ、お兄さんの国の行事なんて、そんなものでしょー」

「「…………」」

 

ごめんなさい、一刀。ちょっと否定できないわ……

 

「それで風?その、ばれんたいんでーが何だというの?」

「お兄さんの話によると、二月の満月の日が、ばれんたいんでーだそうで…」

「そうなのですか……というと、数日後ですね」

「そう言うわけで話を聞いた皆さん、目の色を変えて方々へ行かれましたよ~、と華琳さまにお伝えしに来たのですー」

 

…………

 

「それが私に……何か、関係があるの?」

「いえいえ~、ちょっとした小話といいますかー、しがない軍師の呟きとでも思ってください~」

「……そう。とりあえず頭に置いておくわ……ちょっと私は部屋に戻るわ。稟、後は任せるわよ」

「御意!」

 

稟に後事を任せ、私は玉座の間を出た。

 

 

………………

…………

……

 

 

「ふふふ……華琳さま、なかなか動揺していたようですねー」

「風…自らの主君を試すような真似は、慎んだ方が良いのでは?」

「おやおや~、その主君に対して色々と突っかかっていた稟ちゃんの言葉とは、とても思えませんねぇ」

「そ、それは……」

「さてさて、稟ちゃんは放っておいて、私も動きますかね~」

 

 

……

…………

………………

 

 

 

ばれんたいんでー……

そのようなものが…数日後にあるなんて……

 

私は、作りかけの『それ』を手に取った。

 

「どうしようかしら……これ…」

 

 

「服なの!」

「絡繰や!」

「料理だ!」

 

私たち三人は、真剣に議論を交わしていた。

ばれんたいんでーに、隊長に何を贈るかで、だ。

 

「元々が、ちょこなる価値を贈るの行事なのだろう?ならば、ちょこは作れずとも、何か別の菓子であるとか、手作りの料理を作るのが、当然ではないか?」

 

私は正論を唱える。

 

「甘い!食うたこと無いけど、ちょこ並に甘々や、凪!」

「そうなの!!」

「な、何故だ!?」

「よう考えてみぃ。あの場には流琉もおったんやで?ちょこその物はつくれんでも、何か別の物を作るに決まっとる!」

「それは……」

「流琉ちゃんと料理で競って、敵うわけないの!」

「別に勝ち負けを競っているわけでは…」

 

こういうのは気持ちの問題で……

 

「そこが甘い言うてんねん!みんなが何かを隊長に贈るんは目に見えとる。そうなったとき、隊長をドカンと驚かせるような、何かが必要なんや!!」

「そうなのそうなの!!」

「し、しかし……」

 

言うことは分からんでもないのだが……

 

「しかしも案山子もあらへん!料理は却下や!」

「2対1なの!」

 

数の暴力とは、本当によく言ったものだと、今思う……

 

「せやから、ちょこの代わりに、何か絡繰を…」

「違うの!服なの!!」

 

二人は丁々発止のやり取りをする。

多数決で決めようにも、二人は自分の主張を変えないし、私はどちらに加担する気もない。

と言うわけで、決着は議論に持ち込まれるわけだが……

 

「絡繰って言っても、真桜ちゃん、何か案でもあるの!?」

「う゛っ……そ、それは…」

「もう、何か考えるような、そんな時間は無いの!」

 

確かに、沙和の言うことは尤もだ。

だからこそ、少しの試行錯誤で出来る、料理が良いと思うのだが……

 

「絶対、服が隊長に喜ばれるの!!隊長は、大体いつもあの微妙な白い服しか着てないのっ。それは他に服が無いからなの!!」

 

…………

 

「沙和……結構お前、酷いこと言うんだな…」

「ん…まぁ、沙和がそこまで言うんなら、隊長への贈り物は服にしよか」

「やったの!!」

 

沙和が飛び跳ねながら喜ぶ。

そんなに嬉しかったのか……

 

「しかし沙和?」

「なんなの?」

「さっきも言うてたけど、隊長がビックリするような品じゃなきゃアカンわけや」

「なの」

「服って、そんなに驚くようなもんかいな?」

 

確かにそうだ。

服といっても種類は多いが、そこまで人を驚かせるようなものがあるとは……

 

「ふっふっふっふ……」

「な、なんや、沙和?やっぱり、おかしくなったんか?」

「やっぱりってなんなのっ、やっぱりって!」

「いやまぁ、それは置いておいて……何か、考えでもあるのか、沙和?」

「ふっふっふ……私に秘策あり、なのっ!」

 

 

私は供回りを連れずに、街へ繰り出していた。

 

平和になったとは言え、王たる私の身には危険が付きまとう。

街に私の顔を知っているものは少なくないが、王は供も連れずに街を出歩かない、と言う一般常識が、私を助けていた。

 

三国同盟がなって以来、たまの政務の合い間を縫っては、こうして街に繰り出している。

街の様子を一個人として見られると言うのもあるが、自分の買い物を自分で出来ると言うのが、何より嬉しい。

 

 

今日は『アレ』の材料が切れたので、買い足しに来ていた。

 

「色は…どうしようかしら……」

 

と、そこへ、通りの向こうから賑やかに沙和たち三人娘がやってきた。

私はつい物陰に隠れ、三人の様子を伺った。 

 

 

 

 

 

 

「で沙和、秘策があると言っていたが。隊長にどのような服を、ばれんたいんでーに贈るのだ?」

「ふっふっふ……これなの!!」

 

と、沙和が手に取ったのは、何やら変な印が入った服だった。

 

「なんや、このけったいな、桃をひっくり返したような印は?」

「これは隊長の国の印で『はーとまーく』っていうものなの」

「「はーとまーく?」」

 

また不思議な響きの言葉だな。

 

「そうなの。天界でこの印は『愛してる』って意味なのっ!」

「「おおっ!」」

「よう知っとるな、沙和!」

「まぁ、元々は隊長が張三姉妹に教えて、歌とか興行に使って、それが広まったらしいの」

「…なるほど」

 

そう言えば最近、街でもたまに見かけると思ったら、そう言うことだったのか…

 

「最近では、その形が真桜ちゃんの言うように桃に似ていることから、桃源郷を連想させ、平和の印としても、使われているそうなの」

「と言うことは、この印は愛と平和を表しているわけだな」

「そういうことなの!!」

「なるほどなぁ~…隊長に贈る服の柄としては、最適っちゅーわけや」

「確かに……愛と平和は、隊長が最も尊ぶものだからな」

「だ~か~ら~!この柄が入った服を、四人お揃いで着るの!!」

「「…………」」

 

四人?

 

「ちょっ…沙和。四人ってどういうことやねん!」

「え?だから、隊長と沙和、凪ちゃんに真桜ちゃんの四人で、お揃いの服を買うのー!」

 

沙和が機嫌良く手にしている服には、前と後ろに大きく、桃色のはーとまーくがあしらわれた……中でも一際目立つ服だった。

 

「ねっ?ちょーカワイイの~♪」

「そ、そないに恥ずかしい服、ウチは着ぃへんで!」

「わ、私も、それはちょっと……」

 

さすがにこれは、恥ずかしすぎる……

 

「えぇ~、絶対これがいいの~!隊長とお揃いだよ~?」

「いや、さすがの隊長も着ないと思うけどなぁ?」

「……(コクコクッ)」

 

 

 

………………

…………

……

 

 

 

 

 

なるほど……あの三人は、ばれんたいんでーに服を、一刀に贈るつもりなのか……

……それにしても

 

「はーとまーく、か……」

 

その日、私は桃色の材料を購入した。

 

 

その後も、乙女たちの奮闘は続いた。

 

 

 

厨房では、流琉が闘っていた。

 

「ねぇ流琉~?ちょこ、まだ出来ないの~~?」

「そんな簡単に出来るわけ無いでしょ!? えーと……牛乳を煮詰めて……」

 

……

…………

 

「ねえー、るーるー……」

「うるさいわね!そんなに言うなら、季衣も手伝いなさいよ!!」

「えぇー……ぼら、ボクは食べるの専門だし~」

「――っ、もう!」

 

再び鍋と向き合う、流琉であった……

 

 

その報せは、彼女らの元には遅れて聞こえた。

 

「ねぇねぇ!ちょっと大変よ!!」

「ん~~?どうしたの、地和ちゃん?」

 

そこは、今や大陸全土のアイドルとなった、数え役萬☆姉妹の楽屋。

この日の興行を終え、天和と人和が休んでいたところに、地和がアイドルらしくなく(?)ドタドタと楽屋に駆け込んできた。

 

「だから大変なのよ!今、風からの急ぎの文が届いたんだけど……」

 

 

………………

…………

……

 

 

「ふむ、なるほど……」

「みんなだけズールーイー!!お姉ちゃんも、ばれんたいんでー、やーりーたーいーーー!!!」

「私たちがいない間になんて、卑怯よね!……人和、どうにかならないかしら?」

 

スケジュール・活動運営、その他諸々を一手に引き受ける末女に、姉二人は判断を仰ぐ。

人和は脳内で、今後の日程について考えを巡らせる。

 

「う~ん……多少無理をすれば、ばれんたいんでーの日までに、許に行けないことはないけど…」

「分かったわ!それじゃ、今すぐ行くわよ!!」

「あーん、待ってよ地和ちゃん!私も行くーー」

 

バタバタと部屋を出て行く、天和と地和。

部屋にひとり残された人和。

 

「ふぅ……やれやれ」

 

と、呆れながらも、その顔には少しの笑みが見て取れた。

 

 

「んふふ……面白くなってきましたねー」

 

風は一人、廊下で笑っていた。

華琳を(ついでに春蘭も)焚きつけ、張三姉妹には文を送った。

 

「これで、ばれんたいんでーは、面白くなりそうなのですよ~」

「何が面白くなりそうなの、風?」

「おぉ?」

 

風が振り向くと、そこには稟が立っていた。

 

「稟ちゃんでしたか。ちょっとビックリしましたよ~?」

「そうは見えなかったけど?……全く、聞いたわよ。張姉妹に文を送ったそうね」

「さすがは稟ちゃん。耳が早いですねぇ~」

「どういうつもり?風にとっては、相手が少ないほうが良いのではなくて?」

 

そう。一刀に想いを寄せる風にとっては、周りに知らせるのが良策なはずは、決してないのだが……

 

「いえー、そこはほら、お兄さんですからー?」

「…………」

「賑やかな方が、きっとお兄さん好みだと思うのですよー」

「……否定できないのが一刀殿、なのかしらね…」

 

メガネをクイッと上げながら、稟は呆れるように喋る。

 

「ところで風。あなたは、一刀殿に何を贈るの?」

 

当然の疑問だろう。

周りを焚きつけておいて、自分のプレゼントを用意していないはずは……恐らくない。

 

「いえ、形あるものは他の娘が贈り尽くすと思うのでー……私はいつも通りなのですよ?」

「ふ、ふむ?」

「では、私が準備があるのでこれでー」

 

風はスルスルっと、廊下の奥へ消えていった……

 

 

そこは、とある森の中……

 

「猪は……猪口はどこだーーー!!!」

 

春蘭の周りには、多くの熊やトラが横たわっていた。

はやる春蘭が、猪と間違えて打ち倒してしまった、いわば完全なる被害者(?)だ。

一応、呼吸はしているようなので、生きてはいるようだが……

 

「だから姉者……それは違うと…」

「分かっているさ、秋蘭。猪口は二人からのぷれぜんと、ということにすれば良いのだ」

「いや、だからだな……」

 

いつもは何とか御せる姉だが、今回ばかりは秋蘭もなかなか止めきれない様子だ。

 

 

と、その時だった!

草むらからワッと飛び出してきたのは、十尺はあろうかと言う、非常に大きい猪だ。

 

「おおっ!遂に見つけたぞ、猪め!大人しく猪口を渡すがいい!!」

 

殺気を放つ春蘭に気付いたのか、猪側も春蘭をじっと見つめ、足を掻く。

…やる気は満々らしい。

 

「ふっ……どうやら、なかなかに出来そうだ……秋蘭、援護を頼めるか?」

「やれやれ…分かったよ、姉者」

「秋蘭の援護があれば、負ける気はせん!……行くぞ!!」

「応っ!!」

 

春蘭・秋蘭姉妹による猪狩りが、今、幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

華琳は、必死になって『それ』を作っていた。

もう少しゆっくりと作るつもりだったのだが、バレンタインデーに合わせて、一刀に贈ろうとしているため、かなりのオーバーペースになっている。

ちょっとした政務の合い間

あるいは、夜寝る間を惜しんで……

 

「もう少し……もう少しで、完成するわ…」

 

華琳の奮闘も、あと少しで報われるところまで来ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「と言ったわけで、続きはばれんたいんでー当日なのですー」

「何を言っているの、風?」

 


 
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