No.571927

ドキドキと、魔法

紅羽根さん

『ドキドキ!プリキュア』と『おジャ魔女どれみ16』のクロスオーバー二次創作です。
「キュアソード(まこぴー)とおんぷちゃんが似ている」という意見からふと膨らんだ妄想を形にしてみました。
第10話でまこぴーがマナ達の学校に通う事を決意した理由、それは――

2013-05-01 20:51:30 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:2227   閲覧ユーザー数:2202

 色とりどりの幾つものライトが私を照らしている。ライトはスタジオの中に鳴り響く音楽に合わせて色を変え、カメラで映される私の印象を変える。

 ライトや音楽による彩りに応え、私は歌う。強く、はっきりと、あの人に届くように。

 だけど――

「――あっ」

 気がついたら、私は一瞬歌を途切れさせてしまった。

「カメラ止めまーす」

 ADの人の合図でスタッフが一斉に動き出し、各々のチェックを行う。

 やってしまった。ここ最近は失敗しないように気を張っていたのに、数日前から調子が上がらない。

 あの子達と共にトランプ王国に行った日から。

「どうしたの、真琴ちゃん。何かいつもの調子じゃないみたいだけど」

「ごめんなさい」

 この音楽番組でMCを務めている芸人の人が心配そうな表情で声をかけてくれたけれど、私は表情を変えずに謝るしかなかった。

 調子が上がらないのは私が抱えている私自身の問題があるからだ。心配してくれているのはありがたいけれども、これは私が解決しなければいけない。

 だけど、どうすればいいのだろう。

 あの子達――相田マナ達と一緒に、王女様を探しつつジコチュー達と戦い続けるには。

 

 数日前、私――剣崎真琴は仕事でマナの家のレストラン『ぶたのしっぽ』に行った。そこで私はマナ達から大切な事を教わり、彼女達に自分がキュアソードである事を明かした。

 しかし直後にジコチューの手によってトランプ王国に飛ばされてしまい、そこでマナ達にトランプ王国の現状と私が何故今までジコチューと戦ってきたかを明かした。彼女達は私に協力してくれると誓い、私もそれをひとまずは受け入れた。

 だけれども不安は新たにやって来た。彼女達と出会うまで、マナがキュアハートとして戦う事になるまで、私はずっとダビィとたった二人で王女を探し続け、ジコチューと孤独な戦いを続けていた。

 その気負いもあって一時は彼女達の協力を拒んでいたけれども、今はそれを受け入れようと思っている。それでも、不安がある。

 あまり強く言ってきたつもりはないけれど彼女達は快く私を受け入れてくれるのだろうか……いえ、違う。

 私が、彼女達を受け入れる事が出来るだろうか。

 

「一時間休憩を取りまーす」

 気がついたら、ADが休憩の合図を出していた。後でダビィに聞いてみたら、どうやら音響機材に不調があったらしくそれで少し時間をかけて点検してみたそうだ。

 だけどその時の私は、収録を止めてしまった事を申し訳なく思いながら、同時にこのままではまた失敗してしまうからありがたいとも思っていた。

 

「ふう」

 スタジオの廊下に置かれているベンチに座り、私はため息をついた。缶コーヒーとはいえ、深いコクと砂糖の甘みが私を落ち着かせる。

「……何やってるんだろう」

 それでも思わずそんな一言を漏らしてしまった。

「隣、いいかしら?」

「えっ」

 その時、私は不意に声をかけられた。驚いて見上げると、目の前には微笑みを携えた少女が立っていた。左上の所で小さくまとめている髪型が印象的で、コートを着込んではいるが、その下に学校の制服のような衣装を着ている。

「あ、どうぞ」

 私はとっさにベンチの端の方へ少し移動してスペースを空けた。

「ありがとう、剣崎さん」

 その人は目を細めて綺麗な笑顔でお礼を言い、上品な仕草でベンチに座った。

「あの……瀬川おんぷさん、ですよね」

「ええ、そうよ」

 私の問いかけにその人――瀬川おんぷさんはもう一度笑顔で答える。

「舞台『ブルームーン』、拝見しました。まるで登場人物そのものになった様な瀬川さんの演技に心打たれました」

「ありがとう」

 瀬川さんは十六歳という若さでありながら、日本ではもちろん海外でも活躍する舞台女優だ。今から五年ほど前までは人気のチャイドルとして活躍していたが、彼女が中学に上がった頃から人気が急落し、最近までほとんど名前を見る事が無かったという。私がまだこの世界に来る前の話だ。

 しかし、去年日本で公演された舞台『ブルームーン』で主演の座を射止め、再び人気が上昇、舞台女優として活躍している。

「今日はインタビューで来られたのですか?」

「そうよ。他にも場所はあるはずなんだけど、ちょっとした都合でこのスタジオになったの」

 テレビではあまり見かけないけれど、こうして舞台の宣伝として映る事はたまにあるようで、私も数回目にした事がある。

 少し変わった名前である事と十六歳とは思えない凜とした風格から、彼女の姿は私の記憶に留まっていた。

「あなたの方は音楽番組の収録かしら」

「……はい」

「……何か悩み事でもあるの?」

 ドキッ、と私の心臓が跳ねた。

「勘違いだったらごめんなさい。だけど、何となく声の調子とか表情に陰りを感じたのよ」

 表には出していないつもりだったのに、見抜かれている。チャイドルや人気不振の経験があるから、他人の機微に敏感なのだろうか。

「私で良ければ相談に乗るけど」

「………………」

 何故だろう、この人には不思議な力を感じる。魅力? カリスマ? それとも――

「実は――」

 気がついたら、私は瀬川さんに胸の内を話していた。もちろん、プリキュアの事は隠して。

 

「――そう、新しい友達と一緒にやっていけるか不安なのね」

 瀬川さんが真剣な顔立ちで私をじっと見つめていた。少し恥ずかしくなって私は視線を逸らす。

「あの、私の問題なので瀬川さんが考えてくれなくても――」

「私にも同じ様な経験があったわ」

「えっ?」

 思わず顔を上げて瀬川さんの方を振り向いた。

「……私には、大親友と呼んでも恥ずかしくない子達がいるわ。その子達と出会って、時間はかかったけど、私は変わった」

 瀬川さんは自分の事を語りながら天井を見上げた。そうやって記憶から引っ張り出しているのだろうか。

「チャイドルとして活躍していた当初、私は自己中だったの」

「そうだったんですか?」

「ええ。あの時の私は事情があってチャイドルとして一生懸命頑張ってたつもりだけど、それは全部自分のためだった。だけどね、そんな私を変えてくれたのが、その子達」

 瀬川さんの視線はずっと天井を向いている。私はそんな瀬川さんを真剣な眼差しで見つめながら話を聞き続ける。

「その子達は自分達の事も顧みずに私を助けてくれた。あの時、助けたつもりだったんだけどな――」

 私に話しかけているような口調が、突然独り言のような口調に変わった。

「それから私は、あの子達と一緒にいる事が多くなったの。初めは自己中だった私を受け入れてくれるのか、本当はどこか快く思ってないんじゃないか、そんな事も考えた」

 瀬川さんは今度は床の方に視線を向けた。

「でもね、あの子達の中で特に明るくて楽観的な子のコロコロ変わる表情を見ていたら、いつの間にかそんな気持ちも無くなっちゃった」

 突然私の方を向き、瀬川さんは破顔して小さく声を出して笑った。

「その子は私には無い、まるで魔法みたいな魅力を持っているわ。あの子の周りはいつも笑いが絶えなくて、誰もが笑顔になる」

「誰もが笑顔に……」

 私はふとマナの顔が頭に浮かんできた。

 あの子の事を詳しく知っているつもりはないけれど、彼女の家での収録時やトランプ王国での出来事など、思い返すと私はあの子に惹かれたから協力を受け入れたのかもしれない。

「剣崎さん、あなたの新しい友達はどうかしら」

「それは……」

 すぐには返答できなかった。あの子達とはまだ親しくない。

「答えなくてもいいわ。きっとそれはこれから自ずとわかってくるはずよ」

 また小さく笑った。うふふ、と笑うその姿は瀬川さんの癖なのかもしれない。

「友達の事を知って、あなたの事を知ってもらって、そうすればきっと大丈夫」

「そうですか?」

 先程よりは心持ち良くなったとは感じているものの、まだ疑問は晴れていなかった。

「……それじゃあ」

 突然、瀬川さんは起ち上がってその場でくるっと一回転した。私が呆気にとられていると、瀬川さんは私に向かって人差し指を突き出した。

「え――」

「プルルンプルン・ファミファミファー♪ 剣崎さんとお友達の仲が良くなるようにっ」

 かと思ったら、次には妙な呪文らしき言葉を唱えた。

「あ、あの……?」

「剣崎さんに仲良しになれる魔法をかけてあげたわ。これでうまくいくはずよ」

 まるで子供のような悪戯っぽい笑顔で瀬川さんは冗談めかして言った。

 今のはいったい何なんだろう。瀬川さんなりのおまじないなのだろうか。でもちょっと恥ずかしいような……。

「あ、ありがとうございます」

 お礼は言うものの、正直戸惑いの方が大きい。

「ごめんなさい、冗談みたいなものだからあまり気にしなくていいわ」

 てへっ、と今度ははにかんだ。さっき瀬川さんが話していた友達みたいに、瀬川さんもコロコロとよく表情が変わる。やっぱり、この人は不思議な魅力を持っている。

「あの、なんで私に声をかけてくれたんですか?」

 私は思いきってさっき抱えた疑問を瀬川さんに投げかけた。瀬川さんはもう一度微笑み、こう言ってくれた。

「剣崎さんが私と似ていたから、かな」

 

 その日の帰り。

「……ねえ、ダビィ」

「何?」

 ダビィの運転で夜の街を抜ける中、私はある提案をダビィに持ちかけた。

「マナ達の学校に通う事って、出来る?」

「あら、どういう風の吹き回しかしら」

 バックミラー越しに私とダビィの視線がぶつかる。口では質問しているようだけど目は私の心境を見通しているようで、私は視線を逸らした。

「……王女様を探すためには、もっとこの世界を知らないといけない。だから、学校に通いたいの」

 嘘だ。だけど、本心を言うのはダビィ相手でも恥ずかしかった。

「本当は、みんなと一緒にいたいんでしょう?」

「っ……!」

 まったく、ダビィはどうして私の本心がわかるのだろう。付き合いが長いからだろうか。

「そ、そうじゃないわ。私は――」

「はいはい、わかってます。手続きとかは私に任せて」

「もうっ」

 ダビィは意地悪だ。

 確かに私はあの子達の近くにいたい。今のままじゃ、きっと不安を抱えたまま協力し合う事になる。あの子達と一緒にいる時間を増やして、あの子達を知って、私を知ってもらう。

 

――そうすればきっと大丈夫。

 

 瀬川さんの言葉が私の頭の中でリピートされた。

 

 

 大貝第一中学校の教室の前で、私はこの学校の制服を着て立っていた。

「えー、今日からこのクラスに新しいメンバーが加わる事になった」

 中から担任教師の声が聞こえてくる。教室内のざわめく声をBGMに、私は呼吸を整える。「どうぞ、入って」

 合図と共に私は扉を開けて中に入る。

「ええーっ!?」

「まこぴー!?」

 その瞬間、教室が一気に騒然となった。アイドルである剣崎真琴がクラスメートになるなんて、この場にいる誰もが思っていなかっただろう。

 心臓がドキドキ言っている。平静を装ってはいるけれど、私の新しい生活がこれから始まると考えると少し緊張する。

「――今日からこの大貝第一中学校で勉強する事になったあ、剣崎真琴です。みんな、よろしくね」

 私はみんなの方を向き、出来る限りの笑顔を見せた。


 
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