No.540854

すみません、こいつの兄です。50

妄想劇場50話目。妹、(いつもどおりに)発狂。

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(第一話) http://www.tinami.com/view/402411

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2013-02-06 22:06:33 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:1014   閲覧ユーザー数:918

 妹の部屋に変圧器が降って来たのは、十年くらい話のネタにできるの不運だった。でも、この厳冬にエアコンが壊れるのも不運だ。俺の部屋のエアコンが冷風しか出さなくなった。

「母さん…エアコン壊れた」

「あら、困ったわね。あのエアコン買った電気屋さん、店じまいしちゃったのよねー」

メーカー呼ぶしかないのだろうか…。

「お母さん、寒いっすー」

皮下脂肪が極端に薄い妹が寒さに凍えている。胸にも尻にも脂肪がない。とにかく今、この瞬間に寒い。なにか他の暖房器具はないかと、階段の下の納戸を開けてみる。対流式の石油ストーブが発見された。部屋に持っていく。

「にーくん、待つっす」

部屋のドアを開けると、防寒着を着て勉強机に向かった妹が自制を求める。

「…うん。言われなくても分かる」

持って来る前に気づかなかった自分がアホだ。現在の俺の部屋。六畳間の内訳はこんな感じになっている。ベッドで一畳。俺の机で一畳。俺の本棚で一畳。ここまでで合計三畳消費。妹の机で一畳。妹の本棚で一畳。ここまでで合計五畳消費。残った一畳分に、勉強机に組み合わせた椅子が、妹のと俺ので二つ置いてある。それぞれの机の上にカバンやら、パソコンやらが置いてあって、その隙間にノートを広げるという状態だ。

 この部屋で対流式の石油ストーブに火を入れるのは、危険だ。一階に逆戻り。

 妹も、俺の後について降りてくる。

 妹のパソコンはノートだから、持って歩けていいな。俺のはデスクトップだから、あの極寒の部屋でしか使えない。使えたとしても、エロゲは出来ない。美沙ちゃんの盗聴器が見守っているから。

「にーくん。グラツー対戦するっすー」

「いいぞ」

「リーフしばりっすー」

「リーフ?なんだそれ?」

「電気自動車っすー。かわいいっすー」

可愛いか?まぁ、いいけど…。

 プレイステーションを起動する。たしかに選べる車が増えている。

「わざわざ買ったっすよ」

「なるほど…」

妹が、さくさくと車とコースを選択していく。

「だから、ニュルブルクリンク旧コースはやめろって」

「ばれたっす」

別のコースを選択させる。二分割した画面で、ゲームがスタートする。

 ひゅぅうううー。

 電気自動車は、すごい静かだ。本物もこんなに静かなんだろうか?

 きゅきゅきゅきゅううううー。

 タイヤの音はする。

「なぁ、この車さ」

「なんすかー」

きゅぅうー。

「信号とかで止まったら、無音なのかな」

「そう考えると、落ち着かないっすね」

エンジンの音もしない車の中というのは、たぶん箱の中みたいなものだ。そのしーんとした空間で、肩を寄せ合って座っている状態だ。それは、なんか静か過ぎて不安になりそうだという意見も分かる。でも、他の可能性も俺は知っている。

「一緒にいる人しだいかな…」

「だれだったら、いいっすか?」

「真奈美さんなら、落ち着くかもしれない」

「…そうなんすか?」

「私だったら、どうっすか?」

「お前か…わかんないな」

「美沙っちだったら、どうっすか?」

美沙ちゃんか。美沙ちゃんと、無音の箱の中に入ったらどきどきしそうな気もするけど…。

「それもわかんないな」

「なんで、真奈美っちだけ分かるっすか?」

「実験済みだからな」

「リーフに乗ったんすか」

「ちがうよ。跳び箱に入ったんだ。真奈美さんが、そこが落ち着くって言うから」

「にーくん、最新電気自動車は跳び箱じゃないっすよ」

妹が俺の無礼を指摘する。

「わかってる」

「ひゅいぃーって、無音で加速するっすよー。ほぼSFアニメっすー。乗ってみたいっすー」

テレビから、かすかにタイヤの鳴く音だけが聞こえてくる。今回のレース。妹の方が速い。じわじわ離されて行く。

「そういえば子供のころ、よく箱に入ったっすね」

「ああ。やったな。洗濯機とかの大きな箱の内側にマジックでメーターとか描いてな」

「ペットボトルのふたとかでボタンやダイアルもつけたっす」

少し距離が詰まった。残り二周。一秒差。追いつけるかな。第一コーナーでは、差は詰まらない。緩いS字コーナーを下る。左の縁石にちょっとタイヤを乗せる。ぶぶぶっと、コントローラーが震える。

「あっ。真菜!」

「その手は、くわないっすー」

ブレーキのタイミングで脅かしてみたが駄目だった。でも、ほんの少し距離が縮んだ。抜きにかかるのは、次の最終周にして、ここは距離をつめることに集中する。

 妹も正念場と見たのか、無駄話をやめる。ぴりぴりと集中しながらコントローラーを握る。右コーナーから緩い左コーナー。その後のヘアピンコーナー。無理をせずに、減速を最小限に回ることに集中する。妹の駆るリーフが外にはみ出す。俺の方が、コーナーの脱出速度はわずかに速かったはずだ。続くは裏ストレート。四百メートル先の最終コーナーまで、この速度差が続く。じわじわと距離が詰まる。

 裏ストレートは、まっすぐ走るだけだ。ほんのわずかの時間ヒマになる。

「いけるぜー」

「にーくん」

「なんだ?」

「勝ったほうが、負けたほうに一分間好きなことしていいってのは、どうっすか?」

「言ったな。一分間蹂躙してやるぜ」

「聞いたっす!十秒でパンツ下ろして、三秒でボールペン突っ込んで、四十七秒ぐりぐりしてやるっす!」

絶対に負けられない戦いがここにある。

 最終コーナーが近づく。差はほとんどない。あとは、どうやって抜くかだ。最終コーナーは奥半分がきつくなっている複合コーナー。妹がすすっと、車一台分内側に寄せる。外側なら並べるが、ここで外に並んだら出口で押し出されるだろう。

 ややアクセルを戻し、いつもより大回りで入る。立ち上がりから続くメインストレートで抜く作戦だ。

「くっ。やるなこいつ!」

 妹もバカじゃない。わざと速度を殺し気味で入り、俺の走ろうとしていたラインを潰している。思ったように加速できない。さらにアクセルを抜いて、並びかけていた妹の車をやや前に出し、再びアクセルを踏み込む。フロントガラスに大写しになるテールを見ながら、最終コーナー出口を縁石の外側まで使って加速する。そのまま、反対側にもどるようにして、第一コーナー内側を狙うフリをする。最終周回。

 第一コーナーは、抜きどころ。妹はまんまと引っかかって、コース中央からナナメに入るブロックラインを取る。それを尻目に外側から被せる。

「ぬおおーっ。負けないっすー!」

アクセルを一瞬抜いて、また踏み込む。狙い通りS字コーナーの一つ目で車の鼻先だけ内側に入れて並ぶ。さぁ、俺の罠にかかれ。真菜!第一ヘアピンのブレーキ。俺が少し早くブレーキをかける。妹の車が、すっと前に出る。かかった!ここのレコードラインは、立ち上がりで前輪をこじる。それを尻目に、俺はやや外側からのアプローチでスムースに立ち上がる。

 妹の車に追突せんばかりの距離で第一ヘアピンを回る。次のコーナーへのアプローチに向けて、左に寄る妹を尻目に、最短距離の右を走る。内側からの無理なアプローチになるが、もとより承知の上だ。

「あっ!」

「遅い」

妹が俺の意図に気づく。手遅れだ。次の右コーナーで最短距離を通った俺の車が、半分ほど前に出ている。描くはずの曲線を乱された妹は、せっかくの速度を殺すしかない。無理なラインで速度が落ちているのは、こちらも同じだが、続く左コーナーはこの速度ではどちらもアクセルを踏むことしかできない。そのあとの第二ヘアピンは右からしか抜けない。そして右にいるのは俺。

「勝ったな。くくく。一分間、苛め抜いてやるからな覚悟してろ真菜!」

「まだっすーっ。まだ、おわらんすよぉおおー」

 タイヤのいななきを聞きながら、ヘアピンを立ち上がる。裏ストレート。

「なんだと!?」

並んで立ち上がったはずの妹の車の方が、若干速度に乗っている。横に並んだブルーのリーフがじわじわと鼻先をせり出してくる。いや。大丈夫だ。こっちは内側にいるんだ。最終コーナーを外から早い速度で入っても、コントロールラインまでに前に出るのは不可能なはずだ。

「ボールペンはやめたっす!綿棒をすげーところにブッ挿すっす!」

「どこにっ!?」

 しまった。精神の動揺が車の挙動に現れる。最終コーナーの進入角度をあわせ損ねた。

 後輪が外に逃げていくのを戻す。速度が落ちる。タイヤの音だけを響かせて、ブルーのリーフが外側をじわりと先行していく。

 やばい!

 現実は無情だった。コントロールラインを通過したとき、俺の画面には「2」の文字が表示された。

「ひゃっほおぉおおおぉーっ!ほほほほほほほっ!」

妹が、インディアンみたいな声をあげて驚喜乱舞する。

 やばい。

 邪悪そのものの笑みを浮かべて、妹が居間を出て行く。すぐにもどってきた。手に綿棒を持っている。こいつ、本当にやる気だ。

「ま、まて。真菜。先に聞いていいか?どこに綿棒をどうするんだ?」

「にーくんの尿道にブッ挿すっす」

「……ッ!!」

「英語で言うなら、アイ・シャル・インプラント・ジス・メン・スティック・イントゥ・ユア・メンズ・スティック!」

「インプラント…。『植えつける』という動詞だな」

さすが学年四位だ。インサートより適切な単語を選んでくる。

「shallは強い意志をあらわす助動詞っす」

「綿棒は、たぶんメン・スティックじゃないと思うが…」

「インプラントする先は、メンズ・スティックで間違いないっすか?」

「ちょっとまて。真菜」

「命乞いっすか?ぐひひひ」

「未成年にそんなことをしてはいけない。俺もまだ高校生なのだ…」

この世界を好きに改変できる作者だって、児童ポルノ作成で逮捕されたくはあるまい。世界の法則に訴えかける。

「むぅ…そうっすね…。じゃあ、ちょっと普通っすが、にーくん。こっち来るっす?」

妹がソファに座って、手招きする。

「ブッ挿さない?」

「それは、やめたっす」

びびりながら、妹の横に座る。

「頭、ここっす」

妹が、ジーパンをはいた太もも…太くもなくて、座っても足の間に隙間が出来ちゃってる貧相な足なんだが…を指差す。

「?」

膝枕か?

 ぐぎっ。

 妹が、やおら頭を掴んで九十度回転させた。続いて、耳の中がくすぐられる。

「動くとあぶないっすよ。耳かきしてやるっすー」

「え…あ…ひゃっ」

耳の中を、そっと綿棒が撫でるのと掻くのの中間のくらいの力で触れていく。くすぐったい。

「反対っすー」

頭を掴んで、百八十度回頭させようとする妹に首をねじ切られないように身体を回転させる。

 顔が妹の身体のほうを向く。妹のジーパンのボタンが鼻先にある。目を閉じる。視覚を遮断すると、嗅覚が鋭敏になる。ふんわりと、いつもより強めの甘い匂いがする。どこから香ってきているのかは考えてはいけない。嗅覚もなるべく無視する。耳に、そっと綿棒が触れる。顔の半分にほんのりとした熱を感じる。

 まてまてまてまて。

 ブッ挿されるよりは、マシだが、これはこれでやばいぞ。

 妹だ。これは、ガサツで、バカで、貧乳だ。貧乳だ。貧乳貧乳貧乳貧乳貧乳貧乳。

 ごっ!

 頭に強い衝撃を感じた。

「いてぇっ!なにすんだ!」

「なんで、貧乳、貧乳って唱えてるんすか!」

「あれ?口に出てた?」

ごっ!妹のアッパーが俺の顎を打ち抜く。

「デレモードに入った可愛い妹を罵倒するとか、あんまりっすー。そこは、顔を赤らめて『お、おう。すまんな』って言うところっすよ」

また、変なラノベとか読んでるな…。一分はとっくに経っているので、身体を起こす。

「すまなかった。肉体的欠陥を指摘して罵倒するのはいけないな」

「ぬがぁーっ。欠陥言うなっすー。せめて、肉体的特徴にしておくっすー」

マジギレした妹が両手を振り上げる。敵に身体を大きく見せる動物的な戦略だ。フクロウが身体を膨らませて見せるのと同じようなものだろうか。そして、そのまま突撃してくる。攻撃方法としては褒められた戦略ではない。体当たり攻撃は、体重が四十キロを超えてからやろうな。

 のしっ。

 妹が、のしかかってくる。重くすらない。せいぜい「ウザい」だ。

「お前の体重じゃ攻撃になってないからな」

両手で押しのける。

「ぎぎぎぎ。いつか反撃してやるっすー」

広島の漫画みたいな効果音を口に出して悔しがっているが、ちっとも迫力がない。悪魔メイクをしていない妹など、そんなものだ。

 

「にーくん、お風呂空いたっすー」

居間で本を読んでいると、パジャマの上にフリースを着た妹がやってきた。足は怪獣の足になっている。ショッピングセンターで見つけた室内履きだ。

「おう」

二階の自室にあがり、着替えを取る。丸一日暖房の入っていない室内は、ほぼ外と同じくらいに冷え切っている。まじか、これ。ここで寝るのか…。今日は、少し長めに風呂に入って、身体を温めておかないとな…。

 風呂場の扉を開ける。

 シャンプーと石鹸と甘ったるい匂い。妹の後の風呂の匂いだと、密かに思う。なんだろうな。別に体臭があったりするわけじゃないんだけど、妹の後の風呂の匂いってある。

 身体と髪を洗って、湯船につかる。全身緩む。

 やっぱ。風呂はいいなぁ。

 リラックスしたそのときだった。

「油断したでござるなぁーっ!にーくんっ!」

「なんだとぉっ!」

風呂場のドアが開け放たれ、水着姿の妹が飛翔してきた。

 たった一歩で、妹が湯船に飛び込む。逃げられない。

「うわっ!ばばっば、ばかか、お前!なに考えてんだっ!」

狭い湯船の中で、妹が俺の足の間の滑り込むように入ってきている。逃げようがない。

「復讐っすーっ!決まってるっすーっ!」

そう言って妹が湯船の中にしゃがみこむ。やめろ!そこはっ!本気でマズいところだ!両手で必死にガードする。

「復讐じゃねぇよ!キマってんの!?」

なにか変なクスリでもキメちゃったんだろうか。異常行動が通常な妹にしても、今回のは群を抜いて頭がおかしい。

「ぐへへ。人の身体のパーツのサイズをバカにしたことを忘れたとは言わせないっすー」

絶対にヤバい。

 こいつ。

 俺の…。

 パーツのサイズを確かめるつもりだ。

「まてっ!真菜っ!」

「手遅れっすー。テメーは、私を怒らせたっすーっ」

体勢は圧倒的に、俺の不利。妹の身体が俺の足の間に収まっている。ここで立ち上がったなら、妹の目の前にさらすことになる。油断していた俺はタオルも持っていない。ここは、大浴場や露天風呂ではないのだ。

「うあっ。やっめ!」

触診でサイズを確かめに来るなっ!セガールみたいな手のスピードで、妹の手を必死に弾き飛ばし続ける。

 ばしゃばしゃばしゃばしゃばしゃばしゃ。

 必死の攻防。

「覚悟を決めるっすー」

「ばかっやめろっ!いいじゃないかっ。貧乳は貧乳で需要も価値もあるぞっ!モテるんだろお前!」

そっちのパーツには、小さくても需要があるかもしれないが、こっちは小さいとか言われたらトラウマものだ。引くわけには行かない。くっそ。女っていつもずるくないか?!

 攻防を繰り返しながら、打開策を考える。

 そうだ…。これだ。

 妹の顔に大量のお湯をぶっかけて、視覚が回復する前に突き飛ばして脱出する。

 これしかないっ。

「くらえっ!」

両手というか全身を使って、妹にお湯をぶっかける。湯船から立ち上がる。

「逃がすかーっ!」

一時的に視覚を失った妹が、立ち上がった俺の腰に抱きつく。むにっ。俺のクリティカルな部位にあたる感触は、妹の顔か?この感触?俺の脳がパニックを起こす。

「☆□△ッ!!」

妹を踏み抜くようにして、逃げ出す。ふぎゅっという妹の悲鳴は背後だったか足の下からだったか。記憶もない。

 

 最近、俺の周りは頭のおかしいのばかりである。どこかに心を休める場所はないのだろうか。

 

 夜。

 

 妹が発狂しても、妹の部屋が直るわけではない。やはり、今夜もこいつと一緒に寝るのである。へんな真似しやがって…と文句の一つも言ってやりたいが、ベッドの裏側では美沙ちゃんの盗聴器だ。忘れないように、天井に「美沙ちゃん」とメモを貼ってある。あれなら、美沙ちゃんに見られても大丈夫だしな。

 すりすり。

 横で寝てる妹が近づいてくる。

 風呂場で発狂した後なので、不穏なものを感じるが、気持ちもわかる。

 寒いのだ。

 暖房の入っていなかった部屋は、布団からマットレスまで、すべてが室温と同じ温度。摂氏六度。なにかで、ビールは五度付近が一番美味しいと聞いたことがある。その温度だ。その布団の中で、俺の身体と妹の身体だけが摂氏三十六度付近。

 首を回して妹の方を見る。

 小さな顔だな。頭蓋骨自体が小さい。カーテンの隙間から射し込む街灯の青い光に白い肌が浮かぶ。

 なるほど。

 こうやって見ると、たしかにモテることもあるのかもしれない。黙ってさえいれば…。あと、美沙ちゃんの言うとおり、あの変なファッションセンスがなければ…。タラレバが多すぎる。やっぱだめだ。

 寒くても、眠気は順調にやってくる。ほんのりと、意識が遠のく。

 まぁ…。

 寒いしな。

 少し大きめの湯たんぽ…。

 

 翌朝、妹の体温をいつもより強く感じながら目を覚ました。

 

 

(つづく)


 
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