No.538000

僕は友達が少ないNEXT やはり俺の青春は間違っていなかった

はがないNEXTのアニメをインスピレーションにした作品。

コラボ作品
http://www.tinami.com/view/515430   
俺達の彼女がこんなに中二病なわけがない 邪王真眼vs堕天聖黒猫

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2013-01-30 19:56:56 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:2533   閲覧ユーザー数:2410

僕は友達が少ないNEXT やはり俺の青春は間違っていなかった

 

「やべえ。勉強が……よく分からなくなっている」

 図書館で勉強している俺は焦っていた。

 試験は来週、目前に迫っている。にも関わらず、試験範囲の内容の問題が解けない。

 こんなこと、生まれて初めてだった。

「やっぱ……隣人部に入ってから勉強時間が急激に減っちまったからなあ」

 今年の春に聖クロニカ学園に編入し、三日月夜空(みかづき よぞら)に誘われて隣人部に入部してから約半年。

 これといった活動は何もしていないものの、毎日のように部室で時間を無為に過ごしてきた成果がこれだ。

「ぼっちだった時は……やることなくて勉強ばっかりしていたからなあ」

 暇で暇で仕方なかった過去の俺は仕方なく机に向かってばかりだった。そのおかげで金髪ヤンキーとレッテルを貼られようとも成績だけは優秀だった。

 でも、今回はやばい。

 勉強時間が以前に比べて圧倒的に足りない。

 星奈のような天才ではない俺にとって勉強量の不足は致命的な事態だった。

 そんな訳で俺は遅れを取り戻すべく図書館で必死に勉学に励んでいた。

 今からでも頑張れば赤点ぐらいは回避できるはず。そう信じて勉学に励む。

 だが、勉強に集中できない状況に慣れ親しんでしまった俺は勉強運にも見放されるようになっていた。

 

 突然『You can mail!!』と鞄が大きな音を立てた。

 滅多にメールも受け取らない俺は学校の図書館でもマナーモードにし忘れていた。みんなの顰蹙を買いながら鞄から携帯を取り出してメールの内容をチェックする。

 

 

From:志熊理科

Sb:Sbってサブと響きが重なって幸せな気持ちになれますよね

 

ウホッ。いい男。小鷹先輩、ヤラないか?

 

「舐めてんのか?」

 ……読書中の他人様に迷惑を掛けた割にこれほど腹立たしいメール内容も他にあるまい。

 とはいえ、図書館という公共の場所で怒りにかまけて反社会的な言動を取るわけにもいかない。

 できる限りKeep COOLを心に訴えかけながら変態天才科学者に返信することにする。

 

テスとべんきょうちゅう

 

 隣人部には天才が多い。星奈は成績学年トップだし、夜空もひと桁。マリアに至っては小学生にして大学生レベルの知能を有する。

だが、その中でもずば抜けた才を持つのが理科だ。何しろ企業と提携結んで研究開発に勤しみ、校内では個室を与えられて授業に出ないことを許されているVIP待遇。

そんな理科は試験勉強などとは無縁な生活を送っている。けれど、そんな天才様も一般庶民の苦悩を少しは分かって欲しい……。

って、言っている側からまたメールが来た。

 

 そんなことはどうでも良いですから理科とエッチなことしてください

 

「フッ……上等じゃねえか」

理科のメールの内容に呆れると共に腹が立つ。怒りを込めた指先でメールを高速打ちする。

 

  よくない。ぶしつけに何をイッてやがる

 

 メールを閉じようと本体の上部を掴む。が、その時には既に返信が来ていた。

 

  エロスが足りません。BLでもノーマルでもエロが欲しいです。むしろ先輩が理科を滅茶苦茶にしてください

 

「天才には俺の苦悩がまるで理解できないってか?」

 理科室に出向いて文句言ってやることを決意する。

 と、その時だった。新たな返信がきたのは。

 

  星奈先輩のお父さん、柏崎理事長とまぐわってください。理科が先輩を任せても良い人はダンディズム溢れる理事長しかいません

 

「何でそうなるんだぁ~~~~っ!?」

 天井を向いての大絶叫。

 俺が二度と図書館で勉強できなくなった瞬間だった。

 

 

 

「おいっ! さっきのメールは一体なんだぁっ!?」

 図書館を追放された俺はその足で“理科室”へと足を運んでいた。

ちなみにここで言う“理科室”とは、聖クロニカ学園が理科を入学させるに当たって彼女に与えた個人用実験室のことだ。

 乱暴に扉を開けながら部屋の主にクレームを付ける。

 試験勉強中に男色を勧められるってどんな嫌がらせだってんだ。

「小鷹先輩が理科の元を訪ねてキタァ~~~~っ!!」

 パソコンモニターと睨めっこしていた理科が背中を向けたまま両手を挙げて大げさに喜んだ。

「チッ! 理科は今、自分が屈強で猛々しい男でないことを心の底から後悔しています。死にたいほどに」

 一転理科は俺へと振り返るなり大きく舌打ちしてみせた。何この落差?

「この状況で理科が男じゃないなんて……本当に、生まれてきてごめんなさい。ですね」

 そして全てに絶望したようにガックリと首を落とした。

「訳わかんねえよっ! 実験でヤバい薬でも自分で飲んだりしたのか!?」

 ジェットコースター並みに感情がうねうねと蠢く後輩にどっと疲れが生じる。

 理科は残念ぞろいの隣人部においては一応一番の良識人ではある。

 だが、マッド・サイエンティストとしての一面を持つ彼女は、時に趣向がユニバースな方向に吹き飛んでくれる。例えば今みたいに……。

「だってッ! 今現在はカモネギの状況なんですよっ! 獲物が無防備に理科の本拠地に足を踏み入れたんですよ! 監禁して拘束してお尻を奪うのに絶好の状況じゃないですか!」

「俺には理科の趣味が分からないっての!」

「泣き叫びながら許しを乞う先輩のお尻を男となった理科が無慈悲にドッキングして無茶苦茶にする。最高のシチュエーション。最強にユニバースじゃないですかっ!」

「お前は女の子だろうがあっ!」

 大声で理科の妄想を打ち切りに掛かる。いや、天才マッドサイエンティストのコイツのことだから、性別を反転させる薬ぐらい作っている可能性はある。

 だから、そんな厄介な存在を匂わせない内に話を切る必要があった。

 

「理科は……女の子……はっ!」

 理科は急に後ずさると白衣を両腕で抑えて胸元を隠した。

 男として非常に傷つく対応だ。

「つまり小鷹先輩はこう言いたいわけですね。この防音密室空間を利用して理科を滅茶苦茶に犯すと。フッ」

「ドヤ顔して事実無根の人聞きの悪いこと述べてるんじゃねえよっ!」

 理科の額にチョップを入れる。ただでさえ俺はヤバいヤンキーだと生徒たちから思われてるっていうのにそんな噂立てられたら今度こそ終わりだ。

「フフッ。そのツッコミは実は理科を暴力で屈服させて力づくでモノにしようという表れですね。小鷹先輩のレイプ魔っ♪」

「んな訳があるかっ!」

「そんなことを言われましても、理科は頭の中ではもう先輩に3度犯されています。妊娠していますね、きっと」

「肖像権の侵害だ、それはっ!」

「ちなみに妊娠6ヶ月目です。もう堕ろせませんからね」

「だからドヤ顔で堂々と嘘を進めるなっ! っていうか、いつの間に6ヶ月経った?」

「それにしても小鷹先輩は名付けのセンスが酷すぎです。男の子だったらオトコノシリスキー、女の子だったらヤオイスキーって、子供が学校で虐められるかもって考えないんですかっ!?」

「俺、そんなセンスしてねえからっ! 全部理科の妄想だろうがっ!」

「理科と先輩の子供は将来名前のせいで理科並みの根暗人間になってしまいますよ!」

「だから全部理科の自作自演劇だろうが!」

 荒く息を吐き出しながら呼吸を整える。

「そんなにハァハァして。やっぱり理科を襲って犯すつもりなんですね。フフフ」

「俺はそんな凶悪犯罪者なマネはしないっての!」

「知ってますよ。先輩は外見が怖いだけの意気地のないヘタレヤンキーだってことぐらい」

「グハっ!?」

 後輩のキツ過ぎる一言に思わず吐血してしまう。

 理科は研究者らしく観察眼が優れている。多分、俺の本質というものをこの学校で誰よりも掴んでいると思う。

 その理科にヘタレヤンキーと断言されてしまってはもう反論できない。落ち込んでorzな状態になるしかなかった。

 

「それで、男体化した理科に襲われにきたのでも、理科を本能のままに無茶苦茶に犯しにきたのでもない小鷹先輩は何をしてここまで来たのですか?」

 理科は訪問理由が全く分かっていないようだった。

 仕方なく一から説明し直すことにする。

「図書館で試験勉強していたら理科からメールが来て、それにツッコミを入れていたら追い出された。そのことでお前に文句を言いに来たんだよ」

「試験勉強? ああ、そう言えば世間では来週から試験らしいですよね」

「ほんと、他人事に述べるんだな」

「理科には関係ありませんから」

 ウンウンと頷いて納得する理科。コイツ、本当に別世界に住んでやがる。

「じゃあ、お詫びに勉強を理科が見ましょうか?」

「おおっ! 本当か?」

 星奈をも上回る知能を持つ理科に教えてもらえば試験範囲の挽回も夢ではないかも知れない。

「あっ、でも理科が得意なのって、数学とか理系の科目だけなんですよね。国語に至っては、中学校の時に一度も試験で平均点を上回ったことがないですね」

 ……理科は万能の天才という訳ではないようだ。というか、コイツの場合、ロボット同士のヤオイとかユニバースな読解ができるからきっと一般的な読解は苦手なのだろう。

「じゃあ、数学と物理と化学をお願いします」

 ツッコミは控えて素直に教えを乞うことにする。

「分かりました。理科にできる範囲でお手伝いしますよ」

「ああ。助かるぜ」

 こうして俺はこの学校を、いや、日本を代表する天才少女を教師として迎えることになった。

「ムラムラしたらいつでも理科のことを襲ってくれて構いませんからね」

「襲わねえよっ!」

 ちょっと性格に難があるけれど、理科がいい奴なのは間違いない。

「お尻が寂しくなったらすぐに言ってくださいね。屈強なガチホモ男子生徒たちを催眠状態で呼んで小鷹先輩総受けパーティーを始めますから」

「そんなパーティー死んでもお断りだっ!」

 正確には相当な難があって見過ごし難いけれども。

 

 

 

 

 下校時刻になった。

「理科のおかげでだいぶ勉強がはかどったよ」

「お役に立てたようで何よりですよ♪」

 理科の教え方が上手かったこともあって勉強は予想よりも大きく進捗した。

 企業へのプロモや学会発表もよく行なっている理科は人に物を伝えることに慣れていた。

 だからその辺の教師よりもよほど教え方が上手かった。

 時々ハァハァと息を荒らげながら俺の股間やお尻を見ているのがキモかったけど。

「理系科目は今日教えた分で何とかなると思います。でも、文系科目については……」

「自分でやらないとダメなんだろうが、残り時間を考えるとなあ……」

 目を瞑って考え込む。自分1人だと時間的にちょっとキツそうだ。

「なら、たらし込んで美味い汁を吸うしかないですね」

「たらし込むって一体何だよ?」

「フッ。先輩のすぐ側にはテストなんてどうとでもできちゃうすごい人がいるじゃないですか」

「すごい人?」

 すごい人とやらが誰のことなのか考えて見る。

 テスト前日だろうと全く動じないであろう奴はただ1人。全く試験勉強せずに毎回学年主席だという柏崎星奈しかいない。

 つまり、文系科目については星奈に教えてもらえということか。

 まあ、それが妥当な線だよな。アイツに物を頼むと面倒なことになりそうだけど。

「そうですよ。枕営業で体を捧げてしまえば、試験なんてどうとでもできます。成績トップも余裕ですね」

「枕営業で体を捧げるっ!?」

 それはつまり、俺が星奈と……っ!?

 

『あっ、あたしに女の悦びを教えた責任は絶対取ってもらうんだからね!』

『おいおい。世の中はギブアンドテイクが原則だぜ。俺はお前に女ってもんを教えてやったんだから、分かってるよな……』

『分かってるわよ……試験勉強はあたしが見てあげる。だけど……あたしと柏崎グループの将来は小鷹に面倒見てもらうんだからね! 返品は効かないんだからっ!』

 

「そっ、それはダメだろっ! 試験勉強を見てもらいながら生涯の伴侶と就職先まで手に入れてしまうような悪どい行動は絶対にダメだぁ~~っ!!」

 試験で良い点を取る為に星奈とそんな関係になるなんて絶対に許されない。

「何がいけないんですかぁ~っ!? 生涯の伴侶っ! 就職先っ! 人畜無害な草食系家畜の先輩が悪の道を考えるなんて。理科は漲ってきましたよぉ~~っ!」

 理科が何故か大興奮だ。

 その様子に何かおかしい気がしないでもない。

 理科は俺と星奈がくっつくことを喜ぶような奴だったっけ?

「……ああっ。小鷹先輩が自ら進んで柏崎天馬理事長に抱かれること、もしくは抱くことを選択してくれるなんてぇ~~♪」

 理科の極上の笑顔、というか締まりのないちょっと気持ち悪い笑顔を見ていると絶対に何かがおかしい気がする。

「なあ、やっぱり俺は正攻法に勉強して……」

「理科は全力で小鷹先輩の枕営業を応援しますよ~~~~っ!!」

 理科に思い切りがっちりと手を握られてしまった。瞳からは炎が吹き上げているのが見える。すごい気合だ……。

「理科のサポートにど~んとお任せあれっ!」

 理科は掴んでいた俺の手を離すと白衣の中から香水を取り出して俺の顔に吹きかけた。

「ブハッ!? ゲホゲホっ! 鼻と口の中に思い切り入り込んだぞ! 香水掛けるなら掛けると言ってくれっ」

 涙目で咳き込んでしまう。香水って直接吸い込むと本当にマジでヤバい。

「今のはちょっとしたおまじない、プレゼントです。効力は3日間保つはずですから、きっと大願成就しますよ♪」

「はあっ?」

 理科は一体何を言っているのだろう?

 この香水は星奈が好きな香りだったりするのだろうか?

「大丈夫。その香水の匂いが必ず役に立てるように万全にセッティングしておきますから。ウッフッフッフッフ」

「その笑顔が逆に怖いんだが……」

「ホモの上に乗ったつもりで任せておいてください♪」

「気のせいか暗黒の未来しか予測できない自分がいるんだが」

 結局俺は理科のサポートの正体とやらを教えてもらえなかった。

 にしても、星奈にエッチなことをして勉強の世話を見てもらうのは幾らなんでもヤバいだろう。

 やっぱり自分で勉強はしよう。

 そう、心に決めた。

 

 

 

 家に帰った俺は自室に戻って一生懸命勉学に励んでいた。

 理科に数学や物理は見てもらえたのだ。後は文系だけやれば良いので負担は減ったと心に言い聞かせながら。

 2時間ほど勉強に集中していた頃だった。携帯が音を奏でてメールの到着を知らせた。

 何だろうと思いながら開いてみる。

「差出人は星奈、か」

 放課後の理科室でのやり取りを思い出してちょっと焦るとする。あり得ない想像が脳内に浮かんでドキドキしながら要件を確かめる。

 

From:柏崎星奈

Sb:そういえば

 

  こだか

  理科から聞いたのだけど期末やばいの?

 

「理科のサポートってこういうことかよ」

 どうやら理科は俺と星奈の橋渡し役を果たそうとしているらしい。その為に俺が窮地に陥っているという情報を早速流したようだ。

「まあ、枕営業云々は放っておいても、星奈に教えてもらえばはかどるのは確かだよな」

 後輩の親切を無駄にしない為に無駄に強がった返信は打たないことにする。

 

  わからん

 

「実際、このペースで進めると文系は試験日までにどの程度になってるか分からないよな」

 星奈の助けがあれば戦況が優位になるのは間違いなかった。とはいえ、俺の方から勉強を教えて欲しいとも頼みづらい。

 となると、星奈からの誘いを待つしかない。そしてその誘いは驚くほど早くきた。

 

  だったら明日うちに来なさい。

  いっしょに試験勉強するわよ。

 

「うちに来いって……理科の奴、本当にどんな魔法を使ったんだよ」

 理科の手回しの良さに驚かされながら返事をする。

 

  O.K.

 

「まあ、勉強の算段がついたことを今は喜ぼう」

 明日は土曜日。1日頑張れば試験も何とかなるだろう。

 よしっ! 

理科の考えるような姑息な手段は使わない。

 でも、星奈に勉強を習って恥ずかしくない結果は残そうと思う。

 

 

 

 翌日の午後、俺は1人で柏崎邸の前へとやってきた。

 小鳩も誘ったのだが、星奈を怖がって来なかった。

 柏崎邸前という金持ちぶりを示すバス停を降りて目的地に到着。

 で、敷地の前に到着した所で……門の中央に着物姿の侍みたいな中年男が立っていた。

「ええっ?」

 その人物が誰なのか判明して思わず驚きの声が上がってしまう。

「よく来たな、小鷹くん」

 その男とは、星奈の父親で聖クロニカ学園の理事長でもある柏崎天馬だったのだから。

「こっ、こんにちはです」

 娘でもステラさんでもなく当主自らのお出迎えに恐縮してしまう。

「フム。そう畏まるな」

 高圧的ながらも親しげに接してくれる理事長。父さんが親友ということで、俺にも良くしてくれている。俺たち兄妹が今の学校に入学できたのも理事長が骨を折ってくれたから。そんなこんなで俺としても頭が上がらない。

「さあ、娘が待っている。屋敷の方に行くぞ」

「はい」

 理事長の横に並ぶ。すると急に理事長の様子がおかしくなり始めた。

「……どっ、どうしたと言うのだ? 何故、隼人の息子からこんなにも良い香りが漂ってくるのだ!?」

「あの? どうかしましたか?」

「いや、何でもない。出発するぞ」

 理事長は急に具合が悪くなったかのような表情で冷や汗を流している。けれど、俺には心配して欲しくないらしい。

 プライドの高い人だし、俺としてもあまり深入りしない方が良さそうだった。

「……ハァハァ。私の体は一体どうなってしまったと言うのだ? コイツは隼人の息子。男なんだぞ? ハァハァ」

 苦しそうに息を荒らげる理事長の横を黙って付いていくしか俺にできることはなかった。

 

 

 しばらく歩いて大きな洋館に到着する。結局、道中で理事長とのまともな会話はなかった。

 というか理事長の具合は悪そうでとても話しかけられる雰囲気ではなかった。

 屋敷に入ると、星奈が俺たちを出迎えてくれた。

「来たわね、小鷹♪」

 星奈はとても嬉しそうな表情を見せてくれた。こんないい笑顔を見せてくれるのならもっと早く自分から頼めば良かったと思うぐらいに。

「では試験勉強を頑張りなさい」

 理事長は俺たちに背を向けて去ろうとする。

「小鷹とはもう良いの?」

 星奈は理事長の背中を見ながら尋ねる。

「ああ」

 理事長は素っ気ない態度で返した。

「何の話だ?」

「パパが事あるごとに小鷹の様子はどうだって聞いてくるから。何か大事な話でもあるのかなって」

 ピクッと体を震わせた理事長が振り返る。その頬は赤く染まっていた。

「べっ、べっ、別に、そんな頻繁に聞いとらんわあっ!」

 怒ったように弁明する理事長。ゴホンと一つ咳払い。

「はっ、隼人から頼まれているからなあ。気にかけるのは当然のことだ」

 よく分からない人だと思う。ツンデレ、なのか?

 俺が不思議に思っていると、もう1度理事長と目があった。

 理事長の顔が瞬時に真っ赤に染まった。

「本当に、よく分からない人だ」

 何故、俺の顔を見て頬を染めるのだろう?

「それじゃあ、小鷹」

 星奈が手を握ってきた。

「あたしの部屋で勉強しましょう♪」

 俺は星奈に手を引かれるまま彼女の部屋へと向かった。

 

 

 

 

 結果から言うと、星奈に勉強を教わるという計画は上手くいかなかった。

 星奈は人に教えるには向いてなさ過ぎだった。天才肌過ぎるのだ、コイツは。

 全てを直感的に会得してしまうので噛み砕いて説明することができない。

 星奈に丁寧に教えようという気構えが全くないのも悪影響を及ぼしているのだけど。

 そんなこんなで星奈に勉強を教えてもらう計画は上手くいかなかった。

 しかも途中でテレビゲームまで始めて格闘ゲームに熱中してしまったもんだから勉強は全然はかどらなかった。

「俺、そろそろ帰るわ」

 今日の勉強は諦めて帰ることにする。貴重な週末を1日潰してしまったことでより厳しくなったが仕方ない。

「失礼します」

 ステラさんが扉を開けた。

「お嬢様、小鷹様。お食事の準備ができました」

「へっ?」

 予想外の申し出に少し戸惑う。

 けれど、星奈の反応は違った。

「だって」

 俺の両肩に嬉しそうに手を置いて笑う。

「食べていきなさいよ、小鷹♪」

星奈の中では俺が夕飯を食べていくことは既定路線になっているようだった。

「あ、ああ」

 断るのも失礼だと思い、申し出を受けることにする。

 何か、良くない深みにはまっていくような嫌な予感がしながらも。

 後になって思えばこの時無理にでも帰っていれば、この後の惨劇に遭わずに済んだのだ。

 

 

「俺、この家に来るたびに泊まりになっている気がする」

 今回もまた天馬理事長の提案により俺は柏崎家に泊まっていくことになった。2回続けて同じ展開だ。

「まあ、親切で言ってくれているんだし、悪い気はしないよな」

 自分を納得させてウンウンと頷く。

「この後、理事長の酒に付き合わせられるのは面倒だけどな」

 理事長は酒癖が悪く、しかもすぐに酔って寝てしまうという難儀な性質を持つ。

 予想される気苦労に軽くため息が吐き出されてしまう。

「難しい話は風呂に入ってから考えよう」

 銭湯並に広くて豪華な柏崎家の風呂は心躍らせてくれる。

 ちょっとウキウキしながら風呂場へと入る。

「さあ、リフレッシュするか」

 体をのんびりと洗い始める。

「やっぱり広いお風呂は気持ちよくていいなあ」

 体を自由に曲げ伸ばしできる広いスペースって素敵だ。

 星奈の家で一番くつろげる瞬間。独りきりになれる瞬間が一番良いってのはちょっと問題かも知れないが。

 

「えっ?」

 風呂の入口に人が立っているのが見えた。

 まさか星奈が!?

 と、ちょっとドキドキしたのは最初の1秒だけ。

 星奈にしてはあまりにも筋肉隆々過ぎた。胸がペタンコというか胸板厚だった。

 手拭いで前を隠すこともせず堂々と近付いてくる人物。

「理事長っ」 

 現れたのは星奈の父親の方だった。

「ハァハァ。小鷹くん。ハァハァ。私が背中を。ハァハァ。流してやろう。うっ、うえぇええええぇっ!?」

 俺に近付くなり気持ち悪そうにフラフラになっている理事長。

「理事長っ、すごく酔っ払ってるじゃないですか!」

 理事長は明らかに酒臭かった。

「何か今日は、君の顔を見た時から妙な気分になってね。その違和感を打ち消す為に酒に頼ってみたのだが、おぇええええぇっ!?」

「大丈夫ですかっ?」

 倒れそうになる理事長の脇から手を入れて支える。

 浴室で全裸のまま転倒されたら大変だ。

「こっ、小鷹くん。私を助けてくれると言うのだな。感動だっ!」

 理事長が感極まって抱きついてきた。熱い抱擁。えっ?

「理事長、はっ、放してください」

 懸命に理事長を引きはがそうと頑張る。しかし、酔っ払いとは思えないほどに強い力で理事長は抱きついており、離れない。

 いや、これはもしかして俺の力が弱まっているんじゃないか?

 でも、一体何故?

「ハァハァ。小鷹くん。う~ん、いい匂いだ。ハァハァ。り、理性がもう……」

「ちょっ!? 男に向かっていい匂いって、何かやばいっすよ、それっ!?」

 必死に逃れようとする。だが、酔っ払いの抱きつきが解けない。絶対、俺の力が弱くなっている。

 その原因を考えた時、突如理科が脳裏に思い浮かび上がった。理科が俺にかけた香水が更に思い浮かび上がる。

「あの、香水かっ!!」

 この一連の犯人、というかトリックに思いが至る。

 あの香水は男を性的に引き寄せ、俺の力を弱体化させる効果を持っていたのだ。

 俺は友達が少なくて普段男と会話することはない。後は柏崎家に呼べば理事長が俺に狂うのは高確率で発生することだった。

 そして理事長とその娘に対して個人的連絡チャンネルを持つ理科にとってそれをセッティングするのは容易なことだった。

 そして、理科が何故そんなセッティングをしたのかと考えれば……。

 

『そうですよ。枕営業で体を捧げてしまえば、試験なんてどうとでもできます。成績トップも余裕ですね』

『枕営業で体を捧げるっ!?』

 

 理科との会話を思い出して心臓がザクッと刺されたような衝撃を受けた。

「まっ、まさか……」

 全身がガタガタ震える。その可能性を打ち消したくて。

 でも、理科によって作られた”現実”は俺にとって優しくなかった。

「ハァハァ。小鷹くん。私はっ、私はぁああああぁっ!!」

「やっ、やめてぇえええぇっ! 星奈ぁっ! ステラさんっ! 誰でも良いから助けてぇえええええぇっ!?」

 大声で助けを叫ぶ。だがこの広い屋敷で俺の声が誰かに届くことはなかった。

「長かった抑圧よ、サラバだっ! マッスル・ドッキングッ!!」

「ユニバ~~~~~~~~~~~~~スッ!?!?!?」

 

 沙羅双樹の花が、散りました。

 

 

 

 

「小鷹に試験の順位で負けるなんてチョーショックだわ。一体、どんな勉強方をするとあんな点数が取れるって言うのよ?」

「………………実力、じゃないかな?」

 試験の成績順位表を見ながら星奈が憤慨している。

 

 1位 羽瀬川小鷹  10万630点

 2位 柏崎星奈      895点

 

 俺は入学以来1度もトップを譲ったことがなかった星奈の点数を上回った唯一の生徒になった……少しも嬉しくないけれど。

「そんな勿体つけてないで勉強のコツを教えなさいよ」

「そうだな……全身を隅々まで使った努力のおかげさ」

「そんな説明じゃ訳分かんないってのっ!」

 星奈はまだ憤慨している。俺の顔を覗き込んで犬歯をむき出しにして威嚇している。

星奈は俺の顔を見つめ込みながら表情が一変した。急に頬が赤くなった。

「小鷹……アンタ、なんか綺麗になってない? あっ、あたしには劣るけど、夜空や幸村以上に美少女っぽく見えるって言うか」

「…………そうか?」

「そうよっ! 絶対に綺麗になってるってば! 男の癖に、ヘタレヤンキーの癖に美少女なんて生意気よっ! 一体、その秘訣は何なのよぉ~~っ!」

 星奈は大声出して悔しがり続ける。

 それに対して俺は何も答えなかった。

 そんな俺たちのやり取りを理科がとても澄んだ、やり遂げた瞳で優しく見守っていた。

 

 

 了

 

 

 


 
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