No.536239

魔法少女リリカルなのは -九番目の熾天使-

第二話 お人好しな喫茶店

2013-01-26 12:56:56 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:4040   閲覧ユーザー数:3742

 

 

 

 

 

 

「困った……」

 

 体が小さいとここまで不便だとは思わなかった。

 

 金はあっても戸籍も住民票も無い身では家も買えずホテルも泊まれない。

 

 本当に……困った。

 

 さすがに世間の厳しさは知っているので、誰かが助けてくれるとは思っていない。

 

 さらに小学生ぐらいの年齢なので、平日に動き回っていると警察に補導される可能性が大だ。

 

 取りあえず、銭湯には入れるので、服とタオルを買って入る事はできた。

 

 やはり風呂には入りたいよな。

 

 しかし、根本的な問題が解決した訳では無い。

 

 何処か定住地を探さないと色々と厄介事が増える。

 

「取りあえず、喫茶店で一息吐くか……」

 

 少なくとも、20年は遊んで行けるお金があるので喫茶店ぐらい問題無い。

 

 最低でも5,6年もすればバイトぐらい出来るだろうしな。

 

―――カランカランッ

 

「いらっしゃいませ……あら? 可愛いお客さんね」

 

 取りあえず通りがかった喫茶店に入ることにした。入ったら美人お姉さんが接客をしてくれたので俺の気分は頗る良い!

 

「一人……カウンター席で」

 

「はい、かしこまりました。あちらの席へどうぞ♪」

 

 なんか微笑ましそうに見ていたが、気のせいだろうか……?

 

「いらっしゃい。僕は翠屋のマスターだよ。ご注文は?」

 

 へぇ、結構若いんだな? 歳は……20半ばから後半ぐらいか?

 

「コーヒーをブラックで。あとは……チーズケーキを一つ」

 

「えっ? 本当にブラックでいいのかい? かなり苦いよ?」

 

 問題無い。こちとら大学生なんだ。元……だけど。

 

 まあブラックは正直あまり好きではないが、今回は色々考えないといけない事があるのでそのためだ。

 

 因みに、俺が好きなのはエ○ラルドマウ○テンの微糖だ!

 

「構いません。飲み慣れているので」

 

「そ、そうかい? なら……」

 

 マスターさんも納得してくれたみたいだし、今日は色々考えよう。

 

 先ずは住まいからだ。

 

 こればっかりは本当にどうしようもないので、ホームレス……ではなく、野宿をしよう!(←意味は変わっていない)

 

 次に衣服と食事。これは金があるので問題無い。

 

 そして今回最大の問題……昨日の女の子だ。

 

 そもそもオーディンはISの世界に送ると言った筈だ。っていうか、ISすら殆ど知らない。

 

 だけど、少なくともロボ関係が出てくるのは知っている。

 

 今日の朝、街を見回るとそんな雰囲気や兆候はカケラも無かった。

 

 そしてあの女の子が放った未知のエネルギー……。ルシフェルでも解析不能というのは、少なくとも運動エネルギーや光、熱、それら以外のエネルギーということになる。

 

 とすれば…………いや、待て。

 

 そもそも俺は根本から思い違いをしているのではないか?

 

 この世界は本当にISの世界なのか?

 

 もし、神が悪戯心で行き先を変えたら?間違えて別の世界に飛ばされたら?

 

 それならば素直に納得できる。

 

 女の子もIS無しに飛んでいたのだから。

 

 結論、この世界はISの世界である確率が低く、魔法関係の世界である事が高い。

 

「すいません、今度はアールグレイとミルフィーユで」

 

「はい、かしこまりました」

 

 ふむ・・・結論が出たところで今度はティータイムとしゃれ込もう。

 

 しかし、本当にこの店のコーヒーやケーキは美味い。

 

 前の世界で食べた物を遙かに凌駕している。

 

「ただいまー!あれ?お客さんは・・・一人?」

 

「あら、お帰りなのは。ええ、今は一人みたいよ。ふふ・・・なのはと同い年くらいの子ね」

 

 ん?客はいつの間にか俺一人になっていたみたいだn・・・・げっ!?

 

「こんにちは!私、高町なのは!よろしくね!」

 

 そこには、昨日の女の子が俺に向かって笑顔を振りまく。

 

 よろしくしねぇよ!? 勘弁してくれ・・・また新しい問題が出てきたじゃないか!

 

 折角この喫茶店の常連になろうと思ったのに!!

 

 あ、でも・・・バレなければ良いのか?

 

 見られたのはセラフの姿だけだし。

 

「ねぇねぇ、あなたのお名前は?」

 

 そしてこの子しつこい!俺の名前を聞いてどうする!?

 

「・・・・・」

 

 取りあえず無視!俺はアールグレイを飲んでケーキを食べる。

 

「ねえ?・・・ねえったら!」

 

「・・・何?」

 

 あまりにもしつこいので目一杯嫌そうな顔をして返事をしてやった。

 

「うぅ・・・そんな嫌そうな顔をしなくても・・・。あのね、あなたのお名前を教えて欲しいんだけど?」

 

「何で?」

 

「え? いや・・・あの・・・・」

 

 そう言って口ごもる高町。こんな返し方をされるのは予想外だったんだろうな。

 

 俺はこの店が気に入った。だが、仲良くするつもりはない。

 

 特に今一番の問題である子とはな。

 

「こらこら、君が興味ないとはいえ、女の子から先に名乗ったんだ。名乗り返すのが筋だと僕は思うけどね?」

 

 ……確かに正論だ。

 

「はぁ…………篠崎煉だ」

 

 仕方ないから名乗った。よし、義理は通した。あとはゆっくりとティータイムを「そうなんだ。学校は何処に通っているの?」……。

 

 しまった……この辺りにどんな学校があるなんて調べていなかった上に聞かれるとは思わなかった!

 

 あ、いや……警察に補導されるかも知れないと思った時点で調べておけば良かった……

 

「…………」

 

「?どうしたの?」

 

「いや……別に」

 

 どうやって誤魔化そうか?いや、本来なら教える義理もないので突っぱねればいいだけか?それはそれで罪悪感が・・・

 

「で、何処なの?」

 

「……行ってない」

 

「え?」

 

 ぶっちゃけました。

 

「君、学校へ行ってないのかい?」

 

 おおっと、マスターも食いついてきたか。ま、普通はそうだろうな

 

「ええ」

 

「何故? 親は?」

 

「親? 親ならとっくの昔に死んでますが?」

 

「えっ?」

 

 前の世界の話だけどね?俺が小さい頃に事故で死んじゃったし。

 

「その・・・すまない」

 

「いえ、気にすることも無いですし、親の顔はもう覚えてませんので」

 

 これは事実である。俺はもう親の顔を忘れた。薄情かもしれんが、昔の事だからな・・・

 

「じゃあ、今一人かい?」

 

「はい。ですが、お金は親が残した物があるので、成人になるまでは十分に生きていけます。それに、あと何年かしたらバイトも出来るので」

 

 さて、話しすぎたようだ。そろそろ出るか・・・

 

 そもそもこんな話をして俺を引き取ろうとするお人好しなんて居るわけが無い。

 

 俺は席を立ち、代金を払って出ようとすると、

 

「待ちなさい。煉君と言ったね? どうだい、僕達の養子になってみないか?」

 

 いたーーーーーー!? 本当にお人好しがいたよ!?

 

 まさかの発言に俺は驚いて思わず振り返ってしまった。

 

「あなた……馬鹿ですか?」

 

「馬鹿とは酷いな?」

 

 大馬鹿だよ!

 

「そもそも子供を一人養うのにどれだけお金が掛かると思っているか知らない訳じゃ無いでしょう?」

 

「ああ、勿論知っているさ。私達にはなのはを含めて三人の子供がいるからな」

 

 あと二人もいるんですかい。

 

「大丈夫だ。こう見えても蓄えは結構あるんだ。で、どうだい?私としては歓迎するよ?なのはもいいだろう?」

 

「え?あ、うん!」

 

 おいそこの小娘、お前・・・他人が家に転がり込むのに抵抗は無いのか!?

 

「なのはもこう言っているが?」

 

「まったく……本当にお人好しなんですね? こんなお人好し、初めて見ました」

 

「そ、それじゃあ!」

 

 高町が目を輝かせて期待しているが、悪いな?

 

「お断りします」

 

「ええ!?何で!?」

 

 俺は別に必要最低限の生活が出来たら構わない。あとは何かしらの刺激を求めるだけだ。

 

「理由を聞こうか?」

 

「必要性が無いからです。俺は高校卒業レベルの知識はありますし、お金もある。暮らしていくのにそこまでの不自由はありません」

 

「しかし学校に通っていなければ警察にも問われるし、それにその年齢では不都合が事もあるだろう?」

 

 どうあっても俺を養子にしたいのか?

 

 しかし、彼の言っている事は事実だ。

 

「それに……俺は」

 

「ん?」

 

「必要以上に人と関わるのが嫌なんですよ」

 

 多少の事なら我慢できる。いや、そうしないと生きて行けないのは知っている。だから必要以上の関わりは断ち切ってきた。

 

 今までも友人が出来た事はあまりない。

 

「君は・・・どうしてそんなに人と関わるのが嫌なんだい?」

 

「簡単な事です。自分と合わなかったり気を遣ったりするのが面倒だからです」

 

 最低限の付き合いさえ出来れば生きては行ける。

 

「あら、どうしたのあなた?」

 

 そこへ最初に接客してきた女性がやってきた。

 

 呼び方から察するにこの人の奥さんか? 若過ぎじゃないか?

 

「ああ、桃子か。実はこの子は親が居ないらしくてな。家で引き取りたいと思っているんだが?」

 

「まあ! いいですよ! 家で引き取りましょう!」

 

 おい待て!まるでペットを飼うみたいな感じで簡単に了承するな!!

 

 俺は了承していないぞ!? そしてマスター! お前、ニヤリッって笑うな!!

 

「ちょっと? 俺はまだ了承していな「さ、部屋はこっちよ?しばらくはなのはの部屋に泊まってね? なのはも良いよね?」っておい! 何をする!? HA☆NA☆SE!」

 

「え? あ、うん・・・」

 

 お前も了承するな!!

 

 ま、待て! 離せ! 腕を掴むな! いやぁああああああああああ!!!

 

 


 
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