No.532325

すみません。こいつの兄です。48

妄想劇場48話目。漫画では何度頑張っても描けなかったヤンデレです。ヤンデレホラー行きますよー。

最初から読まれる場合は、こちらから↓
(第一話) http://www.tinami.com/view/402411

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2013-01-15 22:39:49 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:1148   閲覧ユーザー数:1030

 家に帰った俺を、心配そうな顔をした妹が迎えた。

「にーくん。美沙っちに押し切られなかったっすか?」

「押し切られはしなかったが、話も聞いてもらえなかった」

「困ったモンすね」

妹は、ベッドの上にあぐらをかいて首をひねる。こいつ、わりと俺のために真面目に頭をひねってくれているんだな。

 そうだ。紅茶を淹れてやろう。真奈美さんの書いてくれたレシピを持って、台所へ行く。

「軟水…か」

冷蔵庫を見るとエビアンしかない。バキバキの硬水だ。しかたない。わざわざ家を出て近くのドラッグストアで信州のなんたらという軟水を買って来る。

 ヤカンでまず水道水を沸かしてポットとカップを温める。次に、軟水を沸かす。ティーコージーはないから、タオルを持ってきた。真奈美さんマニュアルによると、とにかく出している間にポットを冷まさないのが重要らしい。

「えーと…」

真奈美さんマニュアルに従って、お湯をポットに注いでカウントダウンスタート。ここから百七十七秒。腕時計のタイマーでカウントダウンしながら、トレイに載せて階段を上がる。

 部屋では、まだ妹がベッドの上で胡坐をかいて、腕を組んで眉根を寄せていた。

「まぁ、そんなに悩むな。ほれ、紅茶飲むか?」

「…わざわざ淹れたんすか?ティーバッグじゃなくて?」

「真奈美さんに、上手い淹れ方を教わって来たんだ」

時間になって、カップに注ぐ。俺の分と、妹の分と。最後の一滴は妹の方に…。

「いろいろとありがとな。真菜」

「へ?」

「いや、美沙ちゃんのことで、けっこう手間かけたり心配かけたりしてるだろ」

「…あー。いやー。まー。ぐへへへ」

そのまま、妹がぐにゃーっとベッドの上に横に倒れていく。あいかわらず骨の入ってないやつだ。

「でもにーくんー。早いとこ、アレはなんとかした方がいいっすー」

「そうだなー」

俺もそう思うんだけど、なにぶん美沙ちゃんが可愛すぎて少し油断すると、このままでもいいんじゃないかと思ってしまう自分がいる。

「クリスマスが来るっすしねー」

それはマズい。女子力マックスな美沙ちゃんがクリスマスをスルーするはずがない。このままクリスマスが来たら、なし崩し的に恋人にされる。

「たたみかけるように、大晦日と初詣が来るっすよ」

「初詣か…」

急に天啓がひらめいた。

「そうだいいこと思いついた。お前、美沙ちゃんを誘ってバイトしろ!」

「は?」

「クリスマスはケーキ屋さんでバイトしろ。そして正月は神社でバイトしろ。巫女さんだ。美沙ちゃんを必ず誘え!」

そうすれば、美沙ちゃんはバイトで忙しい。バイトしているところに、ちょっと顔を見に行けば角も立たない。だがデートではない。しかも美沙ちゃんのミニスカサンタ姿と巫女装束が見れる。神!神の計画だ。

「…にーくん?」

「ぐふふ…なんと、この俺の頭の良いことよ」

「んー。たしかにいいアイデアだとは思うっすけどー」

「なにか問題があるのか?」

「にーくんばっかり、得をしないっすか?なにか、こう…私にもいいことが…」

「分かってる。なにをして欲しい?なんでもいいぞ」

「結婚」

「法律で禁じられているからな。そういう冗談はやめろ」

「…んー。じゃあ、なんでも一つ言うことをきく券を十枚発行するっす」

「じゅ…十枚か?」

こいつに、十枚もそんなものを発行して大丈夫だろうか?いや、最近、けっこうまともだし大丈夫かもしれない。それとも真奈美さんや美沙ちゃんがクレイジーすぎて、この妹でもまともとか思っちゃうくらいになっているのだろうか。基準値がずれた。

「ご、五枚にしておかないか?」

「八枚っす」

「六枚」

「八枚っす」

「わかった」

しかたない。こいつには、たしかに世話になっているしな。

 机に向かって『なんでも言うことをきく券』を書く。A4の紙を縦に四分割、横に半分にして八枚だ。

「紅茶、美味いっすね」

「だろ。さすが真奈美さんマニュアルだけあるよな」

「マニュアルのあるものなら、私はパーフェクトなはずっす」

こいつは、なにを張り合っているんだ。

「でも、料理は駄目っす」

「超記憶力でレシピ本を丸暗記すればいいじゃないか」

「あー、料理本ねー。あれ、駄目っす。『大さじ一杯』とか『少々』とか『適量』とか『一個』とか、マニュアルになってないっす」

「一個がだめなのか?まぁ、他の単位は俺も以前から疑問に思っていたけどな」

「トマトとか、大きさにばらつきがあって三十パーセントくらいは楽勝で大きさの違いがあるっす。それを三個とか言われたら、一個くらいの誤差が出るっす」

「そうだな」

「私、ずーっと、大さじってのはカレーを食べる大きなスプーンのことで、小さじってのはティースプーンのことだと思ってたっす。実はあれ違うらしいっすよ」

俺も具体的に大さじとか、小さじとか言う単位は分かってなかったが、カレーを食べる大きなスプーンじゃないことは想像がついていた。うちの母親は、料理をするとき適当に調味料を入れているみたいだからな…。そういえば、真奈美さんも別に細かく計ってるようには見えない。あれはどうなっているんだろう。

「お前、なんであんなに雑なのに料理だけそんなにきっちり計りたがるんだ?」

「なんか、間違うと消毒とか熱変化が足りなさそうっす」

こいつの頭の中では、どうやら料理は化学実験の一種らしい。加熱調理というのは食品の化学的な性質を変化させるためにやっているはずなので間違いではないが、女子観点では間違いまくっている。

 そのとき、母親の声が階下から聞こえてきた。

「真菜ー。直人ぉー。お風呂空いたから、入っちゃいなさーい」

風呂の順番が来たことを教えてくれる。うちの風呂の順番は、だいたい母親、俺か妹、最後が父親だ。日本の伝統的には間違っているが、夜中の十一時過ぎに帰ってくることもある父親を待っているわけにもいかない。

「にーくん、先にいいっすよ」

「ああ、すまんな」

ベッドの上の妹を押しのけて、押入れから下着とパジャマを取り出す。妹ルーム崩壊までは、ベッドの上にパジャマは置きっぱなしだったのだが、部屋に帰ってきたときに妹のパジャマと俺のパジャマが並んでいるのは、なんだか変な緊張感をもたらす。だから衣装ケースに毎日しまうことにした。

 

 着替えを持って一階に降りる。

 

 風呂場に入る。寒い。髪と身体をざざっと洗って、湯船に浸かる。お湯の温かさに神経と身体がほぐれていく。ふへぇええ。

 日本の家長制度なら父親が一番先に風呂に入るはずなんだよなぁと思う。昔の父親って、暢気だよな。他の家族が風呂を待てるくらいの時間には家に帰ってきてたんだからな。えらそうにしてるくせに残業もしなかったのだ。なんてやつらだ…。そして、こうして俺が風呂に入っている時刻になっても、まだ働いている親父を思う。家族にでかい顔もせず、生きている時間のほとんど全部を仕事に費やしている父親には敬意を払う。同時に呆れる。なんのために生きているんだろう。家族のためか?いつか俺も、家族のためだけに生きている時間を使う日が来るんだろうか。生きている時間の全てをささげるほど、だれかを愛したりするんだろうか…。

 誰を?

 美沙ちゃん?…美沙ちゃんから逃げようとしている俺がそんなことを思うこと自体許されない。泣かせた俺が、後からへらへらと美沙ちゃんと仲良くしようなんてのも勝手な了見というしかない。俺の人生に、美沙ちゃんエンドはもうない。俺は美沙ちゃんの横にならぶ資格を現在進行形で失っている。

 それじゃあ、妹が言うみたいに一生結婚もしないで妹と暮らすのか…。俺はそうかもしれない。なにせ父親の生き方が理解できていないのだ。永遠に家族のために一生働く覚悟が決まらないってのは十分にありうる。

「だけどなぁ…」

意識せず口に出す。

「…真菜は、結婚するんだろうな。幸せな結婚をするといいな。あいつ…。まぁ、アタマのおかしい連中が多くて、けっこう美少女って評判だったりするし、優しくて度量の大きい相手がいればうまくいくだろ。あのクレイジーなあいつを受け流せるみたいな…」

妹が結婚するなんてことまで考えてしまった。

「なにを考えているんだ。アホか俺は…。親父じゃあるまいし」

だから妹エンドもない。最初からあるわけない。やはりアホになっている。まずい。エロゲとギャルゲのやりすぎで、脳が破壊されているかもしれない。

 じゃあ、真奈美さんエンドか?

 ウェディングドレスのケープをめくると前髪が出てくるシーンを想像する。それもない。

 じゃあ、だれだろ。

 三島…。亭主関白からは程遠い。今はヴェロキラプトルだが、あと数年したらティラノサウルスになっているだろう。ティラノというのは「暴君」という意味だ。関白の出る幕ではない。三島との未来はディストピアだ。

 ……。

 つば…。

「まぁ、まだ高校生だしな!大学生になってから素敵な出会いとかある!」

デンジャラス極まりないバッドエンドへと思考が飛びそうになって、無理やり思考を断ち切る。お風呂でのんびりしすぎて、神経緩みすぎた。脳神経まで緩んでいる。おつむのネジが緩んでいる。

 

 風呂から上がる。脱衣所の様子をうかがう。安全確認をしてからドアを開けて出る。妹が俺の後に入る順番だと、あのバカはたまに脱衣所に突撃している。だから安全確認は大切だ。なぜ兄が妹に着替えを覗かれなくては、いけないのだろうか。

「にーくん、待つっす」

脱衣所を出たところで待ち伏せしていた妹に捕まる。

「どうした?」

「音を立てずについてくるっす。いいっすか、絶対に声を出しちゃだめっすよ」

わかった。妹の真剣な表情に無言でうなずく。

 妹が先に階段を上がる。さっと右手を挙げた。「待て」のサインだ。部屋のドアをはさんで、両側にしゃがむ。静かに音を立てないように妹がゆっくりとドアノブをまわす。テロリストのアジトへの人質奪還作戦だろうか?すっとドアを開き、中をうかがうと妹が挙げていた右手をゆっくりと前に倒す。「クリアー、進め」のサイン。

 匍匐で妹が部屋に入っていく。

 そして、ベッドの下へと潜っていき、そこで止まる。

 こっちを振り返り、アイコンタクトを送ってくる。俺は軽くうなずく。妹が手招きし、人差し指を口に当てたまま、ベッドの下を指差す。

 そこには小さな見慣れない器具が貼り付けてあった。

 なんだ、これは?

 アイコンタクト。妹がうなずき、ベッドの下から這い出る。俺も続く。

 妹は、パソコンを起動し音楽プレーヤーを立ち上げた。そして、お気に入りのデスメタルを再生して音量を上げる。そして、俺の横に座り耳に口を寄せる。

「見たっすか?」

ささやき声。俺もささやき声で返す。

「見た。なんだあれ?」

「これっすよ」

妹がパソコンの画面を指差す。ブラウザには盗聴器のカタログが写っている。

「なに?!」

「声が大きいっす。あのバグ(盗聴器)はまだ生きてるっす」

こいつ、どうしてそういう専門用語を知ってるんだろうな。

「いったい誰が?」

「聞くまでもないっす」

「…美沙ちゃん…か?」

「どうりで、私が部屋から追い出されなかったわけっす」

監視されているのか。俺は…。いや、俺たちは…。

「外そう」

「それは、あまり賢いとは言えないっす」

さすがだ。

 つまり、こういうことだ。ベッドの下の盗聴器がついている間は、こちらは美沙ちゃんの手の内の一部を知っている。そして、美沙ちゃんはこちらが盗聴器に気づいていることを知らない。しかし盗聴器を外せば、俺たちは美沙ちゃんの行動の中で俺たちが知っていることを失い、さらに美沙ちゃんにこちらが盗聴器に気づいたことを教えるということになる。

「外すことにメリットはないのか」

こくり。妹がうなずく。妹をあらためて頼もしいと思う。俺は恐怖に負けて冷静ではない判断を下すところだった。まったく兄として恥ずかしい。

「むしろ、これをわかった上で次の手を打つ方が懸命っす」

そう言うと、妹はドアを蹴り開けた。意図に気づいて、俺が大きな声で言う。

「真菜ぁー。風呂、空いたぞ。入って来い」

「わかったっすー」

妹がパジャマと着替えを持って、部屋から出て行く。

 

 さてと…どうするべきか?

 

 普段どおりにするべきだ。普段の俺なら、なにをする?

 普段の俺なら、フルボイスのエロゲをやるよな。フルボイスの…。ベッドの下には盗聴器。

 だめだ。

 しかたない、エロ漫画でも見ようか…。だめだ。エロ漫画は取り上げられたんだ。そこで、ふと気がつく。妹の机の上に積みあがっている本だ。あのA5サイズといい厚さといい、間違いなくエロ漫画だ。美沙ちゃんが取り上げていかなかったエロ漫画。

 そっと手に取る。

 開く。

《お兄ちゃあん。りゃ、りゃめぇええー。な、なんか変なのぉ》

 閉じる。

 ご丁寧に妹と同じ髪型の妹キャラが、お兄ちゃんとエッチしていた。こんなもの読めるか。万策尽きた。

 ………。

「あっ。そうだ!」

ふと思い出して、コートのポケットを探る。封筒が出てくる。美沙ちゃんに渡された封筒だ。なにをくれたんだ?

 中から、さらに小さい封筒と折りたたんだ便箋が出てきた。まず、便箋を開く。丁寧な読みやすい字が何行かしたためられている。

 

 お兄さんへ、

 

 お兄さんの大事な漫画とゲームを取り上げちゃってごめんなさい。だけど、あれは絶対にダメです。ゆがんでます。愛が入っていません。愛が入っていないのは、いけません。

 どんな女の子でも、あんな変態なものを好むお兄さんには愛想を尽かすと思います。ドン引きです。男の人が女の子にいやらしいことをしたいって欲求を持っているのは知っています。それにしても、あれはありません。異常です。

 このままだと、お兄さんは孤独死です。築三十年のアパート二階の畳の染みになって終わります。一階の人に迷惑だと思わないんですか!?

 でも、お兄さんはラッキーです。私がいます。

 お兄さんには、もう私しかありません。私は、触手趣味もスク水趣味も認めてあげます。だけど、私以外の女の人の絵で興奮しているのは許せません。だから漫画とゲームを取り上げました。次やったら切り落とします。

 この写真をあげます。これからは、こっちを使ってください。これ以外は使用禁止です。約束を破ったら切り落とします。

 

お兄さんの美沙より、

 

PS:絶対に他の人には見せないでください。

 

 いろいろグッと来る。とりあえずエロゲをプレイしなくて良かったことだけは、ビンビンに伝わってくる。

「こ、この写真…って、なんだ?」

机の上に置いた小さなほうの封筒の周りに、ゴゴゴゴゴゴというカキモジを幻視する。開けていいのだろうか?なんだか、これを開けたら二度と引き返せないような気がする。

 しかし、操られるように俺の手は封筒を開けている。中から、五枚の写真が裏返しで出てきた。唾液を飲み込んで、そっと一枚目をめくる。

「うおっ」

美沙ちゃんだ。

 美沙ちゃんが、いつか一緒に買いに行った水着を着た写真だ。背景は美沙ちゃんの自室と思しき室内。おそらくセルフタイマーで撮ったのだろう。ちょっと照れた表情と、室内でセパレートの水着という非日常感がすごくいい。

「こ、これは…」

これは、たしかにゲームや漫画の比ではない。というか、美沙ちゃん本人というのはチートすぎる。美沙ちゃんは、可愛さに関連する全パラメータが最初から最大値に設定されてる。255が並んでいる。チートキャラだ。こんなもの見せられたら、漫画やゲームなんてどうでも良くなっちゃうだろう。謝れ!徹夜で作画した漫画家さんと、残業に告ぐ残業で開発したゲーム屋さんに謝れ!

 他にも何枚かあるな。

「ぐあっ」

 大きくのけぞり、ベッドのマットレスでバウンドして戻る。

 二枚目はスク水だった。中学生のころのモノだろうか?うちの高校のは競泳水着みたいなタイプだから、こんなにベタなスク水ではない。Dカップにスク水。しかも室内で美沙ちゃん!だめだ。神の一枚だ!オーディションにかけたら、モナリザより高値がつくこと間違いない。この家にセコムを頼まなくていけない。この写真を入れたジュラルミンケースは、手錠で俺の手首とつないで運ばなければならない。

「さ、三枚目は…」

震える指で、写真をめくる。

 呆れた。

 まったく美沙ちゃんは、俺をなんだと思っているんだ。スク水でアルトリコーダーを吹いている写真だ。こんなことされたら、反応してしまっても仕方ないじゃないか。本当に、俺のことをなんだと思っているんだ。すばらしすぎて、気絶しそうだ。

「よよよ、四枚目はなんなんだ…」

パジャマのズボンがパビリオン化しつつあるのを意識しながら、そっと四枚目をめくる。

「ええっ!?」

これはだめだっ!スク水の美沙ちゃんが、制服の上だけを着てベッドの上で体育座りをしている。きれいな脚のラインと太ももの白さ、そして女の子の自室のベッドの上でスク水+制服。コンボだ。俺の背後にコンボアタックのダメージ数がカウントアップされる。脳髄から痺れる。しかも、照れて恥ずかしそうに上気した白い頬と表情。ベッドに仰向けになって、目の前に小鳥が回転する。いわゆるピヨり状態。

 どうなってんだ美沙ちゃん!

 死ぬよ!

 もうだめだ!俺は死ぬ!美沙ちゃんが可愛すぎて死ぬっ!

 だめだ。五枚目は見れない。五枚目を見たら、俺は死ぬのだ。今、この可愛さを見て生きているほうが奇跡だ。

 ぎしっ。

 階段のきしむ音。

「うあっ!やばいっ!真菜が来る!」

超速度で封筒を手に取り写真を戻す。枕の下に封筒を送り込むと同時にドアが開く。うつぶせになって枕とその下の封筒を抱きしめる。

「お、おぅ。あがったか?」

声が一オクターブ高い。完全に挙動不審。

「……」

妹の目が俺を見て、すすっと机の上に移動する。しまった。本の位置が変わっている。

 妹モノのエロ漫画の位置が変わっている。兄がキョドっている。うつぶせでベッドから動かない。この組み合わせからの推理。

「真菜…ちがうぞ。お前が思っているようなことではないからな」

「……」

「事実は、いつも意外なものなんだ。簡単に推理できるものじゃない。その本はトラップだ。お前の推理をミスリードするためのトリックなんだ」

「……」

「おねがいです。なにか話してくださいませんでしょうか、真菜さま」

「……」

妹が、にっこり笑って親指を立てた。ウィンク。きらっ☆

 ちがう。そうじゃないんだ。うちのお兄ちゃんに春が来たみたいな顔しないでくれ。

「真菜っ!ご、誤解するな!」

がばっと起き上がる。

「うきゃっ」

しまった!パジャマ・ズボン・パビリオンだった。

「ちが…」

進退きわまった。そのとき、妹の携帯が鳴る。

「美沙っちっすー。ほいほーい。どうしたっすかー」

どうしたもこうしたもあるか、こんなタイミングで電話して来れるなんて、一つしかないだろう。今回ばかりはニュータイプ能力とか人の革新とかじゃない。

「いやっすー。もうお風呂入って、パジャマ着ちゃったっすー。それは知ってるっすー。大丈夫っすよー。まだ二日目っすしー。いくら、にーくんでも大丈夫っすー。わかったっすー。伝えておくっすー」

ぴっ。通話終了。

「にーくん」

「お、おぅ」

「私に、変なことしようとしたら切断するそうっす」

「な、なにを?」

「たぶん、ナニをっす」

「そうか、ナニをか…。そんなこと言われなくても、別に実の妹に変な気を起こしたりしないからな」

「そうっすか?」

「実の妹じゃなくても、垂直落下なだらか体形には興味ないからな」

「ちょっとは隆起してるっす。たしかめるっすかー?」

ぴぴぴぴぴぴ。妹の電話が鳴った。

「ほいほーい。美沙っち、なんすかー」

お前、よくそんな普通に話せるな…。メンタル強ぇよ。

「…ひぅ…わ、わかってるっすよぉー。落ちつくっすよー。やーだー」

そうでもなかった。

ぴっ。通話終了。

「にーくん…居間で、ちょっとアニメ見て来るっす。三十分は絶対部屋にもどって来ないっすから、好きなことしていいっすよ」

妹は震え声でそう言うと、俺の本棚から頭足類の格好をした女の子が侵略してくるdvdを持って階下に降りて行ってしまった。ある意味、触手アニメだ。

 そんな、あからさまにお時間作っていただいて、ナニができるか。

「はやく、アイツの部屋直らないかなぁ…」

 

(つづく)

 


 
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