No.530265

【ロボノ】無自覚の、自覚【スバ+フラ】

ともちさん

原作12章のカイアキ前提で、昴視点です。カイ←こな、アキ←昴ネタがあります。

2013-01-10 22:03:20 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:955   閲覧ユーザー数:955

 

 

【注意】

・原作12章の昴視点です。

・カイアキ前提のスバ+こな話です。

・カイ←こな、アキ←昴ネタがあります。

 

 

 

【無自覚の自覚】

 

 

 

 明日世界が終わるというのに、それとも明日世界が終わるからか、こんな切羽詰まった状況だというのに、女子たちは他人の恋の話題で盛り上がっていた。噂の中心は、部長と八潮先輩だった。なんでもさっき、空港で告白したとかキスをしてたとかで、どの程度の信ぴょう性があるかわからない噂だった。

「そんな話をするくらいなら、とってと手を動かしてなさい!」

 女子のリーダー格の人間がそう言って、みんなを叱り付ける。こういう場にそういう責任感が強い人間が一人でもいてくれるのはありがたい。

女子たちはさっと無駄話をやめて作業に戻った。とはいっても、ロボ部以外の人間には、ロボットに触るのすら初めてだ。力仕事を覗くと、できる事は食事の用意や、車のガソリンのチェックや、ネジの確認など、細々したのばかりになる。

「あの、次はどうしたらいいんでしょうか?」

直ぐに手の空いた人が、声をかけて来た。マニュアルすらないからしょうがないのだけれど、一々聞かれているとこっちもまいってしまう。今は一体誰がどの作業までいったんだろうか。頭が混乱したまま動かない。何も指示を出せないでいると、大徳先輩が向こうから駆け足でやってきた。

「手、空いてるのかな……? 向こう、手が足りないからちょっと何人か手伝って欲しいんだけど、いいかな?」

 何時ものように控えめに頼むと、相手は「わかりました」と短く返事をして、周りの人間に声をかけると教頭先生がいる方に向かって行った。

「日高くん。大丈夫? なんだか顔色悪いよ……」そう言って、大徳先輩が顔を覗き込んで来た。そういう大徳先輩の顔にも微かだが疲れの色が浮かんでいた。

 そもそも、人手不足は解消されたものの、知識を持った人間が圧倒的に少ないのだ。

 部長は働きすぎたら発作が出てしまうし、八潮先輩の出番はこれからなので休んでてもらわなくちゃいけない。古郡はプログラムを完成させて貰わなきゃいけないし、僕自身は自由に動き回ったりできない。

 ロボ部で今、まともに動けるのは大徳先輩だけだった。あまり積極的に参加してなかったもの、今自由に動ける生徒の中では大徳先輩が一番ロボットの事を理解していた。

 多少危なっかしいところもあるが、僕の短い指示の意図を瞬時に理解し、全体に細かく命令を出していた。これが大徳先輩以外だったなら、もっと時間がかかっただろう。彼女の存在が今はありがたかった。

「日高くん、疲れたなら休んでていいよ。作業の事ならもう大丈夫だから」

「でも……」

「いいから休んでて欲しいな。……本番まで、まだ時間はあるし。ね?」

 大徳先輩に押し切られるようにして、無理してハンガー外に出た。ハンガーの中にいると、誰かに声をかけられる可能性があったからだ。

 松葉杖を動かしながら、僕の足は自然と古郡の家へと向かっていた。

 チャイムを押すと、「合言葉は?」と、ヤケにクリアな声が聞こえた。古郡が、玄関の直ぐ横に膝を抱えて縮こまっていた。

「……合言葉は、知らない」

「なら帰れ」

有無を言わさない力があった。だがここで帰る訳にはいかなかった。

「プログラムは……?」

「大体終わった。……後十分休んだらまた戻って作業する」

「泣いてるのか?」

「泣いとらんわ!」

 その辺に生えていた葉っぱを投げられるも、僕の体に当たる前にひらひらと地面に落ちた。顔をあげた古郡は、目が潤んでいた。今にも目から涙が溢れ落ちそうだった。だけど涙は流すものかと、必死に我慢していた。

「先輩たちの事……聞いたのか」

 あえて名前は出さなかった。だけど古郡にはそれだけで伝わったらしく、小さく頷いた。頷いた瞬間、涙が地面に溢れていった。

「聞いた……つーか、見た。ちょっとハンガーに顔だした時……たまたま、見た。先輩と、部長が、キスしてた」

「…………その」

 何か言おうと口を開いたものの、その先の言葉が続かなかった。口を開いた瞬間に全ての言葉が消えていった。なんて、言えばいいのだろう。古郡にも、自分にもかける言葉がわからなかった。胸の真ん中が、もやもやとしていて、鈍い痛みが走った。

 あれは、本当だったのか。どうせ嘘だと思ってた。根も葉もない噂だと。けど、今日、初めて二人をロボ部の先輩としてでなく、もっと客観的に二人をみた。周りが二人をどう思ってるのか、二人が互いにどう想い合っているのか……。

「ざ、残念だったな。元気だせ。お前には、他にやる事があるだろう」

 ようやく紡ぎだした言葉は、おおよそ想定さえた中で最悪な言葉だった。

「……メガネが最悪な件について」

「悪い。間違えた」

「どこが間違ってるのか、説明求む。メガネの言葉は最低すぐるけど……ど、どこも間違ってないわけだが。つーか私、こんな時に何してんだって感じ。じじ、自分がこんなスイーツとは思わなかった。デュフフ……」

 ふぅ、と小さく息を吐いてから、古郡はその場から立った。古郡が僕の方を向いた。僕を真っ直ぐに見上げた古郡は、もう泣いてはいなかった。

「メ、メガネも残念だったな、元気だせ。お前には、他にやる事があるだろ」

 ブーメラン返しと呟いて、古郡は何時もの変な笑い方をした。

 古郡の言葉に、俺は気づいたら頷いてしまっていた。そして頷いてしまった自分に対して驚いた。何故今僕は、頷いたのだろう。何故今僕はやる気を失って、同士を求めるように、古郡のもとへ来てしまったのか。

 それは単純な事だった。少し考えて見ればわかった。

僕はようやく、自分の中のこのモヤモヤした気持ちに気づいた。ずっと知っていたのに、気づかないフリをしていたのだ。

 僕はきっと、いや、絶対に――。

「僕は、部長のことが好きだったんだ……」

「そそ、そんなん、知ってるし。なんなん今更?」

「そう言われても、僕自身は今、自覚したんだ」

「はぁ!? に、にぶちんにも程がある件について……」

それだけ言うと、古郡はとっとと家に戻って行ってしまった。僕は暫くその場に立ち尽くんでいたが、また直ぐに歩きだした。

 この気持ちを消化するのは、後でもできる。それこそ、明日や明後日にだって。だから今は、その未来をつくる為に、今やるべき事をやらなくてはいけない。

 チュウタネロボ部、元気一発よいらーいき。

 小さく呟いてから、僕はまたみんなの輪の中に混じった。

 

 

 

 
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