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真・恋姫†無双~愛雛恋華伝~ 49:【動乱之階】 思考の縁 ~幽州~

makimuraさん

短いけどカンベンな。

槇村です。御機嫌如何。


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2012-12-26 21:39:09 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:6366   閲覧ユーザー数:5042

 

◆真・恋姫†無双~愛雛恋華伝~

 

49:【動乱之階】 思考の縁 ~幽州~

 

 

 

 

 

一刀率いる商人一行を乗せた船が、海路を伝い楊州から幽州へと向かう。大量の荷を抱えた状態では、陸路を行くよりも遥かに労力が少なく済むのだ。

この時代、海路を利用する者は少なくはなかったが、やはりそれでも、商人が船を借り切って大量に荷を運ぶというのは珍しいことではあった。

ましてや船を操るのは知る人ぞ知る錦帆賊である。彼らに向かい、荷を運んでくれなどと頼めるような豪胆な人間はそういない。

だがもし引き受けてもらえるのならば、頼りになることこの上ない。何か面倒事が起きたとしても、ひとりひとりそれぞれが対応できる濃い面々が集まっているのだ。そこらの賊が不用意に襲い掛かってきたならたちまち返り討ちにされてしまうだろう。

 

とはいえそんな彼ら彼女らも、人間である以上、疲れもするし腹も減る。

休息や補給などを挟みながら船は進み、道中、一刀たちは青州の海岸寄りにある町に立ち寄っていた。

 

海路を伝い大量の荷が運ばれる、と、言葉にすると軽く受け流されてしまいそうだが。この三国志の時代ではそれなり以上に大掛かりなものだ。少なくとも、たかが酒家の料理人程度が仕切るような規模の商用ではない。

そういった物珍しさもあって、一部の幽州商人たちは色々なところで知られていたりする。

青州でもそうだ。海路では楊州と幽州のほぼ中間に位置することもあり、これまで幾度となく立ち寄っている。宿屋や食事処など、顔馴染みな人間や場所が多くある。

 

いつものように立ち寄り、いつもの場所でひと休みし、いつも会っている面々と顔を合わせる。

そんないつも通りのやり取りの中で、一刀は何か違和感を感じていた。

 

きっかけは、ひとりの商人との会話。

世間話が膨らんでいき、このあたりを治める領主が宗旨替えをしたかのごとく良政をするようになったという話になる。

そして、そのきっかけになったのは、少し前に平原の地にやって来た劉備という相の影響なのだという。

平原と隣接する地域とのやり取りが重ねられ、そのひとつひとつに劉備は出向く。実際に言葉を交わしその人柄と真摯さを受けた領主たちが、彼女の言う言葉を理解しその実行に務めようとする。

こういったやり取りが繰り返され、広がっていき、いつしか彼女の薫陶は青州全体を覆うかというところにまで及んでいた。

そんな経緯を、その商人は身振りも大きく伝えようとする。

商売がやりやすくなったということはもちろん、それ以上に彼女の在り様はすばらしいものがある、と。

 

劉備がいかにすばらしいかを陶然と語るその商人に、一刀は違和感を感じていた。

この人、こんなキャラクターだったか?と。

 

その後も何人かの商人仲間や顔見知りを渡り歩き、あれこれと会話を交わす。

さりげなく劉備の話を振っていくと、程度の差はあれ誰もが彼女を褒めるばかりだった。

 

領主がいい人だ、という。確かにそれに越したことはない。いいことなのだろう。

だが聞こえるのは褒め言葉ばかりというのは、彼には納得がいかなかった。

この時代、商人というものは見下され虐げられている存在だ。幽州などの例外は幾つかあるものの、漢王朝の威が届く大半の場所では、いい扱いをされることはまずないといっていい。

だからこそ商人は、人を見る目が辛くなる。認めたとしても、一歩引いて醒めた目を持って対応しようとする。

少なくとも、一刀がこれまで付き合ってきた商人たちはそうだった。お人好し揃いな幽州の商人でさえ、公孫瓉を相手に利用し利用されという立ち位置を取っているのだ。

劉備がどれだけ高い人徳を持っているのかは知らない。だが、そんな商人らをここまで心酔させ熱くさせるのは無理があるのではなかろうか。

むしろ裏で繋がっているから褒めざるを得ないのだ、と言われた方がよほどしっくりくる。

穿った見方だということは重々承知で、一刀は、首を捻ってしまう。

 

「……劉備、ね」

 

彼女らが公孫瓉を頼った際、一刀は店に訪れた彼女たちをお客として対応しただけだった。ゆえに、劉備や関羽などの人となりを知っているわけではない。"こちら"の関雨たちを通じて話をしたわけでもなく、せいぜい、"天の知識"を引き出して「あれが"こちら"の劉備か」と見やった程度である。

公孫瓉の良政の恩恵を利用しようとして幽州へ来た、という先入観もあり、強いて接点を持とうとしなかったということもある。

関雨と鳳灯が仕えた主、ということも聞いてはいたが、彼にしてみればそれこそ"この世界"では関係ないことだと考えていた。

ゆえに、それきりだったのだ。

 

「やっぱり、何かおかしい」

 

縁のない人間について、何かを言おうとは思わないし気にもしない。

しかし、自分に縁のある人間が知らぬ間に様変わりしてしまっていて、それに何かしら関係があるのならば、何か言いたくもなるし気にもなる。

 

「少し、調べてみるか」

 

一刀はそう決めて、ひとり残って探りを入れてみることにした。

商人仲間と錦帆賊の面々に輸送は任せても問題ないだろう。

だが呂扶は、ひとり幽州へ帰ってくれるとは思えない。

先に帰れといっても無理だろうなぁ、と、一刀はひとり笑みを浮かべる。

困ったような、それでいてどこか嬉しそうな色を滲ませながら。

 

 

 

そんなこんなで、一刀と呂扶が青州に残ることになり。ほかの面々だけが幽州・薊へと戻ってきた。

一刀がいない。そのことに関雨は初めこそ意気消沈していたが、商人から手渡された一刀の木簡に目を通す内に、引き締まった普段の調子を取り戻していく。

 

青州は、どこかおかしい。

 

簡単に言ってしまえば、書かれていた内容はそういうもの。

人々の生活は平穏そのもので、それまで領主が行っていた負担大の横行も穏やかになっている。

耳にするのは、新米領主に関するいい話ばかり。それは青州の中でも平原から正反対に位置する海寄りの地にまで及んでいる。

劉備が平原を治めるようになって以降、悪い方面での話題が何ひとつ民の口に上っていない。

 

だからこそ、おかしい。

一刀の木簡にはそう記されている。

 

まったく同じ人間ではないとはいえ、関雨にしてみれば、劉備は曲がりなりにもかつて仕えた主であり義姉である。"この世界"では道を違えたとはいえ、何もそこまで言わなくても、という気持ちは多少なりとも沸いてくる。

だが一方で、一刀が記している民の状態に不穏なものを感じてもいた。

盲目と言ってもいい一途さが、黄巾賊へと身を落とした民の姿と被る。

すなわち、その陰に、太平要術の書があるのではないか、と。

そんな考えに関雨は行き着く。

突拍子もない、と思う反面、ありえないと断じることもできない。判断を下すには情報が少な過ぎ、かつての経験からの得た"天の知識"だけでは説得力がない。

となると、一刀が青州で探りを入れている動きは都合がいいと言える。

 

気を落ち着かせようと務めながらも、関雨は大きな溜め息をこぼした。

 

州牧に仕える公人として見れば、頼むまでもなく情報を集めようとしている一刀の行動は都合がいい。

青州の件に限ったことではないが、公孫瓉も独自に情報の収集を行っている。何かあればその網に引っかかるだろうし、洛陽にいる鳳灯からも知らせが来るだろう。だがそれらとはまた違った視点、つまりは損得の絡む商人から見た情報というものは有用であるに違いない。

さらに言えば、一刀は"天の知識"を持ち、太平要術の書の存在を知っている。自分と同じ想像にたどり着き、その上で調べを進めてくれることも期待できる。

 

ならば、次の便りか、はたまた彼自身の帰りを待つのが賢明か。

 

無事な便りがあったということだけでも、喜んでおくべきなのかもしれない。

恋が付いているのだから、これからも危険なことはないだろう。

と、考えて。

関雨はまたひとつ溜め息を吐く。

 

さて、どうしたものか。

 

この便りはあくまで私的なもの。その上、記された内容に確たるものはない。

どれも印象からの推論でしかないのだ。

公孫瓉に報告すべきか悩みながら、関雨は政庁への道を戻り始めた。

 

 

 

 

それからわずか数日の後。薊にある政庁にひとつの報告がもたらされる。

「袁紹、青州へ侵攻す」という報が。

 

公孫瓉と同じ場でそれを聞いた関雨は、いつぞやと同じように勢いよく立ち上がり。

そして、我を忘れ暴れ出した。

 

「今すぐ青州へ行って一刀さんを連れ戻します!」

「乙女な思考は結構だが落ち着け愛紗!!」

 

今すぐにても出発しようとする関雨に、公孫瓉がすぐさま突っ込みを入れる。

こと突っ込みに関して言えば、関雨の動きさえも潜り抜け一撃を与えられるようになった公孫瓉である。

もっとも彼女にしてみれば嬉しくも何ともないだろうが。

 

電光石火な彼女の働きも、しょせんは突っ込み。ささやかなものでしかなく。

放せー、とばかりに暴れ回る関雨を押し留めるには力が足りなかった。

公孫瓉をはじめとした女性陣が群を成して彼女を抑え付けようとするも、それさえ振り払われそうになり。

これは危うしと男性陣も加わろうとすれば、

 

「私に触れていい男は一刀さんだけだー!」

 

といった半ば惚気染みた叫びを上げつつ、呂扶さながらに男性陣を吹き飛ばしていく。

吹き飛ばすのは本当に男だけなのだから、器用なことだと感心するやら呆れるやら。

 

そんなある意味くだらない騒動を経て。

落ち着きを取り戻した関雨を尻目に、中断された報告が続けられた。

 

ちなみに関雨は、顔を赤くし頭を抱えながら絶賛猛省中である。

取り乱して自分が何を口走ったかを思い返しているのだろう。

 

「関雨、いい加減に復活しろ。

それにお前が"北郷好き好き"なのは誰でも知ってる。今更だ。落ち込むようなことじゃない」

 

ひと通り報告を聞き終え、公孫瓉は、頭を抱える軍部筆頭に声を掛ける。

真名を呼ばす、公的な立場に戻れと暗に告げながら。割とキツい言葉で。

 

「そもそも北郷がいるのは海寄りなんだろう? 同じ青州でも、戦が始まったのは反対の西側だ。

それに呂扶が一緒なら、何かあるなんて想像できないんだが」

「そう言う問題じゃありません、私が、私が側に行きたいのです!」

 

ダァン、と激しく机を叩き鳴らしながら再び立ち上がり、叫ぶ関雨。

そしてまた自分が何を口走ったのかに気付き。

これまで以上に顔を赤くして、また頭を抱えてしまった。

 

「もういいや、この乙女思考は放っとけ」

 

ひらひらと手を振りながら、公孫瓉は呆れた声を漏らす。

意識はしていないのだろうが、関雨を弄りまくりである。

ほかの面々は、逞しくなった主の姿に感慨ひとしおであった。

 

 

「でだ。

袁紹が青州に侵攻。その意図は現状では不明。

何が起きるか分からないから軍はいつでも動かせるようにすること。

言ってしまえばそれだけなんだが、理由が分からないのが気持ち悪いな」

 

腕を組みつつ、公孫瓉がこぼす。

 

「冀州は十分に富んでいる。青州を呑み込んだところで何を得る?

あいつ自身は確かにおバカなところもあるが、"袁家の長"としては分別のある奴だ。

そうそう馬鹿な真似をするとは思えないんだけどな」

「……ぱ、ではなく。伯珪殿、それなのですが」

 

気を取り直したように見える関雨が、弱弱しくも挙手。

辛うじて公私を切り替えながら、やや気まずそうに声を掛ける。

 

「青州に残った一刀さんから、商人の方々に私宛の木簡が託されまして。

その中に、青州の民に違和感を感じると記されていました」

「ほう」

「曰く、一点において視野狭窄に過ぎると。

顔見知りである者たちまで、まるで人が変わったかのようだったとありました。

あくまで書かれた内容を一読して感じただけの、ものなのですが」

「……話せ」

 

言葉を切る関雨に、公孫瓉は先を促す。

印象と状況から推測したものでしかない旨を断り、関雨は続ける。

 

「私は、黄巾に身を落とした者たちと被りました。

上に立つ者に心酔し、熱狂し、誰ひとり否定することがない。かつて黄巾賊が、張角たちを崇めたように。

そして今、青州の民が褒め称えているのは。

……平原の相、劉備だと」

 

公孫瓉はうなだれた。手を組み、両の甲に額を預けるようにして、溜め息を吐く。

 

「桃香か……」

「一刀さんが調べた限りでは、劉備の名は青州の主立った地のすべてに知れわたっているようです。各地の領主が彼女の威を認め、その意を汲み入れるほどに」

「桃香が平原を治めるようになってから、あの辺りの評判は随分上向いていたよな?」

 

内政官の何人もが、公孫瓉の言葉に是を返す。

もうひとつ溜め息を吐き、顔を上げる。手は組んだまま、憂鬱に歪む口元を隠しつつ言葉を続ける。

 

「関雨。仮にお前の想像する通り、とう…、劉備の下に、太平要術の書があったとしよう」

 

その場にいる者すべてが緊張する。

関雨は、無言でうなずいた。

公孫瓉も、真名で読んだ友の名を改め、想像したくない仮説を紡いでいく。

 

「やり方までは知らんが、劉備は書を活用して平原を治めた。

その力は平原では収まらず、青州全体へと広がっていった、と」

 

平穏に治まるならばそれに越したことはない。

だがそれが望まぬ力によって強いられているというのなら、話は変わってくる。

劉備が平原に着任して、太平要術の書によって"平穏を強制した"とするのなら?

ゆえに、一刀の目には知人らが不自然に見えたのなら?

 

「これはあいつから来た便りにあったんだが、冀州、袁紹のところに治世の術を学びにちょくちょく通っていたらしい」

 

そんな術を持つ領主が、他州へと足を運ぶのは何故か?

 

「もし、袁紹が書の存在と効力を知ったら?

思惑はどうあれ、書を持つ劉備が何かと自分のところに通っていると知ったら、袁紹は何を考える?」

 

領主としては、想像するだに恐ろしい。

何しろ自分の知らないところで、自ら治める民の意識を意のままに塗り替えることができるのかもしれないのだから。

そして、袁紹がそれに気付き、危機感を覚えたのなら?

それゆえの、青州侵攻なのではないか?

 

「筋は、通ります」

「だがすべて想像だ。状況と伝聞を混ぜ込んだ推論で、確たるものは何もない」

 

考えすぎだと思いたい。だからこそ、自分の仮説を肯定する関雨の言葉を否定する。

だが公孫瓉は、相当に近い線を突いている様な気がしていた。

 

「誰かをやって、ちゃんと調べた方がいいか」

 

冀州に何某かの影響があれば、そのすぐ北である幽州も無視することはできなくなる。

出征した冀州の思惑と、青州近辺の現状。このふたつは確認しておく必要がある。

 

重々しい気持ちを抱えながら、公孫瓉は州牧として今後の対策を考え始めた。

 

 

 

 

・あとがき

テキスト量は多くないけど、年内に更新しちゃおう。

 

槇村です。御機嫌如何。

 

 

 

 

 

なんだか、想像よりも大事になってしまう気がする。

どうすんだよおい。(お前が言うな)

 

 

 

ちなみに槇村は、桃香さんが嫌いなわけではありません。

というか嫌いなキャラいないし。好みの大小はあるけど。

でも今後の展開上、いわゆる"劉備アンチなお話"に見えてしまうかも。

 

特定のキャラクターを貶めるつもりはありません。

ただこのお話では、桃香さんには貧乏くじを引いてもらうことになりそうですが。

だって頭の中で、そういう流れになっちゃったんだもの。

 

 

 

 

 

また突然のことで申し訳ないのですが、

これから先はTINAMIでの更新をストップさせていただきます。

 

今更なに言ってんだと思われるかもしれませんが、

なんというか更新しにくく感じてしまって。

 

 

これから先は、Arcadiaさんのみで更新させていただきます。

こちらで読んでいただいた皆様には申し訳ありませんが、

上記ご報告まで。

 

 

 
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