No.522727

すみません。こいつの兄です。44

妄想劇場44話目。クリスマスにサービスシーン満載の回がお届けできて嬉しい限りです。お楽しみください。

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(第一話) http://www.tinami.com/view/402411

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2012-12-24 23:44:50 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:1116   閲覧ユーザー数:1008

 美沙ちゃんから、告白された。

 俺はそれを断った。美沙ちゃんの真摯な鳶色の瞳を見て、謝っていた。

 俺は知らなかった。

 

 美沙ちゃんは、ヤンデレ気質だった。

 

 十二月半ば、期末試験が終わった試験休み。俺は、自室にいた。妹は友達と遊びに行くとかで、出かけている。父親は、当然のように仕事。母親もパートに行っていて、六時ごろまで帰ってこない。

 だけど、家に一人でいるわけじゃない。なぜか美沙ちゃんが部屋に来ている。

 あいかわらず、すごくかわいい。そろそろ寒くなってきた午前中に、外からやってきた真っ白な肌には、ほんのりと桃色が透けて、さらさらで真っ黒な髪と見事なコントラストを見せる。赤いコート。白ラインの入った、黒のプリーツスカートに白に赤いダイヤ柄のオーバーニーソックス。白い絶対領域。白いタートルネックのセーターの首元には、小さな金色のアクセサリまでしていて、パーフェクトにかわいい。持っている大きめのチェック柄のバッグは、ピンバッチでアレンジしてあって、しっとりしたコートで大人っぽくなりすぎないようにバランスを取っている。男子女子、どちらの視点から見てもパーフェクトだ。

「とつぜん、来てごめんなさい…」

コートを脱ぎながら、美沙ちゃんが言う。

「…い、いいけど。きょ、今日は妹と遊びに行くんじゃなかったの?」

たしか妹も、美沙ちゃんと他の数人と一緒に遊びに行くと言っていたはずだ。

「ああ、あれ嘘です。ドタキャンしました」

しれっと美沙ちゃんが言う。

「もっと、大事にな用事があるんで」

コートを脱いだ美沙ちゃんは、タートルネックのぴったりした白いセーター。Dカップの胸の形も、滑らかにくびれたウエストのカーブもくっきり。胸元でキラキラ揺れるアクセリが、胸元に視線を誘導する。カシミヤかな。やわらかそうで、さわり心地のよさそうな素材。

 

 うわぁ…。可愛くてセクシーで上品で、もうどうなっちゃってんのこれ。

 

 椅子に腰掛けたまま、ぼーぜんと見惚れしまう。はっ。い、いかん。お客さんをほったらかしてはいかん。

「あ、お、お茶入れてくるよ。こ、紅茶でいい?」

「あ、お、お構いなく…」

美沙ちゃんの声を背中に、部屋を出て一階に降りる。台所で深呼吸する。精神に動揺を感じる。まずなにより美沙ちゃんが可愛い。あの可愛さは異常だ。次に思い出すのは、妹のメールフォルダだ。美沙ちゃんが二十分に一度、俺の様子を妹に確認していた。美沙ちゃんとのエンカウント率の高さも、今は偶然だとは思えない。

 待て。冷静になれ。冷静さを失ったら終わりだ。

 ティーバッグにお湯を注ぎながら、自分に言い聞かせる。

 そう、冷静になって美沙ちゃんの次の行動を予想するんだ。予測と計画と判断と実行だ。お茶が出るまでの数分、脳をフル回転させて美沙ちゃんの行動を予測する。もう一度美沙ちゃんが告白をやり直すというのは、予測だと思う。妄想ではない。ちがうよね。あの美沙ちゃんに告白されたらいいにゃあ~ぅ。だめだ、美沙ちゃんが可愛すぎて脳みそ溶けてる。

 トレイに紅茶のカップとポット。それに、戸棚にあったクッキーを載せて階段を上がる。

 部屋に入ると、ベッドの枕に顔をうずめていた美沙ちゃんが立ち上がる。

「あ…、す、すみません」

「だ、ダージリンでよかった?」

「は、はい…い、いい匂いですよね」

「ダージリン?…そ、そうかな?」

普通だと思うけどな。

「い、いえ…お兄さんの枕。お兄さんの匂いがして、いい匂いです」

普通じゃない方だった。まずい。早くも、予想の範囲を超え始めている。

「そこにクッションあるから、適当に座って…」

と言いかけて、美沙ちゃんが床に敷いた白いガサガサとしたシートの上に移動するのを発見する。なんだろうか、アレは…。まぁ、いいけど。

 美沙ちゃんの表情が固い。うつむいて、無言になった。

 どうしたものだろう。なにを話したらいいんだろう。一ヶ月前に告白してくれて、そして自分で振った女の子と話す無難な話題なんて思いつかない。いったいどのくらい大人になったら、そんなことが出来るようになるんだろう。たぶん、一生そんなことはできないのだろう。

 だったら…モテる男というのは寂しいのかもしれない。誰か一人とは仲良くできるかもしれない。だけど、その他大勢とは話す話題も見つからなくなるのだ。友達をすっとばして、恋人を望まれる人は寂しい人なのだろう。

「お兄さんは…」

ぽつり。

 沈黙の中、美沙ちゃんが呟くように言う。視線は床のつなぎ目を見ている。

「お兄さんは、変態です。女の子に道具を使ったりするゲームをするなんて、おかしいです」

話題の見つからない関係。そんなときも、女の子の方からなら話しかけられる。罵倒という話題があるみたいだ。

「あと、お兄さん、ああいうゲームとか漫画の見過ぎで頭おかしくなってると思います。あ、あの…ですね。女の子にエッチなことをしても、女の子はぷっしゃーっなんて出しません。びくっびくってくらいはあるかもしれませんけど…」

ごめんなさいと謝るべきだろうか。おっしゃるとおりと肯定すべきだろうか。潮吹きに関して説明すべきだろうか。難しい。やはり会話のキャッチボールはできない。会話のストラックアウトだ。もしくは会話のバッティングセンターだ。美沙ちゃんがフルスイングして、俺の自尊心がボールだ。

「触手ってのもワケがわかりません。なんですか、アレは?お兄さん、ああなりたいんですか?どういう頭の狂い方をしたら、ああいうものを思いつくんですか?完全にイカれてます。あ、イカの足は八本で、長い二本は触腕って言うらしいですよ。知ってました?だから、お兄さんは変態で頭がおかしいです。そうですよ。おかしいんですよ。知ってました。私、知ってたはずなのに…」

 豆知識を交えながら、M4自動小銃フルオートモードのように罵倒語を発射していた美沙ちゃんが唐突に黙る。弾詰まりだろうか。

 美沙ちゃんの顔が心なし青ざめている。

「…頭のおかしなお兄さんに、普通に告白したって…そりゃ、フラれますよ」

そう言って、美沙ちゃんが立ち上がる。

 鳶色の目に涙が溜まっていることに気が付く。

「美沙…ちゃん…」

 泣くなんてずるい。こんな美少女に泣かれたら、予測してようがしてまいが対応なんてできるもんか。

「…だから…」

美沙ちゃんが、唇をかみ締める。

「んっ」

天使が目をぎゅっと閉じる。

 ぱたっ。

 ばたばたばた、ぼとばたばた。じょじょじょじょー。

 傘に当たる雨音のような音に、認識が停止する。涙にしては豪快すぎる水音。

「えっ!?」

なにが起きたか、認識できても理解できない。

「こ…こうすればいいんですよね…」

美沙ちゃんが涙声で言う。涙とおしっこを同時にこぼしながら言う。ほっそりとした脚を伝って、足元に敷かれた白いシートの上に薄黄色の液体が落ちていく。このときになって気づいた。敷いていたシートは、ペット用のトイレシートだ。

「…お兄さんが…なんで、お姉ちゃんに優しいのか…考えてわかったんです。お兄さん、お姉ちゃんがお漏らししてるの見て、好きになったんでしょう…変態で頭おかしいから…」

「え…あ…いや…」

意味のある言葉なんて出てこない。この状況で、なにかまともな反応できるやつがいたら、そいつこそ人間じゃない。

「わ、私だってできます」

「み、美沙ちゃ…ん?」

「私だって、おもらしくらいできますっ!」

ヤケクソになったみたいに目を見開いて、俺をにらみつけて美沙ちゃんが叫ぶ。みたいじゃない、ヤケクソだ。

「おもらしくらい、私だってできますから!私にも優しくしてください!わ、私のこといつも気にかけていてください!お姉ちゃんじゃなくてっ!」

端正な顔立ちを涙でぐちゃぐちゃにしながら、美沙ちゃんが叫ぶ。

 

 フリーズするしかない。気絶してないだけ、意志の力を褒めてほしいくらいだ。

 

 そこに、だだだだという地鳴りにも似た音が迫ってきた。

「にーくんっ!美沙っち、無事っすかーッ!?」

ばたんっと、ドアをブチ破らんばかりの勢いで、部屋に突入してきたのは妹だ。頭から湯気を出して、息を切らしている。

「うわっ。きょええぁあーっ!」

シートを飛び越え、意味不明の雄たけびとともに妹が飛翔する。俺は顔面に強い衝撃を受け、壁まですっ飛ぶ。

 顔に妹のダウンジャケットが巻きつけられる。

「見てるんじゃねーっす!許可が出る前に、それを取ったら死ぬっすよ。匂いを嗅いでも死ぬ。ユー、アンダスタン?」

「サーッ!イエッサー!」

王者の迫力で命じられる。そうだった。それが、正しい対応のはずだった。目をそらさないで、なにをガン見してたんだ。俺は…。

「ほ、ほら、美沙っち、落ちつくっす。私の部屋にいくっすよ。大丈夫っす。大丈夫っすから!」

ガサガサという音の後に、ドアの閉まる音が聞こえる。

 

 静寂が訪れた。

 

 頭の中に浮かぶのは、『☆Dカップ美少女☆激ヤバ!!』だ。

 

 数時間。ダウンジャケットの作る暗闇の中にいた。許可が出る前に取ったら死ぬ。うん。死ぬ。

 隣の部屋との間を仕切る薄い壁越しに、妹と美沙ちゃんの話し声が聞こえてくる。内容はわからない。それにしても、なんでこんなことになっちゃっているんだろう。

 俺は、真奈美さんが好きだから、美沙ちゃんをフッたのか?

 美沙ちゃんの鳶色の瞳。

 真奈美さんと同じ鳶色の瞳。あの瞳が、俺に拒絶の言葉を言わせていた。それは間違いない。だけど、真奈美さんとつきあってるわけじゃない。というか、真奈美さんだぞ。真奈美さんに恋愛とか、想像もできない。

 ……。

 それでも、やっぱり美沙ちゃんとはつきあえない。真奈美さんがひとりぼっちになってしまう。美沙ちゃんと俺の二人を同時に失ってしまうかもしれない。だめだ。真奈美さんを好きとかじゃなくて、真奈美さんをひとりぼっちにしたら、俺も美沙ちゃんも幸せになれない。

 それじゃあ、美沙ちゃんはいいのか。

 あんな美沙ちゃんを見て、放っておいて今までどおりにいられるのか?

 それも、ノーだ…。

 

 まじ。どうしよう。

 

 右に転んでも、左に転んでも、ろくなことにならない気がする。ハマった?

 

 妹の許可がおりて、おそるおそる目隠し代わりのダウンジャケットを外す。

 目の前には、妹。

「美沙ちゃんは?」

「とりあえず、家に帰しておいたっす。にーくんに謝ってたっすけど…けっこうパニくってったっす」

知ってる。あれがパニックでなければ、それこそヤバい。

「…お、俺、どうしたらいいかな」

「知らんっす」

「だよねー」

「そりゃねー」

乾いたやりとりを交わす。

 しばし、妹と見詰め合う。

「わたしも、美沙っちがあそこまでクレイジーだと思わなかったっす」

「ってか、俺、なにか美沙ちゃんにモテるようなことしたっけ?」

「…アホっすか?女の子の恋に理由があったら、それは恋じゃなくて策略っすよ。にーくんは、カモっぽいから騙されないように気をつけるっす」

「…じゃあ、やっぱり美沙ちゃんは理由のないマジなのか?」

「どマジっす。つーか、にーくん、真奈美っちとマジでなんにもないっすか?」

「ない…と思うけど…修学旅行からの帰りのバスで、膝枕したり、しばしば抱きつかれたり、跳び箱に一緒に入って手をつないだりは…なんかかな?」

「…意味わかんねーっすけど…。アウト」

妹は、あきれ返ったという表情をしてジト目で俺を見る。

「アウト…なの?」

「美沙っち的にはアウトっすよ。美沙っち、独占欲強いっすからね」

妹が、はぁーっとため息をつく。

「にーくんが、私の風呂に乱入してきた事案っすけど…」

事案って言うのやめてくれないか。

「…あれ、美沙っちに言ったら…」

言いふらさないでくれないか。

「…自分の入浴写真、にーくんに送りそうになってたっすよ」

「止めんじゃねーっ!」

ふんがーっ!!美沙ちゃんの入浴写真、超欲しい!

「にーくん?死んでみるっすか?」

じとー。

「ごめんなさい」

謝罪。

「というかさ、真菜…。じゃあなに?お、俺、今度から真奈美さんの手を引いたりするとき、み、美沙ちゃんとも手をつないだりした方がいいの?」

ごきっ。

 妹の黒いソックスが俺のあごを蹴り上げた。

「あほっすか?両手に花っすか?にーくんのくせに、何様っすか?」

「お兄様」

ごきっ。キック二発目。

「ってか、それやったらマジ殺すっす」

「お前、最近、三島みたいになってきたぞ」

「私が三島先輩だったら、にーくんは今頃浴室で解体されてるっすよ」

「ああ…俺もそう思う」

のしっ。

 床の上に直接座る俺に、妹がマウントポジションを取ってくる。

「にーくん」

「な、なんだよ」

顔が近い。いつもだらしない表情をしているこいつが、真面目な顔をすると変な感じだ。整ってはいるんだよ。こいつの顔。

「にーくんは、ミッションクリアしたっすよ。今は、いわばやりこみ要素っす」

なにを言い始めたんだ…。妹は真剣な表情のまま続ける。

「『クリア条件、真奈美っちを学校に通わせる』はクリアしたっす。真奈美っちは、にーくんがインフルエンザで休んでも一人で学校に行って、一人で期末試験もクリアしているっす。にーくんが居なくても、学校には通うっす。このまま行けば、ちゃんと進級するっす。中間試験とか、けっこういい点数だったって聞いたっす。にーくん、手を引いてもだれも何も言わないどころか、感謝されて表彰されるっす。マジで」

そんなことはわかってる。真奈美さんが、一緒に買ったコートを着て学校に通って、ちゃんと体育の授業にだって出てるのも知っている。ほぼ普通だ。いじめていた連中も半年もブロックされれば、興味をなくしている。

「だから、そろそろいいんじゃないっすかね」

「なにがだ…」

「…美沙っちとも、真奈美っちとも距離を置くっす。いいっすか。今のにーくんって、真奈美っちのためなら、なんだってするじゃないっすか。真奈美っちが困る前に、真奈美っちのことを考えて先手を打ってるっす。真奈美っちが困れば、修学旅行だってポイって捨てちゃうっす。美沙っちは、それを見てにーくんが欲しくなったっす」

「真奈美さんは、困りすぎると壊れちゃうだろ」

「…それが、どうしたっす?」

「おまえ!本気で言ってんのか?」

「それっす」

「あ?」

「にーくんは、いつもヘラヘラと優柔不断っす。でも、真奈美っちのことになると、それっす。真奈美っちのことになると、悩みもしないっす。なにもかも、他に選択肢がないみたいっす」

妹がすこし、顔を離す。

「…それが、こわいっすよ」

「は?こわい?」

「それが、真奈美っちに最善なら。にーくんはきっと真奈美っちと、どこかに行っちゃうっす。それが、明日かも、今夜かもしれないっす」

「んなわけあるか…」

真奈美さんと駆け落ちでもするってのか。

「そう思えないっす。にーくんを見てると…」

妹の顔が歪む。

「にーくん。私、美沙っちの気持ちわかるっすよ。にーくん。どうしたら…にーくんは、真奈美っちにするみたいに、私のことも大事にしてくれるっすか?」

「はて?」

いろいろ意味がわからない。俺は、そんなに真奈美さんに優しくしてただろうか。まず、そこが疑問だ。

「この状態でお漏らしとか、萌えるっすか?」

「それ、俺にかかるからやめろよ」

俺の周囲で、変なものが流行りつつある。ここで流れを止めないといけない。

「もしや、ぶっかけたいんすか?」

妹が狂った。

「お前、絶対、美沙ちゃんにそんなこと言うなよ」

なにが起こるか、恐ろしすぎるからな。

「つーか」

「なんだよ」

「にーくんは、今日の私にもっと感謝するべきっす」

「それについては、百パーセント同意する」

まさに救世主だった。あそこで、妹レンジャーが突入してこなかったら、俺はどうなっていたんだろう。想像もつかない。

「だから、『なんでも一つ言うことを聞く券』を発行すべきっす」

「なんでもとか恐ろしいな」

「じゃあ、期限は三ヶ月でいいっすよ」

三ヶ月か…二月十六日までか、それなら、あまり恐ろしいお願いも発生しないだろう。

「わかった。そのくらいなら、いいよ」

真奈美さんにばかり、お願いを聞いてやっていると言われればそういう気もするし、それが美沙ちゃんにへんな誤解をさせる原因だったといわれれば、そういう気もしてくる。ここは一つ、妹と美沙ちゃんに『なんでも一つ言うことを聞く券』を発行しておくことにしよう。

「あと、美沙ちゃんにも一枚発行しておくよ」

「げ」

「げ、ってなんだよ」

「今の美沙っちに、そんな恐ろしいもの渡すっすか?」

「いや、俺もちょっと怖いなとは思うけど…。真奈美さんばっかりずるいってことだろ、なんだか、ようするに…」

「わかったっす。美沙っちに渡す分は、裏にきっちり禁止事項を私が描いておくっす」

「禁止事項って?」

「婚姻届提出禁止とか」

「今年中は、俺もまだ十七だから結婚できないだろ」

美沙ちゃんと、妹はできるのだな。そう思うと、恐ろしい。こいつの方が先に結婚できる年齢になるとか、日本の法律もギリギリの線を狙うとすてたものじゃないな。

「心中禁止とか」

「それは、書いておいてくれ」

今の美沙ちゃんだと、可能性が否定しきれない。

 パソコンデスクのプリンタから、A4の紙を取って四分割にして、その二枚に手書きで「二宮直人なんでも一つ言うことを聞く券」を書いてサインする。

「ほれ」

「ぐひひ…受け取ったっす」

早くも後悔し始めた。

「ところで、なにをさせるつもりなんだ?」

「そうっすねー。ぐひひひ…。ひとつっすからねぇ…じっくり考えるっすよ」

「…やめときゃよかったかな」

「大丈夫っすよ。全裸初詣とか言わないっすから」

その発想が出る相手に渡してしまったことが恐ろしい。

 ぐひひひひひひ、と邪悪そのものの笑いを残して妹が部屋を出て行った。

 今日は、いろんなことがあった。

 

 それにしても、美沙ちゃんがあんなに…。

 胸がちくちくする。

 あと少しムラっとする。うん。美沙ちゃんが言うことも間違ってないな。俺ってゲスで変態だな。

 

 その晩、寝る前に美沙ちゃんからメールが来た。

 

件名:ごめんなさい

本文:今日は、私、どうかしてました。今日のは、忘れてください。

 

返信:うん。わすれた。大丈夫だよ。

 

 そして眠った。

 

 翌朝、目覚ましが鳴って目をさます。朝、六時三〇分。携帯電話を見るとメールが入っていた。メールに気が付かずに寝てたのか、まぁ、昨日はいろいろ衝撃的な一日だったからな。

 

件名:RE:RE:ごめんなさい

返信:でも言ったことは忘れないでください。せっかく勇気を出して言ったんです。好きです。

 

 着信時刻は午前四時二分。

 

(つづく)


 
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