No.518206

中二病でも恋がしたい!Lite 小鳥遊姉妹2編

Lite(短編)六花編と十花編

コラボ作品
http://www.tinami.com/view/515430   俺達の彼女がこんなに中二病なわけがない 邪王真眼vs堕天聖黒猫

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2012-12-13 21:47:28 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:1987   閲覧ユーザー数:1845

中二病でも恋がしたい!Lite 追憶の……楽園獲得(パラダイス・ゲット)

 

 

「勇太が私のことを欲しいなら……いいよ」

「へっ?」

 誰もいない真夏の砂浜。

 そのほどよく焼けた黄色い砂浜の上に横たわるちょっと大胆な黒い水着の六花。

 その六花は瞳を潤ませ頬を上気させている。

 そしてその六花の上に覆い被さっている俺。

 何だ、このシチュエーション?

 どうしてこうなった? 

 俺、同好会のみんなと海に来てたんじゃなかったっけ?

 何で六花と2人きりで、しかも押し倒しているんだ?

 何も分からない。

 でも、俺が六花と2人きりで砂浜にいて、彼女のことを押し倒してしまっていることだけは事実だった。

 

 

「私、勇太の赤ちゃんだったら欲しいから。愛情をいっぱいいっぱい注げるから。だから、2人で、育てよっ」

 熱っぽく訴えかけてくる六花。本気で俺との子供を望んでいるのがその澄んだ瞳に見て取れた。

「いやいやいやいや。それは、マズイだろ……」

 六花に跨ったまま首を横に激しく振る。

 確かに俺も六花も子供を作ることが可能な体にはなっている。

 けれど、俺も六花もまだ高校1年生だ。

 生計手段も持っていないのに子供とか無責任なことは考えられない。

 それ以前に俺と六花は結婚していない。

 それどころか、恋人同士でもない。よな?

 あれ?

 俺と六花って恋人同士だったっけ?

 突然の事態に自分が何だか分からない。

 

 

「勇太は、私に赤ちゃん産んで欲しくないの?」

 泣きそうな瞳になって尋ねてくる六花。

 罪悪感に駆られると共に、六花は泣き顔も可愛いと不謹慎なことを思ってしまった。

「あの、その、その問題に関しましては……長期的計画に基づいて考えないといけませんと申しましょうか。えっと、その、早急に結論を出すわけには……」

 頭の中が果てしなく混乱する。

 六花との子供が欲しいか欲しくないかだけで言えば……欲しい。

 こんな可愛い嫁さんがいて、しかも子供が可愛い娘だったりした人生になれば。

『あなた~♪』

『パパ~♪』

 俺は間違いなく人生の勝ち組だと断言できる。

 でも、それはあくまでも長期的な未来がそうであるならという話だ。

 今すぐ子供ができてしまったら、2人とも、いや、子供も含めて3人とも破綻した人生になってしまいかねない。

 だから、だから……。

「その、俺が六花をきちんと養えるようになったら、子供は欲しいかな」

 六花にそう答えるのが俺の精一杯の誠実だった。

 

 

「じゃあ、じゃあ……」

 六花は恥ずかしそうに目を伏せて俯いた。その顔は真っ赤に染まり上がっていた。

「勇太は、私と、赤ちゃんができる過程をしてみたい?」

「赤ちゃんができる過程?」

 六花の言葉の意味を考えてみる。

 どうすれば子供ができるのか?

 コウノトリでもキャベツ畑でもない。それは──

「って、もっと自分を大事にするんだ、六花ぁ~~~~っ!!」

 六花の両肩を掴んで上下左右にガンガン振る。

「うきゅぅ~~~~っ」

 六花はすっかり目を回している。

 けれど、そんなフラフラな状態で、涙目になりながらも六花は述べた。

「で、でも、この姿勢の意味は私だって知ってる……うにゅぅ」

 六花は自分が両肩を掴まれながら押し倒されている体勢を見ながら頬を赤らめた。

「え~と、これはですね。不可抗力と言いますか、その……」

「勇太。さっきから私の上から退いてくれない。肩も掴んだまま」

「そ、それは……」

 六花の指摘通りだった。

 俺は六花の上から退けなかったし、掴んだ肩を離せなかった。

 でも、それでも俺は……。

「俺は恋人以外の女の子を抱くなんて、そんな不埒な真似はできない」

 六花は大事にしたい女の子だった。

 一番大事にしたい女の子だった。

 

 

「だったら……私のことを恋人にしてくれれば……勇太の望むことして……良いよ」

「あ……っ」

 六花の一言に俺の心臓は止まってしまいそうになった。

 心臓を握られ首を荒縄で締め付けられたような感じだった。

 それぐらい、ドキッとした。

「私は勇太のことが……だから。大……だから。だから……っ」

 六花は視線を海へと向けて俺から目を反らした。

 そんな六花がたまらなく愛おしくて、とても色っぽく見えた。

 彼女の全てが欲しい。

 そんな強い衝動が体の奥底から強く湧き上がった。

 抗い難いほど強い衝動。

 六花の身も心も全部俺のものにしてしまいたい。

 彼女の一生を俺が攫ってしまいたい。

 永遠に俺だけのものになって欲しい。

 そんな熱すぎる情熱だった。

 でも、だからこそ躊躇した。

 衝動のままに六花に告白して良いものかと。

 このシチュエーションが俺と六花を煽っているだけなのではないかと。

 そんな風に疑いを抱いてしまう。

「お、俺は、俺は……」

 踏ん切りはつかない。

 

 

「勇太の素直な気持ちを教えて欲しい」

 六花は俺の首の後ろに両腕を回した。

 そして優しい表情で俺の顔を覗き込みながら言った。

 

「私は、ずっと前から……勇太のことが大好き。だから、勇太の本当の気持ちが知りたい」

 

 六花ははっきりと言った。

 俺のことが大好きだと。

 その一言で、俺の心も吹っ切れた。

 

「俺も……六花のことが……好きだ」

 

 ごちゃごちゃした余計なことは捨て置いて、六花への気持ちだけを述べた。

「うん」

 六花はとても優しい表情で頷いてくれた。

「六花に、俺の彼女になって欲しい」

 何でこんなに素直になれるのか分からないほど自分の想いを正直に口にしていた。

 きっと、上から照りつける真夏の太陽と真下にいる女神の力に違いなかった。

「うん」

 六花は顔を赤くしながらもう1度頷いてくれた。

 俺と六花が恋人同士になった瞬間だった。

 

「勇太……っ」

「六花……っ」

 

 見つめ合う俺と六花。

 俺たちにこれ以上言葉は必要なかった。

 

 2人の唇がどちらからともなく重なり合っていき──

 俺達は真夏の砂浜に全てをさらけ出し、互いの全てを受け入れあった。

 

 

 

 

「というわけで勇太、六花。パパに挨拶してもらうぞ。あんな真似をしておいて、まさか、文句はないよな?」

「…………はい、分かりました」

「…………………………分かった」

 2時間後、俺と六花は十花さんに連れられて、彼女たちのお父さんが眠る墓地の前へとやってきていた。

「あの、十花さん……」

「お義姉さん。だろ?」

「…………はい。十花義姉さん」

 十花さんの俺を見る目はどこまでも厳しい。

 当たり前かもしれないが。

「それで、何だ?」

「お義姉さんは一体どこから見ていたのでしょうか?」

 冷や汗を垂らしながら尋ねる。

「最初からだ」

「最初、から……?」

 冷や汗の量が3倍に増量する。

 

「六花をここに連れて来たくて、お前らに焼酎入りのウーロン茶を飲ませて酔わせてけしかけた所……まさか大事な妹をきずものにされるとはな…………私だってまだなのに」

 十花さんの眉が吊り上った。

「ひぃいいいいぃっ!?」

 殺される。

 そう恐怖した。

「勇太は私の愛する旦那様。お姉ちゃんには殺させないっ!」

 六花も十花さんに負けないぐらい目を吊り上げた。

「それに私はきずものになったんじゃない。愛し合う者同士が赤ちゃんを作る神聖な儀式に臨んだの。来年には私もママになる」

 六花は自分のお腹をとても優しく撫でた。慈愛に満ちた表情。

「あの、ママになるかどうかはまだ分からないんじゃ……」

 手を小さく挙げながら控え目に私見を述べる。

「大丈夫。自信あるから。計算もバッチリ。来年には勇太はパパで私はママ。もう確定」

 六花はVサインをしてみせた。満面の笑顔で。

「そう、ですか」

 空を見上げる。

 太陽がやけに眩しかった。

 なのに、視界が滲んでいた。

 おかしいな、雨は欠片も降っていないのに。

 

「もう学校に通わなくて良い、長い夏休みになりそうだなあ……」

 仕事、どうしよう……。

「丁度私の働いているレストランで、1人調理補助を募集している。戻ったら早速出勤だ。良かったな、すぐに就職が決まって」

「…………はい。ありがとうございます」

 十花さんに頭を下げる。全身がプルプルと震えていた。

「私は頑張って赤ちゃん育てるから。勇太はお仕事頑張ってね♪」

 とても澄んだ、最高に可愛い笑顔でそう言ってくれる六花。

「ああ、俺。頑張るよ」

 そう答えるしかなかった。

 それが男としてのけじめ、責任というものだろう。

 それにそんなに悪い気分でもなかった。これからの人生が定まったのだから。

 

 

「それじゃあ勇太、六花。ちゃんとパパに挨拶と報告をしてくれ」

 十花さんに促されてお墓の前へ。

 えっと、こういう場合……やっぱり夫になる俺の方から挨拶すべきなんだろうな。

「その、俺は富樫勇太といいます。初めての御挨拶が結婚の御報告というのも何ですが……娘さんを、六花さんを俺にください。六花さんは俺が必ず幸せにします」

「パパが生きていたら確実にぶっ飛ばすのが決定していた挨拶だな」

 十花さんの声が冷たい。

 でも、それに動じてもいられなかった。

「六花と2人、子供もできたら3人で、必ず幸せになります。だから、安心してください」

「まあ、パパの前でこれだけ誓えるのなら……パパも少しは安心するだろう。パパの代わりに六花を頼むと言っておこう」

 十花さんから聞こえた今度の声は優しかった。

 

 

「次は、六花の番だ。今度こそ……ちゃんと、向き合えるよな?」

「………………うん」

 六花はお墓の前にしゃがんで手を合わせた。

 よくは知らないけれど、六花はここに来ることに躊躇いがあったらしい。

 でも、俺と一緒に来ることを決意した。

 どうもそういうことらしい。

「パパ。私、勇太のお嫁さんになるから。お腹のこの子のママになるから。もう、大丈夫だから。……だから、安心してね」

 六花のまぶたに大粒の涙が溜まっていく。

「今まで来られなくて……ごめんね」

 六花の頬に涙の河ができた。

「それから……私を産んでくれて、ありがとう」

 そして六花は自分の顔に手を当て──

 眼帯を外した。

 晒される六花の右目。隠されていたその黄金の瞳には涙が湛えられていた。

「もう、これは必要ないから」

 眼帯を墓へそっと供えた。

 六花なりのけじめ、なのだと思う。

「これからは、両目で、ちゃんとこの世界を見るから」

 六花は俺の手をそっと握ってきた。とても温かい手の感触だった。

「勇太と一緒なら、大丈夫だから」

 六花は泣きながら、でも笑いながらお父さんに報告していた。

 だから、俺も六花の手を握り返して伝えた。

「これからは……六花の目、邪王真眼の代わりには俺がなりますから。俺が、彼女を守りますから」

 六花のこれからの人生を俺が全力を賭けて守る。

 それが俺の誓いだった。

 

「まっ。ただのスケベ男かと思ったら、ここまで妹のことを想ってくれる奴だったとはな。六花、勇太に捨てられることがないようにしっかりするんだぞ」

 十花さんの声はどことなく楽しそうに聞こえた。

「うん。私はいつまでも勇太と一緒、だよ」

 六花は力強く頷いた。

「俺だって、六花のことを絶対に離さないからな」

 六花と手を繋いだまま2人して立ち上がる。

「ずっとずっと六花と一緒だからな」

「うん。私も、勇太と一緒にいるから」

 

 真夏に訪れた六花の故郷で

 俺と六花は新しい人生を歩み始めることになった

 光に彩られた新しく幸せな人生を

 

 

 中二病でも恋がしたい!Lite 六花エンド

 

 

 

 

 

中二病でも恋がしたい!Lite 戦慄の…聖調理人(プリーステス)

 

 

 

「どうすれば六花の頑なな心を溶かすことができるんだ?」

 パパの死を決して認めようとしない六花。

 ママが蒸発してしまったことを認めようとしない六花。

 そして六花は現実逃避の果てに中二病と呼ばれる奇妙な言動ばかりを取るようになってしまった。

 その結果、古く厳格な人でもある祖父と対立して高校進学では逃げるようにして私の元へとやって来た。

 六花が私の元にいることはいい。可愛い妹なのだから。

 けれど、私の元にいることで、六花がいつまでもおかしな言動を取り続けて非社会的な人間に育ってしまうのは困りごとだった。

 

「中二病を辞めさせるのには、どうしたら良いんだ?」

 六花がこちらに引っ越して以来、私は妹をまっとうな道に戻すために様々な努力を重ねてきた。

 けれど、効果は全く上がっていない。六花は相変わらずおかしな言動を取り続けている。

 成功したことと言えば、コンビニやその他食品販売店での買い食いを禁止したことぐらい。言い換えればプロのシェフとして食事を管理することぐらいだった。

「本当に、どうしたら良いんだ?」

 万策尽きた。というか、私が何か策を講じるほどに空回りして状況が悪化していくというか。私は……人間が不器用なのだ。本当に、どうしたら良いものやら……。

 私は本当に無力な姉だった。

 

 

「十花。火を扱っている最中に考え事をしたら危ないじゃなイカっ!」

 同僚の声に急激に意識が覚醒する。

「あっ!」

 私の手元では、エビチャーハンが真っ黒な炭と化そうとしていた。

 慌てて火を止める。けれど、もう遅すぎた。

「はぁ~。やってしまった」

 炭化したチャーハンはとても客に出せるものではなかった。

 プロのシェフであるにも関わらず客に出す料理を失敗してしまうとは。

 自分らしくもないミスに深く落ち込んでしまう。

「仕方ない。この焦げたチャーハンは処分するしか……」

 フライパンの中身を全て廃棄することにする。

「エビがあるのに勿体ないじゃなイカ。私が食べるんだゲソ」

 同僚は髪の毛を器用に2mほど伸ばしてフライパンを掴む。そのまま口元へ持っていき一気にチャーハンを平らげてしまった。

「焦げても美味いんだゲソ。さすがは十花じゃなイカ」

「慰めてくれるのは嬉しい。だが、料理の失敗はプロとして自分が許せん」

 脳内で自分に×を付けながら料理を再開する。客は待っている。罰するのは仕事が終わってからだった。

 

「十花はさっきから一体何を悩んでいるのでゲソ?」

 昼のかきいれ時が終わり、少し暇な時間になって同僚が話し掛けてきた。

 同僚には私の動揺がバレバレのようだった。まあ、私らしくもない些細なミスを連発したから当然のことか。

「実は……」

 同僚にどこまで話して良いものか迷う。妹の恥を曝すというのもちょっと……だ。

「身内にな、中二病という厄介な症状に掛かってしまった者がいて対処に苦慮しているのだ」

 とりあえず表現をぼかしながら話してみる。

「中二病?」

 同僚は首を捻った。

「ああっ! 脳内に10万3千冊の魔道書を全部記憶しているとか、1年に1回記憶を消去しているとか、もう1つの人格が無意識に他人を襲うとか、そういうあり得ないことを平然と言ってのける奴のことでゲソね」

 同僚は髪の毛の束を器用に操り手でポンッと叩くような動作をしながら頷いてみせた。

「まあ、そういう症状だな」

「アッハッハッハッハ。若気の至り。後になったら死にたくなるほど恥ずかしい過去ってヤツになるじゃなイカ。まっ、笑い話だゲソ」

「現在進行形でそういう身内がいるから困っているんだ」

 ため息が漏れ出る。

 第三者にとってみれば中二病は所詮笑い事でしかないのかも知れない。身体に疾患があるわけではないのだから。

 けれど、家族が中二病だとそんな悠長なことは言ってられない。

 

「あっ。停電だゲソ」

 急に店内が暗くなった。テレビも消えてしまった。

 電気を使いすぎたのか。それとも供給が不安定になっているのか。

「ブレーカーがどうなっているのかちょっと見てくるでゲソ」

 同僚は器用に全身を発光させながらブレーカーを見に行った。

「現実と虚構の混在。どうしたら六花をまともな道に戻せるんだ?」

 幾ら悩んでも答えが出ない。難しい顔をしながらジッと考えているとすぐに電気が灯った。

「これでもう大丈夫だゲソ」

 同僚が戻ってきた。10ほどの髪の毛の束を器用に動かしてレストランの天敵であるハエを叩き落しながら。

 同僚は働き者だ。この店が繁盛しているのは彼女の勤勉さによる部分も大きい。10本以上手があるかの如き働きぶりを見せてくれる。

 そんな彼女を私は好ましく思っている。

 やはり、妹に将来まっとうな職に就いてもらう為には一刻も早く更生させないといけない。中二病を続けさせては妹の為にならない。

 私は同僚に重ねて尋ねてみることにした。

 

「どうすれば中二病は治せるだろうか?」

 同僚は再び首を捻る。

「別に放っておいても勝手に治るんじゃなイカ?」

 ケロッとした表情の同僚の回答はごくあっさりしたものだった。

「大人になって中二病を引き摺っている奴はあんまりいないでゲソ」

「まあ、そうなのだが……いも、身内の場合は、その、色々と原因があって根が深いんだ」

 六花の中二病はパパの死、ママの蒸発という家族の崩壊と密接に結びついている。

 だから、飽きれば治るとか、受験や就職という壁にぶつかったから自動的に治るとかそういうものと違う気がする。もっと厄介のものだ。

「なら、中二病の弊害についてその子にじっくりと語って聞かせられる大人の存在が必要でゲソね」

「じっくりと語って聞かせられる大人か……そうだよな」

 同僚の言葉に頷いてみせる。

 本来ならその役目はパパなのだろう。けれど、そのパパの死が原因で六花は中二病になってしまった。

 ママもいない。祖父は六花と向かい合うことを拒否。祖母は六花を幼子として扱うことで問題視することを避けている。

 そして私は説得に失敗し続けている。

 六花にはちゃんと親身になって諭してくれる大人がいない。それが現状だった。

「つまり、全ては私が未熟ゆえに解決できないでいるということか」

 自分の不甲斐なさに腹が立つ。六花に厳しく接している癖に、一番の未熟者が自分だったとは。

 

「何がそんなに十花を追い詰めているのかは知らないでゲソ。でも、ひとりで思い詰めても良いことはないでゲソよ」

「しかし、私以外にこの問題に真剣に取り組くんでくれる者は他に……」

「だったら、十花が頼れる人をみつけて、そいつと2人で問題解決に当たれば良いんじゃなイカ?」

「私が頼れる人をみつけて、2人で……」

 それは全く考えたこともない解決方法だった。

「しかし、私は高校時代も今も働くことに掛かりきりで……そういう存在がいたことがないのだが……」

 私に男女交際の経験はない。

 シェフとして生きていくことは高校時代にレストランでバイトしながら既に決めていた。

 シェフとしてのスキルを身につけることに専念して生きてきた。

 恋愛に興味もなかったし、1人で生きていくのに十分な額を稼げる自信があった。

 事実、それやって今まで生きてきた。

 けれど、その私の生き方が今問題視されていた。

「十花に男がいないのは十花自身の問題でゲソ。まず自分の問題を解決してから身内とやらの問題に取り組めば良いじゃなイカ」

 同僚は意地悪く笑ってみせる。ほんと、小憎らしくも手厚いアドバイスだった。

「手厳しい課題だな」

 大きくため息を吐く。けれど、同僚と話したおかげで問題解決の為の方策は定められた。

「ありがとうな」

「悩みが解決したのなら、さっさと仕事するでゲソ」

 私は少しホッとした心境で調理を再開したのだった。

 

 

「というわけで富樫勇太。私と付き合え」

 夏休みも終盤に差し掛かったある日。六花のお姉さんである十花さんが突然極東魔術昼寝結社の夏の部室を訪れてそう言った。

 その突然の来訪と宣言に俺だけでなく部員一同全員が驚いている。

「むにゃむにゃ~。勇太く~ん。私のパンツをかぶって~それは私のおいなりさんだ~って悪い人をやっつけるお仕事頑張ってね~~♪」

 くみん先輩だけはいつも通りにマイペースに昼寝中。っていうか、一体何の夢を見ているんだ?

 とにかく、十花さんの襲撃は大きな事件だった。

「………………っ」

六花が引き攣った表情で黙っているので仕方なく俺が代表して聞き返してみる。

「何がというわけなのか分かりませんが。えっと、どこに付き合えば良いのでしょうか?」

 十花さんがわざわざ俺を指名したということは、荷物持ちを必要としているのだろう。

 一体、何を買うのだろうか?

「そうではない」

「じゃあ、どういうことでしょうか?」

「君は鈍い男だな」

「すみません」

 訳も分からずに頭を下げる。

 六花達の顔を見れば誰も十花さんの意図について理解している者はいないのが分かった。

 ほんと、意味不明な申し出だった。

 

「付き合えと言ったら、結婚を前提に男女交際しろという意味に決まっているだろうが」

 

 十花さんの頬にほんの僅かだが赤みがさした。意外すぎる表情が可愛い。

 でも、そんなことは些細な問題でしかなかった。

「「「「へっ?」」」」

 俺達の中の誰も十花さんの話の意味をちゃんと理解できた者などいなかったのだから。

 

「あの、何故に俺と十花さんが結婚を前提にお付き合いということになるのでしょうか? そんなフラグ存在してましたっけ?」

 頭を捻りながら好感度上昇イベントがあったかどうか思い出してみる。

 十花さんと一番喋ったのは夏休み半ばに六花の実家を尋ねた時だ。

 でも、あの時俺は十花さんではなく六花側に立って行動した。十花さんにとってみれば俺の行為は背信でしかなかっただろう。

 故に十花さんの好感度が上がったとは考えられない。あの事件の後、俺は十花さんと特に話をしていない。

 好感度が上がるようなイベントなどなかったと思うんだけど?

「フッ。そんなことは簡単だ。私には他に適当な男の知り合いがいないからだ」

 十花さんはドヤ顔で答えてみせた。

「いや、男の知り合いがいないからって、俺を結婚相手に指名するのはどうかと……」

 背後から感じる強烈なプレッシャー。言い換えればビンビンな殺気を感じながら返答する。

 これは罠に違いなかった。冗談でも話に乗ったりすれば俺は五体満足ではいられない。

 それだけはハッキリと理解できた。

 

「適当というのは誰でも良いことを指しているのではないぞ。選択肢の中で最善だということだ」

 十花さんは首を横に振ってみせた。

「六花には親身になってくれる義兄が必要だと私は判断した」

 十花さんは俺の後ろを見た。怖くて振り返れないが最大級の殺気を放出しているであろう少女を。

「勇太。お前ならば六花に親身になって接することができるだろう」

「いや、確かに俺は昔中二病だったし、六花のことを放っておけないから、親身にはなれますけど……」

 恐る恐る六花を振り返る。

「………………っ」

 六花は堅く口を閉じたまま頬を赤く染めていた。怒っているのか照れているのかよく分からない表情。

「そういう訳で勇太。君には私と結婚し六花の義理の兄になって欲しいのだ」

「いやいやいやいやっ! その論法はおかしいですから! 六花に親身になるのと、六花の義兄になるのは一緒にしちゃダメですから」

「私の中では2つは完璧に融合しているのだが? はて?」

 十花さんは大きく首を捻った。

 この人、六花のお姉さんだけあって実は天然ボケか!?

 

「勇太は私が妻では不服か? 年上は嫌か?」

 十花さんは不満そうな顔で唇を尖らせている。ギャップが可愛い。じゃなくてっ!

「いや、不服とかそんなんじゃなくてですね! 俺達まだ、互いをよく知ってもいないのに……」

 尻つぼみになっていく。頭がごちゃごちゃしてきた。

「勇太のことは樟葉と夢葉と君のママを通じてよく知っているぞ」

 恨めしいかなマンション内ネットワーク。心の中で何度も舌打ちしてみせる。

「まあ、そうなのかも知れませんが。俺と十花さんに直接的な面識がそんなある訳でも……」

「私の部屋は勇太の部屋の真上だからな。ダークフレイムマスターの言動は以前よりベランダからたっぷり眺めさせてもらったぞ」

「いやぁ~~っ!! 恥ずかし恥ずかし恥ずかし~~~~~~っ!!」

 畳の上を転がり回る。マンションの住人には俺の恥部が全て筒抜け。学校だけ知らない奴らのいる所に通ってもダメだったぁ~~っ!

 それにしても十花さん。

 この人、俺の恥部を全て見ておきながらそれでも俺を交際相手に選ぼうと言うのか!?

 こんな恥ずかしい俺をそれでも未来の旦那にしようって言うのか!?

 ドキンっと心臓が跳ね上がった。

 えっ?

 あれ? この胸が高鳴る感覚って……。

 ま、まさか。

 

「勇太にとって私を妻に娶ることは悪い話ではないはずだ」

「と、言いますと?」

 十花さんの話に引き込まれてしまっている。俺は、交渉のテーブルにつこうとしていた。

「私の職業はシェフだ。しかもかなりの高給取り。勇太が失業しても……ずっと食べさせてあげる自信ならあるぞ」

「ヒモオーケー宣言っ!?」

 心臓を矢でズキューンっと打ち抜かれたような感覚。

「しかも私は毎日忙しいにも関わらず、六花の食事を3食きちんと料理して提供している。勇太の食生活と健康は一生安泰だ」

「料理に手を抜かない家庭的な面をアピールっ!?」

 ズキューンその2っ!

 後1回ズキューンされたら、俺は、俺はぁっ!!

「そして自分で言うのも何だが、私は結構いい身体をしているぞ。勇太が結婚してくれるのなら、この身体……その、好きにしていいぞ」

 十花さんが顔を赤く染めながら大きな胸に手をそっと添えてみせた。

 その表情と仕草はあまりにも可愛すぎた……。

 ズキューンその3っ!

 

「十花さん。いやっ、十花っ!!」

 十花さんを正面から見据える。

「生まれた時から……いや、1万年と2千年前から愛してましたぁあああああああぁっ!!」

 最愛の人に向かってルパンダイヴを敢行する。

 俺と十花の愛の前に年上だとか釣り合わないとかそんなことは全く障害にならない。

 俺は、俺はこの人を愛する為にこの世界に生まれて来たんだぁ~~~~っ!!

「もぉ……いきなりだなんて困った人だな、ダーリンは♪」

 顔を染めながら照れ笑う十花さんはとても可愛かった。

 俺の判断に間違いはない。

「びぶでぇっ!?」

 そう思った瞬間、俺の意識はプッツンと途切れた。

 そう言えば後ろに殺気をビンビンに発している夜叉たちがいたんだっけ。

 失敗失敗。

 俺、次に目を覚ますことができるよね?

 そんなことを考えながら俺は意識を手放したのだった。

 

 

 

 私に抱きつく寸前で勇太はドサッと床に崩れ落ちた。

 六花の振り下ろしたモップの柄が勇太の後頭部に直撃したのだった。

「六花。将来お義兄ちゃんになる人に対してその態度は失礼ではないか?」

 妹に教育的指導を行いながら睨む。生まれて初めて男性に抱きつかれるという体験ができる所だったのに、邪魔をされてしまった。せっかく同僚に自慢できると思ったのに。

「勇太を……プリーステスのお婿さんにはさせない」

 六花は普段よりも鋭い瞳で私を睨みつけている。フム。疑ってはいたがやっぱりそうなのか。だが……。

「フッ。私とやろうと言うのか。面白い」

 胸元からおたまを取り出す。今回は2本取り出して二刀流で構える。

「富樫くんが誰と結婚しようと関係ないです。でも、今回は私も小鳥遊さんに助太刀します」

 この間実家に訪れてきた行儀の良い少女、丹生谷森夏も六花の横に立ってチアガールのボンボンを構えた。

 とても険しい表情で私を見ている。なるほど、彼女も勇太のことを。

「凸守は富樫勇太のことなんて何とも思っていないのデス。でも、マスターのサーヴァントとして、一緒に戦うのデス」

 小柄なお子ちゃま体型ツインテール凸守早苗も自身の髪を振り回しながら六花の隣に立った。何とも思っていないと言いながら、私怨を感じさせる怒りに満ちた瞳。

 そうか。彼女までが勇太のことを。

「私の未来の旦那はハーレム王だったということか」

 これだけの数の少女から好意を寄せられているのだから、勇太はやはり何かを持った男なのだろう。私の判断は外れではなかったようだ。

 

「3対1でプリーステス……お姉ちゃんは私達に勝てると言うの?」

 六花が1歩距離を詰めながら問い掛けてくる。

「3対1? そうだな……」

 今、私が集中しなくてはいけないことは……。

「何故、凸守達の方を見ないのデスか?」

「余裕のつもりですか?」

「そうではない。私は最も手強い相手を警戒しているだけさ」

 魔方陣の中央で枕を抱きかかえて眠っている少女を。

「もうそろそろ、寝たフリをやめたらどうだ?」

 正確には寝たフリを続ける五月七日くみんに向かって語りかける。

「う~んと。4対1で襲いかかるのは卑怯だから~3人がやられた後で目覚めようかと思ってたんだけどな~」

 眠った姿勢のままのくみんから寝ぼけ声が聞こえてきた。

「この戦いは私が1対4の状況を切り抜けないと意味がない。故に遠慮は無用だ」

「でもそれじゃあお姉さん。きっと負けちゃうよ~。大怪我しちゃうかも知れないよ~」

「それでも。いや、そうだからこそ。この困難に打ち勝たねば私は勇太の妻になる資格が生じない」

「そうなんだ~」

 くみんは枕を抱えたままゆっくりと起き上がった。

「ならその資格。私達が剥奪してあげるね~~♪」

 満面の笑みを浮かべるくみん。その笑顔が意味する所はあまりにも明白だった。

「さあ、始めるか。富樫勇太を賭けた乙女たちの聖戦をっ!」

 戦闘の構えを取る私と六花達。

「お姉ちゃん……手加減はしない」

「手加減などして私に勝てると思うなよ、小娘」

 部室内に漲る闘志の量は遂に限界を迎え

 

「「爆ぜろっ、リアルっ!!」」

「「「弾けろっ、シナプスっ!!」」」

「「「「「ヴァニッシュメント・ディス・ワールドっ!!」」」」」

 

 私と彼女たちの聖戦がここに始まった。

 

 

 

 

「十花は最近、とても機嫌がいいじゃなイカ」

 昼食のかきいれ時に備えて仕込みをしていると同僚が尋ねてきた。

「そう見えるか?」

「鼻歌を大きく口ずさんでみたり、やたらニヤニヤしたり。前と随分雰囲気が違うでゲソ」

「そ、そうか」

 同僚の言葉には思い当たる節があった。そして、私の機嫌が良くなった原因と言えばやはり……。

「私にも生まれて初めて彼氏……婚約者ができたからな。私も人の子。浮かれもするさ」

 同僚に顔を見られないように俯きながら答える。

「ちょっと前まで、身内が中二病で困るって思い詰めていた人間とは思えない変わりぶりだゲソ」

「そっちも、快方に向かっているからな。だから余計に嬉しいんだ」

 嬉しさが胸の奥底からこみ上げてくる。

「私は自分を無感動な女だと思っていた。けれど、勇太と付き合い始めてみると、自分がこんなにも感受性豊かな人間なのかと驚いてしまったほどだ。私は……彼にメロメロだ」

「遂に惚気話まで始めやがったでゲソ」

 同僚の呆れ声が聞こえる。

 けれど、今私は自分の人生が楽しくて仕方なかった。

 

「あっ、今日もまた2人がやって来たでゲソよ」

 同僚が店の外を眺めながら報告した。

「週末は朝早く起きて私に会いに来てくれる。こんなことは昔はなかった。実に良いことだ。うんうん」

「私にはそんな微笑ましい雰囲気には欠片も見えないでゲソがね」

 同僚は眉間に皺を寄せている。

 

「六花さん。まさかわたしが貴方とこうして肩を並べて共に戦う日々が訪れるなんて想像もしていなかったよ」

「私も。でも、私達が力を合わせないとお姉ちゃんには勝てない。勇太を取り戻せない。だから行こう、樟葉」

 

 全速力で店に向かって走ってくるのは近未来の義妹と実妹だった。

 妹同士仲良くなってくれたのは実に良いことだった。

「家族ぐるみの付き合いを実践している。実に良い光景じゃないか」

「私にはそんな風にポジティブに受け止められる十花がよく分からないでゲソ。前は何でも悪い方向に考えていたのに」

「フッ。人は変わるのだよ。大事な人を得て私も六花も変わった。そういうことだ」

 仕込みをしていた手を止めておたまを構える。

 

「じゃあ私は妹達とちょっと遊んでくる」

 週末の日課になっている妹達との遊戯(バトル)の時がきた。

 私が勇太と付き合うようになって以来、妹達は毎週末、職場まで訪ねては私に1週間鍛え上げた武の成果を示してくれる。

 六花は中二病をやめて熱心に体を動かしてくれるようになったので実に健康的で良いことだった。戦いづらいということで眼帯も外すようになったし。

「流血沙汰は勘弁して欲しいでゲソよ」

「大事な妹達にそんな酷いことをするわけがなかろう。ちょっと昼寝してもらうだけさ」

 意気揚々と店のドアに手を掛ける。

「いってらった~い♪」

 夢葉が手を振って私を見送ってくれる。

 お義母さまと勇太は今日外出していないということで、店で夢葉を預かることにした。

 幼き義妹は私が与えたクリームパフェを堪能しながら口の周りをクリームでベトベトにしている。

 それを拭いてあげながら私は返事をかえした。

「ああ。行ってくるさ」

 数年ぶりに取り戻した家族の団欒。その温かみを噛み締めながら私は妹達との戦いに赴くのだった。

 

 

中二病でも恋がしたい!Lite 十花エンド

 

 

 

 

「ゆめはがおとなになるころには~ばあさんはようずみだから~おにいちゃんのことはまかせてね~とうかおねえちゃん♪」

「ヒィイイイィっ!? この幼女、何か怖いこと言っているでゲソォ~~~~っ!」

 

 


 
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