No.518196

そらのおとしもの CAO

水曜から離れた定期更新。

1話ずつ作るのがめんどうなのでまた連載もの。今回はカオス主人公。

コラボ作品

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2012-12-13 21:29:43 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:1725   閲覧ユーザー数:1670

そらのおとしもの CAO

 

1.空美町のブレない人々

 

 2012年12月15日土曜日。

『福岡市内は近付いてきたクリスマスムードで大変賑わっています』

 赤いトンガリ帽子をかぶった女性が景気の良さそうな表情を浮かべながら街の様子をリポートしている。

 何故街がこんなにも浮かれモードなのかカオスには訳が分からない。

「ねえ、イカロスお姉さま。ニンフお姉さま。そはらお姉さま」

 ちゃぶ台を囲んでテレビ番組を見ている3人の姉へと向き直る。

「クリスマスってなぁに~?」

 幼女らしくストレートに質問をぶつけてみた。

 すると、ニンフとそはらは顔を真っ赤に染め上げ、イカロスはドヤ顔をカオスに返してみせた。

「くっ、クリスマスってのはアレよ」

 ごにょごにょと口篭りながらニンフが代表して答える。

「智樹の赤ちゃんを作る為の日、のことなのよ……っ」

 恥ずかしがるニンフには少しもブレがなかった。今日も今日とてエロかった。

「お兄ちゃんの赤ちゃんを作る日?」

 けれどカオスはニンフの答えに全く要領を得ない。

「ニンフさん。幾らなんでもその答え方じゃカオスさんに何も伝わらないよぉ~」

 イヤンイヤンと首を左右に振るそはら。ニンフの言うことは否定しない。彼女もまた今日も今日とてエロかった。エロ担当は決してブレない。

「でも、カオスはまだお子ちゃまなのよ。あまり過激な真実を教えてはこの子の情操教育に良くないわ」

「だけどあんまり中途半端なことばかり言って、他の人にもたくさん聞き回る様なことになったら大変だよ」

 ニンフは腕を組んで悩んでいる。やがて目を見開いて宣言した。

「仕方ないわね。カオスの情操教育に悪影響を与えない程度にクリスマスの実例を教えてあげるわ」

 薄すぎる胸を張って踏ん反り返っている。

「い~い。クリスマスっていうのは、こういう行事なのよっ!」

 ニンフのクリスマスに対する解説が始まった。

 

 

 

『メリークリスマスだね……智樹♪』

 クリスマス・イヴの深夜。

 ニンフはそっと智樹の寝室を訪れていた。

『ニンフ……おっ、お前。その格好はっ!?』

 寝起きだった智樹はニンフの姿を見るなり急激に意識を覚醒させた。大きく目を開いてニンフの姿を見ている。

 そんな智樹の熱視線にニンフの頬が染まりあがる。

『私が……智樹のクリスマスプレゼント、だよ♪』

 恥ずかしがりながら自分の服装の意味について知らせる。

 ニンフは裸に赤いリボンを巻いただけの状態で智樹の前に立っていた。

『にっ、ニンフがクリスマスプレゼントなのかああぁっ!?』

 智樹が荒々しい息遣いと興奮した口調でニンフに確認を求める。

『うん♪ 智樹の好きにしてくれて……いいからね』

 全身を真っ赤にしながら小さく頷いてみせる。

『うぉおおおおおおおぉっ!! ニンフっ、好きだぁああああああああぁっ!!』

 智樹はニンフを強く抱き締めるとそのまま押し倒してきた。

『うん。私も大好きよ、智樹♪』

 ニンフは抱き締められたまま智樹に頷いてみせた。

『今夜は寝かさないぜ』

『エンジェロイドは元々寝ないわよ。でも……初めてだから優しくしてね♪』

 2人の熱く長い夜が始まりを告げた。

 

 翌朝、ニンフは智樹と共に夜明けのモーニングコーヒーを飲んでいた。

『ニンフのクリスマスプレゼント。最高だったぜ』

 男になった少年が凛々しい表情でニンフに語りかける。

『私も……クリスマスプレゼントをちゃんと智樹から受け取ったから』

 ニンフは愛しげに下腹部を撫でた。

『そ、それじゃあ……』

『うん。きっとできてると思う。私と智樹のベイビーが♪』

 ニンフはとても幸せそうに智樹に微笑み返した。

 その表情を見て智樹はニンフを激しく抱き締めた。

『ニンフっ! 俺と結婚してくれぇ~~っ! 2人で一緒に育てようっ!!』

『うん。よろしくお願いするね智樹パパっ♪』

 こうしてクリスマスの朝、空美町に永遠の愛を誓い合った1組のカップルが誕生したのだった。

 

 

「まあ、これがクリスマスのあるべき姿ね♪」

 話し終えたニンフはホクホク顔で口の端から涎を垂らしていた。

「……チビッチのあらゆる行事をエロに結び付ける能力がたまに羨ましく思う時があります」

 イカロスは軽蔑の視線でニンフを見ている。ぺっと唾を吐き出した。

「ニンフさんの説明はいつも変わらずにエッチ過ぎるよぉ~」

 そはらもまた顔を赤らめている。

「それに、その説明じゃクリスマスの一部についてしか説明できてないよう~」

「私の説明の何が不足していると言うの?」

 ニンフがちょっとムッとしながら問い返す。

「う~ん。やっぱり、クリスマスって言ったら、パーティーとか美味しい食べ物がいっぱいないと盛り上がらないよ」

「まあ、そうかも……」

「やっぱり、クリスマスはこんな感じにしないと……」

 そはらによるクリスマスの説明が始まる。

 

 

『智ちゃん。メリークリスマス。だよっ♪』

 そはらは智樹と2人きりの自室でクラッカーを鳴らしながらクリスマスを祝う。

『すっげぇ~ご馳走だな、そはら』

 智樹はそはらの準備した数々の料理を見ながら瞳を輝かせている。

『智ちゃんの為に準備した食事なんだから……全部綺麗に食べてね♪』

 そはらは智樹の態度が嬉しくて笑ってみせた。

『それじゃあ、いっただっきま~す♪』

 智樹は勢いよくご馳走を口にし始めた。

『美味い。美味いぞそはらっ!』

『良かった♪』

 夢中になって食べ続ける少年を少女は幸せそうな表情で見守っていた。

 

『ふ~。食った食った』

 智樹はお腹をパンパンにはらしながら食後の一休みに入っている。

 そはらが準備した料理はデザートまで全て平らげてしまっていた。

『じゃあ、そろそろメインディッシュをいただくとするか』

 智樹がそはらへと向き直る。

「えっ? お料理まだ足りなかった?」

 まさか智樹がまだ食べたりないとは思わずにそはらはちょっと焦る。

『俺がまだ味わっていない極上の料理。それは……お前だよ、そはらっ!!』

 智樹は突如立ち上がるとそはらの両肩を荒々しく掴む。そしてそのままベッドへと誘導し押し倒した。

『とっ、智ちゃんっ!?』

 突如智樹に圧し掛かられて目を白黒させるそはら。何が起きているのか理解できない。

『まずはこの美味しそうな大きな桃からいただくとするか~♪』

『智ちゃん。それは桃じゃなくてわたしの胸だよぉ』

 困った声を上げるも智樹はそはらの胸に手を置いたまま放してくれない。

『ぐっひょっひょっひょっひょ』

 それどころか手を動かしてそはらの胸を揉んでくる。いつものことと言えばそれまで。でも、ベッドに押し倒されての現状は普段よりも重い意味を持っていた。

『こ、こういうことは恋人同士になってからじゃないとダメだよぉ』

 必死に訴える。すると智樹が表情を凛々しく直した。

『なら、俺の恋人になってくれないか?』

 その申し出はあまりにも唐突だった。そしてそはらを大きく動揺させた。

『だっ、ダメだよ。エッチなことがしたいからなんて理由で恋人になってなんて言っちゃ……』

『違うっ!』

 智樹は大きく首を横に振った。

『俺はそはらが好きなんだっ! ずっと前から恋人になって欲しかったんだっ!』

 熱い訴え。智樹の真摯な声はそはらの胸を強く打った。

『本当に……わたしのことが好きなの?』

『ああっ! 俺は、そはらを愛しているっ!!』

 そはらは胸の中が温かい想いで包まれていくのを感じ取っていた。

『わたしも……智ちゃんが大好き、だよ♪』

 そはらは智樹の首の後ろへと腕を回し……自分から少年にキスをした。

 

 翌朝、そはらが目を覚ますと智樹がジッと顔を覗き込んでいた。

『智ちゃん、人の寝顔を覗き込むのは趣味が良くないよ』

『そはらがあんまり可愛い顔をしているからつい見蕩れてしまったんだ』

 おはようのキスを交わす2人。

『それでね、智ちゃん。実はね……』

『何だ?』

 そはらはモジモジとしながら勇気を出して話を切り出した。

『そのね。昨夜は、その……赤ちゃんできちゃうかも知れない日だったの』

『じゃ、じゃあ……』

『うん。わたし、ママになるかも知れないの……』

 智樹がどんな反応を見せるか不安で少年の顔をチラチラ窺う。

 少年の出した答えは……。

『なら……ちょっと早いけど結婚しようぜ』

 そはらを優しく抱き締めることだった。

『1人で育てるなんて悲しいことは言うなよな。俺たちの子供だ。一緒に育てよう』

『うん。よろしくお願いするね智ちゃんパパっ♪』

 こうしてクリスマスの朝、空美町に永遠の愛を誓い合った1組のカップルが誕生したのだった。

 

 

「……このビッチどもはきっと大晦日もお正月もみんなエロいことに結び付けてしか考えないのでしょうね」

 イカロスは再び唾を吐き出した。

「イカロスお姉さま」

 カオスがくいくいとイカロスの袖を引っ張った。

「……どうしました?」

「ニンフお姉さまとそはらお姉さまのお話の内容がわからないの」

 カオスはとても困った瞳をしている。

「……分からないままの貴方でいてください。ビッチはこれ以上必要ありませんので」

 イカロスはカオスの頭を優しく撫でた。

 

「そんなことを言いながらアルファだって、クリスマスに智樹を総受け地獄に陥れるつもりなんでしょ?」

 ニンフが瞳を細めてイカロスを睨んだ。

「……クリスマスは性夜と表現されます。マスターが妊娠してしまうほどに滅茶苦茶にされてしまうのは必然です。その為の準備も当然進めています」

 イカロスは黒い愉悦を表情に顕した。その顔を見た瞬間、カオスの体はビクッと震えた。そして──

「大人はみんな嘘吐きだ~~~~っ!!」

 全身を震わせながら翼を広げて桜井家の居間から飛んで脱出したのだった。

「……カオスには立派なBL少女の道を歩んでもらいたかったのですが……教育とはなかなかに難しいものですね」

 イカロスは溜め息を吐き出しながら飛んでいくカオスを見守っていた。

 

 

2.グッバイアンドごはんはおかず

 

「結局……クリスマスって何なんだろう?」

 カオスは飛びながら考える。けれど、知らないものは分からない。

「そうだっ! お兄ちゃんに聞いてみよう~♪」

 智樹の顔が思い浮かんでカオスは嬉しくなった。

「お兄ちゃん。どこかなあ?」

 上空から智樹の居場所を探ってみる。残念ながら智樹の姿は確認できない。

「そうだ。アストレアお姉さまならお兄ちゃんの居場所を知っているかも」

 カオスは川原へと飛んでいった。

 

 カオスは1分もしないで川原へと到着。

 守形のテントが真下に見えた。アストレアも近くにいるに違いなかった。

 カオスは周囲を旋回し、草むらの中に羽の生えた少女が倒れているのを発見した。

 今にも消えてしまいそうな儚さを湛えていた。

「これが……イカロス先輩が描いた桜井智樹のイラスト。私はとうとう見たんだ。ああ。なんて素晴らしいのかしら」

 アストレアはイカロスが作成した薄い本の表紙を眺めながら涙していた。

 そんなアストレアを野良犬がガジガジと齧りついている。

「パトラッシュ……私はもう疲れたの……何だかとっても眠いの……」

 少女エンジェロイドは弱々しい声でそう呟くとそっと微笑んでまぶたを閉じた。

 そして、その瞳が開くことは2度となかった。アストレアは空腹と寒さにより天に召されたのだった。

 

「ここにはお兄ちゃんも守形お兄ちゃんもいないなあ~。街の方に行ってみよう~」

 カオスは見なかったことにして繁華街の方に出ることにした。

 イカロスに心配されずともカオスはカオスなりに大人への道を歩み始めていた。

 

 カオスは福岡市内へと飛んできた。

 街頭車やら同じ色の服やタスキを掛けた人々が数多く目に付いたがそれは無視する。

 お目当ては智樹のみ。

 そしてしばらく飛んでいると、福岡駅の付近から探していた少年の声が聞こえてきた。

「お兄ちゃん♪」

 カオスは智樹の元へと文字通り飛んで駆けつける。

 その智樹は──

 赤いV字型のギターを片手に持って歌っていた。

 

 

I can hear my heart bell

どうしたっていうの

俺のベルが鳴る

 

はじまりはあの時だった(ringin' ringin')

君が目の前に突然(ringin' ringin')

現れたのは生まれる前から決められてたんだね

きっとそうだよ

 

願いや野望や空想が

知らない次元(レベル)へドアをたたいて

羽ばたく鍵と未来をくれる(with your wings)

 

I can hear my heart bell

止められないよ

天使が鳴らしてる“大好き”の合図だよね

Can you hear my heart bell?

どうしたっていうの

聞いたことがない俺のベルが鳴る

 

それでもまだ君は何にも知らないけれど

 

【 「Ring my bell」桜井智樹バージョン 】

 

 

 智樹は気持ち良さそうに歌っている。

 けれど、誰の注目も集めていない。

 というか、歌っている途中に脱ぎ出して全裸になってしまったのでみんな近寄らない。

 おひねり用に開かれているギターケースにはコイン1枚入っていない。

「くそぉ~っ! 俺には金が必要だってのに……何故俺の歌をみんな聞いてくれないんだぁ~~っ!!」

 智樹は全裸にギターを肩から掛けただけの状態で頭を抱えて大きく嘆いた。

「お兄ちゃ~~ん♪」

 カオスは空中から智樹に抱きついた。

「おおっ! カオスじゃないか。丁度良いところに来たな」

 名案を思い付いたとばかりに智樹は目を輝かせる。

「カオス。俺の代わりに歌ってくれないか?」

「えっ? カオスが?」

 突然の智樹の申し出に驚かされる。

「幼女シンガーなら絶対に受ける。それに何となくだけど、カオスはギター片手に歌うのが上手い気がする」

 智樹はギターをカオスに渡した。

「うん。やってみるね~」

 体に比して大きなギターを楽しげに操りながらカオスは歌い始めた。

 

 

ごはんはすごいよ なんでも合うよ ホカホカ

ラーメン うどんに お好み焼き これこれ

炭水化物と炭水化物の

夢のコラボレーション

(アツアツ ホカホカ)

 

ごはんはすごいよ ないと困るよ

むしろごはんがおかずだよ

関西人ならやっぱりお好み焼き&ごはん

 

でもわたし 関西人じゃないんです

(どないやねん!)

1・2・3・4・GO・HA・N!

1・2・3・4・GO・HA・N!

 

【 「ごはんはおかず」 放課後ティータイム】

 

 

 カオスが歌い終えた瞬間、福岡駅前に拍手の渦が発生した。

「幼女シンガー最高だぜぇ~~っ!!」

「ロンドン公演はまだなのかぁっ!?」

「ご飯食いてぇ~~っ!!」

 泣きながらカオスの歌に感動する聴衆たち。

 智樹のギターケースへとおひねりがポンポン投げ込まれていく。

「ぐっひょっひょっひょ。カオスはイカロス型の歌唱力の持ち主だったか。コイツはいいっ!!」

 智樹はギターケースに次々にお金が投入されていくのを見ながら悦に浸る。

「よしっ! カオスっ!! もっともっと歌いまくって聴衆たちのハートと財布を掴むんだぁっ!!」

「うんっ♪」

 智樹が気分良さそうなのを受けてカオスも嬉しくなる。

「じゃあ、次はふわふわタ~イム♪ いっくよ~♪」

 カオスは再びギターを奏でて歌い始めた。

 カオスの演奏は日が暮れるまで続いた。

 

 

 空に星が見え始めるようになった午後7時。

「よくやったぞ、カオス。お前のおかげで大儲けだ♪」

 ギターケースにぎっしりと詰まったおひねりを見ながら智樹はご満悦だった。

「偉いぞ。ナデナデ」

 智樹はギターケースを見ながらカオスの頭を撫でて涎を垂らしている。

「うん♪ カオス頑張ったよ♪」

 カオスは幸せそうに瞳を細めながら智樹に撫でられるがままになっている。

「チワーっ。2時間飲み放題、3千円でいかがっすかぁ?」

 その時、赤い衣装を着たサンタクロースがチラシを配りながらカオスたちの前を通り過ぎていった。

「あっ!」

 それを見てカオスは智樹を探していた理由を思い出した。

 

「お兄ちゃん、クリスマスって何?」

 頭を撫でられながら上目遣いに尋ねてみる。

「クリスマス……それはな」

 智樹は澄んだ瞳で優しい声色で回答を告げた。

「世界いっぱいに愛が溢れることなんだ」

「愛っ!」

 愛という単語を聞いてカオスは瞳を輝かせる。

 『愛』はカオスがこの世に生を受けて以来ずっと追求している概念。カオスにとって何よりも手に入れたいものだった。

「だが……」

 智樹が重々しい声で瞳を閉じる。

「世界を愛で満たすには……途方もない額のお金が必要なんだ」

 智樹の口から舌打ちの音が聞こえてきた。

「お金いっぱいあるよ?」

 カオスはギターケースを見て首を傾げる。

「福岡中の美女たちにエッチな下着と服を……いや、愛を届けるにはもっともっとお金がなきゃいけないんだ!」

 智樹は悔しそうに首を横に振った。

「そこでカオスに大事な話があるんだっ!」

 智樹はカオスの両肩を掴んだ。

「俺と一緒に……今稼いだ資金を元手に五月田根家主催の一攫千金大会に出てくれないか?」

 智樹の真剣な訴え。

 少年の顔には緊張が漂っている。

 五月田根家主催のイベント。それは、下手をすれば死に直結しかねない。

 そのようなイベントに最強という名を冠するとはいえ、幼い少女を誘う後ろめたさが智樹にはあった。

「うん♪ い~よ~♪」

 けれど、智樹の心配をよそにカオスはあっさりと頷いてみせた。

 騙しているような気分になりつつも智樹はホッとした。

 こうして2人は五月田根家へと向かうことになった。

 

 

 

3.CAO

 

 カオスは智樹を抱えて五月田根家へと飛んできた。

 上空からでもすぐに分かる敷地を覆う暗黒のオーラ。

 この世全ての悪五月田根美香子の本拠地であり、普段はカオスも無意識に接近を避けている場所。

 でも今日は智樹が一緒だったので何ら恐れを抱くことなく接近することができた。

「いらっしゃいませ。智樹様。カオス様」

 開かれた玄関の所で出迎えてくれたのはこの世全ての悪の使用人オレガノだった。

「よう。一攫千金大会に参加しに来たぞ」

 深々と頭を下げるオレガノに対して智樹は軽く右手を上げて返した。

「わたくしが主催を務めさせていただきます催しものに参加してくださるとは嬉しい限りです」

 オレガノが再び頭を下げる。

「今日のイベントはオレガノが取り仕切るのか?」

「はい。美香子お嬢様がそろそろ私もイベントの一つも責任を負って開いてみるべきだとおっしゃいまして」

「そうか。オレガノが取り仕切るんなら会長のイベントみたいに多数の死人が出るって状況にはならないな」

 智樹は少しホッとした表情を見せた。

「わたくしにはお嬢様のように人々を愉悦に浸らせる能力はございません」

「会長の愉悦ってのは人の絶望だからそんな能力は学ばなくて良い」

 必死に首を横に振る智樹。

 

「まあ、何はともあれ楽しい大会を期待しているぞ」

 智樹はオレガノの肩に軽く手を乗せると屋敷の中へと入っていく。

 オレガノはそんな智樹の後姿を見送りながら

「クスっ。………………チャンス到来、ですね」

 とても黒い笑みを発した。

それはまるでこの世全ての悪を彷彿とさせる笑みだった。

 カオスはオレガノの表情を見てビクッと全身を振るわせた。

「おっ、お兄ちゃん……っ」

 智樹に黒い笑みのことを一刻も早く知らさなければと思った。けれど、オレガノがカオスの前に立ちはだかった。

「智樹様が望む大金はこのイベントに優勝しなければ手に入りませんよ。カオス様は智樹様の夢を潰す気なのですか?」

「えっ?」

 オレガノの物言いにカオスは驚かされた。

「かっ、カオスは……」

「智樹様の夢を邪魔するような方は一緒にいることが望ましくありません。お帰りになられたらどうですか?」

 オレガノからの冷たい視線。

「うう~~っ!!」

 カオスはそのオレガノの視線にとても悔しいものを感じた。

「お兄ちゃんはカオスが一緒にいるのっ!」

 オレガノを威嚇しながらカオスが智樹の後へと付いていく。

「…………智樹様のパートナーがあのガキであるならば、クリスマスのオレガノエンドは難しくありませんね。フッフッフッフッフ」

 オレガノは前を行く智樹に対して黒い笑みを浮かべ続けた。

 

 

 五月田根家、屋内。

 広大な畳敷きの広間に智樹とカオスは並んで座りながら書類を眺めている。もっともカオスは智樹を見るばかりで書類の中身に全く関心がなかったが。

「受付は男女ペアでお願いいたしやす」

 強持てのどう見ても本職の男に支持されながら参加書に記入していく。

「男女ペアでなきゃ参加できないのか?」

 智樹はふと抱いた疑問を口にしてみる。

 以前告知されていた情報では2人1組の参加としか出ていなかった気がすることを思い出していた。

「オレガノの姐さんが、今回の大会は男女カップル以外は参加不可と決めた次第ですぜ」

 渋い声で黒幕の名が明かされる。

「カップル♪ カップル♪ お兄ちゃんとカップル♪ わ~~い♪」

 分かっているのか分かっていないのか大はしゃぎするカオス。

「カップルってなあ……」

 対する智樹は冷や汗を垂らしていた。

「カオスはどう頑張ってみても小学生にしか見えないだろうが……」

 自分がヤバい男と思われていないか不安に思って周囲の他の参加者たちを見る。

 

「チッ! 何で俺がンなゲームに参加しねえとなンないんだよォ?」

「それは勿論2人の愛の絆の強さをみんなに知らしめる為。と、ミサカはミサカははしゃいでみたり」

 

「まったく、小学生は最高だぜっ!」

「昴さん。わたし、昴さんの為だったら何でもしますから♪」

 

「バカなお兄ちゃん♪ 葉月は2人が恋人同士でイベントに出られて♪」

「いや、僕はこの大会で優勝すれば賞金が沢山入るって聞いたから葉月ちゃんと出ることにしただけで……」

 

「おじさんってば本当にロリコンですよね。莱香さんでもお姉ちゃんでもなく小学生の私を選ぶなんて♪」

「美羽ちゃん。俺は、目覚めたんだよ。真実にね」

 

「へっ! 見てろよ、沙都子。このイベントに勝利して俺がビッグな男だって証明してやるぜっ!」

「圭一さん。それ、どう見ても負けフラグですわよ」

 

「桜ちゃんに勝利を捧げるよ。俺のサーヴァントは最強なんだ」

「おじさん……がんばって♪」

 

 智樹の周囲にはやたらと若い、というか幼い少女参加者たちの姿が多く見られていた。

「世の中にはこんなにもペドで溢れているというのか。まったく嘆かわしいな」

 智樹はため息を吐いた。

「お兄ちゃん。元気を出して」

 カオスに頭を撫でられて慰められる。

 

「随分と可愛らしい彼女を連れての参戦だね。Mr.桜井」

 智樹の元に白ラン姿の長髪の男がやってきた。

「鳳凰院・キング・義経!? 五月田根家主催のイベントに何でお前が?」

 いる筈のない人物を見て驚く智樹。

「五月田根嬢に直々に誘われたからさ。僕に大会を盛り上げて欲しいってね」

 髪を掻き揚げながら気取って喋る義経。

「もっとも、僕のパートナーである月乃は君が可愛らしいお嬢さんとカップル参加することに随分とご立腹のようだけどね」

 顔を90度ずらして月乃を見る。

「智樹様は……ペド野郎なんですの?」

 不機嫌オーラ全開の月乃の顔が智樹の視界にも入った。

「いやいやいや! そんなはずはないだろうが!」

 智樹は必死に首を横に振って疑惑を否定する。

 しかし──

「カオスはお兄ちゃんが大~好きっ♪」

 カオスがタイミングを合わせたように抱きついてきたので台無しだった。

「フン。まあ良いですわ。優勝はわたくしと、敬愛するお兄さまに決まっているのですから」

 月乃はプンプンと腹を立てながら智樹に背を向けて歩いていってしまう。

「それではMr.桜井。今度こそ鳳凰院家の真価を見せてあげるよ」

 義経もまた去っていく。

「…………アイツら、カップルじゃなくて兄妹じゃねえか」

 それも参加資格を満たしているのかと疑問を呈したくなる。

 

「ちょっと京介! 早くしなさいよね。まったくグズなんだから」

「分かってるさ。まったく、桐乃は人使いの荒い妹様だな」

 

「クックックック。この大会の優勝はこのレイシス・ヴィ・フェシリティ・煌と我が半身に決まっている」

「そうだな。優勝して小鳩の好きなアニメのBDセットを買うんだもんな」

 

「お兄ちゃん。今日の勝負はダークフレイムマスターを思い出しながらノリノリでお願いね」

「樟葉ぁ~~っ! 俺を恥ずかしさで悶え死にさせる気かぁ~~っ!!」

 

「ああ~。お兄ちゃんと恋人同士としてイベントに参加できるなんて……秋子は幸せです」

「うん。別に恋人同士じゃないけどね」

 

「妹でありながら、実際の血縁は従兄妹。お兄ちゃんと結婚することだって……ヨシっ!」

「直葉? 何をひとりで盛り上がってるんだ?」

 

「よく見れば、兄と妹での参加も多いんだな。シスコン変態兄ばっかりで困った世の中だ」

 ペドとシスコン。世の乱れに智樹は嘆かずにはいられない。

「お兄ちゃん。大~好き♪」

 カオスが抱きついて頬をすりすりと智樹に寄せてきた。

「おお~。カオスは可愛いなあ~。お前だけは汚れた大人に成長しないでくれよ」

 カオスの頭を撫でながらしみじみと語る。

「シスコンでしかもペド野郎だと!? 誰か、警察を呼んでくれ」

「去勢よ。今すぐ去勢が必要な男だわ」

 智樹は自身が周りからどう思われているのかまるで理解していなかった。

 

 

「さて、参加者の方も揃ったようですし、そろそろわたくしの方から今回の大会のルール説明をさせていただきます」

 智樹が受付を済ませて30分ほどが過ぎて、オレガノが広間へと入ってきた。

 いつもよりも華麗な朱の着物に身を包んだオレガノは集まった参加者達に向かって丁寧に頭を下げる。

「さて、本日みなみなさまに興じていただくのは、五月田根グループが開発したフルダイブゲームです」

「フル……ダイブゲーム?」

 オレガノが発した言葉の響きに智樹は引っ掛かりを覚える。

「ダイブゲームって、確かシナプスの禁忌に引っ掛かるかも知れないヤツなんじゃなかったか?」

 以前ニンフから受けた注意を思い出しながら独り言を発する。けれど、そんな智樹の不安をオレガノは予め汲み取っていた。

「ダイブゲームという名を冠していても、実際には人間の技術にシナプスの技術力を組み込んだ、あくまでもベースは人間サイドのものです」

 淡々とした声で、他の参加者には分からないであろう説明を付け足す。

「コンブや日和様の監修も受けているので技術面での安全も保障されていますよ」

「そ、そうか……」

 ニンフと日和が製作に関わっていることを知って少し安心する。シナプスの技術に五月田根家が関与するなど悪夢でしかないのだからストッパー役が必要だった。

 安全を保障したのが技術面だけという点が微かに気になった。けれど、違和感の正体がつかめないので話を聞いてみることにした。

「これからみなさんには全てが現実の様に動くヴァーチャル空間に入っていただき、そこでわたくしどもが製作したCAO(クリスマス・アート・オンライン)というゲームに挑戦していただきます」

 オレガノの言葉に参加者たちがざわめき出す。

「この度の大会では、CAOを一番初めにクリアされたペアを優勝者とし、賞金の全てを総取りとすることにいたします」

 オレガノは黒い笑みを浮かべながら智樹たちを見回した。

 

 

 つづく

 

 

 

 


 
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