No.498463 fortissimo//Zwei Anleihen in Niflheimr 5話~罪と恐怖と、恋~2012-10-21 01:15:28 投稿 / 全1ページ 総閲覧数:653 閲覧ユーザー数:650 |
「むぅー・・・」
「・・・どうした」
現在、いっくんの家。本当だったら今頃お兄ちゃんとイチャイチャラブラブ
チュッチュな放課後を過ごしていたはずなのに今日も今日とてお兄ちゃんは
用事があると言って私をほったらかしてどこかに行ってしまった。
「うー・・・もーっ!!」
「牛かお前は」
「何だとォ!?食べちゃうぞっ!!」
「どっちかっつーと牛は食われる側だろう」
正論言う人は嫌い。私はふて腐れるように床にゴロンと転がる。
ひんやりとした感触が頬を刺し、まるで私の心情のようだな、なんて
感傷に浸ったりする。
「ってゆーか・・・いっくん、部活は?またサボリ?」
「今日は普通に休みだったんだよ」
「ふーん・・・」
「・・・何だ、その人を疑うような眼は」
「べっつに・・・」
「ったく・・・。翔さんがいないだけでこんなふて腐れるとはな・・・」
「私の
あー・・・お兄ちゃん成分が足りない。
このままだと枯渇する・・・。
「つーか翔さん、最近どうなんだ?放課後、どっか行ってばかりじゃないかよ」
「わかんないよぉ・・・。何でなのかなぁ・・・」
「もしかして・・・彼女?」
・・・・・・!!?
「かっ、かかかかかかかああああ彼女ぉぉぉぉぉっ!!!?」
おおおおおおおお兄ちゃんに彼女ぉ!!?そんなの聞いてない!
お兄ちゃんの彼女になろうと言うならまずはこの私を打倒してから・・・!!
「落ち着けっ」
「ぷぎゅるっ」
いっくんにうなじをチョップされた。何でいっくんはいつもこう変な所を
責めるのかな・・・。
「あくまで予想だ。真に受けるな」
「で・・・でも」
・・・でも、本当に彼女なのかな?それにしてはすごく深刻そうな、
何かを背負っているような顔をしていたけど・・・。
「もー!!いっくんのせいで余計な不安が増えちゃったじゃーん!!
いっくんのバカー!!鼻フックの刑だーーー!!」
「ちょ、待て。それ乙女のやる技じゃない」
「うるへー!なら万字固めの刑!やり方知らないけど!!」
「とりあえずお前が俺に八つ当たりしたいだけってのがよーくわかった」
「問答無用っ!!ぶりゃーーー!!」
「ふんっ」
ゲシィッ
「いたぁ!!女の子を蹴ったよこの人!!」
「お前はだから落ち着けっての」
「うぅ・・・だって」
「翔さんに彼女が出来たって不思議じゃないだろ?」
「そう・・・だけど」
確かに今まであまり考えたことはなかったけどお兄ちゃんに彼女が出来ても
なんらおかしくはないのだ。
それどころか思春期なんだから彼女が1人くらいいてもおかしいどころか
自然なくらいだろう。
「お前は・・・それでいいのか?」
「お兄ちゃんが幸せになるなら・・・いいんじゃないかな?」
いや・・・きっとその方が幸せだ。お兄ちゃんに私の気持ちを伝えても
お兄ちゃんを困らせてしまうだけならいっそ他の人と結ばれて幸せに・・・。
「それ・・・逃げてるだけだろ」
「―――・・・!!」
いっくん、痛いとこ突いてくるなぁ・・・。
「自分が傷つくのが嫌で、更に人を傷つけるのが嫌。お前の言ってるのはつまり
そういうことだろ。怖いんだろ?自分の気持よりも、その『恐怖』っていう
感情が強いんだろ?お前の想いって・・・その程度なのかよ」
「いっくん・・・。その発言・・・無責任じゃないかな」
いくらいっくんでも今の発言は少しいただけないと思った。
いっくんに・・・何が・・・。
「・・・私達・・・兄妹なんだよ・・・?兄妹ってのはね、本当は恋しちゃ
いけないんだよ。世間ではそうなってるの。そんな簡単なことじゃないんだよ・・・?
わかってるの・・・?」
「関係ないだろ。世間なんて。要はお前の気持ちが大切なんだ。
お前は翔さんが好きなんだろ?だったら・・・」
「簡単に言わないでよっ!!!!」
「―――っ・・・」
気付けば私は立ち上がり、自分の身体が痺れるほどに大きな声を発していた。
一瞬、自分の声が自分の声じゃないんじゃないかという錯覚に陥ったが
正真正銘私が出した声だ。
それほどまでに今私は理性的じゃなくなってるのだろう。
「いっくんは・・・いっくんは恋したことがないからそんなことが言えるんだよ・・・。
恋って苦しいんだよ・・・?お兄ちゃんの顔を見つめるたびに
胸が高鳴って、愛しくなって・・・。でも、ね・・・?
プラスの感情ばかりがはたらくわけじゃないんだよ・・・?
痛いんだよ・・・?息苦しいんだよ・・・?しかも相手はお兄ちゃんなんだよ・・・?」
「逢菜・・・」
「罪悪感がすごいんだよ・・・?背徳感がすごいんだよ・・・?
恋って言う感情にこういう感情を上乗せするのはいけないとわかっても・・・
でもっ!!押しつぶされそうなのっ!!これでも頑張ってるんだよ・・・?
『恋する乙女』っていう本性を隠して、『兄が大好きな妹』を
演じているんだよ・・・?それなのに、いっくんは・・・ひどいよ・・・」
「・・・逢菜。お前の翔さんに対して抱いている感情は・・・『恋』じゃない」
「・・・え・・・?」
「・・・『恐怖』だ」
――――――――――。
パァンッ!!!
何かが弾けた音がした。自分の右手が熱湯に浸したように熱い。
その熱さを感じたと同時に、熱くて冷たくて切ないものが頬を伝った。
「・・・あ・・・れ・・・?」
自分が何をしたのかわからない。何で私の手は熱いの?
何で私は泣いてるの?何でいっくんの頬が赤く腫れてるの・・・?
何で・・・何で・・・。
「・・・・・・」
「ご、ごめんっ・・・。いっくん・・・。わ、私・・・そんなつもりじゃ・・・」
「いや、いいよ。・・・俺も・・・」
「私・・・もう、帰るね・・・。また明日・・・」
私は何かよくわからないものから逃れるようにいっくんの部屋を後にした。
・・・
・・・・
・・・・・
―――やってしまった。
叩かれた頬に未だ熱を宿したまま、一樹はどこに焦点を合わすでもなく、瞳を
虚空に彷徨わせる。多分自分は感情的になっていたんだろう。
だからあんな心無い言葉をぶつけてしまった。傷つけるつもりなんて毛頭なかった。
それどころか、逢菜に勇気を与え、その背中を優しく押してあげたかった。
だが、そこに混ぜてはいけない自分の感情を混ぜてしまったがために・・・。
「・・・俺もお前と同じなんだよ・・・逢菜」
一樹は嘲笑する。愚かな自分を。臆病な自分を。
そして何より、逢菜に対し『恐怖』という感情を抱いてしまっている自分を―――。
・・・
・・・・
・・・・・
「ハァッ・・・ハァッ・・・くっ、はぁ・・・」
「ふむ・・・なるほど。翔さんはどうやら、肉体強化に特化したマホウと能力をお持ちの
ようだ。特に翔さんのマホウ・・・非常に興味深い」
今までに味わったことのない疲労が俺を襲っている。
酸素を内部機関に取り込むだけで身体が軋みを上げる。
これが・・・マホウツカイの戦いなのか・・・。
「慣れないことをして疲れたでしょう。今日はもうあがって頂いて結構です。
お疲れさ・・・」
「いえっ・・・まだ・・・まだ、やりますっ・・・!!」
「・・・しかし」
「お願いします・・・!!やらせてくださいっ・・・!!」
「・・・わかりました。ですがその前に少し休憩をとりましょう。
30分後に再開します。それまでゆっくり休んでいてください」
「はい・・・わかりました・・・」
俺は早く強くならなくちゃいけない。
他のマホウツカイ達と渡り合えるくらいに・・・強く。
大切な人を守り抜けるぐらいに・・・強く。
・・・
・・・・
・・・・・
「お疲れ様です、翔さん」
「はい、今日はありがとうございました」
特訓を無事終え、『
深く頭を下げお礼を言う。竹花さんのおかげで今日は沢山の経験を積むことが出来た。
本当にこの人には感謝をしてもし切れない。
「明日も、放課後で大丈夫ですか?」
「えぇ、そうですね。できれば、放課後で」
「わかりました。・・・じゃあ、俺はこれで」
「翔さん、これを」
俺が帰ろうとすると、竹花さんは白い箱を俺に渡してきた。
「あの・・・これは?」
「星見商店街にできた、新しい甘味処があるでしょう。あそこのケーキです。
よければ、妹さんとお2人で」
「あぁ・・・。何から何まですいません。本当に何とお礼を言えばいいか・・・」
「ははは、よしてください。もうあなたは我々の仲間なのですから。
お堅いことは言いっこなしですよ」
「・・・はい」
本当にいい人だと思う。それだけに心が痛む。
こんな優しい人がマホウツカイ達の醜い戦争に巻き込まれているかと思うと、
運命を呪いたくなる。
「じゃあ・・・ケーキ、ありがたく頂きます」
「えぇ。味わって食べてくださいね」
「はい。それじゃ」
・・・
・・・・
・・・・・
「のう、浩太郎。私が買っておいたケーキが無くなってるんじゃが・・・
お主、知らぬか?」
「はて、ケーキ?いえ、存じませんが」
「そうか・・・。ふーむ、おかしいのう・・・」
・・・
・・・・
・・・・・
「ただいま」
俺が家に帰ったのはちょうど時計の針が8時をまわった頃だった。
「逢菜、怒ってるかな・・・」
ここ最近一緒にいる時間が少ないからな。ブラコンのあいつには寂しい想いを
させてしまってるだろうし、怒鳴られても仕方ないだろう。
そんなことを思いながらリビングに入ると―――。
「・・・逢菜」
テーブルに突っ伏し、静かな寝息を立てている逢菜の姿があった。
テーブルの上には、今日の夕食と思われる焼きうどんとサラダがサランラップに
かけられ、置かれている。
「ありがとな・・・逢・・・っ・・・!」
逢菜の頭を撫でようと逢菜に近づくと、きらめく透明な何かが、頬を伝うのを
俺の瞳を貫いた。・・・逢菜、泣いているのか?・・・俺の・・・せいなのか?
・・・俺が逢菜を・・・泣かせちまったのか?
「逢菜っ・・・」
俺はたまらず、寝ている逢菜を優しく抱きしめた。
心から溢れてくるのは、懺悔の言葉。
できるなら、自分で自分のことをボコボコにふん殴ってやりたい。
逢菜を泣かせてしまった俺を。
逢菜にこんな想いをさせてしまった俺を。
「んっ・・・なに・・・?」
逢菜がうっすらと瞳を開ける。ぼやけた瞳が虚空をさまようが、すぐに俺の姿
をとらえた。
「お兄ちゃん・・・?」
「・・・あぁ」
「良かった・・・。帰り遅いから心配しちゃったよぉ・・・」
まだ覚醒したばかりだからか下が滑らかにまわっていない。
寝ぼけてるような表情にも関わらず、懸命に笑顔を浮かべている逢菜が愛しい。
このまま抱きしめ続けて、逢菜の体温をずっと感じていたい。
「うぅっ・・・お兄ちゃん、苦しい・・・」
「いいだろ。お前、ブラコンなんだから」
「そういうお兄ちゃんはシスコンでしょー。・・・えへへ」
逢菜は幸せそうに顔を綻ばせる。この太陽のように明るい笑顔を見れただけで、
俺はこいつの兄で良かったと心底思う。
「・・・なぁ、逢菜。明日、学園サボるか」
「・・・え?」
「デートしよう。2人で海行こうぜ、海」
一瞬逢菜は何が何だかわからないと言うような困惑の表情を浮かべるが、
それはすぐに歓喜の表情に一変した。
「うんっ・・・うんっ!!行こっ!!海!!」
「あぁ。目一杯楽しもうぜ」
新たな大切な思い出を記憶に刻むため。
この瞬間、俺と逢菜はまた一つ約束を交わした。
・・・
・・・・
・・・・・
「・・・嵐が来ますね」
夜空の綺羅星達に照らされ、その長身を黒く輝かすは1人のマホウツカイの姿。
誰に言うでもなく呟いたその一言は、夜を支配する虫達の演奏にかき消されてしまう。
『嵐が来る』―――。彼はそう言った。
それは実際に嵐が来るわけではなく、嵐に比喩した『何か』が訪れるということだ。
その『何か』を浩太郎は敏感に感じ取っている。
「はてさて・・・。『嵐』が通り過ぎた後・・・私はまだこの世にいますかねぇ」
浩太郎は自嘲するように鼻を小さく鳴らす。果たしてその言葉の真意は・・・。
それを知るのは夜に佇む1人のマホウツカイ以外に誰も存在しない。
「まぁそれも・・・いずれわかるでしょう。ははは、死にたくはないですねぇ」
浩太郎は笑う。だがそれは笑っているように見えるだけ。
実際、彼が内面に何を思っているのか・・・。
やはりそれは、夜の闇に溶けていったマホウツカイ以外に知る者は存在しない。
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5話です。色々忙しくて更新が遅くなってしまいました、申し訳ありません。