No.479016

真・恋姫†無双 十√36

kazさん

魏蜀激突編その3

妖精さん「じゅうるーとこうしんしたですか」
妖精さん「こうしんしたです」
妖精さん「でももうくがつですが」

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2012-09-02 21:17:38 投稿 / 全11ページ    総閲覧数:25962   閲覧ユーザー数:16054

 

 

 

-前回のあらすじ-

 

初戦で敗北したもののすぐに態勢を整えた魏軍、敵の意図が全滅覚悟の決死の戦いだと考えた軍師達は

兵力の差をいかして蜀軍を消耗させる戦いに切り替える

圧倒する魏軍の中にあって魏の覇王北郷一刀だけは戦場での違和感のようなものを感じ始める

桂花や詠に尋ねるもののわからず諦めかけたその時、左翼を統括する稟の指揮に精彩を欠いているとの報を受けた為

一刀自らが様子を見に行く、そして稟との何気ない会話の中で一刀は戦場で感じた違和感の正体に気付くのだった

 

 

 

 

 

 

-時間は魏軍が蜀軍と対峙する前まで遡る-

 

 

荊州

 

魏軍はすでにこの戦場に向かっている状況であり蜀軍の誰もが厳しい戦いになる事は予想していた

魚腹浦の本陣にて主君劉備玄徳こと桃香を含め蜀軍の主だった面々が揃う場所で軍師諸葛亮孔明こと朱里が

今回の戦いにおいて最重要と前置きして話し出す

 

「今回の戦いにおいて私たちが尤も懸念しなければならないのは北郷一刀さんの力です」

 

朱里の言葉に桃香以外の面々は皆頷く

 

「どのようなものかはわかりませんが天の知識というもので先を見通し予想だにしない事を行ない

数々の危機的状況を覆し魏をここまで大きくしてきました、魏がここまでこれたのはあの人物の力と

いっても過言ではありません」

 

「うむ、もし北郷殿の先を見通す天の力がなければ魏はおそらく袁紹との戦いに敗れていたのかもしれんしな」

 

魏の将だった時袁紹軍とも戦った事もある趙雲こと星がその場にいる袁紹こと麗羽に聞こえるかのように

きっぱりと言い放つと

 

「い、言っておきますけどワタクシは全然全然全然ぜんぜーん本気を出していなかったんですわよ!

丁度あの戦いの時には体調を崩し肌も荒れて髪も上手く整わなくて、そこをあの本能さんが卑怯な手でっ!」

 

「うう…、姫、もうその辺でやめときましょうよ、何か私たちまで悲しくなってきます…」

 

星の言葉に麗羽が必死に言い訳をするのがあまりにも痛々しかったのかずっと付き従ってきた

顔良こと斗詩さんが色んな事を思い出して涙を流していたり

 

相変わらずいつのまにやら脱線する蜀軍の軍議

そんな事に慣れている朱里はコホンと咳をすると

 

「ですので、私たちが桃香様の願いを叶える為にはここでの戦いで北郷さんのその力を封じる必要があります」

 

その言葉にさすがに場がざわめく、そして馬超こと翠が

 

「そ、そんな事ができるのかっ!」

 

問うとその言葉に朱里ははっきりと

 

「はい」

 

答えた朱里は桃香を見ると

 

「桃香様、桃香様の北郷さんの人物評によればあの人物は民を想い、仲間を想い、そして国を想う人物

その絆は深く仲間を信じる人物、それでよろしいのですね」

 

「うん、一刀さんは誰よりもこの国の事、民の事、そして仲間の事を大切に思える人

たとえ自分がどんなに傷つこうと構わないって想う凄く優しい人だよ」

 

これから対する敵でありながら桃香は一刀の事を誰よりも想っていた、関羽こと愛紗はそんな桃香に何かを言おうと

するものの桃香の優しい笑顔を見ると何も言えなくなるのだった、

そして朱里は桃香の言葉を聞いた後、改めて蜀軍の面々に向かい

 

「北郷さんが桃香様の言われるとおりの人物であるなら私がこの戦いで行う策は間違いなくその力を封じられると

思います、ただし、その為には皆さんにはかなりきつい戦いを強いる事になってしまいますが…」

 

「かまわないのだ!桃香お姉ちゃんの為なら鈴々はどんな事もへっちゃらなのだー」

 

「私も異論はない、姉上の夢が叶うのであればいかような戦いもしてみせよう!」

 

朱里の言葉に桃香の義姉妹の張飛こと鈴々と関羽こと愛紗が共に声を上げると他の面々も迷うことなく追従する

それを聞いた朱里は改めて覚悟を決め、話す

 

 

 

 

「ではこれから北郷さんを封じる策を申します…」

 

 

 

 

 

 

-再び時間は戻る-

 

 

魚腹浦の魏軍左翼陣地

幕舎の前で何かに気付いた一刀に稟が尋ねる

 

 

「一刀殿?」

 

「稟のおかげでずっと感じてた違和感の正体がやっとわかったよ」

 

「違和感の正体、どのようなものだったのですか?」

 

稟が問うと一刀は微笑み、しかし少し寂しそうに

 

「考えてみればそうだよな…、どこから来たかもわからない人間が不思議な言動や知識でまたたく間に大国を統べて

もうすぐ大陸を平定しようとしている、この世界の人から見たらきっと俺は化け物みたいな存在なんだろうな…」

 

「一刀殿っ!」

 

一刀の言葉に稟が声色を上げる

 

「そのような事おっしゃらないでください!貴方は誰よりもこの国の事を想い苦しんでこられたではありませんか!

どこから来たとかそのような事を考えるものはもうおりません!貴方はもうこの国にはなくてはならない人なのですから!」

 

今にも泣きそうな稟に一刀は苦笑いを浮かべると

 

「ごめん稟、そしてありがとうな、でも大丈夫だよ、別に俺は自分を卑下してる訳じゃないから、

ただ敵として見た場合俺は自分の事をそういう風に評するんじゃないかって思ってさ」

 

「そしたらわかったんだよ、孔明がこの戦場で何をしているのかを、そうだよな、俺を相手にしたら怖いってもんじゃ

ないかもしれないよな、何をしでかすかわからない天の御遣いを名乗る人物、だから孔明は考えてきっとこう決めたんだ」

 

「何をですか?」

 

 

 

「俺と戦わない事を」

 

 

 

一刀の言葉に稟は一瞬考えるもののハッと気付き一刀が何を言わんとしているかに気付く

一刀はそんな稟に微笑むと言葉を続ける

 

「袁紹、馬超、雪蓮、今まで戦ってきた英雄達は皆俺を倒そうとしてきた、長安にいた奴らでさえも、

鈍感な俺でもそれは感じられたよ、俺に対する敵愾心というものを、でもこの戦場にはそれがまったくないんだ

俺に対しての殺気というか意図的に俺には何も向けようとしてないんじゃないかって、多分それが違和感の正体だ」

 

「敵が…、蜀軍が一刀殿をこの戦場から排除しようとしていると」

 

「ああ、そうする事で孔明は俺がイレギュラー…、突発的な出来事を起こさせないようにしようとしたんだと思う、

そしてその為にこの戦場を選んだ」

 

そう言うと一刀は蜀軍の陣地を再び見据える

 

「この戦場は綺麗過ぎるんだ、圧倒的な魏軍、一方的に攻められる蜀軍、俺たちが勝つのが当然の状況

こんな戦場を見れば俺は何の心配もせずに全ての戦いを皆に任せるだろうな」

 

一刀の言葉に稟は戦場を見る、確かにこの戦場は魏が完全に支配し一方的に攻撃をし蜀軍は寡兵で必死に守る戦いを

強いられている、だがそれこそが孔明の策だとわかると稟は敵の得体の知れない力に初めて畏怖を感じる

 

 

 

 

-蜀軍の陣地-

 

朱里は戦場を見ながら一刀を封じる策を語った時の事を思い浮かべる

 

 

 

「桃香様の言う北郷さんの仲間を信じる想いは最大の長所だとは思いますが逆にそれが弱点になるとも言えます、

仲間を信じれば信じるほどに、大切に思えば思うほどに…」

 

朱里の言葉に星が怪訝に思いながら問う

 

「仲間を想う事が弱点になるとはどういう事だ?」

 

「北郷さんは少しでも配下…、いえ仲間が危機的な状況に追い込まれた時には自らを危険に晒してでも戦場に介入し

天の知識を使ったり誰もが考えもしないような行動を取るのだと思います、逆に言えば味方が危機的な状況に

陥らなければその力を発揮する必要もないという事でもあります」

 

朱里の言葉に蜀の面々は朱里の策がどういうものなのかという事に気付き始める

 

「ですのでこの戦場で私達がすべき戦い方は魏軍に圧倒的な戦いをさせ、我が軍はそれをじっと耐え続ける事です、

魏の将兵達が安心して戦える環境であれば北郷さんは何の心配もせず戦いの全てを仲間に任せ、

自身はそれを見守り続け結果としてこの戦いにおいて北郷さんを無力化しその力を封じる事ができます」

 

朱里の言葉に蜀の将達は言葉を失う、北郷一刀という人物を知っているものならば確かにこの策は有効だろうと

だがそれがどれほど難しく大変な事なのかもわかっている

 

大陸最強の軍に一方的な戦いをさせ守り続ける、しかも彼我兵力差は数倍もあろう魏軍に対してだ

桃香の為ならばどんな事でもしてみせると言った将達ではあったが皆顔を見合わせ不安に思う

その中から厳顔こと桔梗が皆に代わり朱里に問う

 

「我が主の為に耐えろと言えばやっては見せよう、だが魏軍には百戦錬磨の将と軍師がおる、

あの孫呉でさえ結局は魏の攻撃に呑み込まれ敗北した事を考えれば容易くはないとは思うのだが」

 

その言葉に朱里は微笑み

 

「皆様が不安に思う気持ちはわかります、ですがご安心ください、私と雛里ちゃんはすでに魏軍の攻撃からの防衛策を

無数に準備して万全の体制を整えていますので」

 

自信満々に言う朱里に皆は言葉を失う、しかし朱里はそんな皆に

 

 

「最初に言いましたが私達がこの戦いで一番の懸念材料としているのは天の御遣い北郷さんの未知の知識と

何をしでかすかわからないという行動だけです、もしそれが使われないとするならば後は人と人との戦いだけ…」

 

 

きっぱりと言い放つ

 

 

「たかだか五倍程度の魏軍相手に負けない戦いをするだけなら造作もありませんよ」

 

 

羽毛扇に隠された笑みから放たれた朱里の言葉に蜀の面々は初めて諸葛亮孔明とうい天才軍師に

戦慄を感じるのだった

 

 

そして蜀軍は朱里の言った通り圧倒的な魏軍の猛攻を今も絶え続けていた

朱里は想う

 

 

”もう少し、もう少しだけ耐えれれば…”

 

 

 

 

 

稟はようやく一刀の言わんとしている事に気付く

 

「全てが、蜀軍がこの戦場を選んだのも、今までの戦いの全ても孔明の策だったと言うわけですか」

 

稟の問いに一刀は小さく頷く

 

「問題は何故そんな事をしなければいけないのか、理由は簡単だ、蜀軍は何かをしようとしている」

 

「何かを…、援軍でも待っていると?」

 

「わからない、だけどそれを呑気に待ってる訳にはいかないと思う、もしかしたらもう手遅れかもしれないけど」

 

一刀は一呼吸置くと稟に向き

 

 

 

「稟、力を貸して欲しい」

 

 

 

まっすぐに見つめられた一刀から放たれたその言葉に稟は息を呑む、しかしすぐに姿勢を正し一刀を見つめ

 

「御意のままに!」

 

即答する

 

一刀はその返事を聞くと命令を下す

 

「今からこの左翼だけで攻勢をかけて敵陣を切り崩す、中央と右翼には報告だけしてくれればいい

詠と風なら戦況を理解して連動して動いてくれると思うから」

 

「左翼だけの攻勢…ですか?もちろん一刀殿の命令であるならば行いますが敵陣の防衛は堅固です

中央との連携があった方が切り崩し易いと思うのですが」

 

「だからこそだよ、向こうもこの左翼だけでの単独攻勢をかけるとは思ってはいないと思う

虚を突いて敵右翼を切り崩してこの戦場の支配権をこちらのものにする」

 

一刀の言葉にじっと聞き入る稟は

 

「わかりました、すぐに攻勢の準備を整えます」

 

答えた稟はすぐさま行動を起こす、しかし稟は正直この攻勢には不安を感じていた

今までも何度も敵陣に攻撃を仕掛けるもののまったく突破口を見つけることすらできないでいたからだ

 

敵に気取られないように通常の損耗戦をしながら攻勢の準備を整える稟

策を巡らし如何に敵陣を攻略するかを考えるものの左翼単独攻勢ではやはり限界があると考えてしまう

読みに優れ頭の中で戦場を盤上のように考え兵を駒として何度も動かすものの突破には兵の半数以上の被害を

覚悟しなくてはいけないと結論づけてしまう

 

苦悩しながらも必死で策を考える稟に愛馬絶影に乗り直垂を羽織った一刀が声をかける

 

「稟、準備はできたかな?」

 

「あ、は、はい…」

 

つい力なく答えてしまった稟に一刀は

 

「大丈夫だよ稟、実はちょっと考えてることがあってね、

孔明のやっている事が俺の憶測通りなら今からやる事はきっと効果があると思う、まぁ後で桂花達に怒られそうだけどな」

 

「あの、一刀殿、一体何をされるおつもりなのですか?」

 

一刀の姿に何か不安を感じたのか稟が問うと一刀は笑顔で微笑み

 

「言ったら止められそうだったから言わなかったけどちょっと無茶をさせてもらうよ、まぁなんとかなるから大丈夫!

俺は稟の事を信頼してる、絶対的にね、だからきっとどうするかはわかってくれるはずだと信じてるよ!」

 

「え?あの、一刀殿?」

 

 

 

「じゃあ、頼むな稟!」

 

 

 

次の瞬間一刀は愛馬絶影と共に駆ける

 

突然の行動に稟は止める事ができなかった、魏の兵士達も一瞬何が起こったのかわからなかった

自分達の陣地から一騎だけで敵陣に向かって直垂を羽織った人物が走り出したからだ

 

一方蜀軍の方からもその騎馬の姿を確認する、素早く向かってくる一騎だけの騎馬

後方から魏軍が動き出す気配がないのを見て取ると軍使だろうと想定する、自分たちへの降伏勧告にでもきたのかと

身構える蜀軍の兵士達

 

一方直垂を纏った一刀は敵陣前にまで騎馬を進めると絶影を止める

激戦の跡が残る場所で一刀は蜀軍の陣地を見つめる、ようやく感じる自分への敵愾心に何故か安心し笑みが

浮かんでしまう、そんな様子を怪訝に見る蜀軍の兵士達が一刀に声をかけようとした時

 

一刀はその纏っていた直垂を脱ぎ捨てる

 

その瞬間露になるのは白く輝くポリエステルの服、フランチェスカ学園の制服を着た人物北郷一刀

その行動に蜀軍ばかりでなく見つめていた魏軍の兵士達も言葉を失う

沈黙が支配するその空間にあってただ一人北郷一刀は息を大きく吸うと蜀軍陣地に向かい大声で叫ぶ!

 

 

 

 

 

 

 

「聞け!蜀軍の兵士達よ!俺の名は北郷一刀!天の御遣いにして魏の覇王なり!」

 

 

 

 

 

 

 

「この俺を討って後世に名を残さんとするものはいるかぁ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

-とある戦場-

 

「ここにいるぞーーーーーーー!!」

 

「猛虎蹴撃ーーーーーーーーー!!!」

 

どがーーーーーん!

 

「ぎゃわんっ!」

 

楽進こと凪は一騎撃ちをしていた馬岱こと蒲公英のいきなりの行動に戸惑いながらも一瞬の隙を見逃さず必殺技を繰り出す

一方の蒲公英は不意をつかれたもののすぐさま立ち上がると

 

「あいたたたた、ず、ずるいぞ楽進!」

 

「いや、そう言われても…、というかいきなり何がしたいのだお前は?」

 

「え?いや、何かそれを言わなきゃいけない気がして…」

 

「「………」」

 

(ちなみに二人の場所からは一刀さんも魏軍左翼もみえない場所なのでした)

 

 

 

 

 

突如の一刀の名乗りに戸惑う両軍の将兵達

 

 

-蜀軍side-

 

蜀軍の右翼を指揮する馬謖は突然の出来事に言葉を失っていた

馬謖幼常、軍事戦略に秀で朱里からも一目置かれるほどの人材でありこの魏蜀決戦においても一翼を任されるほどで

朱里からの信任も厚い、一方馬謖の方も朱里に絶対的忠誠を誓うほどである、理由としては

 

「朱里ちゃんラヴ!」

 

生粋のロリコンであった

 

そんな馬謖に与えられた命令は防御に徹する事、どんな状況に陥ろうと絶対に討って出たり敵の挑発に乗らないように

との事であった、馬謖自身この戦いの重要性、そして戦力差を冷静に分析できる将でもあった為それを守り

数倍の魏軍左翼の攻撃を何度も跳ね返してきたのだった、どんな状況においても冷静に分析し判断できる将

だがその馬謖をもってしてもこのありえない状況にはどう判断していいのかわからないでいた

 

 

”魏の覇王北郷一刀が眼前におり単騎で名乗りを上げている”

 

 

そんな事がありえるのかと、魏軍圧倒的有利な状況の中で敵の王が危険を犯して単騎で敵陣前で名乗りをあげるなどと

誰もが考えもつかない事だ、影武者の可能性も考えるもののこの世界にはない白く輝くフランチェスカの制服と

眼前の人物から発せられる覇気は間違いなく本物、そして当然の事ながら蜀軍の兵士達は考えてしまう

 

 

”もし今北郷一刀を討つ事ができたなら戦況を変えるどころではない、歴史を変え後世に名を残す英雄になれる”と

 

 

その魅力に惹かれていくのは当然の事だ、この絶対的不利な状況下にあってもしかしたら自分達が勝利者と

なりえるかもしれないのだから、そして後世に名を残す人物となれる誉れ

蜀軍兵士の一人、また一人とその考えが脳裏に浮かび始めてくる、誰もがその誘惑を振り払う事ができなかった、

武器を手に取り震えながらその切っ先を一刀に向け心の中で想う

 

 

”北郷一刀を殺せ!”と

 

 

放たれる蜀軍兵士達の一刀への殺気、それを感じた一刀は何かを想い味方の陣へと顔を向ける

見つめるは遠く離れ呆然としている稟

 

 

 

 

-魏軍side-

 

魏軍の兵士達もこの状況に唖然としていた、特に稟は

 

稟は目の前で起こっている出来事が信じられなかった、何故一刀がただ一人で敵陣前にいるのか

どんなものよりも大切な自分達の王であり絶対に守らなければならない存在であるはずなのに

彼が今いるのは最前線の誰よりも尤も危険な場所

呆然としている稟の目にこちらを向く一刀が見えたその時、稟は一刀の伝えようとしている事に気付く

そして先ほど陣を出る前に一刀の放った言葉のその意図を知った時、稟は膝から崩れ落ち涙が溢れ震える声で

 

 

「……貴方を…、駒として扱えと言われるのですかっ…」

 

 

稟はようやくにして一刀のやろうとしている事に気付く、自らを囮として使い蜀軍の注意を引きつけ

魏軍の攻勢を援護しようとしているのだと

 

”何故こんな事になっているのですか、ありえない、どうして、こんな…”

 

わかってはいる、理由は簡単だ、自分の無力さゆえに一刀がこのような事をしなければならなかったのだと

一刀は常に将兵達と共にある事を心掛けている、兵が苦しめば自分の痛みのように苦しみ歓喜は共に分かち合う

そんな姿に皆は惹かれているのだ、だからこそ一刀のやらんとしている事の意味はわかる

 

『俺が道を作るから』

 

一刀は範を示しているのだ、何者にも恐れず進む事を

孫策や呂布のような武勇に自信のある英傑ならばそれもありかもしれない、しかし一刀はそういう人物ではない、彼は

 

優しき覇王

 

稟は今すぐにでも声を張り上げ戻るように声をかけたいと想う、だが今敵は一刀に注視している、

千載一遇のチャンス、攻勢をかけるなら今しかないのだ

涙を堪え不忠者だと自分に言い聞かせそれでも稟は一刀の意図を汲み取り行動を起こす

 

 

「うああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

 

突然の絶叫に魏の兵士達は正気に戻る、そして声の主に注目する、魏の軍師郭嘉は自身の右手を地面に叩きつけ

涙を流し打ち震えていた、しかしその涙の意味は痛みではなく自身の不甲斐なさの涙、

そして稟は魏の兵士達に聞こえるように叫ぶ

 

 

「私たちはなにをやっているのですかっ!何故ここにいて私達の王北郷一刀を見ているのですかっ!

魏国の戦いは王を最前線に立ててただ見守っている事ではないはずですっ!!!」

 

 

稟のその言葉に兵士達は改めて敵陣を見てハッと気付く、

ただ一人敵陣の前で蜀軍と向き合う一刀のその姿に魏の兵士達は

 

”そうだ、俺達は何をしている!”

”こんな所で眺めていてる場合ではない!”

”北郷様だけに戦わせてどうするのかっ!”

 

兵士達はようやく現状の異常さに気付き自分達の王北郷一刀が成した決死の行動と危機的状況にある事に気付く

そして内から沸々と沸き起こる熱い感情

 

 

”我らの王を助けねばっ!!!”

 

 

一人、また一人と魏の兵士達は武器を握り締めると敵陣へと歩み始める

陣地の全ての兵士から今にも爆発しそうな心を感じ取った稟は深呼吸をすると大きく手を振り上げ

 

 

号令をかける

 

 

 

「我らの王を!北郷一刀殿を助けるのですっ!!!!」

 

 

 

おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!

 

 

稟の号令が発せられたと同時に蜀軍陣地へと走り出す魏軍兵士達、陣形などはない、あるのはただ

一刀を助けたいという想い

 

蜀軍からも魏軍のその動きは見て取れた、しかし蜀軍の兵士達に映るのは北郷一刀のみ

 

「魏の兵共には構うな!北郷一刀を討てばこの戦いは我らの勝ちぞ!」

 

その言葉に歓声を上げる蜀軍の兵士達、そして弓兵は弓に矢を番え狙いを一刀に合わせる

そして号令と共に一刀に向け放たれる無数の矢

 

「行けっ!絶影!」

 

蜀軍が矢を放ったと同時に絶影を走らす一刀、名前の由来は影を留めないほどの速さからとされる絶影

あまりの絶影の速度に放たれた矢は全て空を切る

一刀は蜀軍の兵の目を釘付けにするように敵の矢が届くか届かないという距離を保ちながら陣地前を走る

再度一刀を狙う矢はまたも空を切り蜀軍の兵士達からは焦りの色が出始める

 

「ええい何をやっておるか!敵はただ一騎ぞ!弓兵はよく狙え!討てぬというならせめて足止めをせよ!

涼州騎馬隊も出せ!外より回り込み北郷一刀の退路を断つのだっ!」

 

一刀は敵の動きを感じる、確実に自分を殺そうという殺意が渦巻いているのを感じていた

無数の矢が一刀を狙い続ける、しかし絶影の動きに弓兵は追いつけないでいた

しかし蜀軍の弓兵達も名のある将達によって訓練されこの戦場を生き抜いてきた猛者達である

 

「さすがに狙いが正確になってきてるな、っと、騎馬隊も出てきたか」

 

見れば蜀軍の陣地から序盤戦で魏軍を苦しめた涼州の騎馬隊五十騎ほどが現れ一刀に向かってきてるのが見て取れた

味方の位置も確認しながら一刀は

 

「この辺が限界か…、さて絶影、逃げんぞ!」

 

一刀の言葉に嘶きをあげる絶影、まっすぐに自分に近づく涼州騎馬隊に一刀は向きを変え逃走する

しかしさすがは音に聞こえた涼州騎馬隊である、瞬く間に距離を縮めてくる、さらに偏差射撃による矢が一刀の前方に集中

し始め一刀の身体をかすめ始める、ようやく追い詰めたと歓喜に沸く蜀軍

 

「いま少しぞ!、矢を放て!放てえ!!」

 

さらに一刀への攻撃を強める蜀軍、そしてついにその一矢が一刀を捕らえ右腕に突き刺さる

 

「ぐっ!」

 

右腕の痛みを堪えながらも絶影を操る一刀、後方からは涼州の騎馬隊が今にも追いつこうという状況

そして先頭の騎馬兵が一刀の命を断たんと剣を振りかぶったその時!

 

「させぬわっ!!!」

 

どしゅっ!

 

瞬間槍に貫かれる涼州騎馬兵、一刀と騎馬隊の間に割って入ったのは一刀と共に左翼へ同道してきた親衛隊の騎馬隊

さらに後方からは魏の誇る数百騎の騎馬隊が続く、追撃の失敗を感じた涼州騎馬隊は馬首を変え撤退していく

一方一刀は親衛隊に守られ味方の陣へと向かう、盾のように前後左右に守る親衛隊、そんな親衛隊に声をかける一刀

 

「あ、ありがと、助かったよ」

 

「………」

 

「え、えーっと何故皆さん無言?」

 

「………」

 

「あ、あの、もしかして皆さん怒ってたりして?」

 

 

「「「当然です!!!」」

 

 

声を揃え一喝する親衛隊の方々、常に冷静で魏軍の中から選りすぐられた精鋭さん達、一刀に絶対の忠誠を誓い

一刀には絶対に反抗しないような方々が全員顔に青筋を立て怒りに震えていた

 

「「「今後、二度とこのような無謀はしないでいただきたい!いや、するのであれば我等に一言声をおかけ願いたい!」」」

 

「は、はい、すみません…」

 

 

 

そんな感じで怒られる我らが魏の覇王北郷一刀さんは親衛隊に守られ自軍の陣地へと帰っていく

矢の射程からも逃れていく一刀、その姿を無念の想いでみつめる蜀軍の兵士達の耳に

 

 

おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!

 

 

魏軍の喊声が響き渡る、一刀に気を取られ魏軍の突撃を放置してた蜀軍、慌てふためき迎撃態勢を整えようとするも

時すでに遅し、至近より無数の矢が蜀軍陣地へと浴びせられ次々と討たれていく、一刀を討つ為に防備を疎かにしていた事

が裏目に出たのだった、ろくな防御射撃もできないまま陣にまで迫られる蜀軍は混乱状態に陥る

 

「ふ、防げっ!ここはなんとしても防ぐのだっ!!れ、連弩を放てっ!!!」

 

必死で命令する馬謖ではあったが魏軍の猛攻は凄まじいものだった、今までの戦いでは見せなかったような感情を露にした

魏の兵士達、自分達の王の決死の行動、そしてその王に怪我を負わせた蜀軍への怒り、だがそれ以上に

 

 

”それを許してしまった自分達の不甲斐なさに腹が立つ!!”

 

 

一人一人の魏の兵士達が心に燻った感情を叩きつけるかのように蜀軍の陣地へと猛攻をかける

連弩や拒馬槍で阻まれながらも魏の兵士達は臆することなく突き進む、その気迫に蜀軍の兵士達は怯む

元々兵数では蜀軍七千、魏軍三万の四倍もの差を徹底的な守りで戦場の均衡を守り抜いてきた、しかし一刀の登場という

予想外の出来事によってその均衡は一瞬にして瓦解てしまっていたのだった

 

 

 

 

 

-魏軍左翼本陣-

 

傷を負いながらも生きて帰還してきた一刀の姿が見えると稟は我を忘れ駆け出す、絶影から降り一刀が

引きつりながらも笑顔で言葉をかけようとした時稟が一刀に飛びつきそのまま二人は倒れこむ

 

「よくぞ…、よくぞご無事で…」

 

「あ、えと、うん、まぁなんとかね」

 

目を腫らし涙を流しながら抱きつく稟の頭を撫でながら一刀は優しく声をかける

ようやく落ち着いてきた稟は震える声で少し怒りながら一刀に何故こんな事をしたのかを聞く

 

「何故、このような無茶をなさったのですかっ!戦うのは私たちの役目!貴方が前線に立つ必要はないのです!

もっと…もっとご自分のお体をご自愛ください!」

 

「うん、でもこれが一番被害を少なくして勝つ方法だと思ったんだ、敵は生半可な挑発やかく乱じゃ動く事はしないと

思うから、けど俺が出れば蜀軍はどうしたって無視できなくなる、どんなに俺を敵にしないようにと思っても

蜀軍にとって俺を討つ事はどんな事にも勝るとも劣らない武勲と栄誉になると思うからね」

 

「だからと言って!!」

 

「それと魏軍の皆が何か意気消沈してる感じだったからもう一度自信をつけさせたくもあったんだ、

忘れて欲しくはないんだよ、魏の兵士達は皆強いんだ、どんな苦境にも負けず困難にも打ち勝つ事のできる…」

 

 

 

「大陸最強の兵士なんだよってね」

 

 

 

その言葉に稟とそして周りにいた兵士達は言葉を失う、自らの命を懸けてまで自分達に最強の言葉を響かせる人物

どれほど信頼しその力に頼ってくれるのだと感じると兵達は身体が震えいても経ってもいられなくなってくる

 

「ぐっ!」

 

右手に刺さった矢傷が疼き苦痛に歪む一刀に稟や兵士達が心配をする

 

「一刀殿!いけませんすぐに傷の手当てを」

 

「だ、大丈夫、こっちは自分でなんとかできるよ稟、それより指揮を早く、今なら敵陣を潰せる」

 

「ですがっ!」

 

「味方はまだ乱戦の最中だろ、まだ勝ったわけじゃない、だから稟」

 

何かを言おうとした稟ではあったが優しく頭を撫でられ一刀の真剣な眼差しを見て軍師に戻る、

一刀の言うとおり戦いはまだ終わってはいないのだ、そして一呼吸すると一刀に向かい

 

「…わかりました、ですが一刀殿はもう二度と前に出ないようお願いいたします、

でなければ私はもう二度と貴方の願いは聞きません!」

 

「うん、わかった、もう前に出るような事はしない、約束だ」

 

涙を流し心から心配しキツイ言葉を放つ稟に一刀は笑みを浮かべ返答する、

そして怪我の手当ての為一刀が親衛隊に守られ後方に下がると稟は戦場を見つめ手を握り締め兵士達に号令する

 

「聞きなさい魏の兵士達よ!これ以上一刀殿を煩わせるような事はさせるなっ!

必ず敵陣を打ち崩し敵兵一兵残らず討ち滅ぼし勝利の凱歌を我らの王北郷一刀殿に聞かせるのです!!」

 

 

おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!

 

 

稟の号令の下兵士達は蜀軍の陣地へとさらに猛攻をかける、すでにさきほどの攻撃で防御線をズタズタに引き裂かれた

蜀軍の右翼陣地はどうする事もできず撤退を始める、追撃をする魏軍ではあったが陣に火を放つ蜀軍

おそらく最初から撤退時に使う為に用意されていたであろう油によって陣は瞬く間に火に包まれ追撃戦が困難となる

しかし稟はすでに想定内だったようですぐに消化を命じ道を作ると騎馬隊の中でも軽騎兵を選抜し追撃をさせるのだった

 

「逃げられるとは思わない事です」

 

今までの稟ならば勝利がほぼ確定し敵は逃げるだけの状況での無理な追撃はしなかったかもしれない

しかし今までの自身の甘さを悔い一刀にこれ以上の負担を懸けまいとする想いが

稟に新たなる軍師としてのステップを駆けあげさせる、一刀に相応しい軍師となるべく、いずれは桂花をも追い落とし

 

魏軍筆頭軍師となるべく覚醒を始める

 

そしてそれは魏の兵士達も同様だった、一刀の行動に触発され想いを感じ取った兵士達はさらに上の兵士を目指す

今までの鬱憤をはらすかのように魏軍は猛追をかける、蜀軍は予め退路にも無数の罠を仕掛けてはいたものの

魏軍の追撃は凄まじく被害は増え続け味方の本陣へと帰還できたのはわずかであった

 

 

 

こうしてこの方面での戦いは魏軍の圧勝の下に勝敗は決し戦いは次の段階に入っていく

 

 

 

 

 

-蜀軍side-

 

開戦前に撤退時には陣に火を放ち敵の追撃を阻止するように厳命していた朱里は

本陣より味方右翼の陣からの大火の煙を確認すると

 

「……右翼が落とされましたか…」

 

状況を正確に把握する、そして羽毛扇を握り締め、しかし無念といった表情を見せる事なく兵士達に素早く命令を下す

 

「すぐに本陣の撤退準備を、あと左翼の法正さんにも伝令をだして”予定通りの”撤退の準備をさせてください、

一翼が崩されたとなると戦場全てを守りきるのは困難だと思いますので」

 

朱里の命令にすぐさま伝令が放たれる、右翼の敗北に動揺する蜀軍の兵士達ではあったが朱里がまるでそれは

『想定済み』といった感じの態度を取った為安堵に包まれ撤退の準備を行う、その様子を見て朱里は想う

実際に朱里はこの辺りの時期に全軍の撤退をする予定を計算には入れてはあったのだった、

だが右翼の陣が壊滅させられるのは想定外だった朱里、そして当然の事ながらあの人物の事を考える

 

 

『北郷一刀』

 

 

「おそらく北郷さんが何かをしたのでしょうね…」

 

数倍もの兵力を擁する大陸最強の魏軍相手でさえ臆することなく戦ってきた蜀軍

それは全て朱里の築いた陣と兵器、そして雛里を中心とする前線指揮官達の能力の賜物でもあった

だがそれもたった一人の人物の登場によって脆くも崩れ去っていく

 

「天の御遣い…」

 

朱里の心の中でその文字が重く圧し掛かる…

 

その後朱里は全軍に撤退命令を出す、それを受け前衛の雛里、左翼を統括する軍師法正はすぐさま撤退の準備を行う、

一騎討ちをしていた蜀軍の将達も命令により転進、どちらの陣も火を放ち追撃が困難な状況を作り出す

本来追撃で多大な被害がでるのが当然であるはずの退却戦にも拘らず蜀軍は大きな被害を出すことなく撤退に成功する

 

 

 

 

 

-魏軍side-

 

左翼が敵を打ち破ったの報告はしばらく時間が経ってから報告を受けるのだが敵右翼陣より大きな煙が

見て取れた本陣を統括する桂花は攻撃が成功した事を見て取る

蜀軍の撤退を無理をしない程度に追撃をさせる魏軍、戦いの大勢はほぼ決したともいえる状況で被害を出さない為にだ

 

一旦戦力の再編成と休息の為の準備をしている魏軍本陣に左翼より親衛隊に守られた一刀が帰還してくる

すでに左翼での攻勢時に一刀が無謀な事を行った事の報告を聞いていた桂花さんは一刀を見るなり

 

「アラ、オカエリナサイ、ブジデヨカッタワ、アハハハハハハ!♪♪」

 

今まで見た事もないような満面の笑みで迎え入れる、その姿に恐怖を覚える我らが覇王北郷一刀さん

しかしすでに覚悟も決めているようで恐る恐る桂花さんの所まで震える足で近づき

 

「あ、た、ただいま桂ガッ!!!!」

 

笑顔の桂花さんから繰り出される想いを載せた重いパンチは一刀さんのみぞおちを正確にクリーンヒットする!

ぐらりとふらつき倒れそうな一刀さんの頭を掴むとその後も笑顔で連打連打連打ァ!!!!

 

「ホントー二ブジデヨカッタワ、アハハハハハ、モウ、シンパイシタンダカラ、アハハハハハ!♪♪」

 

ああ、無茶苦茶怒ってるなぁと思いながら連打を受け続ける一刀さん、でもそろそろ誰か止めてよと周りを見るも

桂花さんの無双っぷりに皆顔面蒼白で誰も動けない様子でした、

そんな時詠さんが上機嫌で鼻歌を歌いながらやってくる、一刀は止めてくれるものと期待したが…

 

「アラ、カエッテタノネ、モウ、シンパイシチャッタワヨ、アハハハハハハ!♪♪」

 

 

”死刑確定ですね”

 

 

同じく今まで見たことのないような満面の笑みで一刀さんに桂花さんと同じく想いを載せた重い蹴りをみまう詠さん、

桂花さんのパンチとのコンボは凄まじいもので一刀さんは一度も地面に叩きつけられることなく宙を舞い続ける

さすがにこれでは我らの王が二人に殺されてしまうと思った親衛隊の隊長さんが勇気を振り絞って

桂花さんと詠さんに「そ、そろそろいいんじゃないでしょうか…」と言葉をかけるも…

 

 

「「アぁん??」」

 

 

「すみません」

 

さすがは精鋭中の精鋭の親衛隊である、状況判断の早さも一級品で即座に止めるのは無理だと判断する!!

無限とも思える時間の制裁を終えようやく気が収まったのか桂花さんと詠さんは今後の戦いの準備の為幕舎へと向かう

後に残ったのは肉達磨のようになった一刀さんの姿でした

 

 

しばらくして魏軍も兵力の再編成などを行う、右翼から風、左翼から稟も本陣に帰還してくる

そこに一刀さんの姿を確認できなかった為

 

「一刀殿は?」

 

稟の問いに桂花と詠は

 

 

「「二度と無茶できないようにしておいたわ」」

 

 

きっぱりと答え黙々と今後の作戦について議論している二人に稟と風はその意味をすぐさま悟り

 

「まぁ、しょうがないですね~」

「そうですね、しょうがないですね」

 

それ以上追求する事もなく議論に参加する仲良し魏の四軍師の皆さんなのでした

 

 

 

 

 

-蜀軍side-

 

兵力を再集結した本陣は沈黙に包まれていた、元々こういった作戦だというのは聞かされてはいたのだが

予想外の被害が出たためだ、そんな中朱里は桃香と主だった将の前に立ち

 

「申し訳ありません、本来なら被害は最小限にとどめる予定だったのですが

右翼の被害は想定外のものでした…」

 

「致し方あるまい、魏軍の猛攻は凄まじいものであったしな、それを長期間全滅もせずこの程度の被害で抑えられたのは

むしろ上々といったところであろう、だがそれよりも考える事があるようだがな…」

 

「報告では北郷一刀が右翼に現れたとか」

 

厳顔こと桔梗の言葉に黄忠こと紫苑が言葉を続ける、その言葉に蜀軍の面々は納得といった表情をする、

戦いの前に尤も最重要とした北郷一刀の介入を許してしまった事に、そして一刀が何を行いそれがもたらした結果に

 

「やはり恐ろしい人物ですわね、北郷一刀というのは」

 

「北郷がこちらの意図に気付いたという事はこの後の戦いにも何かしらの影響を与えてくるのではないのか?

だとすれば…」

 

皆は沈痛な面持ちとなる、一刀を封じる事でこちらのやる事に気付かせず最後の戦いをする為に皆は耐え続けてきた、

しかし一刀がこちらの意図に気付きこの後にも介入する事が予想されるとなると今後打つ手が看破される可能性が

出来てしまった為だ

 

朱里は考える、少なくとも右翼が壊滅させられるまでは全てが上手くいっていた、

耐え抜いた後一瞬の隙を作り魏軍に大攻勢を誘い出した後予定通りの撤退をし最後の策を行えば全てが完遂するはずだった、

しかしここに来て一刀の介入によりその成功率は不明となってしまう、もしも策を読まれたとしたら…

 

 

「大丈夫だよ」

 

 

考え込む朱里に優しい声がかけられる、声の主は蜀の王劉備玄徳こと桃香

彼女は皆の前に歩み寄るといつものように優しく微笑み

 

「うん、大丈夫、きっと上手くいくよ、だって朱里ちゃんと雛里ちゃんが考えてくれて、皆が命を懸けて必死で

戦い守ってくれたんだもの、だからきっと上手くいくよ」

 

 

「私は朱里ちゃんも雛里ちゃんもみんなも信じてる、だから皆も信じようよ」

 

 

桃香の言葉に蜀の面々はお互いの顔を見る、そして自然に笑顔になり

 

「そうだな、ここまできて今更何を恐れる事があろうか」

「そうなのだー!鈴々だってまだまだやれるのだー!」

 

義姉妹の愛紗と鈴々が声を上げる、それに続くかのように星が

 

「まったく、桃香様には適わんな、どんな困難な時でも常に笑顔で我らを導いてくださる

なぁ皆、確かに北郷一刀は全てを見通す天の御遣いやもしれぬ、だが我らの王桃香様もいつの間にやらいなくなってるかと

思えば町に繰り出していたり、仕事をしてるかと思えばお茶をしていたり、大事な議題があるにも拘らず昼寝を

していたりと何をしでかすかわからないという点では北郷殿と良い勝負なのではないか?」

 

星の言葉に笑いが起こる

 

「え、えええ!わ、私だってやる時はちゃんとやってるでしょ~」

 

「やってない時の方が多いですわね」

 

桃香の弁明に紫苑さんが冷静にツッこんだり、そのやりとりにまた場が笑いに包まれる

 

「も、もうっ!みんなひどいよ~!」

 

和気藹々とする蜀の面々、そんな中星は朱里の元まで歩み寄ると

朱里にだけ聞こえるような声で

 

「朱里よ、確かに北郷殿には不思議な力がある、だが全てを見通しているという訳ではないとは思うぞ

もし全てが見通せるとしたなら董承の一派からの毒矢を回避できたのかもしれんし赤壁で多くの魏兵を死なせる

事も防げたのではないか?」

 

その言葉に朱里はハッと気付く、確かにそうではあり朱里自身もそれは考えていた、だがあまりにも危険なこの戦いに

慎重になりすぎていたのではないかと改めて思い直す、そして小さな言葉で

 

「ありがとうございます星さん、そうですね、いくら北郷さんが天の御遣いと言われていようとも

臆する必要はなかったのでした、とにかく今は桃香様の願いを叶える事にだけ全力を尽くしましょう!」

 

朱里は決意を決め、桃香他蜀の将兵に最後の策を授ける

 

それに従い準備を始める蜀の面々、細作の報告では魏軍は今は再編成をしているとの事、しかしすぐにでも

戦いを終わらせるためにここにやってくるだろうとは予想できた、時間はもうない

 

「桃香様」

 

朱里の言葉に皆が振り向く、そこにはいつものように優しく微笑みかける桃香がいた

桃香は皆に向かうと命令というよりもお願いという感じで声をかける

 

 

「みんな、どんな事があっても必ず生きて!」

 

 

その言葉に皆は

 

 

「「「御意!!」」」

 

 

 

自信を持って答える、その言葉を聴いた桃香は微笑み、そして歩みだす

朱里がその後姿を見ながら将兵達に聞こえるように叫ぶ

 

 

 

 

 

 

「桃香様 御出陣!!!」

 

 

 

 

 

 

魏蜀の戦い、一刀と桃香との戦い、そして大陸の未来を懸けた戦いは最終局面を迎える

 

 

 

 

 

 

あとがきのようなもの

 

 

十√もようやくというかやっと終わりが見えてきました、でもまだ遠いかも(汗

本来ならもっと早くに終わる予定だったのにほんとグダグダになってしまって・・・

妖精さんも鬱状態

 

 

ようやくリアルでの問題が一個なくなって少しマシになったかなという感じで久々更新

まぁ他にもまだ色々あったりしますが、最近腱鞘炎気味だし・・・

 

とりあえず仕事がかなりきつくなってきたので相変わらずののんびり更新ですが

がんばりますので見かけましたら過度な期待なしで見てやってください

 

kaz

 

 


 
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