No.469105

ロウきゅーぶ! Another Wing エピソード1 第三話 二人乗りと新たな決意

激突皇さん

エピソード1 第三話

2012-08-12 15:58:26 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1991   閲覧ユーザー数:1952

日曜日、俺は目を覚まし、ベッドの上であることを考えていた

「・・・あの時見えた姿・・・何度思い出しても・・・智花、だったよなぁ・・・」

そう、昨日のフリースローで最後のシュートを打った時に見えたヴィジョン、それは初日に見た智花のジャンプシュートだった

何度思い出してもその姿が変わることはなく、その度胸の中にモヤモヤが増すばかりだった

「やっぱ未練あるんだろうな・・・バスケにも、女バスの連中にも」

もう吹っ切れた、そう思っていたが俺は未だに未練たらたらなのかもしれない

「兄さーん、朝ごはんできたよー!」

等と考えていると下の階から妹の声が聞こえてきた

「あいよー」

俺はその声に返事をし、ベッドから飛び起きた

 

 

 

 

「「「いただきます」」」

三人で手を合わせ、朝食を食べ始める

「そうだ、翼。 今日お姉ちゃんと渚、この後出かけるんだけどあんたはどうする?」

そう聞いてきたのは俺の五つ上の姉、「小鳥遊 楓かえで」だ

親が共働きなうえ、父親が単身赴任で異国を渡り歩いている為、料理等の家事を引き受けている

俺の頭が上がらない人物の一人である

「出かけるってどこに?」

「映画だよ、『世界の真ん中で恋をする』を見に行くの」

俺の問いに答えたのは四つ下の妹、「小鳥遊 渚なぎさ」だ

小四にも関わらず大人びたところがあり、最近は姉ちゃんと一緒に家事なんかをよく手伝っている

・・・いや、俺だって手伝ってるぞ?

「お母さんと待ち合わせして三人で見るんだけど」

「ん、母さん帰ってこれるのか」

母さんは雑誌の編集長であまり家にいることが少ない、むしろ会社に泊まりこむことも多々あるぐらいだ

「うん、仕事がひと段落したんだって」

「それでその後お昼一緒にどうかって言ってるけど、どうする?」

「うーん、わかんねぇ。 昼前にでもメールするわ」

「ん、了解」

まぁ暇だし、行くことになるんだろうけど

「「「ごちそうさまでした」」」

そして朝食も食い終わり、姉ちゃんと渚は早速出かける準備を始める

「それじゃ、行ってくるわね」

「行ってきまーす」

「おう、行ってらっさい」

そして家に俺一人となってしまった

「・・・俺も適当にぶらつくか」

そう思い、俺も出かけることにした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・で、なんでここに来ちまうんだ」

チャリを走らせているうちに辿り着いてしまった場所、そこは慧心学園だった

「・・・えっ?小鳥遊さん?」

どうするか考えていると後ろから声を掛けられる

「智花・・・」

振り返るとそこには制服姿の智花がいた

「えっと・・・おはようございます」

「あぁ、あはよう・・・」

戸惑いながらも律儀に挨拶してきた智花に俺も挨拶をする

「きょ、今日はどのようなご用件で・・・?」

「いや、適当にぶらついてたら気が付いたらここに・・・智花は?」

「私は自主練しようと思いまして」

自主練、か・・・他の娘達はいないみたいだし、一人でやるつもりなのか?

「そっか・・・よかったら見てもいいか?」

「ふぇっ?」

「あ、いや。 嫌ならいいんだが、智花の練習見たいんだ。 ダメか?」

「い、いえ。 ダメなんてそんな・・・あの、もしよければ一緒に練習していただけませんか?」

そうきたか、智花は上目使いでこちらを見上げてそう聞いてきた

どうする・・・昨日早速フリーシュートなんてやっちまったし、それに智花のジャンプシュートも見たいし・・・

「・・・少しだけな」

俺が頭を掻きながらそう言うと智花は表情をパァっと輝かせ

「はい!ありがとうございます!」

うれしそうにそう言った

「んで、場所はどこで?」

「あ、はい。 体育館でやろうかと思ってます」

「ん、じゃあ行くか」

「はい!」

そして俺は智花と共に体育館へと足を運んだ

 

 

 

 

「・・・昴さん?」

「・・・・・翼、智花」

体育館に辿り着くと近くの階段に腰掛けている昴さんを見つける

昴さんはなにやら深刻な顔をしていた

「は、長谷川さん、今日はどうしてこちらへ?」

「へっ?あぁ、いや。 ミホ姉、篁先生に届け物をね。 用が済んだから今から帰るとこ」

昴さんは言いながら立ち上がる

「二人は何の用で?」

「えっと、智花の自主練に俺も付き合おうと思ったんですが・・・」

体育館の方を見る、その中からは女性の叫び声が先ほどから聞こえてきていた

「・・・ダメ、みたいですね」

智花の方を向くと苦笑いしてそう言った

それを見た昴さんは微笑んでから

「・・・二人とも家はどの辺? ここへはバスで?」

「家ですか?仁科駅のすぐ近くです。 ここには電車とバスで」

「俺はチャリで二、三十分程度です」

それを聞くと昴さんは頷き

「二人とも、この後時間あるなら家に来ないか? 一応ゴールならあるし」

「えっ、いいんですか!? ・・・でもご迷惑では?」

智花は一瞬表情を輝かせたがすぐに陰る

「構わないよ、一日ゴールを貸してあげるぐらい。 翼はどうする?」

「・・・はい、じゃあ俺もお願いします」

まぁ約束しちまったからな、練習に付き合うって

「・・・・・では、お言葉に甘えさせてよろしいでしょうか。 ・・・すいません、どうしても練習したくて」

「了解、それじゃあ行こうか」

昴さんに頷き、俺達は駐輪場へと向かう

そして俺と昴さんは自分の自転車を回収する

「お待たせ」

「いえっ、待ってないです、全然」

智花はバスケができて嬉しいのか、それとも昴さんの家に行くことに緊張しているのか、ちょっと硬くなっていた

「それで、昴さんの家ってどの辺ですか?」

「松角駅から歩いて十分ぐらいのところかな」

「となると・・・智花を二人乗りで乗せていった方が速いですね。 智花、それでいいか?」

俺の案を智花に聞いてみると智花は少し驚いた

「ふ、二人乗りですか・・・?」

「流石に無理強いはしないが・・・」

「いえ、嫌とかではないんですけど・・・いけないんですよね、たしか」

そっか、こんだけ礼儀正しくしてるなら二人乗りのしたこと無いのかもな

「まぁ、な。 だから無理強いはしない」

二人乗りで行かなかったらその分時間は掛かるが無理やり乗せるわけにもいかないからな

「・・・わかりました、乗せてください」

少し考えた後、智花が出した答えはそれだった

「ん、それじゃあ俺のチャリに乗ってくれ」

「は、はい・・・それでは失礼します」

智花はおずおずと俺の自転車の荷台に座り、腰に手を回した

「ん?それで大丈夫か?」

「えっと、違いましたか?」

「いや、間違っちゃいねぇよ、念のため聞いてみただけだ。 それじゃあ行きましょうか、昴さん」

ペダルに足を乗せ、昴さんの方を向くとなぜか驚いていた

「どうかしたんですか?」

「あ、あぁ、いや。 そんな乗り方昔の映画とかでしか見たこと無かったから・・・」

「「?」」

昴さんの言葉に首をかしげる俺達

「じゃ、じゃあ行こうか」

「はい、智花、しっかり?まってろよ」

「は、はい」

昴さんの後ろに俺も続く

走っている途中、後ろの智花からぼそっと声が聞こえた

「・・・どきどきします・・・・・いけないこと、してます・・・」

何とか聞こえたその声に俺は笑いながら答える

「たまにはいいんじゃねぇか? いけないことも」

俺がそう言うと腰に回された腕が少し強くなった気がした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自転車を走らせ約三十分、ようやく昴さんの家に着いた

「すばるくん、おかえりなさい・・・あら?」

昴さんの母親は庭先のプランターに水やりをしている最中だった

「まぁ、こんにちは。 すばるくんのお友達?」

そして俺と智花を見て笑顔を向けて挨拶してきた

「えっと、小鳥遊翼です。 今日はお邪魔になります」

「み、湊智花と申します。 はせ・・・昴さんにはこの間までバスケの指導をしていただいていました。 本日はバスケットゴールを貸していただけるということで厚かましくもお邪魔させていただきました。 お休みのところご迷惑をかけて申し訳ありませんっ」

俺が軽く挨拶する程度なのに対し智花はとてつもなく礼儀正しく今回の経緯について説明した

「あらぁ、うふふ、全然迷惑じゃありませんよ、賑やかのほうが楽しいもの。 翼くんと智花ちゃんね、二人とも礼儀正しくて偉いわぁ」

「翼、自転車こっちに停めて」

「あ、はい」

その後、俺達が自転車を止めているうちに智花と昴さんの母親、長谷川 七夕さんは会話に花を咲かせていた

自転車を停めた後すぐに長谷川家の庭へと向かい、昴さんが五号球を取りに行っている間に俺は上着を脱ぎ、Tシャツとジーンズ姿になる

智花も制服を脱いで中に着込んでいたTシャツとスパッツ姿になった

「あ、空気入れ私やりますっ」

「じゃあその間にゴールの位置下げておくね」

「俺手伝います」

「あっ」

ゴールを下げようとしたら何か思ったらしく声をあげる

「ん?下げない方がいいか?」

「あの・・・えっと・・・」

そう聞くと智花はまごまごと何か言いたそうな顔をし始めた

そして意を決したように顔をあげて

「昴さん!小鳥遊さん!私と、一対一で勝負してください!」

「「勝負?」」

昴さんと台詞が被る、元々相手はするつもりだったがそういう感じではなさそうだ

「・・・それで、智花が勝ったらもう一度みんなのコーチをしてくれって?」

「・・・はい」

なるほど、そういうことか

確かに下手に頼むより手っ取り早い

「それなら、手加減はできないけど、いい?」

「・・・はい、もちろんです」

「翼はどうする?」

「俺は・・・」

そうだな・・・智花と一戦交えたいって気持ちもあるけど・・・

「・・・俺はパス」

それを聞いて智花は表情を変えたが間髪入れずに言葉を続ける

「ただ、もし智花が昴さんに勝ったってなら俺もおとなしくコーチをやる。 それでいいか?」

「・・・はい、構いません」

「よし、じゃあ俺が審判やらせてもらう」

「うん、よろしく頼む」

その後、昴さんがハンデを付けると言い、智花は嫌がったがガチでやって負けるようならコーチになれるような選手じゃない、という理由で智花も納得した

勝負の内容は昴さんがディフェンス、智花がオフェンスでリングの高さはミニバスの高さ

なおかつ昴さんは一切のジャンプをしない、というものだ

・・・そして勝負は始まった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「---動きが緩慢になってきたよ! そろそろ諦めたら?」

「嫌っ、だって制限時間は決めてない・・・決めてません! だから負けてません!」

「・・・こりゃたまげた」

勝負の様子はまさに圧巻だった

なぜなら智花の切り込みや切り返しは小学生とは思えない程でスピードや安定感は多分高校生レベルだ

なおかつこれまでの智花からはイメージできない積極的な攻めで思い切りが良く、良い意味で諦めが悪い

智花のプレイスタイルは静ではなく動、つまり圧倒的な攻撃型だったのだ

「・・・あの人のプレイ見たときを思い出すな」

この勝負を見て俺は、俺がバスケをするきっかけになった人を思い出した

 

 

 

 

「うぅ・・・・・」

やがて、昴さんに完膚無きまでやられた智花はその場に膝を付き、勝者は昴さんということになった

智花は負けたことが悔しいのか昼食として出されたバゲットサンドを握り締め、今にも泣きそうであった

「んな落ち込むなって、かなり良いセンいってたぜ」

「はい、ありがとうございます・・・・・」

慰めてみるも智花の表情は変わらず、落ち込んだままだった

「・・・ごめんな、でも勝たせてやれないのを判ってるのにコーチを受けるわけにはいかなかったんだ」

そんな智花の横に座り、昴さんはそう言う

「・・・そう、ですよね・・・やっぱり」

それを聞いた智花の表情はさらに沈む

「・・・なぁ、なんであの部に入ったんだ? 探せば小学生のチームとかもあったんじゃねえのか?」

俺はそこで気になっていたことを聞く、なぜあのチームなのか、なぜそこまで執着するのか・・・

なにかしらの事情がありそうだったから思い切って聞いてみた

「・・・実は私、今の部に入る前に一度辞めたんです、バスケ」

そこから智花は話してくれた、前に入っていたバスケ部のこと

慧心学園に入って真帆と出会い、そして他のメンバーと女子バスケ部を作ったこと

・・・そして男性バスとの試合に負けたら、バスケを辞めるということ

「・・・・・・・」

俺は言葉が出なかった、あの娘達にそんなことがあったなんて

智花がそんな覚悟で男バスとの試合に挑んでいたなんて

・・・そんなの聞いて、放っておけるかよ

「・・・昴さん」

「・・・何?」

・・・そして俺は立ち上がり昴さんに告げる

 

 

「俺と、勝負してください」

 

 

 

 

 

「本当にハンデはいいのか?」

「はい、さっきと同じルールならハンデはいりません。 俺がオフェンスで昴さんがディフェンス、一本勝負でお願いします」

屈伸したり肩を回しながら昴さんの問いに答える、ディフェンスはからっきしだが・・・ドリブルだけなら、昴さんにも負ける気はない

「・・・一応聞いておくけど」

「はい」

「俺がこの勝負に負けたら女バスのコーチをしろ、とかそう言うのじゃないよね」

「・・・はい、ただ二人の勝負見てて一戦交えたくなっただけッスから」

嘘は言ってない、ただ俺が勝ったら・・・

「それじゃ、始めましょう」

そう言ってボールを拾い昴さんにパスする

「あぁ、いくよ」

そして昴さんがボールをこっちに戻して1on1が始まる、ここで普通ならその場でドリブルして様子見したりするんだろうけど・・・

「っ!?」

俺はボールを受け取った瞬間ドリブルしてゴールに向かって走り出す

「くっ!」

「!」

だが流石に経験豊富、回り込まれて遮られてしまった

俺は一度止まってその場でドリブルする

「ちぇ、やっぱこれは無理か」

(な、なんだ今の? 何とか間に合ったがギリギリだった・・・なんてスピードだ)

「速い・・・」

昴さんと縁側で見ていた智花は驚きを隠せないでいた

「それじゃっ!」

右へ左へ、前へ後ろへとフェイントをかけて抜ける隙を窺う

「つっ!」

しかし昴さんは俺のフェイント全てに反応して、隙を見せない

むしろ隙あらばスティールしてくるぐらいだ

「ぅお!」

フェイントは通用しないと判り、ボールを体の後ろでドリブルする

「すごいじゃないか、付いていくので精一杯だ」

「そっちこそ、やっぱ経験値が違いますね」

俺達はその場で軽口を言い合う

このままじゃ埒が明かないな・・・しょうがねぇ

「・・・一か八か」

俺はその場からバックステップで距離を取る、昴さんはすかさず距離を詰めてくる

それに対し俺はこっちに詰め寄る昴さんに向かって最初のような全速ダッシュ

しかし最初と違うのは・・・その方向が真正面だということ

昴さんは突っ込んでくる俺に対し両手を広げ待ち構えるが

「・・・え?」

俺はボールを手に収め回転しながら昴さんを抜き去る・・・ドリブルしてるときと同じスピードで

昴さんは驚きながらも反応し立ち塞がろうとするが

「っ!」

「いけっ!」

昴さんの手は紙一重空を切る、そして抜き去ると同時にジャンプシュートを放つ

「くそっ!」

昴さんはジャンプして放たれたボールに手を伸ばすが既に遅く、ボールはゴールに向かっていた・・・だが

「・・・あ」

ボールはリングに当たり・・・地面に落ちてしまった

 

 

 

 

「あーあ、負けちまったか」

勝負に負けてしまった俺は縁側に座り、空を仰ぎ見る

「でも最後のはすごかったよ、全然反応できなかった」

昴さんも俺の隣に座ってそう言う

「でもあれまだ未完成で回転抜きの後すぐにシュート打つのがうまくいかないんです」

「お二人ともすごかったです、私も熱くなっちゃいました」

昴さんとは逆の隣に座っていた智花は目を輝かせてそう言った

「・・・そっか、ありがとな」

「ふぁ・・・」

俺は智花の顔を見て、複雑な気持ちになりながらその頭を撫でた

智花は頬を少し赤く染め俯いてしまった

「さて、このあとはどうする?」

そうしていると昴さんは立ち上がり聞いてくる

「あ、できればもう少し練習させていただきたいのですが・・・」

「うん、全然いいよ。 翼は?」

「俺は智花の練習に付き合います、元々そのつもりでしたし」

「そっか、それじゃあ俺も付き合うよ」

「はい、ありがとうございます」

智花は笑顔で礼を言う

そして俺達はその後しばらく智花と練習した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「申し訳ありませんでした、こんな時間まで・・・」

「お邪魔しました」

「全然いいわよ。 智花ちゃん、翼くん、こんどまたゆっくり遊びに来てね」

気が付くと外は夕日で真っ赤に染まっていた

「・・・・・・・シャワーまでお借ししていただいて、本当にありがとうございました」

智花は困ったような笑顔で再訪の誘いをはぐらかす

・・・俺も、もう来ないと思う

智花はそれだけ言うと門の外へと歩き出す

昴さんは何か言いたそうにしていたが言い出せずにいた、まぁ俺もだが

それに気付いたのか智花は門の外から小さな笑顔を向け、頭を下げた

そして最寄り駅に向かって歩き始めた

「・・・昴さん」

俺は昴さんに話しかける

「・・・なに?」

「あの勝負に俺が勝ったら、どうするつもりだったと思います?」

そう、あの勝負で昴さんに勝ったら決めていたことがある

「・・・・・・・」

昴さんは判らずに黙り込む

「・・・あいつらのコーチ、やろうと思ってました」

「・・・え?」

「昴さんに勝てれば、俺もあいつらに教えられる資格ができるんじゃねぇかって思ったんです」

「翼・・・」

「・・・でも、そんなこと考えるのバカらしくなってきました」

「どういうことだ?」

昴さんに聞かれ俺は背を向けながら言い放つ

「・・・困ってるやつに手を伸ばすのに、理由も資格もいらないってことですよ」

俺は目を見開く昴さんを尻目に、走って智花の後を追った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・智花ぁ!!」

智花の背中を見つけた俺は大声でその名を呼ぶ

「た、小鳥遊さん? ど、どうかしたんですか?」

智花は振り返り、膝に手を置き、肩で息をする俺に問いかける

「・・・バスケ・・・やめるな」

「・・・え?」

「もうバスケに未練も何もないって思ってた、もう辞めようと思ってた。 でも無理だ。 智花の想い聞いて、俺は・・・放っとけない!」

「小鳥遊、さん・・・?」

智花はきょとんとして俺を見る

「俺、逃げてた。 居場所がなくなることに、バスケができなくなることに。 だから逃げてた」

そう、俺は逃げてたんだ

何かを失うことに、失って絶望することに・・・

「でもそれじゃ駄目だって智花の話聞いて気が付いた。 失いたくなかったら逃げないで立ち向かえって。 自分の手で守り抜けって!」

「小鳥遊さん・・・」

「だから智花も、負けたら辞めるなんて言うな! 智花みたいにバスケが本当に好きなやつに、あんなすげぇシュート打つやつに辞めて欲しくないんだ!」

俺は智花の肩に手を置き、訴える

それを聞いた智花は俯く

「・・・でも、でも辞めなきゃ守れないんです!」

そして顔を上げ、目に涙を浮かべながら叫ぶ

貯めていた想いを、気持ちを、全部

「私だって辞めたくありません! でも辞めなきゃ守れないんです! 私の力じゃそれしかできないんです!だからっ」

「だったら俺が守ってやる!」

「・・・え?」

「俺が!智花の居場所も、バスケも全部守ってやる!」

俺がそう言うと智花は一瞬表情を輝かせるがすぐに沈んでしまう

「でも勝てないって・・・」

「・・・俺は昴さんみたいにバスケのことはあんま詳しくないし、実力もまだまだだ。 でも勝たせてやる。 根拠も何もないけど、絶対に勝たせてやる。 地区大会優勝だかなんだか知らねぇが、そんなのよりお前の方がすごいってこと見せ付けてやろうぜ」

「-----ぶぇっ、だが・・・なじ、ざん・・・」

「だから、もう一度俺にコーチをやらせてくれ。 お前に大切なこと気付かされたんだ、その礼ぐらいさせてくれよ」

大粒の涙を流す智花の頭を撫でながら俺はできる限り優しくそう言った

「・・・ふぁい!おねがいします!」

「それと、俺のことは翼でいい。 そっちの方が慣れてるしな」

「ぐすっ、はいっ、翼さん!」

智花は涙をぬぐい、笑顔で俺の名前を呼んだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

prrr・・・

 

『翼?どうかした?』

「姉ちゃん、今日晩飯いらないから」

『いいけど・・・なにか良いことでもあった?』

「・・・なんでだ?」

『あんたの声がこころなしか嬉しそうだったからね』

「・・・そうかい、まぁちょとな」

『ふーん、あんまり遅くなるんじゃないわよ。 お母さんもいるんだから』

「わーってるよ、んじゃな」


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
0
0

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択