No.452287

相良良晴の帰還5話

D5ローさん

織田信奈の野望の二次創作です。素人サラリーマンが書いた拙作ですがよろしければお読み下さい。注意;この作品は原作主人公ハーレムものです。又、ご都合主義、ちょっぴりエッチな表現を含みます。
そのような作品を好まれない読者様にはおすすめ出来ません。
追記:仕事の合間の執筆のため遅筆はお許し下さい。

2012-07-13 21:49:45 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:18871   閲覧ユーザー数:16995

良晴は犬千代と小声でやりとりを行いながら、会談が行われる広間の手前、開けた庭に向かう。

 

ちなみに、彼ら以外の兵士は無用な争いを避けるため、勝家が率いて離れた場所で待機している。

 

到着すると、既に来ていたのか一人の少女がいた。

 

利発そうで、前髪を金柑(きんかん)をつけた髪飾りで止めた少女。この世界での、『明智光秀』がそこにいた。

 

『懐かしい・・・』

 

彼の居た世界で亡くなった光秀とは別人とは分かっていても、彼の心は感動に震えた。

 

織田信奈と違い、この時代ではさして有名で無かった光秀にこの場所で出会う事が出来るのか?

 

その気持ちを、ずっと心の底で抱いていた彼にとって、この事実だけでも、この会談に参加したかいがあった。

 

会釈(えしゃく)をすると光秀は此方(こちら)と同様に目線を外さず挨拶を返す。

 

未だ同盟が結ばれていないため、警戒心顕に返礼する彼女の態度に過去の経験を思い返し、思わず微笑みで返しながら、同時に彼の心は一つの警告を鳴らしていた。

 

『過去に溺れるな』

 

前の世界での彼女達と過ごした日々を無かったことにする必要は無い。しかし、この世界の彼女達に前の世界での彼女達を重ね過ぎる事は、両方の世界の彼女達をしっかりと見ていない事と同義である。

 

つい忘れそうなその事実を噛みしめながら、彼女を不快にならぬよう気をつけながら観ていると、不意に右腕に痛みが走った。

 

首を向けると、そこには何故か、頬を膨らませた犬千代が居た。

 

「良晴、美濃の小姓に見とれ過ぎ。」

 

・・・はい?唐突に言われたその言葉に、思考が止まった。確かに目線を向けてはいるが、自軍の大将に害が及ばぬよう護衛同士見張ることは変では無いはずなんだが。

 

誤解を解くために口を開こうとすると、草を踏む音と共に光秀が走りよって来た。

 

「そこのお前!名前はなんと言うのですか!」

 

「相良良晴と申します。五月蝿(うるさ)くして申し訳ございません。」

 

「別に良いです。それより一つ聞きたい事があるです。」

 

「何か?」

 

「もしかして何処かであったことがあるですか?」

 

どくん・・・

 

良晴の心臓が跳ねた。・・・まさか彼女も俺と同じく・・・

 

「何故そのように思われたのですか?」

 

内心の動揺を抑えながら、彼女に問う。

 

「目です。」

 

「目?」

 

「はい。私は斉藤道三殿の護衛として、ずっと警戒しながら見てたです。でも、貴方は、ひどく優しい瞳で私のことを見てくれたです。最初はそこの方が仰るとおり見惚(みと)れてたんだと考えたのですが、それにしては目線が・・・どことは言えないけど違いすぎる気がしたです。」

 

そこまで言って気づいたのか手を顔の前でぶんぶん振りながら慌てて訂正する。

 

「勘違いするんじゃないですよ!別に貴方のことが異性として気になった訳では無いんですからね。」

 

彼女の慌てる姿に笑みを零しながらも、彼女の返答に一抹の寂しさを覚えた。

 

やはり・・・戻ったのは俺だけか。

 

ゆっくりと首を振りながら、彼女の問いに答える。

 

「いや、初めてだよ。戸惑わせてすまない。大切な人に似ていてね。別人だと分かっていても、険しい視線をやることが出来なかったんだ。」

 

「大切な人・・・ですか。」

 

「ああ、親族が居なかった私に、とても優しくしてくれた人達の内の一人なんだ。彼女達が居なければ、今の自分は無かった。」

 

「その人達は、今は尾張に居るですか?」

 

「いや・・・彼女達は亡くなったよ。又私は一人になった・・・だから・・・」

 

そう・・・だから・・・

 

「もう二度と、誰も失わないためにここで剣を握ってる。・・・すまない、話が脱線してしまったな。そして誤解を招く真似をしたことも謝るよ。」

 

「いえ・・・別にいいです。こちらこそ辛いことを聞いてすみませんでした。」

 

「良晴・・・ごめん。」

 

彼女達は、これ以上は、何も問わなかった。

 

ただ、彼の深い悲しみと孤独を秘めた言葉が、ひどく心に残った。

 

 

                     ※※※              

 

 

彼らのやり取りが終わってからすぐ、美濃の領主、斎藤道三が会談の場に姿を見せた。

 

老いているものの、その動きに衰えを感じさせるものはない。

 

腰を下ろした彼がふと庭の方を見ると、其処には自身の小姓である明智光秀と、織田の小姓と思われる男女が一組。

 

男の方は、南蛮の服の一種なのか、日本には見られない衣服を来ている。

 

ふむ、暇潰しに試してみるか。

 

道三はそうひとりごちると、今回の会談にどれほどの実力者を連れているか量るため、彼らを睨み付けった。

 

すぐに両名共に反応した。

 

女の方は、道三に対し身構え、男の方は女を庇う形でやや前方に半身で構える。両方とも、会談の場であることが分かっているため、武器に手は伸ばさない。

 

ほう・・・

 

道三は感心した。突然の敵意に慌てることなく対応した事もあるが、其に加え、彼等はそこら辺に要るような武士ならば震え上がるはずの道三の視線から目を外さずに居続けている。その胆力は、大したものであった。

 

そうやって二人を眺めていると、不意に襖(ふすま)を開く音がした。

 

その音を聞きながら、道三はどうやら尾張のうつけ姫が入って来たようだ、先ほど噂通り無礼な格好でこの町に入って来たと部下から聞いたがそれを口実にどれだけ吹っ掛けてやろうかとほくそ笑みながら彼女に顔を向けた。

 

華麗な服を着た、とびっきり綺麗な美少女がそこにいた。

 

なんじゃと・・・これは・・・

 

ものの知らぬ小娘だと侮っていた相手のあまりの変化に、蝮と揶揄(やゆ)された彼の脳も思考を止めた。

 

その彼に対して、畳み掛けるように彼女の口から放たれる同盟への提言。

 

彼が普通の大名ならば、忘我のまま同盟締結まで話を纏(まと)めそうな早さで言いたいことをまくし立てた。

 

しかし、彼もさるもの。一時我を忘れたものの、持ち直し、次々と信奈に鋭い質問を投げかけた。

 

彼女の目は、何を見据え、その果てに何を目指しているか。

 

それを試すまでは、彼女と手を組むことは出来ない。

 

そこで語られたのは、噂と百八十度異なる高邁(こうまい)な理想。

 

この国が過去の栄華や無意味なしきたりに囚われ、そのために多くの人々が犠牲になっている事実。

 

それを打破するために、進むべき道。戦乱を収束し、彼女を中心とした不当な差別無き国を造る・・・

 

すなわち、全国制覇。

 

それを成す為に、自身は何を為すべきであるか。又、何を準備したのか。

 

最後に、全国統一を成す為には美濃を抑えることが必須であり、道三もまた同じ夢をみたのではないかという所にまで及ぶと、彼は破顔した。

 

かつての彼が抱いた理想を、受け継いだかのように語る者が、ここにいる。

 

その事実に、彼は打ち震えた。

 

そして、最後に、この理想は常人には気が触れた考えとしか受け取ってもらえないから、今までうつけと呼ばれていたと言う信奈に対し、庭の方から声がかかる。

 

「私には理解できまする!」

 

「おう、十兵衛。そちも理解してくれるのじゃな。しかしまだ会談の途中、黙っておれ。」

 

「・・・御、御意。」

 

彼の小姓である光秀からの同意の言葉を諌(いさ)めながら、道三は、彼女と同様に理解している旨を口にしたい思いで一杯であった。

 

彼の夢を次代に受け継いでくれる大名は織田信奈をおいていない。これからの彼女の歩む道を考えるのならば、同盟どころかゆくゆくは美濃を譲ることも視野に入れるべきだ。

 

しかし、他国の大名の目を考えると、すんなり国を渡すことは憚(はばか)られる。

 

二律相反(にりつそうはん)する考えに囚われた彼の耳に、良晴の声が届いたのは、その時だった。

 

「美濃領主、斉藤道三殿。私から一つだけ話をさせて頂けませんか。」

 

膝をつきながら希(こいねが)う黒服の少年に対し、道三は了承の意と共に頷いた。

 

「燕雀 (えんじゃく) いずくんぞ 鴻鵠 (こうこく) の志を知らんや(※注1)」

 

「ちょっと!良晴!」

 

受け取り方によっては暴言にも取れる故事を口にする良晴に、信奈から声が飛ぶが、彼は話を続ける。

 

「わが主は、今までずっと燕雀 (えんじゃく) 達の暴言に晒されながらも、一人でその上の空を飛び続けていた鴻鵠 (こうこく)です。けれども、今、彼女は、初めて同じく高き空を飛ぶ鴻鵠 (こうこく)に出会えた。それが貴方です。」

 

見方によっては、ただの世辞とも取れる物言いだが、道三は全くといって良いほどそのような感情を抱かなかった。彼の眼差しの真剣さが、言葉に込める熱意が、それを封じた。

 

「そして、生涯をかけて美濃を手にした貴方だからこそ分かるはずです。その理想の素晴らしさと気高さに比例して増える困難さを、痛いほどに。」

 

彼の言葉により、彼の脳裏に浮かんだのはかつての自分(・・・・・・)

 

『日本を商人が自由に商いを行える国とする』

 

一介の油売りが抱くには大きすぎる夢を現実にするために、歯をくいしばって耐え、ついには大名にまで成り上がった日々。

 

そこで得たものは数え切れず、又失ったものも同様。

 

だが、結局、美濃を富ませることには成功したものの、全国制覇にまで至ることが出来なかった。

 

戻りえぬ過去に思いを馳せながら、道三には薄々と、彼の言わんとしている事が理解できてきた。

 

「斉藤道三殿、その理想を・・・」

 

そう、彼は、相良良晴という男は・・・

 

「この日本、全ての民のために、次代へ受け継がせて頂きたい。」

 

この老骨に、信奈という旗頭の元、同じ夢を見ようと、口説いているのである。

 

「ふ、ははははは!」

 

彼は湧き上がる喜びに、笑いを止めることが出来なかった。

 

何を儂は迷っていたのか。

 

この時代に生を受けてから抱き続けた夢、それが無駄ではなかったと思える事・・・

 

その意味を理解し受け継いでくれる者がいる事。

 

その前に、有象無象の陰口など、何の意味もない。

 

残り少ない人生・・・最後の最後で逃げてどうする。

 

「信奈殿。・・・お主も人が悪い。自身をうつけと装っていたばかりか、小姓としてこのような股肱の臣(ここうのしん)(※注2) を持っているとは。儂の負けじゃ。美濃は信奈殿に譲ろう。」

 

「蝮・・・良いの?」

 

相変わらず口は悪いものの、穏やかな調子で問い返す信奈に対し、

 

「同じ夢を見たお主は儂の義娘(むすめ)も同然。信奈ちゃんよ、儂の人生に意味があったことを見せてくれ。」

 

そう言った道三の瞳は、とても優しい色をしていた。

 

ここに、美濃との同盟は成った。

 

それどころか、その場で道三はその場で、『美濃譲り状』までしたためてくれたため、事実上の併呑(へいどん)と言えるだろう。

 

そう・・・目的は果たせたのだ。だから・・・

 

親子のスキンシップとのたまって、信奈にセクハラしようとしてボコボコにされた義父(まむし)については、蛇足として無視したい。

 

「良晴!何やってるの!早く加勢しなさい!」

 

「坊主!儂の義娘(むすめ)に、おしとやかさも教えてやってくれい。」

 

「良晴、犬千代も手伝うから、早く行く。」

 

「相良殿、上を諌めるのも大事な仕事です。」

 

仲良くなったことは嬉しいが、周りの迷惑も少しは考えてくれ。

 

じゃれあいに巻き込もうとする二人にそう内心でツッコミながら、彼はゆっくりと近づいて行った。

 

(第五話 了)

 

(※注1)意味;ツバメやスズメのような小さな鳥にどうしてオオトリやクグイのような大きな鳥の志が分かるだろうか。小人物には、大人物の大きな志は分からない。〈辞書引用〉

 

〈※注2)意味;一番頼みとする部下。補佐として頼りになる臣下。〈辞書引用〉

 

 


 
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