No.448290

【獣機特警K-9】8月XY日の夜【交流】

Dr.Nさん

http://www.tinami.com/view/446983 の続き。

エルザ  http://www.tinami.com/view/375135
アーサー http://www.tinami.com/view/447499

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2012-07-07 19:23:06 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:575   閲覧ユーザー数:544

8月XY日、夜7時45分。

他は全て明かりの落ちたK-9ルームのある一角だけ、まるでスポットライトのように明るく照らされている。

この隊の隊長であるエルザ・アインリヒトの席である。

「結局全員帰してしまったな。隊長の私が一人で残業とは。私もかなり甘いな」

自嘲気味に笑うエルザ。

 

プルルルルッ。

内線電話が鳴った。

「エルザ警部、ロビーにお客様がお見えになっております」

「こんな時間に客? 分かった、すぐ行く」

 

ロビー。

濃紺のダブルのスーツに身を包んだ黒豹型ファンガーの男がソファーから立ち上がり手を挙げる。

「やあ、エルザさん!」

「アーサーさん」

「こんな時間までお仕事ですか?」

「ええ、まあ」

「ちょっと外の空気を吸いに出ませんか? もしご迷惑でなければ」

ラミナ署を出るとアーサーは急に駆け足になった。

「急いで急いで。早くしないと始まっちゃいますよ!」

アーサーがエルザの腕を引っ張りながら走る。

「ちょっとアーサーさん? 始まるって何がですか?」

 

 

ラミナ商事ビル正面玄関前。

守衛のシマウマ型ファンガーの男が声を掛けてきた。

「おや、こんな時間に何か忘れ物ですか副社長?」

「まあね」

守衛の敬意がこもりつつもそのフランクな口調から、アーサーと社員との普段の関係が窺い知れるようである。

 

「さあ急いで!」

守衛に会釈をしたエルザが、アーサーに手を引かれ半ば強引にビルの中に引き込まれていく。

エレベーターに乗ると、アーサーは“R”のボタンを押した。

 

28、29、30と数字が変化し、小窓にRの文字が表示される。

 

「7時59分・・・なんとか間に合ったな」

屋上に出たアーサーが腕時計を見て言った。

「アーサーさん、ですから何が」

とエルザが言いかけたその時。

 

ドーン!

遠くの方で大きな花火が上がった。

「ほう、これは・・・」

思わず声を漏らすエルザ。

「どうです? 9 to 10に負けないぐらいいい場所でしょ? 毎年花火大会の日は必ずここにやって来るんです、一人でね。僕だけの特等席です」

「なるほど、確かにここは特等席だ」

「エルザさん!」

アーサーが何かをポーンと投げてよこす。

「冷たいっ」

エルザが受け止めたのは、よく冷えたビールの缶。

同じ缶を掲げながらアーサーが言う。

「おつまみはありませんが一杯どうですか?」

「いえ、私はまだ勤務中ですので・・・」

「大丈夫、ノンアルコールですから」

ニッコリと笑うアーサー。

プシュ!

缶のタブを起こしたアーサーが、中の液体を一気に喉に流しこむ。

そして、フーッと一息ついた後、色とりどりの花が咲く夜空を見上げながら言った。

「思い出すなあ。あれも花火大会の日でした」

「花火大会に何か思い出が?」

問いかけるエルザ。

「父は大変厳しい人でした。いや、今も厳しいことには変わりはないんですが」

「そういえばお父様はラミナ商事の社長をしていらっしゃいましたね」

「ええ。僕は小学生の頃から、将来ラミナ商事(この会社)を継ぐ者として徹底的に帝王学を仕込まれました。父は大変厳しくて鉄拳制裁は日常茶飯事、おまけに彼は仕事一筋で家庭を全く顧みない人でした」

「・・・・・」

「お袋は優しい人でしたが、病弱で僕が中2の時に亡くなりました。その葬儀にさえ、大事な取引があると言って父は出席しませんでした。僕は父への反発も相まって、彼女が死んだのは父が苦労を掛けたせいだと決めつけ、遂に家を飛び出しました」

三分の一ほど中身を空けた缶を片手に、エルザは黙って聞いている。

「空手を習っていたせいで腕っ節だけは強く、学校にも行かずケンカに明け暮れる毎日、いつの間にかこの街の不良グループの頂点に立ってましたよ」

「ええ」

「そしてその日も花火大会の日でした──」

 

「対立する別の不良グループに騙されて一人呼び出され、人気のない路地裏でリンチを受けたんです。いくらケンカが強くても多勢に無勢、僕は徹底的にやられました。地面に倒れた僕が、ビルの隙間から見える花火を見上げながら、『ああ僕はここで死ぬのかな』と思ったその時、通りががった一人の警官が不良共を追い払ってくれたんです」

 

「僕はその警官に説得され、彼に付き添われて家に帰りました、それこそ数カ月ぶりに。玄関を開け、そこで僕が見たものは、お袋の写真を手に取り肩を震わせ泣いている父の姿だったんです。今まで誰の前でも決して涙など見せたことのない父が、です。僕の姿を認めた父は、涙を拭こうともせずただ無言で僕を抱きしめてくれました。父は、お袋、そして僕がいなくなったこの家で、毎晩こうやって一人で泣いていたのでしょう。それからです、僕が悪い仲間とはスッパリ縁を切り、学校にも戻って猛勉強を始めたのは。高校、大学、そして気がつけばこの会社の副社長(今のポジション)に納まっていました」

「なるほど。あなたにそんな過去があったとは」

「ですから、お見合い相手のエルザさんが警察の方だと聞いた時、何か不思議な縁を感じましたよ」

笑いながらアーサーが続ける。

「まあそれはともかく。気がついた時には、僕も父と同じ仕事だけの人生になってました。かつてあれほど忌み嫌っていた父と同じ道をね、歩んでたんですよ。立ち止まりもせず、それが当たり前だと思っていた。でもふと振り返った時に気付いたんです。あれほど仕事人間だった父が仕事に打ち込めたのも、いつもお袋がそばにいてくれてたからこそだということをね」

と言うと、アーサーはゴミ箱の前まで歩いて行き、空になった缶を落とした。

ゴソッ!

ゴミ箱の内側に取り付けられた大きなポリ袋が空き缶の重さの分だけ引っ張られ、音を出した。

「アーサーさん、一つだけお聞きしたいのですが」

「何でしょう?」

アーサーが振り向く。

「あなたは、あなたが受けたのと同じ育て方をご自分の子供にもするつもりですか?」

「いいえ。絶対に。暴力では何も解決しません。暴力を受けて道を踏み外し、暴力を振るってそして振るわれた僕が一番良く分かります」

「なるほど、安心しました」

 

 

「第XX回ラミナ市花火大会、いよいよラスト10分となりました。ご観覧の皆様、華々しいフィナーレを存分にお楽しみ下さい」

はるか遠くからスピーカーの声が聞こえる。

 

これまで以上のハイペースで夜空に花火が乱れ咲く。

二人はしばらく黙ってそれを見上げていた。

 

それも終わりに差し掛かった頃、アーサーはポケットから青いビロード張りの小箱を取り出した。

そして、蓋を開け、中のダイヤのリングをエルザに向けながら言った。

 

 

 

「エルザさん、結婚して下さい」

 

 

 

ドーン!

ひときわ大きな花火が、エルザの顔を照らし出した。

 

=END=


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