No.427432

一滴(ひとしずく)の水

健忘真実さん

童話。
いろいろなメッセージを込めています。

イラスト、募集中。

2012-05-24 11:59:33 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:786   閲覧ユーザー数:785

「ヂヂヂヂヂ」 

 スズメたちの警告音です。

 生まれて間もないスズメはお母さんに連れられて、飛ぶ練習をしていました。でも上

手に飛べなくて、すぐに地面に着いてしまうのです。

 市街地にほど近い、山の斜面にある大きなケヤキの枝が、棲みかでした。

 飛び上がろうとしているスズメに近づくヘビをお母さんは見つけて、短く高い声で鳴

きます。

 

 仲間たちも集まって来ました。

「早く逃げろ! ヂヂヂヂヂ」

 幼鳥は、あせればあせるほどうまく飛べません。羽を広げてばたつかせるだけです。

 

 近くの草やぶに棲むキジは、ヘビを縄張りから追い払うために猛然と地を蹴って走っ

てきて、蹴爪で攻撃します。

 ケン、ケーン!

 これにはヘビもかなわない。

「元気な卵を産まなければならないのに!」と言い残して、退散しました。

 

 カラスは高い木の枝に止まって、一部始終を見ていました。

「チェッ、これからおもしろくなるとこだったのに・・カァー」と、町のほうへ飛び立

ちました。

 本当は、カラスもスズメを狙っていたのです。 

 

           ☆  ☆  ☆

 

 乾燥した日が続いていました。

 広場でバーベキューをしていた残り火が、一瞬の強い風にあおられて落ちてきた葉に、

火を付けました。

 火のついた葉は、再度の風で飛ばされ近くの落ち葉に火を移し、火は次第に大きくな

ります。

 鳥たちはいっせいに飛び立ち、すべての生き物は、火と煙から逃れようと必死でした。

 

 火は、キジの巣に近づきつつあります。巣には、孵ったばかりのヒナ鳥がいました。

母さんキジは両羽でヒナを包み込むようにして、じっとしていることしかできません。

 

 前に命を助けられたスズメが、それに気付きました。

――助けなければ・・・そうだ、水だ!

 

 町にある池の水を口に含んで来て、キジの巣の近くに落とします。

 でも、すぐに乾いてしまいます。

 仲間のスズメが、協力してくれました。

 それを見ていたカラスは、笑って言いました。

「そんなこと、なんの足しにもならんよ・・カァカァカァ」

 

 しかし、キジのために、一生懸命になっているスズメを見ているうちに、カラスの胸

が “ことり” と音を立てたのです。

 カラスも仲間を誘い、口に水を含んで運び始めました。

 火が作る風にあおられて、スズメたちはキジの巣になかなか近付けません。カラスは

スズメの分も、頑張りました。

 

 普段は、スズメを餌にしているチョウゲンボウも、じっとしていられなくなりました。

チョウゲンボウは知恵者です。夫婦で町からネットを拾ってきて、スズメをそれで運ぶ

ことにしました。

 巣の上でネットを開くと、口に水を含んだたくさんのスズメたちが落ちながら水を放

ち、すぐに上に向かいます。

 

 百回繰り返しているうちに消防団が到着し、ヘリコプターから散水もされました。

 

 山の中腹は木が黒焦げになり、藪も燃えて無くなりましたが、キジの巣のまわりは無

事でした。

 

 

 山は、平穏を取り戻しました。

 チョウゲンボウは、やはりスズメを捕食します。

 カラスもスズメを追いかけたり、捕らえて食べることがあります。

 それは、自然の営みなのです。

 

 最初のカラスは・・・頑張りすぎて羽がボロボロになり、ひっそりと朽ちていきまし

た。

 カラスの命は、他の生き物たちに引き継がれていったのです。


 
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