No.427003

Black dream~黒い夢~(5)

C-maさん

PSO2「ファンタシースターオンライン2」の自分の作成したキャラクターによる二次創作小説です。
(PSO2とその世界観と自キャラが好き過ぎて妄想爆裂した結果とも言う)

ちょっと、プレオープンβが6月中旬ですってよ。それまでにこの小説全部書き終わっちゃう勢いじゃないの。いやその方が妄想暴走なんでもござれに出来るからいいけどっ!!
この小説はPSO2クローズドβおよびファンブリーフィングの映像を元にした「独自解釈」のものです。ご了承下さい。

2012-05-23 17:33:13 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:573   閲覧ユーザー数:560

「以上が、今回の惑星アムドゥスキアにおけるダーカー調査の報告になります」

 

色黒の男性監理官が、手元のホログラフデータファイルから顔を上げると。

大きなワークデスクの上に両肘をついて、同じデータを見つめている総督に視線を移した。

 

「戦闘時に負傷した者はどうしている」

「エリアルド・ライラは現在メディカルセンターにて治療を受けております。さほど傷は大きくなかったようですが、『アークスによる傷』の回復には時間がかかりますので…」

「フォトンブースターの欠点か。以前よりはましとはいえ、まだ改善が必要という事か」

「今回の案件も含め、ラボには既に資料を提出しております。戦略OSのプログラム変更を含め、対策を取るとの事です」

「承知した。下がっていい」

「失礼します」

 

監理官が退室しても、総督はじっと報告書を見続けていた。

その顔は、苦悩。

武器に内臓された「フォトンブースター」の欠陥による「負傷」か。

少なくともニ、三日は動けまい。

己の身に潜在する事も知りつつ、フォトンとは本当にやっかいな代物だと、ひとりごちた。

 

遙か有志の時代に発見された「フォトン」。

はじめは、大気中に存在するエネルギー群として発見された。

当初は扱い方すら判らなかった未知の存在。

その後、宇宙全体にその存在がある事を発見、発明された「フォトンジェネレータ」で粒子エネルギーに変換して「物理的」に扱う事が可能になり、人類は「宇宙」へとその手を伸ばした。

惑星(ほし)を離れ、長く永く宇宙を流離う道を選んだ者たちの中に、フォトンを自ら扱える者が現れてから幾年月。

アークスは「フォトン」を扱える者のみで構成されていた。

オラクルに存在する一般市民には「憧れ」「強さ」の象徴として、その強大な組織は認識されている。

 

唐突に、ワークデスクの上の通信パネルのランプが付いた。

その「着信の色」に、総督の顔が一気に「焦り」へと変化した。

僅かに躊躇し、スイッチに触れる。

 

「AR66723です」

『面白いデータを受け取った』

「恐れいります」

 

機械を通したような、人工的な声。

男のものとも、女のものとも判らない。

「音声のみ」とホログラムに表示されているが、総督は緊張した面持ちで開かれたままのデータを見る。

 

『「マテリアル」の状態は良い様だな。流石といった所か』

「いえ…まだ不安定です」

『良い。いずれその状態が「安定」すれば、そのまま「器」として使う事が出来る』

「時間はかかります」

『構わん。今までの年月を考えれば造作も無い。他のマテリアルが次々と潰れている上、もう「失敗」は許されん。時間をかけるのは当然だ。そちらに送ったものが最後なのだから、くれぐれも頼むぞ』

「…承知しました」

 

ぶつりと、音声が切れた。

通信ランプが消えている事を幾度も確認した後。

初老の総督は、緊張の糸が切れたように椅子にもたれかかる。

 

「身を挺して『発動』を止めた…そうだろうな。そうするだろうとは思っていた」

 

大きな、大きな溜息をついた。

 

「許してはもらえまい。だが、今の私にはこの位しかしてやれない。『他者の意思』には『己の意思』でしか対抗出来ない。せめてその『意思』を思い出す事が出来る様に、己の意思を、選択できるように…」

 

ホログラムデータの中に描かれている「エリアルド・ライラ」の文字と写真。

 

「全てを君に委ねるしか方法がないならば…」

 

それを閉じてから「別の場所へ送信」を選択し、キーを叩く。

その顔は、無念と後悔、そして切望が色濃く混じっていた。

モニターに映る「送信完了」の文字を確認したのち、座っていた椅子ごと総督はぐるりと背を向ける。

窓の外のアークスシップの街、そして巨大なシップの構造物。

その遙か彼方の宇宙に「マザーシップ」は変わらず、大きく鎮座する。

「!」

 

白い天井。

エリは一瞬、自分の状況を把握できずに居た。

 

「エリアルド!」

「先輩!」

「気付いたか!」

 

一斉に、自分を覗き込んでいるいくつもの顔が眼に入る。

 

「…ここは…?」

「メディカルセンターよ」

 

エコーが、一番自分の近くに座って笑っていた。

自分が、病室のベッドに寝かされて居る事にエリはようやく気付いた。

アムドゥスキアで一緒に戦った仲間たちが、同じ顔をして自分を見ているのだ。

 

「良かった、目が覚めなかったらどうしようかと思ってましたよぉ…」

 

アフィンが情けない顔をして、涙を流す。

ゼノがその肩を叩き、苦笑した。

だが、当のエリはまだ半分夢うつつの表情。

 

「大丈夫?私達がわかる?」

 

何故、自分はここに。

確かアムドゥスキアの洞窟で、龍族に会って。

喧嘩別れのように、その場に取り残されて。

 

「!!!」

 

全てを思い出し、エリは跳ね起きた。

つもりだったのだが、右脇腹に激痛が走る。

 

「あうっ…!!!」

 

思わずベッドの上で蹲る。

その行動に、全員が驚いた。

 

「バカ、動いちゃ駄目だ」

 

ゼノが慌ててその肩を支え、元通りに寝かしつける。

痛みに脂汗を浮かべながら、それでもエリは必死に二人へ手を伸ばした。

 

「ヴォル・ドラゴンは?龍神はどうなったの!?」

「安心して、正気に戻ったわ」

「…本当に!?」

「ああ。どうなるかと思ったけどな」

 

ゼノとエコーは顔を見合わせて、頷いた。

機密事項でもあるため、エコーはルーキー達を退室させる。

ヴォル・ドラゴンはむくりと頭をもたげた。

臨戦態勢を取るエコーとゼノ、そして足元に倒れ付すエリ、その火傷に身動きが取れずに片膝を付いているリュードに次々と視線を投げてから。

静かに、語り始める。

 

『ヒトヨ…オ前達ガ…我ヲ止メタノダナ』

 

ゼノが驚きの表情で、その大きな眼を見る。

 

「やっぱり、幻聴じゃなかったのか」

「喋れたのね」

『我ニ巣食ウ「力」ヲ止メタ事ニハ…礼ヲ言ウ』

 

傷付いた身体を横たえ。

龍神は翼を休めるように静かに収めた。

武器を収め、負傷した二人へと駆け寄る二人の人間をじっと見つめている。

負傷者を介抱しながら、エコーは任務を果たすために詰問を始めた。

 

「教えて。何故龍族は私達を敵視するの?」

『我ラノ領域、コノ星ヲ踏ミニジルカラダ』

「調査してるだけだぜ、俺たち。さっきの連中は全然聞く耳持たなかったけどよ」

『オ前達…ヒトノ中ニ、愚カ者ガ居ル』

「愚か者?」

 

ふい、と炎の龍は横を向いた。

 

『ソノ者達ハ、我ラヲ「物」トシテ扱ッタ。ヒトガ出入リスルヨウニナッテ『黒キモノ』ガ我ラヲ襲ウヨウニナッタ。ヒトガ『黒キモノ』ヲ持チ込ンダノダ』

 

黒きもの。

恐らくは、ダーカーの事だろう。

しかし、「ヒト」がそれを持ち込んだという意味がわからない。

 

「馬鹿言うなよ、俺たち人間にだって『ダーカー』は敵なんだ。どうやって持ち込むって言うんだよ」

 

病原菌のように寄生、侵食してという事も考えられるが。

無論今まで、ダーカーがヒトに侵食したという話は聞いた事が無い。

メディカルセンターでの検査は指定されているが、己の知る限り「侵食が確認されたヒト」は居ないはず。

ゼノの言葉に、ヴォル・ドラゴンは嘲笑した。

少なくとも、彼には笑ったように見えた。

 

『…愚カナルヒトガ…知ッテイルハズダ』

 

愚かなる、ヒト。

引っかかる言い方をする。

何か別の力が働いているような。

エコーは我慢できず、一歩前に出て叫ぶ。

 

「お願い教えて!その『愚かなる人』って何なの?!」

『コレ以上…話ス事ハナイ…去レ』

 

言葉を続けようとするエコーを遮る様に、言うや否や唐突にヴォル・ドラゴンは立ち上がった。

翼を広げ、飛び立とうと大きく羽ばたく。

その風圧はエコーやゼノを大きくたじろがせる。

 

『…二度ト我ノ前ニ立ツナ。次ニ会ウ時ハ敵ダ』

 

そういい残し。

彼らの行く手を阻んでいた障壁を破壊し、ヴォル・ドラゴンは飛び去った。

残された彼らの通信機に、ブリギッタの声が飛び込んで来たのはその直ぐ後だった。

ベッドの一部を起こして、よりかかるように話を聞いているエリ。

右手の拳を眉間に当てるしぐさは、決まって何かを考え込んでいる時のもの。

 

「愚かなるヒト…」

「そう言ってたわ」

「俺たちとは別に、何か別の連中が動いてるような言い方だったな」

「一応…報告はしたけど…上の連中が取り合ってくれるかどうか」

 

確かに、あのディーニアンの長も同じ事を言っていた。

私達「ヒト」がダーカーを持ち込んだと。

そういう事をしている「こちら側の人間」が居るという事?

 

考えても、わからない。

そんな事は当然だ。

覚醒したばかりの脳で、考える事自体が無理な話なのだから。

何となく頷いているエリを見て、エコーはふと真顔になった。

 

「ともかく、貴女は休みなさい。簡単には治らない傷なんだから」

「…」

 

簡単には治らない傷。

 

「フォトンブースター」は、フォトンを扱える選ばれた「ヒト」の能力を「武器」によって増幅する。

それを戦略OSによって制御し、より専門的な「攻撃力」として扱う。

だが欠点として「異なる波長のフォトン」とぶつかり合った時、その効果を弱める。

人それぞれフォトンの波長は違う為、基礎回復に使われるフォトンを他者のフォトンが妨害してしまうのだ。

またアークスが使う「レスタ」は、エネミーやダーカーから受けた傷に強く作用する為、「同士討ち」した際の怪我にはあまり向いていない。

故に、アークスの規則によって「味方同士での戦闘」は固く禁じられていた。

 

思い出した。

エリは病室の中を見。

一人だけ、姿を見ていない人物が居る事に気付く。

 

「…彼は?」

 

唐突に、エコーの顔が曇った。

ゼノも視線を外す。

怪訝そうにエリはエコーの顔を覗き込もうとする。

 

「すぐ外の廊下に居るわ。でも」

 

思い悩む様子を見せていたエコーだったが、意を決したようにエリに向き直った。

 

「エリアルド、あの人からは離れたほうがいい。危険すぎるわ」

「え…」

「貴女をそんな目に遭わせた人と、一緒に居させるなんて出来ない」

「エコー」

 

目には、怒り。

エリは驚いて、自由にならない体を起こした。

 

「でも、私が怪我をしたのは私自身が無謀に飛び出していったから…」

「貴女自身が言ったのよ?彼を止めてって」

「…確かに普通じゃないよなあれは。気が狂ったかと思ったぜ。俺だってあんな戦い方は出来ねぇよ」

 

あのゼノが、目を伏せて呟いている。

判らないでもない。

狂戦士のように暴れまわる姿を目の当たりにすれば、誰でもそう思うだろう。

でも。

 

「いいの」

 

エリは、笑った。

驚くほど穏やかな顔で。

 

「お願い、彼と話をさせて」

「エリアルド、あなた…」

「どうしても言っておかなきゃならない事があるの」

 

顔を見合わせ、しばらくエコーとゼノは考えていたが。

大きく溜息をついて、肩を落とした。

 

「言って聞くような性格じゃなかったわね…」

「わかった、判ったよ」

 

呆れたように肩をすくめるゼノに、エリは苦笑した。

 

「ごめんなさい」

「いいって。俺達は帰るわ」

「ちゃんと休むのよ?」

「判ってる。ありがとう」

「じゃあね」

 

ばたばたと部屋を出て行く二人に、エリは手を振った。

気持ちはわかる。

彼らが自分をとても心配している事。

けれど。

 

僅かに疼く脇腹の傷。

ふと、窓の外を見ると既にアークスタイムは「夜」になっていた。

光が落とされ、満天の星空が窓一面に広がっている。

銀河が、エリの心を癒した。

彼らが病室から出ると、少し離れた場所にリュードが壁に背を預けて立っていた。

腕組みをして、ずっと床を見たまま動こうとしない。

火傷は幸い、レスタで回復出来ていたようだ。

しかし、その表情はエコーが声を掛けるのが憚られるほど暗く。

 

「リュードさん」

「…」

 

無言で顔を上げるリュードにエコーはつかつかと歩み寄った。

 

「エリアルドが呼んでるわ。貴方と話がしたいって」

「俺と?」

「そう」

 

躊躇うように、目が泳ぐ。

己が傷つけた事を、重々承知している目。

エコーは眉間にしわを寄せ、これでもかとリュードを睨みすえる。

 

「約束を破った貴方を許したわけじゃないわ。でも、彼女が貴方を呼んでいるから」

「……」

「いい?もう一度言うわ。これ以上エリアルドを傷付けたら、許さないわよ」

「判っている…すまない」

 

怒りのまなざしのエコーに、ただ頭を垂れる。

こうして見ると、普通の男性。むしろ、己の身の置き場に困っているような節さえ見える。

怒りと呆れがない交ぜになった溜息をついてから、エコーはくるりと背を向けて廊下を歩き出した。

ゼノがエコーの背中を目で追ってから、リュードへと歩み寄る。

 

「悪いな、あいつあんな言い方しか出来ないんだよ。俺達の同期はみんな死んじまったりで殆ど居なくてさ、これ以上仲間が居なくなるのが嫌なんだと思うんだ」

「いいんだ、俺が悪いのは間違いない」

 

エコーとは違う、半信半疑の顔で。

 

「何故あんな風になっちまうかは聞かない。どうもあんた自身も持て余してる感じだしさ。ただ、一つだけ気になる事がある」

「?」

「何であんなに彼女はあんたの事を気にするのか、って事さ。エリアルドは堅物で有名なんだぜ?その彼女がやたら意識するなんて、俺としちゃちょーっとほっとけない訳よ」

 

ふざけ半分で問い正すゼノ。

だが、困惑した表情から出た言葉は。

 

「…わからない」

「わからない?」

「すまん、それ以上は言えない」

 

口を濁すリュードに、ゼノは肩をすくめる。

本心は引き出せない、か。

まあそりゃそうだろうな。

 

「ふぅん、そうか。まあ…俺はエコーと違って怒ってるとかはないけどよ。同じチームなんだろ?どうせなら彼女をちゃんと守ってやってくんねえかな」

「俺が?」

「エリアルドは今まで相当無理してやってきた。だからそろそろ楽させてやりたいと思うんだけどさ。でも俺じゃ全然駄目なんだわ」

 

困惑した表情のまま立っているリュードの肩を叩き。

苦笑しながら、ゼノは歩き出した。

ひらひらと手を振る。

後はよろしく。

背中が、そう言っていた。

彼が病室へ足を踏み入れると、背もたれのように起こしたベッドの上で星空を見ているエリが目に入った。

人の気配に振り返り、入り口で立ち尽くしているリュードに気付く。

 

「どうぞ、椅子があるわ」

「あ、ああ」

 

スライドドアを閉め、躊躇いながらも椅子へと腰を降ろす。

笑みを浮かべて、エリは呟く。

 

「火傷は大丈夫だったみたいね」

「俺は平気だ、それより」

 

思ったよりは、元気そうだ。

しかし、彼女がここにいる原因を作ったのは紛れも無い自分。

両肘を膝の上について祈るように両手を合わせ、彼は顔を伏せた。

 

「すまなかった。一歩間違えていたら、俺は君を殺してしまっていた」

 

窓の外に広がる銀河は、瞬きもせず輝いている。

まるで時が止まったよう。

エリはリュードから視線を外し、笑みを浮かべたまま星の集団を見つめる。

 

「ニ、三日で歩けるくらいの傷なのよ?大した事じゃないわ」

「いや、そういう意味じゃない…」

「気にしないで、って言っても無理かもしれないけど。それに、冷静に考えればもっと他に方法はあったかもしれないのに、考え無しに突っ込んじゃうのが私の悪い癖なの。いい薬になったわ」

 

静かに語る横顔は、美しかった。

その顔の傷さえなければ、そのフォトンの力さえなければ、もっと平穏な生活を送れた筈の女性。

 

傷?

 

無意識に、リュードはその右手で己の眉間に触れた。

自分の記憶に無い、傷。

総督室で出会った時の、彼女のあの表情。

思わず、口をついて出る。

 

「君は…俺の事を知っているのか?」

 

エリが振り返る。

リュードはじっと、エリを見据えた。

しかし。

エリは静かに、首を横に振る。

 

「貴方に十年以上前の記憶が無い事は総督から聞いているわ。貴方がそれ以前に『アークス』に在籍していた事もね。けれどそれ以上の事は知らないの」

「そう…なのか」

 

嘘は言っていない。

自分は確かに十年前、彼に助けられた。

しかし「リュード自身の事」は何一つ知らないのだ。

それが、十年前にエリが彼を探し始めて最初に行き当たった「壁」だった。

僅かに驚いた表情を見せるリュードに、エリは苦笑した。

 

「ごめんなさい、役に立てなくて」

「いや、いいんだ。きっとその方がいい」

「何故?」

 

エリはふとリュードの顔をもう一度覗き込むように見る。

立ち上がり、窓際へと歩いて行くその顔には陰りが見え隠れした。

 

「俺には関わらない方がいい」

「私は貴方とアフィン君のサポーターよ。そういう訳にはいかないわ」

「君も解っている筈だ。俺は自分で、自分がコントロール出来ない時がある」

「その時の記憶は?」

「…無い。十年前がそうだったように、血塗れの手に気付くだけだ」

 

何故「バーサーカー」状態に陥るのか自分でも理解出来ていない、暗く澱む瞳。

エリの記憶の片隅に残る、赤黒い血に塗れた世界。

今も彼は、その中に居るのか。

 

…十年前?

 

あの時、自分を助けた後。

彼は別の場所へ「住民を助けに」向かった筈。

何故それが「血塗れの手」になるの?

何があったの?

一気に噴出した疑問が口をついて出そうになるのを必死に押さえた。

今の彼に聞いても、それは彼を苦しめる「帰ってこない問い」になるだけだ。

エリは思考を切り替えた。

 

「まあ、焦らない事ね。貴方が『暴走』するきっかけ(トリガー)は必ず何処かにある筈。それさえ突き止めれば、その『力』自体を貴方のものに出来るはずよ」

 

驚いて、リュードはエリに向き直った。

 

「力を、俺のものに?」

「あれ自体、貴方自身の物なのよ?もったいないと思わない?」

「そう…か、そういう考え方も出来るのか」

 

考えた事も無かった。

暴走を「しない」「抑える」事ばかりを考え、他者との距離を置いてきた自分。

得体の知れぬ力を行使し、周りを傷付けて来た自分にこんな言葉を投げる人物が居るとは。

しかもそれは、自分のその「暴走」に巻き込んでしまった張本人。

何だか、肩の力が抜けた。

ようやく、リュードは笑みを浮かべる。

 

「流石だな、先輩」

「やめてよ、貴方のほうが年上だしキャリアは長い筈なのよ?」

「そんな事はないさ、伊達にリーダーを務めてないなと感心してるんだ、エリアルドさん」

 

くすくすと、エリは笑った。

 

「さんづけもやめて、リュードさん」

「それはお互い様だ」

 

ははは、と笑ったその顔に、エリは心の底から安心していた。

その時の笑顔は、彼女の記憶に残っていたものと同じだったから。

 

自分を思い出さなくてもいい。

たとえまた暴走したとしても、今度は何とかなる気がする。

ひょっとすると、総督はこの為に私を彼の側に置いてくれたのかもしれない。

だとしたら、その力を制御できるように導くのが私の役目。

 

誰にも、目の前の男性にすら気付かれぬよう。

エリはその場で、一つの決意を胸に刻んだ。


 
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