No.423385

Sky Fantasia(スカイ・ファンタジア)8巻の4

おはようございます。こんにちは。こんばんは。
”masa”改め“とげわたげ”です。
今作、1年の休載からついに書き終えることができました。
今まで読んでくれた方やこれから読んでくれる方。
簡単でいいので、よろしければ、感想おねがいします。

2012-05-15 19:50:05 投稿 / 全14ページ    総閲覧数:601   閲覧ユーザー数:601

第4章 依頼

 

 

 目を開くと、景色がボヤけていた。そして、目の前には、銀色の髪の青年が、剣を杖にして体を預けている。しかし、次の瞬間、青年を支えていた刃は、ガラスのように崩れた。

「・・・・ニア、悪い。壊しちまった」

青年の口元に笑みが浮かぶ。その口から、紅い筋が流れ、地面に零れる。

 そして、青年は、糸が切れた人形のようにゆっくりと、倒れてきた・・・・。

 

 わたしは、ベッドで跳ね起きると、自分が、汗を流しているのに気づいた。

 

「・・・・夢? はぁ〜、朝からすごい、嫌な夢見ちゃったなー」

わたしは、ベッドから降りると、カーテンを開けた。外はまだ薄暗く、辛うじて街の景色が観えるくらいだった。

「あんな夢見ちゃったから、もう一度寝直すのは無理・・・・そうだ。久しぶりに朝練、使用」

そう決めると、わたしは、早速制服に着替えた。

「あれ? リリ、こんな朝早くどうしたの?」

部屋を出ると、そこでばったり、お母さんと出くわした。

 わたしのお母さん”マリア・マーベル”は、魔連の局員で、南地区の《局長》である。ちなみに、お姉ちゃん”ルナ・マーベル”は、お母さんの部下で、《副局長》だ。

「お母さんこそ、どうしたの?」

「私は、ちょっと喉が渇いただけ」

「そうなんだ。わたしは、早く目が覚めたから、朝練に屋上へ行くところ」

すると、お母さんは、笑みをこぼした。

「へぇー、なら、ちょっと待ちなさい。私もついて行くから。偶には、私が教えてあげるわ」

「本当に!?」

お母さんと魔法の練習するなんていつ以来だろう。早起きはするものね。

 お母さんが支度するのを待って、わたしたちは、屋上へと向かった・・・。

 

                      ○

 

「―――もっと、背中に意識を集中しなさい。魔力を背中に集めるイメージよ」

「はい!」

わたしは、言われた通り、意識を集中させる。すると、《マナ》の光が少しずつ背中に集まってきた。しかし、すぐに、弾けて消えてしまった。

「きゃ!?」

わたしは、弾けたことに驚いて、座り込んでしまう。その姿にお母さんは、苦笑いを浮かべた。

「まだまだ、イメージが弱いわね。やっぱり、貴女の歳で《羽化》は、まだ早いのかも、ね。ルナでも、モノにしたの十五の時だし」

「でも、2回発動できたんだから。出来ないはずは無いと思う。わたしだって《巫女》の血を引いてるんだから」

「・・・・そうね。すぐには、無理かもしれないけど。貴女ならできるようになるわ」

そう言うと、お母さんの雰囲気が変わった。そして、背中に膨大なマナが集まる。

「・・・・きれい」

次の瞬間、お母さんの背中から、幻想的な羽が具現化した。

「本来、魔導師は体内にマナを蓄積して、使うもの。だけど、私たち《巫女》は、さらにこの羽の力で、外にも貯めることが出来るわ。簡単に言えば魔力の《タンク》ね」

すると、お母さんの羽は、朝の冷たい空気に溶けて消えた。

 気づけば、日の光がビルの隙間から顔を出していた・・・・。

 

                       ○

 

「―――出張?」

朝練を終えて、家に戻ると、お姉ちゃんが朝ご飯の支度をしてくれていた。朝食を食べているわたしに、お母さんは、予定を告げた。

「そう、今日から一ヶ月、家を空けるからよろしく、ね」

「ずいぶん急だね」

わたしは、パンに一口かじる。

「本来、私も行くべきなのでしょうが・・・・」

お姉ちゃんが、申し訳なさそうな表情を浮かべる。そんなお姉ちゃんに、お母さんは、呆れたような表情を浮かべた。

「言ったでしょう。今回の作戦の指揮は、私が取らないといけないの。それに、副支部長の貴女が居てくれるから、私が出動できるんだから」

「ですが―――」

「それに、この任務は、私が長年追っているものに近づける。戦争の裏に絶対あの組織が関っているはずなんだから」

すると、お母さんの表情が真剣なものに変わった。

「だから、これは私たち古株が受けないといけない。貴女の様な新しい時代の若者には、関らせられないわ」

「それでも、私は、事件の当事者でもあります。あの事件の危険度は、把握しているつもりです」

「だったら尚更、娘の貴女を連れて行くわけには、いかないわ。あー、この話は、終わりよ。せっかくの娘2人とのモーニングが不味くなるわ」

そう言うと、お母さんは、いつもの調子でカップに口をつける。

「それよりも、リョウは? あれから連絡無いの?」

「う、うん」

わたしは、首を縦に振って返事をした。そのとき、少し自分のトーンが落ちているのに気づく。

 リョウくんと連絡が途絶えてから一週間。始業式の日から取れなくなってしまった。

 最後に交わしたのは、ポピーちゃんのマンションにリョウくんから電話が、掛かってきたとき。

 

                        ○

 

『―――一週間、学園休むから、サクヤさんに伝えといてくれ』

「休むって、急にどうして!?」

わたしは、急な電話に声を上げた。しかし、電話越しのリョウくんは、落ち着いている。

『昔の仲間の頼みで、な。ちょっと、やらなきゃならないことができた』

「なら、わたしも―――」

『無茶言うな。お前、俺と一緒に居ても辛いだけだろ?』

その言葉が、わたしの胸に突き刺さった。そして、怒りと悲しさが混じったような感情が浮かび上がってきた。

『まあ、すぐに戻って―――』

「・・・・知らない」

『はぁ?』

マイク越しからリョウくんの間の抜けた声が聞こえた。

「もう知らない! 一週間でも一ヶ月でも、行けばいいよ!」

『おい、リリ!』

リョウくんの驚く声が聞こえたけど。わたしは、一方的に通話を切ってしまった・・・・。

 

                        ○

 

「はぁ~」

わたしは、通話の内容を思い出してため息が漏れた。そして、わたしは、机の上の携帯電話を覗く。

 すごい自己嫌悪

 そう思うと、もう一つため息が漏れた。

 

 四日前・・・・

 

 現在、俺は、なぜか机の前に座らされていた。

 

 ダンテの依頼を受けてから、俺は、作戦の日時までミュウの部屋で待たされていた。その間、ただボーっと過ごしていた訳じゃない。なぜなら・・・・。

「・・・・なぜ、スラムに来てまで、コイツらと遭遇しないといけない」

そんな愚痴を零す理由は、目の前にあった。それは、教科書の束だ。

「学生なんだから当たり前よ。私が誘った所為で、留年なんてされたら、あの剣術バカに指されかねないもの」

その愚痴を、モニターを覗いていたミュウが答えた。それは正論だろう。だが、納得いかない。

「別に生きていくのに、こんなもの必要ねーだろ」

すると、ミュウがこちらに振り返った。

「手が止まってるわよ。それに、学んでいて無駄ではないわ」

そう言うと、ミュウは、席を立ち、俺の横に座った。そして、俺のノートを覗き込む。

「・・・・ここの数字間違ってる。式も目茶苦茶。貴方、絶対授業聞いてないでしょ」

「・・・・」

さすがに、正解だとは言えなかった。その表情で分かったのか、ミュウは、呆れたようなため息をついた。そして、一冊の教科書を取る。そして、迷わず目的のページを開いた。

「・・・・はい、この式を使うのよ。あとは、出た数字をもう一つの数式に当てたらできるわ」

「・・・・・・・おっ、できた」

答えを確認すると、本当にできていた。あまりに簡単にできたのでさすがに驚いた。

「というより、なんで数式が載ってるページが分かったんだ?」

俺は、すぐにその疑問が頭に浮かんだ。しかし、ミュウは、目をそらす。

「・・・・昔、見たからよ。一般教養は、どの科も同じものを使うから」

「えっ、じゃあ、お前」

「元生徒、レベルの低さにがっかりして、三ヶ月で中退したけど」

その言葉に、俺は驚くと同時に色んなことが納得できた。

 だから、俺は、自然と言葉が漏れた。

「・・・・今は、引きこもりか。人としてのレベルは、お前も低い―――」

その瞬間、ミュウは、持っていた教科書の角で俺の顔を殴る。

「別に良いでしょ! この間、歩いたせいで靴擦れが痛いんだから」

「・・・・普段から歩かないからだ」

う、うるさい、とミュウは、俺を睨みつけてきた。

 てか、分厚い教科書って武器になるな。

 俺は、デコを摩りながら。

「それで、あの女、“フェンラン”のこと調べたか?」

「まあ、調べるほどじゃなかったけどね。それよりも、私は、貴方が彼女を気にしていることの方が驚きだわ」

そう言うと、ミュウは、俺に一枚の電子盤を差し出した。俺は、それを受け取ると、目を通す。

「・・・・雰囲気がなんとなく、俺に似てんだよ。昔、マリアさんに拾われる前の俺に」

「なるほど。そういえば、あったばっかりのとき、貴方もあんな感じだったかもね」

それだけ言うと、俺は、再び情報に目を通す。

 ファイとは腹違いの兄弟

 ファイトスタイルは、投剣術と素手での打撃。

 スラムには、9歳から住んでいる。

「分からないのは、魔力値が計測されているのに、それを戦闘で使わない。だから、使用属性、使用方法は、分からないわ。でも、今の今まで、生き残ってるんだから、同じ女でも化け物ね」

「戦いに《魔力》だけがすべてじゃない。他に色々な方法がある」

そう答えると、俺は、電子盤をミュウに返した。ミュウは、それを受け取る。

「また《気》のこと? 悪いけど、オカルトは、専門外」

「無意識に《魔法》を使っているかもしれねーな」

「戦闘記録もあるわよ」

電子盤を操作すると、ミュウは、俺に返した。

 すると、そこには、動画が流れていた。

 スラムの住人とフェンランが、言い争っているシーンだ。すると、建物からゾロゾロ、フェンランを囲むように集まってくる。

 画面上には、十人。すると、フェンランは、不意に目の前の奴ぶっ飛ばした。

 それが開始と、集まった奴らが一斉に、フェンランに襲いかかる。

 だが、フェンランは臆することなく、次々と潰していった。それは、圧倒的だった。

「結果は、フェンランは、無傷。襲った奴らは全員、土の中」

そう答えると、ミュウは、俺から、電子盤を取り上げた。

「どう? 興味の方は」

「・・・・見た感じ、コイツは、ただ《強さ》を求めてるだけだ。だけど、昔の俺って言ったのは、間違いだな」

「どうして?」

「不器用」

「・・・・なにそれ?」

ミュウは、怪訝な顔で俺を見てきた。だけど、俺の意識は、もう後ろの扉に向いていた。

「まあ、すぐに分かる。あちらさんは、俺に興味があるみたいだし」

「へっ?」

次の瞬間、ドアが蹴破られた。そして、そこから現れたのは、噂の女だ。

「は~い、暇してる? 悪いんだけど、相手してくれないかしら?」

そう、フェンランだ。俺は、振り返り、姿を確認する。

そこで、アイツの右頬に、血がついているのに気付いた。

その不自然なつき方から、どうやら、返り血のようだ。

「お前に会ってから、狩に行っても、あまり面白く無くて、ね。どうしてかしら?」

「しらねーよ。それより、無駄に敵作ってると、あとが大変だぞ」

「別に良いわ。その方が、一々こちらから出向かなくてすむし」

俺は、ため息が漏れた。そして、確信した。

「・・・・なるほど、な」

「それで、付き合ってくれんの?」

「・・・・分かった。戦(や)れそうなところに案内しろ」

「リョウ!?」

すると、ミュウは、驚いた声を上げた。だけど、俺は、それを手で制止した。

「心配するな。俺は、死なない」

それだけ言うと、俺は、フェンランに近づく。そのまま、フェンランと俺は、部屋から出た。

 その姿を見送ったミュウは、疲れたため息をついた。

「あの子はまったく・・・・って、あれ? これって―――」

そのとき、ミュウは、リョウの腰になくてはならないものを見つけてしまった。

 

                         ○

 

 ミュウの部屋から出て、少し歩くと、一つの部屋の前についた。だが、その部屋は、見るからに普通の部屋じゃない。

「牢獄。いや、拷問室か」

「誰にも邪魔されそうにないでしょ?」

「そうだな。じゃあ、始めようぜ」

俺たちは、お互い、壁の端へと距離を取る。

 フェンランは、太もものホルスターから、ナイフを一本取り出した。

「それで、お前は、抜かなくていいの?」

「何をだ?」

そう答えると、俺は、両手を上げた。その瞬間、フェンランの表情が怒りへと変わる。

「ふざけるな! 私に勝つ気あるの!」

「別に、ふざけてねーよ。お前を屈服させるのに武器なんていらない」

「殺してやる」

フェンランは、地面を蹴り、一瞬で俺との距離を潰した。そして、その勢いのまま、ナイフを突き出す。刃が俺の肉に突き刺さる。

 そのとき、フェンランの目は、驚きを隠せなかった。

「なっ!」

「っ! なあ、質問なんだけど。お前、なんの為に戦ってんだ?」

こんな時に、場違いなセリフだが、俺は、訊かずにはいられなかった。

「・・・・私が誰よりも強いことを証明する為に決まっているでしょ」

「・・・・そう、自分に言い聞かせてんだな」

「なに?」

俺の即答した。

「お前は、怖いんだよ。誰からも相手にされないのが」

「バカなこと言うな!!」

フェンランは、刺さったナイフを抜くと、そのまま振り上げて、勢いよく振り下ろした。俺は、それを左腕で受ける。

 辺りに鮮血が飛び散る。だが、フェンランの攻撃は止まない。抜いては刺し、抜いては刺しを繰り返す。

 俺は、致命傷だけは避けた。

「私は、誰よりも強い!! 王の器だ!! 恐怖なんて感じる訳がないだろ!!」

「っ! 嘘だな。“狩”と言って、暴れるのも自分より強い奴を探すため。自分のすべてをぶつけられる奴を、自分のすべてを認めてくれる奴を探しているだけだろ」

「黙れ!」

「ぐっ! 戦闘が終わった後、不意に見せるさびしそうな顔、あれが、お前の本性だ」

そう、俺は、あの動画を見たとき、気付いた。俺とコイツとの違いを。コイツは、人の温もりをまだ知らない。ずっと、一人だったんだろ。そこが、俺との違いだ。

「黙れ! 黙れ! 黙れ! 黙れ! 黙れ!」

なおも刺し続けるフェンラン。そのとき、一瞬だけ、目の前が黒くなった。

 ヤベ、血、流しすぎた。

「殺す! 殺す! 殺す!」

「否定するなら―――」

フェンランが振り下ろした腕を、俺は、残っていた力で掴む。そして、フェンランを引き寄せた。

「なんで泣いてだ?」

引き寄せた勢いで、俺は地面に倒れた。もう、起き上がる体力も残ってない。

だけど、まだ意識はある。

「安心しろ。人が持つ、”孤独”なんて、誰もが持っている恐怖だ」

「・・・・私は違う」

「そうだな。王様だもんな。だけど、な」

王様も人間だ。

その瞬間、フェンランの動きが完全に止まった。やっと、大人しくなった。

「だけどな、今日からは違う。お前の上は、俺だ」

フェンランは、顔を上げた。その瞳は、俺の瞳を捉えている。

「私に負けたくせに」

「負けてねーよ。俺は、生きている。それに、お前を泣かして、動きを止めた。だがら・・・・」

ヤベ、眠くなってきた。

「俺の勝ちだろ」

「・・・・もう、勝手にしな。やる気が失せた」

「じゃあ、決まりだ。今日からお前は俺の・・・・も・・・・のーーー」

そのまま、俺は暗闇へと落ちた・・・・。

 

                        ○

 

 朝起きると、キッチンには、朝ご飯が用意されてあった。

 

「おはよう、お姉」

「おはよう、ピーちゃん」

ウチは、テーブルの上を見渡した。焼き魚に漬物、白いご飯に味噌汁。

 もろ、和食の朝ご飯やな。

 ウチのところへお姉が泊まってから一週間。お姉は、毎日ご飯を作ってくれている。最初は、断ったんやが。強情な性格から、聞かんので、コッチが折れた。

「いつも、おおきに」

「なんや、改まって。実家におる時は、ウチが、いつもやっとたがな」

「今は一人暮らしやから、誰かに作ってもらうことがないんや。調子くるうねん」

「そんなもんか?」

ウチは、席につくと、料理に手を付ける。

 やっぱ、うまいわー。

「それで、そろそろ聞かせてくれんの?」

「ん?」

ウチは、ここ数日引っかかることを追求した。

「ウチにホンマは、なんのようできたんや?」

「・・・・ホンマ、ピーちゃんにはかなわんなー」

お姉の表情が険しくなる。

「実は、ホンマの用は、アンタに力を引き継いでもらいにきたんや」

「力? まさか、風の―――」

「そや」

ウチは、一瞬、驚いたけど。すぐに納得した。

「ウチは、いつ死ぬか分からん。その前に、アンタにこれだけは、渡しとかんとイケン思うって、な」

「お姉」

だけど、お姉は微笑んだ。

「そないな顔せな。ウチが今も、ここにおんのは、奇跡に近いんやから。多分、未練がそうさせとんのやろ」

「なら―――」

「アカン、そないなズル、許されへん」

お姉は、ゆっくりと首を横に振る。そして、ゆっくりと席を立った。

「ほな、始めよか」

「・・・・わかった」

ウチも席を立つ。いつか、この日が来ることは決まっとた。だから、ウチには迷いはなかった・・・。

 

                        ○

 

 時間は戻る

 

 休み時間、兵士科を訪れたわたしは、見知った顔を探した。

 

「・・・・見当たらないなー」

「なにしてんだァ?」

「!」

突如、後ろから声を掛けられ、わたしは、すぐに振り返った。だが、そこに立っていたのは、見知った女子生徒だ。

「なんだ、リニアか。驚かせないでよ」

わたしは、ほっ、胸を撫で下ろすと、訴えるようにリニアを睨みつけた。

「スキだらけだからだァ。もしかし、サブ、探してんのかァ?」

「うん」

「あの野郎なら、昨日からイネェよ。魔連の出張で別世界だァ」

「・・・・そうなんだ」

サブくんなら、何か知っていると思ったんだけどなー。

「ンなことより、テメェ、大丈夫かァ?」

「えっ」

「顔色ワリーぞ」

その原因はわかっていた。兵士科は、魔法科と違って男性比率が高い。《男性恐怖症》である、今のわたしには、キツイのは当たり前。

「はぁ~、コッチ、来いィ」

すると、リニアはわたしの腕を掴むと歩き出した。わたしは、引かれるまま着いていく。そして、着いた場所は、兵士科の更衣室だった。

 わたしは、そこのベンチに座らされると、リニアは、ちょっと待ってろォ、と言い残して出て行いってしまった。

 つい、当たりを見渡してみた。

 ここに入るのは、初めてだけど。作りは、同じなんだ。

「でも、こんなところに連れ込んで、どうした・・・・まさか?」

人のいない場所、あまり出入りがないところ。

 そういえば、リニアって、この間も男子生徒の告白も断ってたし。

「もしかして、リニアは、れ―――」

「ンな訳あるか。ホレ、水」

「あ、ありがとう」

わたしは、差し出されたペットボトルを受け取る。蓋を開け、口をつける。そしたら、少し気分が楽になった。

「ふぅ」

「まだ、頭沸いてるならァ、直してやるけど。どうするよォ?」

「け、結構です。楽になりました」

リニアが、凶器の笑みを浮かべたので、わたしは、全力で拒否した。

「・・・・たく、きちィならオレに頼れ。話ぐらい、オレが訊いてきてやるよォ」

その言葉に、わたしは、リニアに微笑み掛ける。すると、リニアは視線を外した。

 こういう仕草が、可愛いだよね。

「そう言えば、ポピーはいねェのかァ?」

「うん、今日は、午前中休み。午後の授業から来るって。朝連絡があったよ」

「へー」

そのとき、スカートのポケットが震えた。わたしは、携帯電話を取り出すと、確認する。

 あっ、噂をすれば。

「はい、リリです」

「リリちゃん! 助けて!」

「!」

「・・・・どうしたァ?」

この電話が、事件の始まりだった・・・・。

 

                      ○

 

 目を開けると、薄暗い天井が目に入った。

 

 匂いからミュウの部屋だな。

 俺は、視線を横に向ける。

「っ!?」

その瞬間、身体中に痛みが走る。

 そう言えば、刺されたんだっけ?

「あっ、目が覚めたようね」

俺が目を開けたことに気づいたのか、ミュウが近づいてきた。

「どう? 体の調子?」

「・・・・痛み以外は」

「そう、ならよかったわ」

そして、ミュウは、持っていた洗面器を・・・・。

「がっ!?」

顔面に落としてきやがった。

「っ~」

「痛いのは、生きてる証拠。たく、心配させて。見つけたときは、死んでるかと思ったわ」

「・・・・大げさな」

俺は、体を起こす。そして、自分がミイラになっているのに気づいた。

「《失血死》しかけたのに、よくそんなこと言えるわね」

「割とながしたからな。よく血があったな」

「・・・・私が取ってきた」

その瞬間、正面にフェンランがいるのに気づいた。

 ソイツに俺は笑いかける。

「なんで、トドメささなかった? チャンスだったろ」

「そんな勝ち方しても、意味がない」

「なら、生き残った俺の勝ちだな」

「・・・・ボロ雑巾のくせに」

「言えてる」

その言葉に、声を出して笑いそうだった。しかし、ミュウに睨みつけられたので止める。

「でも、びっくりしたわよ。部屋に入ったとき、この子、血が足りない貴方に、自分の血を飲まそうとしてたのには」

「・・・・」

しっかり、止めを刺されそうになっていたようだ。

「足りないから補うのは、当たり前でしょ」

もしかして、天然か?

 俺は、ジト目で、フェンランを・・・・面倒だからランでいいや。ランを睨みつけた。

「心配しなくていいわよ。ちゃんと輸血パックを使ったから」

ミュウは、すぐに補足した。

「しかし、よくそんなもの手に入ったな」

「・・・・盗んできた」

また敵増やしやがったな。

 俺は、苦笑いを浮かべる。

「まあ、ありがと、な」

「・・・・決着をつける前に逝かれたら困るだけよ」

「へー、意外に可愛いところあるんだ」

うるさい、とフェンランは、ミュウを睨みつける。だが、それには凄みが感じられない。

 そのとき、ドアがノックされた。

『姉御、 デルタさんがお呼びです。作戦室までお願いします』

「分かったわ。すぐに行く」

ミュウは、ドア越しにやり取りすると、俺に目配せしてきた。

 俺は、頷くと立ち上がり、移動した。

 

                        ○

 

「ずいぶん、派手にヤられたみたいだな」

「お前の娘、じゃじゃ馬すぎて、大変だったぜ」

俺の姿を見たデルタは、楽しそうに笑った。

「っで、うまくできたか?」

「想像に任せる」

そうかそうか、とデルタは、なぜか一層楽しそうに笑出す。

「それで、仕事の内容は?」

俺は、本題に入るように睨む。

 すると、横にいたゼータが、紙を投げてきた。受け取るとそれは、男が写真だった。

「コイツは?」

「・・・・また、大物ね」

横から写真を覗いてきたミュウが、誰かすぐに特定したらしい。

「知ってんのか?」

「元”政府軍特殊武装隊”第二小隊隊長で、今”査察官”ね」

「それで、コイツをどうすればいいんだ?」

「殺せ」

デルタは、簡潔に内容を告げた。どうやら、本気らしい。

「おい、俺も一応政府関係者だぞ。上司を“殺せ”って」

俺は、呆れた表情を浮かべる。

 だが、デルタは、それを鼻で笑った。

「義理はねぇだろ?」

「”首輪”はついてんだよ」

事情は、複雑だが、簡単に言えば俺は、政府に人質を取られている。それが”首輪”だ。

「大体、お前が動けばいいだろ? コレぐらい簡単―――」

「政府との条約を忘れたか? 表立っては俺は、動けねぇ。しかし、安心しろ。今回のクライアントは、お前の飼い主だ」

「・・・・マジかよ」

俺は、その言葉に、耳を疑った。アイツが、裏でそんな動きをしてたなんて。

「言うなら、ソイツは、お前らの裏切り者だ。身内の不始末は、身内でつけたいんだろ」

「・・・OK、分かった」

「いい返事だ。それと、研究所も破壊しろ、情報を外部に漏れたらヤバイそうだ」

デルタは、初めから断らないことを知っていたように、笑みを浮かべた。

「分かった。ただし、作戦メンバーは、俺が決める。いいな?」

「いいだろう」

「なら、二人もらう。ミュウとラン」

「それだけか? 建物の破壊もあるんだぞ?」

ゼータは、意外そうな表情を浮かべる。

「それなら、俺の魔法ですぐだ。それに、人数が多いと逆に邪魔になる」

「ほーう、なら、なぜフェンランだ? ゼータの方が動かしやすいぞ」

もっともな意見だ。多分、このおっさん、どこぞの軍人だったのだろう。立ち振る舞いで分かる。

その答えに俺は、後ろに立っているランを差した。

「コイツは、もう俺の駒だ。俺が好きに使わせてもらう」

「なるほど、な」

その発言に、デルタは一層嬉しそうに笑う。

「誰が、お前のモノだって」

だが、さっきまで黙っていたランが、納得行ってないようだ。

「賭けで俺が勝ったろ? だから、お前は、俺のモノだ」

「ふざ―――」

次の瞬間、ランがホルスターからナイフを抜いた。だが、俺は、一気にランとの距離を詰め、壁に体を押し付けた。そして、首へと刃を向ける。

「これで2勝1分け。俺の勝ち越しだな」

ランの目には、驚きがあった。

 まあ、さっきボコボコにした奴が懐に入ってきたんだから驚くだろう。

「そういうことで、もらって行くぜ」

「ああ、報酬もそれか?」

「それでいい」

交渉成立、と俺はドアノブに手をかけた。

 あ、一つ聞き忘れた。

「そう言えば、ターゲットの名前は?」

その問いをデルタは、両肘をデスクに置いて答えた。

「ルー・ファンファンだ」


 
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