No.419498

あなたのおと

offeredさん

こういうのかと思ってた
閲覧一応注意

2012-05-06 23:06:43 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:310   閲覧ユーザー数:309

アルトくん、初めて逢ったときから……あなたは空を見ていたね。

私は、眩しくて手を伸ばしたの……でも、風に吹かれるあなたの羽は私の手からすり抜けて……。

私は、待って欲しくて歌を歌ったの。 でも、私の声は届かなくて……。

 

「ランカ、どうした? おい、しっかりしろ!」

「……ん? どうしたのアルトくん。 変な顔してるよ」

「しっかりしろよ、調子が悪いのか? この星に来てからおかしいぞ」

「私は変じゃないよ? アルトくんこそ変なの。 ふふふふ」

「あら、調子が悪そうね」

「……シェリルさん、大丈夫。 私は、大丈夫」

 

ヴァジュラクイーンが居なくなって、私の体に少し変化があったの。

アルトくんを見ていると、お腹の辺りが熱くなって、アルトくんの事しか見えなくなる。

シェリルさんを見ていると、なんだか……。

胸の奥が掻き回されている様な、血の巡りがずっと良くなって、意地悪な気持ちになる。

そんな事を思ってはいけない、シャワーでも浴びてスッキリしよう。

 

―――――――――――――――

 

シャワールームでずっと冷たい水を浴びているのに、体の火照りが止まらない。

アルトくんは、私の事をどう思っているんだろう。

 

『あなたの恋を 実らせなさい』

 

ハッキリと聞こえた。  誰? どこから話しかけているの?

 

「誰なの?」

 

『あなたの声を 届けるの  恋しい 恋しい 気持ちを』

 

「アルトくんだって……好きな人は自分で決めたいと思うの」

 

『あなたは 自分で 選んだでしょう』

 

耳を塞いでも聞こえてくる。 これは誰の声? ヴァジュラクイーン? 

ううん……これは、私の中から聞こえてくる。

 

「アルトくん 私は あなたが 欲しいの」

 

―――――――――――――――

 

私はあの子の協力を得て、SMSの宿舎に忍び込んだ。

プシュ、と音を立てて閉まる扉に、しっかりと物理キーをかける。

 

「……こんな夜中に誰だ?」

「アルトくん、私だよ」

「……ランカか? こんな遅くに……どうやって入ったんだ」

 

アルト君は掛布の中から拳銃を出すと、安全装置をかけてベッド側の引き出しにしまった。

 

「悪い、てっきりどこかの反政府組織の類かと思った」

「あはは、酷いよアルトくん」

「悪かったよ。 ところで、こんな時間にどうしたんだ?」

「うん……アルトくんと話がしたくて、来たの」

「なんだ、悩み事か? ほらよ、この椅子を使……? 眠気が酷いな、すまないが相談に……乗れ…」

「アルトくん、私と来て欲しいの」

「くっ……おかしい、早くこの部屋から出……」

「ごめんね、アルトくん。 この部屋の酸素濃度を下げちゃったの」

「ラン…おま…」

 

私は気を失ったアルトくんを連れ出した。

 

―――――――――――――――

 

「アルトくん…… アルトくん……」

「……んあっ! はぁ、はぁ。 ランカ、俺は一体……」

「気持ちよく眠れた? 寝顔も可愛いんだね、アルトくん」

「ここはどこだ? それにしても温かいな」

「アルトくん、二人きりだよ……」

「ランカ、変だぞ」

 

アルトくんは腕を動かそうとしたけど、もう肉と、部屋と一体化してるから動かせないんだよ。

アルトくんはぽかんとしたまま残った自分の腕と上半身を見つめ、キッと私を睨んだ。

 

「クッ、ランカ! シェリルは!船団の皆はどうしたんだ! 答えろ!」

「皆一緒だよ。 でも、シェリルさんだけは……」

「なんて事を! まさかっ! お前は新しい女王とでも言うのか! クソッ、なぜこんな!」

 

アルトくんの胸筋の境目に手を滑らせて、みぞおち辺りで手を止める。

ゆっくりと皮膚を開き、胸に押し入れ肋骨の下から心臓を優しく手で包む。

とくん、とくん、という鼓動が、次第にどくどく、と早鐘を打ち始めた。

 

「ああああああああ やめろおおおおおお!!」

「痛くないでしょ、アルトくん。 大丈夫だよ」

「ああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」

「アルトくん、私ね、 アナタノオト、声も大好きなの。 あなたを感じてから、ずっと好きだったの」

「ランカァ! ランカァァ!!」

「アルトくん、 アルトくんと、新しい世界を作るのよ。 私とあなたの子供達が、銀河に飛び立っていくのよ。 素敵だよね」

「わあぁ……はっ、はっ……」

 

アルトくんは少し興奮しすぎたみたいだから、優しくなる血液で満たした。

 

「ごめんね、アルトくん、びっくりしたよね」

「ラン……カ……」

「私、アルトくんを絶対に孤独にしないから、ずっと一緒にいよう」

 

私は、アルトくんを抱きしめて、ゆっくりと目を閉じた。

 

おわり


 
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