No.404847

桜恋

桜並木の下の風景。

2012-04-08 12:59:42 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:404   閲覧ユーザー数:404

桜並木を歩いていたら

あの人が友達とこっちに歩いてくるのに気がついた

声をかけられるはずもなく

私に気づく事もないだろう

だって

こんな気持は私の一方的なものだし彼とは話した事すらないんだから

桜並木の歩道の左は公園で

道の先には大きなスーパーがあるから彼らはそこの帰りだろう

同じ町に住んでいるのだからよくわかる

私もそこにいくつもりだった

彼は友達と桜を見上げていて

何かを話している

見上げた首筋が少し白い

背の高い彼はちょっと伸びをして桜の枝に触れようとしたが

とどかなかった

彼らは桜を見上げながら

私とすれ違った

目でもあったら微笑み変えそうかと構えていたが目はあわなかった

私は桜を見るふりをしながら立ち止まり

彼らが遠ざかっている姿を目に入れる

風が吹き桜の花びらが彼の上に舞い降りた

かれはちょっと飛び上がるようにしてそれを掴む仕草をした

すこしかわいい

すれ違った時もっと可愛い格好をしていたら目に留めてくれたかな

その時風が吹いて

花吹雪が二人を包んだら何か話が出来たかな

そう思うと

悲しい気持になった

彼らは遠ざかる

安吾の小説で

女を背負った盗賊の男は桜の下を恐怖に駆られながら

疾走する

美しき魔に絡めとられないように

美しき狂気を背負って美しき死に怯えながら

ああそんな事より

彼の背でここを歩けたら

その甘美な思いの中

死んでしまったって良いのに

そう考えて姿さえ見てもらえない自分を

その自分を

桜の花に埋めてしまいたくなった

空を見上げれば

青い空と爛漫と咲き誇る桜の花たち

短いその華やかな姿を

羨ましく悲しく散る花びらに心を寄せながら

ちいさく一歩

私は歩き出した

 

 


 
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