No.400079

その人は何処へいった? 5.迷子と常識人

それでは新章『スプリングフィールド英雄譚』、始まり始まり。


※本作は小説投稿サイト『ハーメルン』様でも投稿しています。

2012-03-30 14:03:18 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:2986   閲覧ユーザー数:2844

「ご利用ありがとうございましたー。」

 

 

今私はバイト中です。

何のために?それは生活費を稼ぐためだよ。

一応、他の世界でもらった貴金属とかを換金すればいいんだろうけど、これを生活費で使うのは何かもったいない。

なら働こうと言うことでバイトです。

 

今の私は司書見習いではなく、麻帆良商店街『まほら書店』店員迷子あちらなのです!ヤッタネ!」

 

「おい、あんた。周りの客が引いてるぞ。」

 

 

そこに話しかけてきたのは、今時珍しい大きな丸眼鏡をした中等部の征服を着た女の子だった。

 

 

「おや、これは千雨さん。こんにちは。学校の帰りですか?」

 

「そうだよ。今日は始業式だったから早かったんだ。」

 

 

彼女の名前は長谷川千雨さん。麻帆良学園中等部の学生さんだ。

まあ出会った切っ掛けは、簡単に説明すると彼女が思い詰めていたので相談に乗りそれを解決した。

それからも友好関係は続き、今に至ると。

するといきなり彼女が爆発した。

 

 

「オイ、あちら!信じられるか!?十歳の子供が来たんだぞ!?

しかも先生として赴任してきやがった!!!

高畑のヤローも自習がやたら多かったが、これはねぇだろ!!!

いくらエスカレーターで上に行けるっても来年、受験だぜ!!!どうすんだよ!!!」

 

 

あちらの襟元につかみ掛り、首よ折れろといわんばかりに振ってくる。

あっ、ちょっと気持ち悪くなってきた。

 

さっきまで奇声を上げていた店員と、その店員につかみ掛り喚く女子中学生。

どう見ても修羅場です。本当にありがとうございました。

本当はそんな色気は欠片も無いが。

 

とりあえず落ち着かせよう。

 

普段はなるべく目立たず、普通を心がけている彼女がここまで取り乱すとはよっぽど溜め込んでたらしい。

店長に視線を送ると、今日はもう上がっていいよと視線が帰ってきた。

アイコンタクトで伝わる意思。ここは理想的な職場です。

 

昨日の夜、不眠不休で棚卸しさせてくれた恩は、今店長が読んでいる小説のラストシーンを糊付けすることで許してやろう。

読めずに悶々とすればいいのさあははは。

 

 

「オックスフォード!?えって顔してんじゃ無ぇ!!」

 

「はいはい、千雨さん。こっちに行きましょうね。」

 

 

18時間労働なあちらは若干テンションを上げつつ、未だに壊れている千雨を引きずって奥に引っ込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

「すまん、見苦しいとこ見せちまった。」

 

「かまいません。前はもっとひどかったですし。」

 

「うッ!?」

 

 

そういって彼女の前にコーヒーを置いた。

ここはまほら書店の二階にある、あちらが間借りしている部屋だ。

ここであちらは住み込みで働いている。

 

彼女は出されたコーヒーを一口啜り、溜め息を吐いた。

 

 

「やっぱ、不思議関係には慣れないな。」

 

「・・・不安ですか?」

 

 

一度、彼女の人生はその所為でボロボロだった。

 

 

「いや、不満はあるが不安はないな。」

 

「だって、なんかあったら助けてくれんだろ?」

 

 

彼女は心底信頼しているといった感じで私に笑いかけてきました。

あまりに、綺麗で、無垢で。

 

 

「・・・まぁやぶさかではありません。」

 

「くっくく。」

 

 

たぶん顔が赤くなっているのが丸分かりだったのだろう。

彼女はまるでわかってるよと言いたげに満足そうに笑っていました。

この子は本当に中学生なんでしょうか?

 

自分で入れたコーヒーを啜り、一息入れた後、彼女に訊ねた。

 

 

「で?なにがあったんです?」

 

「そう!それだよ!!」

 

 

彼女は溜まった物を吐き出すように話し始めました。

学校で本音を言える友達はいないのかな、いやいないんだろな。

あちらに出会う前の事は彼女に深い傷として残っている。簡単には癒えないだろう。

自分もいつまでもここに入れる訳ではない。

来年の夏には自分がここに来て丸一年になる。そろそろ次の世界に移動しなくてはならない。

 

 

ままならないもんだな。

 

 

心の中で溜め息をついた。

本当はここまで深入りするつもりは無かった。

ただ、自分には悩みを解決できる方法があったのでしただけだ。

それすらも初めはするつもりが無かった。

 

 

ただ、傷だらけになっても背筋を伸ばして歩く姿がかっこいいと感じたから。

 

 

自分もあの様になれたらと。

 

 

彼女を手助けすることで自分がそれに近づいたような気がするから。

 

 

 

気がつけばどっぷり嵌まって、しかもそれが居心地が良い。

どうしたものかと、あちらは思った。

 

 

「おい!あちら!聞いているのか!」

 

 

その言葉で思案の海から自身を引き上げる。

 

 

 

「ええ、つまり新しく赴任した担任と副担任を血祭りにあげたいと・・・」

 

 

「違ぇーよ!?」

 

 

 


 
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