No.398039

オブリビオンノベル 7.第六話~王者のアミュレット~

紫月紫織さん

ちょっと更新時間が遅くなりました。いよいよメインストーリー突入です。

2012-03-25 23:30:39 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:484   閲覧ユーザー数:484

 ネズミの死体からアミュレットを取り出した私たちは一旦”Terran”へと戻った。

 襲撃があったと聞いたが、見た限りでは何処にもその痕跡はなかった。

 ルシウスに会いに行くと彼は未だに探索の成果が上がっていないことを告げてきた。

 見つけてきたアミュレットを見せると彼は、小さくため息を吐いた。

 これも一つの運命だというのであれば、自分たちの無力を見せつけられたことになる。そんなやり場のない感情が漏れたのだろう。

 とりあえず、近場の椅子に腰を下ろす。少し間を置いてから、私は本題を切り出した。

「それで、襲撃はどの程度のものだったんじゃ?」

「言うまでもないが、大したことはなかった。だが、牽制するだけのつもりが全滅したとなっては、こちらを警戒してくる可能性は十分にあるだろうな。こちらとしても、何もしないわけでもない」

「それは今後、援助ができなくなると受け取ってよいのかの?」

 “Terran”の存在は秘匿されるべきであり、外部に漏れれば自分たちの存続の問題に直結する。

 その情報が漏れた今となっては”Terran”にとって優先すべきはそちら側だ。少なくとも、皇帝の事よりも各氏族の長老達は重要視しているはずだった。

 私たちはこの地では、忌むべき吸血鬼とされる種族なのだから。

「すまない……我々の活動に最低限必要なものは今まで通り行う。だが、それ以外の支援については、手が回りきらなくなるということは十分にありえるだろう。今回の、我々の存在が漏れたという出来事は、この世界に住み始めて初めて経験する事だからな」

「ふん、それだけ敵はやる、ということじゃろう。かまわん、必要最低限にうち切れ。そのほうが油断せずに済んでよい」

 援助があると思って足りないよりは、無いと思って受けるほうが悪い事態に転がることは少ない。旅の上で学んだ心得でもある。

 文句を言える事柄でもない以上、ぐだぐだと言うだけ無駄な事だからと、さっさと撃ち切ることにした。

 私の言葉にルシウスは済まなそうな顔を浮かべつつ、小さく礼を言った。

「それはともかくとして、アミュレットが見つかった以上、次の行動に移るべきだろう。議会のほうに連絡を取るか」

「いや、取るな。議会にはまだ見つかっていないと伝えるんじゃ」

 私の言葉に一瞬ルシウスの行動が止まる。何を危惧しての発言なのかすぐに検討がついたのだろう。

 となりに腰を下ろしているアーベントは特にこれといった反応はなかったが、面倒くさそうにこちらに視線を向けていた。

「流石に、議会に裏切り者が居るとは考えたくないが、警戒するべきだな……」

「当然じゃ。わしらの情報が漏れとる以上、何処かに居ることは間違いない。……ルシウス、ブレイズの長に、ジョフリなる人物はおるか?」

 皇帝の亡霊からのメッセージでは、ジョフリなる人物にアミュレットを届けてくれと言われている。その人物は果たして、未だ存命なのだろうか。

 どのような人物なのだろうか。

「ジョフリ……聞き覚えは、たしか……」

 

 ジョフリなる人物が何処に居るのか調べてもらう間に、荷物の整理を行うことにした。

 私にとって不要品だがそこそこに価値のあるものを引き取ってもらい、引換に旅の必需品や、調合材料といったものを見繕ってもらう。

 調合道具についても良いものを探してみてもらったものの、今持っているものよりも良いものは無いようだった。

 アーベントはお役御免になることを期待したようだが、ルシウスから私にできうる限り協力するよう仰せつかってしまったらしい。

 面倒事は嫌いのようだったが、牙を剥いてきた相手に対しては容赦しない性格らしく、”Terran”に敵対行動をとってきた相手を探しだして殲滅するつもりだという。

 目的が近く、同行することがあれば協力する、という形での共闘関係ということでお互いに納得した。

 手練であるし、ずっと同行してくれるならこの上なく心強いが、そういう性格でもないことは検討がついていたので口には出さずにおいた。

 ジョフリという人物が、ウェイノン修道院というところに居るとわかったのはそれから半刻ほど後の話で、コロル手前にある修道院と言われて、すぐに思い当たるものを思い出した。

 

 *   *   *

 

「しかしお前、その軽装でよく剣士なんてやってられるな。胸当てぐらいあったほうがいいんじゃねぇか?」

「お主とて似たようなものじゃろう。手甲やナックルを付けていない点も見ればわし以上じゃないのかぇ?」

「そうかね、自覚はないんだが」

「自覚しろたわけ」

 なんとなく、旅の途中でそうした武具を見つけたのなら手に入れておくのも良いかなと思った。アーベントが喜ぶかどうかはわからないが。

 一人旅で無くなると急に騒がしくなる。

 誰かと一緒の旅路というのは久しぶりのもので、自然と気分が高揚した。

 気づいてしまえば旅の道程はあっという間で、いつの間にか目指すウェイノン修道院を視界に捉えられた。

 修道院は周辺に多くの草花、キノコ類が生息していた。もしかしたら飼育しているのかも知れない。少なくとも手入れはされているようだった。

 離れには背の高い建物があり、礼拝堂のように見える。

 正面には生活空間と思われる二階建ての建物があった。おそらく裏手には菜園もあるだろう。

 建物の向こう側から馬の嘶き声が聞こえて、厩があることもわかった。

 ありふれた作りの修道院。

 井戸もきちんと備え付けられており、水の匂いがかすかに漂ってくる。大分苔むしているところからすると、それなりに年季の入った代物なのだろう。

 それなりに歴史のある修道院なのではないかと思うが、外観はしっかり手入れされていて、古ぼけているという印象はなかった。

 窓には明かりが灯っていて、まだ中で起きている人がいるということがわかる。

 どうやら、訪問するに遅い時間ではあっても、寝ている修道士をたたき起こして不評を買う心配は無いらしい。

「それじゃ、俺はこれからブルーマの方に向かうから……」

「まぁ待て。せっかくだから顔見せぐらい一緒に済ませておいたほうがのちのち面倒がないじゃろ」

 半分は本音だった。

 おそらく、今後何度か……長期的になる可能性も考えれば長く関わるかも知れない相手となるだろう。

 顔見せしておくに越したことはない。

「いや、面倒事から逃げられ無くなりそうだから」

「逃すと思うたか?」

「てめぇ……」

 アーベントの腕を掴み、生活空間の方であろう建物へと入る。蝶番がわずかに軋み、独特の音と共に来客が来たことを建物の中へと伝えた。

 入るとすぐ目の前に階段があり、左手に小さなテーブルと椅子が備え付けられていた。来客の対応はそこで行われるのだろう。

 今は一人の男性が読書の最中だった。独特な髪型をした男性が私達に気づいて腰を上げ、こちらへと歩み寄ってきた。

「こんな夜更けに来客とは、珍しいですね。修道院長のマボレルと申します、あなた達は?」

 夜遅くの来客であるにもかかわらず、疑う事をしない穏やかな声だった。

 疲れた旅人か一夜の宿を借りに来たとしたら、その旅人は安堵を覚えるであろう、そんな雰囲気を纏っている、敬虔な神の従者。

 しかし、私はなんと答えるべきかしばし逡巡した。此処に居る以上関係者だろうと思うが、普通の修道院にブレイズがひっそり同席している、あるいは潜伏しているという可能性も無いわけではあるまい。

 だとすると迂闊に事情を話すのは、彼の身を危険に晒す行為かも知れなかった。

「私は……ソマリ・フロリスヘイム。彼はアーベント・シュヴァルツヴァルド。ジョフリ修道士を訪ねて来たのですけれど……」

「ジョフリを? どのような御用かお聞きしても?」

 聞かれて、答えに窮する。

 話して、彼を巻き込んでいいものか?

 見た感じ、彼にはそこまでの実力──自衛能力というか、戦闘能力があるようには思えない。あくまで唯の、敬虔な修道院長にしか見えなかった。

 瞳術を使って暗示をかけてやり過ごすという手もあるが、強く神の加護を受けている修道士には瞳術は何故だか通じづらい。失敗すれば厄介なことになる。

 火急かつ内密な要件だと言ったとしても、私たちの姿では説得力にも欠けるだろう。

 アーベントだけならばまだしも、私は見た目だけならば少女の姿でしか無い。そんな人物が内密の要件だと言って、果たして納得できるものだろうか。

 だが──。

「内密な要件です」

 マボレルはしばし私と、アーベントを見て考えを巡らせたらしい。

「彼に同じような理由で会いに来る人が、月に数人います。彼らがどのような要件でジョフリを訪ねてくるのか私は知り得ませんが……力になれない事を悔しく思います」

 確信した。この修道院長は、ブレイズとは関係のない、あくまで唯の修道士だ。であるならばなおさら話すわけには行かない。

 私は小さく首を横に振り、反応を待った。最悪、瞳術を行使することも厭わないつもりだった。

 少しして彼は小さく嘆息した。

「どうやら、貴女の力になれるのはジョフリ修道士だけのようだ。彼はこの時間ならば書斎に居るでしょう、階段を右に登ってください……神のご加護を」

 それだけを伝えて、席に再び腰を下ろし読書に戻った。

 彼の漏らした嘆息が、自らが力になれない事への、己の無力さを実感した故の事なのだと気づく。

 彼は、良い修道院長なのだろう。

 小さく礼を言って二階へと進む。

 彼はある程度ジョフリの事情や立場といったものを、明確な形ではないにせよ気づいているのかも知れない。

 これで巻き込まずに済めばいいのだが。

「ヒヤヒヤしたぜ」

「わしもじゃ……」

 二階へと上がる階段は木製だったがさして軋む音もしない。きちんと手入れされているのだろう。修道院と言うと大抵質素というのを通り越して粗末な、というのも失礼かもしれないが、古くなって細かいところまで手も回っていないことが多い。

 だが、この修道院はそうしたことは無いようだった。すきま風も感じないところからするに、かなり堅牢に作られているのだろう。

 街の傍にあるとはいえ、たかが修道院とは思えない。それなりの資金援助を何処かから受けている証拠だろう。

 そんなことを確認しつつ階段を登り切る。

 書斎といっても扉で仕切られているということはなく、二階に上がってすぐだった。

 やや開けた空間に書架があり、多くも少なくもない量の蔵書が収められている。

 部屋の奥には机があり、一人の、頭の禿げた老爺が読書に興じていた。わずかに残っている髪はすっかり白くなっていたし、深い皺の刻まれた顔はかなりの年齢に思える。だが血色は良いし、纏う雰囲気は修道士のそれとは別物だった。全盛期は更にたくましい姿だったことだろう。ブレイズの長というのも頷ける。

「失礼、そなたがジョフリかの?」

 声をかけても、今気づいたというような反応はなく、彼は無言で本を閉じた。

 気配を察知して、自分に用があるということはわかっていたような動作。

 ただ齢を重ねただけでは身につかない老練さが見て取れる。

「いかにも、私が修道士のジョフリだが……何か御用かね」

「そなたに届けものを頼まれての……これを受け取ってもらいたい」

 そう言って包みを渡す。その包みを開いたジョフリは言葉を失ったかのように硬直し、少しして慌てて包みを閉じた。

「……まさか、何故これを持っている。君は一体……」

「突飛な話じゃが、聞く気はあるかえ?」

「聞こう」

 彼の決断は早かった。見せられたものがそれだけの衝撃をもたらすものだったということだろう。王者のアミュレットは、それだけの意味を持っている。

 そして、彼はそれを知っている。

 一刻の猶予もない事もわかっているのだろう。彼は私の語る今までの事の顛末に静かに耳を傾けていた。

 アーベントも同じように話を聞いていたが、こちらは半信半疑のようだった。

 話し終わったあと、ジョフリは目頭を抑えて渋い表情をしている。

「在り得なくはあるまい……ユリエル・セプティム陛下は数奇な運命を辿られる方だ。血が、そうさせるのかもしれんな。であれば君がその運命に巻き込まれていてもおかしくはあるまい。君を、君たちを信じよう……君たちは何者だ?」

「わしはソマリ・フロリスヘイム。こやつはアーベント・シュヴァルツヴァルド。わしらは”Terran”に所属しとる。これだけで通じるかの?」

 “Terran”という言葉を聞いてジョフリは驚いた顔を見せ、そして逆にそれを納得したようだった。

「なんと……陛下もつくづく数奇な運命を。君の話し方も納得がいったよ、見た目通りの年齢ではないというわけか」

「歳のことは言うでない。だが、全くじゃの……彼は、わしに”オブリビオンの顎を閉じてくれ”というとったが、思い当たることはあるかの?」

 私の出した言葉に、ジョフリはしばし沈黙する。熟考しているのだろうが、果たして彼の積み上げた知識の中に引っかかるものはあるのだろうか。

 程なくして、彼は小さく頭を横にふる。

「オブリビオンの顎、か……明確に何かという形があるものではないと思う。少なくとも、文献でそうしたものを読んだことはない、調べてみなければなんとも言えんが……。これは推測だが、陛下はオブリビオンからの脅威を、そのような形で表現したのではないだろうか」

「ふむ、ならいいんじゃがの」

 嫌な予感は消えない。むしろ、より膨らむばかりだった。

 文献に存在しないことが、そのまま物質的な何かでない事を証明することにはなるまい。

 むしろ、すでに失われた記録、あるいは未知の何か、そうしたものであった場合が一番厄介だった。

「なぁ……俺はとりあえず、顔見せも済んだしそろそろ行くが?」

「ん、ああ……そうじゃな」

「彼は……協力者というわけでは無いのか?」

 ジョフリがわずかに眉をひそめる。無関係の者の前で不用意に話をしてしまったかという懸念もあるのだろう。

「協力者、と言うよりは共闘者かの。わしら”Terran”も襲われた、アーベントはその関係で”Terran”側として動いておる。目的は違うが敵は同じで、共闘する形と思ってもらえればよい、基本は別行動じゃがな」

「なるほど……敵の敵は味方ということか」

「ま、そういうことだな。それじゃ、俺はこのままブルーマのほうに足を伸ばすぜ。なんかの折にはよろしくな、ジョフリ爺さん」

 そう言ってアーベントはさっさと退散してしまった。この後ほぼ確実に、お互い別の目的のために別行動になるだろうとは思っていたが、こうもあっさりしてしまうと少々拍子抜けする。

 断じて寂しいとかそういうことではない。念のため。

 ジョフリの方へと視線を戻すと、彼は目を鋭く細めてアーベントの去った方を見つめていた。疑っているのか、それとも別に何か考えていることがあるのかはその表情からは読み取れなかった。

「話を戻そうかの。そのアミュレットだけで、状況は好転するのかの? 竜の火が消えると、何が起こるんじゃ? 正直、いまいちあやふやなんじゃよ」

「陛下はそれを口にしたことはなかったから、推測でしか無いが……定説によれば、人間界は魔法の結界によってオブリビオンのディードラから守られていると言われている。そして戴冠の儀の真の目的は皇帝にしか伝えられぬのだ……つまり」

「竜の火こそが、人界を守る魔法の結界を維持する役目を果たしている、と考えるのが妥当かの。その竜の火とやらは誰でも灯せるものなのかぇ?」

 もっとも重要と思える事柄、それは今後状況を立て直せるのかということで、そのために必要となるものの確認として、私は問う。

「無理だ、とされている……皇帝の、王家の血筋故に起こせる奇跡だと伝えられている」

「なんじゃ、詰みではないか。皇帝も死んで、世継ぎももちろん殺されとるのじゃろ? もう竜の火は失われるのみではないか」

 もちろん、本音ではそうは思っていない。

 皇帝に隠し子が居る、なんて話は何時の時代にも聞くものだ。そして何より、推定だが皇帝本人がアミュレットの行方を気にしていた。

 それはつまり、アミュレットにまだ利用価値があるからにほかなるまい。

 王家の血筋、アミュレット、いずれかが失われれば意味をなくすというのなら──。

「王家の血は、まだ失われてはいないはずだ。この事は私を含めて数人しか知らぬ秘密とされてきたが」

「やはりか……流石王族じゃな」

「今からかなり昔のことだが、陛下から一人の赤子を預かった。安全な場所に連れていくように命じられてな。陛下も、思うところがあったのだろう。直接お会いになることはなかったが、常に気にかけておられた。おそらく彼が、王家の血を引く最後の一人だろう……今も存命ならば、だが」

「ちょっと待て。今も存命なら、じゃと?」

 突然交じる不穏な言葉に、嫌な予感が膨れ上がる。それは現在連絡がついていないという意味なのか、だとすれば──しなくてもだが、事態は急を要する事になる。

「安全な場所に、ということで、だいぶ離れた街に連れていったからな……頻繁に連絡をとっているわけではないのだ。お互いの立場もある」

「そういう意味か……何処に行けばそやつに会える?」

「……会いに行くのか?」

「たわけ、命を狙われるじゃろうが。虫唾の走る話じゃが、わしが動くことも想定済みじゃろうよ。運命というやつはな」

 自然、吐き捨てるような口調になった。運命なんてものがあるというのなら、切り捨ててやりたい。

「……頼んでも、よいのか?」

「ふん、乗りかかった船じゃ。沈没寸前じゃが、やれることはやってみよう。案外程良い島に打ち上げられるかもしれんぞ?」

 私の皮肉にジョフリはわずかにまゆを潜めた。だが、どうやらそれを好意的に取ったらしい。

 足掻くのなら最後まで足掻け、それはブレイドとして長く人生を過ごしたものには受け入れやすい考え方なのかも知れない。

 あきらめない、というのは大事な事だ。

「……彼は、名はマーティンという。ここから遙か南に位置する、クヴァッチという街の教会でアカトシュに使える修道士となっている」

「クヴァッチか……ふむ、かなり南じゃな。間に合うとよいが」

 地図を確認し、かなり南に位置している街を確認して舌打ちする。アミュレットの発見までにかなり時間を要した以上、確実に後手に回っていると思ったほうがいいだろう。

 こういう時、行動時間を著しく制限される自分を恨めしく思う。

「彼を無事に保護できたら、連れてくれば良いのじゃな?」

「頼む、アミュレットはこちらで預かっておこう」

「うむ、敵はアミュレットも狙ってくるじゃろう、おぬしも気をつけることじゃ」

 修道院を出るべく階段へと向かう。

 ふと、思いついたことを口にしていた。

「ここの修道院長は、よい修道士じゃな」

 返事を待たず、私は階下へと足を進めた。

 

 ウェイノン修道院を出て、クヴァッチとの位置関係を改めて確認する。街道を通るとクヴァッチまでの道のりを大きく迂回するルートになってしまい、明らかに距離がありすぎた。

 間の森が開拓されていないことが原因だ。

 森を越えてクヴァッチまで、箒を利用して空をゆくか、しばし考えて、その案を切り捨てる。

 クヴァッチまででは距離がありすぎる、森の上空で朝になろうものなら陽の光に焼かれて墜落することは確定だ。街道沿いでの野宿ならまだしも、深い森の奥で野宿は危険が大きすぎる。

「スキングラッドを経由するか……」

 クヴァッチよりも近い位置に、スキングラッドという街があり、こちらならば今からでも日の出前に間に合いそうな距離だった。

 こちらの街で一旦昼をやり過ごして次の夜にクヴァッチまでの道のりを踏破すれば、2日で済む。

 すぐさま私は箒を召喚し、おおよその方向を定めてスキングラッドへと飛び立った。

 


 
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